"Stay, Heaven's Blade" Fate said.  “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。”   作:haru970

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すみません、少し長くなってしまいました。 許してください(汗

タイトルの意味は“[あの]運命の夜”です。


第6話 [That] Fated Night

 ___________

 

 三月、士郎 視点

 ___________

 

 

「士郎………………人助けは良い事なのは理解しますが、何も所属していない弓道部の後片付けまでしなくても良いと思うけど…」

 

「まあ、頼まれたものはしょうがないだろ? それに三月と一緒ならすぐ終わるさ」

 

「士郎が、そう言うのなら…」

 

 そう、もう所属していない弓道部の後片付けを慎二が士郎に頼んだのだ。

 何だか新しく入ってきた新人達に慎二が無理難題を押し付けて、彼らのやる気をへし折ったらしく、人手が足りないそうで、これには流石の三月もムッとしたから士郎を手伝い始めたら、その時にまだ弓道部に残っていた男子達が彼女に言い寄ってきた。

 

「よう、三月! 後片付けなんかは衛宮に任せて、俺達とゲーセンかカラオケに行こうぜ!」

 

「御免なさいね。 ()()()の手伝いをした後でならいいと思いますけど…………ね、()()()?」

 

 普通、士郎の事を学校や衛宮邸外で『士郎』と呼んでいる三月だけに『兄さん』を強調しながらこうやって話題を(士郎)に向けると大抵の相手は呆気に取られるか、顔が引きついて諦めるかの二択だった。

 

「(…………同じ『衛宮』なのにこうも忘れるってどうなのよ? 前にも道場で女子三人に兄さんが『ワカメ』、もとい『間桐慎二』、と思われて襲い掛かりそうになるし、よくこの学園の生徒には物覚えの悪い人達が平気で部活をやっていけるなー…仕方ないか、穂群原学園は『文』より『武』に重みを置いているようだし…)」

 

三月は拭いていた布を絞り、作業を続ける。

 

「(というかあの褐色肌の『蒔寺楓』、やっぱり陸上部だったんだ。 かなりキレの良い『棒術』だったからメインの部活は武術方面かと思ったけど………でも突然襲ってきたのには胸がムカムカしたので、私が兄さんの妹として名乗り出た時に三人とも口が開きっぱなしになったのには少し胸が躍ったなー。 特に『衛宮三月です、いつも陸上部員の()()()には良くされています』と言ったら『蒔寺楓』は土下座をしてきた(『良くされている』と言ってもたまに顔を出す度にお菓子とか飴をくれる程度にだけど)。あと、兄さんが『穂群原のブラウニー』と呼ばれるのは………なんか………胸がこそばゆいかな? ただそれも白い髪の『氷室鐘』が学園近くの殺人事件の事を話している間に兄さんの目が変わったからプラマイゼロになったけど、結局)」

 

 三月は床拭きをしながら取り敢えず、今はちゃっちゃっと片づけを終わらせて早く学校から出たい気分でいっぱいだった。

 今も薬で我慢はしているが、この頃()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので用事がなければすぐに帰っている。

 弓道部を辞めて自宅部になり、他の部活などに顔を出す日以外から何も変わっていないが。

 

 そう思い、床を拭いている士郎の手を三月が見ると────

 

「────ッ。 兄さん、その手の()は何ですか?」

 

 士郎の手の甲に痣みたいな模様を見た三月は息を吸い込み、尋ねた。

 

「ああ、これか? 今朝も桜に聞かれたけど分からないんだよな。 どこにもぶつけていない筈なんだけど………」

 

「そ、そうなの…………(ああ、今日そう言えば桜が珍しく皿を割っていたっけ。 それが理由か。いや~ビックリしたよ、居間で大河の相手をしていたら急に「バリィン!」て音がしたし。 桜には「お皿の事は気にしないで」と言ったけど全然元気がなかったし…………あれ? そう言えば桜って珍しく私にお願いしていたな、「学校が終わったら先輩(兄さん)を出来るだけ早く家に帰らせて」って────)」

 

 ────ギィン!

 

 突然日の落ちた頃に弓道部の道場に響いた金属音に三月の考え事が横切られる。

 

 ギィン、ガァン、ガキン! ガァン!

