鬼滅の刃 鬼斬り武者   作:戦国のえいりあん

13 / 27
遊郭編突入です!
無限列車編はほとんどオリキャラ視点になってしまって迷走していましたが、区切りがついたので左馬介視点に物語を戻します!

ここから少しずつ左馬介が鬼殺隊と関わっていきます


第五章 吉原遊郭編
第十三話 吉原へ


 

無限列車の事件から四ヶ月後、任務を受けつつ修行の日々を送っていた炭治郎たちと幻魔について情報収集と調査を進める左馬介だったがそんな彼らに新たな任務が舞い込んできた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・蝶屋敷 屋敷玄関

 

 

「なほ、この手ぬぐいを運んで」

 

「はーい」

 

「きよ、三号室に薬湯を持って行って」

 

「分かりましたー」

 

 

今日も忙しそうに蝶屋敷の女の子たちが慌ただしく動き回っている。そんな中、任務を受け準備を整えたカナヲが屋敷の玄関にやって来た。

 

「カナヲ、任務に行くの?気をつけてね」

 

「………うん」

 

アオイの言葉にカナヲはこくりと頷いた。少し前は頷くだけで無言だった彼女だが最近では簡単に言葉を返して時折笑顔も見せるようになっていたのだ。その時、蝶屋敷の玄関の扉が勢いよく開かれた。

 

「邪魔するぜ」

 

「…え?」

 

「……!」

 

入ってきたのはノースリーブの隊服に顔には赤い化粧を塗り、派手な装飾の髪留めを身に着けた大柄の男だった。筋骨隆々の長身で背中に巨大な刀を二本指している。

 

「緊急任務ですぐに女性隊員が必要だ。手が空いている奴を連れて来い」

 

「す、すみません。ここには任務でお役に立てるような隊士はいないんです」

 

「……」  

 

アオイの話を聞くと男はカナヲを見るが彼女が任務中なのを知っているのか渋い表情をしている。

 

「あ〜そういやお前は別の任務があったな…仕方ねぇな、じゃあお前だ。ついて来い」 

 

「…え!?あ、あのっ…!」

 

「役に立たねぇのは分かったが、いないよりマシだ。ほら行くぞ」

 

理由もろくに説明せずに男は無理矢理にでも連れて行こうとアオイの腕を掴むが横から男の手首を掴んでそれを阻止した者がいた。

 

「…あ?」

 

「手を離せ」

 

「さ、左馬介さん…!」

 

「ちょっとアンタ!アオイをどこに連れていくつもりよ!」

 

連れ去られようとしていたアオイを救ったのは騒ぎを聞きつけてやって来た左馬介だった。男は左馬介を睨みつけるが一瞬でその気配に気づくと思わず目を見開いた。

 

(この気配…コイツ、鬼かっ!?)

 

男はもう片方の手で背中の刀を抜こうとするがそれよりも速く動いた左馬介は刀を抜くよりも速く腰に持っていた小太刀を抜き男の喉元に突き付けた。

 

「…動くな、少しでも動けば容赦はせん」

 

(速ぇ…!忍びの俺が反応できなかっただと…!?)

 

小太刀を突きつけられた男はゆっくりと刀とアオイの腕から手を離すと少し距離を取った。その直後、アオイたちを守るように左馬介が前に立つ。

 

「誰だ貴様は?」

 

「おいおい…そりゃド派手にこっちの台詞だ。なんで胡蝶の屋敷に鬼がいるんだよ」

 

「俺は明智左馬介秀満だ。訳あって鬼殺隊の鬼退治を手伝っている者だ。確かに俺は鬼の力を持つが人に危害は加えない」

 

「はぁ?鬼が鬼退治だと…?」

 

男は如何にも怪しそうに左馬介を睨む。しかし、後ろにいるアオイたちが怖がりながら左馬介の後ろに隠れている光景を見て彼が普通の鬼とは違うことを何となく男は察していた。

 

(胡蝶の屋敷に鬼がいるって噂を聞いてたが、本当だったとはな。しかもコイツ…かなりやりやがる…!)

