"Stay, Heaven's Blade" Fate said. “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。” 作:haru970
第62話 沈んだ『ロボット』だった『ヒト』
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衛宮邸 視点
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「ハァ~………………」
本日だけで何度目かの溜息になるか分からない数にまた一つ足される。
「んー、これは想定外ですね。 ハリセンかドロップキックはお見舞いしないのですか、ツキミ?」
「いや、もうあの様子ずっと見たらコントをやるのも躊躇してまうがな」
リカとツキミが互いを見ず、ずっとボ~ッとしている人物を見ていた。
「シロウ……………」
衛宮士郎はここ数日間黄昏ていた。
その理由は彼の10年間、ずっと一緒だった義妹……………
いや、今では思い人となった三月が居ない事だろう。
最初こそは気丈に振舞っていたが、彼女が「他世界で『
「「「ん??????」」」
その夜の味噌汁を飲んだ者達に猛烈な違和感が過ぎり、ツキミが口を開けた。
「何やこれ? ダシ、出てへんのんとちゃう?」
「あ! す、すまない皆! ダシ取るの忘れていた!」
士郎が申し訳なさそうに頭を下げた。
「へ~、珍しいね。士郎が料理で失敗するなんて」
「こういうのってあまりないの、タイガ?」
「ウッ…………イリヤちゃんの言い方に何かトゲを感じるけど……………そうね、少なくとも私の知る限り無いわね~………パク────ブホォア?!」
大河がおかずの卵焼きを口に含めて瞬間、それを吹き出しそうになった。
「「「藤姉?!」」」
「タイガ?!」
「か、かか、か……………………
卵焼きに砂糖ではなく塩がこんもりと使われていた。
更にその次の日、士郎の様子は学園でも不思議に思われた。
と言うのも、何時もは学校の後に生徒会室に行き設備の修理とか人助けをする彼が────
「………………………」
「? おい衛宮?! 半田ごて!半田ごて!」
「あ?」
上の空の士郎の手に持っていた半田ごてが設備に密着していて引っ付いていた。
「義兄さん、具合大丈夫ですか?」
「あ………………ああ、クルミか」
一瞬笑顔になりかけの士郎だがすぐさま沈んだ顔の戻り、クルミの手を借りて立ち上がって、惨状を見る。
「あー、しまった~…」
「衛宮、大丈夫か? お前らしくもないぞ?」
「すまない一成…………これ片づけたら────」
「────義兄さんは帰って下さい。 ボクが片付けて置きますから」
「………本当にすまない、クルミ」
そう言い残し、何時もとちょっと違う足取りの士郎を一成が見送る。
「一体どうしたというのだ?」
「…………………」
クルミは何も言わずに一成が見ていない内に半田ごてを引っ付いた設備から取るも、内心は複雑な気分だった。
士郎が三月を一つの『個』として嬉しい半面、同じ存在である筈の
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
「お、お兄ちゃん? 今日は休んだ方が────」
「────大丈夫だよイリヤ。ハッハッハ」
「し、士郎? 休んでいいのよ本当に?」
「大丈夫だって藤姉。ハッハッハ」
イリヤの心配する声も納得するほど士郎の顔は明らかにやつれ、彼を見た大河でさえ気遣いの言葉を送っていた。
「おいリカ、テメェ!」
「ぐえ」
士郎の様子を見に来たカリンに胸倉を着かれ、リカの足が地面から離れる。
「ぐ、ぐるじいです」
「面白がってないでお前は『アレ』を何とかしろ!」
