炭治郎たちより先んじて全集中常中の呼吸を習得した静音は新たな訓練を初めていた。修行の途中で師匠を失ったことから基礎と水の呼吸の壱の型と弐の型までしか習得していない静音は亡き師匠の教えを頼りに独自で他の型を会得しようと必死だった。
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・蝶屋敷 中庭
「……」
中庭にいた静音の周りには彼女を囲むように打ち込み台が置いてある。静音は目を瞑り水の呼吸の構えを取る。師匠の教えを思い出しながら脳内でイメージを膨らませる。
『参の型は"流流舞"だ。この型は敵の攻撃を回避しつつ斬撃を加える技だ。回避というよりは"受け流す"と言うほうが正しいかもな。呼吸を集中し、流れる水を連想しろ。足運びを短く、速くだ』
(…水の呼吸!参の型・流流舞!)
大きく呼吸し一歩踏み出すと同時に一番側にあった打ち込み台に一撃加えるとすかさず次の打ち込み台に向かって走り出す。
(…一つ!…二つ!三つ!)
アドバイスを頼りに足運びを短く、速くしつつ次々と打ち込み台に斬撃を加えて、瞬く間に囲むように置いてあった七体の打ち込み台すべてに一撃を加えた。
(駄目だ…本当の参の型はこんな物じゃない…!)
確かに打ち込み台には斬撃を与えたが、流れる水のような動きはまだ出来ていない。これでは素早く動いて打ち込み台に打ち込んだだけだ。
「難しいよ…それに打ち込み台は攻撃して来ないしなあ」
参の型の真髄は相手の攻撃を受け流しつつ斬撃を加える技なのだが、打ち込み台が相手では受け流しつつ攻撃する練習はできない。最初は同じ水の呼吸の使い手である炭治郎に教えて貰おうと思ったのだが彼は今、全集中常中の呼吸の訓練で手一杯であり、善逸と伊之助も最近は訓練をサボってどこかへ行ってしまっているのでアテにならない。
「はぁ~困ったなあ…さすがに壱の型と弐の型だけじゃ足りないよ…何とか他の型を習得しなきゃ!」
もう一度挑戦するために静音 改めては木刀を構える。そんな熱心に修練に励む静音に声をかける者がいた。
「精が出るな、静音」
「左馬介殿」
静音に声をかけたのは偶然、屋敷の縁側を通りかかった左馬介だった。実は少し前から彼女の訓練を見物していたのだが修練に集中していた静音は左馬介が見ていることに気付かなかったのだ。
「すまん、邪魔をしたようだな」
「いえ、とんでもありません。見られていたとはお恥ずかしいです…」
「それよりこの数日間ずっと同じ訓練をしているようだが調子はどうだ?」
「実は…あまり上達していません。私なりに色々と試しているのですが進展がないのです…」
静音本人にも自覚があるのか数日前から続けている参の型の修練は捗っていないのだ。
「これも私が未熟なせいです。まだまだ修練が足りません、もっと励まなければ!」
「今の訓練を続けても、お前の望む動きは習得できん」
「えっ!?…そ、そんな…」
「数日前からお前の動きを見ていたが、お前の型には迷いが見える。それに一部の動きを規則正しく行うことにこだわって無駄な動きが多い。…修行半ばで師を失ったか?」
「……!!」
「だが基礎は固まっているようだ。手探りで師の型を習得しようと模索している…と言ったところだろう」
少し静音の動きを見ただけでそこまで分かる左馬介の観察力に静音は驚きを隠せなかった。自分の悩みをずばり当てられた静音はあることを閃いていた。何故、もっと早く思いつかなかったのかと後悔しながら静音は左馬介にお辞儀をしながら話し始めた。
「…左馬介殿!貴方を剣の達人と見込んでお願いします!」
「何だ?」
「どうか…どうか私を貴方の継子にしてください!」
「継子?何だそれは」
「え~と…簡単に言えば貴方の弟子にして欲しいのです!」
そう剣の達人であり鬼殺隊の柱たちに勝るとも劣らぬ左馬介の剣技を習得することができれば自分はもっと強くなれる…そう思ったのだ。しかし左馬介からは厳しい返答が返ってきた。
「…悪いが、それはできん」
「えっ!?ぜ、絶対に途中で根を挙げません!どんな厳しい訓練にも必ず耐えます!どうか、お願いします!」
「そういう意味じゃない。俺とお前の剣術は大きく異なる。それに俺にはお前たちの用いる呼吸の剣技は使えん。教えを受けたいなら柱の剣士に教わったほうがいいだろう」
左馬介の言うとおり静音の使う水の呼吸といった鬼殺隊の剣術は鬼の頸を斬ることに特化した剣術だが左馬介の剣術は様々な流派の剣術と型に加え、数多くの実戦経験によって独自に編み出された彼だけの剣術であり、左馬介の剣術が鬼に通用するのも彼が同じ鬼であるからだ。