 

元忍びである自分に刀を抜かせる暇を与えないほどの反応を見せるなど只者ではない。下手をすればこちらが殺られると思ってしまうほどの威圧感を目の前の左馬介から感じていた。

 

「俺は"音柱"宇髄天元様だ。お前のことは後で報告するとして…とりあえず後ろの女どもをよこせ」

 

(音柱?そうか、柱の剣士か…)

 

「何故アオイを連れていく。この子は戦えん」

 

「そうよ!他にも戦える剣士はいるでしょ!何でアオイなのよ!」

 

「任務で女の隊員がいるんだよ!継子じゃねぇ奴は胡蝶の許可を取る必要はねぇだろ」

 

理由は不明だがどうやら天元は女性隊員を必要としているようで

すぐにでも彼女たちを連れて任務に向かいたいようだ。もちろん柱の剣士である天元が向かわなければならない任務となれば相当危険な任務であることは容易に想像がつく、そんは危険な任務に戦えないアオイたちを向かわせるなど出来なかった。

 

「人手がいるのか?」

 

「ああ、時間が惜しい。邪魔するなら容赦しねぇ」

 

「なら、俺が行こう。それなら問題ないだろう」

 

「…ああ?」

 

予想外な返答に天元は驚いた。現状ではこの左馬介という鬼をまったく信用できないが、すぐにでも人手が欲しい天元からすれば願ってもない話だ。それに素性はどうあれ彼ほどの実力を持つ者が手を貸してくれるなら悪い話ではないと天元は渋々納得した。

その時、天元の背後にある玄関の扉が勢いよく開かれ大声と共に姿を現した者がいた。

 

「話は聞かせてもらったぜ!この伊之助様に任せろ!」

 

「アオイさんたちはいかせない!代わりに俺たちが行く!」

 

「ア、アオイちゃんを危険な目にあわせるのは許さないぜ!お、俺が代わりに行くぞ!」

 

「待ってください!女の隊員が必要なのですよね?なら私が行きます!」

 

現れたのは玄関越しに左馬介たちの話を聞いていた炭治郎たちかまぼこ隊と静音だった。四人とも任務帰りで偶然近くで合流して一緒に蝶屋敷に帰ってきたところだったのだ。

 

「炭治郎さん…!静音…!」

 

「……」

 

「お願いします!私がアオイの分まで頑張ります!だから…!」

 

そんな意地でも彼女たちを連れていこうとしていた天元から予想外の反応が帰ってきた。  

 

「あっそォ、じゃあ一緒に来ていただこうかね」

 

(…?随分と簡単に引き下がったな)

 

「ただし、絶対俺に逆らうなよ。お前ら」

 

こうして天元の任務に左馬介、静音、かまぼこ隊が向かうことになり一同は早速出発準備を整えていた。左馬介は具足と刀を身に着け、上にそれを隠す外套を被り支度を済ませると門前で未だに準備している炭治郎たちを待っている。静音はすでに準備を終えたのか左馬介と共に他の三人が来るのを待っている。

 

「すみませんっ…!私のせいで…」

 

「気にするな、戦えないお前たちを戦場に行かせるわけにはいかない」

 

「私が戦えたら…左馬介さんや炭治郎さんたちは行かなくてよかったのに…」

 

自分が戦えないばかりに他の者が危険な任務に行かなければならなくなったことに罪悪感を感じているのかアオイは涙目で左馬介に謝罪するがそんな彼女の肩を持ちながら左馬介は優しく声をかけた。

 

「申し訳ないと思うのなら、自分にできることをしっかりやるんだ。お前にしかできないことがあるだろう」

 

「あ…」

 

「そうだよ、アオイと蝶屋敷のみんなが治療してくれるから鬼殺隊の剣士たちは全力で戦えるんだから。元気出しなよ!」

 

「大丈夫。私がアオイの分まで頑張るから!」

 

「静音…ありがとう。左馬介さん、阿児…気をつけてくださいね」

 

