鬼滅の刃 鬼斬り武者   作:戦国のえいりあん

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お待たせしました!
無限列車編の後編です!


第九話 無限列車 後編

無限列車に出現する鬼を討伐するために乗り込んだ静音たちだったが、異変の元凶である下弦の壱・魘夢の襲撃を受け窮地に立たされていた。しかし、いち早く魘夢の血鬼術から脱出した静音は仲間と乗客を救うために魘夢を討とうとしていた。

 

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・無限列車 先頭車両

 

 

「ああぁぁぁ!!」

 

日輪刀を構えたまま揺れる車両の屋根を疾走する静音。目の前にはこの惨状を作り出した元凶である下弦の壱・魘夢が立っている。魘夢の頚に狙いを定めて型を繰り出そうとする。

 

(水の呼吸……!)

 

「ふふ、"強制昏倒催眠の囁き"…」

 

「……!!」

 

魘夢は余裕の表情で左手を静音に向ける。すると手首の部分にある口のようなものが不気味な声で囁いた。

 

『お眠りィィィ』

 

「静音!その声を聞いたら眠らされるよ!気を強く持って!」

 

「……ぐっ……!?」

 

声を聞いた瞬時、再び強烈な睡魔が静音を襲う。体がふらつき速度が落ちるが歩みは止まっていない。

 

(…こんな術に…負けるもんかっ!!)

 

静音は自分の頭を力強く殴りつけ左右にブンブンと振り回す。正気に戻った静音は再び魘夢に向かって疾走する。

 

(眠らない…どういうことなんだ?)

 

「はあぁぁぁ!!」

 

『眠れェェ』

 

「……ぐ……」

 

『眠れェェェ!眠れェェェェ!』

 

魘夢は何度も囁きを聞かせるがその度に静音は自分の頭を殴って正気に戻り、術には決して掛からなかった。次第に静音と魘夢の距離が縮まっていく。

 

(何でコイツは眠らないんだ……!?耳栓でもしてるのか?いや…違う、術は効いているが効果が薄い…だから自力で抵抗できるのか…!)

 

『眠れェェェェェ!!』

 

「…人の心を弄ぶなぁ!!地獄に堕ちろ!!」

 

間合いに入った静音は水の呼吸の構えを取りつつ軽く跳躍する。その構えは蝶屋敷で新たに習得した水の呼吸・肆の型だ。

 

 

「水の呼吸!肆ノ型・打ち潮!」

 

ザンッ!!

 

静音が放った肆の型は魘夢の頚に見事命中した。それと同時に魘夢の首がごろごろと車両の屋根の上を転がる。しかし魘夢の頚を斬った静音は違和感を覚えていた。

 

(おかしい…手応えがない。下弦の壱がこんなに弱いはずがない…まさか、これは偽物…!?)

 

かつて自身を追い詰めたあの巨大な鬼でさえ下弦の鬼ですらなかったのだ。下弦の鬼の強さはこんなものではないと静音は背後を振り向くと、そこには驚く光景があった。

 

「静音!気をつけて!まだ終わってないよ!」

 

「えっ!?」

 

「うふふ、やるねぇ。平隊士だと思って油断してたけど、なかなか侮れないなぁ」

 

「…な……!!?」

 

斬り落としたはずの魘夢の首が列車から繋がる醜悪な肉の塊と融合し見るもおぞましい異形になっていた。頚を斬ったにもかかわらず魘夢はまだ死んでいなかったのだ。

 

「素敵だねぇ、その表情が見たかったんだよ」

 

(頚を斬ったのに死んでない……!?)

 

「知りたいよね?いいよ、俺は今気分が高揚してるから」

 

すると魘夢は不気味に笑いながら真相を話し始めた。

 

「赤ん坊でも分かる単純な話さ、それはもう本体じゃないからだよ」

 

「本体じゃ…ない?」

 

「今、喋ってるこれも頭の形をしているだけで本当の頭じゃないんだよ」

 

「あんた…まさか…!!」

 

「うふふ、察しがいいね。そこの小さい君。そうさ、君の予想している通りだよ」

 

会話から聞いた内容で魘夢が何を言いたいのか理解した阿児は顔を真っ青にして言葉を失っていた。すると魘夢はニヤリと笑みを浮かべて言い放った。

 

「俺はこの汽車と融合したのさ!この列車の全てが俺の血であり肉であり骨となった」

 

「列車と融合…!?そんな馬鹿な…!!」

 

「こんなに早く来るのは予想外だったけど、ぎりぎり融合に成功したのさ。うふふ、つまりこれが何を意味するのか分かるかな?」

 

(列車すべてがコイツの本体…ということは!!)

