今回はおまけがあります!
吉原にやって来た炭治郎たちは行方不明になった宇髄天元の嫁を探すため遊郭に潜入し行方を追っていた。だが愛憎渦巻くこの街の裏に巨大な黒幕が潜んでいるなど彼らは知る由もなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・東京都 吉原遊郭 ときと屋
「静子ちゃん、これを運んでくれる?」
「はい、分かりました!」
遊女に変装しときと屋に潜入していた静音は現在、禿(遊女見習い)として店の雑務を行っていた。静音も目的はこの店に潜入して行方が分からなくなった天元の嫁の一人である須磨の行方を探ることだ。与えられる業務をこなしながら静音は須磨の情報を聞き出していた。
「静ちゃんすごーい!力持ちだね!」
「ええ、こう見えてすごく鍛えてるから力仕事なら任せて」
「それに可愛いし、接客もすごく上手いからすぐに一人前になれるよ!」
「そ、そうかな…えへへ」
元々、幼少期から叔母の宿場の手伝いをしていたことから雑務や接客には手慣れており一時期は宿場の小さな看板娘のような存在で人気になったこともあったのだ。てきぱきと仕事をこなし愛想や人当たりもよい静音はすぐに店員や他の禿の女の子たちとも親しくなっていた。
「静子ちゃん、これを鯉夏花魁の部屋に運んでくれない?」
「分かりました!鯉夏花魁の部屋ですね」
大量の荷物を静音は軽々と持ち上げ、足早に鯉夏花魁の部屋に向かう。少し迷いながらもなんとか部屋の前にたどり着いた静音は荷物を下ろそうとするが中にいた禿の女の子がひそひそ何か話していた。
「ねぇねぇ、京極屋の女将さん窓から落ちて死んじゃったんだって」
「怖いね…"足抜け"していなくなるお姉さんも多いしね」
(足抜け…?確か借金を返済せずに逃げる遊女のことを言うんだっけ?須磨様について何か関係があるかも!)
「ねぇ、その話ちょっと詳しく…」
「噂話はよしなさい。足抜けした娘が逃げ切れたなんて、誰にも分からないわ」
襖の奥から出てきたのは先ほど街の大通りを大勢の人々と歩いていた鯉夏花魁だった。
「荷物を運んでくれたのね、ありがとう」
「いえ、あちらがお荷物です」
「こっちへおいで、お菓子をあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
静音にお菓子を渡しているのを見て他の禿の女の子たちもお菓子が欲しいと鯉夏花魁に頼んでいた。だが先ほどの花魁の真剣な表情や女の子たちの噂話から察するにこの街には何かあると静音は感づいていた。
(うーん…直接聞くと怪しまれるし、どうしようかな…仕方ない、今だけは昔の私に戻ろう!)
「あの!須磨花魁について何か知りませんか?」
「え?あなた、須磨ちゃんとはどういう関係なの?」
「私の従姉妹なんです!一人で寂しいから会いたいって言われて会いに来たんですが連絡が取れなくて…鯉夏花魁は何かご存知ですか?」
「そうだったの…須磨ちゃんに従姉妹がいたのね」
(…全部、嘘だけどね。昔はよく噓ついてたくさんイタズラしてたなぁ)
以外にも静音は幼い頃は悪戯好きな一面があり、噓や様々なイタズラで大人を困らせていた時期があったのだ。静音の噓を信じた鯉夏花魁が何か思い当たることがあるかのように話し始めた。
「ごめんね、須磨ちゃんは足抜けしてお店にはもういないの。でも変なのよね、しっかりした子だったし足抜けするような人じゃなかったけど…」
「そんな、では姉上はどこに…」
「実は須磨ちゃんの日記が見つかってそこには足抜けするってあったの。無事に逃げ切れていればいいんだけど…」
(日記は多分、偽装だ…足抜けって言えば人がいなくなっても怪しまれない。これは黒だね。鬼はこの街のどこかにいる…!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・吉原遊郭 街中
一方、天元と別行動を取っていた左馬介と阿児は独自に情報収集と調査を行っていた。阿児によれば場所までは分からないがうっすらと鬼の気配が感じられたことからこの街に鬼がいるのは間違いない。外から調べられることはないか街の裏路地や人通りの少ない場所を中心に調査していた。
