「どちら様ですかね……?」「私は、私」「いや、だからどちら様なんですかって言ってるんですけども!」
そんな感じのコメディーファンタジー。
「………………うまい棒以外の選択肢、ねえよなあ」
空腹を感じてコンビニに勇み足で飛び込んだは良いものの、嫌な予感がして財布を確認したら銅色の硬貨一枚とちっぽけな貨幣六枚。下校中の買い食いだとしても、食べ盛りの高校生にはあまりにも不十分すぎる量に
この十円玉をどうするかが現在議題に上っている問題で、成田はその僅かばかりの貨幣でも買えそうな食品を探して必然的に駄菓子コーナーに足を運ぶ。しかしチロルチョコでさえも一つ30円する現代において、成田の持つ資本力はあまりにも多勢に無勢である。この六枚もある一円玉が全て十円玉だったならガリガリ君を買えたのに、と成田は肩を落としながら駄菓子の値段とにらめっこする。その真剣さを語るに、小学生にでも見られたら指を指して馬鹿にされそうなくらい表情がガチだった。
まあこれしかないよな、と5分ほどゆっくり時間を使うとタコ焼き味のうまい棒を手に取った。因みにこのタコ焼き味、うまい棒の中で最もカロリーが高かったりする。選んだのも偶然ではなくて、他の味より腹が膨れたなら良いなぁ、なんていうささやかな願望からだった。
奇特な視線を受けつつなけなしの十円玉で会計を済ませると成田はうまい棒片手に店外へと出る。
コンビニの屋根の下でビリっと一思いに破るとタコ焼き味のチープな香りが成田の顔面に直撃した。それと同時にうまい棒の包装の裏に赤文字で何やら大きく書かれていることに気付く。
(……ん? 当たり……ってなんだ?)
幾ら駄菓子っぽいと言ってもうまい棒に当たりなんてないよな、と分析しようとしたところで成田の意識は暗転した。
これが、成田仁───来世ではナリタ・ユグニールとなって異世界に転生する前の最後の現代日本での記憶である。
─── ─── ───
異世界転生と言えば、やっぱりド定番はチートハーレム下剋上である。少なくともネット小説でアニメ化された物の多くはそんな感じだったし、ナリタも最初はほーんと見ていたが途中からまたか……と辟易しながら見ていたから間違いない。時代の潮流は何時だって俺tueeeeee!なのだ。
だが現実とラノベは違うらしかった。
ナリタは特に神に会うことも無く、これといったチートを授かることもなく、片田舎の平凡な農家に生まれた。長男坊だった。
幸いにもナリタの生まれた村は貧乏ながら安定して作物が取れる土地があるので飢えることはなく、また前世みたいに異常な自然災害に見舞われることもなかった。
好条件も揃って、何事もなくナリタは農夫見習いとしてすくすくと育って15歳になっていた。前世と合計すれば31歳。精神的にもまだまだと思っているが、それが前世の父親が言っていたことと同じことを考えているとは本人はてんで思っていない。
とにかく、ナリタの転生してからの15年はこの上なく平和で順風満帆な人生だった。一時期はホームシックにもなったし彼女はいないが、同年齢に信頼できる友達はいて村の年長者たちも中々に気が良い。閉鎖的で外の情報が入って来なかったり、インフラが整っていないのはご愛敬である。前世から早期退職して田舎でスローライフを送りたいと考えていた成田にとってはかなり充実した毎日の連続なのだ。既にこの村で人生を完結されるプランニングすら立てている。
「ナリタ、この窓もやっておいてくれ。俺は近所に知らせてくる」
「あー分かった、親父」
しかしこの日は事情が違った。
天気予報なんて便利なものが存在しないこの世界では雲の形状を見て数時間後の天気を予測するしかない。ナリタの父、オーバンは農作中に見上げた空を元にこれから嵐が来ると予測したのだ。そのためにナリタもクソ面倒ながら実家の補修工事を手伝っていた。
木材の破片を使って窓を補強して、それから一息ついて家の周囲に飛んだら危険なものが無いか確認していると通りから見知った影が視界の隅に入ってきた。
「どうしたのそんな慌てて」
「ああ、セナか。親父が今夜は荒れるかもっつって俺に家の補修押し付けてきたんだよ」
「へー、荒れるんだ……」