 

 

魘夢がこの無限列車と融合したことで何が起こるのか理解した静音も言葉を失っていた。この列車のすべてが魘夢の体だということは絶体絶命の最悪な状況を意味していた。

 

「この列車の乗客二百人が俺を強化するための餌、そして人質と言うことさ。うふふ、ねぇ守りきれる?君一人でうじゃうじゃいる人間すべてを守れるかなぁ?」

 

「き、貴様ぁぁ!!」

 

激昂した静音は魘夢の頭を狙って斬りかかるが、魘夢の頭は列車の屋根に吸収されその一撃は虚しく回避されてしまった。直後、下の客室内から何が動く音が聞こえてくる。

 

「ど、どうしよう…!このままじゃあの子たちどころかこの列車に乗ってる乗客全員が危険だよ!」

 

「守れるのは最低でも二両が限界…!私一人じゃ手が回らないよ!」

 

「た、大変だ…!なんとかしなくちゃ!」

 

(駄目…!私一人じゃどうやっても守りきれないよ!どうすれば…どうすればいいの…!?)

 

静音は走って来た屋根を全速力で引き返す。どう考えてもこの状況を静音一人で打開するのは至難の業だ。やはり最後の望みは今、眠っている炭次郎や杏寿郎の助力を借りる以外に方法が思い付かなかった。

 

「煉獄様っーー!!炭次郎君っーー!!お願い!起きてよっ!!このままじゃ…!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方、そのころ炭次郎や杏寿郎は魘夢の術から覚醒できずに眠ったままだった。しかし炭次郎だけは苦しそうな表情でうなされていた。

 

「…起きないと…夢だ…」

 

炭次郎の側には羽織の袖をグイグイと引っ張って起こそうとする禰豆子の姿もあった。頭突きで起こそうとしたのか額から出血しており、まったく目を覚まさない兄を心配しているのかポロポロと涙を流していた。

その時、炭次郎は夢の中で覚醒しよう必死に方法を探していた。

 

(どうすれば目を覚ませる!?どうすれば…)

 

魘夢の術にかかった炭次郎は夢の中で鬼舞辻に殺された自分の家族と出会い再び共に日常を過ごす夢を見ていた。当初は完全に魘夢の術中に陥り幸せな時間を過ごしていたが、本能からの警告や禰豆子の頭突きの効果もあってようやくそれが夢であることに気づいたのだ。

 

彼もまた家族との別れを涙を偲んで乗り切り、夢から覚めようと必死に覚醒条件を探していた。

 

(俺は全集中の常中を使えていないのか…?今は眠ったままなのか…?)

 

その時、炭次郎の背後に突如彼とよく似た格好と髪型をした謎の人物の幻影が現れその人物が呟いた。

 

『炭次郎、刃を持て。斬るべきものはもう在る』

 

(父さん…!?)

 

その声は今は亡き炭次郎の父の声だった。その言葉を聞いて覚醒条件を察した炭次郎は恐る恐る自分の頚に手を当てた。

 

(もし違っていたら?夢の中の出来事が現実にも影響するなら取り返しが…)

 

戸惑いを隠せなかったが他に方法は思い付かない。意を決した炭次郎はその場に座り日輪刀を抜き取ると刃を自分の頚に突きつける。

 

(…迷うな!!やれ!!やるんだ!!斬るのは……自分の頚だ!!)

 

「うおおああぁぁ!!!」

 

ドシュッ!!!

