鬼滅の刃 鬼斬り武者   作:戦国のえいりあん

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新作、書けました!

遊郭編やっと完結です!


第十六話 三ツ巴の激戦 後編

 

炭治郎たちと上弦の陸・堕姫と妓夫太郎、そして高等幻魔・ヘキュバの登場により吉原遊郭の戦いは混迷を極めていた。絶体絶命の危機に陥った炭治郎たちだったが、そこヘ秘密裏にヘキュバの巣を破壊した左馬介がようやく駆けつけたのだった。

 

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・東京都 吉原遊郭 大通り

 

天元と炭治郎の前に突如として現れたヘキュバの襲撃により苦戦を余儀なくされていた。さらに彼女の子供たちである大量のシャルカにより町は大きな被害を受け大混乱に陥っていたのだが、左馬介の活躍により星見屋の地下に張り巡らされていた巨大な巣は燃やされ、町にいた残りのシャルカも残らず殲滅されたのだ。

 

「よくも私の子供たちを…どこまで邪魔をすれば気が済むの…?左馬介ェ!!」

 

「貴様ら幻魔をこの世から消すまでだ、覚悟しろ!」

 

激昂するヘキュバは腕の鎌を振りかぶり急降下しながら左馬介に襲いかかるが、それを左馬介は明智拵で鎌を難なく受け止める。ヘキュバの両腕の鎌による激しい連撃を巧みにいなしながら反撃の機会を伺っていた。

 

「死ね!忌まわしき鬼の一族め!!」

 

(以前に戦った時よりも強くなっているな、だが…!)

 

かつて戦国時代の稲葉山城にある三重櫓で戦った時より強化されたヘキュバに驚いていた。しかし、あの時よりも強くなったのはヘキュバだけではない。このままでは不利だと悟った左馬介は戦闘スタイルを変更し武器を双刀の天双刃に切り替える。

 

(何…?前に戦った時はこんな武器は持ってなかったはず…!)

 

すると先ほどまで左馬介の防戦一方だった戦いが一変した。ヘキュバの重い一撃を上手く受け流しつつ素早く反撃して少しずつダメージを与えていたのだ。受けといなしを得意とし防御を固めつつ二刀による素早い連撃によって堅実に相手を攻めるのだ。

 

(くっ…!?前よりも腕を上げたわね!それに鬼狩りと同じ呼吸音がするのは何なの…?)

 

今の左馬介は全集中の呼吸により普段の倍以上の攻撃速度と反応速度を発揮している。炭治郎たちのように呼吸の剣技は出来ないが、その閃光の如き太刀筋と凄まじい連撃を避けるのは高等幻魔であっても困難だろう。

 

「ハッ!せいっ!」

 

「この…!図に乗るなァ!!」

 

両者の一進一退の攻防が続くが不利を悟ったヘキュバは高度を上げ左馬介と距離を取る。その隙に左馬介は負傷していた天元の元へ駆け寄った。

 

「天元、大丈夫か?」

 

「ああ…何とかな」

 

(コイツ…!全集中の呼吸を使えるのか!?あの蜂女といい、一体どうなってやがる…!)

 

「これを飲め、毒が和らぐ」

 

そう言うと左馬介は懐から取り出した丸薬を天元へと差し出した。

 

「あん?こりゃ何だ?」

 

「丸薬だよ。幻魔の毒にも効果があるから、飲んでみて」

 

本当にこんな物が効くのか?と最初は怪しそうな表情をしていた天元だが飲み込んでみると丸薬の予想以上の効力に驚いていた。

 

(…!身体の痺れが消えた…!傷も体力も回復してやがる、どんなモンを調合したらこんなすげぇ薬が作れるんだ!?)

 

「目は大丈夫か?」

 

「へっ!この宇髄様を甘く見てもらっちゃ困るぜ。片目が潰れたぐらい大したことねぇよ!」

 

「分かった、だが無理はするな」

 

「明智さん!助かりました!!」

 

「炭治郎、よく耐えたな。後は任せろ」

 

「いえ!俺も禰豆子もまだ戦えます!」

 

「ムン!!」

 

左馬介と天元たちは背中を預け合って敵を見る。左馬介の前にはヘキュバ、天元たちの前には麻痺毒から回復した妓夫太郎とやっと頸を胴体に戻した墜姫の姿があった。

 

(ああん?あの侍は何だぁ?…この気配、鬼かぁ?)

 

「次から次へと鬱陶しいわね…!お兄ちゃん!一匹残らず殺しちゃおうよ!」

 

「とりあえず、鬼狩りからぶっ殺すかぁ。蜂の化物と侍はその後だぁ」

 

「もう他の雑魚共なんかどうでもいいわ!!左馬介!!お前を八つ裂きにして子供たちの餌にしてやるッ!」

 

妓夫太郎と墜姫、ヘキュバはそれぞれの獲物に狙いを定める。それに対して左馬介と天元たちは今後の作戦を考えていた。

 

「さて、どうしたもんかねぇ…」 

 

(上弦の鬼に加えて、蜂の幻魔…こっちは竈門たちと俺と明智か…この戦力でどうにかできるか…?)

 

「天元、幻魔は俺が倒す。それまで耐えられるか?」

 

「構わねぇが…あの蜂女を倒す策はあるのか?」

 

「ああ、奴なら一度倒したことがある。任せろ」

 

「…おいおい、冗談だろ?アイツをか?」

 

(あの蜂女を明智さんが…?)

 

しかし、その言葉が決してハッタリなどではないことは天元も分かっていた。さらに言えばこの状況でヘキュバの相手ができるのは左馬介のほかにいないとは考えていたのだ。左馬介がヘキュバを引き付け残った炭治郎と禰豆子、そして自身で妓夫太郎と墜姫と戦えばこの場はなんとか切り抜けられる。

 

「…分かった、蜂女はアンタに任せたぜ」

 

「ああ、すぐに奴を片付けて援護に向かう」

 

「へっ!頼もしいねぇ、竈門!竈門妹!テメェらは妹の鬼の頸を斬れ、兄の鬼の頸は俺が斬る。いいか?同時に頸を斬らなねぇと奴らは倒せねぇ!しっかり俺様に合わせろよ!」

 

「わ、分かりました!」

 

「ムン!」

 

作戦が決まったと同時にそれぞれが相手に向かって走り出す。最初に戦闘が始まったのは左馬介とヘキュバの戦いだった。疾走する左馬介を補足したヘキュバは腕の鎌を振りかぶりながら急降下する。

 

「死ねェ!!左馬介ェェ!!」

 

「くっ!」

 

ヘキュバの落下速度による重い一撃をなんとか天双刃で防いだ左馬介だが、あまりの威力に少しだけよろめいてしまう。するとヘキュバはすかさず両腕の鎌を豪快に振り回し激しい連続攻撃の雨を左馬介に浴びせる。

 

「死ねェ!死ねェェ!!」

 

しかし、激しい攻撃を左馬介は天双刃で受け流しつつ身体を巧みに動かし攻撃を回避していた。凄まじい速度の連続攻撃を物ともせず左馬介は反撃の好機を狙っていた。

 

「この…!ちょこまかと!!」

 

(ここだ…!)

