鬼滅の刃 鬼斬り武者   作:戦国のえいりあん

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新作、出来ました!
最近、仕事が忙しすぎて全然書く暇がありませんでした…

鬼滅のアニメ遊郭編を見てたら私も続きを書かなきゃ!と思って頑張りました!

今回は投稿が遅れたお詫びも兼ねて文字数多めになってます!
あの幻魔もようやく正体を現して、鬼殺隊、鬼、幻魔が入り乱れる激戦開始です!


第十五話 三ツ巴の激戦 前編

行方不明になった善逸と伊之助が見たというこの町に潜む鬼の目撃情報…立て続けに起こる事態に対応するべく動いていた炭治郎たちだったが、そんな彼らの前にこれまでの惨劇を生み出した元凶がついに姿を現したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

・東京都 吉原遊郭 

 

 

(…!?この匂い、まさか…!!)

 

鯉夏花魁に別れを告げた後、伊之助のいる荻本屋に向かっていた静音は足を止め来た方向を振り返る。微かにだが自分がいた方角から鬼の匂いを感じたのだ。

 

(間違いない…!鬼がいる!ときと屋に隠れてたのね)

 

静音は急いで来た道を引き返し、僅かな時間で先ほどまでいたときと屋まで戻って来たのだ。ふと見ると鯉夏花魁がいた部屋の窓が開いており、静音は屋根を伝って窓から侵入するとそこには目を疑う光景が広がっていた。

 

「…!!」

 

「鬼狩りの子?来たのね。何人いるの?一人は黄色い頭の醜いガキでしょう?」

 

「貴様ぁ…!」

 

静音の前には自身の着物から伸びる帯で鯉夏花魁を取り込み、こちらを見下すような表情で見ている女の姿があった。この女こそ吉原遊郭で起こっていた行方不明事件を起こしたすべての元凶…上弦の陸の鬼"墜姫"だった。

 

 

「鯉夏さんを離せっ!!」

 

「…誰に向かって口を聞いているんだ、お前はぁ!!」

 

その一言と共に墜姫の着物の帯が激しくうねりながら凄まじい速度で静音に襲いかかってきた。並の隊士であればこれだけであっという間に決着が着いていただろう。

そう並の隊士なら…

 

(水の呼吸!陸ノ型!ねじれ渦!)

 

墜姫の動きに瞬時に反応し静音は陸ノ型で攻撃を迎え撃つ。静音が放った陸ノ型の斬撃によって墜姫の帯はバラバラに飛び散り、帯から出た血が部屋の中を真っ赤に染め上げる。

 

(痛ぁ…!コイツ…私の帯を斬った…!?)

 

墜姫の帯は鋼の如き硬度と切れ味に加え、優れた柔軟性を持つ伸縮自在の武器だ。しかし、静音は墜姫の自慢の武器である帯を容易く切断したのだ。

 

「…覚悟しろ。次は貴様の頸を落とす」

 

静音は深く息を吸い込み水の呼吸の構えを取る。その殺気と威圧感に対して墜姫は先ほどまでの余裕は一切無くなり険しく真剣な表情に変わっていた。特に静音の持つ不気味に青く光る日輪刀が墜姫の警戒心を嫌でも強くさせる。

 

(この雰囲気…まさか柱?ふふ、やっぱり来てたのね)

 

「アンタ柱だね、欠片も残さず喰ってやる。これであの方にもっと喜んで戴けるわ…!」

 

「私が柱…?はは…!私程度でそう見えるなら貴様は世間知らず大間抜けだな」

 

「…はぁ?アンタ、柱じゃないの?」

 

「柱の剣士は私よりも遥かに強い、鬼殺隊には私や貴様よりも強い猛者がまだまだ大勢いる!これまでの悪行も今宵までだ!地獄の底で悔い改めろ!」

 

「ふぅん、まあいいわ。その辺りの塵虫よりは骨があるし、遊んであげる」

 

その言葉と共に墜姫の帯が再び静音に襲いかかる。帯による斬撃の速度は凄まじく熟練の剣士であっても回避は困難だ。だが、静音は伸縮自在にうねる墜姫の帯をしっかりと捉えていた。

 

(確かに速い…でも、見える!)

 

迫りくる墜姫の帯の軌道を見切った静音は的確に斬撃を入れ、次々と帯を斬り落とす。隙を見て帯をかい潜り下段の構えで墜姫に疾走し間合いを詰める。

 

(このガキ…速い!) 

 

「水の呼吸…壱ノ型!」

 

頸に狙いを定め斬撃を繰り出そうとする静音の攻撃を防御しようと帯を自身の前に集めるが、静音の真の狙いは墜姫の頸ではなかった。

 

「水面斬り!!」

 

頸を斬ると見せかけて静音は墜姫を通り越し、後ろで鯉夏花魁を拘束している帯に対して壱ノ型を繰り出した。開放された鯉夏花魁を抱きかかえ側に寝かせると再び墜姫の方へ向き直る。

 

(鯉夏さんは助けた、次は鬼だ!)

 

「…癪に触るガキだね、もういい。次で殺す」

 

「やってみろ、次は貴様の頸を斬る!」

 

(私、強くなってる…!あの上弦の鬼と戦えてる!)

 

あの上弦の鬼と渡り合えている、自分は確実に強くなってる、そう思うと気持ちが高まり心躍った。もう己は弱くない…多くの人々を苦しめその命を奪ってきたこの鬼を自らの手で切り捨てると静音の腕に力が入る。

 

(水の呼吸…!)

 

再び日輪刀を構え、静音は墜姫に向かって走り出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

・吉原遊郭 星見屋

 

 

同時刻、同じく星見屋に潜入していた炭治郎もまた本性を現した星見屋の女将・ぬいによって出現した下等幻魔・シャルカの襲撃を受けていた。

 

(水の呼吸!弐ノ型・水車!!)

 

一体のシャルカに炭治郎は弐ノ型を繰り出した。技は見事命中し鈍いうめき声と共にシャルカは黄色い血液を飛ばしながらその場に倒れ伏したが、その硬い外殻によって両断するまではできなかった。

 

(硬い…両断できない!)

 

「シャアァァ!!」

 

「くっ!?しまった…!」

 

残っていたもう一匹のシャルカが炭治郎に襲いかかる。炭治郎に飛びかかるとシャルカはその大きな顎を開いて補食しようとする。

 

「このっ…!離れろ!!」

 

日輪刀でシャルカの口を止めてなんとか凌いでいるがなかなか引き離せない。その時、先ほど弐ノ型で倒したと思っていたもう一匹のシャルカがよろよろと立ち上がった。シャルカの特徴はその硬く刃を通しにくい外殻と高い生命力であり、致命傷を与えても命が尽きるまで執拗に獲物を狙い喰らうのだ。

 

「シ、シャァァ…!」

 

(何っ!まだ生きてたのか…!?) 

