好感度数値が見えるようになった。よく話す彼女達は〝13〟だった。泣きたい。 作:鹿里マリョウ
学校を早退して診療所へ向かう。最近お世話になっている所だ。こぢんまりとしていて相変わらず受診者はいない。
︎︎︎︎ ︎︎若いお姉さんの先生との問診の後、謎の機械で検査をすることになった。何故そんな高性能マシンがあるのかとも思ったが、そういえば設備だけは良かったことを思い出す。
︎︎数十分の検査。結果は、全くもっての異常なし、と淡白な口調で先生に告げられた。ひとまず、僕の頭がおかしくなった訳では無いらしい。だいぶほっとしながら家に帰った。
︎︎ちなみにお姉さん先生の好感度は無かった。つまり、無関心。普通に泣きそうだった・・・・・・。
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︎︎家、ソファに沈んでため息を吐く。頭を巡るのはやはり好感度のこと。一度冷静になると、どっしりと悲しみがのしかかる。皆僕のことが嫌いだった。
︎︎僕が何をしたのか。いや、何もしなかったから嫌われたのだろう。話しかけられても返せない。行事でもうまく協力できない。
︎︎だが急にコミュ障を脱するなど無理だ。くそう。
曇った心を少しでも紛らわす為に冷蔵庫からコーラをとる。
喉に流し込むと、炭酸の爽快感が陰鬱な思考を少しだけ払ってくれた。
だらけた頭で、人と仲良くなる方法に思考をめぐらせているその時、玄関から鍵を開ける音が響いた。
時計を見る。時刻は十二時。学校では4限目に差し掛かっている頃だろう。
おかしい、この家は僕と秋葉の二人暮し。家の鍵をあけられるものは、僕の他には秋葉しかいないはずである。
足音が近づいてくる。テンポが速い。急いでいるのか。
・・・・・・案の定、現れたのはとんでもない剣呑を纏った秋葉であった。
「お、おかえり、秋葉」
何故ここにいるのかという混乱と、纏う冷気への恐怖、そしてサボりがバレた気まずさから、変にどもった声になった。
「兄さん、早退したと聞きましたが?」
僕の言葉など無視し詰め寄ってくる秋葉。相変わらず〝15〟の数字。
「理由を説明して下さい」
「・・・・・・体調が、悪くてさ」
「へえ、体調が悪い人がコーラなんて飲むんですね」
秋葉が一歩進む。僕が一歩下がる。それを繰り返す。
「いや、目がちょっと変だったんだ」
「どんな風に?」
とん、と背中に硬い感触。壁だ。完全に追い詰められてしまった。
「えっと、そのだな・・・・・・」
言えない。他人の好感度が見えるようになったなんて言えない。そんなこと言おうものなら、変人認定からの好感度ダウンのコンボが決まる。
口をモゴモゴさせることしかできずにいたその時、顔の真横で爆音が響いた。
「ッ!!?」
突然の事で声も出なかったが、心臓はめっちゃ縮んだ。
僕の顔の前には、怒気を滲ませた絶対零度の視線。横には、壁を凹ませんばかりに打ち付けられた手のひら。
そう、壁ドンだった。いや、壁ドン超えて壁ドギャンだった。
「兄さん、今日起こったことを、詳細に、正確に、入念に教えてください」
ゆっくりはっきりと、脳に刷り込むように秋葉は語る。
「誰と喋ったか、誰と触れ合ったか、誰と視線を交わしたか、そして何故早退したか、早退した後は何をしたかまで、全部言ってください」
出た、秋葉の身の程チェック。この妹は、定期的にこうして僕の学校での行動を尋ねてくる。誰かに不快な思いをさせたり、見苦しい行動をしたりしていないか確認するためだ。
「どうして黙っているんですか?何か私に言えない────は?」
急に秋葉の動きが止まる。どうしたんだ?