「それにしても、こんな大きくて騒がしい街に隠れるなんて随分と大胆だね」
「隠密を得意とする鬼か…あの忍びの男の追跡ですら煙に巻くとは侮れんな」
「とにかく、あたいたちにできることをやろうよ!アイツにあたいたちのすごいところを見せてあげるんだから!」
あれから数日後、左馬介は街中を調査していたが気になる情報は見当たらない。長期間潜入しているだけあってほとんどの情報は天元やその嫁たちによって調査済であり、鬼の存在を匂わせる証拠や痕跡はなかった。あっという間に日が暮れ、辺りが暗くなり街の街灯が付き始めた頃、事件が起こった。
「ぎゃあああ!!?」
「…!!何だ!?」
「あっちだよ!左馬介!」
突如、裏路地の奥から男性の叫び声が聞こえてきたのだ。声のした方向に疾走し現場に向かうと腰を抜かした声の主である男の姿があった。
「大丈夫か!何があった」
「し、しし、死体が…!」
「こ、これって…!」
左馬介と男の前には見るも無惨に喰い散らかされた女性と思わしき死体があったのだ。もはや人の原型を留めておらず臓物とバラバラになった肉片が通路に広がっていた。引き裂かれた着物が被害者が女性であったことを物語っている。
「うぇ…酷い…」
「……」
「お、俺は知らねぇ…な、何も見てねぇ!」
恐怖のあまり男はその場から逃げるように去っていった。一人残された左馬介は死体をじっと観察しているとあることに気がついた。
(この喰い方、鬼じゃないな。やはり…)
「左馬介…どう?」
「鬼の仕業ではない。となると…」
「じゃあ、いつもの方法だね」
「ああ、目の前にいる」
実は左馬介には死体の上に浮遊する"あるモノ"が見えていたのだ。それは白い色をした魂のような物で普通の者には見えておらず阿児でもその姿を視認することはできるが会話をすることはできない。その魂のような存在に左馬介は声をかけた。
「おい、聞こえるか?」
『え?あなた…私が見えるの?』
「ああ、何があったんだ?」
そう左馬介は死者の魂を認識し会話することができるのだ。その理由は身に付けている"魂伝の数珠"という死者の魂と話すことができる道具と強い霊力を持っているからなのだ。
『化物に襲われたの…虫みたいな姿をした赤色の化物に』
「赤い虫のような化物?本当か」
『本当なの!いきなり通路の隙間から出て来たの!!』
左馬介は女性の魂から聞いた赤色の虫のような化物やこれまでの話を聞いてあることを思い出していた。これまで自身が戦ってきた中でそんな外見の幻魔は一匹しかいなかったからだ。
「分かった。信じよう」
『うう…明日、町から出て田舎に帰るつもりだったのに…母さん…父さん…ごめん…』
「すまん、助けらなかった。俺にできることがあれば言ってくれ」
『…ううん、大丈夫。最後にお兄さんに話を聞いてもらえてよかったよ。それより気をつけてね、さっきの化物もそうだけどこの街はかなり危険よ。お兄さんもすぐにこの街から離れたほうがいいわ』
「ああ、恩に着る」
『私、もう行かなきゃ…お兄さん、ありがとうね』
その言葉を最後に女の魂は空に登るように消えていきその後、完全に消滅してしまった。おそらく成仏したのだろう。先ほど聞いた話とこの惨状から左馬介の予想は確信へと変わった。
「阿児、どうやらこの街には幻魔も潜んでいるようだ」
「噓っ!?なんでアイツらがこの街に?気配は感じなかったのに…」
鬼だけでなく幻魔までもこの吉原に潜んでいることに驚きを隠せなかった。阿児の力でも探知できないほどの隠密行動に長けた幻魔なのだろう。おそらく幻魔の目的は新たな造魔を造るために人間を殺して死体を回収することだろう。さらに左馬介の勘ではこの吉原にどんな幻魔が潜んでいるのか予測がついていたのだ。
「恐らくだが、俺は一度その幻魔と戦ったことがある」
「え…?じゃあ、あのバルドスタンって奴によって蘇ったとか…?」
「そんな所だろう。もしその幻魔が潜んでいるとなると厄介だな…」
(そうか、思い出したぞ。見覚えがある顔だと思っていたが、あの女将の正体は"奴"か…!)