 

今の炭治郎はシャルカに組み付かれて完全に無防備になっている。必死に逃れようとする炭治郎の元に瀕死のシャルカがゆっくりと近づいて来る。 

 

(…まずい!このままじゃやられる!)

 

シャルカが炭治郎に襲いかかろうとしたその瞬間、近くに転がっていた炭治郎の木箱が開き中飛び出して来た何かがシャルカを強く蹴り飛ばした。

 

「ヴヴゥー!!」

 

「禰豆子…!」

 

炭治郎の危機を救ったのは妹の禰豆子だった。すかさず炭治郎に組み付いているシャルカを爪で勢いよく引き裂く。拘束されていた炭治郎は弱ったシャルカを蹴り飛ばして脱出すると禰豆子を守るように前に立った。

 

「ありがとう!禰豆子、助かったぞ」

 

「ム〜!」

 

二匹のシャルカを撃破した炭治郎は日輪刀を構え、再びぬいの方へ向き直る。

 

「へぇ、少しはできるみたいね。それに…その小娘は鬼の一族かしら?」

 

「連れ去った人たちを返せ!」

 

「フフ…みんな私の子供たちの腹の中さ」

 

「なん…だと…!」

 

するとぬいは凶気に満ちた表情で笑いながら話し始めた。

 

「この町には人間どもが腐るほどいるし、こうやって店を出せば人間の方から喰われにやって来る…お陰でたくさんの子供たちを増やすことができたわ、アハハ!」

 

「…俺は、お前を許さない!!」

 

「もう手遅れよ。今夜、この街は人間どもの恐怖と悲鳴で支配される…すべてはあの御方のため!」

 

(虫と血のような匂いとこの殺気…間違いない!この女は人間じゃない、化け物だ!)

 

炭治郎はぬいの頸を斬ろうと構えるがその直後、奥の地下へ通じる扉が勢いよく開かれたと同時に大量のシャルカが襲いかかってきたのだ。

 

「何っ!?まだこんなにいたのか…!?」

 

「馬鹿だねぇ、私の子供たちがこれだけだと思ったのかい?フフ…私の子供たちは数百体を超えるわ。この街やって来て三ヶ月…大量の人間どもを子供たちに与えて増やしていたのさ」

 

「な、何だと…!?」

 

地下から数えるのも嫌になるほどのシャルカが次々と這い出て来る。あっという間に数十体のシャルカに包囲され炭治郎と禰豆子は身動きが取れなくなってしまった。

 

「さぁて、この町を地獄絵図に変えてあげるわ。フフ…アンタに止められるかしら?」

 

「ま、待て!逃さないぞ!」

 

「子供たち、さっさとそいつらを食べてお終い」

 

シャルカに炭治郎をたちを任せてぬいは前から姿を消した。その直後、店の中から無数の絶叫と悲鳴が響き渡った。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!?」

 

「な、何だ!?こ、この化け物はっ!!」

 

「ヒィィィ!!?た、助けてくれっ!!」

 

なんと店にいた人たちをシャルカが無差別に襲い始めたのだ。ぬいの言ったとおり星見屋はあっという間に地獄絵図へと変わり果て、この状況に炭治郎の表情は完全に青ざめていた。

 

(まずい…まずいぞ…!!最悪の事態だ…鬼を倒すどころじゃない!このままじゃ吉原の人たちが危険だ!!)

 

このままでは星見屋の人たちどころか吉原の街全体が危険だ。地下から這い出てくるシャルカの大群を見るにぬいの言っていたことは冗談でもハッタリではない。もはや炭治郎や禰豆子だけではとても対処できない非常事態になっていた。

 

「禰豆子!!とにかくこの包囲を突破するぞ!宇髄さんや明智さんに知らせるんだ!」

 

「ヴゥー!!」

 

「シャアァァァァ!!」 

 

一匹のシャルカの咆哮と共に二人を包囲していた他の仲間たちが一斉に襲いかかる。この狭い室内での戦闘は炭治郎たちにとっては不利であり、それに加えて店にいる人たちも守らなければならない。

 

「水の呼吸!玖ノ型・水流飛沫・乱!!」

 

「ヴヴゥー!!!」

 

炭治郎は玖丿型、禰豆子は己の爪と蹴りでそれぞれ迫りくるシャルカを迎え撃つ。しかし、致命傷を与えてもしぶとく起き上がって向かってくるその生命力は厄介だった。さらにいくら倒しても数の暴力となって絶え間なく襲いかかってくるのだ。

 

(くそっ…!きりがない!それに技も効きにくい!こうしている間にも街の人たちが襲われている!どうしたらいいんだ…!)

 

 

(血鬼術・爆血!!)

 

その時、禰豆子が己の血を爆発させる血鬼術・"爆血"を放つとその技が以外にもシャルカに効果を発揮したのだ。

 

「ジャアァァ!!?」

 

禰豆子の血によって炎に包まれたシャルカが苦しそうな叫び声をあげて絶命した。水の呼吸の剣術は効き目が薄かったのだが、禰豆子の炎を使った血鬼術は高い効果を発揮しているように見えたのだ。その時、炭治郎はあることに気がついた。

 

(そうか…!コイツらは火に弱いのか!)

 

炭治郎の読み通りシャルカの弱点は火であり、炎を用いた戦法ならば頑丈な外殻を持つシャルカに対しても効果的にダメージを与える事に気がついたのだ。

 

(火が弱点、それなら…!)

 

「ヒノカミ神楽…」

 

すると炭治郎の呼吸が変わり、先ほどの水の呼吸とはまったく異なる別の呼吸の技を繰り出した。

 

(円舞!!)

 

「ジャアァァ…!!」

 

「ギャァァァ…!!」

 

まるで炎を纏ったかのような太刀筋でシャルカを次々と斬り捨てていく。水の呼吸では両断できなかったがヒノカミ神楽の技ならその外殻を斬り裂くことができたのだ。

 

(よし…!"ヒノカミ神楽"なら斬れる!)

