「はぁーつまんないの.」
「みゃぁ?」
「ねー。アナタもそー思うよね?」
膝に載せた黒い仔猫───本当は幼い黒豹なのだが、気づいていない───を撫でながら、彼女、フランチェスカ・ルッキーニはいつものように訓練をサボり広大な基地内で暇を持て余していた。
こんな時、普段ならその小さなお供と一緒に
「あーあ、あの子どこ行っちゃったんだろ。ケガ、大丈夫かなぁ」
「うみゃぁ」
眠りの世界に旅立とうとしても、どうしても忘れられない浮かんでくるあの顔。
つい先日、脱柵のさなか遭遇した大規模なネウロイの戦闘。
そしてそこで出会った”チビっ子”である自分よりも遥かに幼い、黒髪の傷だらけのウィッチ。
儚く、絶望と悲しみが色濃く刻まれた血まみれのその顔は、目を閉じると今でも彼女の瞼裏に鮮明に浮かんでくるのだ。
「誰にきいたって教えてくんないし。名前も聞いてないのになぁ…うじゅぅ」
駆けつけてきてくれた
そのあと迎えに来た原隊のウィッチ隊の隊長に連れて帰られてしまったため例の少女とはあれ以来会えていないのだ。
幸い、たくさんの人命を救助したと言う事と多大な戦果を挙げたことを鑑み、軽いお説教で済んだのは良かったが。
「…?みゃぅみゃぁぁっ」
「あっ、こらぁっ!!どこいくのー!?」
ぼんやりと虚空を眺めていた飼い主の膝上でむにゃむにゃと寝ぼけていた仔猫。
それが突然何かを見つけたかのように駆け出し、慌てて彼女は追いかけるハメになってしまった。
その子猫はかつて、基地内に迷い込んできた二匹の幼い猫の姉妹だった。
お気に入りの昼寝場所で眠る彼女達を見つけたルッキーニは、それはもう大はしゃぎでその世話を始め。
いつしか大層甘えられ懐かれたころ、気づけば大きい方の猫は彼女の使い魔として共に空を駆けていたのだ。
だから今でもその妹の仔猫はずっと、何をするにしても彼女と一緒だった。
「…にゃにゃ。うみゃうみゃ」
「ひーっひゃーっ…!もーっ!今日はもういっぱい遊んであげたでs…」
さしもの俊敏さを誇る彼女でも息を切らすほどの距離を走り、やっと追いついた。
「……」
「にぅ、なーお」
そして子猫がある人物の足元に、見たことが無いほど纏わりつき身体をこすり付けているのを発見して───。
「……?」
「…あっ。あーーーっっっっ!!!!?」
仔猫をまるで初めて見るかのような無機質な目で見つめる───その幼い少女は。
そう、忘れるはずもない。あの子は────。
───▽▽───
ここは、どこなんだろう。
私はなんで、ここにいるんだろう。
「……」
ぼんやりと、空を見上げる。
分からない。何もわからない。ただ何か、とってもやりたかったことがあった気がする。
早く、ずっとしたかったことのはずなのに。何も思い出せない。
ただ思い出せるのは、何度も繰り返した地獄のコトだけ。
ストライカーと呼ばれる翼で空を駆け、死んで。
ネウロイと呼ばれる怪異と戦い、死んで。
そしてそれを何度も繰り返し、死んで。
死んで。死んで。死んで。死んで。死んで。死んで。死んで。
そのしたかった何かの為に、ずっと繰り返して、死に続けたはずなのに。
なのに、それが思い出せない。
目が覚めたら、大きな女の人が目の前にいた。
けれどその人は、何度も私から大切な何かを奪っていって。
だから怖くなって、目を盗んでこっそり逃げだしてしまった。
「……」
空を、見上げる。
ふと何故か、その空が星空ではない、青く雲がたゆたい、太陽が輝く空であることが酷く安心して。
ここはもう、地獄の中ではないのだろうかと、ぼんやりと考えた。
「にぅにゃあ」
ふと、足元からかけられたその声に意識が連れ戻される。
みると小さな黒い毛むくじゃらの塊が素足のままの足にじゃれつき、すりすりと身体をこすり付けていた。
「……?」
これはなんだっただろう。なんで私に近づいてるんだろう。
首をかしげて、歩くこともできないからどうしようと考えていると──────。
「えへへ~っ!よかったぁ!すっごく会いたかったんだからぁっ!!にひひ~っ♪」
「にぅにぅ」
「…………」
私は、気が付けばその黒い塊と一緒に、大きな女の人より小さな人に膝に座らされていた。
「ねぇねぇっ!!もうケガは大丈夫なの?あなた扶桑のウィッチ?何歳なのっ!?あたし、自分よりちっちゃなウィッチって初めて見るんだーっ!!にゃはー♪」