セナ・ネリオス。人口は50人強ほどしかいない村で唯一ナリタと同年齢で友人だ。ミルクコーヒーみたいな茶色の髪に、紫色の瞳。農夫というよりは貴公子に見える端正な顔付き。初めて出会ったときは何処かの没落貴族なんじゃないかと本気で勘違いしたが、今では立派に肩を並べて作物を育てる無二の親友である。
セナの手には鍬が握られており、先程まで農作業をしていたのだろう。鍬の先には土がこべりついてる。
ナリタはその土汚れを確認して頷く。
「そうらしいぞ、ま、アテになるかどうかは分からんけど」
「ええ……親父さんなら信じてあげなよ」
「だって空模様なんかじゃ正確には分からんだろ。うろこ雲とかなみなみ雲とかならまだしも俺からすればただの曇りにしか見えない。気象衛星とかレーダーもねえんだからさ」
「きしょー……なんだって?」
前世ならば天気なんて宇宙から見た雲の動きに加えて、観測した風速とか大気中の雨粒の位置とか密度とかの情報を解析して天気予報士が「明日は朝のうちは晴れていますが次第に曇って行き、午後には平野全体で大粒の雨が降ります。念のため折り畳み傘を持って行くといいでしょう」とか予報していたわけだが、当然文明的に遅れているこの世界ではそんな技術も無いので天気は専ら年長者の経験則と山勘で予想される。そんなもんがどのくらい頼りになるかと言えばナリタ的に割と疑問だった。少なくとも15年間暮らしてきた中でオーバンが予想的中させたことは十中八九どころか十中二三くらいしかないんじゃないか、とナリタは「まあ外れる日だってあるだろ! 今日は良い快晴無風日和だなガハハ」と脳内で悪びれもなく笑っている父親を殴り飛ばす。
「気にすんな。それよかセナも一応準備しておいた方がいいぜ、あんなんでも二割くらいは当たるんだから」
「そうだね、留意しとく。まあ今から僕も家の補強をするよ。対策をしておいて損はないからね」
「そうそう、何事も安全第一。石橋は叩いて渡れってな」
「ナリタっていまいち良く分からないこと言うよなぁ」
首を傾げつつもそれじゃあねとセナはナリタの家を通り過ぎて去って行く。その姿を見て再びナリタは嵐対策の準備を進めることにした。
特に手こずることもなく終わらせたその夜、オーバンの予想は大いに当たった。珍しい二三を引いたらしい。
扉を暴風によって硬いもので叩きつけるような轟音を轟かせ、地を抉っているのかと思うほど激しい雨音。おまけにゴロゴロと雷鳴が響き、ユグニール家で一番年下のエリーが小さく悲鳴を上げて、オーバンはその頭を撫でて宥める。
現代日本ならばパソコンの電源を切ったりコンセントを抜いたりと色々やることがある訳だが、当然この世界には電子機器など存在しない。仮に存在していてもそれは魔法を使ったもので、前世の最先端技術とは全く別の構造だろう。
やることもないので、気負うことなくナリタは自然の猛威が奏でる雑音を無視して自室のベッドで横になった。
そして翌日。
「ナリターこれなにー?」
「ん……勝手に入ってくんなよエリー、まだ太陽も欠片しか上ってないじゃねえか」
目を擦りながらナリタはエリーに揺すり起こされた。嵐は夜中の内に過ぎ去ったようで、開け放たれた窓からは早朝の薄い光が差し込む。
穏やかな安眠を妨害されたナリタは若干不機嫌になりながらも上半身を起こすとエリーが部屋の端を指差した。
「この剣、どうしたの?」
「剣…………?」
全く思考が働かないままナリタはエリーの指が向けれられた場所へと視線を動かす。
そこにあったのは確かに剣だった。全く見覚えの無い西洋剣が立てかけられている。
しかも割と立派な西洋剣だ。前世と今世を通じて荒事の経験も無く、刀剣趣味も無く、剣士でもないただの農夫であるナリタにもその剣が普通の物ではないことが分かる。剥き出しの両刃は透き通るような銀色を鈍く輝かせ、柄には控えめながら装飾が為されている。
「もしかして盗んだ? ダメなんだからね、盗みなんて」
「盗んでねえ! ……けどこんなの知らないぞ。いつから置かれてたんだ?」
「さあ?」
ナリタはその剣に見覚えが無い。多分だが、この村に元からあったものではないのだろう。基本的に村人は貧しい上に一番余裕のある村長でもこんな高価そうな剣を持っているかと言うと首を傾げざるを得ない。持っていて精々、近場に現れる魔物を追っ払う用の安い剣くらいだ。
でも誰がこんな剣を態々、暴風雨の最中に部屋の中へ運びこんだんだ?