 

なんとか有効打を発見したが不利な状況であることには変わりはない。この状況を乗り越えるためには仲間の協力を得なければとても打開できないだろう。まずはこの包囲を突破しようと炭治郎は日輪刀を構える。

 

「禰豆子!この化け物には火が有効だ!血鬼術で戦うんだ!」

 

「ムン!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・同時刻 荻本屋 地下

 

 

その頃、荻本屋で炭治郎と静音を待っていた伊之助は集合時刻になっても現れないことに痺れを切らして一人で勝手に調査を始めていた。鬼の気配を辿って地下へ行き着いたのだが、そこには墜姫によって帯の中に捕らえられた人々が食料として集められていた空間があった。

 

「気持ち悪ぃんだよ!蚯蚓帯が!」

 

襲いかかる墜姫の帯を回避しながら次々と斬り落として捕らえられた人々を救出していく。墜姫と分離している影響か本体ほどの強さはなく、四方八方から帯の猛攻を物ともせず伊之助は戦いを有利に進めていた。

 

(獣の呼吸!陸ノ牙・乱杭噛み!!)

 

「アタシを斬っても意味ないわよ。"本体"じゃないし。それよりせっかく救った奴らが疎かだけどいいのかい?」

 

「…!?やべぇ!」

 

帯は解放されて無防備になっていた民間人を補食しようと襲いかかるがその瞬間、どこからともなく飛んで来たクナイが帯を正確に穿ち、その動きを封じたのだ。

 

「蚯蚓帯とはよく言ったもんだ!」 

 

「ほんとその通りです!ほんと気持ち悪いです!」

 

「誰だてめぇら!」

 

「宇髄の妻です!アタシあんまり戦えないですから、期待しないでくださいね!」

 

「須磨ァ!!弱気なこと言うんじゃない!」  

 

伊之助の助太刀に現れたのは墜姫によって帯に囚われていた天元の妻、まきをと須磨だった。しかし、人数が増えても三人ですべての民間人を守るのは困難だ。再び帯が民間人を補食しようと襲いかかる瞬間だった。

 

(霹靂一閃…六連!!)

 

閃光の如き速さで帯を斬り捨てながら現れたのは同じく堕姫によって捕らえられ行方不明になっていた善逸だった。

 

「…お前、ずっと寝てた方がほうがいいんじゃねぇか?」

 

「あの子も鬼殺隊?なんであんな頓珍漢な格好してんの?」

 

「わ、わかんないです」

 

(なんなのアイツの速さ…いや、それよりも今、音が"二つ"鳴らなかったか?)

 

帯は善逸の落雷のような音のほかにもう一つの奇妙な音を察知していた。その音は上から聞こえており次の瞬間、轟音と共に天井爆発したのだ。

 

「何だァ?」

 

(風穴が空いたの!?地上から何をしたら地下まで穴を空けられるのよ!しかもこの気配…柱か!!)

 

土埃の中から現れたのは天元だった。音を察知することに長ける天元は地上から地下の戦闘音を聞きつけてこの地点に無理矢理風穴を空けて侵入してきたのだ。帯が一斉に天元に向かって襲いかかるがそれよりも速い動きで帯を斬り裂き瞬く間に全ての帯を殲滅した。

 

「天元様…」

 

「遅れて悪かった。生きてるようだな、流石俺の女房だ」

 

そう言うと天元は二人の頭をぽんぽんと叩く。すると天元が斬り捨てた帯が一斉に地下の穴からどこかへ逃げ出した。

 

「オイ!祭りの神!!蚯蚓帯共が穴から逃げたぞ!!」

 

「うるっせえぇ!!捕まってた奴ら皆助けたんだからいいだろうが!まずは俺を崇め讃えろ!話はそれからだ!」

 

「天元様、早く追わないと被害が拡大してしまいますよ!」

 

「野郎共、追うぞ!ついて来い!さっさと…」

 

その時、一部の穴から不気味な唸り声が聞こえてきた。一同の視線が一斉に唸り声の方向に向く。まるで多くの声が木霊のように重なって聞こえる…そんな声だ。

そして、穴から現れたのは…

 

「シャアァァァァ!!」

 

「うおっ!?何だ!?蚯蚓帯の次は鍬形蟲の化け物かよ!?」

 

一同の前に現れたのはぬいによって星見屋の地下から解き放たれたシャルカだった。さらに穴の奥から湧き出るように次々と這い出て来た。

 

「きゃああぁぁぁぁ!!?気持ち悪いです!!なんなんですか!?あの虫、しかも数多すぎですよぉ!!?」

 

「…何だ?あの気色悪い化け物は」

 

(あんな化け物、今まで見たことねぇぞ?まさか、あれが明智が言ってた幻魔って奴か?)

 

するとシャルカは天元たちの側に倒れている民間人に向かって一斉に駆け出した。どうやら彼らを補食するつもりなのかまるで餌に群がる蟻の如く襲いかかる。

 

「くそっ!野郎共、化け物から民間人を守れ!」

 

「わ、分かりました!」 

 

「む、無理です!あんな気持ち悪い虫と戦いたくないです!しかもあんなに…」

 

「何匹いようが関係ねぇ!!この伊之助様がみんなぶった斬ってやるぜ!!」

 

「……」

 

天元たちが民間人を守るように布陣しシャルカの大群からそれら守るために奮戦する。しかし、炭治郎も苦戦したようにその固い外殻と生命力には天元も苦戦を余儀なくされていた。

 

「獣の呼吸・参ノ牙…喰い裂き!!」

 

伊之助の呼吸の技がシャルカに命中するが、両断できずに刃は途中で止まってしまった。

 

「このクソ虫、固ぇ!!?両断できねぇ!」

 

「ギャァァァ!!?お願いですっ!!こっちに来ないでくださいぃぃぃ!!」

 

「くそっ!固い…!なんなんだこの虫は!」

 

(…!霹靂一閃でも斬れないのか!)

 

善逸や天元たちもシャルカに攻撃を加えるが決定打にはならず、しぶとく起き上がって向かってくるのだ。それでもなんとか火力を集中し一匹ずつ数を減らしていくも背後の穴から次々と這い出て来る。

 

(固い外殻にゴキブリ並の生命力に加えこの数…思ったより厄介だぜ!)

 

さらに地下の上から聞こえてくるある音が耳に入った天元は焦りの表情を見せる。予想以上の最悪な事態であることをいち早く天元は悟ったのだ。

 

「…おいおい、こりゃド派手に最悪の事態だぜ」

 

「どうした!祭りの神!」

 

「野郎共!早くこの化け物どもを片付けるぞッ!急げ!!」

 

「天元様、どうしたのですか!?」

 

「上が大変なことになってやがる…!!くそっ!明智の野郎は何やってんだ!竈門の野郎はッ…!」

 

天元が聞いたのは地上から聞こえてくる無数の悲鳴の声と今戦っているこの化物の大量の唸り声だ。これだけで地上で何が起こっているのかは容易に想像がつく。この危機的状況を打開するべく天元たちはひたすら目の前のシャルカたちを倒し続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・同時刻 吉原遊郭 ときと屋の屋根

 

一方、上弦の陸・堕姫と交戦していた静音は戦いを優位に進めていた。軽く息切れしていたが静音はまったくの無傷であり対する

堕姫は無数の帯を斬り落とされ右手首も切断されていた。

 

「…はぁ…はぁ…」

  

「なんなのよアンタは…!柱でもない塵虫がなんでここまで戦えるのよ!」

 

「ちょこまかと逃げるな…!」

 

静音は日輪刀を構え堕姫に向かって疾走する。堕姫も静音を向かえ撃とうと帯を一斉に動かし複雑な動きで攻撃を仕掛ける。

 

(血鬼術・八重帯斬り!)

