今回は左馬介パートです!
第十一話 復讐者
無限列車での黒幕であった下弦の壱・魘夢を討つことに成功したがその直後、上弦の参・猗窩座の襲撃により炎柱・煉獄杏寿郎が戦死。彼に鬼殺隊の未来と意志を託された炭次郎たちだったが、煉獄杏寿郎の死は彼らにとってあまりにも大きく、治療のために再び蝶屋敷に運ばれてから四人全員が精神的にショックを受けて塞ぎ込んでいた。
そんな中、無限列車での事件から数日後、蝶屋敷にある任務が伝えられた。
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・数日後 蝶屋敷 左馬介の部屋
事件から数日後、報せは阿児を通じて左馬介にも伝わっていた。自分が共に向かっていれば…と悔やまれてならない。聞けば炭次郎と静音は特に重傷らしく今は病室でぐっすり眠っているそうだ。
「そうか…上弦の鬼はそれほど強いのか」
「うん…杏寿郎がいなかったら静音もあたいたちもアイツに殺されてたよ」
「侮れない相手のようだな、対峙することがあれば注意しなければな」
きっと近い内にその上弦の鬼とも戦う時が来るはずだ。鬼殺隊の誇る柱の剣士をも倒す鬼、いったいどれほどの強敵なのか…そんなことを左馬介は考えていた。
その時、部屋の扉を叩く音と共に声が聞こえてきた。
「明智さん?いらっしゃいますか?」
「しのぶか、入ってくれ」
左馬介を訪ねてきたのはしのぶだった。彼女は一声かけると部屋へ足を踏み入れる。彼女の方から自分を訪ねてくるなど珍しいと思ったが彼女の真剣な表情で何を言いたいのかは大方予想がついた。
「明智さん、すみませんが、あなたの力を貸してくれませんか?」
「もちろんだ。鬼が出たのか?」
「いえ…あなたが言っていた幻魔という化物の目撃情報がありました」
「何?」
どうやら鬼ではなく幻魔に関することのようだ。しばらく情報が無かったので幻魔の動向を掴めずにいたのだが最近になってある場所で怪事件が多発しているそうなのだ。
その場所は…
「事件現場は那多蜘蛛山…報告によれば最近、あの山で再び怪事件や行方不明者が続出していると聞きました」
「那多蜘蛛山…静音と向かったあの山か」
「はい、以前の戦いであの山に巣くう鬼はすべて討伐したはずでした。しかし、あれから行方不明者や事件は減少していません…隊士を数名、調査のために送ったのですが連絡が途絶えました。それに近隣住民からも人の形をした化物のようなものを見たという報告も多数あります」
「なるほど、分かった。俺も手を貸そう」
「助かります。今回の任務はあくまでも調査ですので向かうのは私と明智さん、そしてカナヲの三人で行きます。準備ができたら私に声をかけてください」
「ああ、いくぞ。阿児」
「うん!」
敵の正体や規模が不明瞭のままでうかつに大勢の隊士を送り込むのは危険と判断したしのぶの決断だった。もし本当に幻魔という化物のしわざであるのなら対峙した経験のない自分たちでは対処するのは難しい…ならば幻魔をよく知る左馬介と自分たちの少数精鋭で現場を調査するのがよいと考えたのだ。
話を聞いた左馬介はすぐに具足と刀を身に付け、出撃準備を整えた。外に出ると蝶屋敷の門には同じく準備を済ませたしのぶとカナヲの姿があった。
「待たせたな、いつでもいいぞ」
「よ~し!幻魔をやっつけるわよ!」
「揃いましたね。では、出撃しますよ」
「……」
しのぶの問いかけにカナヲは無言で頷いた。一番に走り出したしのぶに続いて左馬介たちもその後を追う。
こうして四人は再び那多蜘蛛山へと向かった。
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・那多蜘蛛山 入り口
蝶屋敷を出発して半日、左馬介たちは那多蜘蛛山の入り口に到着していた。着いた時には日が暮れ始め辺りは暗くなり、以前は無かったが現在では立ち入り禁止の立て札が入り口に設置されており、山の空気は鬼がいた時よりもさらに重苦しく不気味な雰囲気を感じさせている。
「着きましたね」
「幻魔の気配が強くなってる…まるで比叡山みたい。いつの間にこんな風になっちゃったんだろ」
「どうやらあの戦いの後、この山は奴らの巣窟になったようだな」
「……嫌な予感がする」
「深入りするのは危険ですね。あまり奥には入らず山の入り口付近を調査しましょう。」
半信半疑だったしのぶとカナヲもこれほど重く不気味な気配を感じて信じないわけにはいかなかった。自身の本能が必死に伝えようとしている、この山は危険だと…