鬼ではない常人の静音が左馬介の特殊な剣術を習得するのは難しいのだ。かと言って柱の剣士の継子になるにも柱から認められなければならないため簡単になれるものではない。
「そんな…私はどうしたら…」
「弟子にはできないが、修行なら協力しよう」
「…え?」
「ついて来い」
左馬介には何か考えがあるのか静音を手招きする。彼女は期待を膨らませながら左馬介に付いていった。
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・蝶屋敷 左馬介の部屋
静音が連れて来られたのは現在、左馬介の部屋になっている一室だった。室内に入るとそこにはベッドに腰かけて髪をとかす阿児の姿もあった。
「あ、静音じゃん。どうしたの?」
「阿児、実は左馬介殿に修行の手伝いをしてもらうことになったの」
「え?左馬介、ひょっとして…あれを静音にやらせるの?」
「ああ、静音ならできるかもしれないと思ったからな」
「…この子にできるかなぁ」
すると左馬介は側に置いてある具足の中から手に収まるほどの小さな鏡を取り出す。その鏡は青い光を放ち、普通の鏡とは大きく異なっていた。
「左馬介殿、その鏡は…?」
「これは"破魔鏡"という鏡で様々な力を持っている。この鏡を用いて修行ができる」
「これで修行が?」
「まあ、正確に言えば精神世界で、だけどね」
「せ、精神世界で!?」
「うん、あたいの力とこの鏡を使って精神世界で修行できるのよ。けど、強い神通力が必要になるし左馬介みたいに強い力と精神力を持ってないと精神世界に入れないの」
「精神力が強ければ可能だ。やってみるか?」
相変わらず信じられないような話だがこれは好機だ。聞けばこの修行は精神力を鍛えるだけでなくまるで実戦に等しい経験を積むことができるらしいのだ。今の修行では効果が望めないのなら左馬介の言う修練に賭けてみるのも一つの手段だと静音は思っていた。
「やります!私はもっと強くなりたいんです!」
「決まりだね。じゃあ破魔鏡を持って。そこに座って」
「こうかな?」
静音はベッドの上にあぐらをかいて座る。その直後、阿児が静音の肩に着地すると何やら呪文のようなものを唱え始めた。
「目を瞑り、心を無にしろ。修練の間はその鏡を手放すな、放せば精神状態が解除される」
「わ、分かりました」
「集中するんだ。無駄なことは一切考えるな」
左馬介の言うとおり静音は雑念を捨て心を無にしてままじっと座っている。しばらく経った時、静音は目を開けるとそこには信じられないような光景が広がっていた。
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・精神世界 鬼の修練場
「……え?ここ…何処!?」
先ほどまで左馬介の部屋にいたはずだが、知らない間に異次元の中にいた。そこは円形に柵で囲まれた闘技場のような場所で周りには不気味に青い炎がいくつも宙を漂っており、どう考えても普通の場所ではなかった。
『静音~聞こえてる?』
「え!?その声は阿児?」
『人間なのに一回で精神世界に入れるなんてやるじゃない!ちょっと世界が不安定だけど、まあ大丈夫でしょ』
どこからか阿児の声が響いてくる。どうやら左馬介と阿児が言っていた精神世界に無事に入れたようだ。しかし静音の精神力がまだ弱い影響なのか世界が少し歪んでいるように見えていた。
『じゃあ、早速修練を始めるよ。左馬介から聞いたけど集団戦における受け流しの剣技を練習したいんだよね?』
「うん、お願いできるかな?」
『分かったよ!それじゃお手軽な幻魔を出してあげる』
「…えっ!?幻魔?」
すると闘技場の中央の床にある丸い紋章が光るとその中からまるで地面から生えるように幻魔が六体ほど姿を表した。その幻魔は四本足の異形で以前に見た刀足軽のように笠を被り、軽装の具足を身に付け片手には刀を持っている。
『そいつは左馬介がパリで戦った幻魔の"ゾルム"だよ。下等幻魔だから静音でも大丈夫』
「ち、ちょっと!幻魔が相手だなんて聞いてないよ!」
『動かないカカシよりはマシでしょ?ほら、早くしないと斬られるよ』
「グギャアアッ!!」
ゾルムという幻魔たちは瞬く間に静音を取り囲み、一斉に襲いかかろうとしていた。刀足軽同様に集団で包囲し獲物を仕留める戦法を得意としている。
(囲まれた…!参の型を使うしかない!)