その人は、とても不思議な人で。
とても大きな元気な声で、その声を聴いてるだけでどこか心がぽかぽかしてくる。
こうやって優しく身体を包まれてると、とても穏やかでほっとする気持ちにもなるし。
でも、その言っていることは何一つ意味が理解できなくて。
「……ありぇ?もしかして…わたしのコト、覚えてなぁい?」
わかりやすいほど泣きそうな顔でそう覗き込まれて言われると、私はすこし、首を傾げて思案した。
そして数秒経った後───私の右手を、その人の温かく、大きな手が優しく握ってくれると。
────もう、だいじょーぶだからね!!ぜったい離さないから!!
────ぜったい!この手を諦めないんだから────ッッ!
「……あ…」
脳裏にフラッシュバックする、あの記憶。
暗くどこまでも深い、無限に続く絶望の地獄の夜空。
そこで虚空に伸ばした救いを求める手を握ってくれた────どこまでも温かく、勇気に満ちたその手。
そうだ、この手は。どうして忘れてしまっていたんだろうか。
「…おぼえ…てる…。たすけて、くれた…」
添えられたその手を、私は強く、強く握り返した。
地獄から、ネウロイから、そして死の寒さから私を救い、そして守ってくれたウィッチの手。
それが今再び、こうして私の手を握ってくれている。
それが────余りにも嬉しくて、本当に、嬉しくて。温かくて。
何か熱く、堪えきれないモノが私の眼から、とめどなく溢れるのを止められなかった。
「───にゃはっ♪よかったぁ~!!あたしもず~っと覚えてたんだよーっ!!」
そういって、あの時のように再び強く、私の冷たい身体を抱きしめてくれると。
さっきまであれほど私の心を支配していた、言いようのない不安や、ぼんやりとした焦りが消え去って。
ただその優しく心地よい温かさに身を任せ、うっとりと目を閉じていた。
「…にゃあにぅ」
「んにゃ?あ~ごめんねエイミー?この子を見つけてくれてありがとーっ♪」
私の膝の上で漏らされたその不満げな鳴き声に、私の頭をなでてくれていた手が取られてしまうと。
少しだけ嫉妬心のようなモノがそのエイミーと呼ばれた黒い毛玉に沸いてしまった。
「んねぇ、あなたお名前は?どこから来たの?ロマーニャの子じゃないよね?」
「……ぁ、ぇっ…と」
私の名前。私がどこから来たのか。
頭の中を必死に探してみる。何度も、額をおさえて必死に。
───でも、何一つ浮かんでこない。欠片も、それに繋がるようなことも。
思い出すのは、あの無限に駆け続けた絶望の夜空でのことだけ。
「わか…らなぃ」
「ふぇっ?自分の、お名前も!?…じゃあどうしてネウロイと戦ってたとかは?」
「…それも、わからない」
思い出せない。
何かの為にずっと苦しんでいたのだけは覚えてる。
それの為だけに、それだけを救いに繰り返していたはずなのに────。
「そっかぁ…じゃあ迷子なんだぁ。だいじょーぶ!きっとすぐにパパやママに会えるからね!!」
「…うん」
そういってまた優しく手を握られ、抱きしめられると。
一瞬前まで思い出していた地獄から救われ、安心する気持ちに包まれていった。
「…ぅぅん…その、ごめんねっ。あなたのその…ウデ」
「……?」
しかし、不意に頭上からかけられたその歯切れの悪く暗い言葉に、私は意識を向けた。
その人の───大きな女の人の、悲しげで泣きそうな顔に、私は理由も分からず少し悲しくなった。
私の着ていた白くゆったりとした服の左腕の部分を。
何もなく、ただ袖布だけが力なく垂れ下がっているのをそっと持ち上げられた。
「あたしっ、ほんとはもっと早く助けに行けたの。だけど…だけど、あんなに遅くなっちゃって」
私の右手を握るその手が、わずかにぷるぷると震え始める。
「もっとっ、もっと早く行ってたら…!!きっと、ちゃんとあなたを守れてたのにぃっ…!!!」
────ぽろ、ぽろ。
見上げる私の顔に、熱い彼女の涙が滴った。
嗚咽を漏らし、後悔の言葉を呟く彼女に───私はとても悲しく、つらくなったけど。
なんていえばいいか、どうすれば良いかがまったく分からなくて。
せめて、その手を抱きしめようと力をぎゅっと込めて─────。
ウ"────ッッ!!ウ"─────ッッ!!