左馬介が思い浮かべていたのは炭治郎が潜入していた星見屋の女将であるぬいのことだった。これまでの情報をまとめた結果、あの女将の正体を見破った左馬介は今後の対策を阿児と共に考えることになった。
(天元の話ではあの星見屋ができたのは三ヶ月前と言っていたな…となると巣を作っている可能性が高いな)
「左馬介、どうするの?本当に星見屋の女将が幻魔なら潜入してる炭治郎が危険だし、最悪の場合取り返しがつかないよ」
この人通りの多い街で幻魔が暴れ出してしまえば多数の被害者が出てしまう。だが、こちらに正体が知られたことは幻魔もまだ気づいていないはずだ。行動するなら気づかれていない今が好機だと左馬介は閃いた。
「阿児、ひとまず天元に報告だ。炭治郎たちとも情報を共有しておいたほうがいいだろう」
「そうだね、とりあえず戻ろうよ」
その後、死体を警察に報告し後始末を済ませると左馬介はその場を後にすると天元のいる宿場へと急いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・東京都 吉原遊郭 宿場
「だーかーらー!俺んとこに鬼がいるんだよ!」
「いや…伊之助、ちょっと待ってくれ…」
「こういう奴がいるんだよ!こういうのが!」
「えっと…それは何かのものまね?」
「ちげーよ!鬼だって言ってんだろ!」
この場所は天元が隠れ家として使用している宿場であり、定期連絡をするために指定された時刻に店を抜けてきた炭治郎たちが屋根の上に集合していた。その場に左馬介も少し遅れてやって来た。
「待たせたな」
「左馬介殿!阿児!」
「サムライのオッサンも来たか、よーし!さっそく俺のいる店に行くぞ!」
「そろそろ宇髄さんと善逸も来るからそれまで待って…」
「…善逸は来ない」
するといつの間にか天元が炭治郎たちの前に姿を現していた。突如、音もなく現れた天元にも驚いたが彼の発言にも驚きを隠せなかった。
「善逸が来ないって、どういうことですか?」
「お前たちには悪いことをしたと思ってる。俺は嫁を助けたいが為にいくつもの判断を間違えた。善逸は行方知れずだ。昨夜から連絡が途絶えている」
「そんな…善逸君が」
「噓…」
聞けば京極屋に潜入していた善逸から連絡が途絶え、行方不明になっていたのだ。伊之助も鬼を見たと言っていたが現時点でどの情報が正しいのか判断するのは困難だった。
「…お前らはもう花街から出ろ。階級が低すぎる、ここにいる鬼が上弦だった場合は対処できない」
「ま、待ってください!私たちはまだやれます!」
「静音の言うとおりです!俺たちは…!」
「恥じるな。生きてる奴が勝ちなんだ、機会を見誤るんじゃない」
「待て、天元。少し話しておきたいことがある」
その場から去ろうとする天元を制止すると左馬介はこれまで集めた情報を天元たちに説明した。
「炭治郎が潜入している星見屋に幻魔という化物が潜んでいる可能性が高い」
「怪しいとは思ってたが…やっぱり黒だったか」
「鬼じゃないけど、放っておいたら危険だよ」
(…そういえば胡蝶の報告で幻魔って化物が那多蜘蛛山に出たって柱合会議で言ってたな。正直、信じられないが…仕方ねぇ)
一応、しのぶの報告によって鬼殺隊に幻魔の存在は知られていたが実際に戦って姿を見た隊士はごく一握りだったので未だに幻魔を見たことがない天元は半信半疑だった。
「…分かった。星見屋の方も調査しておく。その幻魔ってのが現れたらすぐに教えろ」
「ちょっと!アンタ一人でやるつもりなの?いくらなんでも無茶だよ!」
「悪いが、その幻魔ってのは後回しだ。まずは鬼の討伐を優先する」
「宇髄様!幻魔を甘く見てはいけません!奴らは鬼と同じく手強い相手です。下手をすれば鬼よりも厄介な敵かもしれません!」
