第一話 戦国からの稀人
○登場人物紹介
・明智左馬介秀満
イメージCV:金城武さん
鬼武者の登場人物。明智光秀の甥。
鬼の一族から鬼の籠手を授けられ、鬼武者として幻魔と戦い続ける宿命を背負った侍。幻魔王フォーティンブラスを打ち倒し、その後を継いで日本を支配しようとした織田信長をも封印して日本を幻魔の危機から救った。これらの数々の武勇伝から「伝説の赤き鬼武者」として後世に伝わる。
光秀の勧めで異国に旅に出た経験やとある経緯で五百年先の未来であるフランスのパリへ行ったこともあり戦国時代の人間とは思えないほど見識豊か。
※外見は鬼武者3の時から変化がなく鬼の力で若さと全盛期の肉体を維持している。
ちなみに現時点で齢四十九歳
○武器
・打刀明智拵
左馬介の愛刀で直刃の刃文の刀。共にいくつもの戦をこの刀で戦い抜いてきた。鬼の力によって様々な鬼の武器に姿を変える。
日輪刀にも劣らぬ硬度と切れ味を持つ業物。
・鬼の武器
様々な属性の鬼玉を籠手に宿して使用する。
雷の力を宿した雷斬刀、炎の力を宿した炎龍剣、風の力を宿した疾風刀、天の力を宿した天双刃、空の力を宿した空牙刀、地の力を宿した地轟斧、それぞれの形状に変化する。武器によって戦術殻という強力な奥義を放つことができる。
・弓
左馬介が愛用する和弓。
弓の達人でもある左馬介の頼れる武器の一つ。さすがに鬼に対しては効果が薄いが、特殊な矢を射ることで効果を発揮する。
銃が正式装備の大正の時代において弓を実戦で使用する者などまずいない。
○装備
・紅具足
叔父である光秀から受け取った具足。動きやすさを重視して南蛮具足と鎖帷子を応用した作りになっている。幻魔の魂によって強化されており強力な鬼の攻撃にも十分耐えられる防御力を持つ。
・鬼の籠手
鬼の一族から授けられた籠手。幻魔の魂を封じ込める力を持つ他に刀に鬼の力を宿すことができる。同じく鬼の魂も封じ込めることができ左馬介が鬼を倒した場合、魂が出現しそれを封じ込めることで鬼の力を高めることができる。
以前に装備した鬼の籠手は信長を封じ込めた後、比叡山延暦寺に封印したため手放していたが、鬼の一族から新たな鬼の籠手を受け取った。
初期LVが壱の状態。
・阿児(あこ)
イメージCV:南央美さん
鬼武者の登場人物。
鬼の一族に古くから仕える烏天狗の一族。二年前の戦いから幻魔と戦う左馬介の手助けをしている。姿は人間と似ているが身の丈が手の平ほどしかなく、背中には翼が生えている。やや生意気で口が悪いがお茶目で優しい一面も持つ。神通力や時空移動能力に近くの人間同士の意志疎通を可能にするなど様々な能力を持っている。幻魔と鬼にも精通した知識を持ち、頼れる左馬介の相棒。
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◎天正12年(西暦1584年) 日本
時は戦国、数々の群雄が割拠した戦乱の時代。
しかしこの戦乱の時代の陰で"幻魔"と呼ばれる化物の暗躍があったなど人々は知る由もない。幻魔と契約し幻魔王となった織田信長は幻魔を率いて日ノ本を支配せんとしていた。しかし、その野望はある侍によって阻止された。
その侍の名は明智左馬介秀満、元は腕の立つ凄腕の武者だったが、幻魔によって滅ぼされた"鬼の一族"に力を授けられ"鬼武者"となり生涯に渡って幻魔と戦う運命を背負うことになった男だ。
1582年に起こった本能寺の変にて左馬介はついに幻魔王・織田信長の封印に成功し、日ノ本の危機を陰より救ったのだった。信長をある地に封印した左馬介はその後、日ノ本に蔓延る幻魔を残らず滅ぼすために全国を旅して回っていた。