 

吉原の町を支配するために分裂していた帯が今は堕姫の元に全て戻っている。現状の堕姫の攻撃は先ほどよりもさらに速く変化自在になっているのだ。逃げ場がないように帯を交差させた血鬼術を静音に繰り出した。

 

(逃げ場はないわよ!これでお終いね!)

 

「無駄だ!貴様の帯は私には効かない!」

 

(水の呼吸・参ノ型…流々舞い!!)

 

参ノ型で帯を斬り捨て回避しつつ速度を維持したまま堕姫に向かって疾走し続ける。帯が一つに集まり強化されている状態の堕姫の攻撃も静音はしっかりと見切っていた。

 

(なんなの!あのガキの刀は…!あの刀で斬られたら再生が遅くなる…!)

 

堕姫が驚いていたのは静音の持っている幻魔日輪刀だ。鋼の硬度を持つ自身の帯を容易く斬り落とす切れ味もそうだが、何よりもあの刀で斬られた箇所はどういう訳か再生が少し遅くなるのだ。まるで魂でも宿っているかのような青い光を放つあの刀に少しだけ恐怖を覚えていた。

 

「これで…決める!」

 

堕姫の頸に狙いを定め頸を斬ろうと呼吸の構えを取る。これまでの戦いの中で何度か堕姫の頸に刃を命中させることはできたがその度に堕姫は頸の部分を刃で斬られにくい柔軟な帯のように変化させて攻撃を防いでいたのだ。

 

そこで堕姫の頸を斬るためには静音が考えた方法は…

 

「斬らせないから!アタシの頸に触れたのは全部偶然よ!!」

 

「待っていたぞ!その攻撃を!貴様の負けだ!」

 

迎え撃とうと堕姫の帯が襲いかかる。静音は速度を落とさず走りながら帯を斬り落とし、その中の帯の一本を掴むと力強く自分の方へ引き寄せるように引っ張った。

 

「キャッ!?」

 

「もらった!水の呼吸…拾ノ型!」

 

無理矢理引き寄せられ体勢が崩れた堕姫に一気に接近し頸に狙いを定める。今、自身の持つ最も強い技を堕姫に繰り出さんと構える。

 

(頸が帯に変化するなら変化する前に斬ればいい!体勢が崩れた瞬間の僅かな隙を狙う!今の私になら…できる!)

 

静音は水の呼吸の拾ノ形を繰り出した。速度も十分で勢いもあり堕姫に回避できない一瞬の隙を見事に突いていた。流れる水龍の如き刃が堕姫の頸に迫っていた。

 

(嘘…!?嘘よ!!こんな柱でもない剣士に頸を斬られるの!?こんな…こんな糞餓鬼なんかに…!!)

 

「生生流転っ!!」

 

ザンッ!!

 

為す術もなく堕姫の頸は静音の放った拾ノ形によって見事断たれた。断ち斬られた堕姫の頸は屋根の上にごろごろと転がり瓦の途中に引っかかって止まった。

 

「…はぁっ…!…はぁっ…!」

 

全身全霊の一撃の反動とこれまでの疲労が一気に身体に来たのか、静音は思わず片膝をつき必死に呼吸を整えていた。

 

(…やった!斬れた…!上弦の鬼に勝ったんだ…!)

 

振り向くと頸の無くなった堕姫の身体はその場からまったく動かなかったが、屋根の瓦に引っかかった堕姫の頸が大声で騒いでいた。

 

「よくも…!よくもアタシの頸を斬ったわね!ただじゃおかないんだから!」

 

「…貴様の負けだ。観念して地獄に堕ちろ」

 

「アタシはまだ負けてないからね!上弦なんだから!数字だって貰ったんだから!アタシは凄いのよ!」

 

「見苦しいよ…その状態で何ができるの?」

 

「頸斬られたぁ!!頸斬られちゃったぁ!!お兄ちゃああん!!」   

 

(…おかしい、身体が崩れない。どうして…!!)

 

頸を斬ったにも関わらず堕姫の頭部と身体は崩れる様子がなかった。すると大声で子供のように泣きじゃくっていた頭部が目の前を高速で横切った何かによって回収され、いつの間にか無くなっていた。

 

「…なっ!!?」

 

振り向くと堕姫の頭部を身体に戻して泣いている堕姫をあやす謎の人影のような姿があった。

 

ボサボサの頭髪に長身で筋肉質な体質だが、ガリガリに痩せ細り背骨が浮き出て腹部が異様に細かった。さらに身体のあちこちに血のような痣があり瞳には堕姫と同じ上弦の陸の文字が刻まれていた。

 

「頸くらい自分でくっつけろよなあ、おめぇは本当に頭が足りねぇなあ」

 

(鬼がもう一体出てきた…!)

 

「お兄ちゃん!コイツに頸を斬られたの!アタシ一生懸命一人で頑張ってたのに…!!アタシをいじめたのよォ!!」

 

「そりゃあ許せねぇなぁ、俺の可愛い妹が足りねぇ頭で一生懸命やってるのをいじめるような奴は殺してやる」

 

するともう一体の鬼は静音を睨めつけると両手に持っていた禍々しい形の鎌を構える。凄まじい殺気を感じた静音は慌てて刀を構えるがその姿はすでに見えなかった。

 

正確には攻撃してくる速度が速すぎて目で追えなかったのだ。

 

(消えたっ…!!う、動け…!!)

 

「水の呼吸!肆ノ型…」

 

なんとか反応して応戦しようとするが、直感で危険を察知した静音は攻撃を途中で中断して防御に徹したのだ。もし、この時あのまま技を放とうと向かっていけば間違いなく静音は死んでいただろう。

 

ガキィィン!!

