鬼滅の刃 鬼斬り武者   作:戦国のえいりあん

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新作、書けました!
無限列車編です!
やっぱり長くなりそうなので前編、後編で分けます!


第三章 無限列車編
第八話 無限列車 前編


 

蝶屋敷で休息し修行によって新たな実力を身につけた静音は指令を受け、次なる目的地に向かおうとしていた。目指すは無限列車、様々な怪奇現象が起こる原因を探るために静音は炭次郎たちと共に蝶屋敷を発とうとしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・蝶屋敷 門前

 

 

その日の朝、静音たちは蝶屋敷の門前にいた。蝶屋敷の女の子たちとアオイも静音たちの見送りに来ており、これから危険な任務に向かう四人の為に篭いっぱいに詰まったおにぎり渡して別れの挨拶をしていた。

 

 

「「「いっぱい鬼を倒してくださいね!」」」

 

「うん!頑張るよ」

 

「あ!おい!今、食うなよ!」

 

「うるせぇ!」

 

「お世話になりました。アオイさんもありがとうございます。わざわざ見送りに来てくれて」

 

「いえ、静音さんもどうか気をつけてくださいね。…ご武運をお祈りします」

 

「大丈夫です!必ずまた帰って来ますから!」

 

 

すっかりアオイと仲良くなった静音は再び再会を約束してお互いに手を取り合っていた。蝶屋敷の女の子たちも涙を流しながら静音たちを見送っている。数ヶ月、同じ屋根の下で共に過ごした日々や出会いは今では大切な思い出の一つだ。

 

 

「あ!富岡さん」

 

 

ふと見ると水柱の富岡義勇が視線の先に立っていた。何か伝えることがあるのか炭次郎が義勇の元に走っていく。善逸と伊之助は受け取ったおにぎりを取り合って女の子たちから笑いながら呆れられていた。

 

 

「静音、行くのか」

 

「はい、左馬介殿。…無限列車の鬼を討ちに行きます」

 

「すまないが、今回はお前たちを手伝えん」

 

 

実は左馬介は静音たちの指令とは別にしのぶから特別な指令を受けており、しかも許可無しでは蝶屋敷から出られないため今回の任務に同行することができないのだ。

 

 

「いえ、胡蝶様から幻魔の情報が入ったと聞きました。左馬介殿はそちらの調査を優先してください」

 

 

「阿児、こっちは大丈夫だ。静音を手伝ってやってくれないか?」

 

「はーい、じゃあよろしくね、静音」

 

「阿児がいてくれれば心強いな。頼りにしてるよ」

 

 

同行できない左馬介の代わりに阿児が静音に同行することに決まり、阿児はさっそく静音の肩に着地する。

 

 

「修練を忘れるな。"心は常に水の如し"だ」

 

「はい!修行の成果を見せてやります!」

 

 

思えば、この数ヶ月で全集中常中の呼吸と新たな水の呼吸の型など多くの事を身に付けてきた。早く修行の成果を試したい静音は滾る興奮を抑えていた。その頃、義勇との会話が終わったのか炭次郎が再び走って戻ってきた。

 

 

「みんな、俺と別れるのが寂しいんだね…俺だけ残ってもいいよ?」

 

「善逸さんは少し女の子に対して気遣いや節度を覚えたほうがいいと思います」

 

「……はい。で、でも!ちょっとは俺がいなくなって悲しいでしょ?」

 

「「「悲しくありません!」」」

 

 

どうやら善逸と伊之助も別れを済ませたのかいつでも出発できる態勢だ。そんな三人を見た炭次郎は側に置いてあった木箱を背中に担ぐ。

 

 

「じゃあ、みんな!行ってきます!」

 

「ありがとうございました!またお会いしましょう!」

 

 

こうして蝶屋敷の女の子たちと左馬介に見送られながら静音たちは蝶屋敷を後にした。四人はさっそく無限列車に乗り込むために東京駅へと歩みを進めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・東京都 東京駅