 

すると左馬介の鬼の篭手が緑色に光り、武器が双刃刀の疾風刀に切り替わる。奥義である戦術殻・風による凄まじい竜巻は空中にいる相手にも効果があるのだ。以前、三重櫓で戦った時もヘキュバに決定的なダメージを与えることができたのだ。

 

戦術殻・風を発動しようとするが…

 

「…!!させないわよ!」

 

左馬介の武器が疾風刀に変わったことに瞬時に気づいたヘキュバは攻撃を中断して高度を上げる。戦術殻・風の竜巻が届かない高さまで飛び上がったヘキュバは左馬介を見下ろす。

 

「何度も同じ手を食らうわけ無いでしょう?その攻撃はもう見切ったわ!」

 

「……」

 

攻撃が届かない高さまで逃げられては左馬介にも手が出せなかった。すると左馬介は背中に背負っていた弓を構えた。それを見ていた天元や炭治郎はあまりにも時代遅れな武器に驚きを隠せなかった。

 

(弓だと?おいおい、そんなモン使えんのかよ…!?)

 

「アハハ!そんな物が私に通用すると思っているの?」

 

「……」

 

しかし左馬介は気にせずヘキュバに向かって定角の矢を一矢放った。全集中の呼吸により威力は増し矢の速度も目にも留まらぬ速さだったが、距離が離れすぎているせいかヘキュバは容易くその矢を回避する。

 

「残念、当たらないわよ」

 

羽根を狙った一矢だったがヘキュバには命中はしなかった。立て続けに左馬介はヘキュバの羽根を正確に狙って矢を放ち続けるが、その矢はすべてヘキュバに回避されてしまう。

 

(やはりあの高さでは避けられるか…ならば…!)

 

(フフ、あの竜巻にさせ気をつければ恐れるものはないわ。今日こそ左馬介を八つ裂きにしてやる!!)

 

するとヘキュバは再び鎌を振りかぶりって左馬介めがけて急降下してくる。対する左馬介は弓を構えたままヘキュバをじっと捉えている。一気に左馬介との距離を詰めたヘキュバは胴体を狙った渾身の一撃を放った。

 

(もらった…!)

 

勝利を確信したヘキュバだが、その一撃を左馬介は身体を大きく捻って回避した。体勢を大きく崩して倒れながらもしっかりとヘキュバの羽根に狙いをつけていた。

 

(捉えたぞ!)

 

「そんな攻撃は無駄よ。バルドスタンの改造手術で強化された私の身体に人間のごときの武器なんて効かないわ!」

 

弓矢など無意味と高を括っていたヘキュバに対して左馬介は少し笑みを浮べてその一矢を放った。矢はヘキュバの羽根に見事に命中したがヘキュバにはまったく効果が無い。しかし、放たれた矢は先ほどの定角の矢ではなく少し先端の形状が異なる特殊な矢だった。

 

「言ったでしょう?こんな物が効くわけ…」

 

その時、ヘキュバの羽根に刺さった矢から電流のような光が流れていた。左馬介が放ったのは"雷の矢"であり、命中させれば高等幻魔であっても一瞬だけ動きを封じることができる効果を持つ特殊な矢だ。

 

(しまった、羽根が動かない…!まずい…!!)

 

雷の矢で動きが鈍っているヘキュバに対して、左馬介はすぐさま起き上がり武器を空牙刀に変更し構えを取る。

 

「ぬんッ!!」

 

空牙刀の奥義、戦術殻・空をヘキュバに向かって放った。刃を勢いよく横に振り切ると同時に青白く光る大きな斬撃が凄まじい速度でヘキュバを貫通して抜けていった。その直後、胴体に巨大な一文字の傷跡が刻まれ辺りに鮮血を撒き散らす。

 

「ギャアァ!!?」

 

まだ終わらないと言わんばかり今度は武器を疾風刀に切り替え、ヘキュバに接近しながら武器を風車のように激しく回転させる。疾風刀の奥義、戦術殻・風の巨大な竜巻の刃がヘキュバの全身を切り刻む。

 

「ギャアァァァッ!!!」

 

(アイツ、なんて野郎だ…!)

 

(す、すごい…!!)

 

あれほど苦戦を強いられたヘキュバを圧倒する左馬介の強さに天元と炭治郎は驚愕していた。戦術殻・風を食らったヘキュバは悲鳴を上げながら地上へと落下する。

 

「…グゥゥ…!!まだよ…!まだ終わりじゃないわッ!!」

 

「相変わらずしぶとい奴だ」

 

「黙れェ!!殺してやる!殺してやるッ!!」

 

ヘキュバは再び左馬介に襲いかかろうと構えるが、戦術殻を連続で食らった影響で満身創痍のようだ。再び上空へ飛び上がったヘキュバは鎌を振りかぶりながら左馬介に向かって行った。

 

一方、妓夫太郎と墜姫と交戦していた炭治郎と天元たちも一進一退の攻防を繰り広げていた。墜姫と戦っていたのは炭治郎と禰豆子の兄弟だが戦況は墜姫が優勢だった。

 

「アハハハッ!どうしたの?その程度じゃアタシの頸は斬れないわよ?」

 

(くそッ!帯の攻撃が激しくて近づけない…!しかも、兄の鬼の方からも血の斬撃も飛んでくる。避けるのが精一杯だ!…!)

 

「ウウゥ!!」

 

「禰豆子!血の斬撃には気をつけろ!掠っただけで致命傷になる!」

 

墜姫による変化自在な帯による激しい攻撃に加えて妓夫太郎の血の斬撃という波状攻撃に炭治郎と禰豆子は防戦一方になっていた。何度か墜姫の頸を斬れそうな好機はあったが、その度に頸を帯に変化されて攻撃を無効化されてしまうのだ。

 

「欠伸が出るわね、それにアンタの刀…もう刃毀れしてボロボロじゃない」

 

(駄目だ…!水の呼吸じゃあの鬼の頸は斬れない…でも、ヒノカミ神楽を連発する体力はもう残っていない…!)