ナリタが考えているとエリーが立ち上がって剣へと近寄る。
「でも凄いねーなんか騎士様のものって感じで憧れるなー」
「あ、おい! 危ないから触ろうとするなよ!」
「大丈夫だよー少し先っちょ触るだ」
言葉が最後まで紡がれることは無かった。
エリーが物珍しさから人差し指でちょんと刀身を触った瞬間、唐突に力が抜け落ちたかのようにエリーの身体が崩れる。四肢から正気が抜けたように、小さな身体がバタンと床へ倒れ伏す。
……どういうことだ。いや、それよりも今はエリーだ!
「…………意識を失ってるだけ、か」
ナリタは弾かれたようにエリーの元へと駆け付け、息をしていることから何とか肩の荷を下ろす。
瞳孔は開いてないし、呼吸も正しい。心拍数も正常。どうやら場所も選ばずスヤスヤと眠ってしまったらしい。万事問題は無さそうだ……目の前の剣を除いて。
エリーを自分のベッドに運んで、それから触れずに西洋剣を観察してみる。
この異世界では剣を持つこと自体は珍しい事ではない。とんがりハットのロリっ子魔法使いとか清純派王女とかくっころ女騎士とか、異世界ファンタジー定番キャラクターと一度も面識を持ったことが無いせいで実感はなくとも確かにここは異世界ファンタジーの世界なのだ。だから魔物なんて危険な生物もあちらこちらに生息しており、生き残るためにナリタの村でも自警団を結成されている。そこに所属している村人なら全員剣なり槍なりが村長から配給されているから物珍しい物でもない。
だが、やはりこの剣は変だ。
この西洋剣は夜の内に忽然と部屋に出現して、見てみれば明らかに上物で、エリーが触れた瞬間にエリーの意識を奪った。疑う余地無しに役満レベルの曰く付きだと前世でライトノベル読者だったナリタは思う。こんな何があるのか分からない呪いの剣、本音を言ってしまえば関わりたくないがそのまま放っておいても気持ちが悪い。この世界はファンタジーで、ナリタは見たことが無いが魔法だって存在する。この西洋剣がどんな影響を及ぼすのかも不明、しかもどうぞ使ってくださいとばかりにナリタの部屋に鎮座している。
仮に、贈り物だとしたら差出人は相当高貴な身分の人間からだろう。小夜嵐の中で不法侵入してまで配送する理由も、その相手がただの農民であるナリタである理由も、一切分からないがこの西洋剣の価値だけは明々白々としている。
(……嫌がらせか? でも身に覚えがないしなぁ、貴族にも知り合いなんていねえし)
ロクな情報も持ち得ない以上推測は無理と断じて、よいしょと立ち上がる。外に干していた雑巾を持って再び自室へと戻る。
要は直接触らなければ良いのだ。ナリタはホコリまみれのばっちい物を持つみたいに、雑巾で右手をガードするつもりである。そのまま適当に納屋かどっかに放置すれば完璧だ。
「よ、よし、触るぞ……触るから大人しくしてろよな……」
とんでもなくビビりつつ女々しくを雑巾を装備して手を伸ばす。妹が触って卒倒したのを見ているから無理もないかもしれないが、傍から見れば家に湧き出たゴキブリを処理しているような苦々しい顔である。
薄く黒く使い古された雑巾を纏った右手はゆっくりと西洋剣へと近づき、ピタリと銀色の刀身に張り付いた。
───なんだ。何も無かったじゃないか。ビビらせやがって。
そう思ったナリタが頬を緩めてこの剣どうしてやろうかと考えた刹那、室内を覆い隠す光の泡が溢れ出した。
「なんだよこれ!?」
強盗か何かに襲われたのかと思ったが、違う。
西洋剣を中心に光が発散して、視界を白く染め上げていた。
