鬼滅の刃 鬼斬り武者   作:戦国のえいりあん

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新作、書けました!
前後編に分けようと思ったのですが、早く遊郭編を書きたいので一話でまとめました!
今回は静音が鬼武者でお馴染みである"あの場所"に行きます!


第十二話 力を求めて

 

無限列車の事件から数週間後、蝶屋敷にて傷を治していた炭治郎たちだったが、未だに杏寿郎の死を嘆き悲しみに落ち込んでいた。そんなある日のこと体を休めていた静音に新たな試練が待ち受けていた。

 

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杏寿郎の死から数週間…傷を負った四人はあれからすぐに蝶屋敷に運ばれしのぶの適切な治療によって事なきを得た。しかし、特に炭治郎が受けた腹の刺し傷はかなり深かったようでしのぶからも絶対安静にするよう強く言われていた。

 

一方、静音も炭治郎と同じぐらいの重症で特に猗窩座から受けた打撃の影響で胸骨と肋骨にヒビが入っていたのだ。こちらも回復するまでは絶対安静であると口酸っぱく言われている。

 

しかし…

 

・蝶屋敷の寝室

 

「炭治郎さぁん!お願いですから休んでください~!!」

 

絶対安静するよう言われているにも関わらず炭治郎はこっそり病室を抜け出して鍛練をするという無茶な行為をしていたのだ。今日も病室抜け出して痛む体に鞭打って一人で鍛練している炭治郎を蝶屋敷の女の子が止めようとしている。

 

「また、抜け出して鍛練か」

 

「まったくもう!ちゃんと休んでろってしのぶも言ってるのに。みんな言うこと聞かないなぁ」

 

騒ぎを聞きつけた左馬介と阿児が様子を見に来ると窓の外で蝶屋敷の女の子に追いかけられている炭治郎の姿が見えた。ちなみに軽症だった伊之助と善逸だが鍛練は禁止されているが自由に動いてもいいと許可が出ており、今日はどこかに行っていて不在だ。

 

「やっほー静音。元気にしてる?」

 

「静音、大丈夫か?」

 

「……あ、左馬介殿、阿児…」

 

二人が声をかけると寝室のベッドで大人しく寝ていた静音がゆっくりと体を起こした。じっとしているのが苦手な彼女の性格なら炭治郎と同じく無理をしてでも鍛練をするかもしれないとしのぶや阿児は考えていたのだが、以外にも絶対安静の指示をきちんと守っており四人の中で静音が最も大人しくしている。

 

「話は阿児から聞いた。俺が共に行っていれば…すまん」

 

「いえ、左馬介殿のせいじゃありません…すべて私が無力なせいです…私が弱いせいで…」

 

「そんな言い方しないで!静音は精一杯戦ったじゃない!気持ちは分かるけど…全部一人で背負おうとしちゃ駄目だよ!」

 

しかし、静音の心境も痛いほど分かる阿児はそれ以上強く言うことができなかった。どれだけ嘆いても落ち込んでも死んだ者は戻ってこない、時間は元に戻らない…それは静音にも分かっている。

 

「…分かってる、どんなに泣いても煉獄様は生き返らない。でも…」

 

「でも?」

 

「…悔しいの!!弱い自分が情けないよっ!!」

 

「……」

 

静音が悔やんでいたのはあの時、自分の出せる全力で上弦の鬼に挑んだもののまったく歯が立たなかった自分自身の弱さだ。しかし、それ以上に悔やみ屈辱に感じていたのは静音と戦っていた時の猗窩座の対応だった。

 

「あの猗窩座という鬼…私と戦った時、まったく本気じゃなかった…」

 

「…え?どういうこと?」

 

「…手加減されてたのっ!!」

 

実際に戦った静音にしか分からなかったが、静音の言うとおりあの時の猗窩座は本気を出していなかったのだ。その理由に杏寿郎と戦っていた時は終始拳で戦闘していたのに対して静音との戦闘時は拳ではなく掌底で攻撃しており威力も死なない程度に弱めてあったのだ。

 

「…悔しいよ…私なんか殺すにも値しないってことなの…!?……うう…」

 

「静音…」

 

静音にとっては殺されるよりも屈辱的だった。悔しさと情けなさのあまり涙がぽろぽろとこみ上げてくる。そんな静音に左馬介が声をかけた。

 

「過ぎたことを考えてもどうにもならない、お前が今何をするべきなのか…それを考えるんだ」

 

「……」

 

「静音、これからお前はどうしたい?立ち止まったまま終わるのか?そうじゃないはずだ、お前はまだ戦える。心が折れない限り人は強くなる」

 

「…左馬介殿」

 

「それに、お前には志を共にする仲間がいる。何でも一人で背負おうとするな。悔しいと思っているのは静音だけじゃない、炭治郎や他のみんなも同じだ」

 

 

己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。

 

歯を喰いしばって前を向け、君たちが足を止めて蹲っても時間の流れは止まってはくれない。

 

 

杏寿郎の最期の言葉が脳裏に響く。ここで立ち止まっていても時は止まらない…誰も助けてくれない。ならば自分にできることはただ一つだ。

 

「…私、もっともっと修行します!約束したんです、煉獄様と…鬼殺隊を支える柱になるって!」

 

「うん!それでこそ静音だよ!!」

 

「ああ、その意気だ」

 

「よ~し!!明日から修行だ!!頑張るぞー!!」

 

「頑張れって言ってあげたいところだけど、今は駄目だよ。しのぶもひと月は安静にしてろって言ってたでしょ?」

 

「えっ!!?で、でも…」

 

「今は体を休めろ、休むことも修行の一つだ」

 

「うう…分かりました。ひと月は大人しくします」

 

二人の激励で元気を取り戻した静音はいつもの明るく真っ直ぐな彼女に戻っていた。その後、静音は言いつけどおり逸る気持ちを抑えてひと月の間、体を休めることに専念し一ヶ月後、無事に任務に復帰したのだ。

 