 

炭次郎は自身の頚を思いっきり掻き斬った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・現実 無限列車 客車

 

 

「あああああ!!?」

 

飛び起きた炭次郎は慌てて自分の頚に手を当てる。血も出ておらず傷跡も無い。どうやら無事に夢から覚醒することに成功したようだ。魘夢の血鬼術から抜け出すためには夢の中で自身の命を断つことが覚醒する条件だったのだ。

 

(大丈夫…生きてる)

 

深い安堵のため息を付く。早速、炭次郎は現状を把握しようと周りを見渡すが状況は最悪だった。

 

「な、何だ!?何が起きてるんだ…!?」

 

客室内が肉の壁に覆われ、あちこちから触手のような物が伸び今にも乗客を襲おうとしていたのだ。炭次郎の傍らには兄と乗客を守ろうと素手で触手と奮闘する禰豆子の姿があった。

 

「ムーー!!」

 

「禰豆子!!無事かっ!?」

 

(まずいぞ…!俺たちが寝ている間にこんなことになってるなんて…!)

 

慌てて日輪刀を抜き、炭次郎も戦闘に加勢する。目覚めたばかりの炭次郎でもこの現状が危機的状況であると察していた。

 

「禰豆子!眠っている人たちを守るんだ!この車両は任せた!」

 

「ムーー!!」

 

「伊之助!善逸!煉獄さん!起きてくれ!」

 

炭次郎は未だに眠ったままの杏寿郎や伊之助の体を力強く揺さぶるが起きる様子はない。彼らが起きるまでなんとか時間を稼がなければと炭次郎は後ろの車両を禰豆子に任せて自身は前方の車両へと走り始めた。

 

すると車両の上から何者かの叫び声が聞こえてきた。

 

「煉獄様っーー!!炭次郎君っーー!!お願い!起きてよっ!!このままじゃ…!」

 

(この声…静音の声だ!)

 

「静音ーー!!上にいるのか!!」

 

炭次郎は客車の窓から顔を出し叫び返す。屋根の上を見ると二両先の屋根の上をこちらに向かって走る静音の姿があった。

 

「炭次郎君っ!?よかった!起きたんだね!」

 

「もう!起きるのが遅いよ!」

 

「すまない!静音、阿児!何があったんだ!これは一体…」

 

「よく聞いて!この列車全てが鬼の本体なの!もうこの列車に安全な場所は無い!」

 

「な、何だって!?」

 

「炭次郎君は後ろの車両の人たちを守って!先頭の二両は私が何とかするから!」

 

「分かった!静音も気をつけるんだ!」

 

現状を聞いた炭次郎は再び引き返し後ろの車両にいる一般市民たちを守るため走った。屋根いた静音もまた先頭車両の二両を死守するため引き返そうとした時、炭次郎のいた車両の中から何者かの叫び声が聞こえてきた。

 

「猪突猛進っ!伊之助様のお通りじゃぁぁ!!」

 

「伊之助君!」

 

車両の屋根を突き破って姿を現したのは炭次郎と同じく夢から覚醒した伊之助だった。

 

「待たせたな!子分共!話は聞かせてもらったぜ!」

 

「うん!待ってたよ!伊之助君も手を貸して!」

 

「おう!俺様の読み通りだったわけだな!親分に任せとけ!」

 

(親分…?伊之助君、ひょっとして寝ぼけてる?)

 

「アイツ、何言ってんの?寝ぼけてるのかなぁ」

 

すると伊之助は突き破った穴から再び車内に戻り、乗客を襲おうとしている触手に向かって自身の型を構える。

 

(獣の呼吸!伍ノ牙・狂い裂き!)

 

伍の牙・狂い裂きは二刀流で四方八方に斬撃を繰り出す技であり、次々と周りの触手を切り裂いていく。

 

「どいつもこいつも俺が助けてやるぜ!須らくひれ伏し!!崇め称えよこの俺を!!」

 

一方、炭次郎たちのいた車両では残っていた禰豆子が必死に乗客を守ろうと戦っていた。しかし触手の数が予想以上に多く、鬼である禰豆子であっても乗客を守りながらではさすがに分が悪く徐々に追い詰められていた。

 

「ムーー!!」

 

これまで何とか乗客を死守していた禰豆子だったが、一人の乗客を守ろうと出した腕を触手に掴まれ、その隙にもう片方の腕も拘束されてしまった。

 

「……!!?」

 

ついには両手両足も触手に捕まり、禰豆子は絶体絶命の窮地に陥ってしまった。そんな時、前方の車両から引き返して来た炭次郎がその光景を目にした。

 

「禰豆子っ!?待ってろ!今助け…」

 

炭次郎が禰豆子を助けようと動いた瞬間、それよりも速く動いた者がいた。禰豆子を掴んでいた触手を一瞬で斬り落とし、その者は二人の前に颯爽と現れた。

 

「……」

 

「……!!」

 

「善逸!」

 

(雷の呼吸…壱ノ型・霹靂一閃六連!!)