数秒経って魔法の可能性を思い立ったが、多分それも違う。触っただけで勝手に発動する魔法を剣に組み込む意味が分からない。それ以前に魔法を組み込む為には複雑な機構を必要とする。細やかな部品が要求されるため、魔法を組み込むと構造的に脆くなるのだ。つまり激しい打ち合いが予想される西洋剣に魔法を仕込んだところで直ぐに剣自体が破壊されるのがオチである。
最初はテンパって辺りをせわしなく左見右見と繰り返していたが、段々慣れてきて眩しさから瞼を閉じて「まだ収まんねえのか、なげえなぁこの仕掛け」とか愚痴る余裕すら出てきたナリタ。
30秒くらいしただろうか、漸く瞼の裏からでも光が収まったを理解して目を開いてみれば。
少女がいた。理解不能。思考停止。
一旦思考回路をリセット。視界情報を整理する為に一回瞬きをしてみる。
目に映るのは人形みたいに精巧な顔立ちの幼い少女。銀色の髪が長くて腰まで掛かっている。服はゴスロリっぽいがそういう趣味なのだろうか、少なくともこの世界でもメジャーな服装ではない。見た目はエリーより年下だなぁ、とか色々考えて虚空を見る。そろそろ太陽が眩しくなってきた、朝飯の準備しねえとなぁ。現実逃避終わり。
「あのーつかぬ事をお聞きしちゃったりするのですが、どちら様ですかね……?」
見た目こそ可憐だが出所不明のヤバい剣だ。
未だショックが抜けきらないナリタが選んだのは、間違っても気分を害さないように下手から少女に接して機嫌を取ることだった。
ジッと。
その少女は一切表情を変えずに佇んでいた。その様子は言葉を理解しているのか怪しい。立っているだけなら超一流の芸術家が作り上げた人形にすら見えた。
光を吸い込んでルビーみたいに煌めいている赤色の瞳がナリタを突き刺す。
「私は、私」
「いや、だからどちら様なんですかと言ってるんですけども!」
「……?」
カップラーメンなら完全に伸び切ってしまうくらいたっぷりと時間を溜めて、未確認少女が最初に放った言葉はそんな毛ほども自己紹介にならないものだった。堪らずナリタは追及してみるがパターングリーン。敵組織に捕らえられてしまったスパイとしてなら合格点かもしれないが今その能力を遺憾なく発揮されても困る。非常に困る。
「ええと、ああもう、何から聞けば分かんねえ!」
ホントマジで何なんだよこの状況! とガシガシ髪の毛を掻きながらナリタは吠えた。苛立ちとパニックが半々になって言動が若干変になっているナリタを見ても目の前の少女は首を傾げる事ことすらせず、野原で羽ばたく綺麗な綺麗なウスバカゲロウを見ているみたいに純粋無垢な視線を向け続ける。
すると、何かに気付いたかのようにその少女は懐から紙を取り出して、ナリタは目を丸くする。紙というのは割と貴重な代物だ。この世界で広く流通する羊皮紙は加工が手間で、羊一頭からおおよそ六枚程度しか取れない。だから前世みたいに授業の間に落書きして終わったらダストシュート、なんて使い方はできないのだが。
そんな紙をぞんざいに幾つも皺を付けて仕舞いこんでいた少女にナリタは警戒度を一段上げる。
「これを読んで欲しいのか?」
少女は相変わらず何も言わない。肯定も否定もしないが、気持ち僅かにだが早く受け取れと言ってる気がする。
視線を手元に持って行くとそのA4サイズの紙の表面には何かが書かれていた。恐る恐るナリタは少女から紙を受け取って、すぐにその表情は驚愕へと変化する。
【聖剣試供品 取扱説明書】
日本語……んで取扱説明書?
