【ストパンVR】初見で最高難易度だけど超余裕   作:Kkmn

9 / 43
フェデリカ

――――カチャリ、ゴリッ、ピチャ、ピチャ。

 

「…あなたが逃げたりしなければまぁ、ここまでする必要も無かったのですがね。」

 

薄暗く締め切られ、分厚い防音と防護の壁に包まれた密室の空間。

乾いた体液や薬、ロクに掃除すらされていないその部屋が『治療室』などと知ったらさほどの人間が驚くだろう。

そんな酷い環境におよそ似つかわしくない美麗な少女が二人、その部屋には存在していた。

 

一人は豊かな金髪をたゆたわせ、不機嫌そうに眉をひそめ溜息を吐く少女。リベリオンのウィッチ、リリー・グラマン中佐。

その右手で弄ぶ注射器の先端で、手持無沙汰のように薬品の入ったビンをコンコンと叩き続ける。

彼女は酷く苛立ち、また同時に悩んでいた。

 

「……ぁ"…っぁ"…」

「チッ…やはり効きが薄い。一体どこでそんな薄汚い野良猫を捕まえてきたのですか?せっかくみすぼらしいアナタにお似合いな家畜の豚でも使い魔にしてやろうと思っていたのに。」

 

催眠による調教の最中、突如消えたかと思えばこのお嬢様はまさかネウロイを撃破してきたなどというではないか。

それもどうやって見つけたのかは分からないがロマーニャ軍によって接収、保管されていたあの零式艦上戦闘脚まで持ち出して。

しかも挙句の果てには黒猫、いや恐らくクロヒョウだがどうだっていい。それを使い魔にまでしているではないか。

 

「はぁ…面倒ですわねぇ、リカに話をつけに行かねば。…それにしてもあの目障りなウィッチも鬱陶しい…。」

 

あぁ思い出すだけでも面倒くさい。

この子供を迎えに行ったとき、目の前に立ちふさがった一人の幼いウィッチ。

青い髪に翠の瞳を輝かせ、まるで白馬の王子様を気取るかのように自分からこの子供をかばったその相手。

その陰に隠れ怯えながらコチラを見つめる姿など、まるで本当の姉妹のようで微笑ましくて面倒くさい。

 

「…ぉ"ね"…だす、げ…」

 

ああ、それでこのザマだ。最初はすんなり上手く刷り込み出来ていたハズなのに、その途中であの青い子供ウィッチに強烈な印象を植え付けられてしまったらしい。

それに使い魔も無駄に優秀だ。その結果暗示は薄れ、魔法力による保護もあり、数時間前にかけた催眠はどんどん解け始めて行ってしまっている。

 

しかし椅子に縛り付けられ後ろ手を拘束されている姿はまさしく拷問といった様相だが、コレは治療だ。

隣のトレーに並べられてある薬品も皆催眠に導入しやすくする為の精神安定、または不安定にさせる薬で人体にスグには影響はない、きっと恐らく。

しかし、もう何回も注射器を空にしているが思ったよりもかなりしぶとい。

瞳の光も未だ消えず、いや、おそらくは記憶だってもう戻ってしまっているかも知れない。

 

「ぁ"...ろぐ、ぁぅ…ばゃ、ぐ…」

「あぁ?何ですか?言いたいことがあるなら行ってごらんなさい。お嬢様。」

 

イラつきが限界を超えてしまいそうだったからか、ふいにその幼い子供が漏らした意味のありそうな単語を聞き返す。

 

「ろぐ、ぁぅと…めにゅー、ひらぃて……」

「『何ですかそれは?』『私に説明しなさい』」

 

あぁくそ、こんなにも単純な命令すらかなり魔力を籠めないといけないとは。

内心酷く舌打ちをしながら、その震えて汗まみれの細いおとがいを掴みあげる。

 

「…ここ、から。この世界から、にげて。」

「へー、ああそうですか。自殺か何かですかぁ?ダメですよ、貴方にはまだやってもらわないといけない事があるのですから。……『あなたは今言ったことを、絶対にしない、出来ない。これから先永遠に。』」

「…ァ"ァ"――――」

 