今ではお互いに呼び捨て合えるほどの仲になった二人は笑顔で拳を合わせて互いの無事を祈っていた。その後、準備を整えた炭治郎たちが門前にやって来ると一同は天元の案内で目的地へと歩みを進めた。その途中、何処へ行くのか気になった伊之助が天元に尋ねた。

 

「で?どこ行くんだ、オッサン」

 

「日本一、色と欲に塗れたド派手な場所…鬼の棲む"遊郭"だ」

 

目的地は東京都にある吉原…すなわち吉原遊郭だった。男と女の見栄と欲が渦巻く夜の街、炭治郎たちの新たな目的地は遊郭の花街だ。

 

「色街か」

 

「ヘぇ〜四百年後の江戸にはそんな場所ができてるんだ。やっぱりいつの時代でもそういう町はあるんだね」

 

「…なぁ、紋逸、権八郎、イロマチってなんだよ?」

 

「俺も知らないな、善逸は分かるか?」

 

「えっ!?いやホラ!アレだよ!あそこだ…!わかんない…?し、静音ちゃんは分かるよね?」

 

「…善逸君?そこで何で私に聞くの?」

 

色街がどんな場所なのか分からない炭治郎と伊之助に遠回しに説明する善逸と静音。そんな一同の前で天元が高らかに言い放った。

 

「いいか?俺は神だ!お前らは塵だ!まずはそれをしっかりと頭に叩き込め!!ねじ込め!!俺の機嫌を常に伺い、全身全霊でへつらえ!そして、もう一度言う…俺は神だ!」

 

自信満々に言い放つ天元の姿を一同は唖然とした表情で見たまま固まっている。そんな天元に対して炭治郎が挙手をして質問した。

 

「質問です!具体的には何を司る神なんですか?」

 

(…えっ!?質問するとこそこなの!?炭治郎君!)

 

「いい質問だ、お前は見込みがある」

 

(…アホの質問だよ、見込み無しだろ)

 

「俺は派手を司る神…"祭りの神"だ」

 

少し格好つけて言う天元を善逸と阿児が悲しそうな目で見ながら内心悪態を呟いた。

 

(アホだな、間違いなくアホを司ってるな)

 

(なんか…ゴーガンダンテスみたいな変な奴だなぁ、ひょっとしたら気が合うかも?)

 

「お前ら、花街までの道のりの途中に藤の家があるから、そこで準備を整える。付いて来い」

 

そう言うと天元は振り向くが、その直後風と共に天元の姿が消えた。正確には動きが速すぎて走り出す姿すら見えなかったのだ。

 

「えっ?消えた!!」

 

「速ぇ!?」

 

「すごい…!見えなかった」

 

すでに距離が離れ過ぎて天元の姿が胡麻粒みたいになっていた。その後を慌てて炭治郎たちも追いかける。

 

「これが祭りの神の力か…!!」

 

「いや、あの人は柱の宇髄天元さんだよ」

 

「いやいやっ!?早く追わないと!」

 

「すっご〜い!アイツ速いね」

 

「あの動き…やはり忍びか、それもかなりの手練れだ」

 

「行きましょう左馬介殿、みんな!」

 

その後、一同は天元を追って最初の目的地である吉原へ向かう途中にある藤の家に到着した。家にたどり着くと一同は天元の用意した一室に通された。そこで天元から任務の詳細を聞かされていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・東京都 郊外 藤の家

 

 

「遊郭に潜入したらまず俺の嫁を探せ、俺も鬼の情報を探る」

 

「とんでもねぇ話だぁ!!」

 

「あぁ?」

 

「ふざけないでいただきたい!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!!」

 

「はぁ?何、勘違いしてやがる」

 

重要な任務だと聞いて来てみれば内容は天元の嫁を探すことだと聞かされた一同は渋い顔をしていた。特に天元の言う嫁探しを恋愛相手探しだと勘違いしている善逸は興奮して別の意味で激怒していた。

 

「馬ァ鹿かテメェ!!俺の嫁が遊郭に潜入して鬼の情報収集に励んでたんだよ!!定期連絡が途絶えたから俺も行くんだよ!」

 

(あぁ…)