この国の標準語はノースル語と呼ばれる西洋系の言語にも良く似たものだ。日本語なんて転生して以降一度も見たこともなければ、使ったこともない。つまりこれを書いた人間は日本人か、少なくとも地球人なのは間違いない。
そして一番目を惹くのは聖剣という部分。しかも何でか試供品。送り主は聖剣のことを化粧品か何かと勘違いしているのかと問い詰めたくなったが、取り敢えず文章を読んでみる。
【この文章を読んでいる時点で聖剣が肉体顕示に成功しているため、転生者の方々の目の前には幼い子供がいるかと思われます。
しかしその実態は子供ではなく聖剣となっています。現在の聖剣には意思が宿っており、それが表面化しているのがその姿になります。
聖剣は各々性格が異なるため一概に言えませんが、基本的には聖剣の姿ではストレスが溜まるために肉体顕示した状態を好みます。また聖剣には必ず能力が1つ存在します。これは実際に各々で確認してください。
最後に重要なことをお伝えいたします。現在の聖剣は完成形ではなく、言うなれば欠片の状態となっております。聖剣を完成させるには他の聖剣を取り込む必要性があります。必須ではありませんが聖剣を完成させるために是非他の聖剣を取り込んでください】
ピラリと紙を弾いて、それからナリタの思考が止まる。お世辞にもナリタの頭脳はそこまで良くはない。前世の得意科目は現代文で、最高得点は62点。その他の科目は赤点スレスレであり、自他共に認める普通科高校の劣等生、それがナリタ・ユグニールの前世の評価である。
理解を超えた情報の連続にナリタの脳味噌はシャットダウン寸前。更に追撃をかけるように少女はもう一枚紙を取り出した。
まだこれ以上あるらしい。これだけでも何がどうなってるのか分かってないのに。
最早「これから君たちには殺し合いをしてもらいます」とか言われても動じない精神状態になったナリタは無思考で受け取って、機械的に目を走らせる。
【転生者諸君、聖剣戦争の説明を始める。
早速だが諸君らが転生した世界には邪神と呼ばれる存在がいる。現在は先代勇者の手によって封印されているが、それも後30年もすれば解けるだろう。しかし時間稼ぎとしては十分だった。こうして聖剣戦争を始める下地が遂に整ったのだ。
聖剣戦争には二つの目的がある。
一つ目に聖剣を完全なものとすること。諸君は既に聖剣の手によって渡された説明書を読んでいるだろう。あれにも書かせた通り、諸君が持つ未完成の聖剣は他の未完成の聖剣を吸収して強化する性質を持つ。それを以って聖剣を完全体にしてもらう。
もう一つの目的は最強の
そして最後の聖剣使いとなった者には邪神を討ってもらいたい。タダ働きさせるつもりはない。邪神を討った暁には何でも願いを一つ叶えることにしよう。ふむ。これでやる気は出るだろうか。出たなら幸いだ。
聖剣使い同士が近づけば聖剣が自ずとその存在に気付くだろう、その機能を活用して邪神討伐に貢献してくれ。邪神誕生した4052年前は勇者が封印するまでに世界の89%が凍土となってしまった。少しでも世界に愛着があるのなら、前向きに聖剣戦争に参加することを勧める。以上】
───なんのこっちゃあ分からん。