 

 金属と金属がぶつかり合う音に二人は釣られ、道場を出る。

 

 そこには赤と青の男性が、武器を持ちながら衝突していた。

 

「何だ…あいつら?」

 

 士郎が見入るように目の前に独り言を漏らす。

 

「う………あ…………」

 

 三月も息を漏らす。

 だが士郎と違い『関心』からではなく『痛み』で。

 

 何故なら、今かつてない量の『情報』が『自動処理』出来ない程、言語化も出来ないほどに【  】の声や半透明のイメージなどが三月の頭の中に入って来る。

 

 以前の切嗣と大河の修行など比べようもない。

 

 比べれものがあるとしたら彼女が以前、試しにアクション映画を視た時に主人公達が様々な拳法を使う時、『理解しよう』としたら自分自身の頭にそれが直接叩き込まれるような感じがして、その日は熱を出して寝込んだ程。

 あの時の情報がDVD一枚分と例えるとしたら、今度はDVD二、三枚分の量だった。

 

 さっきから抑え込んでいた頭痛に眩暈に吐き気がぶり返し、彼女の体が倒れそうになる。

 

「ッ! 三月!」

 

 兄さんが倒れる三月の身体を受け止め、恐怖からその場を逃げる。

 

 ___________

 

 士郎、三月、??? 視点

 ___________

 

 

 士郎が三月を抱えながら校内を走る。

 先程から感じる恐怖が士郎を焦らせる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ!(逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!)」

 

 士郎は走る。

 

 走る。

 走る。

 走る。

 

 ただひたすら走る。

 

「────ッ! ブハァ!」

 

 遂に肺が欲する空気に息が追い付かず、士郎は盛大に息を吐きだして、足がもつれて転ぶ。

 転んだはずみで三月が先の廊下へと落ち、士郎は後ろからの足音に振り返るが、誰もいな────

 

「────よう」

 

「ッ?!」

 

 そして真後ろから声がして、士郎が再度振り返ると────

 

「────ぁ?」

 

 気が付けば、青いタイツのような服を着た男性の赤い槍に心臓を貫かれていた。

 

「運がなかったな、坊主」

 

 槍が引き抜かれ、士郎が倒れるのを三月が体を起こして見ていた。

 

「お…兄ちゃん? え? お兄ちゃ────」

 

 ────三月は青いタイツの男を無視して士郎の元へと校内の通路の床を這い、そして青いタイツの男は彼女の心臓も後ろから貫く。

 

「────ぁ…」

 

 三月は士郎を自身の身体で覆うように、彼の上に倒れ、青いタイツの男はただ静かに見下ろす。

 

「『死人に口なし』ってな。 嫌な仕事させてくれるぜ……ったく、いけ好かないマスターだこと………」

 

 そう言い残し、タイツ男はその場から文字通り溶けるかのように消えて、別の誰かの足音が廊下に響く。

 

「………(俺は………死ぬのか?)」

 

「心臓をやられていちゃ助からない………え?! な、何で?! やめてよね?!」

 

「(正義の味方になれず…………誰も救えず………守れずに…死ぬのか?)」

 

「(…………冷たい。背中が…………胸が………痛い)」

 

【注。 背部、及び胸部‎に深刻な生体ダメージを感知。 プロトコール(手順)に従い、迅速な修理を行います。】

 

「(『修理』? これって『修理』()()()の?)」

 

「なんだって、あんた達二人が…………こんな日に…………こんな時間に……私は………………私は、あの子になんて言えば良いの?!  ……私……いいえ、まだ…………手はある!」

 

【〇□を確認しましタ。 『()()』を開始シマす】

 

「(ああ、これは────)」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 先に気が付いた士郎は苦しみながらも起き上がり、近くにあった赤いペンダントのような物をポケットにしまい込み、よろよろと同じく起きた三月に肩を貸しながら学校を後にする。

 

 道中、二人は人っ子一人も見えない夜道を歩き、衛宮邸の中へと転がり込む。

 

「…………痛いです、兄さん」

 

「……ごめん、でも……あれは何だったんだ?」

 

「夢……ではないですね、制服に穴も開いているし、血が付いている……洗い落とせるかな?」

 

「ハハ………三月は少し変わったと思っていたけど、全然だな」

 

「??????」

 

「未だにマイペースだと言う所とかさ…………なあ………俺達、殺されたんだよな?」

 

「………うん、多分」

 

「だけど……俺達は生きている。 誰かが後から来たんだと思う……誰だったんだろう? 礼ぐらい言わせて欲しかっ────」

 

 ────カランコロン────

 

「────兄さんッ!」

 