けたたましい、つんざくようなサイレンの音が辺りに鳴り響き。
「─────ネウロイだ──ッ!!」
何処からか聞こえてきた男の人の声が、私を目の前の現実に引き戻した。
―――▽▽―――
「良い?あぶないから、ちゃーんとここでエイミーと一緒に待っててね?」
先程まで感情のままに涙を流していた彼女、フランチェスカ・ルッキーニの顔は打って変わり、戦いに赴く一人のウィッチの顔へとなっていた。
その手を載せているのは自身より遥かに幼く、傷跡だらけの少女の小さな肩。
こんな小さな子に、ましてや先日酷いケガを追った状態の子に、たとえウィッチであろうとも戦わせるなんて訳にはいかない。
「....ねうろい。ねうろ、い?」
「−−−ぅじゅっ。だいじょーぶ!お姉ちゃんがすぐにやっつけて来てあげるからねっ!」
僅かに狼狽えるような、どこか怯えているようにも見えた彼女の震える手をぎゅっと握る。
その余りの氷のような冷たさに一瞬戸惑いを漏らしてしまったものの、すぐに固く両手で包み込んで微笑みかけた。
「おねぇ、ちゃん....」
「...!そっ!おねえちゃんにまっかせなさーいっ!」
お姉ちゃん、と呼ばれた舌足らずな幼い声に一瞬ドキリとしてしまったが。
すぐに顔を引き締め、彼女の大好きなママがそうしてくれるように優しく頭をぽんぽんと叩いた。
そしてくるりと身を翻し、急いで自身の愛機が待つ格納庫へと駆け出し−−−。
−−−ぐいっ
「う、じゅっ?」
しかし勢いよく走ろうとした彼女の服が本当に小さな、まるでヒヨコが啄んでいるかのようかか細い力で引っ張られる。
一体何が引っかかったんだろうと振り向くとそこには。
「ぁ...ゃ...」
今にも溢れそうな涙を大きな瞳に浮かべながら、袖をぎゅっと握るその幼い少女が。
震える口をぱくぱくと開閉させて、必死に何かを訴えていた。
「いっちゃ...やだ...。」
「ぅにゃぉ?」
肩に載った仔猫が、その顔を除き込み首を傾げる。
その光景に、行かないでと涙目で上目遣いで懇願してくるその子供の姿に、彼女は喉から「うんっ!!」と飛び出そうになる声をぐっと堪えた。
「...うじゅじゅっ!!」
ぶんぶんと長いツインテールと共に首を振り、ぱんぱんとほっぺたを叩き自らを厳しく戒める。
それは上官から"チビっ子"と呼ばれ、周りから問題児と称される自由気ままな普段の彼女では考えられない行動であった。
意を決したように息を深く吸い込み、目の前の幼い少女と目線を合わせて瞳を覗きこむ。
「だいじょーぶ!きっとすぐに帰ってくるからぁ!...だから、それまではエイミーと一緒にいてあげて?ねっ?」
「....うん。」
わずかの逡巡があったものの、その彼女の強い意志が伝わったのか、やがてその少女はおずおずと静かに頷く。
そしてその様子に満足げに聖母のような微笑みを返した彼女は、次の瞬間には一人のウィッチとしての顔に戻りその身を翻したのだった。
−−−▼▼−−−
「ルチアナッ、状況はっ!!」
「数は確認できただけで中型3。ナポリの部隊がスクランブルをかけましたが...」