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・信濃
本能寺の変から二年後、信長を封印した左馬介は幻魔を根絶するために世直しの旅に出ていた。幻魔の噂を聞けばその地へ赴き元凶である幻魔を斬る…そんな毎日を過ごしていた。今回も幻魔の仕業らしき事件を聞き付けた左馬介は信濃(長野県)に訪れていた。
「左馬介~!こっちこっち!」
信濃の深い森に囲まれた山道を案内されながら歩いていたのは左馬介だ。そして、そんな彼を手招きしているのは人の手の平ほど大きさで背中に翼を生やした少女だった。
「この辺りか?阿児」
「うん、間違いない。気配を感じるよ」
彼女の名は阿児(あこ)。鬼の一族に仕える烏天狗の少女であり、二年前から幻魔と戦う左馬介の手助けをしているのだ。数多くの不思議な力を持っており彼女には何度も助けられている。今では心強い戦友ような存在だ。
「そろそろだよ。近いかも…」
「ああ」
左馬介は愛刀に手をかけると周囲を警戒する。阿児の言うとおり幻魔の気配は近くまで来ているようだ。刀を抜いた左馬介はいつでも応戦できるように構えを取る。
すると突如、左馬介の足元に光のサークルが発生した。
「なんだ?」
「えっ!?嘘、これって…」
サークルは瞬く間に広がり左馬介を囲むとまるでドームように包み込む。必死にサークルから脱出しようとするが発生する電磁波によって身体が全く動かない。
「まさか…"時のねじれ"か!?」
「そんな!時のねじれ装置は破壊したのに!?どうして…!」
この光は左馬介と阿児にも見覚えがあった。この光は幻魔によって造り出された時を移動する装置であり、信長と幻魔はこの装置を使って今から五百年先の未来の時代も支配しようとしたのだ。しかし、その装置は同じく未来に飛ばされた左馬介によって破壊され開発者であるギルデンスタンもすでにこの世にいないはずだ。
それにも関わらずなぜ"時のねじれ"が発生するのか、二人は驚きを隠せなかった。
「くそっ!阿児!なんとかならないのか!?」
「む、無理だよ!急にそんなこと言われても!」
時のねじれに飲み込まれた二人は強烈な光と共にどこかの時代に飛ばされた。こうして明智左馬介は戦国時代から姿を消した。
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「……」
何も見えない暗黒の空間に一人倒れていたのは先ほど時のねじれに巻き込まれた左馬介だった。側には共に飛ばされた阿児も倒れている。すると暗闇から何者かの声が聞こえてくる。
『左馬介…左馬介…』
「……う、ぐ…ここは」
『久しいな左馬介、こうして汝と話すのは久方ぶりよ』
左馬介の前に紫色の炎が出現し、炎の中から何者かの顔のような物が姿を現した。それを見た左馬介は一瞬驚いたが、すぐに冷静になり落ち着きを取り戻す。
実は左馬介にとってこの異形の人物は過去に出会ったことがある知己であり、それと同時に大きな借りがある人物だったからだ。
『まずは謝罪せねばならぬ、左馬介よ時のねじれを発生させたのは我だ』
「…今度はいったい何の用だ?」
この異形の人物こそ左馬介に鬼の力を授けた鬼の一族だ。彼のおかげで力を得た左馬介は幻魔と対等に戦う術を手に入れ、鬼武者となるきっかけとなったのだ。
『汝を再び呼んだのは故あってのこと…汝の力を借してほしいのだ』
初めて出会った時からそうだがいつも唐突に厄介事を頼んでくる奴だと左馬介は内心悪態を付いた。しかし鬼の力をくれた恩人の頼みであれば無下に断れない。察するに火急の事態であると感じた左馬介は無言で頷いて言葉に耳を傾ける。