 

閃光の如き速さの居合斬りを六連続で放つ技で、放つと同時に落雷のような轟音が車内に響き渡る。禰豆子を拘束している触手はおろか車内に発生していた他の触手も一瞬にして斬り落としたのだ。

 

「禰豆子ちゃんは俺が守る…」

 

「……!」

 

「す、すごいじゃないか!善逸!」

 

「守る…!フガフガ…」

 

「善逸?寝てる…のか?」

 

ちなみに炭次郎は善逸が戦っている姿を初めて見たのか、彼が寝たままの状態でも戦えることを知らなかったのだ。気を取り直した三人は再び残りの車両を死守しようと戦闘を再開した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方、先頭の二車両を守っていた静音も何とか触手から乗客を死守していた。阿児の助言もあって的確に触手を斬り落としていくが狭い車内での戦闘に加え、防戦一方の状況に二人は焦りを感じていた。

 

「静音!次はそこだよ!」

 

「うん!はあぁぁ!!」

 

ザシュッ!!

 

「なんとか守れてるけど…これじゃ埒が明かないよ!」

 

「分かってるよ…!でも、今の私たちには守ることしかできないの!」

 

「時間が経つほどあたい達が不利になる…なんとかして鬼の本体を叩かないと!」

 

阿児の言うとおりではあるが乗客を残したまま鬼の本体を探すのは危険が高すぎる。せめてもう一人乗客を守れる戦力が居てくれれば…と静音が思った時だった。

突如、炭次郎たちのいた車両から凄まじい轟音と共に激しい振動が列車を襲った。

 

「わわっ!!?な、何なの?」

 

「まさか鬼の攻撃!?炭次郎君たちは…!」

 

すると背後の扉が開き、奥から猛スピードで何かが静音に向かって接近して来た。鬼かと思って身構えるがそれは鬼ではなかった。

 

「伊角少女!無事か!」

 

「煉獄様!目を覚まされたんですね!」

 

「まったく…来るのが遅いのよ!すっごく大変だったんだから!」

 

「すまん!柱として不甲斐ない!」

 

現れたのはようやく夢から覚醒した杏寿郎だった。聞けばここに来るまで列車内の触手にかなりの斬撃を与えたようで、先ほどの激しい振動はこれが理由だった。

 

「余裕は無い!手短に話す。この列車は八両編成だ、俺は後方の五両を守る!」

 

「五両!?あんた一人で大丈夫なの?」

 

「ああ!そして残りの三両は黄色い少年と竈門妹が守る!君と竈門少年、猪頭少年は三両の状態に注意しつつ鬼の頚を探せ!」

 

「頚?でも鬼の本体は…」

 

「どんな形になろうとも鬼である限り急所はある!俺も急所を探りながら戦う!君も気合いを入れろ!」

 

「はい!」

 

「伊角少女、鬼の血鬼術に耐性がある君が戦いの鍵になる!二人を援護するんだ!」

 

「分かりました!お任せを!」

 

そう言うと杏寿郎は再び猛スピードで引き返して行った。覚醒したばかりにも関わらず瞬時に状況を把握し的確な指示を与える彼の実力と指揮能力の高さに静音は驚いていた。杏寿郎が背後を死守してくれるおかげで鬼の頚を探す余裕ができたのだ。今いる車両を禰豆子と善逸に任せて、静音は再び車両の屋根の上に出る。すると後ろから静音に追い付いて来た伊之助の姿もあった。

 

「伊之助君!」

 

「おう!子分その四!その五!」

 

「誰が子分よ!いつまで寝ぼけてんの!」

 