 

 

蝶屋敷から出発して半日歩き続けた四人は東京都にある東京駅へとたどり着いていた。すっかり日が暮れ、辺りは沈みかけの太陽に照らされて黄金色に染まっている。さっそく切符を買った四人は改札口を抜け、駅のホームを歩いていた。

 

 

「な、な!な!なんじゃこの生き物はぁ!!?」

 

 

列車を見て大声を出していたのは伊之助だった。どうやら列車を生まれて初めて見たのか、伊之助はこれを生き物だと勘違いしているようだ。

 

 

「こ、こいつはアレだぜ…この土地の主…!この土地を統べる者…!この長さ、威圧感…間違いねぇ!今は眠っているようだが、油断するな!」

 

「いや、汽車だろ」

 

「伊之助君、汽車を見たことないの?」

 

「シッ!落ち着け!」

 

 

ちなみに静音は幼少期に両親と一緒に乗ったことがある。しかし、伊之助はまだ汽車が生き物だと思っているのか攻撃しようと刀に手をかける。

 

 

「まず俺が一番に攻め込む!」

 

「待つんだ伊之助!」

 

「ああん?」

 

 

そんな興奮する伊之助を止めたのは炭次郎だった。

 

 

「この土地の守り神かもしれないだろう?それに急に攻撃するのも良くない」

 

「いや汽車だって言ってるじゃんか、列車分かる?乗り物なの、人を運ぶ…この田舎者が」

 

「あはは…炭次郎君も見たことないんだ」

 

 

一方、阿児は珍しそうに停車している列車を飛び回りながら眺めていた。

 

 

「へぇ~この時代にも列車があるんだね。形もあたいが見た奴とそんなに変わんないみたいだし」

 

「阿児は列車を知ってるんだ?」

 

「うん、五百年前のモン・サン=ミシェルで見たことがあるんだ」

 

「…えっ!?五百年前から列車ってあったの!?」

 

「あったよ。でも幻魔が造った列車だったから表の歴史には記録が残らなかったのかもね」

 

(信じられない…幻魔って一体…!)

 

 

さりげなくとんでもない歴史の裏話を口にする阿児に静音は苦笑いしていた。そんな話をしている静音たちをよそに伊之助は大きく息を吐きながら列車の車体に向かって頭から突進していた。

 

 

「猪突猛進っ!!」

 

 

ドゴォン!!

 

 

「やめろ!恥ずかしいだろ!」

 

 

その大きな衝突音が原因でホームの奥からホイッスルを鳴らしながら駅員が静音たちの元へ走ってくる。

 

 

「何してるんだ!貴様ら!」

 

「げっ!!?」

 

「あ!こいつら刀を持ってるぞ!警官だ!警官を呼べ!」

 

 

静音たちが帯刀しているのが見つけた駅員は大きくホイッスル鳴らして警官を呼び寄せる。それを聞いた別の駅員や警官が次々と集まって来た。もちろん廃刀令が施行されているこの時代で警官に捕まれば問答無用で連行されてしまう。

 

 

「やばっ!やばいやばい!!逃げろっ!!」

 

「善逸君!こっち!急いで!」

 

 

静音たちは全速力でその場から逃げ出した。ここで警官に捕まれば面倒なことになってしまう。さすがに訓練で鍛えられた静音たちの走行速度には追い付けず、ホームの最果てにある休憩所の角に隠れて何とか警官を振り切ったのだ。

 

 

「伊之助のおかげで酷い目にあったぞ!謝れ!」

 

「ああん?大体、何で警官から逃げなきゃいけねぇんだ!」

 

「政府公認の組織じゃないからな、俺たち鬼殺隊は」

 

「鬼の話をしても信じてもらえないし、まともに聞いてくれるとは思えないからね」

 

「一生懸命頑張ってるのに……」

 

「まあ、仕方ねぇよとりあえず刀は背中に隠そう」

 

