鬼滅の刃 鬼斬り武者   作:戦国のえいりあん

5 / 27
ちょっと長くなりそうだったので、前編と後編で分けました!


第五話 蝶屋敷での休息と訓練 前編

那多蜘蛛山での戦い後、言いつけを破り無理矢理、任務に参加した事に加え鬼である明智左馬介と密会しそれを鬼殺隊本部に報告することもなく接触を続けていたことを咎められた静音はしのぶから肝が潰れるほどの叱責と説教を受けた後、完治していない怪我を治すために半ば強制的にしのぶが直轄する治療院・蝶屋敷に送還されたのだ。

 

そして数日後、隠の部隊の隊士に案内されながら静音は蝶屋敷へとたどり着いていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・蝶屋敷 門前

 

 

「……」

 

「ほら、着いたぞ。しっかり歩け」

 

 

精根尽きるまで怒られた静音は死んだ魚のような表情をして落ち込んでいた。ちなみに今度は二度と逃げられないようにと縄で縛られており、隠の隊士に引っ張られながら連行されていた。

 

 

「まったく、あんなにキレた胡蝶様なんて初めて見たぞ。お前、いったい何をしでかしたんだ?」

 

「……聞かないでください…」

 

「とにかく、大人しく怪我が治るまでここで休め。…でないと俺が怒られる」

 

 

二人は屋敷に入ると早速、玄関の扉を開ける。

 

 

「ごめんくださいませー!」

 

 

すると屋敷の奥から一人の少女が姿を現した。服装は一般の隊士服で髪型は黒髪のツインテールだ。頭にはしのぶが身に付けていた蝶の髪飾りに似た物を彼女も付けている。彼女の名は神崎アオイといい、この蝶屋敷で怪我人の治療と看護を担当している隊士なのだ。

 

 

「どなたですか?」

 

「すみません、怪我人を連れて来ました」

 

「分かりました。さあ、こちらへどうぞ」

 

 

ようやく縄を解かれた静音は隠の隊士に礼を言って別れるとアオイに案内されながら病室に向かう。一室に入るとそこには四つのベッドが用意されており、静音は一番奥のベッドに寝るよう指示された。

 

 

「胡蝶様から聞いてますけど、あなたの症状は左腕の骨折と肋骨の骨折、加えて無理をした結果による肉離れと全身筋肉痛…少なくとも一月は絶対安静が必要です」

 

「…はい」

 

「ちょっと身体を検査しますから上着を脱いでください」

 

 

指示に従って上着を脱いだ静音はベッドに座る。手慣れた手つきでアオイは静音の身体を検査する。やはり無理をした影響か左腕の間接部分と腹部の上辺りに青黒い痣が出来ている。

 

 

「やっぱり、悪化していますね。この薬を飲んで今日はすぐに休んでください」

 

「はい、ありがとうございます…」

 

「礼はいりません。それよりも早く身体を直してください。それでは私はこれで」

 

 

話し方から何となく分かったがアオイはかなりテキパキとした性格のようだ。同じく几帳面で真面目な性格である静音も彼女の立ち振舞いに感嘆していた。その後アオイは他の負傷者の看護のために部屋から去っていった。

一人部屋に残された静音は静かな空気の中、天井を見ながらベッドで横になっている。

 

 

(はあ…怖かったなあ…胡蝶様)

 

 

思い出すだけで涙が浮かんでくる。あれほど激しく怒られたのは生まれて初めてだった。しかし無理矢理任務に参加したことや左馬介について黙っていたことも自身に非があるので甘んじて聞き入れるしかなかったのだ。

 

 

(左馬介殿と阿児…大丈夫かな?)