ちなみに炭治郎は相変わらずしのぶの指示を聞かず、あろうことか蝶屋敷を抜け出し杏寿郎の生家である煉獄屋敷を訪ねたそうだ。その時、なんと杏寿郎の父である煉獄槇寿郎と一悶着を起こすなどかなり荒れていたようで、もちろんしのぶからもこっぴどく叱責されついでに刀鍛冶の鋼鐵塚蛍という男からも怒られるなど散々だったという話を後に静音は聞いた。

 

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・二ヶ月後

 

あれから二ヶ月が経ち、静音は同じく復帰した炭治郎たちと共に毎日鍛練に励みながら合間に入る鎹鴉の指令に従って鬼を倒しに行く日々を送っていた。

 

最近は単独での任務も多く、それぞれ別々の場所に向かうことも少なくなかった。だが、時間がある時は炭治郎、善逸、伊之助、静音の四人は一緒になって鍛練することが増え、日々強くなるためにお互い励まし合いながら過ごしていた。

 

・蝶屋敷 中庭

 

「九十七…!九十八…!九十九…!!」

 

「……百っ!!」

 

「はぁ~やっと終わった…」

 

「よし!お前ら!次は足が折れるまで走り込みだ!ついて来い!!」

 

「ま、待てよ…ち、ちょっと休もうぜ…」

 

「よっしゃー!私はまだまだ行けるよ!どっちが先に根を上げるか勝負よ!伊之助君!」

 

「ハハッ!いい度胸だ、まあ勝つのは俺様だけどな!」

 

「はは、二人ともほどほどにな」

 

蝶屋敷の中庭で鍛練に励む四人の姿があった。鍛練や任務を通じて四人の間には強い絆と信頼関係が生まれていた。そんな。いつものように鍛練をしていた静音たちの前に一羽の鎹鴉が降りてきた。

 

「静音、任務ダ。準備スルデゴザル」

 

「了解!闇丸は先に行ってて!」

 

「心得タ」

 

どうやら今回の任務は単独任務のようで聞けば場所もそれほど遠くない。指令を受けた静音はすぐに出撃準備を整えると鉢金を強く巻き直す。

 

「それじゃみんな!行ってくるね!」

 

「ああ!静音、気をつけてな!」

 

炭治郎たちに見送られながら静音は蝶屋敷を後にした。その後、静音は闇丸の案内で指令の場所に向かっていた。そんな時、闇丸が静音に声をかけた。

 

「アノ時ハドウナルカト思ッタガ…元気ニナッテ何ヨリデゴザル」

 

「ひょっとして、心配してくれてたの?」

 

「ウム、アレホド落チ込ンダオ主を見タノハ初メテダッタカラナ」

 

「あはは…心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫!私には立ち止まってる暇はないの!もっと強くなってみせるから!」

 

「強クナッタナ…頼モシイ限リダ」

 

「ええ!さあ闇丸!飛ばすわよ!」

 

「心得タ!」

 

速度を上げた静音は現場へと急いだ。自分はもっと強くなれる…そんな思いと昂る思いを胸に走り続けた。

 

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・数時間後

 

「ふぅ…任務完了っと!」

 

「御苦労ダッタナ、静音」

 

あれから数時間後、静音は無事に任務を成し遂げ蝶屋敷へと帰還しようと帰路についていた。討伐対象だった鬼はあまり人を食っていない力の弱い鬼だったことから任務はあっさりと解決したのだ。そんな時、帰り道を歩いていた静音の視線に二つの道があった。

 

「……」

 

「イカガシタ静音?帰リ道ハ右デゴザルゾ」

 

「うん、そうだけど…」

 

しかし、静音は左の道を見つめていた。この先を道なりに進めばある場所にたどり着く。かつて自分もこの道を通ったことをしっかりと覚えている。

 

「…ちょっと寄り道して行こっか」

 

「…マサカ、オ主」

 

「うん、少しだけ見てみたいの。今の那多蜘蛛山がどうなっているのか」

 

そう、左の道は那多蜘蛛山に通じておりこの道を進めば途中で山の入り口付近を通ることになるのだ。左馬介と阿児から那多蜘蛛山が幻魔の巣窟になっているのはすでに聞いている。

 

「危険ダゾ…ソレニ任務トハ無関係デゴザル。下手ニ首ヲ突ッ込ムナ」

 

「分かってる。ちょっと入り口を覗いてみるだけだから大丈夫だよ」

 

「ハァ…止メテモ聞カヌノガオ主ダッタナ。入リ口ヲ覗クダケゴザルゾ」

 

こうして静音は進路を変え、付近にある那多蜘蛛山へと歩みを進めたのであった。

 

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・那多蜘蛛山 入り口付近

 

道を変更して歩くこと数十分、夜になり辺りはすっかり暗くなっているが空に見える満月のおかげでそれほど視界は悪くない。だが山に近づくほど不穏な気配が強くなってくるのを静音は感じていた。

 

(なんて重い空気…)

 

そしてようやく那多蜘蛛山の入り口にたどり着いた静音はじっと山を見つめていた。目の前には「危険!行方不明者続出!立ち入り禁止!」と書かれた看板が道の真ん中に立っている。

 

「ちょっと見ない間に何があったんだろ」

 

「拙者モ詳シイ事情ハ知ラヌ…タダ間違イナク言エルコトハ、コノ山ハ危険ダトイウコトデゴザルナ」

 

それに関しては静音も同感だった。聞けばしのぶとカナヲ、左馬介が二ヶ月前にこの山に入って危うく命を落としかけるほどの危機に陥ったのだと聞いている。それだけでも今の那多蜘蛛山がどれほど危険な場所なのかが分かった。

 

「モウイイデゴザロウ、長居シテハ危険ダ。一刻モ早クココヲ離レルデゴザル」

 

「うん、早く離れよう」

 

「……ム?」

 

この場から去ろうとした時、何かに気づいた闇丸が振り向いた。

 

「闇丸?どうしたの」

 

「アノ木、不自然ニ揺レテイルヨウナ…」

 

闇丸の視線の先を見るとそこには大きな木が一本生えているのだが、葉が生い茂る樹冠の部分がガサガサと不自然なほどに妙に揺れている。

 

「…調べてみよう」

 

「注意スルデゴザル、静音」

 