 

炭治郎の日輪刀は墜姫の激しい攻撃を防御し続けた影響で刃がボロボロになっていた。さらにこれまでの幻魔との戦闘で体力を消耗し傷を負っているせいで強力なヒノカミ神楽の技を使用することを戸惑っていたのだ。

 

「ヴヴゥー!!」

 

「ね、禰豆子!駄目だ!!」

 

なんとか突破口を開こうと禰豆子が墜姫に向かって疾走する。墜姫に流れる鬼舞辻の濃い血に反応しているのか激しく怒りで興奮していた。 

 

「アンタがあの方が言ってた鬼ね!嬲り殺しにしてやるわ!!」

 

それと同時に墜姫の帯が激しくうねりながら禰豆子に襲いかかる。しかし帯が直撃する瞬間、炭治郎がその間に割って入り攻撃から禰豆子を守っていた。

 

「ぐぅぅぅ!!?」

 

「……!!」

 

「禰豆子!止まるな!鬼の攻撃は俺が防ぐ!いくぞ、俺たちであの鬼を倒すんだ!」

 

互いに頷くと二人は息を合わせて走り出した。絶え間なく帯による攻撃が二人を襲うが、炭治郎はなんとか帯をいなしながら禰豆子の活路を切り開く。

 

(まともに受けるな!流せ…!受け流すんだ!)

 

「水の呼吸・参ノ型…流流舞!!」

 

参ノ型で帯による攻撃を受け流し隙を作った瞬間、禰豆子が一気に墜姫との距離を詰める。勢いよく跳躍し墜姫の頭部を狙って回し蹴りを放つが…

 

「無駄なのよ!この雑魚鬼がッ!!」

 

「ヴヴッ…!!?」

 

しかし、蹴りが頭部に命中する瞬間、無情にも禰豆子の片脚は帯によって切断されてしまった。すかさず墜姫は空中で無防備になった禰豆子を無数の帯を交差させながら斬り刻もうとしていた。

 

「禰豆子ッー!!」

 

(駄目だ…間に合わない…!禰豆子が…!!)

 

助けようと炭治郎は必死に走るが、この距離では間に合わない。さらに禰豆子を助けることに集中するあまり背後から帯が迫っていることに気づいていない。

 

(これで終わりね、さっさとお兄ちゃんの援護に向かわなくちゃ)

 

もはやこれまでかと思ったその時、何処からともなく落雷のような轟音と共に禰豆子に襲いかかろうとしていた帯がバラバラに切り刻まれたのだ。

 

(霹靂一閃…六連!)

 

「なっ!!?」

 

「…!」

 

「…禰豆子ちゃんは俺が守る」

 

片脚を切断された禰豆子を抱きかかえながら現れたのは、善逸だった。さらに炭治郎を襲おうとしていた帯は同じく現れた何者かによって防がれていた。

 

「グワハハハ!!待たせたな!!伊之助様のご登場じゃあ!!」

 

「伊之助!善逸!」

 

炭治郎を守ったのは同じく遅れて現れた伊之助だった。途中で合流した左馬介と共に町のシャルカを残らず撃破した二人は戦闘音を聞きつけてようやくこの場に駆けつけたのだ。合流した四人は集まると墜姫と一度距離を取る。

 

「ありがとう伊之助、助かった!」

 

「当然だ、子分を助けるのは親分の仕事だからな!」

 

「禰豆子ちゃん、立てるかい?」

 

「ムン!」

 

切断された禰豆子の片脚は鬼の力によってすでに再生していた。頼もしい二人の援軍に炭治郎は思わず安堵の表情を浮かべる。

 

「…次から次へと鬱陶しいわね、皆殺しにしてやる!」

 

「オイ!新八郎!サムライのオッサンに会ったか?アイツ…やっぱ信じられねぇぐらい強かったぞ!町にいた虫の化物をあっという間に斬っちまったぜ!」

 

「町はもう心配ない、あと鬼だけだ」

 

「ああ!明智さんも宇髄さんも戦ってる!俺たちはあの鬼を倒そう!」

 

「分かった!」

 

「おう!あの蚯蚓女の頸は俺が斬る!」

 

「厶ー!」

 

 

集結したかまぼこ隊と禰豆子は墜姫に向かって走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

一方、妓夫太郎と交戦していた天元も同じく予断を許さない状況だった。片眼を失ったものの未だに五体は無事であり麻痺毒も完治しているが、やはり妓夫太郎の実力は想像以上であり苦戦を余儀なくされていた。

 

「音の呼吸…伍ノ型・鳴弦奏々!」

 

「血鬼術…円斬旋回・飛び血鎌!」

 

天元の轟音と共に爆発する日輪刀を激しく振り回す伍ノ型と妓夫太郎の竜巻のように回転する広範囲の血の斬撃がぶつかり合う。しかし、戦況は少しずつ妓夫太郎が有利になりつつあった。

 

「やるなぁ、今まで殺した柱の中でもお前は別格だなぁ」

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ひひっ!じわじわと毒が効いてきたみたいだなぁ。動きが鈍くなってきたじゃねぇかあ?」

 

「いいや、全然効いてないね。絶好調で天丼百杯食えるわ!ド派手にな!!」

 

これまで血の斬撃をなんとか防いでいたが、すべては防ぎきれず掠り傷から侵入した毒が身体を蝕み始めていたのだ。静音と同じく天元も少しずつ顔色が悪くなり動きが遅くなっている。

 

(くそっ…!毒に耐性がある俺でもこの有様か…!早くカタを着けねぇと…!)

 

「天元様ッ!」

 

その時、近くの建物の屋根から姿を現したのは天元の三人目の妻である雛鶴だった。他の二人とは違って天元によって先に救出され町から離れるように言われていたのだが、天元たちを少しでも援護しようと再び駆けつけたのだ。すると雛鶴は苦無が大量に収められた箱のような武器を構え妓夫太郎に向けて放った。

 

(雛鶴!?あの苦無は…よし!)

 

(何だ?苦無か?ちまちまと鬱陶しいぜ!まぁ、こんなもの当たった所で…いや、そんな無意味な攻撃今するか?)

 

何か危険を察知した妓夫太郎は血鬼術で斬撃の膜を作り、降り注ぐ苦無を弾き飛ばした。

 

(血鬼術…跋弧跳梁!!)

 

(…!!斬撃で天蓋を作って防がれた!?)

