──なんたる
リバウの魔王、西沢義子はたった一人で極大の怪異の巣と渡り合う扶桑の幼き魔女の姿に驚嘆していた。
そのマニューバ技術、刀術、状況判断力、どれを取ろうがまるで彼女が師と仰ぐ偉大な扶桑の魔女、横川を彷彿とさせる。
『孫娘の目を覚まさせてやって欲しい。そして扶桑へ連れ戻してくれ。』
宮菱の創業者が自らの筆でしたためたその書簡は、部隊に属さず欧州をさすらう一匹狼の彼女の心さえも動かしてみせた。
『だがもし…美喜自身が修羅の道を選ぶ事があれば、止めずともよい。あれとて竹田の末裔だ、
「───イヤアアアアーーッッ!!」
吹き荒ぶ夜吹雪に、幾千の雷鳴が轟き響く。
その一発一発が世界最大の戦艦、大和の46cm砲もかくやたると言う凄まじい規模だ。
しかし、それに立ち向かう魔女のその決意に満ちた表情は、微塵たりとも恐怖や怯えの色がちらりとも覗かない。
蟻と戦車の如き影の大きさの差があろうとも、その戦いの天秤は彼女に傾いていた。
「───ん」
その凄まじい情景に意識を奪われることなくそれを察知できたのは、数多の歴戦を生き抜いた魔女のなせる技だ。
彼女の研ぎ澄まされた第六感は、遥か彼方ヘルウェティアから到来する無数のネウロイの群れを捉えていた。
「やれやれね。」
今の竹田美喜…エイミー、否、殺戮の魔女であればその増援すらも容易く蹴散らせるかも知れない。
だが西沢は彼女を託されたのだ。
遠く離れた扶桑から孫娘を心から案じる、彼女の祖父に。
「いざ───西沢義子、参る!!」
──▽▽──
夜吹雪の中を舞う一陣の烈風。
その凄まじきスピードは、相まみえるネウロイが到底反応できる領域を遥かに超えていた。
《エイミー!!こんどは、あのあかい船からビームがくる!よけれるよね!?》
「無論!!」
彼女の脳裏に住まうもう一人の声。
その声こそ彼女本来の魂にして、今やもう一人のアマンダ・M・プラマーである竹田美喜のものだ。
「イヤアァァーーッッ!!」
怪異が飲み込んだ数多の軍艦、ハリネズミめいたそれらから放たれた無情な閃光は、正確無比に彼女の身体を───貫かない。
その理由は単純明快である。
今や殺戮の魔女が見ている景色は、
《気をつけて!つぎにくるビームはまがるよ!あとちっちゃなひこうきも!》
「承知した!!」
まさに武器庫。
兵器の集合体である軍艦を取り込んだ巣の主の攻撃手段は正真正銘、無限だ。
今やネウロイの傀儡となった哀れな空母達の甲板から、無数の自爆特攻型の小型ネウロイが放たれようとしていた。
一度放たれれば喰らいつくまで永遠に追い続ける爆弾は、銃を持たぬ彼女には為す術もない。
「イヤアアァァァーーッ!!」
しかしなんたることか。
彼女の音速を超えた苦無刀の居合は、魔力を纏ったソニック・ブームとなり、ネウロイに襲いかかる!
甲板上で無数の爆弾を炸裂させられたネウロイ空母は、自らの攻撃でその身を砕けさせた。
だが忘れてはいけない。その空母一隻さえも針地獄の内の一本に過ぎないコトを。
その間にも並行し、カーテンめいた無数のビームが放たれる。
これでは幾ら攻撃を捌こうとも彼女の苦無刀をコアに届かせるのは至難の業だ。
《わたしとエイミーがふせぐ!あなたはつっこんで!!》
「頼んだ!!」
幼い魔女の周りに青く輝く盾は──扶桑の術式のシールドだ。
ウィッチとなって以来一度たりとも展開し得なかったそれを、彼女に宿る竹田美喜の魂は容易く成し得たのだ。
さらに盾となるのは彼女だけではない、その黒き豹の尾が振るう一振りのクナイもまた、自らの意思で降り掛かる火の粉を払いのける。
「UraaAAAAAA!!」
ついに針地獄の本体が、魔女に喉元への接近を許した。
南無三!本体に密着している彼女を狙いビームを撃つなど、自殺となんら変わりがない!
これではネウロイは彼女に指一本すら手出しができない!
その幾千を誇る砲塔が混乱に陥り、ただ回転している!なんたる無様な姿か!
『──◎△$♪×¥●&%#?!』
ネウロイが悲鳴にも似た甲高い叫びをあげ、閃光弾めいた輝きを放つ。
何という明るさか。
その太陽めいた輝きを直視すれば、失明はもちろんニューロンまで焼き切れてしまうことは想像に難くない!