『よく聞くのだ、実は二年前の時のねじれの影響で一部の幻魔が異世界に飛ばされたようだ。この幻魔を残らず討ち果たしてほしい』
「何?あの未来の時代とは別の時代に飛ばされた幻魔がいたのか?」
『そうだ、放置しておけばいずれ脅威となるだろう』
「…分かった。手を貸そう。奴らを野放しにはしておけん」
幻魔が関わっているならば見過ごすわけにはいかなかった。野放しにすれば多くの人々が被害に遭うのは明らかだ。
『…すまぬが、もう一つ頼みたいことがある』
「なんだ?」
『これから汝が行く異世界には我らの同胞が存在する。見かけたらこの者たちも討ち果たすのだ』
「同じ鬼の一族ということか?何故だ?」
『確かに我らと同じ鬼の一族ではあるが、奴らは人間を食らう獣…幻魔と同じく人間に害を成す存在だ。同じ同胞と言えども外道の道に堕ちた者共を捨て置けん』
「…分かった。」
『これから汝の行く異世界はこの戦国時代から四百年先の日ノ本…"大正"と呼ばれる時代だ』
「未来の日ノ本か、まだ戦は続いているのか?」
『…残念だが未来の日ノ本がどのような時代なのかは我にも分からん。ただ、この時代に幻魔がいることは間違いない』
つまり左馬介の任務は、この時代に間違って飛ばされた幻魔の残党を残らず始末することと、同じく人間に害を成す凶悪な鬼の討伐が目的だ。此度の戦いも激しく危険な戦いになるが数多の激戦と修羅場を戦い抜いてきた左馬介に恐れはなかった。
『汝がこの時代の幻魔をすべて滅ぼした時、元の時代に戻れるようになっている。なんとしても幻魔を討つのだ』
「分かった。必ず幻魔を討つ」
『餞別にこれを汝に再び授けよう』
すると左馬介の右腕が紫色の炎に包まれる。炎が消えるとその腕には禍々しい形した奇妙な籠手があった。それは"鬼の籠手"という物であり鬼の力が封じられている特殊な装備だ。籠手は有機的に身体に融合しておりこの籠手の恩恵により左馬介は鬼の力を操ることができるのだ。しかし、左馬介の鬼の籠手は幻魔王・織田信長を封じ込めた後、比叡山延暦寺に厳重に封印されていたはずだった。
「これは…鬼の籠手?」
『以前、汝に授けた籠手は信長を封じ込めた後、かの延暦寺に封印したであろう。それは新たな籠手だ。これまで汝が集めた鬼の力もすべて使えよう』
「…感謝する」
『では、これから汝をかの時代に送ろう。準備はよいか?』
「ああ、任せておけ」
『頼んだぞ、左馬介。それと阿児のこともよろしく頼む。あれは汝によく懐いておる。面倒を見てやってくれ』
すると左馬介の足元が光り、それと同時にあの時と同じ光のサークルが発生する。そして強烈な光と共に左馬介と阿児は姿を消していた。
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◎大正4年(西暦1915年) 日本
時は移り、時代は大正時代。
明治天皇の崩御に伴い、新たに即位した大正天皇の就任をきっかけに大正時代が始まった。日本史上もっとも短い時代であったが後の現代に繋がる文化の発達と変化に加え、後に世界大戦へと突入していく世界情勢など激しく動いた激動の時代だ。
そんな時代の中、影で人々を脅かす恐ろしい存在があった。その存在は"鬼"と呼ばれていた。鬼は人喰いの化物であり人間を殺して食べるのが生態だ。さらに常人を遥かに凌駕する超人的な身体能力を持ち、さらに致命傷を与えてもたちどころに治癒する異能な体質も備えていた。これらを殺すには太陽の光を浴びさせるか、"日輪刀"と呼ばれる特殊な鉱物を用いて鍛えられた刀で頸(くび)を斬り落とす以外に方法はない。