 

(嫁探しってそういう意味…)

 

「…そういう妄想してらっしゃるんでしょ?」

 

「クソガキが!!」

 

善逸の一言に痺れを切らした天元は大量の手紙の束を善逸に勢いよく投げつける。長期間潜入して調査していたのか手紙の量がかなり多いように見えた。

 

「随分多いですね、かなり長い期間潜入されてるんですか?」

 

「三人いるからな、嫁」

 

「三人っ!?さ…三!!?テメッ…テメェ!!なんで嫁、三人もいるんだよ!ざっけんなよ!!」

 

ぶち切れた善逸に同じくぶち切れた天元は強烈なボディブローを食らわせる。その一撃に気絶して完全に伸びている善逸を見た炭治郎と伊之助は思わず口を閉じる。

 

「別に嫁が三人いるなんて変なことじゃないでしょ?側室を持つなんて戦国時代じゃ当たり前だったし」

 

「えっ!?そ、そうなのか!?」

 

「阿児…それは昔の時代の話でしょ?今の時代は一夫一婦制が制定されて一人女性としか夫婦になれないの」

 

「へぇ〜そうなんだ。戦国時代じゃいつ世継ぎが死んじゃうか分からないから側室を多く作って子をたくさん生ませる習慣があったんだけど…時代の流れで変わったんだね」

 

「叔父の光秀のように側室を持たない者もいたがな」

 

(…聞いた時は信じられなかったがコイツら何者なんだ?それにコイツ…さっき光秀って言ったな。光秀って…あの"明智光秀"のことか?いったいどうなってんだ…?)

 

藤の家に着いた時、左馬介と阿児の二人から出で立ちと蝶屋敷にいた理由を簡単に聞いていたが、もちろん信じられるはずもなく半信半疑で疑っていたのだが、これまでのやり取りや言動から見ると彼らが普通の人物ではないことを嫌でも信じなければならなかった。

 

一方、改めて時代の変化を感じた左馬介と阿児は少し難しそうな顔をしていた。ちなみに左馬介の叔父である明智光秀は戦国時代にも関わらず正室である煕子だけを愛し続けた愛妻家としても有名だ。天元の嫁からの手紙には遊郭に来る時は極力目立たないようにと強く念押しされており、その対策として天元はある作戦を考えていた。

 

「まあ、変装だ。不本意だが地味にな。お前らにはあることをして潜入してもらう」

 

天元の話によれば三人の嫁は優秀なくノ一で店の裏側…すなわち内側に潜入していた。調査の結果、怪しい店は三つに絞ってあるそうなのだ。炭治郎たちの任務は変装して店に潜入し彼女たちを探し出すのが目的だ。

 

「ときと屋の"須磨"、荻本屋の"まきを"、京極屋の"雛鶴"だ」

 

「嫁もう死んでんじゃねぇの?」

 

「ちょっ…伊之助君っ!!?」

 

その直後、目にも留まらぬ速さで天元のボディブローが伊之助の腹部に直撃し善逸の上に重なるように倒れた。

 

「…馬鹿だなぁ、少しは言葉を選びなよ」

 

「あはは…」

 

「……」

 

「よーし、それじゃ今から俺がお前らを立派な遊女に仕立ててやる。まずは伊角からだ」

 

「…えっ!?」

 

今いる鬼殺隊の中で唯一の女性隊員である静音が任務の鍵となると考えている天元はまず彼女の変装させようと考えたのだ。しかし、幼い頃から訓練に明け暮れ服やお洒落に縁がなかった静音は少し戸惑っていた。ちなみに阿児も女性であるがどう考えても背丈が足りないので候補から外されていた。

 

「ほら、来い。時間がねぇんだ」

 

「ま、待ってください…!こ、心の準備が…」

 

「今更、何言ってんだよ」  

 

「ち、ちょっと…!!」

 

天元に引っ張れらながら隣の部屋に連れて行かれる静音を阿児は手を振って見送った。残された左馬介たちは着換えが終わるまで待つことになったがその時、隣にいた炭治郎が左馬介に声をかけた。