再びもう一度、キツめに魔法力を込めて念入りに催眠を押しておく。

少なくとも今回は念には念を入れてある、半年程度なら間違いなく効き目が切れる事態にはならないだろう。

あぁしかし半年後にまたコレをしなければならないのか。面倒くさい。

 

しかし、とリリー・グラマンは背後のベッドに乱雑に撒き散らされたモノをちらりと眺めた。

そこにはリベリオンの下士官服、それもかなり小さく、まるで幼い子供にしか着られないようなモノ。

そしてその上には義手が、これも同じく小さく、その制服に袖を通すような子供にしか着けられないだろう。

またその隣には「Amanda Michael Plummer」と名前が書かれたリベリオン軍の身分証。

 

あれらを用意するのにもそれなりの手間とコストをかけたのだ、今更無駄にはできない。

 

「まぁ構いません。時間はあるのですから、ゆっくり時間をかけてじっくりと行きましょう…じっくりと、ね。」

「――――ひ、ぃっ」

 

仕事でもあり、同時に趣味の一環でもある精神治療の哀れな患者を前に、リリー・グラマン中佐は静かに歪んだ微笑みで囁いた。

 

 

 

 

―――▽▽―――

 

 

 

ロマーニャ国内でのかなりの外れにある、とある軍港―――いや、もはやこれを基地とすら呼ぶのも憚れるほどの、小さな基地。

まるで軍備など備わってなく、いるまともな兵士もウィッチ一人という有様のその基地に彼女は訪れていた。

 

「あれぇ、来るなら来るって言いなさいよ~、日焼けオイル切らしちゃってるわよ今。」

「…今日はのんびり日向ぼっこでも釣りに来たわけでもありませんわ、リカ。」

 

そんな辺鄙な基地で真昼間から裸同然の姿で日焼けをしているウィッチが、ロマーニャ軍の中で最も権威と発言力を持つフェデリカ・N・ドッリオ少佐だと、初めて見る誰もが思わないであろう。

ロマーニャ、いや欧州における交易の要であるマルタ、そこでの激しい第二次防衛戦で華々しい活躍とともに守り切った彼女は代償に重傷を負い。

その結果一線を退いた今、こんな僻地の基地―――否、もはや彼女の別荘で一人優雅に療養生活を送っていた。

だが未だその人望は厚く根広く、その清濁併せのむ大らかな性格はウィッチ兵士問わずかなりの人気を集め、ロマーニャ公爵とさえパイプを持っているウィッチなのだ。

だから後に504統合戦闘航空団を率いる事となるのも必然といえる事だった。

 

「ふーん?じゃあなになに、またロマーニャの新型を解析したいから2個ほど融通してくれって話?それとも…」

 

そしてそんな彼女の目の前に現れたリベリオン欧州派遣隊のウィッチ、リリー・グラマン中佐は。

その彼女の併せのむ清濁の内、濁の部分の9割程を占める、それはもう濁りに濁ったもはや泥水のような存在―――少なくともドッリオ自身はそう心の中で密かに考えていた。

まあ、軍ではそういう部分も避けては通れないため、ある意味では助かっているともいえるが…。

 

「まさか扶桑の迷子の子供を自分のモノにしたいから、手を貸してってハナシ?」

「……話が早くて助かります、と、言っておきましょうか。」

 

そしてその考えが間違っていないということは、その返事で証明されてしまった。

 

「ん、ごほん…彼女は扶桑系2世のリベリアンです、孤児だった所をわが社が出資しているウィッチ養成校がその才能を見出して、飛び級で軍に入った素晴らしく優秀な新人ウィッチなのですよ。欧州派遣の際に事故に巻き込まれて記憶の混乱が生じていますが。」

「……で、ホントの所は?」

「今日はいい天気ですねぇ。」

「はぁ…フェル達からちゃんとバッチリ聞いてるわよ、何でも未来予知が使えるちっちゃなウィッチがいるって。

 未来のスーパーエースだーなんて!すごく面白そうよねぇ~気になっちゃうなぁ~調べに行きたくなっちゃうなぁ~」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべなが顎に指をあてて見せると、さしものヘルキャット(性悪女)と噂される彼女も溜息を吐いて眉をひそめて見せた。

 