しかし鬼の存在は時代の影響もあって誰にも信用されず都市伝説のような形で認知されていた。鬼による被害が出てもそれは"狂人による犯行"や"熊に襲われた"などで片付けられてしまう。
だが、鬼と同様にその鬼を狩ることを目的とした影の組織の存在があった。その組織の名は"鬼殺隊"と呼ばれ古くから鬼を退治することを生業としてきた剣士たちによって結成された組織だ。しかし、鬼殺隊は政府非公認の組織であり、公認の組織では無い以上廃刀令が出されている時代で刀などを持ち歩いていれば問答無用で逮捕されてしまう。鬼との戦闘も常に命と隣り合わせで生存確率も極めて低い、そんな過酷な戦いを鬼殺隊の剣士たちは続けていた。どんなに苦しくどんなに厳しい戦いに身を投じたとしても彼らは歩みを止めない。
災悪を祓う、その時まで…
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・長野県
長野県にある巨大な木にが生え立つ広大な深い密林を走る集団の姿があった。黒を基準にした軍服のようなデザインの服に身に付け、手には刀…すなわち日輪刀が握られていた。人数は六人ほどで全員が深刻な表情で足場の悪い密林の道をただひたすらに駆け続けている。
「そろそろか!?」
「ああ!悲鳴が聞こえたのはこの辺りだ」
鬼殺隊の隊員たちがこれほど動揺しているのには理由があった。彼らは本部からの指令で長野県にあるこの密林の中に鬼の仕業らしき事件が起こっているとの報告を受け数十人の部隊でこの密林の調査を開始したのだ。広大な密林だったことから隊員たちは部隊を二つに分け、手分けして鬼を探し出し、見つけたら合図と共に合流して鬼を討伐する作戦を実行したのだが、それから数時間後にもう一つの部隊との連絡が途絶えてしまったのだ。その直後に密林に響き渡る程の悲鳴を聞いた残りの部隊は大急ぎで声が聞いた場所に急行したのだ。
「他の六人は大丈夫だろうか?」
「ど、どうするんだ…俺たちの部隊は壬の隊長が一人いるだけで残りは癸の隊士しかいないぞ…」
「しかも隊長は別の部隊の方に付いて行ったよな…」
鬼殺隊には階級が存在し、上から甲"きのえ"・乙"きのと"・丙"ひのえ"・丁"ひのと"・戊"つちのえ"・己"つちのと"・庚"かのえ"・辛"かのと"・壬"みずのえ"・癸"みずのと"の十位が存在している。
中でも彼らは階級では最下位の癸の位であり、ほとんどが経験の浅い隊士ばかりだったのだ。だが、いずれの隊員も"最終選別"と呼ばれる生存率が極めて低い試練を通過しているので全くの無経験という訳でもない。
「畜生…せっかく最終選別を生き残ったのに!なんでいきなりこんな事になるんだよ…!」
「落ち着いてください!まだ負けると決まった訳ではありません!」
弱気なる他の隊員たちを励ましていたのは、同じく癸の隊士でありこの部隊の紅一点である女性隊員・伊角静音(いすみしずね)だ。他の隊員と同じ黒い隊服に髪型は毛先が緑色の黒髪のポニーテールに瞳は翠眼で印象的なのは頭に巻かれている緑色の鉢金だ。
「…静かに、近いぞ」
「何処だ…?何処にいやがる…!」
鬼の気配が強くなるにつれて隊士たち緊張が走る。それと遠くから同時にズドンズドンと大きな足音のような音が聞こえてくる。その音は次第に大きくなり、全員が音がする方向に振り向くとそこから木を無理矢理薙ぎ倒して姿を表したのは音の主…鬼だった。
『見~ツケタ!!』
「……」
「…嘘だろ…こんなでかい鬼がいるなんて聞いてねぇよ!!」