 

苦無が発射されたと同時に天元は妓夫太郎に向かって駆け出した。再び激しく打ち合いが始まるがその時、妓夫太郎は身体に違和感を覚えていた。

 

(…何だぁ?また身体が痺れて…)

 

それと同時に天元が妓夫太郎の両足を切断する。いつもであれば瞬時に再生する自身の身体の再生が何故か遅くなっている。見ると肩に先ほどの斬撃の膜でかわし損ねた苦無が一本刺さっていた。

 

(やはり何か塗られていたなこの苦無!藤の花かぁ!?)

 

(好機だ…!いくぜ!!)

 

「音の呼吸!肆ノ型・響斬無間!!」

 

鎖で繋がれた日輪刀をヌンチャクのように振り回しながら壁のように爆発する斬撃を発生させた。だが、土煙が晴れると妓夫太郎の姿が消えていた。

 

「消えた…!!」

 

嫌な予感を感じた天元が雛鶴がいる屋根に目を向けると信じられない光景があった。雛鶴の首を掴み上げ今まさに鎌で引き裂こうとしていたのだ。

 

「いやぁ、よく効いたぜこの毒はなぁ…よくもやってくれたなぁ、俺はお前に構うからなぁ?」

 

「…っ!!」

 

「雛鶴ッーー!!」

 

なんと妓夫太郎は瞬く間に藤の花の毒を分解し両足も再生していた。その後、戦闘を妨害してきた雛鶴に狙いを定め、凄まじい速度で接近して襲いかかったのだ。

 

(くそっ!!邪魔だ!!帯が…!畜生ッ!!)

 

雛鶴を助けようと必死に走り出すが、墜姫の帯が天元を妨害し行く手を阻む。天元であってもこの距離ではもう間に合わない。

 

「じゃあなぁ!」

 

「やめろーーッ!!」

 

(みんな…ごめんなさい…!天元様…ご武運を…!)

 

それを見ていた炭治郎たちもなんとか助けようと動こうとするが墜姫の妨害でそれどころではない。最期を悟った雛鶴は目を瞑る。

 

もう雛鶴は助からない、誰もがそう思ったその時だった…

 

「ぬんッ!!」

 

ザンッ!!

 

「…なんだぁ?」

 

なんと妓夫太郎の両腕が何処からともなく飛んできた青白い斬撃によって切断されてのだ。拘束から解放された雛鶴と妓夫太郎は思わず斬撃が飛んできた方向を見る。

 

その先にいたのはヘキュバと交戦していた左馬介だった。妓夫太郎の両腕を切断したのは空牙刀の戦術殻・空だったのだ。しかもヘキュバと戦っている最中に放った一撃であり左馬介はすぐさま戦闘を再開する。

 

(あの侍がやったのかぁ?あの距離からあの速度に加えてこれほどの威力の斬撃を撃てるとはなぁ)

 

(鬼力が切れたか…戦術殻・空はもう使えない)

 

鬼の武器による協力な戦術殻は無制限に使用できる訳ではない。鬼の篭手の力の源である鬼力を消費して放つものであり、一度の戦闘で使える回数は二回ほどなのだ。

 

「戦ってる最中によそ見とはいい度胸ね!!」

 

「くっ…!!」

 

一瞬だけ隙ができた左馬介にヘキュバがこれでもかと連撃を仕掛けるが、よろけながらも左馬介はなんとか持ち直す。その時、左馬介に気を取られていた妓夫太郎の側にいた雛鶴を天元が救出した。

 

「明智左馬介!アンタに感謝する!!」

 

「ああ!もう少しだけ耐えろ!すぐに向かう!」

 

「おう!任せろ!雛鶴!下がってろ!」

 

「は、はい!申し訳ありません…!」

 

撤退する雛鶴を見届けると天元は再び妓夫太郎と激しく打ち合う。気合で毒の痛み耐えながら必死に妓夫太郎に食らい付く。

 

「しぶとい奴だなぁ、いつまで経っても死なねぇじゃねぇかぁ!なぁぁ!」

 

「カタを着けてやる…!行くぜ!」

 

ーーーーーーーー

 

その頃、左馬介とヘキュバの戦闘だが状況は左馬介が優勢だった。戦術殻によって受けたダメージが大きいのかヘキュバの攻撃に先ほどまでの激しさは無くなっている。左馬介は変わらず天双刃で攻撃を防御しつつ勝機を狙っていた。

 

(弱っているな、勝機ありだ…!)

 

(これで仕留めてやるわッ!終わりよ!)

 

するとヘキュバは両腕の鎌で力強く左馬介を叩きつける。満身創痍のヘキュバを突き動かすのは凄まじい憎悪と怒りだ。一方、ヘキュバの攻撃を受け止めた左馬介はそのまま動けない。押さえつけて動けない左馬介めがけて奥の手である腹部の針による渾身の一撃を繰り出した。

 

(今度こそ死になさいッ!!)

 

「残念だったな、くたばるのは貴様だ」

 

すると左馬介は力づくで無理矢理ヘキュバの鎌を押し返す。その時、鬼の篭手の玉が赤く光り武器が炎の力を持つ"炎龍剣"に姿を変えた。龍のように激しくうねる大きな業火で敵を燃やし尽くす戦術殻・炎を放つ大剣だ。左馬介は迫りくるヘキュバの針攻撃を炎龍剣で迎え撃つ。大きく後ろに振りかぶりヘキュバの針を狙って勢いよく剣を叩きつけるように振り下ろす。

 

「でいやァ!!」

 

「なッ…!!?」

 

鈍い音と共に腹部の針は炎龍剣によって叩き割られ粉々に砕け散ってしまった。そして、無防備になったヘキュバに向かって戦術殻・炎を繰り出した。左馬介が剣を振り下ろすと同時に剣にまとった龍の如き炎がヘキュバ全身を襲いその身体を焼き尽くす。

 

「ギャアァァァッ…!!?」

 

全身黒焦げになったヘキュバは弱々しく地面へ落下する。しかし、まだ息があり最後の力を振り絞るように身体を動かそうともがいているが、最早ヘキュバの身体は動かない。

 

「…殺し…て…やる…!左馬…介ェ…!!」

 

「これで終わりだ」

 

「…申し訳…ありま…せん…信長…様…」

 

左馬介はヘキュバの首を狙って炎龍剣を振りかぶる。そして勢いよく剣を振り下ろしたと同時にヘキュバの頭部が胴体から斬り離された。

 

ザンッ!!