「水の呼吸!参の型!流流舞!」
アドバイスを思い出しイメージを浮かべ、一歩踏み込むと同時に一気に間合いを詰めるとまず一体のゾルムを斬り捨てる。
(一つ!)
ザンッ!!
「グォオオ!!?」
続けて側面から斬りかかって来た次のゾルムの攻撃をいなしながら足を止めずにそのまま首を斬りつつ走り続ける。
(二つ!…三つ!)
ザンッ! ザシュッ!
足運びは短く…そして速く!と足にも気を配りながら静音は次々とゾルムを斬り捨てて行く。しかし五体目を斬ろうとした時…
「グォン!!」
ドシュッ!
(ぐあっ!!?しま…った…!!)
足運びに意識が集中していた影響で後ろに居たもう一体のゾルムの行動に気づけず静音は脇腹を刀で突き刺されてしまった。刺されたことにも驚いたがさらに驚愕する出来事が起こっていた。
(…う…そ…血が…?なん…で……?)
なんと刺された箇所から血が流れ体に激痛が走り、あまりの痛みにその場に倒れ込む。
「ゴホッ…ゴホッ…」
吐血し、いよいよ体に力が入らなくなり視界も狭くなる。この感覚はどう考えても夢や幻覚ではない。そんな瀕死の静音に二体のゾルムが近づき刀を突き付ける。どうやらとどめを刺そうとしているようだ。
(阿…児…!やめて…もう…動けないよ…)
しかし、もはやまともに声も出せないほどに弱っていた彼女の必死の叫びは聞こえない。そして静音の背中めがけて二体のゾルムの刀が力強く突き立てられた…
ドシュッ!!ザシュッ!
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・現実 蝶屋敷 左馬介の部屋
「うあぁぁぁぁぁ!!!?」
気がつくとそこは左馬介の部屋だった。大量の汗と激しい心臓の鼓動、それと同時に凄まじい疲労が体を襲う。静音は涙目になりながら体中をまさぐり先ほど刺された脇腹を確認するが傷はどこにも見当たらない。
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…私…生きてる…!」
「あらら、死んじゃったね」
「…ち、ちょっと!!どういうことなの!ちゃんと説明してよ!」
「簡単な話だよ。精神世界は現実にいる時とほぼ同じなのさ。だから痛みも感じるし死ぬこともある。実戦と同じ経験が積めるというのはこういうことだよ」
「…そんなの聞いてないよ」
「それに精神世界で死んじゃうと精神と体にすごく負担がかかるの。だから一気に疲労が蓄積されるのよ」
つまりこの修行は精神と体に強い負担をかける修行方法なのだ。しかも精神世界で死亡すると蓄積される負担と疲労は倍になる。強靭な精神力と身体能力を持つ左馬介でも精神世界に入れるのは一日に四回ほどだ。
「だが、今の動きは悪くない。途中まで流れる水のような動きだったぞ。もう一歩といったところだ」
「え…?左馬介殿、どうやって私の動きを見ていたんですか?」
「あたいの力さ。あんたの身体に触れると精神世界が見えるようにしたから、左馬介にあんたの動きを見てもらったのよ。助言があれば分かりやすいでしょ?」
気がつくと左馬介は静音の肩に手を置いていた。
「…もう一回、お願いします!次は成功させてみせます!」
「待て、少し体を休めてからだ。呼吸も乱れている、体を休めて呼吸を整えたら修練の再開だ」
「今のあんたの精神力じゃ一日に二回ってところかな、もっと精神力を鍛えなきゃ!」
「うん!頑張るよ!よっしゃー!根性ー!!」