 

「あの、明智さん?」

 

「どうした?」

 

「前から色々と聞きたいことがあったんです。しのぶさんから接触禁止命令が出てましたからずっと話せなかったんですが…」

 

実は炭治郎たちはしのぶから左馬介と接触禁止命令が出ていたこともあって会話したことがあまりなく、お互いに自己紹介もろくにできていなかったのだ。もちろんこれは炭治郎の妹である禰豆子の処遇をめぐって行われた柱合会議の有様を目撃しているしのぶの配慮だった。

 

「そういえば、自己紹介をしていなかったな。俺は明智左馬介秀満だ。よろしく頼む」

 

「俺は竈門炭治郎です。こっちは善逸、こっちが伊之助です。まずは…」

 

静音の着換えが終わるまで少し時間が掛かりそうだったので、左馬介と炭治郎は自己紹介も含めてお互いに話を始めたのだった。一方、隣の部屋に連行された静音は天元から遊女に変装するために着物に着替えていた。

 

「よ〜し。始めるぞ。脱げ」

 

「…あの、本当に宇髄様がするんですか?」

 

「ああ?そう言ってるだろ。この宇髄天元様にかかればどんな女もとびっきりの美女に仕立てられるぜ?」

 

「……」

 

「少なくともお前より俺のほうが仕立てるのは上手い、はっきり言ってお前の服装は地味なんだよ」

 

「んなっ!?」

 

はっきりとお洒落の才能がないと言われて静音は反論しようとしたが、着物の仕立てに縁の無かった静音はぐぅの音も出なかった。かつて叔母からいつか来る嫁入りの為にもっとお洒落や身だしなみに気を遣うべきだと注意されたことを静音は思い出していた。

 

「まずその鉢金を外せ!後、髪も解け!お前は素体は悪くねぇから仕立て方によっては化けるぜ」

 

「うう…でもぉ…」

 

「焦れってぇなあ、いいから取れ!」

 

「あ…!ち、ちょっと、やめてくださいよ!」

 

無理矢理、巻いている鉢金を取られた静音は顔を真っ赤にして額を隠している。その後、下着姿になった静音に天元は手慣れた手付きで着物を着せていく。

 

「…変なとこ触ったら殴りますからね!」

 

「誰が触るか!馬鹿かテメェは!いいからじっとしてろ」

 

その時じっと天元を見ていると手付きが異常に速く、まるで慌ててやっているようにも見えた。きっと彼はできる事ならすぐにでも嫁を助けに行きたいはずなのだが、それを必死に抑えているのだと静音は悟った。

 

「必ず宇髄様の奥方を助けます。だから、頑張りましょう!」

 

「…ああ、頼む」

 

一方、静音の仕立てが終わるまで部屋で待っていた左馬介たちは自己紹介の後にそれぞれ気になったことを質問していたのだが、先ほどの一件でアオイたちを守っていた光景を見ていたこともあって左馬介と炭治郎はすぐに打ち解け、軽く談笑をしていた。  

 

「ええっ!?明智さんは海外に行ったことがあるんですか?」

 

「ああ、叔父の光秀に勧められて二十三の時に日ノ本を飛び出した。海の向こうで俺は様々な物を見て知った。異国の言葉と文化、そして思想…日ノ本とはまったく異なる光景が世界に溢れている」

 

「すげぇ…日本の外なんて考えたこともなかったな」

 

「なぁ!サムライのオッサン!海の向こうには強ぇ奴はいるのか?」

 

「ああ、お前よりも強い猛者が世界にはたくさんいる。もちろん俺より強い者もな」

 

「本当か!よーし!山の王の次は世界の王を目指すのも悪くねぇぜ!」

 

「…無理に決まってるだろ。お前、世界がどれだけ広いか知ってんのか?」

 

「そうそう、アンタがどんなに頑張っても世界の王になんてなれっこないよ。それに世界を繋ぐ海はものすご〜く広いんだから!」

 

そんな時、談笑する一同の前の襖が勢いよく開かれた。着換え終えた静音と天元が部屋から出て来たのだ。仕立てをした天元が自信気な表情をしていた。

 