 (簡易結界)の音がすると、三月が士郎にタックルをかませて、先程の青タイツの男が天井から床の畳に槍を突き刺す。

 

 士郎と三月の二人が転がり、近くに落ちた丸めたままのポスターを一本ずつ、()のよう士郎と三月が構えた。

 

「ハァ………つくづく運の無え奴らだ。この俺が一日に同じ人間達を二度殺す羽目になるとはねえ」

 

「トレース、オン。構成材質、補強!」

 

()()()、開始!」

 

 士郎はポスターに強化を施し鉄のように、三月はポスターの()()()()()()()()()()、ダイヤモンド並みの硬さに。

 これを見た槍を持ったがニヤリと笑う。

 

「へえ? 微弱だが魔力を感じる。 魔術師か。『心臓を穿たれて生きている』ってのはそういう事か」

 

「(こいつ、()()!)」

 

 さっきから何度も脳内で様々なパターンや想定を三月はしているが、逃げようと何処を何しても結果は二人とも殺される末路のイメージしか浮かび上がらない。 そんな彼女は────

 

「────はあぁぁぁぁ────!」

 

「────へぇ?」

 

 三月は自分が時間を稼げばいいと思い、二人共死ぬのではなく、一人が生きる為にもう一人が死ぬ。

 正に()()()()()()()()()

 

【戦闘を確認。 武器の特徴により『剣道』及び『剣術』を備え付け(インストールし)、最適化ヲ開始】

 

『士郎の事を頼む』

 

 かつて、切嗣が亡くなる前に三月に頼んだこの一言が彼女を今動かしていた。

 

 槍の持った青いタイツの男は三月が戸惑い無く向かってくるのが意外だったのか、彼は笑みを上げながら槍で対応する。

 

「いいねえ、そうなくっちゃな! ()()()()かかって来やがれ!」

 

「ウオォォォォォォォォォォォ!」

 

 ただここで三月にとって誤算だったのは『衛宮士郎』の『正義の味方』への執念だった。

 確かに二人とも倒れるより、一人が生き残った方が良い。

 

 だが果たして『正義の味方(ヒーロー)』はそんな事をするだろうか?

 

 否。 『正義の味方(ヒーロー)』は救おうとする、()()()()

 

 青タイツの男の相手を試みる三月と士郎。 初めての命を懸けた共闘の筈が共に生きてきた年月の長さのが幸いしたのか、はたまた二人とも同じ剣道の師をもったのが功を表せたのか、士郎が青タイツの男に切り込み、三月が防御をフォローする。

 

「ハッ! 人間にしちゃあやる────ねえ!」

 

 だが青タイツ男の圧倒的技量の前に数秒足らずで二人は中庭に吹き飛ばされて、手に持っていたポスターは二つともへし折れていた。

 

 二人は命からがら土蔵へと逃げ込むが、すぐ青タイツの男に追いつかれる。

 

「もしかして、お前達のどちらかが()()()だったのかもな。 じゃ、死ねや」

 

「ふざけるな! 助けてもらったからには、簡単には死ねない!」

 

「あ?」

 

 士郎が青タイツの男に叫んでいる間に三月は()()()()()()()を目で探す。

 

「(おじさんのトランクは何処────?!)」

 

「俺は生きて義務を果たさなければいけない! こんなところで意味もなく、平気で人を殺す…お前みたいな奴なんかに────!」

 

「ッ」

 

 ズキリと三月の胸が痛み、風と光が場に荒れ狂い、青タイツの男の驚く声が響く。

 

「七人目のサーヴァントだと?!」

 

「問おう────」

 

 青い衣装の上から銀色の鎧を身に纏い、黄金の髪を持つ少女はその凛とした翡翠の瞳を士郎達に向けて、言葉を述べた。

 

「────貴方が私のマスターか?」

 

「「……………マスター?」」

 

 突然の出来事にただオウム返しをする三月を士郎に黄金の髪を持つ少女は言葉を続けた。

 

「……サーヴァントセイバー、召喚に従い参上した。 これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。 ここに契約は完了した。 マスター、指示を」

 

 二人は呆気にとられている間、少女が何かに気付いたように後ろを振り返り、蔵から飛び出して、先程の青タイツ男と戦っていた。

 

【告。『西洋剣術』を確認、()()シマス】

 

「ッ!」

 

 今日だけで何度目か分からない『自動処理』仕切れない情報に三月はまた頭痛がするが、士郎はただただ戦っている少女を見ていた。

 