静音は日輪刀に手をかけ、ゆっくり木に近づいていく。そして間近まで迫ると木の周りと樹冠をよく観察するが何も怪しいものは無く、いつの間にか揺れも治まっており。

 

「何もないね、何だったんだろ?」

 

「分カラヌ、狐カ何カダッタノデハナイカ?」

 

その瞬間、静音の目の前に何かが木の上から落下してきた。

 

「ようっ!」

 

「きゃあああァァァ!!?」

 

「ウオォ!!?」

 

突如、目の前に現れた謎の物体にいきなり声をかけられた静音は驚きのあまりその場に倒れてしまった。その生き物のような何かはケラケラと笑いながら話し始めた。

 

「…ってありゃ?アンタだったけか?」

 

「な、なな…何なの!?あなたは…!!」

 

「へへ、そんなに驚くことはねぇぜ。まあ、こうして会ったのも何かの縁だ、ちったぁ付き合っていけよ」

 

まるでミノムシのような簑に入った気味の悪い顔をした小男が木の上から逆さまになってぶら下がっていた。この謎の人物の名は"みのおやじ"と言い、正体は謎に包まれているが"ある場所"への案内人を務めている人物だ。一瞬、幻魔と思ったが敵意はなく襲ってくるようにも見えないので深呼吸した落ち着いた静音はゆっくりと立ち上がった。

 

「なあ、お嬢ちゃん。その数珠、誰からもらったんだ?」

 

「え?えっと…明智左馬介さんって人から受け取ったけど」

 

「おおっ!?なるほどな!そういうことか!それじゃ、お嬢ちゃんにいいことを教えてやるよ」

 

「いいこと?」

 

「お嬢ちゃん、"魔空空間"ってとこに行く気はあるか?」

 

魔空空間…聞いたこともないその名に静音は首を傾げていた。そんな静音にみのおやじは淡々と説明し始めた。

 

「実はよ、この木の下に幻魔が巣食う地下空間があんだよ。俺はお嬢ちゃんをそこに連れていけるんだ。なんでも一番下の階にはすげぇ褒美があるって話だぜ?」

 

「本当に…そんな場所があるの?」

 

「おう、確か階数はそんなに無かったはずだが、なかなか強ぇ幻魔が多いぜ。で、どうだい?行ってみっか?」

 

「……」

 

「止メテオケ静音、ワザワザ危険を犯ス必要ハナイデゴザル」

 

闇丸の言うとおりわざわざ自分から危険な地に足を踏み入れる必要はまったく無い。しかし、少しの沈黙の後、静音の口から予想外の返答が返ってきた。

 

「…分かった。案内して」

 

「シ、静音!!正気デゴザルカッ!?」

 

「へへ、いい根性してんじゃねぇか。最初に言っとくけどよ、命の保証はねぇぜ?それでも行くのか?」

 

これまで幻魔とは何度か戦ってきたが今回は無事ではすまないだろう。精神世界の鬼の修練場のように死んでもやり直すことはできない…この空間で力尽きる時は文字通り死を意味する。しかし、静音の決意は固かった。

 

「…闇丸、もし私が戻らなかったら、報告をお願い」

 

「落チ着ケ!何故、ソウマデスルノダ…!」

 

「試してみたいの…今の私の力がどれほど鬼や幻魔に通用するのか。幻魔に負けるようじゃ上弦の鬼になんて絶対に敵わないから…」

 

「……」

 

静音の覚悟を悟った闇丸は止めても無駄だと判断したのか木のとまりやすい枝に着地した。

 

「夜明ケマデニ戻ラネバ死亡シタト判断シテ本部ニ報告スル…ソレマデ拙者ハココデ待ツ」

 

「分かった。じゃ、行ってくるね」

 

「必ズ戻ルデゴザルゾ…静音」

 

いざという時のことを闇丸に任せた静音はみのおやじの前に立った。もはや覚悟は決まった…後はその魔空空間とやらに案内してもらうだけだ。

 

「いつでもいいよ、案内して」

 

「せいぜい命だけでも持ち帰ってこいよ、よしっ!行くか?」

 

「ええ!」

 

その言葉を聞いたみのおやじは突然、激しく体を回転し始めた。すると静音の足元に光の渦が発生した。

 

「うんんん………!はぁぁぁぁぁっ!!」

 

「きゃっ!?」

 

その瞬間、静音は光の渦と共に地面へと吸い込まれていった。

 

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・魔空空間 一階層

 

「きゃあああ!!?」

 

光の吸い込まれ、上から落下してきた静音はなんとか体勢を整え着地した。辺りを見回すと気味の悪い触手と謎の物体の山に囲まれた闘技場のような場所にいた。

 

(あ、危なかった…ここが、魔空空間…)

 

よく見ると足元にぼろぼろに朽ちた巻物のような物が落ちており、静音はそれを手に取って読んだ。

 

 

この地に降り立った者に告げる。

腕無き者、挑むべからず。

魔空空間は試練の地。

生兵法では、待つのは死のみなり。

欲無き者、挑むべからず。

最奥に眠るは、望まぬ者には無用の逸品。

 

それでも腕に覚えがあるなら、立ちはだかる敵をすべて屠り、進むべし

 

と、かすれた文字で綴られていた。その直後、静音を包囲するように地中から光のサークルと共に無数の幻魔が姿を現した。現れたのは無数の刀足軽と三つ目だった。

 

「…早速、お出ましだね。いくぞ!私の力を見せてやる!」

 

静音は日輪刀を構え、戦闘態勢に入った。すると幻魔たちも同じく静音に襲いかかる。刀足軽たちが一斉に特攻し静音に斬りかかるが動きの遅い刀足軽の攻撃は静音でも簡単に回避できる。

 

(…やっぱり、この髑髏兵あまり強くない!)

 

六体ほどの刀足軽に攻撃を静音は軽く捌くが、その直後頭上から二体の三つ目が襲いかかってくる。

 

「…くっ!!この!!」

 

何とか攻撃を日輪刀で防御し押し返す。その後、距離を取ろうとするがこの闘技場のような場所は狭く間合いを離してもすぐに囲まれてしまうのだ。

 

(狭い上に、大量の幻魔…思ったより厄介だわ!)