「多分沿岸上陸までには間に合わないだろうねー」
沿岸の基地に来隊していた赤ズボン隊のフェルナンディア中尉は突然のネウロイの襲撃の対応に奔走していた。
バンカーに飛び込み、もう既に出撃準備を整えている二人のウィッチを内心できた部下だと褒めながら、状況の確認を行う。
「...ボクらだけでやる?この間の夜の群れの規模考えたらちょっと怖いけど」
「ここのウィッチ隊はどうしたのよ!?第5航空隊の分隊がいるはずでしょ!」
「先日からマルタ島への支援派遣に出動しているようです。残っているのは戦闘機だけで...」
「なんて間の悪さよッ...!!」
小さく舌打ちを鳴らし、ストライカーへと飛び乗る。
マルチナの言うとおり、つい先日シチリア遠洋で起こった扶桑からの物資輸送船への襲撃の規模は
考えられる原因はいくつかあるが、どちらにせよ今回のこの襲撃も確認できている数のネウロイだけとは考えにくい。
陽動の可能性だってあるし、伏兵の形で確認できていない敵が潜んでいるかもしれない。
それらの可能性を考えると幾ら精鋭を自負する赤ズボン隊であろうとも、自分達だけというのは不安は拭いきれなかった。
最悪でも不足の事態に動けるウィッチがもう二人、いや一人でもいいから居てくれれば...。
「そうだっ!リリー中佐もストライカーを持って来てるのよね?手を貸してくれれば...!!」
「バカ言わないで下さいフェル隊長!治療中の患者を投げ出してこっちに来れるワケないじゃないですかー!!」
「うわーっ...そうね。あーもう仕方ないわ!私達だけでやるわy...」
半ば諦め、悪く言えば言えばヤケクソにも近い気持ちで出撃を宣言しようと手を振り上げた瞬間。
−−−−−バタンッ!!
バンカーの重い鉄扉が、その軍人でも数人がかりで開閉を行う扉が勢いよく開かれた。
そして開いたドアの中央にいたのは、逆光を背に青白い魔力の輝きを漲らせる、一人のウィッチ。
「アタシも出撃するーっ!!!!」
蒼いツインテールをたなびかせ、突然飛び込んできたその小さなウィッチは堂々と赤ズボン隊の面々にそう宣言してのけた。
その特徴的な幼い声音と溢れんばかりの元気良さは忘れるわけもない。
つい先日シチリア遠洋での襲撃の際に、共闘した幼いウィッチ−−−フランチェスカ・ルッキーニ曹長その人だ。
「おっ、この前のチビっ子じゃん!なんで基地に残ってんのさ?」
「うじゅーっ!怒られたバツで置いて行かれたとかじゃないもんーっ!!」
「あぁ、なるほど。そういうコトですか…。」
尻尾を逆立ててプンプンと怒りながら、彼女はくるりと飛び跳ねて曲芸師のようにそのままストライカーに収まる。
なるほど、使われてないストライカーが幾つかあると思っていたがそういうことだったのか。
「でも良かったですねフェル隊長ッ、この子が一緒なら私たちも心強いですよ!」
「へっへーん♪まかせてっ、スグにやっつけてエイミーとあのコの所に戻るんだかr」
「―――ダメよ。認められないわ。」
空気がピシリと凍る。
マルチナ、ルチアナも見開いてこっちを見ているが当然のコトだ。