「あはは…伊之助君、練獄様の指示は聞いた?」

 

「ギョロギョロ目ん玉に指図された!でも、なんか…なんか凄かった!腹立つぅぅ!!」

 

どうやら伊之助も杏寿郎から指示を受けたようでブツブツと文句を言いながらも杏寿郎の的確で分かりやすい説明に納得せざるを得なかったようだ。

 

「伊之助ー!静音ー!どこだ!」

 

「うるせぇ!ぶち殺すぞ!」

 

ちょうど真下の車両から炭次郎の声が聞こえてくる。どうやら炭次郎も同じく先頭車両へ向かっているようだ。

 

「炭次郎君!下にいるんだね」

 

「二人とも上か!前方の三両に注意しながら…」

 

「分かってる!私たちで鬼の頚を探そう!」

 

「ふふ、それならもう見当は付いてるよ!」

 

「えっ!?」

 

「俺も見つけてるぜ!全力の漆ノ形でな!」

 

伊之助と阿児はすでに鬼の急所の位置を大方把握しているようで、二人が言うには鬼の頚は先頭車両にあるそうだ。三人は速度を速めながら先頭車両へ向かって疾走する。

 

そして先に先頭車両に到達したのは伊之助と静音だった。二人は運転席に侵入し鬼の急所らしき場所を探す。

 

「オッシャァァ!!」

 

「静音!この辺りだよ!」

 

「うん!分かった!」

 

「怪しいぜ怪しいぜ!この辺りが特に!」

 

「な、何だお前らは…!出ていけ!」

 

運転席にいた運転手が険しい表情で二人を追い出そうとするが、その直後に運転席の周りに肉の壁が発生しその中から数えきれないほどの肉の腕が生えてきた。肉の腕は一斉に二人に襲いかかる。

 

「キモッ!手、多っ!!?」

 

「くっ!数が多すぎる!」

 

「いやーっ!!?気持ち悪いっー!!」

 

二人はなんとか腕を斬り続けて凌いでいたが絶えず出現する無数の腕に伊之助と静音は瞬く間に捕らえられてしまった。

 

「しまっ…!」

 

「う…は、離せ…!このっ!」

 

「わわっ…ど、どうしよう…!!」

 

阿児は無事だったが戦う術を持たない彼女に二人を助ける手段はない。二人は必死にもがいて脱出しようとしているが全身を掴まれまったく動けない状態になっていた。もはや万事休すか、と思ったその時。三人の背後から運転席に向かって何者かが飛び込んできた。

 

(水の呼吸!陸ノ形・ねじれ渦!)

 

ドシュッ!!!ザシュッ!!

 

飛び込んできたのは背後から追い付いて来た炭次郎だった。陸ノ形を肉の腕に繰り出し、捕らえられていた伊之助と静音を救出する。

 

「炭次郎君、ありがとう!」

 

「平気か?静音。伊之助も大丈夫か?」

 

「やるな!子分その一!」

 

三人は改めて運転席の中を探索する。すると炭次郎が何かに気づいたのか運転席の床をじっと見つめている。

 

(真下だ…!この下、鬼の匂いが強い!)

 

「伊之助、静音!この真下が鬼の頚だ!」

 

「命令すんじゃねぇ!親分は俺だ!」

 

「すまない!」

 

「早く斬らなきゃ!善逸君たちが危ないよ!」

 

もはや一刻の猶予もない。もたもたしていれば乗客を守っている善逸や禰豆子が危険だ。すると伊之助が構え運転席の床に向かって技を繰り出した。

 

(獣の呼吸!弐ノ牙!切り裂き!!)

 

伊之助の弐ノ牙によって床は十文字に切り裂かれた。すると床の底から巨大な骨のような物が姿を現した。

 

(骨だ…!頚の骨だ!)

 

それは魘夢の頚の骨だった。これを断ち切れば魘夢を倒すことができる。炭次郎は頚を斬ろうと水の呼吸の構えを取る。

 

(水の呼吸!捌ノ形・滝壺!)