隊士たちの前に現れたのは人型の全長二メートルを超す巨体でその両腕は丸太のように太く、長い角に瞳孔のない赤い目、身体には無数の不気味な紋様が刻まれている。身体中と口から垂れる大量の血液が隊士たちの恐怖をさらに強くさせる。
それを見てこの場にいた隊士はすべて悟っていた、もう一つ部隊は残らず全滅してしまったのだと…
「こ、こんな奴…俺たちじゃ手に負えねぇよ!!」
「ひ、ひぃぃ!!!た、助けて…!!」
鬼の姿を見て戦意喪失した一部の隊士が逃亡するが、それを見た鬼は標的をその隊士に定めた。あの巨体から想像がつかないほどの速さで一気に距離を詰める。
『逃~ガ~サナイィ!!』
鬼が右腕を振ると一人の隊士の首が吹き飛んだと思えば、次は側にいたもう一人の隊士を左腕で叩き潰す。その跡にはもはや原型を留めない肉塊が残るのみだった。
最後に一人残った怯える隊士を強引に掴むと口元に運んでくる。
「ぎゃああぁ!!?た、た…たす…」
『オマエ…俺ノチカラ二ナレ』
そう言うと鬼は掴んだ隊士を頭から豪快に喰い千切る。辺りに血を撒き散らしながらバリバリと人間を喰らう。その凄惨な光景の一部始終を見ていた残りの静音たちは言葉も出なかった。
「……殺される」
「だ、駄目だ…震えて動けねぇよ…」
「……」
しかし三人の内、静音だけは恐怖に負けることなく鬼と戦おうと日輪刀を抜き、水の型の構えを取る。彼女の形は水の呼吸であり、日輪刀は青色で鍔の形は木瓜型だ。
「お前は私が斬る!」
「おい!静音!止めろ!殺されるぞ…!」
「絶対に負けるもんか!!ああぁぁ!!」
気合いを入れ、構えたまま鬼に向かって静音は疾走する。そして、鬼に向かって技を繰り出す。
(水の呼吸・壱ノ形、水面斬り!!)
静音は飛び上がって鬼の頸を狙って水の呼吸の奥義を繰り出すが、その攻撃は容易く鬼に防がれてしまう。鬼は攻撃を片腕で凌いだがその腕には僅かに傷が出来たのみだった。
(固い…!そんな…)
『ソンナ攻撃ガ効クカ!間抜ケメ!』
(しまった……!)
滞空して回避できない静音に鬼は豪腕による強烈な一撃を食らわせる。一撃を受けたと同時に身体からボキッと鈍い音が響き、後ろの木に勢いよく叩き付けられる。
「…ぐはっ!!?……あ…ぐ…」
血反吐を吐きその場に倒れる。その強烈な一撃に何本か骨が折れてしまったのか凄まじい激痛が身体を襲う。しかも打ち所が悪かったのか頭から出血し左腕はあり得ない方向に折れ曲がっている。
もはやこの傷ではまともに剣を構えることもできない重傷を負ってしまったのだ。それでも震える身体で必死に立ち上がろとするが思うように身体が動かない。
「…もう駄目だ、逃げよう」
「馬鹿!静音を見捨てるのか!?」
「知るかよ…!俺は逃げる!!」
戦っている静音を囮にして一人の隊士が逃亡しようとする。そんな彼の行動が鬼から見ても気に入らなかったのか負傷した静音から標的を逃げた隊士に切り替える。
『本当ニ醜イナ~!人間ッテノハヨォォ!!』
鬼は凄まじい速度で静音以外の隊士に向かって行く。このままでは全滅する…と最悪の展開が脳裏を過った静音は身体に鞭打って必死に立ち上がろうとしていた。
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・数分前 長野県 密林のとある場所
鬼殺隊の隊士たちが鬼と戦闘を始める少し前の時、現場からやや離れた開けた場所にあの光のサークルが再び発生する。そして強烈な閃光と共にサークルの中から二人の人物が姿を現した。片膝を付いた状態から立ち上がったのは遥か四百年前の戦国時代からやって来た稀人、明智左馬介秀満と相棒の阿児だった。