感情を押し殺して読んだナリタは文頭から文末まで更に4回繰り返して読んだ。それくらい読んで初めて思考回路にこの文章について思案する隙間が出来る。
一枚目と二枚目の書き手は恐らく違う。一枚目は終止敬語で書かれているが二枚目は何処か上から目線な物言いで書かれている。ただ二枚目の書き手は一枚目の聖剣取扱説明書とやらに言及していることから、どうにもこの二人は同じ所属かグループか何かなのだろう。
一枚目の内容に関してはあまり考察する要素は無い気がするので、ナリタは二枚目の聖剣戦争とかいう如何にもヤバ気な単語を凝視する。
(冗談だったのに本当にバトルロワイアルみたいなもんに巻き込まれちまったみたいだな……俺のスローライフは何処に……)
ザメザメと泣きそうになりながらも、脳裏には常に氷柱を立てる。どんな時にでも冷徹に、だ。
ナリタは依然と立ち尽くして此方へと視線を投げる少女の姿をチラリと一瞥する。
全く見えないが、どうにもこの無口で幼気な少女が邪神を倒すために必要な聖剣らしい。確かにナリタが爪先で触れるまではこの少女がいたところに西洋剣が立てかけられていた。つまり、そういう事なのだと思う。ファンタジー的なアレだ。武器が擬人化するタイプのとんでも魔法技術が使われているんだろう。少女になる前に光ったのもまあ、魔法少女が変身したと思えば納得できなくもない。
かなりいい加減に己を納得させてから、今度は願いを叶えてやろうという神様みたいな事を言い出している文言を見つめる。
正直に言えば、ナリタは神の存在を信じている。正確にはバリバリの普通な男子高校生だった頃は無宗教で通していたが、この転生を通して「もしいても驚かねーなハハハ」と無表情で言える程度には精神的にタフになったと言える。実際ナリタはうまい棒で当たりを引いたからとかいう小学生の黒歴史小説でももうちょっと頭を捻った設定を考えそうな切欠によってこの村に転生してしまっているので、神様仏様くらい存在しても何もおかしくはないと感じている。10tトラックに引かれたとかならまだしも駄菓子の存在しない当たりクジで転生してしまっているのだ。ついでに神様がいたとしたら何でコンビニで一つ十円で売られている菓子にそんな大層なもんを仕掛けてしまったのか、納得のいくまで説明を求めたいと考える今日この頃だった。
だからこの紙の差し出し人は神かそれに等しい存在で、邪神を殺したら7つの玉を集めずとも本当に願いを叶えてくれるんだとナリタは思う。
そして締めには邪神。言うに欠いて邪神である。
まあ多分、邪悪なる神と書いて邪神なのだからこの世界に対して身もよだつくらい悪意を持っている存在なのだろう。二枚目の紙にも邪神が封印される4000年前くらいは世界の89%がなんか凍土と化したらしいし、そんなのが30年後に復活するなら何とかしなきゃとおまけ程度の使命感も湧いてくるもの。手紙の主が中二病なら放置で構わないんだけど目の前で西洋剣が擬人化しちゃっているのは見ているからなぁ、と情報過多で食傷気味になりつつナリタは二枚の紙をベッド横にあるキャビネットに置く。
さて、難しい話は後回し。現状を再確認しよう。
気絶して寝ている妹。立ち尽くす俺。その前には見知らぬ知らぬ少女。
───目の前の問題に早急に対処しねえと、俺が幼女誘拐犯にされちまうのでは!?