 

 

説教の後、すぐさま隠の隊士に連行された為、あれから左馬介とは会っておらずあの後どうなったのかも分からない。鬼殺隊から左馬介の討伐命令が出されたどうしよう…と悪い予想が静音を不安にさせる。

 

 

(あれ…?…何だか…眠くなってきちゃった…な…)

 

 

悩んでいる内に静音の体力も限界を越えようとしていた。寝不足に加えてこれまでの疲労が一気に静音の気力を奪っていく。そしてあっという間に静音の精神は闇へと落ちていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・四日後 蝶屋敷の病室

 

 

静音が屋敷に運び込まれて四日が経過したある日のこと。あれから治療を受けて眠りについた静音は四日間、目を覚ますことなく熟睡していた。蝶屋敷の女の子が何度か静音を起こそうとしたが何をやっても起きないので仕方なくそのまま寝かされていたのだ。

 

 

(……)

 

 

安らかな表情でぐっすりと眠っている静音だったが隣から男の凄まじい怒号が聞こえてくる。

 

 

「すげぇ苦いんだけど!?つらいんだけど!!ていうか薬飲むだけで俺の腕と足なおるわけ!?ほんと!!?」

 

「お願いですから、静かにしてください~!」

 

(…うるさいなあ…何を騒いでるの…?)

 

 

どこからその大声を出しているのか疑問になるほどの声量でその人物は叫び声を上げ続けている。

 

 

「静かになさってください!!説明は何度もしましたでしょう!他の患者さんが寝ているのですよ!いい加減にしてください!!」

 

 

この大声はアオイの声だ。その怒号に男は怯えたのか急に静かになる。先ほどの大声で意識が戻った静音は重い瞼を開けるとゆっくり身体を起こす。

 

 

「う~ん…」

 

「あ、ごめんなさい。起こしてしまいました?」

 

「いえ、大丈夫です。ふあ~あ…」

 

「よく眠ってましたね、気分はどうですか?」

 

「はい、おかげさまでよく休めました」

 

 

四日間眠り続けた影響か体中が鉛のように重く感じられる。静音はそのまま両腕を伸ばして少しずつなまった体をほぐしていく。

 

 

「痛たた、なまってるなあ…こりゃ復帰まで大変だよ」

 

「あれ!?女の子っ!!?全然気づかなかった!!」

 

「はい?」

 

 

隣を見ると空いていたベッドに新たな患者が横になっていた。一人は金髪の少年で静音と同じ患者服を着ているが何故か右手が妙に縮んでいるように見える。どうやら先ほどから大騒ぎしていたのはこの男のようだ。

 

 

「よ、よく見ると可愛い!!ねえ君、名前は?俺は我妻善逸って言うんだ。よろしくね」

 

「…伊角静音です」

 

「静音ちゃんか、いい名前だね。君みたいな可愛い子と一緒の病室なんて俺は運がいいなあ」

 

 

先ほどまでの騒がしい一面は何処へやら、静音を一目見ると態度がまるで別人のようになっている。どうやらこの善逸という男はかなりの女好きのようだ。そんな善逸をジト目で見ていた静音はその間に居たもう一人の患者を見て驚いていた。

 

 

「ああ!!伊之助君!無事だったんだ!」

 

「ええ!?何で伊之助のこと知ってんのっ!?」

 

 

善逸の隣で大人しく横になっていたのは那多蜘蛛山で出会った嘴平伊之助だった。あの後、静音の応急処置のおかげで激しかった喉の治療が最小限で済んだらしいのだ。

 

 

「コイツ…!!俺が蜘蛛に襲われてる時に女の子に看病してもらってたのかよ…!!ふざけんなぁ!!俺だって静音ちゃんに看病してもらいたかったんだぞ!」

 

「ちょっと善逸君は黙ってて。ねえ伊之助君、傷の具合はどう?」

 

「……ウン大丈夫」

 

 

やっぱり喉の具合が良くないのか声が変になっている。…というか出会った時と全然性格が違うような気がするのは気のせいだろうか?心なしか伊之助の周りがどんよりとした空気になっている。

 

 

「…あれ?君って、そんな話し方だった?」

 