 

さっそく炭次郎たちは羽織の後ろに日輪刀を隠すが、羽織を持たない伊之助は腰巻きに布で巻かれた日輪刀を差しているだけで丸見えだった。

 

 

「ハハハッ!どうよ!」

 

「…丸見えだよ服着ろバカ」

 

 

それと同時にホームに汽笛が鳴り響く。どうやら出発時間になったのかゆっくりと列車が動き始めた。

 

 

ボオオオオオォォォ…

 

 

「やばっ!もう出発だ…!」

 

「大変!乗り遅れちゃうよ!」

 

「急がなきゃ!行こ!みんな!」

 

「ハハッ!!勝負だ!土地の主!」

 

「俺たちも行こう!」

 

 

最初に走り出したのは静音でその後に伊之助と炭次郎、そして善逸が続く。静音、伊之助、炭次郎はギリギリ列車に乗り込めたが善逸は少し遅れて線路の上を必死に走っていた。

 

 

「うあぁぁ!?炭次郎、伊之助、静音ちゃん!」

 

「善逸!」

 

「善逸君!捕まって!」

 

 

三人で善逸の手を掴み一気に引き上げる。何とか無限列車に乗り込めた四人は安堵のため息を漏らしていた。

 

 

「うおぉぉ!!速ぇぇ!!」

 

「はぁ…何とか乗り込めたね。というか五百年前もこんな乗り方をしたような気が…」

 

「あはは…そうなんだ」

 

「なあ、炭次郎。禰豆子ちゃん連れてきてよかったのか?鬼殺隊本部に居たほうが安全なんじゃ…」

 

「…これでいいんだ。俺と禰豆子はどこに行く時も一緒だ。もう、離れたりしない」

 

 

静音は詳しくは知らなかったが炭次郎が背負っている木箱には彼の妹である竈門禰豆子が入っている。彼女は鬼なのだが強力な暗示をかけられており、彼女の目には人間が自分の家族に見えているそうで、鬼でありながらこれまで一度も人間を襲ったことはないと聞いている。そんな彼女を人間に戻すために炭次郎は鬼殺隊に入ったのだ。

 

落ち着いた一同はさっそく車内に足を踏み入れる。

 

 

「うおぉぉ!主の腹の中だ!戦いの始まりだぁ!」

 

「うるせーよ!」

 

「伊之助君、落ち着いて…」

 

 

列車の速度と車内に興味津々の伊之助は乗ってからずっとハイテンション状態だ。そんな中、炭次郎はキョロキョロと車内を見て誰かを探していた。

 

 

「無限列車に乗れば、煉獄さんと会えるそうなんだけど…」

 

「柱だっけ?その煉獄さん。顔とか分かるのか?」

 

「うん、派手な髪の人をだったし匂いも覚えているからだいぶ近づいて…」

 

「うまい!!うまい!!」

 

 

思わず声が聞こえる方を見ると車内の奥に車内全体に響き渡るほどの大声を出している男が一人座っていた。毛先が赤色に染まった金髪にどこ見ているのか分からない見開かれた眼差しが大きな特徴で隊服の上に炎を模した羽織を身にまとっていた。

 

なんとも美味しそうに駅で大量に買い込んだ牛鍋弁当を食べている男の姿に見ていた炭次郎たちはしばらく固まっていた。男の前の席には食べ終わった空の弁当殻が山のように積み重ねてあった。

 

 

「うまい!!うまい!!」

 

「…あの人が炎柱?食いしん坊じゃなくて?」

 

「…うん」

 

「あの人が…煉獄様」

 

「変な人だなあ…ねぇ、柱の剣士ってあんな変な人しかいないの?」

 

 

そう炭次郎たちの前にいるこの男こそ、鬼殺隊の柱の剣士で"炎柱"の名で知られる剣士、煉獄杏寿郎だ。実は任務とは別にあることをこの杏寿郎に聞くために炭次郎は無限列車にやって来たのだ。

