転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~ 作:あかい@ハーメルン
私は飲み屋の中に入り、大学生たちとテーブル席についた。
にぎやかな学生たちの飲み会は、どこか懐かしいものがある。
「リナちゃん、ピンクの地毛すごーい。サラサラやん」
「目とか宝石みたいやし、可愛い~」
周囲の女子学生たちは、私の見た目に興味津々らしい。
「リナちゃん、何でも頼みや。宇宙人さんからお代は取らへんから」
店長さんは嬉しそうに、店の壁に書かれたメニューを指した。
「あはは、ありがとうございます」
とても優しい人らしい。
メニューを見ると、串焼きの種類が色々と書かれていた。
どれにしようか眺めていると、ある違和感に気づいた。
壁の柱に、大きなヒビ割れが入っているのだ。
「そのヒビ、どうしたんですか」
「ああ、震災でちょっと傷ついてな。だいぶ前の事やから、倒れたりする心配はないで」
私の問いかけに、店長さんは安心させるように笑っていた。
でも、これから老朽化していくと危ない気がする。
朝まで置いてもらう上に、食事もサービスしてくれるのだ。
少しばかり恩を返さないといけない。
「すみません、ちょっと失礼します」
私は立ち上がり、バッグに残っていた魔石を三つほど取り出した。
そして、ヒビの入った柱に手をかざす。
「願いの力よ、災厄の傷を癒せ」
呪文の言葉と共に魔石が輝き出し、柱を包んでいく。
「おお、なんやこれ!」
「すごい、魔法だ……」
驚く周囲が見守る中、光が消えていく。
すると柱の傷は消え去り、たくましい元の姿を取り戻していた。
「き、キズがない! 直ってる!」
「ホンモノの魔法や!」
湧き上がる客たちの傍で、店長は体を震えさせていた。
「店の柱が……。り、リナちゃん。おおきに……。ありがとう……」
気丈に振舞っていた店長が、深く頭を下げる。
やはり不安な部分があったのだろうか。
心の内はわからないけど、喜んでくれるならそれでいいや。
「いえいえ、せっかく一晩置いてもらう縁なので」
私が軽く言って席に戻ると、店長はバンとカウンターを叩いて声を張り上げる。
「よっしゃ、柱の復活祝いや! 今日はみんな、ビール飲み放題やで!」
その宣言に、客たちが沸き上がる。
そんなこんなで、私は楽しく賑やかな夜を過ごした。
そして、朝。
「リナちゃん。せっかくやし、京都まで送っていったろか?」
少し仲良くなった女学生のあかりさんがそう言ってくれた。
でも、私は首を横に振った。
「いえ、警察に行った方が安全だと思うので」
「そっか、じゃあ、またね!」
朝日を浴びながら、大学生たちは去って行った。
はあ。これが彼らの青春か。だいぶ疲れるね。
私は輸送車を引いて、教えてもらった交番へと向かった。
「あの、すみません」
朝早くから立っている警官に声をかけると、彼はこちらを振り返る。
「はい、どうしたの?」
「私こういう者で、京都までサポートをお願いしたいのですが……」
私が何とかパスポートを手渡すと、警官は目の色を変えた。
「り、リナ・マルデリタ! 本物じゃないか……」
「あの、政府から何か指示は出てますか?」
「え、ええ。近畿一円で今朝から捜索の手配が出ています。
上に報告して、京都までお送りすることになると思います。中でお待ちください」
彼は手際よく私を案内し、連絡を入れていた。
そして、ようやく私は京都に向かう事になったのである。
のちに分かったことだけど、交番は二十四時間営業してたから、夜中でもすぐ行けばよかったらしい。
まあ、これもまた経験だ。
私は車の中でグウグウと眠りながら、京都へ向かったのだった。
夜通し飲み屋にいたのが悪かったのだろうか。
体調を崩した私は、午前中は休憩をもらう事にした。
午後からはゲーム会社へと向かい、仕事を再開だ。