「なんか運び込まれてからずっとこの調子なんだよ。へへ、コイツでも落ち込むことがあるんだな」

 

「……ゴメンネ弱クッテ…」

 

 

よほど気にしているのか普段の彼からは想像がつかないような台詞を喋っている。そんな伊之助を見ていた善逸は大笑いしていた。だが静音にはなんとなく伊之助の気持ちが分かるような気がしていた。

 

 

(でも…伊之助君の気持ちはよく分かる気がする。私も何もできなかったし、左馬介殿の足を引っ張ってばかりだった…私なんて…)

 

 

伊之助の空気に感化されたのか静音も暗い表情になる。さすがに気まずくなった善逸はなんとか二人を励まそうとする。

 

 

「ふ、二人とも気にするなって!俺達はよくやったと思うぞ?」

 

「二人はいいよ…それに比べて私は何もしてないし、胡蝶様に怒られただけ。うう…怖かった…」

 

「え?しのぶさんに怒られたの?いったい何したの?」

 

「……聞かないでくれると嬉しいな」

 

「う、うん…分かった」

 

 

その後、三人はあの那多蜘蛛山での戦いの記憶や出来事を語り合いながら時間を過ごしていった。そしてその翌日、また新たな患者がこの病室に連行されて来たのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・翌日 蝶屋敷の病室

 

 

翌日の朝、病室で休んでいた三人の前に隠の隊士に背負われて運び込まれて来たのは善逸や伊之助たちと同じ年齢の少年隊士だった。するとその少年はベッドで寝ている善逸を見ると嬉しそうに声をかける。

 

 

「善逸!!大丈夫か!?怪我したのか!?山に入って来てくれたんだな…!」

 

「た…炭治郎…!!」

 

 

どうやら善逸とこの炭治郎という隊士は知り合いのようだ。そんな彼の容姿は赤みがかった短髪と瞳に額には火傷のような痕があり、鬼殺隊の隊服の上に市松柄の羽織を身に付けている。そして特徴的なのは両耳に付けている変わった形の耳飾りだ。

 

 

「伊之助は?村田さんは見なかったか?」

 

「村田って人は知らんけど、伊之助なら隣にいるよ」

 

「あっ!ほんとだ!気づかなかった!」

 

 

すると炭治郎は寝ている伊之助の側に駆け寄り涙目になりながら話し始めた。

 

「伊之助!無事で良かった…!ごめんな…助けに行けなくて…!!」

 

「……イイヨ気ニシナイデ」

 

 

相変わらず伊之助は落ち込んでいるのか声に元気と張りがない。その後、隠の隊士に運ばれながら炭治郎という少年は静音の隣のベッドに寝かされた。よく見ると炭治朗はかなりの重傷で顔中に刀傷、打撲傷に痣ができていて痛々しい状態になっている。

そんな彼を観察しているとふと静音と炭治郎と視線が合った。

 

 

「あれ?君は…?」

 

「こんにちわ、私は伊角静音。君と一緒で療養中なの」

 

「そっか、他にも無事だった隊士がいたんだな。俺は竈門炭治郎、よろしくな」

 

「炭治郎君だね、よろしく」

 

 

こうして四人は同じ病室で休息の一時を共に過ごすことになったのだ。四人とも重傷のため怪我が完全に回復するまでは絶対安静だと指示されているので簡単な運動もできず四人は寝ているだけの生活に若干退屈しながら療養の毎日を送っていた。そして四人が蝶屋敷に運び込まれて一月ほど経ったある日のこと屋敷に意外な訪問者が訪れたのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・一ヶ月後 蝶屋敷の病室

 

 

その日、四人はいつものように病室で寝たきりの毎日を送っていたのだが特にじっとしているのが苦手で身体のなまりを治したい静音は少しずつストレスが貯まっていたのだ。

 

 

「暇だなあ…早くなまった身体を鍛え直したいよ」

 