その日から静音は度々左馬介の部屋に訪れ、精神世界で修練に励むようになった。この数日でまったく捗らなかった修行に力が入り、左馬介の的確な指導と静音の努力によって水の呼吸の型である"参の型・流流舞い"と"肆の型・打ち潮"の習得に見事成功したのだ。
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・数日後 蝶屋敷 訓練場
着実に修行を重ね実力を上げていく静音に対して、同じく全集中常中の呼吸の習得を目指す炭次郎たちも同じ修行に明け暮れていた。伊之助と善逸は相変わらず訓練が上手くいかないことからサボってばかりだったが、炭治郎だけは訓練をサボることなく必死に地道な努力を積み重ねた結果、ようやく全集中常中の呼吸を習得しカナヲにも訓練で勝利したのだ。
そんな炭治郎を見ていた二人もさすがに焦りを覚えたのか静音と炭治郎に改めて訓練の手伝いとアドバイスを求めてきたのだ。
「肺をこう!こうやって大きくするんだ!」
「……」
「……」
「炭治郎君…ごめん。その説明じゃ私にも分からないよ」
「ええっ!?そ、そうかな?」
「少し見てたけど二人は呼吸する回数が多いと思うの。呼吸の数が多いほど空気の消費も激しくなるし肺の空気もどんどん減っていく、疲れてきたら呼吸の回数が増えてきちゃうのも分かるけど、この回数をどれだけ減らせるかが重要だよ」
「うう…それ難しいんだよなぁ…」
「なぁ!静子!もっと簡単なやり方はねぇのかよ!」
「残念だけど…こればっかりは自分の努力しだいとしか言えないよ」
二人のアドバイスの協力もあったが伊之助と善逸の修行は難航していた。そんな困り果てた四人の前にある人物が姿を現した。
「みんな頑張ってるみたいですね」
「こ、胡蝶様…どうも」
「しのぶさん!」
「なんだ、しのぶか」
「お、おい!柱だぞ!?敬語使えよ!」
訓練場に現れたのはしのぶだった。最近、伊之助と善逸が訓練をサボっているとの報告を受けたしのぶは様子を見にやって来たのだが、ちゃんと仲間に頼りながら訓練に励もうとする姿勢に感心していた。
「炭治郎君と静音さんはもう全集中常中の呼吸を習得したみたいですね」
「はい!後は伊之助と善逸だけなんですけど…」
「二人ともすごく頑張ってるんですがなかなか上手くいかないんです」
「……」
「……」
落ち込む二人を見かねたしのぶは彼らのやる気と意欲を上昇させるために一計を案じた。するとしのぶは伊之助の肩を叩きながら笑顔で話し始めた。
「これはまあ、基本的な技というか初歩的な技なので出来て当然ですけれども、会得するには相当な努力が必要ですよね?まあ、できて当然ですけれども」
「……」
「伊之助君なら簡単かと思ったんですけど…出来ないんですか?」
「……(イラッ)」
「仕方ないです、できないなら。しょうがないしょうがない」
「……!!(ぶちっ)」
笑顔でここまで皮肉混じりに何度も言われてはさすがに伊之助も黙っていられなかった。するとその言葉に奮発したのか大声で言い放った。
「はぁーーん!!?できてやるっつーの!!当然に!舐めるんじゃねぇよ!!乳もぎ取るぞコラァ!!」
すると今度は善逸の手を優しく掴むと笑顔で激励を送る。
「頑張ってくださいね善逸君、一番応援していますよ!」
「…は…は…ハイッーーーー!!!」
一番応援していると言われたのが嬉しかったのか美人であるしのぶに応援されたのが嬉しかったのか分からないが善逸も伊之助同様に奮発したようだった。
(すごい…!あの二人が一気にやる気に…胡蝶様って教えるのが上手いんだ!)