 

首を落とされたヘキュバは完全に息絶えた。すると身体が崩れ落ち亡骸の中から大量の魂が発生した。その魂を左馬介は鬼の篭手で吸収し全て封じ込める。

 

「やったね、左馬介!」

 

「いや、まだだ。まだ終わっていない」

 

「うん、早く炭治郎と天元のおっさんを助けなくちゃ!」

 

ヘキュバを撃破した左馬介は苦戦している天元に加勢するべくその場を後にした。これで残った上弦の鬼二体を倒せば鬼殺隊の勝利が決まるのだ。一刻も早く駆けつけようと左馬介は速度を上げた。

 

同時刻、妓夫太郎と二度目の戦闘を繰り広げていた天元は窮地に陥っていた。耐えていた毒もすでに気合ではどうにもならないほど進行しており顔色が先ほどよりも目に見えて悪くなっている。互角だった状況も今では完全に防戦一方になっていた。

 

「どうしたぁ!動きが鈍くなってるぜぇ!さっきから守ってばっかりじゃねぇかよぉお!」

 

「…ぐッ…!!この野郎ッ…!!」

 

(畜生ッ…!毒の巡りが思ったより早いぜ…身体が動かなくなってきやがった…!!)

 

なんとか耐えているが、持ち堪えられ時間は自身の体力を考えてもあと残り僅かだ。力を振り絞って戦況を打開しようと呼吸を繰り出そうとするが…

 

「音の…呼吸…!参ノ型…」

 

「ひひっ!間抜けがぁ、隙だらけなんだよなぁあ!!」

 

天元が参ノ型を繰り出そうとした時、一瞬の隙を突いた妓夫太郎は天元の片側の日輪刀を弾き飛ばしたのだ。疲労困憊の状態で無理に呼吸の技を放とうとしたのが仇になってしまったのだ。

 

(くッ…!しまった…!)

 

「終わりだあぁ!!」

 

妓夫太郎の凄まじい速さの一撃が天元に迫る。柱の剣士であってもこの状態では回避する術も防御する術もない…

しかし、妓夫太郎の一撃は天元には届かなかった。

 

ガキィィン!!

 

「ああん?」

 

「よく持ち堪えたな、下がっていろ」

 

「…へっ!待ちくたびれたぜ、明智!」

 

天元の危機を救ったのはようやく駆けつけた左馬介だった。明智拵で首を斬り裂こうとしていた妓夫太郎の刃は明智拵によって間一髪で受け止められていた。

 

「テメェ…鬼だよなぁあ?鬼がなんで俺たちの邪魔をしやがる!!」

 

「俺は鬼の力を持つが貴様たちとは違う。覚悟しろ、貴様の首を落とす!」

 

「ひひっ!面白えなぁあ!やれるもんならやってみろぉお!!」

 

咆哮と同時に妓夫太郎は血の斬撃の雨を左馬介に食らわせる。それに対して左馬介は武器を天双刃に変更し巧みに斬撃を斬り落とす。斬撃では決め手にならないと感じた妓夫太郎は一気に間合いを詰め斬りかかる。

 

妓夫太郎の速く変則的かつ荒々しい太刀筋と左馬介の天双刃による洗練された閃光のような太刀筋が激しい火花を撒き散らしながらぶつかり合う。

 

(速い…!変則的な攻撃だな、天双刃でなければ速度に追いつけん…!)

 

だが左馬介は激しい攻撃を巧みにいなし、的確に妓夫太郎の両手足を何度も斬り落としている。

 

(この鬼のサムライ…!強ぇ…!俺の攻撃が当たらねぇぞ…!!)

 

先ほど戦って柱の剣士とは一線を画す左馬介の強さに妓夫太郎は驚きを隠せなかった。どれほど速く変則的な攻撃を仕掛けても天双刃で受け流されて反撃を食らってしまう。これほど強敵を相手にしたのは妓夫太郎にとって初めてだったのだ。

 

(ひひっ!面白ぇなぁあ!!ならこれはどうだぁ!!)

 

「血鬼術…円斬旋回・飛び血鎌!」

 

「…!明智!気をつけろッ!!」

 

妓夫太郎の両腕の周りに螺旋状の斬撃が発生し、それが徐々に広がり大きくなっていく。天元でも回避するのが困難な妓夫太郎の必殺技だが左馬介は冷静にそれを迎え撃つ。すると左馬介は武器を地轟斧へと切り替える。

 

「おりゃァァァ!!」

 

少し跳躍し地轟斧を勢いよく地面に叩きつける。戦術殻・地により左馬介を囲むように凄まじい大地の爆発が起こり土の壁が妓夫太郎の攻撃から左馬介を守ったのだ。

 

「何ィ!?」

 

(もらった…!そこだ!)

 

爆煙の中から武器を再び天双刃に変えた左馬介が妓夫太郎に一気に接近し強烈な突きを繰り出した。その突きから目にも留まらぬ速さで神々しい光りを放ちながら凄まじい連続斬りを繰り出した。天双刃の奥義である戦術殻・天であり下等・中等幻魔であれば天の力によって一瞬でその身を消滅させ高等幻魔にも大きなダメージを与えることができる技なのだ。

 

「がはッ…!!?」

 

戦術殻・天を食らった妓夫太郎はあまりの威力によろめき片膝をついてしまった。同時に全身に無数の刀傷が刻まれ、そこから大量の血が吹き出した。

 

(とんでもねぇ奴だぜ…!まさか、ここまでとはな…!)

 

左馬介の戦いを見ていた天元は改めて左馬介の強さに驚愕していた。自分が必死で戦ってもなんとか互角に渡り合えたあの上弦の陸の鬼を圧倒していたのだ。すると毒でほとんど動けなかったはずの天元が左馬介の隣に並び立った。

 

「無理はするな、天元」

 

「おいおい、一人でド派手に目立つばかりか手柄も全部持っていくつもりか?そうはいかねぇぞこの野郎!」

 

「毒がまわっているんだろう?平気なのか?」 

 

「あのちっこいお嬢ちゃんのおかげで少し楽になった、俺も手を貸すぜ」

 

「まったくもう!動くなって言ってんのに…おっさん!少しはあたいのこと見直しただろ?」

 

「すまねぇ!チビ助なんて言って悪かったな!」

 

毒がまわって動けなかった天元だったが、阿児の"白羽織"を用いた治癒の術でなんとか動けるまで体力が回復し毒の進行も多少だが和らいだのだ。

 

「分かった、いくぞ天元!」

 

「おう、"譜面"も完成した!勝ちに行くぞォ!!」

 

天元の言う"譜面"とは彼独自の戦闘計算式であり分析に時間はかかるが相手の攻撃動作や癖、律動を脳内で音に変換しその動きを読むことができるのだ。天元がこの計算式が完成すれば唄に合いの手を入れるが如く相手の隙を確実に突くことができるのだ。

 

左馬介と天元は妓夫太郎へ向かって駆け出した。

 

ーーーーーーーーーー

 

「だああぁ!!クソ!!オッサンたちは頸斬りそうだぜ!!チクショォ!合わせて倒さなきゃならねぇのに…!」

 

「大丈夫だ!伊之助!全く同時に斬る必要はない!二人の鬼の頸が繋がって無い状態にすればいいんだ!」

 

「ああ!俺たちならできる!いくぞ!伊之助!善逸!禰豆子!」

 

「ムンッ!!」

 

(クッ…!雑魚のくせに…!)