「静音の怪我はほとんど治ってるんだよな?」

 

「ええ、痣も無くなったし、痛みもほとんど引いてる。そろそろ動いてもいいと思うんだけど…」

 

 

ちなみに静音と同じくじっとしているのが苦手な伊之助は意外なことにあのままじっと大人しく寝ているままだ。炭治郎や善逸の騒がしい励ましのおかげもあって当初よりは元気が戻ったようだがそれでもまだ落ち込んでいた。

そんな時、病室の窓から何かが侵入し寝ている静音の頭上に着地した。

 

 

「意外と元気そうじゃない、傷はもう治ったの?」

 

「…えっ!?あ、阿児!?」

 

「うわっ!?何だ?この小さな女の子は…!?」

 

「か、可愛いいいっ!!こんな小さな女の子がいたなんて驚いたよっ!!阿児ちゃんって言うのか~可愛いなあぁ」

 

「テメェは…あの時のちび助じゃねぇか」

 

「ちびって言うな~!」

 

 

何と静音の前に現れたのは阿児だった。一度出会ったことがある伊之助はさておき他の二人は初めて見る阿児の姿に驚いていた。しかし静音は疑問に思えてならなかった。何故、鬼殺隊しか知らないこの場所に阿児が訪れることができたのかを…

 

 

「阿児!どうして此処が分かったの?」

 

「え?あの蝶の髪飾りを付けた子が教えてくれたの。それにしても鬼殺隊の診療所って随分と分かりにくい所にあるんだね」

 

「えっ!?胡蝶様が…?」

 

 

なんと阿児に蝶屋敷の居場所を教えたのはしのぶだったのだ。出会った時から左馬介を敵視していた彼女が重要な拠点であり自分の家でもあるこの場所を左馬介と阿児に教えていたのだ。

その時、病室の扉が開き二人の人物が入ってきた。

 

 

「静音、元気そうでなによりだ」

 

「さ、左馬介殿っ!!?」

 

「テメェは!!あの時のサムライ!!」

 

「あ、あなたは冨岡さんと戦った…」

 

「え?ええっ!?さ、侍っ!!?誰?誰なのこの人!?何か鎧着てるんだけど?」

 

「皆さん、落ち着いてください」

 

 

左馬介の隣にいたのはこの屋敷の管理者である胡蝶しのぶだった。しかし静音はますます訳が分からなくなる。当初は冨岡と共に左馬介を斬ろうとしていた彼女が何故この屋敷に左馬介を連れてきたのか、あの後二人の間に何があったのか…疑念は募るばかりだ。

 

 

「胡蝶様…その…どうして左馬介殿がここに?」

 

「…話せば長くなりますけど、ひとまず彼は私の屋敷で監視することになりました」

 

「ああ、しばらくここで世話になる」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・一ヶ月前

 

 

時は那多蜘蛛山での戦いが終わった直後にさかのぼる。竈門炭治郎と竈門禰頭子の捕縛命令が伝えられた鬼殺隊はその後二人の捕縛に成功し本部へと連行することに成功した。しかしそれとは別に新たな鬼である左馬介を発見した冨岡としのぶの二人はこれを討伐するべく動いていたのだが困った状況になっていた。

 

 

「困りましたね…」

 

「……」

 

 

実は二人は左馬介を見失ってしまったのだ。戦っていた最中に止めに入った隊士の静音に説教をしている間に逃げられてしまいその後、辺りをくまなく捜索したが結局見つけることはできなかった。ちなみに冨岡も激怒するしのぶの姿が珍しかったのかその光景を見ていた影響で注意が外れていたのだ。

 

 

「どこへ行ったのかも分かりませんし、仕方ありませんね。ここは一度退きましょう」

 

「……」

 

「何とか言ったらどうなんですか?冨岡さん。あなたが注意していれば逃げられることも無かったと思いますけど?」

 

「……お前が隊士に説教などしているからだ」

 

 