「いやそれがなカリン? ボクらも色々しようとしてんな? せやけど逆効果みたいやねん」
「成程。では下姉様なら更に逆効果という事ですか」
「あ、だから
弥生と引っ付いているライダーの言葉に、彼女がどこか納得する。
「…………調子狂うな」
「だよねー」
珍しく慎二と凛が何かに対して、意見が互いに初めて会った日である。
「………………………………」
弥生はただ士郎の背中姿を見て何かを思ったのか、すぐに円蔵山の方向へと駆け出して、近くのリカとカリンも強引に引っ張って行く。
「あ~~~れ~~~~~~」
「ちょ?! ま?! 力つよ?!」
「行ってらっしゃ~~~~い」
マイは相変わらずの性格で三人を見送る。
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
「……………………………」
衛宮邸での士郎は更に『心ここに在らず』と言った表情で軒先に腰掛けて空を見ていた。
「………………ハァ~」
そして月の裏からひょっこりと出てくる付きの姿を見て溜息を出す。
「てや!♪ 暗い顔しているね、お兄ちゃん?」
イリヤが彼を後ろから抱き締める。
「そうか?」
「そうだよ」
「そうか………………」
「「………………………………………………」」
こうして二人はボーっと空をまた見始める事となって数分後、イリヤが喋る出す。
「私じゃ、駄目なの? 私はシロウの事が好きだよ?」
「イリヤ?」
何時もと違う彼女の様子に士郎は困惑した顔を向けようとする。
だがイリヤはがっしりと彼の首に回した両手でそれを阻止する。
「ダメ。 今見ちゃダメ」
「……………」
「私はどんなシロウでも大好き。 禿げたオジサンになろうが、おデブさんになろうが、グウタラのダメダメになっても、死んでお墓に入ってもずっと好きだよ?」
「……………イリヤ、俺────」
「────あ、丁度良かった。 士郎~! イーちゃ~ん!」
二人が居る場の神妙な空気に誰かが彼と彼女達の名を呼ぶ。
士郎達が声のした方を向くと弥生が何かを入れた巾着袋を持って────
「────弥生、お前それどうしたんだ?」
返って来た弥生はフリフリドレスを着ていた。
「あ、これ? キャス子に頼みを聞いてもらう代わりにね、ちょっと。 あ! でもよく私が分かったね?」
「当たり前だ。 伊達に10年間、共に生きて来た訳じゃない」
「ふ~~~ん? それじゃあ心細い君にプレゼント、フォー・ユー!」
弥生が巾着袋から出したのは
しかも型が古く、そのままの在り方を説明すると『スカー・フ〇イス』に出てくる主人公が持っていたような、80年代物がしっくりと来る。
「「電話?」」
「フフフのフン! ただの電話じゃないよ!
「今『今の所』って言ってなかった?」
「言ってた」
「────まあそこは良いや。 という訳で、ハイ! イーちゃんから先にどうぞ!」
「え?」
イリヤの手に
「もう電話かけてあるから♡」
イリヤがおずおずと耳に当てる。
「………………………も、もしもし?」
『もしもし~?』
「え?! ミーちゃん?!」
「え?!」
イリヤの声に士郎がビックリしながらも笑顔になる。
『あ、その声は“
「え、えーと────?」
『────あんまり急の事だけど、話は弥生ちゃんから聞いた?』
「話? 何の?」
『……………あんのおっちょこちょい……まあ、いっか。 電話を義兄s────“士郎”に変わってくれる?』
「え? う、うん」
『あ! 待った、待った、待った!
イリヤが士郎に電話を手渡そうとした時にマルテウスと言う人物から『待った』が掛かる。
『どうしたんだい、マルテウス君?』
「…………ぁ……………」
その声は、イリヤが久しく聞いていない声だった。
だが聞こえると同時にすぐに、
『ああ! ちょっと電話変わってくれる?