 

だが、静音も負けじと反撃に出る。大量の敵に囲まれているなら、と水の呼吸の構えを取る。

 

(水の呼吸!参ノ型・流流舞!!)

 

流れる水のような足運びで攻撃を捌きつつ刀足軽を次々と斬り捨てる。瞬く間に五体の刀足軽を倒した静音は攻撃の手を緩めない。

 

「…ァァァ…!!」

 

「…ォォ!!」

 

(まだまだ!水の呼吸…!肆ノ型・打ち潮!)

 

こちらに向かって飛んでくる三つ目に対して静音は攻撃されるよりも速く加速し三体の三つ目を肆ノ型で瞬く間に斬り捨てた。

 

ザンッ!!ザシュッ!!ドシュッ!!

 

「グォォォ…!!」

 

自身を包囲していた幻魔の半分以上をあっという間に斬った静音は最後に残った三つ目と刀足軽もすぐさま見事な剣技で斬り捨てた。

 

「ふぅ~…よし!!」

 

斬り捨てた幻魔の体が溶け、残骸から桃色の魂が無数に出現した。静音はすぐに数珠を構えると宙を漂う魂たちが静音の数珠に吸い込まれていく。

 

「すごい量…こんなにたくさん魂を一度に吸収するのは初めてかも」

 

しかし、全滅させたと思えば再び地中から光のサークルが発生し新たな幻魔が現れた。再び静音を囲むような布陣で新手の幻魔は戦闘態勢に入る。

 

(初めて見る幻魔だ…!鎧武者?何なの!?あの異様に長い手は…!)

 

静音の前に現れたのは朱色の甲冑に身を包んだ鎧武者の幻魔で、特徴的なのは膝の辺りまでだらりと伸びる長い腕だ。この幻魔こそ中等幻魔の"手長"だった。刀を鞘から豪快に抜き取り、不気味な呼吸音と共に三体の手長がゆっくりと静音に近づいてくる。

 

(手強そう…!でも、動きは遅いみたいだね…)

 

小手調べにと静音は一体の手長に斬りかかる。袈裟斬りで肩に斬撃を入れるが手長は回避行動を取らず静音の攻撃をもろに受けていた。

 

(避けようとしない?どういうことなの…?)

 

すぐさま斬撃の嵐を叩き込むがまったく避けようせず、ただ攻撃を食らい続けるが次の瞬間、いきなり手長が反撃してきたのだ。

 

「きゃっ!!?」

 

反撃してこないと少し油断していた静音はすんでのところで手長の斬り上げ攻撃を回避する。ぎりぎりだったのか隊服に斬撃の跡が残っていた。

 

(危なかった…!こいつ、攻撃を食らってもひるまない!どれだけ攻撃を受けても確実に斬撃を入れることだけを考えてるのか…!)

 

手長の戦闘スタイルは重厚な鎧の防御力に物を言わせて相手の攻撃に耐えつつ的確に獲物を斬り捨てる戦法なのだ。その長い腕による斬撃の範囲は極めて広く、一度に多くの獲物を凪ぎ払って斬り捨てるのだ。

 

「うわっ!!?」

 

背後にいた二体の手長が豪快に刀を振り回しながら静音に襲いかかる。何とか回避し距離を取った静音は体勢を整え一体の手長に狙いを定めた。

 

(見せてやる!新しい技!水の呼吸!漆ノ型・雫波紋突き!!)

 

あれから新たに習得した水の呼吸の技である漆ノ型を手長に向かって繰り出した。軽く跳躍し手長の額を狙って雫波紋突きを放った。

 

「……ォォォ…!!」

 

突きは見事に手長の頭部に命中し、断末魔を上げて手長は事切れた。

 

残りは二体…相手が防御しないのなら一撃で頚を斬り落とせばいい、そう考えた静音は水の呼吸の構えを取る。

 

(水の呼吸!壱ノ型・水面斬り!!)

 

手長の豪快な横振りの斬撃を跳躍して回避しつつ壱ノ型を頚に繰り出す。その一撃に手長の頚は胴から斬り離され地面にゴロゴロと転がっていく。

 

(二体目!!残り一体…)

 

「…ぐぁ!!?」

 

しかし、側にいた最後の一体が手を伸ばし静音の喉を強引に掴み上げた。手長の首締め攻撃に必死にもがくが少しずつ呼吸が苦しくなり喉に激痛が走る。

 

「…こ…の…!!離せっ!!」

 

静音は力を込めて刀の柄で手長の手首を強く殴った。その打撃で拘束から脱出した静音はそのまま落下しながら技を繰り出した。

 

(水の呼吸…!弐ノ型・水車!!)

 

弐ノ型をもろに受けた手長は頭から股下まで斬り裂かれた。真っ二つになった体は竹のよう割れ、同時に大量の血が周りに飛び散った。

 

「…はぁ…はぁ…」

 

三体の手長の死体が溶け、再び魂が残骸から発生した。今度の魂は先ほど吸収した物より一回り大きく、静音は再び数珠を構えてその魂を吸収した。

 

(あ、危なかった…!少しでも判断が遅れたら喉を潰されてたよ…)

 

すると今度は闘技場の中央にある丸い部分から黄色い光の渦が発生した。どうやらこの階の幻魔はすべて斬ったのか新手は現れないようだ。

 

「えっと…次に行けってことなのかな?よーし!次もやってやるんだから!」

 

深呼吸すると静音は光の渦が発生する中央部分に立つ。そこに立つと同時にまるで水に落下するかのように地中へと吸い込まれていった。

 

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・魔空空間 二階層

 

「きゃあああ!!?」

 

再び上から落下してきた静音。今度は落ちることをなんとなく予想していたので、焦らず体勢を整えて着地する。相変わらず同じ光景の闘技場だが今度は周り全体の風景が緑色に変わっていた。

 

そして、静音が着地したと同時に闘技場内に無数の青い炎が発生した。炎が収まると共に姿を現したのは新手の幻魔だった。

 

「ウオォォォン!!」

 