 

「へぇ、やるなぁあ。でも、少し遅かったなぁ」

 

「…カハッ!!?」

 

静音が頭部に巻いていた鉢金が真っ二つに割れ、後ろに括っていた髪が解けたと同時に頭から血が流れ始めた。さらに胸部に大きな一文字の傷跡が付けられておりそこからも出血していた。

 

「いい着物だなぁあ、殺す気で斬ったけどなぁあ」

 

(た、助かった…この隊服が魂で強化されてなかったら死んでた…)

 

幻魔の魂で強化された隊服のおかげで鬼の攻撃の威力を抑えられ致命傷だけは避けられたのだ。しかし、強化されていた隊服を物ともせずにダメージを与えるこの鬼の強さは想像を遥かに超えていた。

 

(攻撃速度が桁違いだ…!間違いない、この鬼が本体だ!)

 

「取り立てるぜ、俺はやられた分は必ず取り立てる。俺の名は妓夫太郎だからなぁあ!」

 

「…はぁ…はぁ…負けるもんか…!」

 

「血鬼術…飛び血鎌」

 

妓夫太郎が鎌を振ると同時に薄い刃のような血の斬撃が無数に静音に襲いかかる。斬撃に多さに回避しきれないと判断した静音は斬撃を正確に斬り落とす。だが、あまりの多さに静音でも全ての斬撃を捌き切ることができず、肩や腕、脚に徐々に刀傷を付けられていた。

 

「…はぁ…はぁ…!!」

 

「ほぉお?少しは粘るなぁあ。でもなぁ、お前はもう負けてるんだよなぁあ」

 

(…な、何…?視界がぼやけて…)

 

見れば静音の顔色が明らかに悪くなり手足も震えていた。視界が霞み呼吸がどんどん荒くなっている。すると妓夫太郎が不敵に笑いながら種明かしを説明し始めた。

 

「ひひっ、俺の血鎌には猛毒があるんだよなぁあ。掠っただけでもお前は段々死んでいくんだよなぁあ」

 

「…ど、毒…?」

 

「放っていてもお前は死ぬが、俺の妹を傷付けたのは許さねぇ。俺の手で殺してやる」

 

静音はなんとか迎え撃とうと構えるが、毒がすでに全身に回っている影響か先ほどまでの動きはできなくなっており立っているのもやっとの状態なのだ。

 

(…このままじゃ…殺される…ど…どうしたら…)

 

「じゃあな、これで終わりだ」

 

(…来る…!…動け…動け!!)

 

静音の首に狙いを定めて妓夫太郎は鎌を横に振りかぶる。必死に避けとするも毒の回った身体はもはや言うことを聞かない。

 

(…まだ…!私は…まだ…!!こんなところで…!!)

 

鎌が静音の首に直撃しようとした瞬間、その背後から目にも止まらぬ速さで現れた何者かが間一髪で妓夫太郎の鎌を受け止めていた。

 

静音の前に現れたその人物は…

 

「んん?」

 

「待たせたな、よく持ち堪えた」 

 

「…はぁ…はぁ…う、宇髄…様」

 

静音を救ったのは、先ほどまで地下で戦っていたはずの天元だった。戦闘音と鬼の気配を感じ取った天元は街で暴れるシャルカの対処を伊之助たちに任せて自身はこちらに大急ぎで駆けつけたのだ。攻撃を防がれた妓夫太郎は一度後ろに退き距離を取る。

 

「伊角、大丈夫か?」

 

「…ハーッ…ハーッ…すみ…ません…」

 

「お前はよくやった、後は休んでろ」

 

(呼吸音が変だな…まさか毒か!?)

 

静音の心音と呼吸音、そして顔色から見て彼女が毒を受けていることを瞬時に察知したのだ。

 

「…すまねぇが解毒薬は持ってねぇ、キツいかもしれねぇが呼吸で毒の巡り遅らせろ、それまでに俺が決着を着ける。絶対に死ぬんじゃねぇぞ」

 

「…は…い…宇髄様…鬼は二体です…もう一体の頸を斬っても…倒せませんでした…後は…お願い…しま…す…」

 

その言葉を最後に静音はその場に倒れ、気を失ってしまった。天元は愛刀を構え堕姫と妓夫太郎の方へ向き直る。

 

「お前…柱だなぁ?」

 

「やっと見つけたぜ、この気配と威圧感…俺が探ってた鬼はお前だったんだな」

 

「お前違うなぁ、今まで殺した柱たちと違う。ひひっ、お前を喰えば"十六"人目だなぁ」

 

「やっと現れたわね!でも、アタシとお兄ちゃんに勝てるかしら?」

 

(片方の鬼の頸を斬っても死ななかったって伊角は言ってたな、もう一体の頸を斬れば消滅するのか?強い鬼の方が本体なのか?どの道やるしかねぇ!!)

 

先に仕掛けたのは妓夫太郎で高速で鎌を振り、無数の血の斬撃を天元に放つ。あまりの斬撃の多さにすべて完全には捌き切れなかった静音とは違って天元は瞬く間に血の斬撃を捌いて斬り落としていた。

 

「食らいな!」

 

そう言うと天元は妓夫太郎に向かって懐から取り出した何かを勢いよく投げつける。そんなものは通用しないとばかりに妓夫太郎は天元が投げたそれを鎌ではたき落とそうしたが、鎌がその何かに触れた瞬間、轟音と共に凄まじい爆発を引き起こしたのだ。

 

(火薬玉かぁ?特殊な火薬玉だなぁ鬼を傷つける威力か…)

 

それでも妓夫太郎には効果が薄いのか、爆発が直撃したにも関わらず爆風によって付けられた火傷は瞬く間に再生していた。今度はこちらの番と天元の方へ顔を向けるが天元の姿が消えていた。

 

「んんっ?どこに消えやがった?」

 

すると側にいた堕姫の悲鳴が聞こえてくる。

 

「わぁああ!!頸斬られたぁ!!糞野郎!絶対許さないんだから!!」

 

「お前は弱いな。伊角の奴でも頸が斬れるわけだ」

 

「てめぇ…俺の妹の頸を斬りやがったなぁ!」

 

火薬玉が爆発した瞬間、一瞬で妓夫太郎の背後にいた堕姫の頸を斬り落としていたのだ。しかし、静音が斬った時と同じく堕姫の身体は頸を落とされても消滅する兆しは見られない。

 

(消滅しねぇか…やっぱり兄貴のほうが本体か?だが、兄貴があれだけ強いなら何故弱い妹を取り込んで強化しねぇ?)

 

すると天元は何かを悟ったような表情をした後、高らかに笑いながら話し始めた。

 

「分かったぜ!テメェらの倒し方は俺様が看板した!頸を同時に斬るんだろ?二人同時にな!ハァーッハッハ!!チョロいぜお前ら!!」

 

「その簡単なことができねぇで鬼狩り共は死んでったからなぁ、柱も俺が十五で妹が七喰ってるからなぁ!」

 

「そうよ、夜が明けるまで生きてた奴はいないわ!長い夜はいつもアタシたちの味方よ!」

 

「ド派手に行くぜ!音の呼吸…」

 

二人が同時に天元に襲いかかる。対する天元も火薬玉を片手に呼吸の構え取り向かって行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・同時刻 吉原遊郭 ときと屋付近

 

「ハァ…ハァ…」

 

(こっちから鬼の匂いがする…!誰かが戦ってる!)