「よーし!出来たぜ!さすがは俺様だ」

 

「…え、え〜と…似合ってるかな?」

 

天元の隣には仕立てを終えた静音が立っていたが、その姿はまるで別人と思えるほどに変わっていた。いつもの一本結びを解き、鉢金を外した長髪の上に小さな髪飾りを付け、白い布地に青い桔梗柄の着物を身に着け、顔にはうっすらと化粧が施されている。天元によって立派な遊女に仕立てられた静音がそこにいた。

 

「え?…静音だよな?」

 

「イヤァァァァッ!!?か、可愛い!!すごく可愛い!!よく似合ってるよ静音ちゃん!!」

 

「おい!惣一郎、紋逸…コイツ誰だ!?」

 

「ち、ちょっと、三人とも驚きすぎだよ」

 

普段の姿を見慣れている三人は急に女らしくなった静音を見て固まっているのに対して、慣れない格好を見られるのが恥ずかしいのか静音の頬が赤くなっている。お守り代わりでもあった鉢金を外していると落ち着かないのかどこかそわそわしている様子だった。

 

「わぁ…可愛いね!やるぅ!」

 

「ああ、着物姿が様になっているな」

 

「そ、そうですか?ありがとうございます…!」

 

「まぁ、俺様の手にかかれば朝飯前だ」

 

「その…ありがとうございます。宇髄様」

 

「さぁて、次はお前らの番だな」

 

そう言うと天元は炭治郎たちに視線を向ける。静音以外に女性隊員がいない以上彼らが女装して遊郭に潜入する他ない。今度は炭治郎たち三人が隣の部屋に連行されていった。

 

「えぇ…炭治郎たちが女装するの?ぜったいバレると思うけどなぁ」

 

「仕方ないよ、他に女性隊員はいないんだから。阿児は背丈が小さ過ぎるし…」

 

「小さくないやい!あたいがその気になれば静音と同じぐらいの大きさになれるんだから!」

 

「そ、そうなの…?」

 

「ていうか…女装するなら左馬介のほうがぜったい似合うと思うよ!」

 

「……」

 

「えぇ…」

 

阿児の言葉を聞いて明らかに嫌そうな表情をする左馬介とその実年齢を知っている静音はなんとも言えない表情をしていた。その後、炭治郎たちの仕立て完了した天元とその一同は吉原遊郭に潜入するために改めて東京都へと歩みを進めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・東京都 吉原遊郭 花街

 

藤の家から数時間後、一同は目的地である吉原へと到着していた。昼であるにも関わらず街は活気で満ちあふれ道路が埋め尽くされるほどの人が歩いている。そんな人込みの中をある集団が歩いていた。その集団は遊郭の店の一つ"ときと屋"の前で足を止め、店の女将と旦那と何やら話していた。

 

「いやぁ、こりゃまた…不細工な子たちだね……真ん中の子を除いて」

 

二人の目の前には潜入するため遊女へと変装した炭治郎たちの姿があった。しかし、真ん中にいる静音以外の三人は驚くほどに不細工で女将が思わず声に出してしまうほど酷い姿だった。厚化粧で顔を塗りたくられギリギリ女性と思われるレベルの変装だった。ちなみに炭治郎たちの女装姿を見た静音と阿児は死ぬほど大笑いし、現在も三人の姿を見るたびに笑いを堪えていた。

 

「ちょっと、うちでは…」

 

「先日、新しい子が入ったばかりなんだ。悪いが…」

 

「…まぁ、一人ぐらいならいいけど」

 

「…!?」

 

女将が少し頬を赤らめながら見ていた先には化粧を落とし装飾を外した天元の姿があった。その姿はもはや別人とも言えるほどの容姿をした色男だった。

 

「じゃあ、一人頼むわ。悪ィな奥さん」

 

「じゃあ、真ん中の緑髪の子を貰おうかな。可愛いし、いい子そうだし」

 

「…え?えっと…よろしくお願いします!」

 