現れたのはワニのような頭と背中に生える橙色のトゲ、手に分厚い鉈を持ち簡単な具足を身に付けた幻魔だった。この幻魔は"バズー"と呼ばれ、幻魔界に多く生息する下等幻魔だ。主に残党処理などを担当しその分厚い鉈による攻撃と背中のトゲを用いた回転攻撃に加え、集団で連携し獲物を仕留める統率力にも優れる幻魔なのだ。

 

(また新手…しかも数が多い。どうするかな…)

 

静音の前に現れたバズーは七体だ。すると前方と背後から二体のバズーが体を丸めて静音に向かって突進して来た。

 

「…くっ!」

 

バズーの突進攻撃を静音はギリギリまで引きつけて回避する。しかし、今度は回避した先にいた二体のバズーが噛みつき攻撃を繰り出してくる。何とか攻撃を刀で受け止めた静音だがその影響で両腕が完全にふさがってしまっている。

 

足止めされている静音に背後いる数体のバズーが一斉に静音に向かって回転突撃して来た。

 

(こいつら、統率が取れてる…!)

 

だが静音も負けじと前方にいる二体のバズーを力ずくで押し返すと反撃する。怯ませた後、すかさず目の前の二体の頚を素早く斬り落とすと、背後からの攻撃に備える。

 

(これでどうだ!水の呼吸!陸ノ型・ねじれ渦!!)

 

体を大きくひねりながら刀を振るとまるで渦のような斬撃が発生し、回転攻撃してくるバズーたちを切り刻む。同じく修行によって身に付けた新たな水の呼吸の技だ。

 

「グォォォ…!?」

 

「ウォォォン!!」

 

陸ノ型で同時に三体のバズーを倒し残りは三体だが突如、闘技場内に再び光のサークルが発生し新たな幻魔が現れた。

 

(また新手…!)

 

現れたのは巨大な大斧を手に持ち、牛のような角と禍々しい仮面を被り甲冑に身を包んだ大柄の幻魔だった。この幻魔は"バラバズー"と呼ばれ、バズーを指揮する中等幻魔だ。見た目通りの怪力と大斧による攻撃で獲物を叩き潰すのだ。

 

バラバズーは残り三体のバズーに何か指示を与える仕草をした後、斧を振りかぶって静音に近づいてくる。

 

(見た目通り力が強そう…でも、動きは遅いみたい)

 

静音に狙いを定めバラバズーが豪快に斧を振り下ろす。しかし、その攻撃は遅く静音は軽々と体をひねって回避するが直後に左右から二体のバズーが噛みつき攻撃を繰り出してきた。

 

「きゃっ!!?」

 

なんとか仰け反って攻撃を回避するがその瞬間、背中に激痛が走った。

 

ドシュッ!!

 

「ぐぁ…!!」

 

なんと背後にいたもう一体のバズーに背中を鉈で斬られてしまったのだ。すぐさま振り返り反撃してバズーを倒すと急いで距離を取る。

 

(しまった…斬られた…!)

 

背中に手を当てるとぬるりとした触感と痛みを感じる。幸いにも傷は思ったより浅く生死に影響はないようだ。

さらに最悪なことに再び光のサークルが発生し、また新たな幻魔が姿を現した。

 

(嘘っ…!!?まだ来るの!?)

 

姿を現したのはバラバズーと同じく巨大な大斧に牛のような角と仮面を被っていたが体格はバラバズーよりもさらに筋骨隆々で一回り大きかった。この幻魔は"オオワッシャ"といいバラバズーの強化体と言ってもよい幻魔だ。性質はより攻撃的になりその圧倒的なパワーで敵を薙ぎ倒すのだ。

 

(…どうしよう、あの牛みたいな幻魔はあまり速くないけど、他の幻魔と連携されたら危険だ…!)

 

一対一なら問題ないが中等幻魔複数が相手ではかなり不利だ。相手はバズー二体、バラバズーが一体、オオワッシャが一体の合計四体だ。

 

先に攻撃を仕掛けてきたのは幻魔たちだった。再び回転攻撃で静音に突撃を仕掛け、それに続いてバラバズーとオオワッシャが斧を構えてゆっくりと近づいてくる。

 

(まずは雑魚から…!)

 

「水の呼吸!陸ノ型・ねじれ渦!!」

 

再び陸ノ型を放ち、突撃してきたバズー二体を倒すが、すかさずバラバズーとオオワッシャが静音に襲いかかる。一方は斧を横に薙ぎ払い、もう片方は振りかぶったまま斧を豪快に振り下ろす。左右どちらにも回避できず背後は闘技場の端だ。

もはや逃げ場はないと思われたが…

 

(見せてやる!水の呼吸・玖ノ型!水流飛沫!!)

 

斧が静音に直撃する瞬間、その姿が一瞬にして消えた。縦横無尽に跳ね回りながら着地時間と面積を最小限に動き、相手に無数の斬撃を繰り出す新たに習得した水の呼吸の技だ。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

足場が悪く、上下に足場があるこの闘技場では効果は高く、バラバズーとオオワッシャに斬撃の嵐を叩き込んだ。

 

「グォォォ…!!」

 

「ウォォォ……!!」

 

「ぜぇ…ぜぇ…ど、どうだ!」

 

疲労の色を見せながらもなんとか勝利した静音は拳を握っていた。それと同時に静音が倒した無数の幻魔の体が溶け、大量の魂が宙に浮いていた。

 

「うわぁ…!凄い量だ、全部吸い込めるかなぁ」

 

数珠を構えると大量の魂が吸い込まれていく。だが魂は問題なく全て数珠に吸収された。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

水の呼吸の型を連発した影響で疲弊し呼吸は乱れていた。その場に片膝でしゃがみ深呼吸して呼吸を整え、体力の回復を待つ。斬られた背中の傷口も呼吸を用いて少しずつ塞いでいく。

 

(なんとか勝てた…ちょっとだけ呼吸を整えよう)

 

すると再び中央の床に光の渦が出現していた。まだ、下に階層が続いていると考えると気分が沈んでしまう。

 

(……というか、これいつまで続くの!?これより下があるならさすがに自信ないよ…)

 