 火花が散り、地面が抉れ、常人ではありえない跳躍を双方が為し、二つの影が交差しながら衝突する。

 それは、すこし前に見た赤い男と青タイツ男の戦闘に近かった。 が、あろうことか、少女の方が男をじりじりと追い込んでいた。

 

 それは単なる技術の差、あるいは力、もしくは他の要因もあったのかも知れないが、決定的な違いに、少女の武器は『見えない』。

『見えない武器』というのは厄介なもので、間合いが掴めず、軌跡も読みづらい。

 

「どうした、ランサー? 止まっていては槍兵の名が泣こう」

 

 青タイツの男────ランサーと呼ばれた男は忌々しげに少女を睨みつける。

 

「その前に一つ聞かせろ。貴様の得物(武器)……………それは剣か?」

 

「さぁ、どうだろう? 斧、槍、いや……もしや弓と言う事もあるやも知れぬぞ?」

 

「ぬかせ、セイバー…………なあ、お互い初見だしよ。 ここら辺で『分け』って気はねえか?」

 

「断る。 貴方はここで倒れろ、ランサー」

 

 ランサーは溜息を出しながら、赤い槍を構えると、槍の放つ禍々しさが増大する。

 

「そうかよ…『その心臓もらい受ける! 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!』」

 

 一瞬だった。

 

 槍がセイバーに当たったと思ったランサーは怒りを露にして────

 

「────()()()()、セイバー。 我が必殺の一撃を」

 

「グッ…今のは因果の逆転…それにその槍術…御身はアイルランドの光の御子か」

 

「は、名が知れているのも考えもんだぜ…うちの雇い主は臆病でな、『帰ってこい』なんて吐かしやがる」

 

「逃げるのか?!」

 

「ああ、逃げるさ。 元々様子見だけだったしな。 次会う時は決死の覚悟を抱いてこいや」

 

「待て、ランサー!!!」

 

 左腕の付け根に傷を受けたセイバーはランサーを追おうとすると────

 

「────うわ、ちょっと待て!」

 

「な?! マスター、何をする?!」

 

 我に返った士郎がセイバーを後ろから羽交い締めにして止め、これに対してセイバーが目見開きながら驚き、三月が遠い眼をしながら見る。

 

「(うわー、懐かしいなー。 前に兄さんが外でボコボコにされて帰って来た時に私がムカムカしていたら、ああいう風に兄さんに止められたなー)」

 

 暴れるセイバーから士郎が降り落とされ、セイバーが士郎を睨む。

 

「マスター! 何故止めたのですか?!」

 

「落ち着けって! お前は一体何なんだ?!」

 

「(うんうん、私もそこが聞きたかったのよ)」

 

「? 見た通り、セイバーのサーヴァントですが? ですので、セイバーと呼んで下さい」

 

「「(それ答えになっていねえよ!)」」

 

 内心ツッコミから先に意識が帰って来たのは士郎だった。

 

「あー、俺は士郎。『衛宮』士郎だ」

 

「衛宮? (まさか………)」

 

「あ、私は────」

 

「────ッ!」

 

 セイバーは三月を見た瞬間、驚きの顔になる。

 

「あ、貴方は…」

 

「え? (………何その顔?)」

 

「あ、ああ。 こいつは『衛宮三月』。 俺の義妹だ」

 

「…………そうですか、初めまして。(やはりそうそう都合良く召喚はされないか…)」

 

「あ、ハイ。 初めまして、セイバー」

 

「して、どちらが私のマスターなのですか?」

 

「「え?」」

 

「どちらかに『令呪』がある筈なのですが」

 

「その、『令呪』って何だ?」

 

「あ! 兄さん、手の痣が!」

 

 士郎はさっき痛かった手の甲を見ると、痣が何かの模様に代わっていた。

 

「成程、では貴方が私のマスターですね。 ですが貴方は正規のマスターではない。 ですがマスターはマスターです」

 

「(ちょ、何この子? ……『ズンズンとゴーイングマイウェイのスタイルで我先にと行きながら他者の手を無理矢理引っ張るタイプの子』と見た)」

 

 士郎の愛称が『マスター』から『シロウ』に変わった時、三月の胸がチクリとしたのを感じる。

 

「ところでシロウ、傷の治療を────」

 

「────え? 悪いけど…俺、そんな難しい魔術は────」

 