「置いて行かれたって、つまりは謹慎でしょう?そんなウィッチを出撃させるなんてとても容認できないわね。」
「えっ…えーっ!?!?!」
「ちょ、ちょっとフェル隊長ッ、今は猫の手も借りたいんだからさ…」
「今ここでこの子を見過ごせば私達の監督責任に成りかねないわ。赤ズボン隊の名に傷をつけるつもり?」
「そ、それはそうですけど。隊長…。」
わなわなと震えた驚愕の顔でこちらを見てくるルッキーニ曹長だが仕方がない。
万が一この出撃を見ないふりをして、彼女が撃墜でもしよう物ならそれは完全に私たちの責任になってしまうのだ。
そうなれば赤ズボン隊を率いるここにはいないドッリオ少佐にまで多大な迷惑をかけてしまう。
そんなことだけは絶対に避けねばならないのだから。
「ッ…お願いッ!!アタシ、行かなきゃっ!!アタシ、ウィッチだからっ!」
「…下がりなさい、離陸に巻き込まれるわよ。」
その幼い顔に、無邪気とさえ言える顔に固く強い意志が宿るのが見て取れた。
しかし、それでも変える訳にはいかない。私達はウィッチである前に軍人なのだ。
―――例え自分の意志を通す時でも、そこだけは忘れないでね。
かつて敬愛する自由奔放な上司、ドッリオ少佐に教えられた事が頭に反芻する。
「アタシっ…あの子を守りたい!!ちかったんだもん!ゼッタイに守るんだ、って!」
「…チビッ子。」
そのエメラルドの純粋な瞳に嘘はない。心の底からの言葉だとフェルナンディアははっきりと理解できた。
その瞳に宿る覚悟はまさしくウィッチだ。とても問題児と揶揄されるような少女のモノには思えない。
「だからっだからっ…えと、んっとぉ・・・お、おねがい、しましゅっ!!ちゅーい!!」
そして―――ついには、何という事だろうか。
あの問題行動を繰り返し、上官にも敬意を払わず、訓練もサボり遊んで昼寝を楽しんでいた彼女が。
そのフランチェスカ・ルッキーニが――――生まれて数度目の敬語を使い、上官を階級名で呼んだのだ。
きっとこの場に彼女の直属の上官が居れば、卒倒するか頬をつねっていたであろう行動。
それが彼女にとってどれ程の熱意と情熱が成せる業なのかを理解した瞬間、フェルナンディアの熱きロマーニャのウィッチ魂は揺さぶり、燃え上がり、興奮し、そして―――。
「…分かったわっルッキーニ曹長!!私達の直掩として出撃なさいっ!!
「…わぁ!!うんっ!!ありがとーフェルッ!!」
「フェ、フェルぅ!?ちょっと、さっきはちゃんと中尉って言ってたじゃないですかぁ!?」
「あははは♪いーじゃんルチアナ、ボクたちの未来の後輩なんだしさ♪」
どうやら彼女を赤ズボン隊に誘おうと言い出したマルチナとルチアナの眼は正しかったようだ。
この子はきっと、エースと呼ばれる今以上にもっと大きなウィッチになれるだろう。
その未来ある彼女のことを思えば、私一人がバツを受けるくらい大したことではない。
魔導エンジンの火をかけ、使い魔を顕現させ、全身に魔法力をみなぎらせる。
「さぁ行くわよ―――マルチナ、ルチアナ、この子に恥ずかしい所は見せられないわよっ!!