その冨岡の一言にしのぶは苛つくが今回は彼の言うことが正論なので反論できなかった。その後、二人は独自にあの侍の鬼について調査をすることになった。しかし静音の言った「彼は敵ではない」という言葉を信用していたのか左馬介の情報はまだ鬼殺隊には報告されておらず知っているのは接触した冨岡としのぶのみだ。

 

それから数日後、竈門兄弟の処遇に関する件と柱合会議を済ませたしのぶと冨岡は各自の判断で侍の鬼ついて情報収集を開始した。だがその所在はあっさりと見つかった。あの鬼の侍ともっとも長く接触していた伊角静音に関係する場所を中心に捜索していたしのぶはある情報を耳にした。

 

"近頃、東京の新宿にある秋風といる宿場におかしな格好をした男が出入りしている"という情報だ。

 

調べて見るとこの宿場の女将は静音の叔母であり現在の彼女の実家であることが判明したのだ。これを特定したしのぶは早速、東京の新宿に急行し宿場「秋風」へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・東京都 新宿 宿場「秋風」

 

 

「秋風、ここがそうですね」

 

「……」

 

 

新宿にある例の秋風に到着したしのぶは宿場の前にいた。その隣には万が一に備えて冨岡の姿もあった。何より二人の柱の剣士を相手に互角以上の勝負するほどの相手を警戒をするの当然のことだ。しのぶは宿場の扉を開け中に入ると誰かいないか声をかける。

 

 

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

 

「いらっしゃいませ、お客様」

 

「いえ、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「この宿場におかしな格好をした人が出入りしていると聞いたのですが、何かご存知でしょうか?」

 

「…失礼ですけど、どちら様ですか?」

 

 

女将は二人を不審者を見るような目で見る。そんな視線を察した二人にも緊張が走る。知ってのとおり鬼殺隊は政府非公認の組織であり公共の組織ではない。一般人から見れば鬼殺隊などただ不審者の集まりぐらいにしか認識されていないのだ。

 

 

「…すみませんけど、うちの宿場でそう言った話は聞いていません。どうぞお引き取りください」

 

「待ってください、少し話を…」

 

「早く帰ってください、警察呼びますよ?」

 

 

こう言われては二人も引き下がるしかなかった。警察を呼ばれては刀を持っている自分たちは即座に逮捕されてしまう。それに女将に完全に敵視されてしまえば情報の入手は困難になるため仕方なく退散することにした。

 

 

「…すみません。ご迷惑をおかけしました。失礼します」

 

 

そう言うと二人は足早に秋風から出ていった。しかしこれでは取り付く島もない。先ほど影響でしのぶたちは完全に不審者だと思われてしまったようだ。少し離れた街角で二人は今後どうするかを話し合っていた。

 

 

「困りましたね、これでは取り付く島もありません」

 

「…伊角の名前を出すか?」

 

「いえ、彼女にも事情があると思いますし迂闊に名前を出すのはよくありません」

 

 

さすがに二人でも静音がどのような理由で鬼殺隊に入隊したのかまでは知らない。仮に親族に黙って鬼殺隊に入隊しているのであれば静音の立場を悪くしてしまう。どうすれば宿場の女将から情報を聞き出せるのか、二人は方法を考えなければならなかった。

 

 

場所は変わって宿場・秋風。

二人が宿場から立ち去った後、女将は早足で奥にある特別客室に向かうと一声かけて部屋に入る。

 

 

「左馬介さん、大変です」

 

「どうした?」

 

「叔母さん、どうしたの?」

 

「鬼殺隊の人たちが左馬介さんを探してます」

 

 

その部屋にいたのは現在、鬼殺隊に追われている左馬介と阿児だった。あの後、身を隠す場所がない彼らを助けてくれたのは女将だったのだ。実は女将は鬼殺隊の存在を知っており、もちろんその目的も承知している。姪である静音の入隊も事情を知った上で容認していたのだ。