「…じゃあ今わが社からロマーニャへ支援している統制補給系品目の物資を3倍にします。」

「ん~そそられないわね~。もっと面白いのがいいわ♪」

「なら、この間言っていたターボチャージャーを搭載して高空性能を上げた戦闘脚のプロトを。」

「イマイチ」

「…なら、試作中の試作もいいところですがジェットタイプのストライカーは。」

「それもイイんだけどね~もっと刺激的なのがいいわねぇ♪た、と、え、ばぁ♪」

 

ちらりと彼女の方に目をやり、今日はいないもののいつも御付きのように傍に付き従っている二人のウィッチを思い出し――――。

「…アナタの部下の、ジェンタイル大尉とゴッドフリー大尉とk「イヤです。」

驚くほどに厳しい声で、食い気味に強い拒否の言葉が放たれた。

 

「この間のシチリア海上の大規模戦闘で、すっごく良い動きをしてたってウチの子達が言ってたのよ!

ワタシだって噂には聞いてるし、ちょうどウィッチが欲しい事情もあったからね~♪」

「ぜーーーったいイヤです。あのバカップル二人を手に入れるのがどれだけ面倒臭かったと思ってるんですか!?

 本国の連中があの二人をあの手この手で連れ戻そうとするのをどれだけ邪魔したことか!!」

「だったら良いじゃない、今日からアタシがその仕事を代わりにやってあげるって言ってるのよ?

 それにもう公の場でイチャイチャラブラブするのを止めなくてもよくなるのよ?」

「それは魅力的ですが…うーん。」

 

まさか――――欧州においての自分の右腕と左腕ともいえる部下二人を要求されるとは。

あの二人は人目を憚らずキスやハグやそれ以上のコトをすることさえ目をつむれば、これ以上ないほど優秀で扱いやすいウィッチなのだ。

それに政治的なコトにまったく興味がないのも便利で扱いやすい。

銃とストライカーを与え、二人のイチャイチャできる時間と空間さえ提供しておけば満足するのも便利だし。

あの二人には欧州での活動において今までどれだけ助けられてきたことか―――それは彼女も知っているはずなのに。

さすがドッリオ少佐、考える事が大胆で無遠慮にも程がある、如何にもロマーニャ人だ。

まぁこの明るさや、ガリア人のような陰気臭さが無い分、欧州嫌いの自分でも接ししやすいのはありがたいが。

 

「…フランチェスカ・ルッキーニ曹長…じゃない少尉になられたのですね。

 追加であのウィッチを私に下さい。」

 

3分ほど深く目をつぶり思考した結果、彼女の口から出てきたのはその言葉だった。

 

「…ん?確かその子ってフェル達が赤ズボン隊にぜひって頼んできた…なんでまた。あなた問題児でも集めてるわけ?」

「その例の扶桑の子供が懐いてるのですよ、まったく忌々しい…引きはがそうにも面倒ですしね。」

「ふぅん。ん、いいよ、フェル達には悪いけどじゃあルッキーニちゃんも追加で。」

「助かります。…はぁ。」

 

まさかあの二人を手放すことになろうとは、とグラマンは酷く溜息を吐いて嘆いた。

しかしあの幼い魔女にはそれだけの価値があるのだ、仕方のないことだと割り切らねばならない。

それに恐らく彼女の未来予知は今回のことも見通していたのだから。

 

「ジェーンとドミニカの二人は、504に?」

「……驚いた、どうして504を知ってるの?まだ設立は構想段階で将官達の頭の中だけの話のはずなのに。」

「別に。ただの考察ですよ。昨今のロマーニャへ来るネウロイは明らかに異常ですからね。

 それこそ、ここを守護するためだけの特殊な部隊が必要なほどに。」

 

やはりあのお嬢様の言っていた未来の話。

そう、ロマーニャ防衛を任務とする504部隊に、彼女たち二人が参加することになるというのは、どうやら今こうして現実となったのだ。

また一つその有用性と信憑性を確信できたことに、内心彼女はほくそ笑んだ。

 

「…じゃあもしかしてマルタで変な動きがあることも、知ってたりするのかしら」

「んん?マルタが一体どうしたと言うのです?あぁ、もしかして最近の異常なネウロイ達はマルタ方面から来てるかもしれないから、支援部隊の増援をすると言う話ですか?」

「逆なのよ、マルタから部隊を引き揚げさせる話が出てるのよね」

「はぁ?馬鹿を言わないでください、どうしてそんな。」

 