 

 

「あの…すみません」

 

「うまい!!うまい!!」

 

「れ、煉獄さん?」

 

「うまい!!」

 

「いえ、それはもうすごく分かりました…」

 

 

ようやく炭次郎たちに気付いた杏寿郎は食べるのをやめた。煉獄の周りの席が空いていたので炭次郎は煉獄の隣に、静音はその向かいの席に座った。伊之助と善逸も炭次郎たちの座っている隣の席に腰を降ろした。すると炭次郎は目的の一つだった聞きたいことを杏寿郎に話し始めた。

 

 

「うむ!そういうことか!だが、知らん!"ヒノカミ神楽"という言葉も初耳だ!」

 

 

どうやら炭次郎は"ヒノカミ神楽"とはどんなものなのか…それが知りたいそうなのだ。炎柱で炎の呼吸を用いる杏寿郎ならば何か知っているかもしれないと考えたのだが彼にもヒノカミ神楽が何かは分からないようだ。

 

 

「君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいことだが…これでこの話はお終いだな!」

 

「え!?ちょっともう少し…」

 

「俺の継子になるといい!面倒を見てあげよう!」

 

「ま、待ってください!そしてどこを見てるんですか!?」

 

「炎の呼吸は歴史が古い!」

 

(…煉獄様って、変わってるなあ)

 

 

すると杏寿郎は呼吸の歴史について語り始めた。彼の話によれば水と炎の呼吸は数ある種類の呼吸の中でも特に歴史が長く、どの時代にも必ず柱の剣士の中に入っていたそうなのだ。静音が習得している水の呼吸も元は剣術の基礎に沿って編み出されており初心者の剣士にも扱いやすく多くの鬼殺隊士は水の呼吸なのだ。

 

 

「すげぇ!すげぇ!速ぇええ!!」

 

「危ないだろ!顔出すな!」

 

「俺、外に出て走る!!どっちが速いか競争する!!」

 

「馬鹿にもほどがあるだろっ!!」

 

 

相変わらずハイテンションで興奮している伊之助は窓から身を乗り出して大はしゃぎしていた。そんな光景を見ていた杏寿郎は彼らに釘を指すように言った。

 

 

「危険だぞ!いつ鬼が出てくるか分からないんだ!」

 

「え?嘘でしょ!?鬼出るんですか?この汽車…」

 

「出る!」

 

「出んのかい!嫌ぁー!!鬼のところに移動してるんじゃなくてここに出るのっ!?」

 

「なるほど…短期間の内に四十人以上の人が行方不明になったのはやはり鬼の仕業だったのですね」

 

「数名の剣士を送り込んだが全員消息を絶った。だから柱である俺が来た!」

 

 

現状では特に変化はないがこの列車に鬼が潜んでいるのは間違いない。杏寿郎の一言にその場にいた全員に緊張が走る。そんな時、車内に切符切りを持った車掌が入って来た。しかし車掌の表情には生気がなくよろよろと炭次郎たちのいる席に歩いてくる。

 

 

「……切符……拝見……致します」

 

「ん?何ですか?」

 

「車掌さんが切符を確認して切り込みを入れてくれるんだ!!」

 

(……何だろう?嫌な匂いがする…)

 

 

車掌は杏寿郎や一瞬ためらった炭次郎の切符を切り、続けて伊之助、善逸の切符も切る。そんな中、この異変に気付いた者が一人いた。

 

 

(この切符…鬼の力を感じる…まさか…!!)

 

「…拝見……致します」

 

「はい、お願いします」

 

「駄目っ!静音!その切符を切ったら…!」

 

「…え?」

 

唯一異変に気が付いた阿児が静音を止めようとするが、すでに遅く車掌に切符を切られてしまった。それと同時に強烈な睡魔が静音を襲った。

 

 

 

(…な…何…?急に眠…気が…)

 

「静音!しっかり…し……て…」

 

 

薄れゆく意識の中、徐々に小さくなる阿児の言葉を最後に静音の意識は完全に闇へと消えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(あれ……?ここは…?)