 

大きく振りかぶり捌ノ形を頚を狙って繰り出すがその一撃はすぐさま再生した肉の塊によって防がれてしまった。

 

「まだまだ!水の呼吸!弐ノ形・水車!」

 

今度はすかさず静音が頚を狙って再び技を繰り出す。今度は肉の塊も炭次郎に斬られているため防ぐことができず静音の一撃は魘夢の頚に命中した。しかし……

 

ガキィィン!!

 

(くっ……!?硬い!私の一撃じゃ斬れないよ…!)

 

むなしく静音の一撃は頚を両断できず弾かれてしまった。そして斬られた肉は瞬く間に再生し、果てには切り開いた床も塞がってしまったのだ。

 

(再生が速い…!裂け目も塞がった!)

 

「伊之助、静音!呼吸を合わせて連撃だ!どちらかが肉を斬り、すかさず骨を断とう!」

 

「なるほどな!いい考えだ!誉めてやる!!」

 

「ありがとう!」

 

「肉は私に任せて!私の一撃じゃ頚は斬れないから!」

 

「三人とも頑張って!!」

 

三人は一斉に駆け出した。すると三人の両側面に幾つもの不気味な目玉の付いた肉塊が三人を襲った。それと同時にどこからともなく、魘夢の声が聞こえてきた。

 

『……強制昏倒睡眠・眼』

 

(血鬼術…!!)

 

とっさに視線を外そうとするが、すでに体が言うこと聞かない。薄れゆく意識の中、必死に二人に叫んだ。

 

「伊之助!静音!夢の中で自分の頚を斬れ!覚醒する!」

 

「……く……!」

 

炭次郎は意識を失ったが静音はなんとか睡魔に抗っていた。正気に戻るために静音は力強く自分の頭を殴りつける。

 

(くっ…!忌々しい…!!こんな目玉なんてっ!)

 

静音は目を半開きにしたまま水の呼吸の構えを取ると無数にある目玉を狙って技を繰り出した。

 

(水の呼吸!参ノ形・流流舞!!)

 

蝶屋敷で左馬介との修練で新たに習得した参ノ形だ。炭次郎と伊之助の周りにある目玉に細かく斬撃を加えていく。足運びもまるで流れる水のように素早く滑らかだった。

 

(眠らない…?静音には血鬼術が効かないのか?)

 

「炭次郎君!伊之助君!目玉は私に任せて二人は鬼の頚を斬って!」

 

「やるじゃねぇか!任せたぜ!子分その四!」

 

「静音!ありがとう!後は任せてくれ!」

 

二人の進む先の目玉を静音が斬り捨て道を切り開いて行く。そして再び鬼の頚を斬ろうと構えるが、その時伊之助の背後にいた運転手が手に何かを持って伊之助に向かって来る。

 

「夢の邪魔をするな!」

 

持っていたのは炭次郎たちを刺そうとしていた少年少女たちが持っていた錐のような武器だった。運転手が伊之助に錐を突き立てようとするが、それに気づいた炭次郎が体を滑り込ませて庇ったのだ。

 

「……ぐっ!!?」

 

「……!!」

 

「た、炭次郎君っ!」

 

刺される瞬間、手首を掴んだおかげで貫通はしていないが錐は炭次郎の脇腹を深く貫いていた。炭次郎はすかさず手首を引っ張って錐を抜くとその首筋を柄頭で打ち、運転手を気絶させた。

 

「刺されたのかっ!?」

 

「大丈夫っ!?炭次郎君!」

 

「大丈夫だ!早く頚を斬ろう!善逸たちがもたない!」

 

今度こそ!と伊之助は再び床を狙って技を繰り出した。

 

(獣の呼吸!肆ノ牙・切細裂き!!)

 

激しい斬撃の嵐に床の肉はすべて切り開かれ頚が露出した。この好機を逃さんとばかりに炭次郎が日輪刀を強く握りしめ構える。

 

(父さん…守ってくれ!この一撃で頚を断つ!)