まだ二階層だがすでに疲労困憊に近くなっており、下に進めば進むほど不利になっていく。覚悟はしていたが予想以上に過酷な試練だ。

 

「でも…これ程度で諦めてたら上弦の鬼にはきっと勝てない…まだやれる!!根性っーー!!」

 

少し休息を取り呼吸を整えると静音は気合いを入れ直し、中央の光の渦の中に入る。立つと同時に静音は再び地中に吸い込まれていった。

 

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・魔空空間 三階層

 

さすがの静音でも三回目は落下することを予測しており体勢を整えて難なく着地する。今度は闘技場全体の風景が青色になっていた。

 

(誰か立ってる…)

 

静音の視線の先には何者かが立っていた。全長は二メートルほどで禍々しい形の兜と肩当て、下半身には具足を身につけていた。だが体色はどうみても人間のものではなく身体には静音もよく見る鬼の紋様が浮かび上がっていた。

 

「まさか…鬼か!?」

 

「……」

 

その化物は無言でゆっくりと静音の方に振り替える。まるで般若のような顔に一本の角…そして筋骨隆々の大柄な身体と言うその風貌は紛れもない鬼だった。この鬼の名は"マーセラス"という中等幻魔でギルデンスタンの研究によって産み出された造魔だ。元々は鬼の力の暴走が原因で鬼となってしまった鬼武者のなれ果てがマーセラスなのだが、目の前にいるマーセラスはギルデンスタンの研究と様々な戦闘データを元に造られた量産型で"極"と呼ばれるタイプだ。

 

「こんなところにも鬼がいたなんて…貴様は私が斬る!!」

 

「……」

 

静音は日輪刀を構え戦闘態勢に入ると、マーセラスも同じく戦闘態勢になる。両手が赤い炎に包まれ収まると右手には剣、左手には丸型の大きな盾が出現していた。

 

まずは小手調べにと静音が袈裟斬りを繰り出すがマーセラスは盾で難なく攻撃を防御する。しかし、静音は怯むことなく続けて斬撃の嵐を放つが攻撃はことごとく盾によって防がれてしまう。

 

(くっ…!攻撃が通じない!まずはあの盾をなんとかしなきゃ!)

 

すると今度はマーセラスが攻勢に転じた。盾を構えたまま間合いに素早く入り込み体当たりで静音を怯ませた。

 

「きゃっ!?」

 

強烈な体当たりに体勢を崩れた直後、すかさず体をひねりながら回転斬りを繰り出した。剣が直撃する瞬間、静音はなんとか体勢を整えるとその場にしゃがんで攻撃を回避した。

 

(速い…それに一撃が重い…!)

 

盾による固い防御に剣による鋭い技とその威力…攻守において隙が見当たらない。さらにこれまで疲労もあって戦況は静音が明らかに不利だ。

 

(このままじゃ殺られる…!どうしたらいいの!?)

 

なんとか打開策を考えながら静音はマーセラスと激しい攻防を続けていた。だが、観察していると静音はあることに気がついた。

 

(この鬼、攻撃を避けようとしない…!あの手が長い幻魔と同じで防御力に頼りきってるのね!)

 

先ほどから隙を見つけて攻撃を繰り出しているが、マーセラスは静音の攻撃を避けようとせず全て盾で防御して回避行動を全く取らないことに気がついたのだ。ならば…と静音は水の呼吸の構えを取る。

 

(なら…盾を叩き割って頸を斬ればいい!!)

 

マーセラスの攻撃を跳躍して回避した静音は落下しながら刀を構え技を繰り出した。

 

「水の呼吸・捌ノ型、滝壷!!」

 

まるで滝のような水流が落ちるかの如く、上段から真下に渾身の力で刀を振りおろす技で、その威力と攻撃範囲は絶大だ。マーセラスは静音の捌ノ型を盾で防ぐが、その技の威力に盾は耐えきれず粉々に砕け散ってしまった。

 

「……!」  

 

「よし!次は貴様の頸を斬ってやる!」

 

「……」 

 

今度は頸を斬ろうと再び構えるが目の前のマーセラスは全く動じていない。そればかりかより闘気を強くし持っていた剣を両手で持つと剣が再び赤い炎に包まれる。

 

(…?何をする気だ?)

 

炎が収まるとなんとマーセラスの剣が巨大な大剣に姿を変えていたのだ。

 

(嘘っ!?剣が変わった…?)

 

その直後、マーセラスは大剣を両手で振りかぶり強烈な一撃を静音に放った。大剣にも関わらず予想以上の攻撃速度に驚いた静音はぎりぎりで防御したが凄まじい威力とその一撃の重みに手がびりびりと震え大きく体勢が崩れてしまう。

 

(……ぐっ!!?なんて威力なの!?)

 

なんとか距離を取ったが未だに手が震えていた。しかも先ほどの一撃で静音の日輪刀が少し曲がってしまっていた。

 

(先生の刀が…!あんなのを何度も食らってたら刀が折れる…!)

 

しかし幸いなことに攻撃速度は先ほどよりも遅くなっており、なんとか回避できる速度だった。その威力の代償か隙も大きく攻撃する好機は十分にあった。

 

(なら…!一気に頸を斬る!!)

 

意を決した静音は一気に間合いを詰め、マーセラスの懐に入り込む。マーセラスは大剣を横に振り回して迎え撃つが、その攻撃は身を低くして回避されてしまい、隙ができたマーセラスに静音が技を繰り出した。

 

「水の呼吸!肆ノ型・打ち潮!!」

  

マーセラスの頸に狙いを定めて肆ノ型を放つが…

 

ガキィィン!!

 

(そ、そんな…!!)  