「山を調査しつつ行方不明になった隊士を捜索しましょう。明智さん、カナヲ、離れないように行動してください」
「……はい」
「分かった」
意を決して一同は那多蜘蛛山に足を踏み入れた。しばらく山を歩いていると以前とは変化した山の光景にしのぶとカナヲは絶句していた。
「何なの…?この奇妙な植物は」
「……!」
山の中は以前よりも草木が生い茂り、歩くのも困難になるほど入り乱れていた。さらに見たこともない奇妙な形をした植物や物体があちこちに存在していた。その時、まるでムチのように茎の長い植物がふと目についたカナヲは不思議そうに顔を近付けるが、それを見た阿児が慌てて静止した。
「あ!それに近づいたら駄目!!」
「…きゃ!?」
顔を近づけた瞬間、なんと植物が動き出しカナヲに攻撃してきたのだ。一瞬、驚いたがカナヲは難なく植物の攻撃を回避する。
「……驚いた」
「それは"ベラ"っていう幻魔植物だよ。人間が近づいたら攻撃してくるから気をつけて。それにこの植物は鬼の武器じゃないと斬れないの」
よく見るとそのベラという幻魔植物があちこちに生えており、道の多くをこの植物が塞いでいた。
「困りましたね…これでは通れません」
「任せろ」
そう言うと左馬介の鬼の籠手の先端にある玉が青く光り、刀が光に包まれる。収まると左馬介の刀の形が変わっていた。刀は雷の力を持つ"雷斬刀"に姿を変えていた。雷を刀に宿し凄まじい連続斬りと雷撃を喰らわせる戦術殻を放つ刀だ。
雷斬刀に武器を変えた左馬介は道を阻むベラを斬り捨てていく。
「お見事ですね」
「……すごい」
「先を急ぐぞ」
その後、三人は歩きづらい山の道をしばらく歩いていると少し開けた場所にたどり着いた。山に入って一時間ほどか経つが未だに幻魔らしき化物の襲撃はない。しかし三人がたどり着いたその場所にある痕跡を発見した。
「これは…」
「…血ですね、まだ新しい」
「……師範、これ…」
そこには大きな血痕と鎹烏の死骸が打ち捨てられていた。だが隊士の死体は見当たらず血痕の側には折れた日輪刀も落ちている。死んでいた鎹烏も調査のために送った隊士に付けた烏だった。
「まさか…ここで襲われたのかな」
「近いぞ、二人とも注意しろ」
もはや調査隊の生存は絶望的だとその場にいた全員が感じていた。それと同時に周辺の影から何かの気配を感じた。
「……囲まれてる…」
(いつの間に…?周りの気配には注意を払っていたはずですが……)
「誰だ?出て来い」
すると三人の前にある木の影から姿を現したのは…
「ハッハハハ!誰が来たかと思えば…まさかお前だったとはな、左馬介!」
「貴様は…!」
「また会えましたね!いずれ再び会う時が来ると思っていましたが、これほど早く再会することになるとは!」
三人の前に現れたのは高等幻魔・ゴーガンダンテスだった。左馬介と互角に渡り合うほどの腕前を持ち、柱の剣士であるしのぶをも簡単にあしらうほどの強さを見せた実力者だ。
「あなたは…ゴーガンダンテス!」
「おや?以前にお会いした美しいお嬢さんではありませか。もしや私に会いに来たのか?」
「……ふざけてるんですか?」
「ふふ、怒った顔もまた素敵だが…あなたにはやはり笑顔が似合っている」
「………(イラッ)」
「……!?し、師範…?」
ダンテスの言うとおりしのぶの表情は笑顔だが目がまったく笑っていない。隣にいたカナヲが思わず怖がるぐらい激怒しており、すぐさまダンテスを斬り捨てようと日輪刀に手をかけるが、それを左馬介が手で静止した。
「…明智さん?」
「ここは任せろ、奴は俺が倒す」
口惜しいが自分の実力ではこのダンテスという幻魔は倒せない…しのぶ自身も分かっていた。自分の一撃を指で受け止めるほどの相手と自分の力量がはかれないほどしのぶは愚かではない。
「…分かりました。ここはお任せします」
「ああ、下がっていろ」
「左馬介、気をつけてね」
「……左馬介さん」
左馬介は雷斬刀を構え、戦闘態勢に入る。それを見たダンテスも嬉しそうに意気悠々と愛刀を構える。
「以前は小手調べでしたが、今度は本気でいかせて貰いますよ!お前ほどの強者と再び戦えるとは…拙者の剣も興奮しています!」
「覚悟!」
「…とその前に、一言!」
「何だ?」
するとダンテスは珍妙な仕草をしながら自身の謳い文句を堂々と言い放った。
「拙者の名前は…ゴーガンダンテス!!幻魔界最高の剣士!!」
「「「「………」」」」
珍妙なポーズを決め、ドヤ顔をしているダンテスを四人が何とも言えない表情で見ている。
(…どうしよう、素直にカッコ悪いって言えばいいのかな…?)