「──これが真の
だが殺戮の魔女は裏拳の如く背中を見せたまま苦無刀でネウロイを切り裂く!
当然だ、目が背中についている人間はいない!
真なる意味での未来予知を得た今の魔女の前に、そんな搦手など通じるわけも無いのだ。
「イヤアアァァーーッッ!!イヤアアァァーーッッ!!イヤアアァァーーッッ!」
幾万のビームの雨、ミサイル、金属への侵食、火薬の遠隔爆破、目眩まし、精神攻撃、形状を変形しての物理攻撃。
その全てを破られた
扶桑の名匠に鍛えあげられた2対の苦無刀が豆腐に箸をいれるが如く装甲を削り取っていく!
《───いけない!!あれをみて!エイミー!!》
「───あれは!!?」
何という迂闊だ、エイミーは心の中で叫んだ。
自爆を恐れ無様に狼狽えていた砲塔達が、破壊的な光を溜め込み放たんとしているではないか。
その狙いは殺戮の魔女───ではなく。
「僚機さんっ!!隊長さんっ!!逃げて!!」
《だめ!!ゆきにあしがとられてるっ!!》
何という卑劣で冷酷無比な選択か。
その怪異が狙いをつけたのは、魔力と体力を消耗し、ストライカーすら機能していない僚機と陸戦ウィッチの隊長だ。
その上ここは、雪ふぶくアルプスの険しい山岳の斜面。ストライカーなしでの移動など困難極まりない!
もしネウロイに顔があれば、醜く下劣な笑みを浮かべていたことだろう!
「くっ、まにあわ───まにあわせるッッ!!」
《美喜!?何をして!?》
意識を共有してるエイミーと美喜の会話はコンマ一秒にも満たない。
その僅かな一瞬で身体の主導権を奪った美喜は、持ちうる限りの魔法力を展開しシールドへ注いだ。
「Sen…sei...!?」
「だいじょうぶ、ぜったいにしなせないからッッッ!!」
──なんたる光景だろうか。
幾百──いや幾千の砲塔から放たれる轟雷はその一発一発が戦艦の主砲に匹敵する。
だと言うのに、殺戮の魔女のシールドは僅かたりとも揺るぐことはない!
「いやあああぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!」
凄まじい魔法力とビームの応酬。
それを背後で見ているだけの僚機は、その激しすぎる魔法力の余波だけで意識を奪われそうになった程だ。
なんたる堅牢にして強固な鋼の盾だろうか、しかしネウロイも為す術なく棒立ちしているだけではない!
《美喜!あいつが変形している!ビームの威力を上げる気だ!!》
「──!?へーきっ!!!」
《無理をしなくていい!私が!!》
「かんがえがあるの!!しんじてエイミー!!」
無数の船が溶けあい歪に混ざり、一つの巨大な砲塔にならんとしている !
威力を集約させ、そのシールドを力任せに打ち砕こうとしているのだ。
「Sensei…?」
「わたしと、いっしょにたたかってくれてありがとう。ほんとうに、しあわせでした。」
殺戮の魔女が見せた、年相応の穏やかな笑み。
だがそれは一瞬で険しい殺戮者のモノに戻り、シールドを押し返し始めた!
「───いやあああぁぁぁぁっっっ!!!」
信じがたい光景だ。
その破滅的なビームを防ぐだけでなく彼女は、それを押し返し始めたのだ!
烈風の魔導エンジンが激しく唸り始める。
《美喜!待って!そんなことをすれば!》
「…エイミー!ネウロイを、かならず────っっ!!!」
それはまさに、トリノでの使い魔エイミーの暴走の再現だ。
彼女という竹田美喜がその自身の魂を燃料に、魔法力と言う炎を燃やしていた。
やがてその閃光を根本まで押し返され、シールドという蓋をされたその砲台の辿る運命は────自爆だ!
「──イヤアアアァァァァーーーーーッッッ!!!!」
そして同時に、その神がかり的な奇跡を支え続けた烈風も限界を迎えた。
しかし彼女の意志はなんら揺るがない、咆哮と共に、その中心へと身を投じ───!!
──▽▽──
「うっ…ぐぅっ…?」
満身創痍となった殺戮の
そこは巣の主の中心、文字通り"コア"が鎮座する小さな空間だった。
その紅く輝く石の、なんとちっぽけなコトか。
この醜い光を放つ石ころひとつの為に、幾万という罪なき人間が犠牲になってきたのだ。
「……ネウロイは、全て殺す。」
苦無刀を構える彼女の両の眼はどちらも宝石のような翠色。
もう一人の自分に全てを託した竹田美喜の声は、今や聞こえてこない。
『──Ninja,Stai bene!?(ニンジャ、無事か!?)