 

 

「やはり気づかれたか…」

 

「もう!ホントにしつこいなあ、あの子たち」

 

「安心して、左馬介さんは必ず守りますから」

 

「だが、それではあんたが」

 

「…大切な姪を救ってくれた恩人を助けるのは当然のことよ、ここは私に任せて」

 

「すまん、恩に着る」

 

「ごめんね、あたい達のせいで…」

 

 

その数日後、再びあの二人が秋風を訪ねて来たのだ。もちろん女将はその姿を見て顔をしかめる。恐らくこの二人は左馬介を殺しに来たのだろうと思っていた。しかし左馬介の人柄と姪である静音を助けてくれたことを知っている女将は左馬介が悪い鬼だとはどうしても思えなかったのだ。

 

 

「…またあなた達ですか、何の用?」

 

「落ち着いて聞いてください。私たちは騒ぎを起こそうと思ってはいません。少しだけでいいですから話を聞いてくれませんか?」

 

「私は話すことなんかありません。早く帰ってください」

 

「……伊角静音に関することだ」

 

「…ちょっと、冨岡さん?」

 

「……」

 

 

口を開いた冨岡をしのぶが睨み付ける。その単語は出さないように口止めされていたのだが、こうでも言わないと女将から情報を聞くのは無理だと冨岡は判断したのだ。さすがに女将も静音の名前を出されては黙ってはいられない。

 

 

「…静音がどうかしたんです?」

 

「いえ、伊角さんは無関係です。ただ…この宿場で彼女と接触していた鬼がいるという情報があったので」

 

「鬼なんかいるわけないでしょう?いいからさっさと帰って…」

 

「もういい女将、十分だ」

 

 

すると宿場の奥からやって来たのは左馬介と阿児だった。やはりこの宿場に潜伏していたのだとしのぶと冨岡は身構えるが当の左馬介は争う気はまったく無い。

 

 

「さ、左馬介…」

 

「俺を殺しに来たのか?」

 

「……」

 

「いえ、少しあなたと話がしたかったのです。よかったら場所を移しませんか?」

 

「いや、ここで話そう。ここなら邪魔も入らん。いいか?女将」

 

「はい…左馬介さん、気をつけて」

 

 

しのぶと冨岡は左馬介のいる特別客室に通された。もちろん女将から刀を取り上げられた二人は丸腰であり左馬介も刀も具足も身に付けていない。

 

 

「まだ名乗ってなかったな。俺は明智左馬介秀満だ」

 

「あたいは阿児、よろしく」

 

「私は鬼殺隊・蟲柱、胡蝶しのぶです」

 

「……冨岡義勇だ」

 

 

お互いに簡単な自己紹介を済ませると早速本題に入ることになった。まず話したのはしのぶと義勇だ。聞きたいことは山ほどあるがまずはっきりとさせておきたいことがあった。

 

 

「単刀直入に聞きますけど、あなたは一体何者なんですか?」

 

「話せば長くなるが、俺はお前たちの敵ではない。確かに俺は鬼の力を持つが人は喰わん」

 

「そうだよ!それなのにあんた達が話も聞かずに斬りかかってくるからだよ!」

 

「……」

 

 

二人はこれまで多くの鬼を見てきたがこの左馬介という鬼だけは他の鬼とはまったく違っていた。未だに疑いを持っていた二人だがある光景を見て驚いていた。

 

 

(太陽の光を浴びても消滅しない…?)