どう反応していいのか分からないカナヲは懐からコインを取り出してオロオロしている。
「やっぱりダサい」
「…あの、さっさと始めてくれませんか?」
「これは失敬。ではでは、行きますよ!」
その一声と同時にダンテスが先に攻撃を仕掛けた。左馬介の首を狙って鋭く速い突きを放つが、左馬介はそれを雷斬刀の刀身で受け止める。
「ハアッ!!」
受け止めたダンテスの剣を力ずくでいなし、すかさず袈裟斬りを繰り出すが、ダンテスは流された剣をすぐさま戻し軽々と片手で防ぐ。
「あまいっ!」
その攻撃を待っていたと言わんばかりにダンテスは巧みに手首を操って攻撃をいなしつつ下から斬り上げるように反撃した。
「ぬぅ!」
(ほう、避けるか。さすがだ…!)
左馬介もまたダンテスの反撃に瞬時に反応し、身体を回転しながら軽くひねって攻撃を回避すると素早く態勢を整えて刀を構え直す。
(試してみるか…)
すると左馬介の呼吸が変わり、深く空気を吸ったと同時に左馬介の攻撃が始まった。今度は左馬介がダンテスに向かって突きを繰り出す。
「ぬん!!」
(…速い!)
そう、しのぶから教わった全集中常中の呼吸だった。先ほどとは比べ物にならないほどの速さにダンテスも驚いていた。ダンテスも左馬介と同様に剣の刀身でなんとか攻撃を受け止めるが、そこから左馬介の凄まじい連撃が始まった。
「おわっ!?」
「…参る!」
強烈な突きに体制が崩れたダンテスに続けて斬り下ろし、横斬り、袈裟斬り…と目にも止まらぬ速さで次々と斬撃の嵐を繰り出す。この技は"十連斬"という左馬介の得意技で、その名の通り神速の十連撃を相手に一瞬で叩き込む奥義だ。
ガギィン!!ガキィィン!!
(…弾かれた?)
さすがのダンテスでも左馬介の十連斬に耐えられず、最後の二連撃が確かにダンテス命中したはずだが、その二連撃は謎の結界のような何かに阻まれてしまった。
「左馬介!気をつけて!そいつの周りには結界が張られてるよ!」
「…ふふ、見事だ!さすがは我が盟友、ガルガントを倒しただけのことはあります」
「何!?貴様…奴を知っているのか?」
「彼は我が友…そして好敵手だった。"幻魔界最強の闘士"と言われた友をお前は封印した…貴様に破れた友の無念、拙者が晴らしましょう!」
お返しと言わんばかりにダンテスは軽く跳躍すると剣を力強く左馬介にめがけて振り下ろす。その時、ダンテスの剣が赤く発光しており、通常よりも威力が大幅に向上している状態だ。
「ハァァァ!!!」
「ぐぅ……!!?」
左馬介はなんとか雷斬刀で受け止めるが、あまりの威力に防御していたにも関わらず大きくよろついてしまう。そこに素早い蹴りを放った。
大きく後ろに吹き飛ばされた左馬介だが、すぐさま態勢を整え一瞬で距離を詰めるとお互いに凄まじい打ち合いが始まった。
双方ともに一歩も譲らず、激しい鍔競り合いに突入した。
「ぬぅぅぅぅ……!!」
「ハァァァァァ……!!」
目の前で繰り広げられる凄まじい勝負をしのぶ、カナヲ阿児は固唾を飲んで見守っていた。
(……すごい…)
(強いとは思っていましたが、ここまでとは…)
「左馬介!頑張って!!」
激しい攻防の末、両者の鍔競り合いは引き分けになり、お互いに距離を取る。そして、間合いの取り合いが始まった。
(手強い…厄介な相手だな)
(噂以上の腕前…拙者が本気で戦える相手と出会えたのは久しぶりだ…!)