「着いたみたいだな、ここが四百年後の日ノ本か…」
「う、う~ん…」
「おい、阿児。大丈夫か?」
「びっくりしたぁ、ねぇ左馬介あたい達どうなっちゃたのかなあ?」
そう言えば阿児は気を失っていたせいか、この時代に来た理由をまだ聞いていなかったのだ。左馬介は鬼の一族から聞いた事情とこの時代に来た目的を阿児に説明する。
「そうだったんだ…まだ別の時代に飛ばされた幻魔がいたんだね。それにしても、フランスの次は未来の日ノ本ときたか…あたい達、いったいどこまで行くのかなあ」
「とにかく、この時代に飛ばされた幻魔をすべて倒すのが俺たちの役割だ」
「そうだね、幻魔が関わってるなら仕方ないか。それじゃ、行こ!左馬介」
同じく厄介事に巻き込まれたはずの阿児だが全く気にしている様子はない。彼女にとって好意を抱いている左馬介と共に行動することが今の彼女の生き甲斐だがらだ。
改めて目的を確認した左馬介と阿児は早速、行動を開始する。まずは現在地の状況とちゃんと目的の時代に移動することが出来たのかを調べなくてはならなかった。
「阿児、この時代で間違いはないか?」
「……。うん、間違いないみたい。どうやらここは信濃みたいだよ?戦国時代であたい達が飛ばされた場所と同じ所みたい」
これらの情報がすぐに分かるのも阿児の特別な力の内の一つだ。とにかく今は幻魔の情報を掴むことが先決だと考えた二人はまずこの密林を抜け出すことにしてその場から歩みを進めようとした時だった。
「ぎゃあああああぁぁぁ!!?」
突如、密林の奥から凄まじい悲鳴が聞こえてきた。聞こえた音からそう遠くない場所だとすぐに分かった。
「なんだ?」
「誰かの悲鳴だ、近くだよ!」
左馬介は悲鳴が聞こえた方向に全力で駆け出し、阿児もそれを追いかけていった。
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一方、鬼と交戦していた鬼殺隊士の静音は絶体絶命の窮地に立たされていた。残っていた二人の隊士も鬼によって惨殺され、生き残ったのは静音ただ一人になっていた。すでに重傷でまとも戦う術も残されていないこの状況ではもはや死を待つ以外に選択肢はない。しかし、それでも静音はよろよろと立ち上がり残った右腕で日輪刀を構える。
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
『ホオ~?ソノ傷デマダ立テルノカ』
「…はぁ…はぁ…絶…対に…負けない…!」
頭から出血し左腕も使い物ならない上に立っているのもやっとの状態だった。しかしそれでも彼女の目はまだ死んでいなかった。これほどの窮地に陥ってもまだ諦めない彼女の勇猛な姿に鬼は僅かながら驚嘆していた。
『気ニ入ッタゾ、オマエヲ残ラズ喰ッテヤル』
「…来い!!私は…諦めない!!」
同時に鬼が静音に向かって疾走する。迎え撃とうと静音は身構えるが立っているのがやっとの身体では動くこともままならない。静音は必死に打開策を考えようとするが…
(このままじゃ…殺される…!どうすれば…)
しかし、何も浮かばない。
今できるのはこうしてただ刀を構えて立っていることしかない。
(…ここで終わりなの…?私は…何も出来ないの…!?必ず…父上と母上の仇を討つって誓ったのに…!)
気が付けばすでに鬼が自分を喰らおうとその手を伸ばそうとしていた。もう、どうしようも出来ない…終わりを悟った静音は一瞬だけ目を瞑った。
鬼の手が静音に触れようとした瞬間…
ザンッ!!!