早速、就職が決まった静音こと"静子"はときと屋に潜入し、天元の嫁の一人、須磨を探すことになった。静音をときと屋に預けた後、天元たちは次の目的地である"京極屋"に向かっていた。

 

「ほんとにダメだなお前らは…二束三文でしか売れねぇじゃねぇか」

 

「当たり前でしょうが!!俺が店の人の立場なら迷わず静子ちゃんを選びますよ!!」

 

「そもそも、俺たちは男ですし…」

 

「ぷぷ…もう駄目、笑い死にそう…あっはっは!!」

 

「…笑いすぎだ、阿児」

 

「オイ!見ろ!なんかあの辺ウジャウジャ集まってんぞ!」

 

伊之助が指差す先に何やら人集りができていた。盛大な音楽に包まれ大勢の人たちに囲まれながら中央をゆっくりと進むのは豪華な着物に上品な髪飾りと化粧に身を包んだ美しい遊女だった。一目でただの遊女ではないことが分かるほどに派手で豪華な光景だ。

 

「あーありゃ花魁道中だ。『ときと屋』の"鯉夏花魁"だな」

 

「嫁!?もしや嫁ですかっ!?」

 

「嫁じゃねぇよ!!一番位の高い遊女が客を迎えに行ってんだよ!…それにしてもド派手だな、いくらかかってんだ?」

 

「へぇ〜綺麗な人だね。あたいもあんな風になりたいなぁ」

 

「……」

 

「歩くの遅っ!山の中にいたらすぐ殺されるぜ」

 

そんなことを言って行列を見ていた伊之助を険しい表情で凝視する女性がいた。聞けばその女性は荻本屋の遣手らしく伊之助に興味を持ったのか天元に早速、話を持ちかけていた。

 

「ちょいと旦那、この子うちで引き取らせて貰うよ。いいかい?」

 

「ん?あんたは?」

 

「アタシは荻本屋の遣手…アタシの目に狂いはないのさ」

 

「荻本屋さんか!そりゃありがたいぜ」

 

こうしてもう一つの目的地である荻本屋に伊之助こと"猪子"を潜入させた天元は最後の目的地である京極屋に炭治郎か善逸のどちらかを潜入させるべく向かった。

 

「はぁ…ホントに大丈夫なのか?」

 

「まあ、仕方ないさ。静音と伊之助も頑張ってるし、俺たちも頑張ろう!」

 

「お前は前向きだよな、羨ましいよ」

 

「ほら!ぼさっとすんな、行くぞ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・数時間後

 

あれから数時間後、京極屋を訪れた天元たちは同じように二人を雇って貰うように頼み込んでいた。その結果、善逸こと"善子"が京極屋で雇われることになり、これで当初の目的であった怪しい店にそれぞれ隊員を潜入させることができたのだった。しかし、唯一残された炭治郎は天元に連れられてある場所へと向かっていた。

 

(俺だけ残ってしまった…それにしても、どこに行くんだ?)

 

「炭治郎、お前にはこれからある場所に潜入して調査してもらう」

 

「調査…ですか?」

 

「ちょっと、怪しい店はさっきの三つじゃなかったの?」

 

「ああ、そのはずだったんだが…」

 

話している間に目的地に着いたのか天元の足が止まる。一同の目の前には他の三つの店と同じ系列の店で表の看板には"星見屋"と記されている。どうやら天元が怪しいと睨んでいるのはこの店のようだった。

 

「ここに潜入して情報を集めろ。どんなことでもいい」

 

「ここにも鬼が潜んでいるんですか?」

 

「ああ…可能性は高い。この店はつい最近できた店なんだが、どうにもきな臭い」

 

「どう怪しいの?」

 

「…異様に高い遊女への給与に新店舗にしては妙に多い客の数、競争が激しいこの吉原遊郭で短期間の間にこれだけ人気が出る店なんて普通じゃ有り得ねぇ」

 

天元の話によればこの星見屋は三ヶ月前ほどに新しくできた新店舗らしいのだが簡単に調査した結果、驚く情報が手に入ったのだ。この店で雇われている遊女への給与は吉原の遊女が貰える平均給与のおよそ五倍の金額であり、さらに店の利用金額も驚くほど安い破格の値段なのだ。