『────何?! か、変わってくれるかい?!』
イリヤは目を見開いたまま、耳が痛くなる程電話の受話器を押し当てていても、心臓の鼓動音がうるさく聞こえる程力強く脈を打っていて、彼女を手は両方とも震えていた。
『も、もしもし。 イリヤかい?』
「ウ、ウゥゥゥ────」
イリヤの頬をポロポロと涙が流れ出る。
『あまり詳しい事はマルテウス君に聞いては居ないけど…………大変だったみたいだね?』
「うん…………うん!」
『変な感覚だ。 違う世界線のイリヤの声を聞くのは。 多分、いっぱい僕と話をしたいのだろうけど。 先ず僕から一言だけ言わせてくれないかい?』
「な、何? キリツグ?」
「え、じいさん?! や、弥生?! こ、これは一体どういう────ㇺがッ?!」
「シィー!」
慌てる士郎の口を弥生が手で覆い、彼を黙らせる。
『ハハハ、さっきの声は誰だい────?』
『────あらキリツグ? どうしたの、そんなサイズの電話なんて持って?』
「お、母様?」
『ああ、アイリかい? ちょっとね、
『そう…………それってマルタちゃんの話の?』
『ああ。 っと、僕から一言。 ごめんねイリヤ? その…………色々と。 そっちの世界の僕は恐らく最後まで悔いたと思うけど……………彼を代表して…………寂しい思いをさせてごめんね、イリヤ? そしてありがとう、イリヤ。 君が居てくれたから結果的に僕達は今、こうやって話せるようになったんだ』
「…………いやだ。 そんなの認めない」
『え?』
「そんな口から出まかせなんか信じられない。 だから
「ゴトッ」、とする音が聞こえ、受話器の向こう側からアイリスフィールの慌てた声が聞こえて来る。
『ど、どうしたのキリツグ?!』
『た、魂が抜けかけている?! あまりの喜びに昇天し始めているわ?!』
『ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?! どどどどどどうしたら────』
『ウラァ! みぞおちじゃ、ボケェ!』
『ちょ、マルタちゃん?!』
ドゴォン!
『ゴハァ?! ゲホゲホ、ゲホ! あ、あれ? 僕は……………さっきまで、
「────ウフ…アハハハハ!」
受話器の向こうが騒がしい事を聞き、イリヤが突然笑い始める。
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
結局イリヤに『パパ』呼ばわりされた切嗣(バカンス体)は骨抜きにされてとても会話を続けられる状態ではなくなり、代わりにイリヤは
と言ってもほとんどはアイリ(バカンス体)が色々とイリヤから聞いただけなのだが、イリヤはとても嬉しく、近くの弥生と士郎は心から幸せそうなイリヤの姿を見て共に和んでいた。
『ちょ、ちょっと……………アイリさん…………そ、そろそろ電話を………………』
『あ、あら? ごめんなさいねマルタちゃん? じゃあ、イリヤ? 良い子でいるのよ?』
「うん、ありがとう………」
何処か躊躇するイリヤの声に、アイリ(バカンス体)が彼女に言葉をかける。
『“お母様”と呼んでも良いのよ? さっきのキリツグが言い始めたように、私は厳密には貴方の母ではないかもしれない。 でも、存在は一緒よ? だから、甘えたいのなら何時でも歓迎するわ』
「うん………………ありがとう、
『ハウ?!』
またも「ゴトッ」っと向こう側の電話が落とされる音が聞こえ、マルテウスがアイリを蘇生させる。
『という訳でイーちゃん? 士郎に代わってくれる?』
「うん、ありがとう」
電話が士郎にまた渡される。
「…………………もしもし?」
『ちょっと待ってね~? 電話の連絡先を変えるからね~』
マルテウスの言葉遣いが三月そっくりだったのに士郎は思わずクスリと笑い、受話器の向こう側から相手待ちの着メロが流れて来て数秒後────
『────も、もしもし誰これ?! マルタ?! チエ?! それとも雁夜?!』
「……………」
久しぶり(と言っても一週間ほどだけ)の声に士郎の喉はカラカラになる。
相手は間違いなく彼女。 の焦った声の他に激しい爆発音や、歯医者のドリルが出す音に似た機械音や
「…………こんにちは、三月」
『ウェ?! ししししし士郎?! どどどどどどどどうして?!』
「弥生から電話を手渡されたんだ。 さっきまでイリヤも……………多分じいさん達と話していた」
尚、イリヤは電話を士郎に手渡した後すぐさまグスグスと泣き始めて弥生に慰められていた。
『ちょ、ちょっと~~~~~~~!!!