この中の鬼殺隊員で唯一幻魔と戦闘経験がありその驚異をよく知っている静音は必死に反対していた。それでも信じられないのか天元はあまり乗り気ではなさそうだった。そんな彼に左馬介が提案した。
「星見屋についてだが、そちらは俺に任せてくれないか?」
「ああ?」
「幻魔は俺が片付ける。代わりにお前たちは鬼を頼む」
「…まあ、好きにしろ。言っとくが、こっちの足を引っ張るなよ」
そう言うと天元は一瞬で姿を消した。一方、吉原から逃げるように指示された炭治郎たちは少し落ち込んだ表情をしていた。
「俺たちが一番下の階級だから信用してもらえなかったのかな…」
「俺たちの階級"庚"だぞ?下から四番目だ」
「…え?」
「私は"戊"だよ、下から六番目」
実は炭治郎たちの階級はすでに最も低い"癸"から"庚"に昇格していたのだ。ちなみに静音の階級は炭治郎たちより二階級上の"戊"になっていた。上弦の参と戦って生き残ったことや数々の任務を成功させた功績が評価され柱の剣士からも期待の新生として注目されはじめていたのだ。
「夜になったらすぐに伊之助のいる荻本屋に向かう。それまでは待っててくれ」
「何でだよ!!俺のトコに鬼がいるって言ってんだろ!今から来いっつーの!頭悪ィなテメーは!」
「落ち着いて伊之助君、今は昼だし鬼が出る可能性は低いよ。あと…推測だけど鬼は店で働いている人間の可能性が高いと思う」
「確かに…この町は鬼が人を喰うには都合はいいが逆に都合が悪いことも多い。巧妙に成りすましているほど人を殺すことに慎重なるはずだ」
「じゃあ、今日の夜、伊之助君の潜入してる荻本屋にみんなで合流して調査しない?」
こうして相談の結果、本日の夜に鬼の目撃情報があった荻本屋に集合し鬼を探し出すことに決まったのだ。命令違反となってしまうがこのまま何もせず帰るなど出来るはずがない。一方、左馬介と阿児は先ほど言ったとおり町に潜む幻魔を討伐するべく別行動を取ることになった。幻魔のことが気になった静音は左馬介に詳細を聞いていた。
「左馬介殿、幻魔が潜んでいるというのは本当なのですか?」
「ああ、間違いない。恐らくかなりの数になるだろう。これ以上被害者を出さないためになんとか食い止める」
「そ、そんなにいるんですか…!こんな人の多い町で幻魔が暴れ出したらとんでもないことになります!」
「大丈夫、あたいと左馬介に任せて!その代わり鬼の方はお願いね」
「ええ。阿児、気をつけてね。左馬介殿も」
その後、静音や伊之助がそれぞれの潜伏先に戻る中、同じく星見屋に戻ろうとする炭治郎をふと左馬介が引き止めた。
「炭治郎」
「明智さん?どうしたんですか?」
「くれぐれも注意しろ、あの店は幻魔の巣窟になっているだろう。すぐにでも店を離れるんだ」
「分かりました。でも、もう少しだけ調べさせてください。やっぱりあの店…何かおかしいんです」
炭治郎が話すには確かに店での待遇はよく遊女は喜んで働き、客足も多く活気が溢れている。しかし、働き始めた遊女や禿の者が突如、失踪したり利用した客がそのままいなくなるなど相変わらず不審な出来事が多発しているのだ。
「もうちょっとだけ調査してみます!捕まっている人たちがいるかもしれません」
「…そうか。だが、くれぐれも用心するんだ」
「分かりました。明智さんも気をつけてください」
「あともう一つ。あの女将には注意しろ、奴は化物だ」
「化物…?ぬいさんがですか?」
左馬介から女将であるぬいに注意するよう強く言われた炭治郎は調査が済み次第すぐにでも星見屋を出ると約束すると急いで戻り、その場に残された左馬介も独自に行動を開始した。
「よし、いくぞ阿児」