「な、なあ。えっと、聖剣でいいのか?」
「そう、私」
ぎこちなく聞いてみれば少女はコクリと頷いた。本当に聖剣らしい。何かもう、出来の悪いB級映画みたいな会話になっている。
初めて瞬き以外で少女が動いたのを見て少し安心しつつ、屈んで目線の高さを合わせる。
にしても見た目人間相手に聖剣と声を掛け続けるのはどうなのだろう、と呼び名に困ったナリタは本人に確認を取ることにした。
「名前とかないのか?」
「……名前は無い」
「無かったかー……」
ありがちだよなぁこういうの。
前世で見ていたアニメを思い浮かべたナリタ。この手の展開ならば次は……そう。
「名前、欲しい」
「やっぱりそうなると思ってました本当に……!」
おもちゃ屋で親に強請る子供みたいな甘い声音で小さく口にした少女に、やっぱりなぁと思う。自分が怖いくらいに予想通りだった。今なら未来予知だって感覚的に出来るかもしれない。
ナリタのネーミングセンスは絶望的だ。前世の友人たちからは「中二病の極みだろそれ」「キラキラネームワロタwお前は絶対子供に名前付けんな」「分析完了、ラノベの読み過ぎです先輩」と散々に言われ、反対に
だが、この時は思考が爆発するほど情報を詰め込まれていたせいか、ナリタの悪癖は炸裂しなかった。
(名前……そうだなぁ。今日の天気が晴れだからサニーとか……は流石に安直すぎるかもしれねえし。晴れ……快晴……いや、なら昨日の天気から文字って時雨とか? そういや嵐って深夜の内にいなくなったんだよな)
「そうだな、じゃあサヨなんてどうだ?」
小夜嵐から名前を取ってサヨ。通常時なら
「サヨ……良い」
サヨはポツリと気に入ったように反芻して、先程と同じように頷いた。まんざらでもないようだ。これにはナリタも安心したように息をついて。
その時、モゾッと背後の毛布が動く音がした。
「……あれ、この女の子だれナリタ」
妹が目覚めたのに気付いて、シャツの中に冷や水をぶち込まれたかのようにナリタの顔色が悪くなる。色を失ったナリタにサヨは能面ながらも不思議に思ったのだろう、視線をエリーとナリタへと交互に振った。
件のエリーは目を擦りながら、数秒ジロジロとサヨを凝視する。
「もしかして……誘拐拉致監禁!? ダメだよお兄ちゃん! 幼い女の子にアレコレしたら騎士様に捕まって死罪だよ!? 」
徐々に意識がはっきりしてきたようで目を大きくすると、エリーは大声で言った。その光景はもう十全に予想されていた未来だった。
名誉回復のために負けじとナリタも狼煙を上げた。
「違え! 誘拐も拉致も監禁もしてねえしつかアレコレって何だアレコレって!?」
「ああ……お終いだ……これから私たちはお兄ちゃんのせいで村の外から子供拐いをした一族として村八分に合うんだ……一生「あの子の兄は幼女誘拐と婦女暴行で御用になったんですって、プークスクス」とか言われながら人の目を避けて生きて行かなきゃならないんだ……ぐす」
「え、あの、ちょっと? エリーさん?」
エリーの瞳が怪しく濁り始める。とても13歳が考える青写真じゃない。ちょっと、いや、かなり心配になってきた。
情緒不安定になりかけているエリーを落ち着かせようと思って近づくと、エリーがナリタの腹部をドスンと頭突きしてきた。
「そんな未来になるくらいならお兄ちゃんを殺して私も死ぬ!」
「待て待てウェイト! 冤罪だから! 一家心中にはまだ早い!」
「早く倒れてお兄ちゃん! 倒れないと首が絞められないでしょ!」
「ナチュラル狂気!? いや本当に落ち着けって!」
どうどうと押し問答をしている内になんだなんだと起きてきた家族たちがナリタの部屋へと入ってくる。
そんな騒がしい様子をサヨはぽかーんと見つめていた。
三人称主人公視点の練習とファンタジーの練習を兼ねて書いてます。何か技法とか表現についてあれば手間かと思いますが教えてくださるとありがたいです。
ストックは無いけど書きたい場面まで行かなかったので取り敢えず後一話はあげたいと思う。