 

その頃、墜姫と炭治郎たちの戦いも大詰めを迎えていた。四人がかりでは流石の墜姫でも苦戦は免れず炭治郎たちの連携に少しずつ押され始めていた。妓夫太郎の窮地に陥っていることを知った墜姫は明らかに焦りを見せていた。

 

(お兄ちゃんを…助けないといけないのに…!!)

 

「糞餓鬼共がァ…邪魔なのよッ!!」

 

墜姫の帯の攻撃がより一層激しさを増し炭治郎たちに襲いかかる。しかし、四人相手で帯が分散しているおかげか何とか回避できている。

 

「この鬼の頸は柔らかすぎて斬れない!相当な速度か複数の方向から斬らなきゃ駄目だ!!」

 

「オッシャァ!!複数の方向なら二刀流の俺様に任せておけコラァ!!子分共!援護しろ!!」

 

「わかった!禰豆子!善逸!伊之助を守ろう!」

 

「よし…!」

 

「ヴヴゥー!!」

 

「獣の呼吸!捌ノ型…爆裂猛進!!」

 

防御を捨て、ただ敵に向かって高速で突進する捌ノ型で墜姫に接近する。伊之助めがけて無数の帯が襲いかかるがそれらの攻撃を炭治郎たちがそれぞれ技で防いだ。

 

「水の呼吸!参丿型…流流舞い!」  

 

「雷の呼吸…壱丿型・霹靂一閃・八連!!」

 

「ヴヴゥッーー!!」

 

炭治郎は参丿型、善逸は八連撃で放つ壱ノ型、禰豆子は複数の帯を鷲掴みに力づくで帯の動きを止めていた。攻撃の僅かな隙を掻い潜り伊之助は頸に届く間合いに入り込んだ。

 

「今度は決めるぜ!獣の呼吸…陸ノ牙!!」

 

(斬れないわよ!そんなガダガダの刃で…!)

 

「乱杭噛みッ!!」

 

二刀の刃で墜姫の頸を挟み込むように噛み合わせ、鋸のように強烈な力で引き裂いたのだ。伊之助の呼吸の技の中でも強力な威力を持つ技であり、その刃は見事に墜姫の頸を斬り落とした。

 

「…!!?う、嘘ッ…!!」

 

「オッシャァア!!蚯蚓女の頸斬ったぞォォ!!」

 

「やった!伊之助!」

 

ーーーーーーーー

 

そして同じ頃、左馬介と天元と戦闘していた妓夫太郎は完全に劣勢になっていた。ただでさえ手強い左馬介に加え、負傷しているとはいえ柱の剣士である天元の二人を同時に相手にするのは妓夫太郎であっても困難だった。

 

(クソがぁ…!!)

 

左馬介と打ち合っている最中に天元が合いの手を入れるように横槍を入れてくるのだ。譜面により妓夫太郎の動きは完全に読まれておりどれほど激しい攻撃を繰り出しても瞬く間に無力化せれてしまう。

 

「オッシャァア!!蚯蚓女の頸斬ったぞォォ!!」

 

(…なにィ…!?妹の頸が斬られたのかぁ…!!?)

 

その時、別の方角から何者かの叫び声が聞こえてくる。墜姫の視界を見るとすでに頸が落とされていた。これで妓夫太郎の頸も斬ることができれば左馬介と鬼殺隊の勝利だ。

 

(畜生ッ…畜生ォォ…!!こんな奴らに俺がぁあ!!)

 

激昂した妓夫太郎は最後の力を振り絞って高威力の血鬼術を繰り出そうとする。しかし、その動きは天元の譜面によってすぐさま看破されていた。

 

「明智!!あの技がくるぞッ!」

 

「任せろ!これで決める…!」

 

決着を着けようと左馬介が一気に間合い入り込む。妓夫太郎は迎え撃とうとするが両腕を天元に切断され隙を作られてしまう。すると左馬介は武器を雷斬刀に切り替え、刃に蒼い雷流をまとわせ心臓に突きを放つ。そして、続けざまに七連撃の電の連撃を食らわせると一瞬だけ間を置いた。

 

「ハァッ!!」

 

ザンッ!!

 

そしてとどめに目にも止まらぬ一閃の一撃を妓夫太郎の頸に放ったのだ。斬撃が命中したと同時に上空から凄まじい威力の蒼い電撃が妓夫太郎に降り注ぐ。この技こそ雷斬刀の奥義である戦術殻・雷であり雷撃をまとった七連撃を放ち最後に高威力の一撃と凄まじい電撃攻撃を食らわせる技なのだ。

 

「……ガ…ハッ…」

 

左馬介の一撃を食らい、黒焦げの胴体から頸が斬り離され明後日の方向に飛んでいく。妓夫太郎の頸が転がった先には偶然にも先ほど伊之助によって斬り離された墜姫の頸があり、向かい合うように動きが止まった。

 

「……」

 

「…斬った…のか?」

 

頸と胴体の離れた二体の鬼の身体は最早動かない。沈黙を破ったのは一つの大声だった。

 

「斬った…!?斬った!!斬った!!キャー!!斬りましたよォ雛鶴さん!まきをさん!」

 

「やった…勝ったんですね…!!」

 

住民の避難を手伝っていた須磨とまきをの歓声を皮切りに炭治郎たちも喜びの声を上げる。

 

「オッシャァァ!!俺たちの勝ちだァァァ!!」

 

「やった…あの上弦の鬼に勝ったんだ…!!」

 

「ムーーー!!」

 

「…あれ?ここ何処?…っていうか何があったのッ?しかも起きたら身体中が痛いんだけど!?」

 

あちこちで歓声が上がる中、妓夫太郎の胴体の近くにいた左馬介と天元は真剣な表情で頸の無くなった胴体を凝視していた。

 

二人の勘が言っている…"今すぐこの場から離れなけば危険だ…!"と。

 