「うん!アイツらの好きにはさせないんだから!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・吉原遊郭 ときと屋
陽が暮れ街灯が付き暗くなる町中が店の明りで包まれる。夜の町が本格的に始まる時間帯だ。そんな中、ときと屋では一室で鯉夏花魁が身繕い仕事の準備をしていた。
「……」
「あの、鯉夏さん」
「静ちゃん…どうしたの?その格好は…」
鯉夏花魁の前に現れたのは鬼殺隊服に着替えた静音だった。夜に伊之助のいる荻本屋に向かうため最後にときと屋をくまなく調査した静音はここに鬼はいないと判断しこの店を後にしようとしたのだ。
「これ、お世話になった食事代と家賃です。店の旦那さんに渡して頂けませんか?」
「あなたは一体…」
「訳あってこの店に遊女と偽って潜入していたんです。この町で消えた行方不明者を探すために。須磨さんの従姉妹というのも嘘です。騙してすみませんでした…」
「…事情は分からないけど、やっぱり何かあるのね」
鯉夏花魁もこの町で起きている行方不明者事件が何者かの仕業であると薄々気づいていたのか何かを悟ったような様子だった。だが、ただの遊女である彼女にはどうすることもできず不安な日々を送っていたと話してくれた。
「私…明日この町を出ていくの。こんな私を奥さんにしてくれて待っている人がいるから」
「それはよかった!できるだけ早くこの町から逃げてください」
「ええ、静ちゃん。短い間だったけどあなたと一緒に過ごせて楽しかったわ。あなたも無事でいてね」
「はい!いなくなった人たちは必ず助けます!鯉夏さんもどうかお幸せに」
静音はペコリと一礼すると部屋から去っていった。一人残された鯉夏花魁は最後の仕事をするために再び身繕いを再開する。すると背後から襖が開く音が聞こえた。
「静ちゃん…?忘れ物?」
だが、背後にいたのは静音ではなく…
「そうよ、アンタは今夜までしかいないから忘れずに喰っておかなきゃ。ねぇ?鯉夏」
「……!?」
そこにいたのは身体に不気味の紋様が刻まれ露出度の高い着物に身を包むんだ異様な女の姿があった。着物から伸びる帯はまるで生き物のように動き、瞳には"陸"と"上弦"の文字が刻まれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
・吉原遊郭 星見屋
一方、炭治郎も伊之助と合流するために最後の調査を行っていた。左馬介から言われたとおりあるからぬいには会っておらず、禿という立場を利用して店内をくまなく捜索していた。
(どこだ?いなくなった人たちは…急がないと!)
神妙な面差しで店内を炭治郎は足早に歩いていた。急いでいる理由は先ほど同じ禿の女の子から聞いた話が原因だ。
(明智さんの言ったとおり、この店は危険だ!)
数分前、一緒に仕事をしていた禿の女の子がひどく怯えており、気になった炭治郎が理由を聞くと誰にも話さないことを条件に女の子は理由を話してくれたのだ。
この店の地下には化物がいる…
店に来た客も働いていた遊女や従業員も全員、化物に喰われて殺された…もうじき自身も殺される…
女の子は震えて泣きながら炭治郎に真相を話してくれた。炭治郎はその女の子を店の外に逃した後、再び店内に戻り早速、地下に向かっていた。暗くなり店内も客が増え始めて慌ただしいが逆に炭治郎にとっては好機であり、人込みに身を隠しながら地下へ続く通路を歩いていく。
(すごい匂いだ…血と虫みたいな匂いが強くなってる!)
地下に近づくにつれ強烈な匂いが炭治郎の鼻を刺激する。周囲の目を掻い潜り、ようやく目の前に地下へと続く扉を見つけた。
(この先だ!この先にはいったい何がいるんだ…?)