あれほど激しい攻防を繰り広げても二人は息ひとつ切らしていない。再び打ち合いが始まろうとした時、林の奥から何者かが不気味に笑いながら姿を現した。一同の視線が謎の人影に集中する。
「ククク、貴様が明智左馬介か」
「…!!まさか…ギルデンスタンか…!!?」
そこにはかつて自身が打ち破った因縁深い幻魔であるギルデンスタンによく似た幻魔が立っていた。しかし、よく見ると頭部の骨格や服装が若干違う上に声が異なっているのだ。
「おっと、ここで我が同志のご登場だ」
「我輩の名はバルドスタン!ギルデンスタン様は我が師だ!」
一同の前に現れたのは幻魔界最高の天才科学者であったギルデンスタンの弟子の一人、バルドスタンだった。変わった形状の髑髏のような頭部に碧眼の瞳、禍々しいデザインのマントの下に和服のような着物を身につけている。
「ギルデンスタンの弟子だと!?」
「左馬介!!貴様…よくも我が師を亡き者にしてくれたな…!」
「ああ、奴は俺が殺した」
「許さんぞ…!幻魔界最高の頭脳を…そればかりか信長様までも封印するとは…八つ裂きにしても気が収まらん!!」
バルドスタンは左馬介を激しい形相で睨み付けている。そんな様子を見ていたしのぶがこっそり日輪刀に手をかける。今、あの親玉らしき化物は左馬介に意識が集中して完全に自分たちは無警戒だ。奇襲するなら今が好機だとしのぶがバルドスタンに一瞬で接近し日輪刀で貫こうとする。
「敵は明智さんだけでないことをお忘れなく!」
「……」
(もらった…!)
ガキィィン!!
しかし、しのぶの刃はバルドスタンには届かなかった。いつの間にかその側にもう一体の幻魔が居た。まるで一つ目のような紋様が刻まれた仮面を被り、身長は二メートルをほどで身体は血のように赤く屈強に鍛え上げられた筋肉の鎧に覆われており下半身には黒い具足を身につけていた。
その幻魔は怒嵐剣という左右の刃がドリルのように回転する大剣を片手で持ち、しのぶの突きからバルドスタンを守っていた。
「なっ!!?」
「間抜けはお前だ、死ね」
「…ぐぁ!?」
するとその幻魔はもう片方の腕でしのぶの首を掴み、高く持ち上げる。必死に脱出しようと日輪刀で幻魔の腕を突き刺そうとするが刃は筋肉の鎧に弾かれてしまった上に傷一つ付いていない。
(そんな…!?なんで斬れないのよ…!)
「フッ…その程度の力と鈍刀でオレの筋肉が斬れると思ったか?終わりだ、お前の首を握り潰してやろう」
「……ぐ……あ…」
しのぶは巨人の幻魔の拘束から逃れようとするがびくともしない。喉が軋む嫌な音が響き、抵抗していたしのぶも次第に力が抜け始め弱っている。
「師範!!」
それを見ていたカナヲが一気に背後に近付き、巨人の幻魔の頚を狙って日輪刀を構える。
(花の呼吸!肆ノ型・紅花衣!)
大きく円を描くような軌道で頚を狙って斬撃を繰り出すが、なんと幻魔はカナヲの技を背後を向いたまま軽々と受け止めたのだ。
(…!?止められた!)
