「...『ヘルウェティア軍の帰還、進まず』『ガリア難民、またもオストマルク難民と衝突』...『長引く防衛戦、ロマーニャの冬、未だ明けず』...」
うわぁーつらいつらいつらい、もっと明るい話題ないんですかー!?
はい、プラマー軍曹でーす。
ここはロマーニャ軍ローマ基地のウィッチ隊舎の一室ですよ。
同室のフランカお姉ちゃん(はだか)が寝静まった頃、私は夜中にふっかふかソファーで新聞に目を這わせてました。
いやね〜起きてるお姉ちゃんの前で読んでるとちょっかい出されるんですよぉ…。
在宅仕事中に構ってくる猫みたいに可愛い尻尾をフリフリしてきたり、急に私の耳をはみはみっ♡てしてきたり...///
それからそれから、私がじっとお姉ちゃんに無言でおねだりすると…何も言わなくてもそっとキスを落としてくれて───♡
───しゅるるんっ♡ぴょこんっ♪
あっやばい、思い出しただけで猫耳と尻尾出ちゃいましたね。もう終わりですよ私。完全にフランカお姉ちゃんの妹堕ちしてます。
もう後ろのソファーで寝てる吐息を聞いただけでお腹の奥の女の子の部分がきゅんきゅん♡ってしてますもん。
あぁ…お姉ちゃん…わたしのフランカお姉ちゃん…♡
「にゃあ」
「みぅみぅ、なーお」
分離顕現し、剥き出しのふとももをふみふみし始めた黒豹達が可愛く鳴きます。
仲睦まじくじゃれあってる彼女達はもちろん私の使い魔エイミーと…フランカお姉ちゃんの使い魔ちゃん。
まだ少し元気のないエイミーの顔を、ぺろぺろとお姉ちゃん猫が丹念に舐めていて微笑ましいですなぁ。
しかし使い魔とウィッチは似るのか、昨夜のベッドの上の私達と同z....げふんげふん。
「にゃあにゃあ、なーご」
「こら、おねえちゃん起こしちゃダメ」
寝てるフランカお姉ちゃんの方へ逃げようとするエイミーを制し、濃いコーヒーを口につけます。
リストレットと呼ばれるこの濃いエスプレッソは、南ロマーニャの方で盛んに飲まれているコーヒーだそうな。
お姉ちゃんのママさんが手紙に私のために、貴重なコーヒー豆を添えて送ってくださったんですよ。
そう今現在、ママさんの暮らしているシチリアでは、戦いが起こっているにも関わらず────。
「…シチリアですかぁ」
お姉ちゃんの故郷、その南ロマーニャに位置するシチリア島では未だ防衛戦が続いています。
リベリオンの陸空混合のウィッチ大隊が主力となり熾烈な上陸阻止作戦を展開しているようですが…。
しかし、開戦当初こそ優勢だったものの、次第にアフリカからの新型のネウロイが増えるにつれ戦況は芳しくなくなってきているらしく。
まぁトリノにいたような、あんな化け物大型集団が出ればそりゃあ辛いでしょ…。
「早く行かないとですねぇ」
「にゃぁ」
指揮を執ってるらしいリリーさんのことも気になりますし。
なにより大事で大好きなフランカお姉ちゃんの故郷です、絶対に守らないと。
「…僚機さん達の分も、戦わなきゃ」
それにもしロマーニャを守れないような事があれば、アルプスやトリノで死んでいった魔女達の命も慰められません。
まぁ、美喜の…というかお母様のことは少し気がかりですが、今はもうどうしようもありません。話も通じなさそうですし。
「お母さまの言ってたことも、リリーさんに聞いてみたいですしねー」
「にゃー」
温くなったコーヒーを飲み干し、カップを軽く洗って乾かします。
あっお揃いのお姉ちゃんのカップ...♡スリスリしたい...間接キスしたい...♡
はっ!駄目だ鎮まれ静まり給え私の妹魂...!!