「おやおや、アンタこんなところで何やってるんだい?」
驚いた炭治郎が振り向くと、そこには険しい表情でこちらを睨んでいるぬいの姿があった。その視線から凄まじい殺気を感じ、ただの人間ではないことを肌で感じていた。
「教えろ!いなくなった人たちをどうしたんだ!」
「…あ〜あ、気付いちまったかい。まあ、どっちにしろ生きて返すつもりはなかったけどねぇ」
「お前は…いったい何者なんだ!」
「フフ、これから死ぬアンタは知らなくていいことさ」
ぬいが手で合図をした瞬間、地下への扉が勢いよく開かれ奥から想像を越えた存在が姿を現した。
「シャアァァァァ!!」
「な、何だ…この化物は…!」
現れたのは赤色の甲殻に覆われた四足歩行の虫ような外見の化物でハサミのような形をした大きな顎をもっているのが特徴だ。この化物は"シャルカ"という幻魔であり群れを成して獲物を喰らうのだ昆虫型の下等幻魔だ。
「さあ、私の可愛い子供たち。そこの小僧を食べてお終い」
「くっ!!」
ぬいの言葉と共に二匹のシャルカが炭治郎に襲いかかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
○おまけ 大正コソコソ日常 (幻魔編)
・那多蜘蛛山 地下洞窟
今や無数の幻魔が巣食う魔の山となった那多蜘蛛山。その中心地に存在する洞窟。幻魔たちの工事によって洞窟内はさらに奥深くなり見たことのない物体や特殊な金属の壁と怪しい装置で溢れていた。そんな不気味な洞窟内を高等幻魔であるゴーガンダンテスが悠々と歩いている。
「精が出ますね」
「ダンテス殿か、何の用だ?」
足を止めた部屋の前にバルドスタンの腹心であるゴルドーが立っている。しかし、そんなゴルドーを見たダンテスが頬を緩ませながら話し始めた。
「…何が可笑しい?」
「いや、これは失敬。いつ見てもお前のその姿に違和感がありすぎてついつい笑ってしまうのですよ」
笑いを堪えるダンテスの前にいるゴルドーの姿はツッコミどころ満載だった。愛用の怒嵐剣を片手に持っているのはいいがもう片方の手にはティーセットと布を持っているのだ。筋骨隆々の大柄の化物がそれらを持って仁王立ちしている姿はダンテスでなくとも疑問に思ってしまうほど違和感のある光景だ。
「そんな些細なことなど知ったことか。これはバルド様のためにやっていることだ」
「バルドスタンも変わっていますが、お前も相当な変わり者ですね」
「…貴殿にだけは言われたくない台詞だな。とにかく、バルド様は今お忙しいのだ。用がないなら任務に戻れ」
「いえいえ、"例の物"を手に入れたので持ってきました。後、一つ報告があります」
「そうか、ではあと数刻だけ待て。すぐにバルド様がオレにお声をかける」
ゴルドーの言うとおり突如、研究所の扉が開き室内からバルドスタンの声が聞こえてきた。
「ゴルドー、喉が渇いた。何か持ってこい」
「ははっ!すでに用意しております」
「クク、相変わらず貴様は有能だな」
「光栄です!それとバルド様、ダンテス殿が例の物を手に入れたとのこと。さらにいくつか報告があるようです」
「戻ったかダンテス。よかろう入れ」
許可を得た二人は研究所に入ると、そこには着物と手を血まみれにしたバルドスタンの姿があった。部屋のあちこちに溢れるほどの薬品や臓器、器材が置かれ中央の鉄のベッドには死体のような何かが置かれている。
「バルド様、搾り取ったばかりの新鮮な生き血です。こちらをどうぞ」
「うむ」
持っているティーセットを巧みに使って禍々しいデザインの容器に生き血を注ぎ丁寧に手渡すとバルドスタンはそれを一気に飲み干した。
「…悪くない、貴様が選ぶ血はすべて美味いな」
「ありがとうございます!」