 

しかし無情にも静音の一撃はマーセラスの頸を斬ることができずに弾かれしまった。逆に隙だらけになった静音に対して今度はマーセラスが技を繰り出した。突如、大剣に紫色の稲妻が走り、そのまま大剣を地面に勢いよく叩き付けた。

 

「…ぐぁ…!!?」

 

剣を叩き付けると同時に巨大な紫の稲妻が激しく地面を走り、静音に襲いかかった。稲妻に巻き込まれ吹き飛ばされた静音はそのまま倒れてピクピクと痙攣したまま動かなくなってしまった。

 

「……」

 

倒れた静音に大剣を振りかぶったマーセラスがゆっくりと近付いてくる。

 

(…ま…だ…わた…しは…)

 

薄れゆく意識の中、静音は必死に立ち上がろうとしていたが体は動かない。まだ自分は戦える…まだ負けていないと必死に自分に言い聞かせるがそれでも動けない。

 

(私は…しょせん…この程度なの…かな…先…生…)

 

気がつけば亡き師の姿が脳裏に浮かんでいた。そして、師が言っていたある言葉を思い出していた。

 

 

『最後まで諦めるな、諦めねぇ奴が最後に勝つ。自分で限界を決めるんじゃねぇ、限界ってのは乗り越えるもんだ。それができる奴が本当に強い戦士だ』

 

 

『心を燃やせ!限界を超えろ!!』

 

 

脳裏に師と杏寿郎の姿が浮かぶ。それと同時に虚ろだった静音の瞳に光が戻り全身に力が入る。

 

「…絶対に…負けるもんかっ…!!」

 

マーセラスの大剣が直撃する瞬間、間一髪でとどめの一撃を回避した静音は再び刀を構え戦闘体勢に入る。もう動けないと思っていた己の体が動いたことに自身が一番驚いていた。

 

(この一撃で…決める!!)

 

深く息を吸い込み呼吸と整え、足に力を込める。狙いをマーセラスの頸に定め、静音は走り出した。

 

「全集中!!水の呼吸!」

  

凄まじい速度で接近する静音をマーセラスが迎え撃つ。再び剣に稲妻を走らせ、地面に振り降ろす。 

 

「拾ノ型!!生生流転っ!!」

 

襲いかかる稲妻を回転、または刀でいなして回避しつつ静音はマーセラスに一気に近付く。そして間合いに入ると刀を振り上げ、渾身の力で頸を狙って振り降ろす。その時、静音の一撃はまるでうねる水の龍のようだった。

 

ザンッ!!

 

その斬撃はマーセラスの頸に命中し今度は首を断つに成功した。胴と斬り離された首が静音の側に落下する。首を斬り落とされたマーセラスはその場に倒れ完全に事切れた。

 

「ぜぇ…!ぜぇ…!」

 

静音も同じくその場に倒れた。なんとか頭だけを動かしてマーセラスの亡骸を確認する。

 

「…勝った…私が勝ったんだ…!」

 

強敵に勝利した喜びと強くなっている自身の実力に心と心臓が高鳴っていた。しかし、先程の一撃で全ての体力と気力を使い切ったのか体が言うことを聞かなかった。

 

(あはは…体が動かないや、それに意識も薄れ…て…)

 

その時、倒したマーセラスの体が溶けその亡骸から無数の巨大な魂が出現した。しかし、今回は桃色の魂のほかにも黄色と青色の魂も一緒に混じっていた。それを見た静音は寝たまま数珠で魂を吸収した。

 

(……あれ?体が動くようになってる?)

 

魂を吸収した瞬間、重傷だった静音の傷が治癒され動くには問題ないほどに回復していたのだ。黄色の魂には吸収した者の傷を癒し体力を回復する効力があるのだ。対する青色の魂は鬼力という鬼の力を回復する効力があるが鬼の力を持たない静音は吸収しても無意味なのだ。

 

「はぁ〜…さすがに今回はもう駄目かと思ったよ」

 

なんとか生き残った静音は思わず安堵のため息をつく。すると闘技場の天井にまばゆい一筋の光が差し始めた。どうやらこの階が最終階のようでここから下には行けないようだ。それと同時に闘技場の中央に3つの宝箱が出現した。2つは赤色の宝箱でもう1つは黒色の宝箱だった。

  

「ひょっとして、あの人が言ってたご褒美かな…?」

 

もちろん試練を乗り越えた静音にこそ開ける権利がある。静音は少しワクワクしながら1つずつ宝箱を開けていくことにした。1つ目の宝箱を開けると中には装飾の入った黒い筒が入っていた。

 

「あ!これって…左馬介殿からもらった丸薬だ」

 

一つ目の中身は以前に左馬介から飲ませてもらったことがある丸薬だった。中を見ると3粒入っているようだ。あの苦さは忘れもしないがその効力も忘れていない。有り難く懐にしまうと今度は2つ目の宝箱を開く。

 

「これ、なんだろ?勾玉…?」

 

2つ目の宝箱に入っていたのは黄色の勾玉だった。持ってみると不思議な力を感じる。使い方はまだ分からないがきっと役に立つ物だと思って同じく勾玉も懐にしまった。

 

「さて、この黒い宝箱には何が入っているのかな?」

 

よく見るとこの黒い宝箱にだけお札のような物が貼られ封印が施されている。みのおやじが言っていた凄い褒美…それがこの中にある、いったいどんな物が入っているのか、緊張しつつもゆっくりとお札を剥がし宝箱を開けると…

 

「…何これ?玉?」

 

黒い宝箱に入っていたのは灰色の小さな玉だった。てっきり武器か防具が入っていると期待していた静音は一気にがっかりした気分になる。

 

(こ、これだけ…!?う、嘘でしょ!?これのどこがすごい褒美なのよっ!今までの苦労はなんだったの!!?)