もちろん二人の性格を把握した上でのやり方だ。しかし的確に助言や指導ができるのは簡単なことではない。しのぶの指導の上手さに静音と炭治郎は驚嘆していた。
そんな時、一同の前にもう一人ある人物が姿を見せた。
「すまん、邪魔をする」
「やっほー!みんな!」
「あ!左馬介殿、阿児、お待ちしてました!」
「明智さん?どうしてここに?」
「ああ、静音に全集中常中の呼吸を教えてもらいに来た」
実は今日、これまで修行を手伝ったもらった礼として左馬介に静音が全集中常中の呼吸を伝授する約束をしたのだ。しかしまだ左馬介を完全に信用していないしのぶは少し渋い表情をしていた。
「…静音さん、勝手なことをされては困ります」
「で、でも!私が水の呼吸の参と肆の型を習得できたのは左馬介殿と阿児のおかげなんです。何かお礼がしたかっただけなのです!」
「残念ですけど…それは承知できません」
「もう!ケチなこと言わなくてもいいじゃない!何度も言うけどあたい達は人を襲ったりしないよ!」
「そうか…すまなかった。剣術の秘伝を外部の者に教えるのは難しいだろう。この話は無かったことにしよう。迷惑をかけたな」
「さ、左馬介殿…」
「……」
しかし完全に信用していない訳ではなく、さすがに頭ごなしに追い返すのも悪いと感じたしのぶは少し悩んだ末、仕方なく特別に全集中常中の呼吸を左馬介に教えることに決めたのだ。
「…仕方ありませんね、特別に訓練を許可します」
「無理をしなくてもいい。それじゃあんたの立場が悪くなるだろう」
「いいえ、あなたが本当に味方なら心強い戦力になります。そのためなのでお気になさらず」
「そうか。なら頼む」
「…そのかわり、訓練の相手は私が務めます」
「素直じゃないなあ、普通に教えてあげるって言えばいいじゃない」
こうして左馬介にしのぶが全集中常中の呼吸を教えることになり早速、左馬介はしのぶからやり方とコツを聞く。その後、すぐさま実践してみたいという左馬介に対してしのぶは炭治郎たちが行っていた反射訓練と全身訓練をすることになったのだ。
「サムライのおっさんも訓練すんのか…」
「なあ、炭治郎。あの左馬介って人何者なんだ?鎧とか着てたし明らかに普通の人じゃないよな?」
「静音から聞いた話じゃ明智さんは四百年前の戦国時代から来たらしいんだ。本当かどうかは分からないけど…」
「はぁ……?お前、頭でも打ったか?」
「しかもあのサムライ…鬼だよな?しのぶの奴は斬るなって言ってたけどよ」
「でも、左馬介さんが人を襲うなんて考えられないんだよな…富岡さんと戦ってた時も全然反撃しなかったし」
すでに左馬介が鬼であることは炭治郎たちも勘づいていたが、しのぶから左馬介のことは決して口外しないことと攻撃を加えないように厳しく言われていたのだ。そんな雑談する三人をよそに左馬介としのぶは訓練を始めようと位置についていた。まず行うのは全身訓練で左馬介がしのぶの体に触れるか捕まえられたら成功だ。
「では、準備はいいですか?」
「ああ」
「で、では…よーい」
訓練の合図役になった静音は二人の訓練を見守る。そして、合図と同時に全身訓練が始まった。
「始め!」
鬼殺隊内でも上位に入るほどの速さの太刀筋を持つしのぶは走行速度もそれに匹敵するほど素早く、常人であれば追い付くことすら至難だ。しかし、左馬介はしのぶ予想を遥かに越えていた。
「……」
(速い……!全集中の呼吸を使っていなくてもこの速さだなんて…!)