 

吉原の町を全力で走っていたのは炭治郎と禰豆子だった。星見屋でシャルカの包囲をなんとか突破した二人はこの危機的状況を天元や左馬介に伝えるために必死に走っていた。途中でシャルカに襲われている人たちを助けながら向かっていた時、鬼の匂いを察知した炭治郎は匂いを頼りにときと屋付近にやって来ていたのだ。

 

「…!!あれは鬼!?宇髄さん!」

 

視線の先には上弦の陸、堕姫と妓夫太郎を相手に一人で孤軍奮闘する天元の姿があった。上弦の鬼二体を相手に互角に戦っているが、やはり二体同時はさすがに厳しく徐々に押されているようだった。

 

「禰豆子!宇髄さんに加勢するぞ!」

 

「ムーー!!」

 

二人が天元に加勢しようとしたその時、大通りから高らかな笑い声が聞こえてきた。その声を聞いた炭治郎や戦闘していた天元や妓夫太郎たちもそちらに視線が集中する。

 

「アッハッハ!うるさいと思って来てみればまだいたのね。鬼の一族と鬼狩りが」

 

「なんだぁ?あの女」

 

「うるさいわね…なんなのあの糞女は?」

 

「馬鹿野郎!早く逃げろ!」

 

「お前は…!!」

 

一同の前に現れたのは星見屋の女将、ぬいだった。天元はぬいをただの民間人と思っているのか、近くいた炭治郎に彼女を助けるように指示するが…

 

「おい、竈門!その女を助けろ!」

 

「宇髄さん、コイツは化け物です!俺が斬ります!」

 

「ヴヴーッ!!」

 

「何だと!?どういうことだそりゃ!」

 

「フフ…見せてあげるわ、私の本当の姿をね」

 

するとぬいの身体が突然変化を始めた。全身が痙攣し全身の肌から無数の毛が生え、股の間から巨大な虫の身体のような物体が飛び出してくる。

 

「…ァァアアア!!」

 

眼球が飛び出しその下から赤い虫の目のような細胞が顔を覆い、不気味に身体の形が変わっていく。手はまるで鎌のように変形し背中からは巨大な虫の羽根が生え、その身体は二メートルほどまで大きくなっていた。

 

「フフ…これが私の本当の姿さ。鬼の一族も鬼狩りもまとめて喰らってあげるわ!」

 

「ま…マジかよ…!」

 

「ひひっ!おいおい、気持ち悪ィ奴だなぁ!」

 

「醜いわね…不細工って言葉で済ませられないほどキモいわ!」

 

「ば、化け物め…!!」

 

(どおりでこの女から虫と血のような匂いがするわけだ…!信じられない…こんな化け物がこの世にいるなんて…!)

 

炭治郎たちの前に姿を現したのは高等幻魔である"ヘキュバ"だった。ごく一握りのシャルカが成長することによって変化する巨大な蜂の姿をした幻魔であり、両腕の巨大な鎌は重装備の鎧武者を容易く両断し、腹部の先端の鋭い針による攻撃は並の猛者でも防御することが困難なほど速く重いのだ。

 

ヘキュバは背中の羽根を素早く動かし空高く舞い上がる。羽ばたく際に発生する突風の勢いがあまりに強く周りの建物が崩れ炭治郎たちも思わず体勢が崩れてしまうほどだった。

 

「さあ、先に死にたいのはどっち?鬼狩り?それとも鬼一族?」

 

「醜い化物が!消え失せろ!」

 

「フフ…決まった。まずはお前から喰らってあげるわ!」

 

堕姫の帯が一斉にヘキュバに襲いかかるが、その巨体からは想像がつかないほどの俊敏な動きで容易く帯を回避する。お返しと言わんばかりにヘキュバが腕の鎌を振りかぶりながら堕姫に接近してきた。

 

(速っ!?この蜂女…あの大きさでなんて速さなのよ…!でも、大丈夫。鬼狩りの刀でもないあんな化物の刃でアタシの頸が斬れるはずがないわ!)

 

急接近されて避けられないと判断した堕姫はヘキュバの攻撃をあえて受けようとしていた。鬼殺隊の日輪刀でなければ鬼である自身の頸は斬られない、そう思っていたのだが…

 

「なにやってんだぁあ!!避けろォ!!」

 

「大丈夫よお兄ちゃん!だって鬼狩りの刀じゃないし、あんな化け物にアタシの頸が斬れるわけ…」

 

「馬鹿だねぇ、この時代の鬼の一族は間抜けしかいないのかしら!」

 

ザシュ!!

 

ヘキュバが勢いよく堕姫の頸にめがけて鎌を振ると、なんと堕姫の頸が胴から切断され宙を舞ったのだ。切断された堕姫の頸をヘキュバは器用に鎌の腕で突き刺して回収する。

 

「…え?嘘…」

 

(あの蜂女、日輪刀でもないのに鬼の頸を斬りやがった…!!)

 

「アハハ!バルドスタンの言ったとおりね。あいつは気に入らないけど改造手術の腕と指示だけは的確だわ」

 

「ち、ちょっと!!なんでアンタなんかにアタシの頸が斬られるのよ!鬼狩りの刀じゃないと鬼の頸を斬れないのに!!アンタなにしたのよォ!!」

 

「フフ…教えてあげるわ。私の鎌にはその鬼狩りの刀に使われてる鉱石が混ぜてあるのよ。だから、お前の頸を刎ねるの容易いってこと。お前たちが太陽の光が弱点ってことも知ってるわ、夜でしか活動できないなんて下等で軟弱な存在ね」

 

(鬼の倒し方も鬼殺隊のことも知っている…!一体、何者なんだ…?)