『────
『ああもう、しつッッッッッこいつーの!!』
銃の発砲音に似た何かと、またも歯医者のドリル音の様な高い機械音が聞こえて来る。
「あー、すまない三月。 多分だけど弥生が俺達の為に────」
『────知っている! 私に訊いてきたから! 私も士郎の声が聞こえて嬉しいわ! でも今は
「らしいな。 だけど凄い音だな?」
『でしょう? 自業自得なんだけど、厄介な相手達と死闘の最中なの』
「三月」
『何、士郎?!』
「俺はお前の声が聞こえて嬉しいよ」
『…………………わ、私もだよ』
三月の照れた声と共に士郎も照れる。
『ねえ士郎? 何時になるか分からないけど時々帰れる時には帰るからね?』
「そうか」
『でも……………もし士郎か、他の人が士郎と付き合いたいと言うのなら私は反対しないよ?』
「え゛」
『士郎は気にしないって言うけど、私は士郎の枷になりたくないの────』
『────
『────
「ブツリ」と電話が強引に切られる音と共に、士郎は電話を弥生に渡す。
「………………(三月の奴、元気そうだな)」
色々と突っ込みたいところはあるが、生憎その場にツッコミ役は誰も居なかった。
「うん! やっぱり義兄さんはその表情が似合う!」
「え?」
士郎は気付いていなかったが、先程の数秒間の会話で彼の様子は以前の様にと一転していた。
しかも満面の笑顔で。
「……………そうだな。 ありがとう弥生」
「ううん。 本当ならもうちょっと後にコレを出すつもりだったから。 でも、最近の貴方は凄い落ち込みようで、見ていられなくて…………」
「…………そうか、ありがとうな」
「はひょ」
士郎が何時もの癖で弥生の頭を撫でると、彼女は意味不明な音を出しながら赤くなる。
「(さ、流石エロゲ主人公! い、いや、これは彼と過ごした時間の記憶も関係しているの────?!)」
────と言った具合の思考が弥生の頭の中をグルグルと回っていた。
「フゥ~~~~~~ン?」
「な、何だよイリヤ?」
「ううん、べっつにー? 『流石キスまでした事となると変わるなー』って」
「ファ?!」
士郎が素っ頓狂な声を出して、イリヤは悪戯っぽく笑った。
「ミーちゃんが気にしないなら、やっぱり私も士郎と付き合おうかな~?」
「イ、イ、イ、イリヤ?!」
「あ、なら私が『私』に伝えておくね?」
「ちょ、俺を無視するな!」
「シロウは私の事、嫌い?」
「ウッ」
イリヤの上目遣い&潤んだ眼から顔を背ける士郎。
「士郎氏」
「リ、リカ?!」
「もし気になるとしたらお門違いですよ。 『本体』が言ったように私達は気にしませんから。 そもそも『一夫多妻』や『一妻多夫』、果ては『多夫多妻』の方が『一夫一妻』より歴史は長く、性感染症の大流行などの恐れから今広がっている『一夫一妻』の方が公衆衛生的な観点から集団の維持で有利となり、社会に定着────」
何時の間にか帰って来たリカの、スラスラと説明する事に頭を抱える士郎と愉快そうなイリヤであった。
前話読み直したんですけど………………
相当マジの雑で、大変申し訳ありませんでした。
どうにも体調不良等で朦朧とした時の自分は考えを文章化するのが億劫になっていたみたいです………………
一応予定では今回の様に『その後』と共に聖杯戦争後の『中間』の出来事などを書きたいと思います。
………………………
さて、恐らくはオリジナルの本編を書きながら次の物語たちを書くと思います!
なので投稿遅くなるかもしれませんが………………
まあ、楽しい間は仕事の合間に書く感じですね。
ではこれからも皆さん! 何卒宜しくお願い致します!
追記:
密かに文章の長さが気になる自分が……………
こちらの『天刃』の『その後』の詳しい展開などにどれほどの興味がありますか?
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作者の気分次第で
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無しでも良い、だがアリは嬉しい
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オリジナルの本編を早よ!
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各キャラのサイドストーリーが見たい
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早く次の三月(達?)を見せろ!
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次はチエを中心に……