「────あ、私出来ると思う」

 

「「え?」」

 

 セイバーと士郎が三月の方を見ると、彼女がセイバーの近くに行き、掌から光を発するとセイバーの肩の傷がみるみると塞がって行く。

 

「「…………」」

 

「はい、これで良いと思うけど……どうかな?(初めて()()相手に使ったけど……()()()()()()()()()())」

 

「……ありがとうございます、治癒は効いています。(やはり、似ている…)」

 

「よかった。(ホ。 効いて良かった。流石に猫や犬と()()は違うからね)」

 

「ところで三月殿()はどこで治癒術を学んだのですか?」

 

「へ? (ど、殿()ぉ?) あ、ああ。 これはちょっと独学で…」

 

 これは以前、桜の怪我などの頻度が上がった時に昔のように「出来るかな?」と思い、こっそりと近所の犬や猫に鳥など傷ついた生物に何度も試行錯誤を重ねてようやく編み出した魔術の一つだった。

 これのおかげでその動物達になつかれ、それに気付かず学校へ登校し、校門前の教師に「ペットは家に置いてきなさい」と笑われながら三月が後ろを向くとブレーメンの音楽隊のように犬や猫が大人しく三月の後を付いて来ていた。

 この動物達を散らせる事に苦労した三月は一時的にだが二つ名が『ハーメルンの笛吹き天使』になって、からかわれていた。

 

「そうですか」

 

 納得したのか、セイバーは追及しなかった。

 だがこれを見た士郎は内心驚いていた。

 

 彼の知っている範囲内では三月の魔術は自分と似た『解析』と『強化』と思っていた上に同レベル程の筈だった。

 さっきのポスターの強化時は意識がハッキリしていなかったので気付いていなかったが、いざ少し落ち着いてもう一度見返してみたらどうだ?

 

『解析』と『再構築』、そして『治癒』。

 だが士郎の記憶によると切嗣は『治癒』を知っていなかった筈だ。

 何せ自分もそう言うのを知っていたら教えてくれと頼んだが、切嗣は『自分にその素質が無いから教えられない』と答えていたからだ。

 

 「では何故、何処で三月は知った?」と言うような質問ばかりが士郎の頭の中をグルグルと回るが、彼はそれらを全て一先ず置くと────

 

「────外に敵が二人います、迎撃に────」

 

「────ちょっと待てって、セイバー! こっちは何も分からないんだ、少しは説明してくれ!」

 

「敵はもうそこまで迫ってきています────」

 

 セイバーが塀を飛び越える。

 

「…………ああ、もう! 何なんだよアイツ?!」

 

「兄さん、私はセイバーを追うわ!」

 

「え?! おいちょっと三月────」

 

 そして三月も頭痛を我慢して、自身の足腰を強化して塀を超えて、士郎が頭を掻きむしりながら玄関へと走る。

 

「待って、セイバー! そこの赤い人も待って下さい!ってあれ? 貴方は────」

 

「止めないで下さい三月殿、今なら仕留めれます!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ま、待って…くれ…セイバー」

 

 士郎が息を切らせながら言うと、()()()()()()()()が答える。

 

「あら、これは意外ね。 取り敢えずこんばんは、衛宮君に三月」

 

 そこには赤をモチーフにした独自の服を着ていた穂群原学園で『ミス・パーフェクト』と呼ばれていた『遠坂凛』がセイバーと対峙している赤い男の後ろで立っていた。

 

 

 ___________

 

 士郎、三月、凛 視点

 ___________

 

 

 遠坂凛を衛宮邸に上げると、彼女は目についた割れたガラスなどを瞬く間に直して行き、士郎と三月が生身でランサーと対峙していた事に驚愕した。

 

「うわー、それは無いわー。 普通は瞬殺よ? 分かる? 瞬殺」

 

「仕方ないだろ、突然襲って来たんだから。 でも流石遠坂だな、立派な魔術師だ。 ガラスの修理とかなんて俺には無理だ」

 

「ハァ~? アンタだって魔術師でしょうが? これなんて初歩の初歩よ?」

 

「へー」

 

「いや、俺達は『基本』とか知らないからさ」

 

 凛の肩をガクリと項垂れてブツブツと独り言の文句を言う中、三月は必死に彼らのやり取りを見ていた。

 

 何せさっきからずっとセイバーと赤い男が彼女の事を見ているのだから尋常ではないプレッシャーが彼女を襲い、冷や汗を掻かせていた。

 