 

 

しのぶと義勇の知る鬼は太陽の光を浴びると灰化して消滅するのだが目の前にいる左馬介は日光に当たっても何も起こらない。窓から入る日光に左馬介の全身が照らされているが身体が灰化する兆しも見えないのだ。

 

 

「お前たちのことは静音から聞いている。鬼を退治するために戦っているんだな?」

 

「あの、伊角さんとはどういう関係なんですか?」

 

「奴が傷ついて倒れていた所を助けたのがきっかけだ。それから静音の頼みで共に鬼退治を手伝っている」

 

「…鬼が鬼狩りの協力だと?」

 

 

左馬介は静音から頼まれた鬼殺隊との共闘について二人に話した。那多蜘蛛山へ向かったのも静音と共に鬼を退治するためだったと答える。静音がなぜ彼が敵ではないと言っていた理由がようやく分かったのだ。

 

 

「なるほど、それで伊角さんはああ言っていたのですね」

 

「お前たちが俺の話を信じるかどうかは自由だが、人々には決して危害は加えない。これだけは信じてほしい」

 

「……」

 

 

しかし鬼を憎むしのぶは未だにその言葉を信じられないのか左馬介を疑っているようだ。だが左馬介と他の鬼が違うのはしのぶの目から見ても明らかだ。内心納得していなかったがしのぶは渋々彼の話を受け入れた。

 

 

「…分かりました。ひとまずあなたが敵でないことは認めます。ですが鬼であるあなたを野放しにはできません」

 

「……」

 

「ちょっと、それどういうことよ!」

 

「明智さん、これから私の屋敷に来てくれませんか?いろいろとあなたに聞きたいことがあります。伊角さんとも一緒にこれまでの情報を整理したいのですが」

 

 

どうやらしのぶは左馬介を自分の屋敷に迎えるつもりのようだ。危険ではあるがこれ以上静音の叔母に迷惑をかけられない。それにここで拒否すれば鬼殺隊に命を狙われることになってしまう、そう感じた左馬介はしのぶの提案を受け入れた。

 

 

「分かった。お前の屋敷に行こう」

 

「決まりですね、冨岡さん。このことはくれぐれも内密にお願いしますね。炭治郎君の件もありますし本部に知られたら大変なことになります」

 

「……」

 

「聞いてますか?冨岡さん、さっきみたいにうっかり口を滑らしては駄目ですよ、分かってます?」

 

「……ああ」

 

 

実は炭治朗の妹である禰頭子の処遇と鬼を連れて行動していた隊律違反の炭治朗の処罰を巡って柱合裁判で一悶着があったばかりであり、続けて鬼である左馬介のことを本部に報告すれば問題が起こるのは目に見えている。ならば自分がこの左馬介という鬼を見極めようとしのぶは考えていた。

その後、しのぶの案内で左馬介と阿児は蝶屋敷へと向かったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・現在 蝶屋敷の病室

 

 

「そ、そんなことが…」

 

「そうなのよ、ホント大変だったんだから」

 

「明智さん、あなたの部屋を用意しておきますから、そこで過ごしてください。後、必要以上に屋敷を歩かないようにお願いします」

 

「ああ」

 

 

こうして左馬介はしのぶの監視の元、蝶屋敷で生活することになったのだ。屋敷の一室を借りた左馬介は行動に制限はあるが特に不自由のない毎日を送っていた。そんな中、炭治郎達よりも早く回復し退院した静音はしのぶの提案で"機能回復訓練"を行うことになりその日、静音は屋敷にある訓練場に向かっていた。

 

 

・数日後 蝶屋敷 訓練場

 

 

「静音さん、今日から機能回復訓練を開始します。ご説明させていただきますね」

 

「はい!」

 

 

どうやらアオイが訓練を手伝ってくれるようだ。他にも訓練を手伝ってくれるのかアオイ意外にも何人か女の子が待機している。

 

 

「まず、あちら。寝たきりで硬くなった体をほぐします」

 

 

アオイが指差す先に上の無い布団が何枚か敷かれてあり側には三人の少女がやる気満々で待機している。

 

 

「次は反射訓練です。湯飲みの中には薬湯が入ってますから、これをお互いにかけ合います」

 

 

次に指差す先に木製のテーブルの上に大量の湯飲みが置かれ、その先に静音と同じぐらいの年の少女が座っている。その容姿は長い黒髪を右側に留めしのぶと同じ蝶を象った髪飾りを付けている。瞳は紫目で隊服の上に白いマントを羽織っている。

 

 

「最後は全身訓練、簡単に言えば鬼ごっこです。私とそこにいるカナヲがお相手します」

 

「……」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

こうして機能回復訓練が始まり早速、最初の訓練であるなまった体をほぐすマッサージから始まったのだが…

 

 

「いきますよー!それ!」

 

「い、痛だだだっっ!!!?」

 

(何これぇ!!?これのどこがマッサージなのっ?間接技の間違いでしょ…!!)