 

「あら?頸を斬ったのに死なないのね。ひょっとして例外もあるの?じゃあ喰らって取り込めばさすがに死ぬわよね?」

 

するとヘキュバは鎌で突き刺した堕姫の頸を補食しようと自身の口に運んでいく。さすがに自身を喰らおうとする相手は初めてだったのか堕姫は顔を青くして悲鳴あげていた。

 

「や、やめてよっ!?いやぁぁぁ!!お兄ちゃああん!!」

 

「俺の妹を喰おうとすんじゃねぇよォォ!!」

 

堕姫を助けようと妓夫太郎が血の斬撃の雨をヘキュバに浴びせる。しかし、ヘキュバは再び空高くへと舞い上がり全身を激しく回転させて斬撃を弾き返したのだ。

 

「この鬼、お前の妹なの?フフ…お前が妹を助けるのが先か私が喰うのが先か…どっちかしらねぇ?」

 

「気色悪ィ化け物が…俺がお前の頸を斬るのが先だぁあ!!」

 

 

妓夫太郎とヘキュバがお互い激しく打ち合い始めた。柱の剣士である天元でも苦戦する妓夫太郎の鋭く凄まじい速度と威力を持つ妓夫太郎の攻撃だが飛行して巧みに動き回るヘキュバにはなかなか攻撃が当たらず、逆に妓夫太郎のほうがヘキュバの攻撃を多く食らっていたのだ。

 

(チィ…!ちょこまかと動き回りやがってぇ!)

 

斬られても手足が両断されても即座に再生する妓夫太郎にはやはり効果が薄かった。その時、妓夫太郎は身体に異変を感じ始めていた。

 

(なんだぁ?身体の動きが鈍い…?どういうことだぁあ…?)

 

「フフ…もう一つ言っておくと私の鎌には毒があるのよ。人間が食らったら数日は動けなくなるほどの幻魔特性の麻痺毒さ。お前たちの再生能力の高さも知ってるわ。なら、毒で動きを封じて確実に頸を斬ればいいだけのことよ」

 

「嘘…!?お兄ちゃん!!こんな化物なんかに負けないでよ!!」

 

毒が本格的に効き始めたのか、妓夫太郎の動きが明らかに遅くなっている。堕姫の頸は相変わらずヘキュバが抱えており、このまま妓夫太郎の頸が斬られれば二人の消滅しヘキュバの勝利が確定してしまう。

 

一方、ヘキュバと妓夫太郎たちの戦いを見ていた炭治郎と天元はお互いに合流し機会を伺っていた。

 

「あの蜂女が押してやがる…何なんだあの化け物は?」

 

「分かりません…明智さんが言ってた幻魔でしょうか?宇髄さん、どうしますか?」

 

(どちらかが倒されるまで様子を見るか?しかし、どっちにしても厳しくなりそうだな…)

 

先ほどの戦闘で妓夫太郎の強さはすでに把握しており、今いる戦力で勝てるかどうか分からないほどの相手だ。さらに新手の敵であるヘキュバはその妓夫太郎を相手に優位に戦うほどの強敵な上に問題は飛行能力を持っていることだ。

 

(さすがの俺でも空を飛ぶ敵と戦ったことはねぇぞ…俺と竈門たちだけでやれるか?)

 

「宇髄さん!あれ…!」

 

炭治郎が青ざめて指差す先には建物の物陰に隠れている双子の子供の兄弟の姿だった。妓夫太郎やヘキュバの激しい戦闘の影響で逃げ遅れてしまったのか、震えてその場から動けないようだった。その時、妓夫太郎の放った当たりそこねた血の斬撃が建物に命中し瓦礫が子供に向かって降り注ぐ。

 

「宇髄さんっ!!」

 

「任せろ!」

 

瓦礫に潰されそうな子供を天元が高速で救い出し事なきを得たが、ヘキュバと妓夫太郎の前に躍り出る形になってしまったのだ。

 

「あら?鬼狩りも邪魔をするの?いいわよ、まとめて相手になってあげるわ」

 

「…おい、早く逃げろ。振り向くな、全力で走れ」

 

「…あ…ああ…」

 

「大丈夫だ、俺たちに任せて。妹と一緒に走るんだ」

 

「う、うん!」

 

「禰豆子!この子たちを安全なところへ!」

 

「ムーー!!」

 

禰豆子に連れられて逃げていく子供の兄弟の姿を見届けた天元と炭治郎は戦闘態勢に移る。妓夫太郎はヘキュバの麻痺毒の影響で動けなくなっており堕姫も頸をあさっての方向に投げ捨てられて慌てていた。ヘキュバは天元たちに狙いを定めて襲いかかる。  

 

「フフ…鬼狩りと言っても所詮は人間…どこまで持つか見物ね」

 

「音の呼吸…弐ノ型・鳴慟(めいどう)!」

 

天元は音の呼吸の弐ノ型でヘキュバを迎え撃つ。爆発する斬撃をヘキュバに向かって三連撃で放つが、巧みに身体をしならせて斬撃を回避しつつ天元に鎌で斬りかかる。

 

「これはどう?」

 

ガキィィン!!

 

「くっ…!!」

 

妓夫太郎ほどの攻撃速度はないが予想以上の重い一撃に思わず天元はよろめいてしまう。ヘキュバは鎌による連撃を天元に浴びせる。

 

「アハハ!!それ、それ!」

 

「水の呼吸…肆ノ型・打ち潮!!」

 

その側面から炭治郎が肆ノ型でヘキュバの頸を狙って技を繰り出すが、それを素早く察知したヘキュバは少し空へ上昇してそれを回避する。

 

「残念、惜しかったわね!ハァ!!」

 

「ぐぁ!?」

 

回避された瞬間、炭治郎の背中にヘキュバの鎌による斬撃が命中する。受け身も取れず体勢が崩れたまま地面に転がった。斬られたのは禰豆子を収納する箱の部分だったことで麻痺毒の影響はないようだ。

 

(よかった、傷は浅い…!まだ戦える!)

 

振り向くと再びヘキュバと天元が激しく打ち合っていた。火薬玉や音の呼吸の技を駆使しつつ戦闘を繰り広げているが、そのほとんどの技がヘキュバに命中していない。

 

「アハハ!どうしたの?そんな攻撃、私には当たらないわよ?」

 

「この野郎…!!ちょこまかと逃げやがって!!」

 

(くそっ…!攻撃が当たらねぇ!隙を捉えてもすぐに空に逃げられちまう…それに死角から正確に急所を狙ってきやがる!!)

 

ヘキュバにとって飛べない人間の死角から攻撃するなど容易いことだ。このままでは体力と時間を消耗するだけでヘキュバに攻撃を当てるにはやはり自身も飛び上がって攻撃するしかない。だが、それはあまりにも危険が大きく賭けにも等しい手段だった。

 

(どうする…?避けられたらこっちが隙だらけになっちまう上に毒までついてやがる…!)

 

攻撃がヘキュバに命中すればいいが避けられた場合は上空で無防備になり確実に攻撃を受けてしまう。なんとか打開策を思案していたその時…

 

(血鬼術…爆血!!)