「(えー? 何で何で何で何でー? 何でお二人さん私を見ているの? 私何かしたっけ?)」

 

 居間に入り、凛と士郎(そして彼の後ろにセイバー)が座り、三月がお茶を入れようとすると、手がさっきの赤い人の手と重なる。

 

「あ、すみません」

 

「…………」

 

 赤い人は何も言わずにただ延々とお茶の準備をして、それが終わり次第すぐに消えた。

 

「…あー、ありがとうございます?」

 

『……別に感謝の言葉などいらないさ』

 

「はへほっはっ?!」

 

 何処からともなく帰って来た返事に三月はびっくりして変な声を出す。

 

「ちょっとアーチャー! その子に何か変な事していないでしょうね!」

 

「「…変な事って?」」

 

 聞き返す士郎と三月に凛が頭を抱えそうになる。

 が、一旦落ち着きが戻ると彼女は色々と話し始めた。

 

『マスター』の証として『聖痕(令呪)』を持っている事。

『サーヴァント』も自分の意志があり、『令呪』が『サーヴァント』を制御する絶対命令権である事。

 そして『聖杯戦争』と呼ばれる魔術師の殺し合いの儀式と『聖杯』という儀式達成の報酬。

 

 最初、士郎と三月も信じられそうになかったが、凛に今日だけで何があったのかを言われ納得せざるを得なかった。 『事実は小説よりも奇なり』のことわざを実感した感覚だった。

 

 そして凛自身、マスターであると。

 サーヴァントは『使い魔』であると同時に英雄と呼ばれる過去の人達や架空の人物が元になる時もあると。

 

「(成程………じゃあ、あのランサーって人はセイバーに『アイルランドの光の御子』と呼ばれていたから…………えーと…『在った』、これね。『クー・フーリン』、か……って、本当に大物じゃない?! それにあのヒョロンとした髪の毛、な~んか気になるな~)」

 

 サーヴァントの『霊体』と『実体化』。

 そして今は凛のサーヴァントのアーチャーが周りの警戒をしている事を告げる。 何故なら既に聖杯戦争が始まっている上、士郎がマスターだと少なくとも一つの運営に分かってしまったから。

 

 この時、セイバーは極僅かに不満に聞こえるような事を言う。 士郎から魔力の補給が無いと。

 これには凛もビックリした。 明らかなデメリットを自分からさらけ出したようなものだ。 車で例えるとガソリンスタンドからガスの補給が無いような状態でエンジンを走らせているに近い。

 だがこれはセイバーがただ単に自分のマスターである士郎に危機感を持たせる為であった。

 凛は更に愚痴を零し始め、「何でこんな奴がセイバーなんかを引き当てるの?!」などと、学校ではありえない姿と言動を発する凛に三月と士郎はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 

 内心、三月は笑いそうになるのをこらえていたが、士郎から小声で自分に言葉が来てそれが無駄に終わった。

 

あいつ()の性格、どこか問題がある気がしてきたのは俺だけか?」

 

 笑い出すのを抑える為に唇を噛みながら三月はゆっくり頷いた。

『明るくて接しやすい子』の三月は内心爆笑していた。

 これは()も同じような状態だった(度合いが違うだけで)。

 

 そしてセイバーが過去の存在からして現代の事は良く分からないかも知れないと心配した士郎に、セイバーからある人にして見たら爆弾のような宣言が出てきた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 ですから、この時代の事も良く()()()()()()

 

「…………(え?)」

 

 三月がドキリとする。

 彼女にはこの様な事が割と身近に感じたからだ。

 

「それに、この時代に呼び出されたのも一度ではありませんから」

 

「(つまり、さっきの彼女の反応からすると……………『私』に『見覚えがあるかも』という事?)」

 

 最後に、士郎は聖杯戦争についてもっと詳しい話を聞く為に凛と共に隣の町にある協会へ行く事となる。

 

 セイバーは霊体化が出来ないらしく、季節外れだが大きめのレインコートで体を覆い、士郎は傷と血が付いた制服から着替える。

 

 三月も自室で着替え始め、上着とインナーシャツを脱ぐと鏡の中を見て溜息をしながら()()()()()()()()()()()()()を見ながら、手でそれを触る。

 

「…………(やっぱり、これって『()()』って奴……かな? という事は私も『()()()()』なの?)」

 