 

 

気がつくと静音はどこかの家の中にいた。質素な家具に和風な造りの内装、ごく普通の一般住宅の中だが静音はこの風景をよく知っている。何故ならここは…

 

 

「…ここ、私の家だ…」

 

 

新宿にいる叔母に引き取られる以前、両親と共に暮らしていた時に静音が住んでいた自分の家なのだ。両親が死んだ後、家主がいなくなった静音の家はその後、別の者に譲ることになりそれ以降あの家に戻ったことはない。

 

しかも先ほどまで列車の車内にいたはずの自分が何故こんなところにいるのか分からない。

 

 

「……あ」

 

 

ふと前を見ると静音の目の前に誰か立っている。だがその人物も静音にとっては馴染み深い人物でもう二度と会えないと思っていた存在だった。見慣れた和服を身につけた二人の姿を忘れるはずがない。

 

 

「……父上…母上……!」

 

 

目から止めどなく涙が溢れてくる。自分の前にずっと会いたかった両親の姿があるのだ。静音の両親は静音を穏やかな表情で微笑みながら見つめている。気がつけば静音は迷うことなく両親の元に駆け出し二人に抱きつき静かに泣いていた。

 

 

「父上ぇ…母上ぇ…会いたかったです…ずっと…」

 

「静音、ごめんね…つらかったでしょう?」

 

「ごめんな…俺たちはお前に何もしてやれなかった」

 

「いいんです…こうして…また会えましたから……ううっ…うぇぇ…」

 

 

これまでずっと泣き言を言ってはいけないと自分自身に言い聞かせ、必死に生きてきたが本当は一人でずっと寂しかったのだ。鬼さえいなければ…自分があの時戦えたら…何もできなかったあの時を何度、後悔したことか。

 

涙が止まらない。静音はただ泣き続けた。

 

 

「もう…私を置いていかないでください…私を一人にしないで…」

 

「…っ!!…ごめん…ごめんね…」

 

「すまない…それはできないんだ」

 

「……え?」

 

 

その時、静音の背後に何者かが突如現れた。その人物は大きく手を振りかぶり静音の後頭部に手刀を繰り出した。

 

ビシッ!

 

「痛ぁ!!?」

 

「コラ!こんなとこで何、油売ってんだ!さっさと現実に戻れ!」

 

「…せ、先生っ!!?」

 

 

そこにいたのは両親と同じく鬼によって殺された静音の剣術の師匠だった。全集中の呼吸と水の呼吸の型、そして数多くのことを静音に教え、彼女の精神面に大きな影響を与えた人物だ。

 

静音と同じ女剣士で風来坊を思わせる和服と羽織。顔にある古傷が特徴で右腕の無い隻腕の剣士だった。言動は粗暴だが普段は気さくで面倒見がよく、当初は気弱だった静音の根性を鍛え直し教え導いた人生の師とも言える存在だ。

 

 

「先生…」

 

「みっともねぇ顔すんな、お前さんにはやるべき事があるだろ」

 

「……」

 

「気づいてんだろ、これが"夢"だってことぐらいな」

 

「……はい」

 

「…失ったものは戻らねぇ。前に進むしか道は無ぇ。過去を振り替えっても意味は無ぇんだ。すべて受け入れて進み続けるしか道はない」

 

 

薄々気づいていた…これが夢だと言うことなど分かっていた。自分はこの目で見ているのだがら…

 

大切な人の命が奪われるその瞬間を……

 

 

「分かったらさっさと行け、仲間が危ねぇぞ」

 

「……」

 

「静音…私たちはずっとあなたを見守ってるから…」

 

「俺たちはいつもお前の側にいる…頑張れ!」

 

 