新聞も読み終えましたしさっさと私もオフトゥンにInしましょう。
そうです明日こそきっと南部ロマーニャへの出撃命令が出るはずですよ、何やかんやゴタゴタはあっても私達はエース姉妹ですもの〜。
「Zzz…むにゃ…」
「…♪おねえちゃんっ…♡」
羽織っていたシャツと義手を机に放り投げ、お姉ちゃんの寝てるソファーの中にもぞもぞと入り込みます。
ほぁ...息が掛かる距離まで顔が近づきます…///
お姉ちゃんの素肌と素肌がすれあって、こそばゆくて温かくて幸せ…。
結構わたし、性格とか変わった気がするんですが、それでもやっぱりお姉ちゃんは大好きです…♡
「…くぅ、くぅ…」
体温とニオイが染みついた、あったかな毛布にうっとりとしそうです。
その幸せな感触を全身で感じながら、ぼんやりと私は思いを馳せました。
もうこの地獄の中に囚われてから、体感時間で何百年経ったでしょうか。
搭載されてる謎システムのおかげで現実時間では未だ半日すら経っていないでしょうけども。
私は…あぁ、もう自分のこともすっかり「私」だなんて言っちゃって。
もう私、完全にアマンダ・ミシェル・プラマーなんですね。
「えいみぃ……」
ピンクの唇から漏れる、鳥のさえずりのような優しげな囁き。
この地獄の世界の中で、私を愛してくれる天使。救ってくれた光。大好きな家族。
「フランチェスカ……ルッキーニ」
長く青い睫毛、零れた口元から覗く八重歯、可愛らしく幼い、無邪気な顔立ち。
ストライクウィッチーズ…501部隊の中の最年少の、無邪気で天真爛漫なウィッチ────。
この地獄を始める前の彼女というキャラクターへの印象は、それくらいでしかありませんでしたが…。
「ぜったい、ぜったいに、あなただけは幸せに...」
決意を静かに呟いて、私の意識は急速に暗闇へと沈んでいきました。
…心なしか、最近すぐ疲れて寝ちゃうんですよね。
そうまるで、昔まだこの身体が病に侵されていたころみたいに──────。
──▽▽──
「あー…もう面倒くさいですねぇ」
靴底が土だらけになったブーツを引っ繰り返しながら、リリーはぼんやりと夜空を見上げる。
静寂の綺麗な夜空…もうどうやら今回の戦闘は無事終わったらしい。
真夜中、夜間哨戒に出撃してた魔女と敵小型機の接触から始まったスカーミッシュ。
増援として出撃したこちらの部隊に示し合わせるように現れた複数のネウロイだったが、さしたる相手では無かった。
まぁあのリカが直々に前頭指揮を執ったのだ、そうそう負ける訳もない。
「面倒事を押し付ける形になりましたが…まぁ、後で謝りましょう」
そう、私は墜落した。
無論わざと。防衛部隊の総指揮などという不自由極まりない地位を放り投げる為だ。
「仕方ありませんもの、あの子達が狙われてるとあっては……」
煙を上げ、バチバチと火花を上げる自身の戦闘脚の外装を外す。
よし、見た目こそ派手に壊れてるが飛行にさしたる影響はない、エイミー達のいるロマーニャへと飛んでいけるはずだ。
今、あの子達…というより彼女の右腕たるエイミーは非常に複雑な立場にある。
傷だらけの少女を反戦の象徴に仕立て上げようとするリベリオンの反戦派。
同胞の仇を取らんと躍起になっているガリア王党派残党。
救国の英雄たるウィッチに、何とか再建まで引きとどめようとするヘルウェティア暫定政府。
大エースを欧州戦線に留めておきたい連合政府。
更にそこに、彼女本来の素性を知る扶桑の大企業、宮藤までもが加わっていて…。
「バカみたいな話ですわね」
ふっと鼻で笑い、一瞬だけ彼女をこんな立場に追いやった自分に責任を感じかけるが、すぐに首を振った。
一体誰が助言役に送った弱冠8歳のウィッチが、ネウロイの巣を破壊し一つの国を解放するなんて思うだろうか?