 

 

マッサージと言うから柔軟体操ぽいものをイメージしていたのだが、三人の少女からいわゆるキャメルクラッチと足四の字固めのような間接技のようなものを掛けられている。あまりの痛さに静音も思わず涙目になって声を出してしまう。しばらくしてようやくマッサージが終わったのだが、意外にも効果があったのかなまっていた身体が少し動くようになっていた。

 

 

「では、まずは私がお相手します」

 

 

次は反射訓練だ。まずはアオイが相手をしてくれるようで静音とアオイはテーブルに向かい合って座る。すると少女の一人が開始の声をあげる。

 

 

「…始め!」

 

「…!それっ!」

 

「きゃ…!」

 

 

アオイよりも早く湯飲みを取った静音は少し遠慮しながら薬湯を顔にかける。だが先ほどのマッサージもあって自分の反射神経に体がしっかりと反応しているようだ。

 

 

「…お見事です。静音さん」

 

「すみません、大丈夫ですか?」

 

「いえ、お気になさらず。では次はあちらのカナヲがお相手します」

 

「……」

 

 

アオイと交代して代わりにカナヲという少女が静音の前に座る。先ほどと同じく真剣な表情で向かい合うがカナヲはまるで余裕だと思うように微笑んでいる。少女が開始と言った直後…

 

 

「始め…」

 

「…ぶっ!?」

 

 

静音が湯飲みを手に取ろうとした瞬間、すでにカナヲに薬湯をかけられていた。信じられないほどの速さに静音は唖然としていた。その後、何度かカナヲに挑んだものの一度も勝つことはできず結果、惨敗だった。

 

 

「最後に全身訓練です。逃げている私たちを捕まえられたら勝ちです」

 

「はい!」

 

 

最後の全身訓練が始まると静音はまず最初の相手であるアオイを追いかけた。アオイはなんとか捕まえることができたが次のカナヲが相手の勝負は静音がどれだけ速く走っても、手を伸ばしても捕まえるどころか触れることもできなかったのだ。

 

 

(…はぁ!…はぁ!は、速い…)

 

 

数時間ずっとカナヲを追い回しているが、徐々に体力が尽きていき最終的には呼吸困難で動けなくなってしまった。気がつけば道場全体が薄暗くなっており、訓練を見ていたアオイからも指示があった。

 

 

「今日の訓練はここまでです。静音さん、お疲れさまでした。後はゆっくり休んでください」

 

「ぜぇ…ぜぇ…は、はい…」

 

 

こうして激しい機能回復訓練が終了した後、暗くなった屋敷の廊下を静音は歩いていた。薬湯でびしょびしょになったまま自分の病室へ戻っていく。

 

 

「……」

 

 

完膚なきまでに実力差を見せつけられて落ち込んでいるのかと思いきや静音の気持ちは意外なものだった。

 

 

(…派手に負けちゃったな。でも、あそこまで見事に負けたら逆に清々しいな、私なんてまだまだ未熟だよ…!)

 

「明日は絶対に勝つ!頑張れ私!」

 

 

敗北にもめげずに気持ちを奮い立たせ静音は早く疲れた体を休めようと自分の病室へと走った。




次話では炭治郎たちも加わって一緒に訓練です!
最近、やっと鬼滅の刃のコミック本が全巻手に入ったので頑張って読んでます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。