ここまではよいが問題は次の情報だった。

 

「この店で働いた遊女、利用した客が行方不明になる事件が多発している。俺も探ってみたが…尻尾は掴めなかった。お前はこの店に潜入して鬼の情報を探れ」

 

「…分かりました。任せてください」

 

「炭治郎、気をつけてね」

 

そう言うと天元は早速、店の扉を叩き声をかける。すると一人の女性が姿を現した。どうやらこの店の女将のようで紫色の豪華な着物に身を包み、頭には蝶を象った髪飾りを着けていた。

 

「よくぞいらっしゃいました。星見屋にようこそ」

 

「悪いが、コイツを雇って貰いてぇんだ。働き口を探しててな」

 

「あら、そうなのですか。今、人手が足りなくて困っていたのよ。喜んで雇わせて貰います」

 

「そうか!それじゃ頼む、炭子達者でな」

 

「はい!一所懸命、頑張ります!」

 

その時、女将の目が天元の後ろにいた左馬介と目があった。すると女将の表情が一瞬だけ険しい表情に変わった。

 

「……」

 

「…?俺の顔に何かついてるか?」

 

「い、いえ…何でも、人違いだったみたいです。申し訳ありません」

 

「そうか」

 

こうして炭治郎を星見屋に潜入させた天元は様子を見るために潜伏場所に使っている宿場に向かうことになり左馬介も天元に同行することになった。

 

「ひとまず様子見だな」

 

「はぁ〜心配だなぁ。特に伊之助の奴は大丈夫かな?」

 

「で?お前はこれからどうするつもりだ?明智」

 

「…町を調べてみる。少し確かめたいことがある」

 

「妙な真似はするなよ?俺はまだお前を信用した訳じゃねぇからな。今は手を貸してもらうがこの任務が終わったらお前のことは本部に報告させてもらう」

 

「ああ、まずはこの町の鬼を斬るのが先決だ。それまでは共に戦うぞ」

 

「…不本意だが仕方ねぇ、何かあったら呼べ」

 

こうして一時的に協力することになった左馬介と天元はそれぞれ行動を開始したのだった。そんな中、町を調べている左馬介はあることを考えていた。

 

「……」

 

「左馬介?どうしたの?」

 

「…いや、なんでもない」

 

「そう?変なの」

 

(あの女将、どこかで見たような…気のせいか?)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・東京都 吉原遊郭 星見屋

 

その頃、星見屋で雇われることになった炭治郎は女将に店の中へ案内されていた。しばらく歩くと部屋に通された炭治郎は室内の豪華さに驚いていた。部屋の面積は少ないが美しい装飾が施された家具と肌触りのよい布団と綺麗な畳。鏡や化粧道具の置かれた小さな机など入ったばかりの新参者に提供する部屋とは思えないほど豪華だった。

 

「ここが炭子、あなたの部屋よ自由に使って」

 

「えっと…こんな豪華な部屋を使ってもいいんですか?」

 

「ええ、ウチで働く遊女の子もお客様にも笑顔で楽しんでもらいたいからね。遠慮しないで?」

 

「ありがとうございます!あの、女将さんの名前は?」

 

すると女将は少し不気味な表情でにやりと笑いながら話した。

 

「…私は"ぬい"っていうのよろしくね」

 

「ぬいさんですね、これからよろしくお願いします!」

 

自己紹介を終え仕事について説明した後、ぬいは炭治郎を部屋に残して去っていった。その後、一人残された炭治郎は浮かない表情で考え事をしていた。

 

(あのぬいさんって人、なんか変だったな…)

 

炭治郎はあのぬいという女性と一緒にいて少し違和感を覚えていた。

 

(…血と虫みたいな匂いがした。なんだったんだ?)

 

こうして吉原遊郭へと潜入した炭治郎たちの新たな任務が始まったのだった。

 

 

 

 




次話も頑張って執筆中です!
気長にお待ち下さい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。