Sei a Neuri!?(ネウロイの中に行ったのか!?)』
隊長の声だ。
『…Già buono!!Bbastanza!(もういい!もう良いんだ!)
Non devi morire!!(お前まで死ぬことはない!!)』
──▽▽──
「Anche striker si è rotto!?(ストライカーも壊れたのだろう!?)
Tornerò e questo sarà andato!(そんな状態でトドメを刺せば、帰ってこれなくなるぞ!!)」
あらん限りの残りの体力を、全てその声に籠める。
「Tutti hanno lasciato i loro pensieri a te e sono morti!!!
(みんな!お前に希望を託して死んでいったんだ!みな…みんな…!!)」
「Non morire!Non vale la pena uccidere finché non perdi la speranza come te!!
(死なないでくれ!お前のような希望を失ってまで!!そんなやつを殺す価値はない!!)」
「Fai qualcosa!! Farò quello che vuoi!Per...fav...ore…
(なんでもする!!お前の望むものを、なんでもやるから!!お願い、だから……もどって、きて…)」
『私の……望むもの…?』
──▽▽──
思い浮かぶ情景。
優しくて色んな事を教えてくれたおとうさま。
優しくてきれいなおかあさま。
従者のみんな。
厳しいけど、本当は優しいおじいさまと過ごした、竹田美喜としての記憶。
フランチェスカ・ルッキーニ。
フランカお姉ちゃんと一緒に過ごした日々。
出会った夜空。
再会した基地。
共に飛んだマルタ。
私の絶望と諦めさえも受け入れてくれた、イムディーナ。
私の呪いと痛みさえも受け入れてくれたあの海での地獄。
怪しいけど、心を開いてくれるようになったリリーさん。
501の優しく、強く、誇り高きウィッチのひとたち。
マルタに駆けつけてくれた、魔女達。
共に絶望のロマーニャを駆けた、可愛い愛弟子である僚機さん。
そして、命を散らし、私に全てを託していった陸戦ウィッチの皆さん。
エイミーとして生き抜き、出会ってきた人たち。
その人々のかけがえのない思い出が、わたしと私に微笑みを向ける───。
───そして、それらを蹂躙し、穢し、壊し、破り、燃やし、踏み躙り、弄ぶ、破滅の怪異。
「────コイツのッッ!!命だああああああああぁぁぁぁぁぁあァァァァあああああああアアアア!!!!!!」
殺戮の魔女の一撃が、怪異の心臓を貫いた。
──▽▽──
「ネウロイはッッ!!!全てッッ!!!!!殺すッッ!!!!!イヤアアアアァァァァァーーーーーッッッッ!!!!」
殺人的で破滅的で壊滅的な苦無刀の斬撃により、数多の命を貪った怪異の命に幕が降ろされた。
『────◎△$♪×¥●&%#?!!!?fw8う!』
そして、そのコアが意味不明な奇声と共に、崩壊の閃光を放って───。
彼女の意識もまた、閃光に潰えた。
──▽▽──
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────────。
せんせい?きこますか?
…わたし、ずっと後悔してたんです。
何にも守れずに、何にもできずに、何でウィッチ何かになったのかなって。
でも、センセイに出会って、見つけられたんです。
わたしの、したいこと。
わたしに、できること。
でも…もうすこし、はやく見つけたかったな。
センセイ、言ってくれましたよね、『継承』することが大切だって。
いまのわたし、それがよく分かるんです。
だから。
センセイ、継承してくれますか。
わたしの、したい…。
────したかった、こと。
──▽▽──
北部ロマーニャ防衛線。報告。
残存した航空・陸戦ウィッチ部隊の類まれなる活躍により、陥落したトリノは奪還された。
更にはヘルウェティア連邦を覆っていたネウロイの巣を撃破。
これによりヘルウェティアは、解放された。
この史上初の偉業を成し遂げた彼女らはロマーニャ公から表彰され、『偉大な魔女達』の称号を与えられた。
生存者は2名。
一人は陸戦ウィッチ部隊の隊長。
もう一人は航空ウィッチ。
生存した魔女を抱えていたもう一人のウィッチは、その身体を強く抱きしめ、救助部隊が来るまで吹雪から彼女を守り続けていたという。
救助隊が到着した時には、既に彼女は死亡していた。
その手には、扶桑の刀剣の一種である、"クナイ"と言う名の短刀が固く握られていたらしい。
報告、終わり。
──▽▽──
《アイテムを入手しました:僚機のクナイ》
《実績を解除しました:【継承の物語】》