思い出した…自分は今、戦っている最中だ。

切符を切られた直後に強烈な睡魔に襲われて気を失ったのだ。恐らく他の者も自分と同じく眠らされているに違いない。ならばやることはすでに決まっている。静音は涙を拭い、震えながらゆっくりと両親から手を離す。

 

 

「父上、母上、先生……私、行きます…」

 

「おう!それでこそオレの自慢の継子だ!」

 

「…先生、私…もっと強くなります!だから、見ていてください!」

 

「…頑張れよ、静音。お前さんならできるさ」

 

 

静音は名残惜しそうに背を向け、ゆっくりと歩き出す。そんな静音の後ろ姿を三人は暖かい表情で見守る。静音の母親も涙を堪えながら手を振って愛する娘を見送る。

 

ずっとここにいたい…

このまま大切な人と共に過ごしたい…

 

だが、それは許されない。前へと進む…残された者にできるのはそれしかないのだから。静音もまた涙を堪えながら駆け出し、家の玄関の扉を勢いよく開く。それと同時に強烈な光が静音を包み込んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・無限列車 車内

 

 

「……音……起き……て……」

 

「……」

 

 

徐々に意識が覚醒し、静音を名を叫ぶ何者かの声が少しずつはっきりと聞こえるようになる。

 

 

「静音!お願い!起きてよ!」

 

「………はっ!!?」

 

「よ、よかった!やっと起きた。もう!心配したじゃない!」

 

「あ、阿児……私は…一体…」

 

「鬼の術にかかっちゃったのよ。あたいがもっと早く気づいてたら…」

 

 

阿児の話によればあの切符には鬼の罠が施されており、切符を切ると発動し持ち主を眠らせる仕組みになっていた。どうやらこの列車にいる鬼は眠った人間に意のままの夢を見せる事ができる能力を持っているようだ。この罠にかかってしまえば抜け出すのは困難で夢から目覚めるには何かしらの覚醒条件が必要らしいのだ。しかしその鬼の術にかかったにも拘わらず静音は夢から覚醒したのだ。

 

 

「…何で私は目覚めれたんだろ」

 

「前に左馬介にもらった"吸魂の数珠"、ずっと身につけてたでしょ?」

 

「うん、これのこと?」

 

静音の右手首には左馬介から受け取った幻魔の魂を封印する吸魂の数珠が身につけてある。よく見ると数珠が微かに光を発していた。

 

 

「その数珠には少しだけど防魔効果…つまり魔除けの効果があるの。それを身につけてれば鬼や幻魔の術に多少抵抗できるのよ」

 

「じゃあ…この数珠のおかげで?」

 

「でも、抵抗できるのは本当に少しだけなんだ。強いて言えば静音の精神力が強かったのが大きいかな」

 

 

蝶屋敷で行った左馬介との精神世界での修練…あの修行のおかげで静音の精神力は大幅に強化されていた。数珠の魔除けと静音の強靭な精神力があったからこそ静音は短時間で覚醒することができたのだ。眠っている時に見た両親と師匠から激励されて見送られるあの夢は鬼によって見せられた夢ではなく、覚醒しようとする静音の本能が見せたものだった。

 

 

「大丈夫だった?変な夢とか見せられたの?」

 

「…夢の中で死んだ両親と剣術の師匠に会ったの」

 

「まさか…その人たちに酷いことを言われた?」

 

「違うよ、寝てる場合じゃないだろ!早く起きろ!って言ってくれたの」

 

「そっか…きっと静音のこと見守ってくれてるんだね」

 

「…うん」

 

(母上、父上、先生…感謝します…!)