「バルドスタン、これが例の物だ」
「手に入れたか、見せてみろ」
そう言うとダンテスは懐から三つの石のような物を取り出すとバルドスタンに手渡した。
「ふむ…これが"猩々緋鉱石"か」
「はい、鬼殺隊の人間どもが使っている日輪刀とやらの原料となっている鉱石です」
「探すのには苦労したが、手に入れたのはそれだけだ」
「構わん、早速これを研究し我ら幻魔の武器にも融合できるか試してみなければな」
「しかし、本当にこの鉱石を使わなければこの世界の鬼の一族を斬れないのか?」
「うむ、放った三つ目どもの報告によればな」
バルドスタンはこの時代にも鬼の一族がいるとと鬼殺隊というその鬼を狩る人間たちがいることもすでに調査済であり、新たな造魔を造る一方であちこちに三つ目を放ち鬼と鬼殺隊のあらゆる情報を探っていたのだ。
「それで?他の報告は何だ」
「吉原に向かった"彼女"は上手くやっているようだ。順調に子供を増やしているらしい」
「…ほう、三月でもうそこまで手下を増やしたか。大したものだ」
「しかし、バルド様。かの御仁を蘇らせてよかったのですか?あの様子ではバルド様に従うつもりはなさそうですが…」
「構わん、奴は信長様の命しか聞かぬがそのためなら喜んで働くだろう。すべては幻魔の世を創る野望のためだ」
「しかし…高等幻魔は彼女だけではありませんぞ」
「そうだ、ジュジュドーマ…彼女でもよかったのではないか?」
「……」
ジュジュドーマ…その名を聞いただけで二人の背中が凍りつく。その姿を思い浮かべたと同時に彼女の声が脳内に不気味に響き渡る。
"わらわを見てたもれ。美しいかえ?"
"女の恐ろしさ…見せてやる!!"
「「「………」」」
「…やめておきましょう、本当に地獄から蘇ってきそうだ」
「ええい!ダンテス!その名を出すな!」
「正直、地獄に落ちてくれて助かりました…信長様も内心喜んでいたのでは?」
「まあ…かつては美しい妖艶な高等幻魔だったのだがな」
その後、報告を終えた二人は邪魔にならないように研究所から去ろうとする。
「ダンテス殿。この後、暇か?」
「ええ、どうかしましたか?」
「…手合わせをしないか?今度はオレが勝つ」
「ふふ、いいでしょう!お前との勝負は熱くなります。それに先ほど考えた最高の名乗りをお見せしましょう!」
するとダンテスは勝負の時まで我慢できなかったのか、その場で自身が考えた自慢の名乗りとポーズをゴルドーに披露した。
「拙者の名前は…ゴーガンダンテス!!幻魔界最高の剣士とは私のこと、この熱き剣があなたを屠る!!」
「……」
お決まりの名乗りにおかしな振り付けとポーズがこれでもかと組み込まれダサさにより一層磨きが掛かっていた。そんなダンテスを見たゴルドーは溜め息をつきながら言った。
「…駄目だなダンテス殿、名乗りは悪くないがポーズがまるでなっていないぞ。いいか?ポーズは筋肉を強調しなけばならん!今度はオレの名乗りを見てみろ!」
すると今度はゴルドーがダンテスに自分の名乗りとポーズを見せつけた。
「オレの名はゴルドー!バルドスタンの腹心であり右腕!最強の肉体を持つ最高の闘士だ!ふんっ!!」
名乗りと同時に筋肉を強調する見事なマッスルポーズを連続で二回も披露した。それを見たダンテスは感心したように拍手をしていた。
「うーむ…筋肉を強調するキレのあるポーズ…素晴らしい!!しかし、そこは拙者ならこうですね…」
「貴殿のポーズは参考にならん!何度も言わせるな!」
「…ええい!貴様らぁ!!吾輩の研究室で遊ぶな!!」
バルドスタンの怒号が洞窟内に響き渡った。
次回から上弦の陸、幻魔、鬼殺隊の三つ巴の激戦が始まります!
頑張って書くので、気長にお待ち下さい!