 三月はただ静かに鏡の中の自分を見て、数秒後には着替えを動きやすい服装へと再開する。

 

 そして着替え終わった三月を見た士郎が不安そうに声を上げる。

 

「あー、三月? それでいいのか?」

 

「だってこれが動きやすいんだもん」

 

 三月が制服から着替えたのは季節の割に軽装な灰色のフッド付きパーカーに青い短パン、そして黒のタイツとニーハイブーツ、そして肩にかけたポシェット。

 そして今では腰に届くか届かない程長くなった金髪を編んで、パーカーのフッドの中に丸めたまま入れていた。

 

 知らない人から見ればどこからどう見ても『子供が近所を一周するお散歩状態』だった。

 

「だからってこんなに寒い夜遅くにはどうかと思うんだが………遠坂はどうなんだ?」

 

「うぇ?! そこで私に振るの?!」

 

「だから今から隣町に行くだろ? 冷えないか、あの格好だけじゃ?」

 

「あ、そこはコアラの子供みたいに『ヒシッ!』って()()()()()に引っ付いて────」

 

「────おい、それは無いd────」

 

「────ウグッ?! ゲホッゲホッゲホッ!」

 

 そこで三月が士郎の事を『お兄ちゃん』と呼んだところでお茶を飲んでいた凛がむせて、咳をした。

 

「お、おい遠坂? だいjy────」

 

「────ちょっと、今のって衛宮君の趣味なの?」

 

「へ? 何が?」

 

「いえ、何でもないわ………………………………まさか衛宮君にこんな…………紳士系男子どころか、まさかの『お兄ちゃん』呼びフェチ持ちだなんて────」

 

「────お~い、遠坂?」

 

 ブツブツと一人事を始める凛を士郎が現実に呼び戻し、隣町の新都郊外の丘の上にある教会を目指し出発する。

 

 ちなみに『コアラ抱き』を士郎に拒否されてブーブー言う三月は士郎の厚めのジャケット(丈が長く、袖が多少ブカブカのサイズ)を一つ借りて満足していた。

 彼女曰く、自分のサイズの服の多くは『機能よりファッション』向けらしく、寒さを防ぐためには何重にも着こまないとダメらしく、それなら士郎の男性ものを一つ借りた方が良いという話で決まった。

 決して(三月の合うサイズの服が)子供っぽいからという理由などではない。

 

 あと『お兄ちゃん』呼びは再度士郎の頼みで封印され、凛の誤解は一応解けているかのように思えた(何の誤解かは知らないが、凛が士郎を見る目がそれまで厳しかった)。

 

「♪~」

 

「おい三月、かなりご機嫌だな?」

 

「だって兄────『士郎』とこうやって外出掛けるのなんて久しぶりだもん」

 

 そう、こうやって三月と士郎が買い物以外で外へ出かけるのは下手をすると小学校以来なのだ(士郎が何時も学校に居残りやバイトをしている為、そして家では最近桜か大河がいる為、なかなか二人だけの時間が取れなかった)。

 そして三月はその頃を懐かしむように鼻歌と共に笑顔になっていた。

 士郎も口では文句を言っているが…満更でもないのか、内心安心したのか、それかただ面倒くさいのか、ずっと三月のやりたいようにやらせている。

 

「ハイハイ、手も昔みたいに繋ごうか?」

 

「うん♪」

 

「いやいや、今のは流石に冗談のつもりだったんだが」

 

「なーんだ、士郎のケチ」

 

「……………私が何でこれに付き合わないといけないのかしら?」

 

「ん? 何か言ったか遠坂?」

 

「な、何でもないわよ! ほら、キリキリ行くわよ!」

 

 新都への移動中、セイバーが凛へと問う。 何故士郎はセイバーが戦うのに遠慮していたのかと。

 これに対して凛はジト目で士郎の方を見ながら、彼は「恐らくマスターやサーヴァントや魔術師など関係なく、それは彼が『士郎だから』だ」と説明する。

 セイバーと士郎と三月には全く答えになっていないが、凛にはそれで充分と判断したのかそれ以上何も言わずただ歩く。




遂に「心臓串刺しの夜」に突入しました。

桜が家事をし始めたので三月と士郎が交代制で朝と昼の大河の相手をよくしています。

あと三月は各部活に顔ぐらいは出していますが、積極的に行っている訳ではないので部員全員が彼女の顔を知っている訳ではありません(基本的に三月は帰宅組所属ですので)。

楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!
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