 

 

心の中で亡き両親と師匠に感謝を伝える。気を取り直した静音はさっそく現状を確認する。見渡すと車内にいた乗客は全て眠っており、同じく乗車していた炭次郎や杏寿郎も眠っていたのだ。どうやら今、この車内で真っ先に覚醒したのは静音だけのようだ。

 

 

「煉獄様!寝てる場合ではありません!炭次郎君もみんなも起きて!」

 

「どれだけ叫んでも叩いても起きないよ。恐らく夢の中で目覚めるための条件が必要なの。それをこの子たちが自力で見つけなきゃ覚醒できない」

 

「そんな…どうしたら」

 

「手段はもう一つ、この夢を見せている元凶…この列車にいる鬼を斬るしかないよ」

 

「…決まりだね、行こう!阿児!」

 

 

背中に隠していた日輪刀を取り出して腰に差す。頭に巻いている鉢金を強く結び直し席を立つ。前方の車両に向かって走り出した時、前に見える先頭車両を結ぶ連結部の扉が開き数人の少年、少女が入ってきた。

 

 

「よかった!まだ起きてる人がい…」

 

「…ちょっと!!何で起きてんのよっ!」

 

「え?」

 

「どうなってんだ!全員、寝たんじゃなかったのかよ!」

 

 

少女たちの手には錐状のような物と縄が握られていた。鬼の術から逃れた一般市民だと思ったが先ほどの言動や持ち物、態度からしてただの一般市民ではないと静音は瞬時に悟った。

 

 

「どうしたんですか?もしや鬼に脅されているのですか?」

 

「うるさいっ!さっさと寝てよ!あんたのせいで夢を見せて貰えないじゃない!」

 

「こうなったら殺してやる…!」

 

「私たちの邪魔をするな…!」

 

(…違う?この人たち、自分の意思で…!)

 

 

先頭にいた少女が激しい剣幕で錐状の武器のような物を構えて静音に向かって疾走してくる。それに続いて他の少年少女たちも静音に襲いかかってくる。予想だが眠って無防備のところをあの錐のようなもので急所を刺して仕留めるのが狙いなのだと静音は考えていた。

 

 

(なるほど、眠らせてその隙にとどめを刺すつもりだったのね…!自分にとって幸せな夢を見せてもらえる条件でこの人たちは鬼に協力を…!)

 

「静音、どうするの?相手は一般市民だよ」

 

「もちろん、殺したりなんてしないよ」

 

「でも、話し合いもできそうもないし…」

 

「…話し合いで済めばよかったけど」

 

 

先頭の少女が静音に錐を突き刺そうとするが、静音は難なくそれを回避し素早く少女のみぞおちに打撃を加える。

 

 

「…カハッ!?」

 

「…すみません。攻撃してくるなら容赦はできません」

 

 

続いて他の少年少女たちも静音に襲いかかるが攻撃はことごとく回避され、次々と首の後ろに手刀を食らい全員を気絶させる。静音からすれば刀を握ったこともない一般市民の攻撃など止まって見えるも同然だった。

 

 

「静音、やるぅ!」

 

「…ごめんね、私は行かなきゃ…!」

 

「ま、待て!ぜったいに通さないぞ!」

 

 

静音の前にいたのは最後に残った刺客の一人だった。年齢は八歳ぐらいで先ほどの少年少女の中では恐らく最年少だろう。通路の真ん中に立ち涙目になりながら震える手で錐状の武器を構えている。

 

 

「……」

 

「お前を倒して…お父さんとお母さんに会うんだ…!夢でもいい…もう一人は嫌だ…!」

 

「夢…そっか、君も両親がいないんだね…」

 

 

その言葉に静音も悲しい表情になる。自分もそうだ。少年と同じぐらいの時に両親を殺されて一人になった。しかし、そんな一人で孤独だった自分を救ってくれたのは師匠と叔母だった。彼らの助けがあったからこそ、こうして真っ直ぐに生きている。しかし、彼にはきっとそのような存在に巡り会えなかったのだろう。

 

 

「やめようよ、そんなことしても君の父上と母上は喜ばないよ」

 

「うるさいっ!お前に…僕の何が分かるんだ!ずっと一人で寂しかった…!もう生きていても楽しくないんだ!」

 