 

「ヒノカミ神楽・碧羅の天!!」

 

幼き日に父が見せた神楽を舞いながら変化した黒い刃が魘夢の頚に命中し、その一撃は見事、骨を断ち切った。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアア!!?』

 

凄まじい断末魔と同時に列車が激しく振動する。列車を覆っていた肉塊もぼろぼろと崩れ落ち、大きな轟音と共に車体が傾き始めた。

 

「頚を斬られてのたうち回ってやがる!やべぇぞ!」

 

「このままじゃ断線しちゃうよ!」

 

「大変…!みんな!どこでもいいから捕まって!」

 

「横転する!伊之助は……ぐっ…!」

 

ヒノカミ神楽を放ったことで傷口が開き、出血が激しくなる。あまりの痛みに炭次郎は脇腹を押さえる。

 

「お、お前!腹大丈夫かっ!!?」

 

「炭次郎君っ!待ってて!今……」

 

「伊之助!静音!乗客を守…」

 

その時、激しい揺れと共に四人は車外に放り出されてしまった。投げ出される最中、炭次郎の視線には自身を刺した運転手が宙に浮いているのが見えた。

 

(死ねない…俺が死んだらあの人が人殺しになってしまう…死ねない…誰も死なせたくない…!)

 

投げ出された炭次郎の体が地面へと叩きつけられる。とっさに受け身をとったがすぐに起き上がるのは困難だった。そんな炭次郎に同じく投げ出された伊之助が慌てて駆け寄った。

 

「大丈夫かっ!三太郎!しっかりしろ!鬼の肉でばいんばいんして助かったぜ!逆にな!」

 

伊之助は炭次郎の上半身を抱き起こすと強く揺さぶった。

 

「しっかりしろ!腹は大丈夫かっ!刺された腹は!」

 

「大…丈夫だ…伊之助は?」

 

「元気いっぱいだ!風邪もひいてねぇ!」

 

「すぐには動けそうにない…他の人を助けてくれ、怪我人はいないか…近くにいた運転手は…」

 

「……アイツ死んでいいと思う!!」

 

「よくないよ…」

 

「お前の腹刺した奴だぞ!」

 

こんな時でも自分より他人を心配する炭次郎に伊之助は憤慨していた。

 

「アイツ足が挟まって動けなくなってるぜ、足が潰れてもう歩けねぇ!放っとけば死ぬ!」

 

「だったらもう十分罰は受けてる…助けてやってくれ」

 

「……」

 

弱々しく頭を下げて頼む炭次郎を優しく寝かせると伊之助は不機嫌そうに横転した車体に向かって歩き出した。

 

「……ふん、行ってやるよ。親分だからな。子分の頼みだからな!!」

 

「…ありがとう」

 

「助けた後、アイツの髪の毛全部毟っといてやる!!」

 

「…そんなことしなくていいよ」

 

その後、一人残された炭次郎は呼吸を整えながらうっすらと目を開けた。

 

「フゥー…」

 

(夜明けが近い…呼吸を整えろ、早く怪我人を助けないと……!)

 

真っ暗だった周囲はいつの間にか少し明るくなり始めていた。そんな呼吸を整えている炭次郎を倒れた車体の影から見ている何かがいた。

 

(体が崩壊する…再生できない…!負けたのか?死ぬのか?俺が?)

 

そこにいたのは頚を斬られて小さな肉塊になった魘夢だった。少しずつ体が崩れ始めており、消滅が近づいているのが自分にも分かっていた。

 

(馬鹿な!!俺は全力を出せていない!!こんな姿になってまで……!!これだけ手間と時間をかけたのに……!アイツだ…!アイツのせいだ!)

 

魘夢の脳裏に炎のような髪色をした男の姿がよぎっていた。そして黄色い髪の少年や鬼の少女の姿も浮かぶ。

 

(……そもそも、あの女がすぐに術を解いて攻撃してきた時からが不幸の始まりだ……!何故だ…!なんでアイツには俺の術が効かなかったんだ…!)

 

目の前にいる耳飾りの少年も憎いが、何より憎いのは自身の血鬼術を容易く破り、いち早く自分に攻撃してきた鉢金を付けた女剣士だった。その女剣士は耳飾りの少年のいる場所から離れた先に倒れている。

 

(くそっ…!せめて…せめてあのガキだけでも…!)

 

魘夢は倒れている炭次郎に手を伸ばそうとするがそれと同時に体が崩壊し始めた。

 

(負けるのかぁ…!死ぬのかぁ……!!)