そう、そんな馬鹿な話はない。

ロマーニャ南端に位置するマルタ島は、面積こそ小さいもののそれはもうロマーニャどころか欧州全体の航路の要と言っていい。

もしそこが失われれば欧州の航路の大半が失われる上、更にはアフリカへの物資の供給が完全に停止してしまう。

そうなれば今、アフリカで奮戦してる数多の陸上部隊やウィッチ達はたちまちネウロイに駆逐されてしまうだろう。

だからネウロイ達も過去何度も大規模な襲撃をしかけ、彼女、ドッリオはウィッチとしての命を懸けてまでその防衛の任務を果たしたのだ。

そんな要所中の要所と言っていい場所から、どうして部隊を減らすなんて真似を。

 

「…ブリタニアが『()()()()()()()()()()()()()()』って言ってきてね。今駐屯してる部隊は異常発生してるネウロイから本国ロマーニャを守られたし、なんてね。」

「はあぁ!?目と鼻の先までネウロイが来てるブリタニアにそんな戦力ある訳ないでしょう!?ただでさえウィッチの数がいなくて各国に頭を下げてかき集めてるザマなのに!」

「そう、その筈なのよねぇ…あなたほどじゃないけど、どうにも胡散臭すぎるわ。ガリアみたいな裏政治のニオイがね。」

「はぁ…ホントに、これだから脳みそにカビの生えた古臭い欧州人共はッッ…!!!」

 

怒りのままに地面をドスリ、と蹴りつける。

その表情はかつてないほど憎しみと怒りに打ち振るえ、欧州の人間達への憎悪に満ちていた。

 

「マルタをッッ!!あんな要所さえも政治駆け引きの場にしようと言うのですかッッ!?こうも馬鹿ばかりなら欧州など滅んでしまえばいい!!オラーシャやスオムスと言い、ネウロイを前にして領土の奪い合いをするような愚か者共など!!」

「…アタシから見ればアナタも似たようなモノだけど。」

「馬鹿を言わないで下さい!!私はリベリオンのことを考えこそすれ、他国の足を引っ張るような見苦しいマネはしませんッッ!!」

「あー、ごめんごめんってぇ…で、この件ちょっと調べてほしいんだけど、頼んでいいかな?()()()()()()()()()()()()として。」

 

ふぅ、ふぅ、と荒げた息を落ち着かせ、彼女のその願いに耳を傾ける。

取引の話なしでこういった話をしてくるのは珍しいが、自身が命を懸けてまで守ったマルタのこととなると流石に黙っている訳にもいかないのだろう。

 

「…ええ。504の設立がある以上あなたは派手に動けないでしょう。承りましたわ。」

「お願いね、リリー。私達が命をかけて守ったマルタを、くだらない政治工作で失うなんて面白くないもの。」

「まったく…!!これだから欧州は!!やはりこれからの世界を担うのはリベリオンしか考えられませんね。…では。」

 

 

 

身をひるがえし、早速基地に戻りこれからの段取りを考えようと思考を巡らせると―――。

 

「あ、そうだ、最後にリリー。」

「うん?なんです。リカ。」

 

その背中に旧友からかけられた声に、足を止める。

 

 

「…もし幼い命を粗末にするような真似をしたら、アナタでも許さないわよ。」

 

その声にしばらく立ち止まり、無表情でちらりとドッリオに振り向いたものの、彼女は返事をすることは最後までなかった。

 

 




リリー中佐は自社のストライカーのデータ収集や宣伝のため、大体の欧州での大規模作戦には参加していました。
第二次マルタ防衛戦(ペデスタル作戦)にも参加し、そこで後の504アルダーウィッチーズの面々とも面識があります。


・マルタ島
ロマーニャのシチリア島の真下に位置する小さな島。
地中海輸送の要であり、何度もネウロイの襲撃に見舞われている。
第二次マルタ防衛戦では、ブリタニア海軍サイフリート中将率いるマルタ支援部隊が出撃。リベリオン海軍と扶桑海軍の助けを得て、ロマーニャのウィッチ達と共にマルタを守り抜いた。


↓評価頂けると励みになるんダナ(・×・)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。