スパナを片手で弄びながら、彼女は頭の中で取り得る手段を模索する。
「はぁ…フランチェスカには流石に荷が重すぎますわね、きっと今頃泣いて────」
「────リリィィィィイイイイイイ!!!??!!!」
何か叫び声が聞こえてきたと思えば、次の瞬間思い切りカラダが地面に叩き付けられる。
あぁマズイ、この声とこの身体に触れる柔らかさ。これは紛れもなく。
「馬鹿っ!!バカっ!!ばかー!!どうして連絡しないのよーー!!!どれだけ心配したと思ってるのよー!!!!」
「リカ姉…骨折れますってば…」
わんわんと涙を零しながら喚き叫ぶ幼い褐色のウィッチ。
自身にぎゅうとしがみ付く彼女を抱きしめ返し、リリーはため息を漏らした。
周りに追随のウィッチがいる様子はない、恐らくは周囲の反対を押し切って一人で私の探索をしていたのだろう。
いやぁ悪いことをした。
だからと言って私の胸元でぐいぐいと涙と鼻水を拭うのはやめてほしいのですが。
「ごめんなさいリカ。いや、これには深い理由があるんd」
「もー…わかってるわよ、エイミーちゃんでしょ?」
あれ?という風な顔でその顔を見返すと、フェデリカはニンマリとした表情でこちらを見下ろしていた。
面倒を避けるために部下はおろか誰にも言ってはいないはずだったのだが…。
「…分かってたんですか?」
「当然でしょ!妹のコトは、お姉ちゃんは何でもお見通しなんだから!!…でーも」
むにゅりっ、と彼女の温かい両手が私の頬に添えられる。
「ワタシに一言くらい言っていきなさーい!!!もぉ~!!このこのこの~~~!!!!」
「ちょっ…ほへーひゃん…ひゃめ…」
もちもちと私のほっぺたをむにむにと思う存分堪能されてしまう。
うざったい、くすぐったい、でも何故か少し安心する。振り払う気が自然と起きない。
「まったく…ほら、リリー」
起き上がったお姉ちゃんが私に手を差し伸べる。
いつも通り、見慣れたその満面の笑顔に少しホッとしながらその手を握り返す。
少しの間離れてしまっていたその無邪気な表情に、私は少し見とれてしまって。
「お姉ちゃんを少しは頼りなさ────」
────パン、パン、パン。
乾いた音が夜の静寂に響いた。
それと同時だっただろうか、私の視界は真っ赤に染まって。
顔に飛び散ってきた生暖かい液体が、何かすらわからない。
「…え?」
気の抜けた、フェデリカの────お姉ちゃんの声。
その胸元に赤い大きなシミがいくつも出来ていて、今なおジャケットに広がっていっていた。
それをお姉ちゃんは、呆然と、何が起こったのか理解してないような顔で。
「──────」
咄嗟にその身体を抱きしめ、射線を自らの身体で切る。
そして腰のホルスターから取り出したM1911を狙いもロクに付けず乱射した。
弾倉が空になるまで無我夢中で撃ち切ったが、何発かは手ごたえがあった。
小さく呻く男の声を耳朶に捉え、私はリカの身体を───その重たい、血みどろの身体を手放し、その声の主を抑えつけた。
仕立てのいいコート、深く被られたトレンチ帽。どう見てもただの賊ではない。
誰かに雇われた───いや、誰かの手先か。
「おまえっ!おまえぇぇっ!!おまぇぇぇぇぇっっ!!!!」
怒りのままに銃底で何度も何度も力のままに殴りつける。
魔力で強化されたウィッチの暴力に、やがて男が反抗のそぶりもなく、ぐったりとするのに時間はかからなかった。
「どこだ!!どこのヤツらだ!!言え!!殺してやるッ!!絶対に────」
「────お父様…のご命令、です…」
「……は?」
その男が口にした言葉を理解するのに、彼女は数十秒の時を要した。
「その女は…お嬢様のコトを知り過ぎた…。あなたの、邪魔になる。あなたのために、と…」
は?は?
お父様が?リカ姉を?わたしの、ために?なんで?どうして?
呆然と、ただそいつを、私は見下ろすしか出来ずに…。
「で、ですから…だから…私は…」
その言葉を言い終える前に、私はそいつの額に銃口を押し当てて引き金を引いた。
顔の筋肉が痙攣しビクリと肉の塊になった男だったモノが震えた。
「………リ、カ…」
力なく横たわる、大好きで優しい姉のもとへ駆け寄る。
その身体をそっと支えると、手のひらに伝わる血のぬるみと冷たさに────何度も経験しているモノなのに、恐ろしさに酷く吐き気を覚えた。
「…あはは……もー…」
なのにリカお姉ちゃんは、いつもと変わらない笑顔をその顔に浮かべて。
いつもなら酷く安心するはずの笑顔が、どうしようもなく恐ろしいモノに感じた。
「…ごめんね、リリー…せっかく、仲直りできたのに…」
「黙ってよ!!!!喋らないで!!!!!!!」
私は何故か溢れてくる嗚咽と涙をそのままに、必死にその止血を試みた。
冷静な部分では、もう手遅れだと分かっているくせに。
「……ありがと…私に、お姉ちゃんをさせてくれて……」
大好きなお姉ちゃんの手が、血まみれの震える手が、私をゆっくりと抱きしめる。
「リリー、だいすき。」
その言葉に、私もだよ。と。
返した言葉は────お姉ちゃんに、届いたのだろうか。
「────────」