久しぶりに開発者さんたちと顔を合わせ、握手をした。
「リナさん、お久しぶり。体調を悪くされたそうだけど、大丈夫だったの?」
女性設計者は心配そうに私の顔色を伺う。優しい人たちだ。
「はい、面目ないです。魔術部品を一万個生産しましたので、持ってきています」
「本当に作って来れたんですか……」
「半信半疑だったけど、やっぱりマルデアの技術はすごいのねえ」
やはり口だけでは信じられなかったのか、驚く開発者たち。
その傍には、デザイナーの人たちの姿もあった。
「それで、ローカライズの方はいかがですか?」
彼らに問いかけると、すぐに頷いて完成品のサンプルを出してくれた。
「準備できています。マルデア語の部分についてはチェックをお願いします」
私はまず出来上がったマルデア語版のソフトをプレイして、言葉を一つ一つ確認していく。
といってもハイパーマルオのシンプルな文章なので、特に直す所はなかった。
中身の確認を終えたら、今度はパッケージのチェックだ。
ゲーム機の箱のデザインや、そこに描かれたマルデア文字をしっかりと確認して、修正を要求する。
「本体は問題ないです。外箱だけ少し手直しをお願いします。この字体はかっこいいですが、マルデア人が見ると別の文字に見えてしまうので」
「わかりました。すぐに修正しましょう」
ローカライズについての話が終わった後で、私たちはマルデア版スウィッツの生産について話をつめていった。
「製品が用意できるのはいつごろになりそうですか?」
私が問いかけると、スーツを着た営業の男性が自信ありげに頷く。
「各所にご協力いただいているので、来月までには五千台。
マルデア向けのスウィッツを生産できる手筈です。輸送についてはどうしましょう?」
「現状は私がやる以外ないですから、本社まで持ってきてください。
私が輸送機で縮小して、マルデアまで運びます」
そうしてすぐに話は決まり、生産の予定が決まった。
さて、生産の問題が片付いたら、今度は販売の準備だ。
製品を作っても、あっちの星で売る場所がなきゃ話にならない。
地球の用事は一旦終わったので、私はマルデアに戻る事にした。
研究所のワープルームに戻ると、私はすぐにガレナさんと相談を始めた。
私たちは別に、自分たちの個人商店を開いてスウィッツを売るわけではない。
そんな小さい規模では、一万台なんていつまで経っても売れやしない。
マルデアの色んな小売店に置いてもらって、お客さんに届けるのだ。
「まずは、販売のための会社を作る必要がありますね」
「うむ。ただの個人では、販売店が相手にしてくれないだろうからな。
研究所名義で売ってもいいが、それだと利益を上に持って行かれる。起業した方がいいだろう」
やはり、まずは自分たちで商社を作った方がいいという話になった。
私はすぐに手続きをして、会社を設立する事にした。
地球から仕入れたゲームを異世界で販売するための、輸入販売会社だ。
社名は二人の名前を取って、『ガレリーナ販売社』とした。
私はまだ十六歳なので、ガレナさんが社長に。私は副社長という立場に就く事になった。
まあ、零細起業に副社長なんて肩書、意味ないけどね。
小さな会社を作った私たちは、小さなビルの二階を借りてオフィスを用意した。
そして、早速仕事を始める事にした。
まずはゲーム機をお店に置いてもらう所からだ。
そのために、実際に小売店に足を運んで、店長さんにお願いしていく必要がある。
「ビデオゲームという商品があります。魅力的です。絶対売れますから、是非お店に置いてください」
こんな風に、私たちでプレゼンしていくのだ。
店に発注してもらえるかどうかは、商品の魅力はもちろん、営業の腕も試される。
一番スウィッツと相性がよさそうな店は、親子連れの客が集まる玩具屋だろう。
私は首都圏内の玩具店を検索し、リストアップした。
そして、店舗に売り込みに向かう事にしたのだった。