「どうした?もっと打ち込んでこい。でなければお前の仲間は死ぬぞ?」
「……ぁ…」
「この…!しのぶ姉さんを離せっ!!」
カナヲはすかさず何度も幻魔に向かって斬撃の嵐を繰り出すが、まったく命中せずにあしらわれてしまう。一方、首を絞められているしのぶはもはやろくな抵抗もできずに脱力状態になっている。
その時、巨人の幻魔の正面から青白く光る巨大な斬撃が掴み上げている腕めがけて飛んできた。
「…おっと!」
その一撃には思わず幻魔も掴んでいる手を離して回避行動を取る。視線の先には武器を空牙刀に切り替えて構えている左馬介の姿があった。一方、首締めから解放されて落下したしのぶはカナヲが間一髪で受け止めており何とか無事だ。
「…ゴホッ!ゴホッ!」
「しのぶ姉さん…!大丈夫っ…!?」
「え、ええ…助かりましたよ…カナヲ」
左馬介もしのぶに駆け寄り、怪我を確認する。あと少し遅ければ喉を潰されたあげく首をへし折られていただろう。
「しのぶ、大丈夫か?」
「…明智さん…ありがとうございます」
「なるほど、お前が明智左馬介か…いい腕だな」
左馬介を見て納得したような仕草を見せると、幻魔は自己紹介を始めた。
「オレの名はゴルドー。バルドスタン様の腹心だ。我が主の邪魔をする者は残らず排除する」
外見は中等幻魔であるドルドーという幻魔に酷似しているが、このゴルドーは突然変異種であり、体格と身体能力はオリジナルを圧倒的に凌駕しており最大の特徴は高等幻魔並みの知能と感情を持っていることだ。
「フッ…見るがいい、この極限にまで鍛え上げられたオレの肉体を!強さとは…こういうことだ!!ふんっ!!」
そう言うとゴルドーは得意気に見事なマッスルポーズを披露する。
「「「「………」」」」
「う~む、悪くはないですが拙者ならもっとこう手を上げてですね…」
「ダンテス殿は口出し無用!貴殿のポーズは参考にならん!」
(うわぁ…コイツも変な奴だ…!)
このゴルドーという幻魔もどこかゴーガンダンテスと同じ類いの変わり者であると感じた阿児は苦笑いしていた。一方、そんな二人のやり取りを背後で見ていたバルドスタンはイライラしながら怒鳴った。
「ええい!!貴様ら!何を遊んでいる!早く此奴等を殺せ!」
「バルド様!これは失礼を…直ちに始末します」
するとゴルドーは背中に背負っていたもう一本の怒嵐剣を抜くと独特の構えを見せた。幻魔が放つただならぬ闘気にしのぶとカナヲも驚いていた。
「いくぞ、オレが編み出した怒嵐剣二刀流…お前らに見せてやろう」
その言葉と同時に怒嵐剣の刃がドリルの如く回転し始めた。常人では持ち上げるのも困難な怒嵐剣を軽々と片手で振り回している。
「クク…貴様らはここで終わりだ。この山はすでに我らの巣窟…迂闊に足を踏み入れたことを後悔するのだな。さあ!出でよ!我輩の息子たちよ!」
バルドスタンが指を鳴らすと左馬介たちを囲むように幻魔が姿を現した。現れたのは中等幻魔の"富嶽"という赤い甲冑と金棒を持った幻魔と"ドルドー"というゴルドーとほぼ同じ容姿で怒嵐剣を両手で一本持った幻魔だ。
「人間共を皆殺しにしろ!!」
「ダンテス殿、左馬介はオレが殺る!手出しは無用!」
「やれやれ、集団で相手を囲んで倒すなど拙者の趣味ではありません。興が冷めました、後はお任せしますよ」
「なんだと!?くだらんことを言ってないで戦わぬか!!」
号令と同時に幻魔たちやゴルドーが左馬介たちに襲い掛かる。しかし、ダンテスは集団で相手を倒す戦法が自身の士道に反するのか、バルドスタンの命令を無視して戦闘を放棄したのだ。一方のしのぶは迂闊にこの山に入ってしまったことを悔やんでいた。もはやこの状況を打開する方法はどう考えても思いつかない。
(…迂闊でした。最悪の状況ですね)
「…しのぶ姉さんは…私が守る…!」
普段無口で感情を表に出さないカナヲが珍しく怒号を発し、日輪刀を構える。しのぶも応戦しようとするが首を締められた影響か呼吸が安定せず苦しそうな表情だった。そんな二人に左馬介が声をかけた。
「カナヲ、しのぶを連れて逃げろ」
「…え…」
「ここは退くしかない。すぐに山から離れるんだ」
「無茶です…!明智さん一人じゃ…!」
いくら左馬介が強くともこの数の幻魔を一人で相手にするなど無茶だ。しかし、当の左馬介は一人ですべての幻魔を食い止めるつもりなのか武器を構えて戦闘態勢になっている。
「阿児!二人を頼む!」
「分かったよ!左馬介…気をつけてね!」
「ああ!」
「…すみません。明智さん、お願いします…!」
「…左馬介さん…死なないで…!」
「こっちだよ!二人とも急いで!」
この場を左馬介に任せたしのぶとカナヲは阿児の案内で那多蜘蛛山から退却を始めた。しかし、まずは幻魔の包囲を突破しなければならない。
その時、左馬介の鬼の籠手の玉が橙色に光り、刀が光に包まれ収まると刀は鬼の武器"地轟斧"に変わっていた。左馬介はその場で高く飛び上がると地轟斧を大きく振りかぶり地面に勢いよく叩きつける。
「おりゃァァ!!」
ドゴォォォン!!