 

命懸けでこんな所に来たのにその報酬がこれでは全く納得できなかった。その後、静音は天井から差す光によって無事に魔空空間から脱出し見事生還を果たしたのだ。だがその直後、疲労と凄まじい喪失感に襲われた静音はそのまま気絶してしまい。闇丸の助けで隠の隊士に救助された何とか蝶屋敷に戻ったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・数日後 蝶屋敷の病室

 

 

静音が魔空空間から生還して数日後、疲労困憊と激しいショックで気絶した彼女は蝶屋敷の病室のベッドで横になっていた。あれから今日までぐっすり眠っていた静音がようやく目を覚まし再び治療を受けていた。しかし、静養するような傷もなかったので少し休んだら再び任務に戻ってもよいとしのぶからも許可が出たのだ。

 

だが、そんな静音は…… 

 

「………」

 

「ねぇ、どうしたの?目を覚ましてから様子が変だよ?」

 

「何かあったのか?」

 

「…あはは、何でもないです。あの…すみませんが少し一人にしてください…」

 

あんな玉1つのために魔空空間という幻魔の巣窟に行っていたなど情けなくて言えなかった静音は暗い表情で落ち込んで苦笑いしていた。そんな静音に阿児と左馬介が気になっていたことを質問した。

 

「静音、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

 

「な、何かな?」

 

「寝てる間に静音が持ってた吸魂の数珠を見せてもらったんだけど」

 

「え?数珠がどうかしたの?」

 

「…どうやってあんなに魂を集めたの?すごい量の魂があの数珠に封じ込められたんだけど」

 

静音の数珠に予想外の魂が吸収されていたことを二人に追及された静音は観念して自身が魔空空間に行っていたことを正直に打ち明けた。

 

「嘘っ!?魔空空間に行ってきたの!?よく無事だったね」

 

「やっぱり左馬介殿と阿児はあの場所を知ってたんですね…」

 

「知ってるも何も…あそこは左馬介でも苦戦するぐらいの場所なんだよ?生きて帰ってきたのが奇跡だよ」

 

(…私、よく無事だったなぁ…)

  

改めて自分がどんな場所に行っていたのかを思い知っていた。その時、静音は魔空空間で手に入れた持ち物を左馬介と阿児に見せることにし、まずは黄色の勾玉を取り出した。

 

「えっと…これはどうやって使う物なんですか?」

 

「これは"力石"だな」

 

「力石?」

 

「ああ、その石を強く握り締めて持ってみろ」

 

「こう…ですか?」

 

静音が力石を力強く握り締めると石から何かが自分の体に入っていくのを感じた。気が付くと力石は黄色から灰色になりただの勾玉になっていた。

 

「その石には高僧の強い念と力が込められている。石を持った者の生命力と基礎体力を底上げする効力がある」

 

「言われてみれば、ちょっと元気なったような気が…」

 

力石の効力が分かると静音は次にあの黒い宝箱に入っていた灰色の玉を二人に見せた。

 

「あの…この玉は何でしょうか?左馬介殿と阿児なら分かる?」

 

「左馬介…この玉って」

 

「ああ、試してみよう」

 

左馬介は静音から玉を受け取るとその玉を鬼の篭手の先端に取り付けた。その瞬間、灰色だった玉が突如紫色の光を放ち始めた。

 

「え?光った」

 

「どうやら…この玉には鬼の一族が封印されていたようだ」

 

「この玉に鬼が…?」

 

「うん、あたい達の世界の鬼の一族だよ。でも…呼びかけも反応がないのよ」

 

どうやらこの玉には左馬介の世界にいる鬼の一族が封印されているようだった。阿児によれば灰色だったのは封印されていたからであり左馬介の鬼の篭手に装着したことによって封印は解除されたのだが、どれだけ呼びかけても何故か反応がないのだ。

 

「この玉はお前が持っていろ、静音」

 

「え?…でも」

 

「静音が手に入れたんだからいいの!きっと何かの役に立つよ」

 

改めて鬼の玉を受け取った静音は紫色に光る不思議な光をじっと眺めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・おまけ

 

 

ある日、左馬介、阿児、静音の三人が話している時、阿児が静音の数珠を見ながら話し始めた。

 

「そうだ!せっかくだし魂を使おうよ!」

 

「そういえば…魂ってどうやって使うの?」

 

「魂を武器や防具に注いで強化できる。破魔鏡があれば可能だ」

 

そう言うと左馬介は懐から破魔鏡を取り出した。

 

「何を強化したい?」  

 

「えっと…魂を注ぐとどうなるんですか?」

 

「もっと強い武器や防具に強化されるの!左馬介の鬼の武器に匹敵するぐらいね!」

 

「じ、じゃあ日輪刀を強化してくれませんか?」

 

「分かった。数珠と刀を貸してくれ」

 

師匠から受け取った日輪刀がどうなるのか少し不安だったが静音はその様子を見守っていた。左馬介は破魔鏡を片手に数珠を静音の日輪刀に当てる。すると、数珠から魂が刀に注がれているのが肉眼で分かった。

 

「終わったぞ、受け取れ」

 

魂を注ぎ終えたのか左馬介は日輪刀を静音に手渡した。気になって刀を少し抜いてみると先ほどとは全く日輪刀の姿に驚きを隠せなかった。

 

(すごい…どうなってるの!?)

 

刀身に今まではなかった赤い文字のような物が刻まれ、さらにほのかに青い光を帯びていた。傷だらけの跡もなくなり少し曲がっていた刀身も元通りになっていたのだ。

 

「これで強化は終わりだよ。後は実戦で試してみて」

 

「…うん、ありがとう!」

 

「その刀で鬼と幻魔をやっつけてね!」

 

その後、もう少し魂が残っていたので残りの魂は静音が着ている隊士服に使われることになった。新たな力を得た静音は次の戦いを今か今かと心待ちにしていた。

 

 

 

○登場アイテム

 

・力石

 

鬼武者の世界に登場する道具。不思議な念が込められている勾玉。使用すると生命力と基礎体力を向上させる効果がある。

 

 

※鬼武者全シリーズに登場。いずれも体力ゲージを少し増やす。

 

 

 

○登場武器・防具

 

・幻魔・日輪刀

 

幻魔の魂を注ぎ込まれて強化された静音の日輪刀。刀身に謎の赤い文字が刻まれ、常に青い光をほのかに帯びている。切れ味、硬度が大幅に上昇しており鬼の武器に匹敵するほどの力を持った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

・幻魔・鬼殺隊士服

 

幻魔の魂を注ぎ込まれて強化された静音の鬼殺隊の隊服。襟に赤い紋様が刻まれ、表面の生地が当時の技術では再現できない特殊な繊維に変化している。従来の着心地や動き易さはそのままに上弦の鬼の攻撃にも耐えられるほどの防御力と耐久力を持つ。

 

 

【挿絵表示】

 

 




次回は遊郭編に突入です!

今回はめっちゃ書いたので疲れました…
次話も気長にお待ち下さい!
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