「…くっ!!まずい…!!」

 

「え?えっ!?ど、どうしたの、左馬介?」

 

「畜生ッ!!お前らァァ!!!逃げろーーーーッ!!!」

 

天元が叫んだと同時に妓夫太郎の胴体から無数の螺旋状の血の斬撃が発生したのだ。巨大化し広範囲に広がった血の斬撃は辺りの建物を倒壊させ全てをなぎ倒していく。執念の塊とも言ってもいい妓夫太郎という鬼の最後の悪あがきだった。

 

ーーーーーーーー

 

○数分後 

 

・東京都 吉原遊郭 大通り

 

「…治まったみたいだな」

 

「ムー…」

 

倒壊した瓦礫の中から炭治郎と禰豆子が顔を出した。天元の叫び声を聞いた炭治郎たちは何とか安全地帯へ避難し難を逃れていた。別の場所からも瓦礫を退けながら伊之助、そして善逸が顔を出した。

 

「伊之助ー!!善逸ー!!無事か!!」

 

「アアァァァ!!クソがァ!!死ぬかと思ったぜ!!」

 

「無事じゃねぇよぉぉ!!何!?何なのこれッ!?起きたら身体中痛いし、いきなり町が滅茶苦茶になるなんて聞いてないよ!」

 

炭治郎は慌てて辺りを見渡す。螺旋の斬撃で炭治郎たちがいた周辺の建物は倒壊し目も当てられないほどに滅茶苦茶になっていた。

 

「あれは…宇随さん!よかった…無事だったのか」

 

炭治郎の視線の先に大きな瓦礫の柱にもたれ掛かった状態で三人の嫁たちに治療されている天元の姿があった。どうやら天元たちも何とか事なきを得たようだった。

 

「炭治郎!無事か!」  

 

「はぁ〜…びっくりしたぁ…死ぬかと思ったよ」

 

「明智さん!阿児!はい、俺は大丈夫です」

 

同じく無事だった左馬介と阿児が炭治郎の元にやって来た。かなりの被害を受けたが、幸いにも炭治郎たち以外に死傷者はいないようだった。しかし、安堵していた炭治郎の耳に善逸と伊之助の大声が聞こえてきた。

 

「炭治郎ーッ!!早く来てくれ!!」

 

「善逸?何かあったのか!!」

 

「静音ちゃんが…静音ちゃんが大変だ…!」

 

そういえばあれから静音と会っていないことを思い出した炭治郎は左馬介と共に大急ぎで善逸の声の方向へと急ぐ。すると先には瀕死の重傷を負った静音が伊之助に介抱されていた。

 

「おいッ!!静子!しっかりしろ!!」

 

「静音!」

 

「ど、どうしたの…!?この傷…まさかあの鬼にやられたのッ!?」

 

「瓦礫の下敷きになってやがったんだ!しかも鬼の毒がまわってやがる…!」

 

妓夫太郎と戦闘で負傷し毒も食らって気を失っていた静音は建物の倒壊から逃れることができず瓦礫に飲み込まれてしまっていたのだ。

 

「やばい…!静音ちゃんの心臓の音が消えそうになってるぞ!何とかしないと!!」

 

「畜生ッ…!!オイ!静音!死ぬな!!しっかりしろッ!!」

 

(これほど弱っていては丸薬も飲み込めん、どうしたらいい…!!)

 

「せめて毒さえなんとかできれば…あたいがなんとかする…!」

 

瀕死の静音を救おうと必死になっている一同を後目にゆっくりと近づいてきた禰豆子が静音の身体に手を触れた。すると不思議な色の炎が静音の身体を包み込んだ。

 

「…!?禰豆子!!」

 

「ち、ちょっと!!あんた何やってんのさ!?静音はまだ生きて…」

 

「いや…待て」

 

見ると驚くことに毒によって爛れた皮膚が治癒していた。禰豆子の炎には鬼の細胞のみを焼却する力があり、人間がこの炎に触れても燃えることはないのだ。

 

「……ぅ…」

 

「静音!」

 

「心臓の音が落ち着いた…ふぅ~なんとか助かったみたいだね」

 

「やるじゃねぇか!さすがは俺様の子分だぜ!!」

 

「ムン!!」

 

禰豆子の炎によって解毒された静音はなんとか一命を取り留めたのだった。これなら同じく妓夫太郎の毒を受けた天元にも効果があると考え炭治郎と左馬介は静音を二人に任せて禰豆子と共に天元の元へと向かった。

 

「やだぁやだぁ!死なないでぇ!!天元様ぁ〜!!」

 

「……」

 

「…天元様」

 

「…解毒剤が効かねぇ、俺の命も残り僅か…だな」

 

雛鶴たちが持ってきた解毒剤では効果が現れず、徐々に天元の顔色が悪くなっていく。このまま解毒できなれば遠からず死に至るのは自明だろう。最期に最愛の妻たちに看取られて死ねるなら本望だと天元は最期の言葉を伝えようとするが…

 

「天元様を死なせたらあたしはもう神様に手を合わせません!絶対に許さないですから!!」

 

「ちょっと黙んなさいよ!天元様が喋ってるでしょうが!」

 

「どっちも静かにしてよ…!」

 

「……」

 

しかし大騒ぎする須磨とまきをのせいで天元の声はまったく聞いてもらえない。このまま何も言い残せずに死ぬのかと内心、絶望する天元だったが、その前に炭治郎と左馬介が姿を現した。

 

「天元、大丈夫か?」

 

「…明智か…悪いが俺はもう…」

 

「禰豆子!宇髄さんの毒を治すんだ!」

 

「ムン!」

 

炭治郎の言うとおり禰豆子は天元の身体に手を触れる。すると激しい勢いで炎が全身を包み込む。それを見ていた須磨たちは唖然とした表情で大騒ぎする。

 

「ギャアアアアッ!!?何するんですかあなた!まだ死んでもないのに焼くなんて!お姉さん怒りました!お尻を叩きます!!」

 

「心配するな」

 

左馬介の一言で一同が静かになる。炎が治まると天元は信じられないような表情をしていた。

 

「こりゃ一体どういうことだ?毒が消えたぞ…!」

 

「禰豆子の血鬼術には毒を燃やす効果があるみたいなんです。俺にもよくわからないのですが…」

 

「こんなこと有り得るのかよ、混乱するぜ…」   

 

「宇髄さん、俺は鬼の頸を探します。確認するまで安心できません」

 

「お前は休んでいろ天元、俺と炭治郎で見てくる」

 

「今度はじっとしてなよ?おっさん!」

 