「「「
そして3人の赤ズボンの少女と、
―――▽▽―――
「…おねえ、ちゃん?」
見上げた青空を駆けていった、4つの遠く小さな光。
その中にきっと私を救ってくれた、守ってくれたお姉ちゃんがいることが不思議と理解できた。
「にゃぁ」
「…うん、わたし、まってなきゃ。やくそくしたもん。」
足元にまとわりついてくる、エイミーという名前の子猫。お姉ちゃんの友達みたい。
その子はまるでどこかに行こうとして見えた私を引き止めたようだった。
でも私には行く場所なんてない。
あの人しか―――お姉ちゃんしかこの世界には知っている人は居ないから。
そう思って私は再びお姉ちゃんと一緒に座ってた石垣に、エイミーと一緒に座り込むと―――。
《ミッションを開始します。防衛目標:アンツィオ軍港》
――――ぞく、り。
虚空を見つめていた時だった。
急にピロリ、と不可思議で奇妙な音が鳴ったかと思えば。
次の瞬間、私の視界の中央になにか奇妙な文字列が浮かんできたのだ。
「…な、に…これ…。」
そこに書かれてる文の意味はまったく分からない。
そもそもこんな現象が意味がわからないし、何もかも分からなくてもコレがおかしいという事は理解できた。
そして同時に何故か感じた、ひどく奇妙な恐ろしさと悪寒に背筋が勝手に震えたのだった。
「え、えぃみー、だっけ…みえ、る?」
「…?ふみゃぁ。」
急にビクリと震えてしまった私を何事かとニオイを嗅いでいた子猫に聴いてみても。
なんのこと?という風に小さく鳴き声を返されてしまった。
なんだっただろうかコレは。何処かで見たことがある気がする。それも何度も。
ただ…ただこれは、何か良くないモノだったと思う。そんな気がする。
「や…やだ…いや…」
「うみゃ?みゃっ、なーぅ」
言いようのない恐怖に私は思わず誰もいない筈の隣に手をのばす。
だけどそこには、あの暖かく優しい、私を守ってくれる手はなくて。
しかし代わりに肩に飛び乗ってきた子猫がほっぺたにじゃれつき、私を慰めてくれた。
そしてくいくいと私の首元の白い服をひっぱり、私を何処かへ連れて行こうとし始めたのだ。
「ふぇっ…ど、どうしたの…あっ」
「にゃむにゃむ」
すると雑木林を少しかき分け入ったところに、少し開けた空間が。
そしてそこに雑多に並べられた、お菓子、毛布、板、その他よくわからないモノいっぱい――――。
なんだろうここは、この子は私をどうしてここに連れてきたんだろう。
「…ここ、は?」
まるでベットとシーツのように重ねられた、木の板と数枚の毛布。
そこの上にちょこん、と座ってみると。何処か暖かく優しい、幸せな心地よさがポカポカと湧いてきて。
私はあっという間にその毛布の山から離れる気が起きなくなってしまった。
こんな暖かくて、おひさまみたいないい匂いがする人なんて決まってる。
きっとここはあのカッコいい、ウィッチのお姉ちゃんが居た場所なんだ。
「…ん、えへへ…♪」
「にぅ…ごろごろ♪」
嬉しくなって、エイミーと一緒になって毛布の中で丸くなる。
この子も気持ちがいいのか、ごろごろと心地よさそうに喉を鳴らし喜んでいた。
まるであのウィッチのお姉ちゃんの膝に座って、抱きしめられてた時のように。
身体がふわふわして、さっきまでたくさん浮かんでたイヤなコトや不安なコトが忘れていく。
「…んにゃ…ふぁ…」
あのウィッチのお姉ちゃんが何処かへ…ネウロイ?と戦いに行ってしまった時、すごくこわかった。
不安と怖さでガマンできなくなってしまいそうだったけど…この子猫が一緒にいてくれてよかった。
――――ピロロロロロロロ。
「ぁ……ふぇ…?」
「ふみゃ?」
何処からか鳴り響いてきた、さっきにもまして奇妙で不可思議な音。
それが何故かとても―――この上なくイヤな感じがして、私は毛布の中から顔を覗かせた。
ゴツゴツとしたおっきな建物と、レンガ造りの倉庫?…っていうのかな。
それと確か海には、あのずっと繰り返した夜の時に海に浮いてたのと似た、たくさんの船。
―――――
「えい、みー。」
「んにゃ?」
私は咄嗟に―――なんで自分でもそうしたかまったく分からないけど。
エイミーの小さな黒い身体を右手で抱えて、それらから離れるように駆け出した。
すごく辛くて痛くて、口から何かが溢れそうになったけど止まらなかった。
だって、だってアレは――――。
次の瞬間。一瞬の静寂の後、背後で世界がひっくり返ったかのような大轟音が鳴り響いた。
↓評価頂けると励みになるんダナ(・×・)