 

「おっと!やるじゃない、爆発する血とは驚いたわ」

 

「ヴヴーーっ!!」

 

「禰豆子!!」

 

(竈門禰豆子か…?へぇ、人を喰わねぇのはどうやら本当らしいな。これで三体一か、それなら…) 

 

「おい!竈門!竈門妹!手を貸せ!」

 

「は、はい!」

 

「ムン!!」

 

天元が素早く炭治郎の元に駆け寄り、何か指示を伝える。頷いた後、炭治郎が起き上がり日輪刀を構えヘキュバ向かって疾走する。同じく禰豆子も反対方向からヘキュバに向かって走り出す。

 

(宇髄さんの指示通りに!そう言えば、あの虫の化け物は火に弱かった…なら!)

 

「ヒノカミ神楽…火車!!」

 

シャルカを斬った時と同じく炭治郎の呼吸が変わり、独自の呼吸の技であるヒノカミ神楽の技をヘキュバに向かって繰り出した。水の呼吸の弐ノ型に似た技だったがヘキュバは難なくそれを回避し再び炭治郎に斬りかかろうとする。

 

「さっきと太刀筋が違うみたいだけど、無駄だったわね!」

 

「今だ!禰豆子!」

 

「ヴヴッ…!!」

 

炭治郎の技を回避した瞬間、鬼による並外れた脚力でヘキュバの高度まで跳躍した禰豆子はヘキュバの身体にしがみつき自由を奪ったのだ。禰豆子の動きに気づいていたがあまりの速さに回避が遅れ接近を許してしまったのだ。それを待っていたと言わんばかりに天元が飛び上がりヘキュバに向かって技を繰り出す。

 

「この…!離れなさい!!」

 

「お前らよくやったぜ!これで終わりだ蜂女ァ!」

 

まずは炭治郎に攻撃を仕掛けさせあえて回避させることで意識を炭治郎に集中させ、その隙に禰豆子がヘキュバを拘束して動きを封じ無防備になったところを天元がとどめを刺す…というのが天元の作戦だったのだ。特にヘキュバを拘束するのは鬼である禰豆子にしかできないことであり、この三人だからこそ実現できた戦法だった。

 

しかし…

 

「音の呼吸…壱ノ型・轟!!」

 

「…甘いわね、これで勝ったと思ったかしら?」

 

「何っ!?」

 

ヘキュバは力を溜めるような仕草をした後、腹部を勢いよく天元に突き出した。ヘキュバのもう一つの攻撃手段である腹部の針による攻撃だった。勝ったと思って少し油断していたのか天元はヘキュバの針攻撃を食らってしまったのだ。

 

「ぐぁ!!?」

 

「フフ…落ちなさい!」

 

なんとか咄嗟に身体をずらしたおかげで急所は避けられたが、空中で無防備になった天元をヘキュバは鎌で勢いよく叩きつけた。攻撃をもろに受けた天元は凄まじい速度で真下の建物へ轟音と共に落下した。

 

「宇髄さんっ!!」

 

「お前も邪魔よ!!」

 

「ウゥッ…!!?」

 

「禰豆子!!」

 

ヘキュバをしがみついていた禰豆子も振りほどかれて同じく上空から叩き落とされてしまった。それを見た炭治郎は大急ぎで禰豆子の落下地点に走り間一髪で身体を受け止めた。

 

「大丈夫か!?禰豆子!」

 

「ウゥ…」

 

「よかった…宇髄さんはっ!」

 

振り向くと建物の瓦礫の中から出血する脇腹を抑えながらゆっくりと天元が姿を現した。しかし天元の姿を見た瞬間、炭治郎は思わず絶句した。

 

「う、宇髄さん…目が!」

 

「…大丈夫だ!まだ片目があるぜ!気を抜くんじゃねぇ!」

 

なんと天元の左目にヘキュバの攻撃によって一文字の傷が付けられ出血していた。さらにヘキュバの麻痺毒の影響でうまく身体が動かないのか、全身が震えていた。

 

(強い…!このままじゃやられる…!!)

 

天元の作戦も破られ、頼みの綱である天元も負傷してしまい、さらに町は大量のシャルカによる襲撃で大混乱と多数の死傷者が出ている。もはや収集がつかないほどの絶体絶命の危機に陥っていたのだ。

 

圧倒的に優位な状況であるはずのヘキュバだったが何か腑に落ちないことがあった。

 

(おかしいわ…子供たちを町に放って随分経つのにまだ町中の人間どもを喰えてないの?)

 

先ほどから町の人間があちこちで逃げ回っているが、逃げている理由はシャルカによる襲撃だけではなかったのだ。すると逃げている町の人間の大声が耳に入った。

 

「火事だ!!逃げろ!!東の方角だ!」

 

「しかも、人を喰う化物もいるらしい!」

 

「急いで避難しろ!」

 

(東の方角…?まさか…!!?)

 

ヘキュバは高度を上げ、東の方角を見るとなんと一軒の建物が激しい炎に包まれ炎上していた。燃えている建物はヘキュバのいた星見屋であり、さらにその周辺からも黒煙が立ち上っていた。

 

「どういうことなの…!私の巣が…!」 

 

「探しているのはコイツらか?」

 

「…!!」

 

ヘキュバが声のする方角を向くとそこには一人の人影があった。片手にシャルカの頭を持ち、全身を返り血で染めた赤い具足を身につけた武者がそこにいた。

 

「あ、明智さん!!」

 

「明智…!!」

 

「すまん、奴らの数が予想以上に多くて手こずってしまった。だが、奴らの巣は潰しておいたぞ」

 

「まったくだよ!いったい何百匹いたのかなぁ…」

 

現れたのは炭治郎たちとは別行動で幻魔の行方を探っていた左馬介と阿児だった。あれからシャルカに襲われた女性の遺体があった場所の近くで発見した穴から星見屋の地下に潜入したのだ。ヘキュバと一度戦った経験がある左馬介はこの幻魔が巣を作って無数のシャルカを生み出す習性があることを知っており、まずは巣を潰そうと動いていたのだ。町への被害は完全には防げなかったが左馬介が巣を破壊したことでこれ以上シャルカが湧き出る心配はなくなったのだ。

 

「天元、町はもう大丈夫だ!伊之助と善逸もこっちへ向かっている。後はその化け物と鬼だけだ!」

 

「…へっ!遅ぇぞこの野郎!!だが、助かったぜ!」

 

「よくもやってくれたわね…左馬介ェェ!!」

 

「性懲りもなくまた地獄から蘇ったか、今度こそ息の根を止めてやる。覚悟!」

 

左馬介は愛刀を構えヘキュバに向かって疾走した。

 




次回は左馬介が大暴れします!
頑張って続きを書くので、気長にお待ち下さい!!
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