炭治郎と左馬介は妓夫太郎と墜姫の頸を見つけようと捜索を始めた。炭治郎の鼻を頼りに血の匂いを辿っていくと鬼はすぐに見つかった。気配に近づいていく内に叫び声が聞こえてくる。

 

「なんで助けてくれなかったの!?」

 

「俺は柱と鬼の侍の二体を相手してたんだよ!」

 

「だから何よ!!柱の方は死にそうだったじゃない!さっさと柱を殺しとけばよかったのよ!」

 

「ああ!?お前こそ下っぱ四匹ぐらいに手こずりやがって!さっさとぶっ殺せよ馬鹿が!!」

 

まだ消滅しておらず二人は激しく言い争っていた。しかし、少しずつ肉体が崩れ始めており消滅するのは時間の問題だろう。

 

「…アンタみたいな醜い奴がアタシの兄弟なわけないわ!!」

 

「……!」

 

「この役立たず!強いことしかいい所がないくせに!負けたら何の価値もないわ!醜い出来損ない!」

 

「…出来損ないはお前だろうが、弱くて何の取り柄も無いお前みたいな奴を今まで庇ってきたことが心底悔やまれるぜ。お前さえいなけりゃ俺の人生はもっと違ってたんだよ!」

 

「…ぁ…」

 

「何で俺がお前の尻拭いばっかりしなきゃならねぇんだ!お前なんか生まれてこなけりゃ良かっ…」

 

その一言を言おうとした妓夫太郎の口を炭治郎が塞いで静止した。

 

「本当はそんなこと思ってないよ、全部嘘だ。君たちのしたことは許されない、殺してきたたくさんの人たちに恨まれ憎まれ罵倒される…味方してくれる人なんていない…でも二人だけは仲良くしないと」

 

すると墜姫が子供のように泣きながら叫んだ。

 

「うわああん!!うるさいんだよォ!糞ガキがアタシたちに説教すんじゃないわよ!悔しいよぉ!悔しいよぉ!」

 

「……」

 

「死にたくないよォ!お兄ちゃ…」

 

「梅ッ…!!」

 

その言葉を最期に墜姫の頸は完全に崩れ落ち消滅してしまった。そして妓夫太郎の頸もすでに消滅する寸前まで崩壊が進んでいた。

 

(そうだ…俺の妹の名前は梅だった…墜姫なんて酷い名前じゃなかった…死ぬことに後悔はねぇ。ただ…唯一心残りがあるとするなら…俺とお前は違ったんじゃないのか?俺にさえ出会わなければ…)

 

「…梅…悪かったなぁ…」

 

そして妓夫太郎の頸もまた同じ崩れ落ち消滅してしまった。こうして多く人々を苦しめた鬼はその生涯に幕を下ろしたのだった。すると亡骸から二つ血のような赤色の魂が姿を現した。

 

「この赤い光は…」

 

「この鬼の魂だ、俺が封じ込めよう」

 

左馬介が鬼の篭手で二つ赤い魂を吸収する。すると鬼の篭手の色が二分の一の場所まで金色に変色し光り始めた。今の鬼の篭手には幻魔数千体分ほど量の魂が封じ込めらているということになる。

 

「すごいなあ、二体でこれだけの力があるんなんて…まあ、あれだけ強かったなら当然か」

 

「明智さん、その魂はどうなるんですか?」

 

「いずれ何処かへ篭手と共に封印する。二度と封印が解かれない何処にな…」

 

「あの兄弟、仲直りできたらいいですね」

 

「ああ、お前たちのようにな」

 

「ムン!」

 

ーーーーーーーー

 

その頃、疲労困憊で座り込んでいた天元は目の前にいる一人の男から一方的に話しかけられていた。

 

「ふぅん、そうか。上弦の陸ねえ…一番下の鬼とはいえ上弦の鬼を倒したわけだ。実にめでたいことだ、陸だがな」

 

「……」

 

「褒めてやってもいい」

 

「いや、別にお前から褒められてもなぁ…」

 

天元に向かって皮肉交じりにネチネチと話していたのは柱の剣士であり蛇柱の異名を持つ伊黒小芭内だった。天元から緊急事態を告げられた小芭内は複数の隊士を連れて大急ぎで救援に駆けつけたのだが、到着してみればすでに戦闘が終わっていたのだ。

 

町の被害は甚大で死傷者も決して少なくはないが、これほどの被害で死傷者が思ったよりも少なすぎることに小芭内は首を傾げていた。報告では幻魔の数は数百体を超えており天元と僅かな隊士だけで対処できるような状況ではなかったのだ。

 

「お前がやったのか?これだけの規模の事態をお前一人で解決できたとは到底思えないんだが?」

 

「ああ…流石に俺一人じゃ無理だった。アイツがいなけりゃ全滅だったぜ…」

 

天元が指差す先に炭治郎と左馬介が立っている。しかし、左馬介の気配を瞬時に察知した小芭内は日輪刀に手をかける。

 

「…オイ、鬼が残っているぞ」

 

「待てよ、アイツは敵じゃない」

 

「…ふざけるなよ、どう見てもアイツは鬼だ。俺が斬る」

 

「いいから、やめろ。それにお前じゃ勝てねぇよ。アイツに関しては他言無用で頼む。いずれお前にも説明する、だからここは俺に任せてくれ」

 

「…俺は信じないからな。それより、左目を失ってどうするつもりだ?たかが上弦の陸との戦いで。復帰までの穴埋めは誰がするんだ?」

 

「片眼は失くなっちまったが、まだ手足がある。心配すんな、まだ引退するつもりはねぇよ!それにお前の大嫌いな若手も確実に育ってるぜ?」

 

「…おい、まさか生き残ったのか?竈門炭治郎が」

 

こうして吉原遊郭における事件は幕を下ろしたのであった。

 

ーーーーーーーー

 

戦いが終わり崩壊した吉原の町を町外れの高台から見下ろす者がいた。

 

「やれやれ…大口を叩いておきながら敗れるとは情けない。まあ、いいでしょう我々の策はすでに始まっている、いずれ奴らとも相見えることになるでしょう。しかし鬼の一族を狩る剣士たちか…面白い組織があるものだ。拙者の相手が務まる強い剣士は果たしているのか…楽しみですね、ハッハッハッ!」

 

戦いの一部始終を眺めていた高等幻魔ゴーガンダンテスの笑い声が響き渡った。

 

 

 




次回から鬼殺隊と幻魔を中心にした外伝を何話か書きます!
実はこの辺のストーリーが書きたくてこの小説を書き始めたので、気合い入れて書きます!
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