『ギャアアァァァ!!?』
「…え…?」
なんと鬼の腕が突如、前に現れた何者に切断されたのだ。腕を斬り落とされて痛みと理解不能の状況に鬼は混乱していた。そして、間一髪で助かった静音の前には渾身の技を放っても切れなかったあの鬼の腕を斬った者が立っていた。
「大丈夫か?」
「…あ、あな…たは…?」
「よかった!何とか間に合ったみたいだね」
(誰…?さ、侍…?それに…どうやって…)
静音の前に現れたのは、悲鳴を聞いて駆け付けた明智左馬介と阿児だった。助けられた静音の脳内は様々な疑問で埋め尽くされるが身体が限界を迎えたのか気を失ってその場に倒れ込む。
「わわ、あんた大丈夫!?」
「阿児、そいつを頼む!」
「う、うん!」
静音を阿児に任せた左馬介は鬼の前に立つ、腕を斬り落とされた鬼は怒りの表情で左馬介を睨み付けるが、その表情はすぐに驚きに変わる。
『オマエ、俺ト同ジ匂イ。鬼ダヨナ?何故邪魔ヲスル…!』
「恨みはないが、貴様を斬る。覚悟!」
『フザケルナァァ!!ソイツハ俺ノ獲物ダァ!』
左馬介がただ人間ではないとすぐに気づいた鬼だったが怯むことなく左馬介に向かって走り出す。対する左馬介は愛刀を構え、迎撃体勢に入る。
鬼は残った左腕で左馬介めがけて渾身の一撃を放つ、常人どころか歴戦の剣士でも避けるのが難しいほど速く重い一撃だったが左馬介はいとも容易くそれを回避する。
『何ィ…!?』
「…ふん!」
回避した直後、左馬介はすかさず鬼の懐に入り込み、胴体を狙って目にも止まらぬ一閃の一撃を放った。その凄まじい威力に鬼の上半身と下半身が斬り離された。鬼は痛々しい叫び声を上げ吐血しながらその場に大きな音を立てて倒れた。
『グフッ…!何故ダ…何故、鬼ガ人間ヲ助ケル…』
「しぶとい奴だ」
「嘘…あれでまだ死なないの?」
同じく鬼の一族を知る阿児もこの世界の鬼の並外れた生命力に驚かされていた。しかも、斬り離された上半身と下半身、さらに斬り落とされた右腕も再生しようとしている。阿児はしばらく鬼をじっと観察していたが、あることに気付いた彼女は左馬介にそれを伝える。
「左馬介!鬼の首を斬って!首がその鬼の急所だよ!」
阿児の助言を聞いた左馬介はすかさず鬼の首を斬り落とす。本来であれば鬼の頸は鬼殺隊が使う日輪刀でしか切断することができないはずなのだが、左馬介は自身の持つ愛刀で容易くこれを斬り落としたのだ。
『ガアァァ!!馬鹿ナ…!コノ俺ガ、コンナ所デ…』
首を落とされた鬼の身体はボロボロに崩れ落ち、瞬く間に跡形も無くなった。すると僅かな残骸の中からまるで血のように赤い色をした魂のような物体が出現した。
よく見るとこの魂は幻魔を殺すと出現する魂によく似ていた。
「左馬介、その魂を籠手に封じ込めてみたら?鬼の魂みたいだし吸収したら強くなれるんじゃないかな?」
「分かった」
左馬介は籠手を鬼の魂に向けると、その魂を籠手に吸収し始める。瞬く間に魂は籠手に吸い込まれ最終的には完全に籠手に吸収されてしまった。
すると籠手の先端が僅かに金色に変色した。この現象は籠手が持つ鬼の力の強さを示しており、籠手が完全に金に変色すれば最大限の鬼の力を解放できるのだ。
本来ならば僅かに変色させるだけでも幻魔数百体分ほどの魂が必要なのだが左馬介が吸収したこの鬼の魂はかなりの力を持っているようだ。
「うわ~すごいなあ、一体でこれだけの力を持ってるなんて…この時代の鬼の一族は強い力を持ってるみたいだね」
「ああ、鬼は他にもいるはずだ。注意が必要だな」
「ああ!そうだ、あの子のこと忘れてた!」
その後、阿児と左馬介は重傷を負っていた静音を介抱し手当てをして危機を救った。
こうして戦国時代で鬼武者と詠われた伝説の侍…明智左馬介の新たな戦いが始まった。
大好きな鬼武者のクロスオーバー作品執筆にウキウキしながら書きました!
現在、二話を執筆中です!
時間に余裕があったら挿絵も載せます!