地轟斧を叩きつけた瞬間、左馬介たちを包囲していた幻魔たちの足元が凄まじい轟音と共に爆発したのだ。爆風に巻き込まれた幻魔ほとんどが吹き飛ばされて身体が粉々になったか瀕死の状態になっていた。
地轟斧の奥義である戦術殻・地であり、左馬介を中心に範囲にいる敵を大地の爆風で一斉に吹き飛ばす技だ。
「くっ…!?な、何だと…」
同じく戦術殻をくらったゴルドーだが他の幻魔に比べたら効果が薄いのかすぐに起き上がる。この攻撃で幻魔による包囲が解け、背後に退路ができていた。
「今だ!行け!しのぶ、カナヲ!」
(…信じられない…!)
「ほら!ぼさっとしてないで行くよ!」
カナヲはしのぶの肩を支えながら急いで阿児と共にその場を後にした。残った左馬介は三人が無事に那多蜘蛛山から退却するまで時間稼ぎをするべく地轟斧を構える。
「ふむ…さすだな、我が師や信長様を倒すだけのことはある」
「貴様らの思い通りにはさせん!」
「…くそっ!おのれ…左馬介ぇ!!」
激昂したゴルドーが二本の怒嵐剣を振りかぶり左馬介めがけて振り下ろすが、左馬介は地轟斧で軽々とそれを受け止める。その剛腕による一撃は重く受け止めた左馬介の足が少し地面にめり込んでいた。
「……ぐぅ!!」
「オレの一撃を止めるか、さすがだ!」
(大した馬鹿力だな、押しきられそうだ…!)
力では左馬介よりゴルドーが勝っているのか少し押し負けており、さらに怒嵐剣の回転する刃によって武器が弾き飛ばされそうになっている。
(終わりだ…!死ね、左馬介!!)
「ぬぅぅっ…!!」
しかし、左馬介も負けていない。受け止めていた怒嵐剣を少しずつ横にずらしながらゴルドーの攻撃を受け流すと体をひねりながら渾身の力で斧をぶん回す。
「でいやァァ!!」
「ぐおっ…!?」
なんとかその一撃を回避したがゴルドーの脇腹にはかすり傷ができていた。しかし、攻撃は終わらず左馬介はすかさず連撃を浴びせる。地轟斧を構えながら体全体をコマのように回転しながら攻撃を繰り出した。
「ぬんっ!!」
ゴルドーは二本の怒嵐剣で左馬介の回転攻撃を防御するが一撃が重く威力が非常に強力な地轟斧の猛攻に今度はゴルドーが押されていた。
「…ぐっ!おのれ…!!図に乗るな!!」
「ぬぅ…!」
ゴルドーは力ずくで無理矢理、左馬介の回転攻撃を止めるとお互いに激しい打ち合いが始まった。そんな両者の激戦をバルドスタンとゴーガンダンテスが興味深そうに眺めていた。
「むぅ…ゴルドーとあそこまで渡り合うとは」
「見事ですね、それでこそ拙者も倒し甲斐があるというものだ」
「ダンテス、貴様…!見ていないでさっさとゴルドーに加勢しろ!」
「そう怒らずとも、もう勝負はついている」
「…何だと?」
それと同時に戦っていた左馬介が突如、距離を取った。その瞬間、鬼の籠手の玉が緑色に光り、地轟斧を包み光が収まるとまったく別の武器に形状が変化していた。武器は風の力を持つ鬼の武器"疾風刀"という双刃刀に姿を変えていた。
「時間は十分稼がせてもらった、ここは退かせてもらう」
「何!?逃げる気か!」
逃がさんとばかりにゴルドーが左馬介と距離を詰めようと疾走するが、一方の左馬介は疾風刀を車輪のように高速で回転させ始めるとその瞬間、周囲に突風が吹き荒れ気がつけば左馬介を中心に巨大な竜巻が発生していた。この技こそ疾風刀の戦術殻・風の奥義であり、巨大で強力な竜巻を発生させて敵を切り刻む技だ。