 

悔しさと憎しみで気が狂いそうだった。こんなつもりではなかったのに…魘夢の脳内は後悔と憎悪で満ちて溢れていた。

 

(あれだけ血を与えられても上弦には及ばなかった……あああ…やり直したい…なんという惨めな…悪夢…だ…)

 

その言葉を最後に魘夢の意識はそこで途切れた。残った肉片もやがて塵となって消え去った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(禰豆子は大丈夫だろうか…?静音は無事なのか?善逸は?煉獄さんは……?)

 

「フゥー…フゥー…」

 

懸命に呼吸を整えている炭次郎の顔をぬっと人影が覗き込んできた。その人影の人物は杏寿郎だった。

 

「全集中の常中ができるようだな!感心感心!」

 

「煉獄さん……」

 

「常中は柱への第一歩だからな!」

 

背後で五両もの客車を一人で守っていたにも関わらず杏寿郎は汗一つかいておらず目立った傷もない。

 

「柱までは一万歩あるかもしれないがな!」

 

「頑張ります……」

 

「腹部から出血しているな、もっと呼吸を集中して精度を上げるんだ」

 

杏寿郎は出血している炭次郎の腹部を見る。

 

「体の隅々まで神経を行き渡らせろ」

 

「はぁ…はぁ…」

 

「もっと集中しろ、破れた血管だ」

 

杏寿郎の言葉に従い、体中のすべてに神経を巡らせ出血箇所を探す。すると破れた血管の位置を正確に発見することができた。

 

「そこだ、止血。血を止めろ」

 

「……ぐっ!」

 

集中し破れた血管を塞ごうとするがなかなか上手くいかない。すると杏寿郎が人差し指で炭次郎の頭に触れる。

 

「……!」

 

「集中」

 

「く……」

 

改めて集中し少しずつ呼吸で破れた血管を塞いでいく。今度は上手くいったのか、腹部の出血はいつの間にか止まっていた。炭次郎は思わず息を大きく吐き出した。

 

「ぶはっ!はぁ、はぁ…」

 

「うむ!止血できたな」

 

「……」

 

「呼吸を極めればさまざまなことができるようになる。何でもできるわけではないが、昨日の自分より確実に強い自分になれる!」

 

「……はい」

 

一方、炭次郎たちより離れた場所に倒れていた静音は投げ出された瞬間に強く頭を打ったのか、額から血を流して気を失っていた。そんな彼女を阿児が必死に起こそうとしていた。

 

「……」

 

「静音!しっかりして!」

 

「…………う」

 

「よかった…!大丈夫?」

 

「…うん、大丈夫…痛たた…」

 

「わわっ!!額から血が出てるよ!」

 

「あはは…鉢金が無かったら危うく大怪我だったよ」

 

どうやら鉢金を巻いていたおかげでこの程度の怪我で済んだようだった。振り替えると杏寿郎と炭次郎が何か話している。

 

「炭次郎君、大丈夫かな?」

 

「んー…どうやら大丈夫みたいだよ?止血したみたい」

 

「そっか、よかった。ふぅ、一時はどうなるかと思ったよ」

 

「でも、みんな無事みたいだしよか…」

 

 

ドゴォォン!!

 

 

その時、凄まじい衝突音と共に静音の近くに大きな土煙が巻き起こる。何かが降ってきたような音だ。

 

「な、何っ!?」

 

「…え?う、嘘でしょ…この気配って…」

 

「阿児?どうしたの?」

 

気配でその存在の正体を悟った阿児は言葉を失っていた。徐々に土煙が晴れ、奥から人影が見えてくる。そこには若い男が一人立っていた。男はゆっくりと顔を上げて微笑んだ。

 

「……!!?」

 

体には鬼特有の紋様が浮かび、何より驚いたのが男の両目に刻まれた文字だ。それを見た瞬間、背筋が凍りつくほどの衝撃を感じた。

 

(上弦の…参…!!)

 

静音たちの前に突如現れたのは十二鬼月の一人、上弦の参の鬼だった。




猗窩座戦まで続けてもよかったですが、もう少しかかりそうなので一区切りしました!
次回も気長にお待ちください!
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