暫くそのまま固まってると、次は眉をひそめ始めた。隠そうともせず顔いっぱいに不快感を広げる。
「あ、秋葉?どうかしたか?」
「・・・・・・兄さん、臭いです」
「・・・・・・ゑ?」
「早急にお風呂に入ってきてください。兄さんを問い詰めるのはその後にします」
「ゑ?」
壁ドギャンッが解除される。風呂に行けということらしい。
「しっかりと、隅々まで洗うんですよ?」
「ゑ?」
純粋にショック。ただただショック。
幽鬼のように覚束無い足取りで風呂場へと向かう。
頭が真っ白なまま服を脱ぎ、
温水のシャワーを浴びてようやく、僕は我を取り戻した。
・・・・・・これか?僕が嫌われてる理由は。
確かに夏海も、僕の匂いがどうとか言っていた。
シャワーの水が、何故か少しだけしょっぱい。
そうか、僕は臭いのか。だから嫌われているのか。
「・・・・・・う、うぅ、うわぁああああああああ!!」
この後滅茶苦茶体洗った。
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「皮膚がいたい」
赤く染まった体が外気に触れるだけで痺れを告げる。
バスタオルは特に激痛だ。
「あれ、服だ」
籠の中に丁寧に畳まれた僕の部屋着が置かれていた。
秋葉が用意してくれたのだろうか。
嫌いな僕に対してもこういう優しさを見せてくれる。なんていい子なんだ。こういうところが好かれる人と嫌われる人の違いなのだろう。
染み渡る優しさを噛み締めながら服を着る。擦れる布が肌を嬲るが、それも気にならない。・・・・・・なんかいい匂いもする。最高だ。
少しだけ晴れた心でリビングへ戻る。
・・・・・・ん?というかなんで秋葉は僕の部屋着を持ってるんだ?
一瞬過った疑問。しかし、そんなものは次に目に入ってきた光景に吹き飛ばされた。
〝17〟
リビングに佇む秋葉の数字が、二つも上がっていたのである。
「な、なんで上がってるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・何を意味不明なことを言ってるんですか兄さん。いいから聞いてください」
???好感度は確かに上がっている。しかしそれに反比例するかのように、秋葉の口端はいつも以上に固く下がっていた。
ああ、そうか、僕の臭いが落ちたからちょっと好印象なのか。・・・・・・じゃあ口角が下がってる理由はなんなんだ。分からん。
「──はぁぁ。・・・・・・前々から言っている通り、兄さんの学校内での行動は私の評価にも関わってくるんです。変に目立つ行動は控えて下さい」
やけに長い溜息の後、秋葉は僕への不満を吐き出した。口だけでなく目線でもありありと軽蔑の意を示してくる。僕は何故好感度が上がったのかの言及もできずに縮こまるしかなかった。
「家では素でいいですから。兄さんのそのみっともない姿を見るのは私一人で十分でしょう」
自己犠牲の精神を実兄に対して使ってくる妹。つらい。
「まあ、努力はするよ」
そっと秋葉から目を背ける。今日の学校では軽く目立ってしまった自覚はある。そう、広角さんの様子がおかしくなったときだ。皆の好感度は下がっていたし、僕の評判はますます悪くなった。──もしかしてそれこそが広角さんの狙いだったのか?僕を更なる嫌われ者にする為の作戦?
悲しみと説教のダブルパンチでだいぶ心が抉られてきたので、逃げるように自室に戻る。ここで居座ると、秋葉の説教は延々として止まらなくなるのだ。
「──兄さん」
が、その途中で呼び止められてしまった。
「まだ何か?」
「ええ、一つだけ」
秋葉が呼び止めてまで聞きたいこと、思い浮かばない。
「今日、辺和夏海と会いましたか?」
・・・・・・やばい。
「兄さん、何度言えば分かるんですか。あの女とは金輪際関わらないでください」
僕の妹矢羽猪秋葉は、ものっすごく辺和夏海を毛嫌いしている。優等生と不良という対極に位置する二人は、まさに犬猿の仲と言って然るべきだ。
「ど、努力はするよ。ハハハ・・・・・・」
僕だって近づきたくないのが本音。好感度〝15〟の不良だ。怖すぎる。しかし、夏海は僕がどこにいても嫌がらせのように現れるのだ。
前の修学旅行にまで現れた事件はとても怖かった。不良のフットワークの軽さは異次元らしい。
結局、僕は曖昧な笑みを浮かべることしかできず、足早にリビングから退散した。
・・・・・・あ、なんでこんな早く帰ってきたのか聞きそびれた。
♡はアリなのかナシなのか問題
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モハメド・アリ
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アリだけど多すぎるのはナシ
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どっちでも
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モハメド・ナシ