さすがに左馬介でもすぐには全集中常中の呼吸は慣れないようで、教えてもらった呼吸法が完璧にはできていない。しかし元から身につけている凄まじい体力と肺活量に鍛え上げられた肉体、さらに鬼の特性である並外れた身体能力とほぼ無尽蔵のスタミナによって全集中の呼吸を使わずにしのぶの動きに付いて来ているのだ。
(…速いな、これほど素早い相手は幻魔界で戦ったあのマーセラス以来だ)
(さすがは鬼と言ったところですか…でも、まだまだですね)
「うわぁ…あの子速いなあ、左馬介でも追い付けないなんて」
しばらく全身訓練を行ったが惜しくも左馬介はしのぶを捕らえることができず、全身訓練は終了した。かなりの時間を走り回った影響かしのぶは少しだけ息を切らしていたが左馬介はまったく平気そうな顔をしていた。
続けて行われたのは静音や炭治郎たちも苦杯を舐めた反射訓練だ。しかも今度はカナヲよりも速いしのぶが相手であり一筋縄ではいかない訓練になることが予想された。
「では、次は反射訓練に入ります。やり方は…」
「ああ、聞いている。薬湯を相手にかければいいんだな?」
「ふふ、じゃあ遠慮なくいきますよ?」
「左馬介!頑張って!」
睨み合う両者に緊張が走る。そして静音の合図と共に二人が一気に動く。
…勝負は一瞬だった。
「ハッ!」
バシャッ!!
「きゃっ!?」
「やったー!左馬介の勝ちだよ!」
薬湯を相手にかけたのは左馬介だった。反射神経においては左馬介は群を抜いて優れており、その異常な反射神経と速度によって敵を一撃で斬り捨てる"一閃"の技を可能にしているのだ。
しのぶよりも先に湯飲みを取った左馬介は一瞬で彼女に薬湯をかけたのだ。
「すまん、大丈夫か?」
「………お見事です」
速さに自信があったのか左馬介に敗れたしのぶは少し悔しそうな表情をしていた。あまりにも速すぎるので二人の訓練を見ていた炭治郎たちは何が起こっているのか理解できていなかった。
(すごい、速すぎて見えない…!)
(すげぇ…あのサムライ…やっぱすげぇ!)
(ば、化け者かよ…二人とも)
その後、しのぶから適切な助言を受けながら左馬介は全集中常中の呼吸の訓練を続けた。そしてあっという間に今日の訓練が終了し、しのぶと左馬介はお互いにお辞儀をする。
「…ふぅ、今日の訓練はここまでにしましょう」
「なかなか為になる訓練だった感謝する」
「初めてであそこまで動ければもう十分一人前です」
「いや、まだあんたを捕らえられていない。数日だけ時間をくれないか?全集中常中の呼吸とやら…習得してみせよう」
だが少しコツを掴んだだけで左馬介はすでに全集中の呼吸を習得する一歩手前まで来ていたのだ。もちろんここまで習得が速いのは元から左馬介は強靭な肺と長年の戦いで身につけた効率のよい無駄のない体の動かし方がすでに出来るからなのだ。
「機会があればまた頼む」
「…訓練をするのは構いませんけど、あまり目立たないようにお願いしますね?」
「ああ、夜にでもこっそりやらさせてもらう」
「左馬介ならきっと大丈夫だよ!頑張れー!」
そしてそれから数日後、訓練を始めてわずか三日…左馬介は見事に全集中常中の呼吸を習得したのだ。静音や炭治郎でも一週間以上の時間がかかったにも関わらず左馬介はたったの三日で成し遂げのだ。これに驚いた伊之助と善逸も負けじと炭治郎たちの協力も得つつ猛特訓に励み続けた。やはり二人もただ者ではなく訓練から九日後、遅れて伊之助と善逸も見事全集中常中の呼吸を習得したのだった。
それからさらに数日が経ったある日のこと静音や炭治郎たちの元に新たな指令が届き、次に目指す彼らの新たな任務の場所が決まったのだ。
行き先は"無限列車"…短期間で四十人以上の人が行方不明になったらしく、鬼殺隊からも数名の剣士が派遣されたが残らず消息を断ったとの報告があった。かくして一同は未知なる驚異が待ち受ける無限列車へと歩みを進めるのだった。
次回は遂に無限列車編に突入です!
頑張って書くので気長にお待ちください!