「…人を殺してまで夢で会っても君の両親は本当に嬉しいと思う?私が君の親なら悲しくて泣いちゃうよ…」

 

「……あ…」

 

「負けないで、過去を振り替えっても大切な人や時間は戻らない。どれだけ辛くても悲しくても前に進むしかできないの。死んだ父上と母上の分も君が長生きしなゃ駄目だよ」

 

 

その言葉を聞いた少年は持っていた錐をその場に落として、静かに泣き始めた。そんな少年を静音は優しく抱き締める。

 

 

「寂しかったよね…一人は嫌だよね…私も夢の中で父上と母上と一緒にいたかった…」

 

「ごめん…ごめん…なさい…!」

 

「いいの、君は何も悪くないよ」

 

こんな幼い子供の心を利用して弄ぶ卑劣な鬼を決して許さない…と静音は怒りで拳を握りしめていた。

 

「君は隠れてて、悪い鬼はお姉ちゃんがやっつけるから!」

 

「…うん!あいつは先頭の車両にいるよ、お姉ちゃん…気をつけてね!」

 

 

少年が隠れるのを見届けた静音は改めて先頭車両を目指して扉を開けようとすると今度は背後から物音が聞こえてきた。まだ刺客がいたのか…!?と静音は慌てて後ろを振り向く。

 

 

「誰っ!出て来なさい!」

 

「ム~…」

 

「…え?あなたは…」

 

 

炭次郎の側に置いてあった木箱の中から転がって出てきたのは口に竹筒を咥えた少女だった。腰ほどもある長い黒髪に桃色麻の着物と黒い羽織という外見だ。こうして顔を合わせるのは初めてだが彼女が炭次郎の妹であり鬼である竈門禰豆子だった。一応、炭次郎からは自分には妹がいて木箱の中で眠っているという話は簡単に聞いている。

 

 

「……」

 

「えっと…禰豆子ちゃん、かな?」

 

「……(コクコク)」

 

「よかった!ねえ、お兄さんのことを見ててくれない?鬼は私がなんとかするから!」

 

「…ムー!」

 

「えーと…分かった、って言ってるのかな?」

 

「そうみたい。ここはこの子に任せてあたいたちは先に行こうよ!」

 

 

こうして炭次郎たちを禰豆子に任せた静音と阿児は先頭車両に向かって走り出した。先ほどまでは気づかなかったが車両のあちこちから鬼の気配と匂いが漂い、空気が非常に重い。

 

 

(列車に乗った時、気配はなかったのに…どうして?)

 

「静音、上だよ!風上から気配を感じる!」

 

「分かった!」

 

 

それを聞いた静音は客車の連結部から外に出て客車の屋根の上に登った。その後、先頭車両を目指して屋根の上を駆け続けているとようやく先頭車両が見えたきた。すると視線の先に何者かが後ろ向きで立っており、それを見た静音は足を止める。

 

 

「貴様は…!」

 

「おかしいなぁ…なんで君は俺の術にかからないんだ?」

 

(下弦の壱…!!強敵だ…!)

 

「なぁ、教えておくれよ。どうやって俺の血鬼術を解いたんだ?」

 

 

静音は日輪刀を抜き、水の呼吸の構えを取る。強い鬼の気配だと思っていたがまさか下弦の壱だったとは予想外だ。外見は普通の人間と変わらず、黒いスーツ姿に毛先の赤い黒髪。瞳の色は碧眼で瞳に下弦と壱の文字が刻まれており、そして鬼の特有である独特の紋様が体に浮かんでいる。この鬼こそが下弦の壱・魘夢だった。

 

 

「まあ、いいか…でも、君一人程度で俺が倒せるとは思えないけど?」

 

「…黙れ、この外道め!貴様は私が斬る!!」

 

「あはは、君にできるかなぁ?」

 

 

静音は魘夢に向かって水の呼吸の構えを取りつつ疾走した。

 

 

 




後編も頑張って執筆中です!
気長にお待ちください!
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