「…くっ!小賢しい真似を……!!」
竜巻の影響でまったく近付けず、ようやく治まったと思えばバルドスタンたちの前からすでに左馬介は姿を消していた。
「奴は途中から逃げるつもりだったようですね。やれやれ、敵に背を向けるとは情けない」
「おのれ!逃したか…」
「…申し訳ありません。バルド様、この失態万死に値します」
「…構わん、明智左馬介がどれほどの実力なのか一目見れただけでも収穫はあった」
(左馬介、このままでは終わらんぞ…!必ずや貴様を討ち、信長様と我が師を我輩の手で復活させてやろうぞ!!そして、幻魔の世界を築くのだ!!)
その後、無事に那多蜘蛛山から退却に成功した左馬介たちは蝶屋敷へと帰還した。早速、しのぶとカナヲの報告により鬼殺隊内で幻魔の存在が確かなものとなり、那多蜘蛛山に厳重警戒態勢がしかれるようになった。
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・バルドスタン
イメージCV:速水奨さん
年齢:不明
一人称:我輩
好きなもの:造魔研究、仕事終わりの一杯
鬼武者の登場人物。本作のオリジナルキャラクター。幻魔界最高の天才科学者・ギルデンスタンの弟子であり、その頭脳は師に匹敵するほど。しかし、ギルデンスタンからは「虫ケラ(人間)のような考え方をする変わり者」としてあまり高く評価されておらず、他の高等幻魔達からの評判も悪い。事故により未来の日本である大正時代に僅かな部下たちと共にタイムスリップしたが時のねじれ装置を復元し元の時代に戻るべく暗躍をする。
冷酷非道かつ尊大な性格だが同族意識が強く、自身が生み出した造魔たちを"吾輩の息子"と呼んで可愛がり、些細な失敗なら許すなど非情な幻魔の中では珍しく寛容な一面を見せることもある。その一方で知謀に優れ、数々の策謀を用いて敵を葬る策謀家でもある。実力は確かだがクセが強いゴルドーやゴーガンダンテスの扱いに頭を悩ませており、時にコントのようなやり取りを見せることも。
・ゴルドー
イメージCV:堀内賢雄さん
年齢:不明
一人称:オレ
好きなもの:筋トレ、戦うこと、筋肉観察
鬼武者の登場人物。本作のオリジナルキャラクター。バルドスタンの腹心であり彼の補佐、護衛を任されている。外見は中等幻魔であるドルドーと同じだが突然変異により身体が一回り巨大化し体色が赤色に変色している。大型の大剣である怒嵐剣を片手で軽々と振り回し、独自に編み出した"怒嵐剣二刀流"という荒々しく攻撃的なスタイルで戦う。高等幻魔並の知能を持っており、凶暴な性格の幻魔たちの中でも極めて珍しい感情豊かな性格をしている。自身の筋肉に強い自信をもっておりよくマッスルポーズを見せつける。強靭な筋肉と強者には興味を持つが弱い者には無関心。他の幻魔と違ってそれほど人間に嫌悪感は抱いておらず会話に応じる場合もある。バルドスタンを尊崇しており常に彼の側に侍り、補佐しているがどこか行動がズレている時がある。
実は第十話に挿絵を入れてみました。
手抜き絵ですが、よかったら見てみてください!ちょくちょく挿絵を入れられたと思っているので頑張ります!
(これを描いてたせいで投稿が遅れました…)
もう少しで遊郭編に突入です!