転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~ 作:あかい@ハーメルン
車を出た私は、警部たちに護衛されたまま議会の中に入っていく。
ほんとに城だよここは。
荘厳すぎる内装に気後れしながら、私は通路を進む。
周囲を見渡しながら案内された先で、若い首相が私に握手を求めてきた。
「ようこそカナダへ。リナ・マルデリタさん」
「突然の訪問を受け入れて頂いて、ありがとうございます。オタワは豊かで美しい町ですね」
私が挨拶の言葉を述べると、甘いマスクの首相がニコリと微笑む。
「お気に召したようで何よりです。あなたの来訪に、国民たちも大いに喜ぶ事でしょう。
カナダの特産品や、観光地をぜひご覧になって行ってください」
「ご厚意に感謝します。こちらも収縮ボックスをお持ちしましたので、受け取っていただけると幸いです」
私の言葉に、周囲の議員たちが湧き上がる。
「本当ですか! 貴重なものをわざわざ持ってきていただけるとは。
これは、カナダに幸運の女神が微笑んでいるに違いない」
「あははは、喜んで頂けて良かったです」
まあ交流として考えると、色んな国に訪問する方がいいとは思う。
どうしてもゲーム中心になっちゃうだろうけどね。
私は三十個の収縮ボックスをカナダに贈り、何とか急遽の首相訪問を乗り切ったのだった。
案の定ホテルの最上階に案内された私は、カナダの夜景を見下ろしながらデバイスを操作する。
今日の世界のトップニュースは、やはり私についてだった。
カナダ政府は、マルデア大使の来訪とボックスの譲渡を大々的に発表したらしい。
『リナ・マルデリタが突如オタワに現れ、カナダ首相と挨拶』
ぎこちない笑顔で首相と握手する私の写真が、SNSのトップに表示されていた。
ネット上では、このニュースについて様々なコメントが書かれていた。
xxxxx@xxxxx
「カナダにようこそ! 僕の国に来てくれてうれしいよ」
xxxxx@xxxxx
「首相と挨拶する時のリナは緊張してて可愛いね」
xxxxx@xxxxx
「嫌なニュースが多いけど、リナの訪問写真を見ると心が温まるわ」
xxxxx@xxxxx
「カナダを来訪したマルデアの意図はなんだい?」
xxxxx@xxxxx
「さあね。アメリカや日本以外とも交流したいんだろうさ」
xxxxx@xxxxx
「カナダでもゲーム会社に会いに来たんじゃないか?
マス・エフェクタを開発したバイオウェル社が有名だろ」
xxxxx@xxxxx
「マス・エフェクタの版権はアメリカ企業が持ってるよ。
それに、マルオの次にいきなりその辺のタイトルに手を出すのも考えづらい」
xxxxx@xxxxx
「ゲームのためにカナダに来たってのはなさそうだな」
xxxxx@xxxxx
「リナは割とドジっ子だったりして。アメリカと間違って落ちたんじゃない?」
xxxxx@xxxxx
「さすがに国は間違えないだろ」
xxxxx@xxxxx
「京都と間違えて東京に落ちたのはガチだろ。秋葉原の映像や写真がいっぱい出てるし」
xxxxx@xxxxx
「いや、目標地点を百キロ以上間違えるとか無い無い。東京に用があったんだろ」
あるんだよね。うん。
でも、公に間違えましたと言うわけにもいかない。
今回はマルデア大使として日米以外の国にも挨拶をしてみた、という名目で良いんじゃないかなとは思う。
そのうち、他の国にも行く事になるだろうしね。
と、入り口のドアがノックされた。
「はい」
扉を開けると、スーツの女性が立っている。
「お休みのところ失礼します。ミス・マルデリタ。明日のご予定をお聞きしておこうかと」
「ご予定?」
「はい。カナダにはどのくらい滞在される予定でしょうか。こちらとしてはオタワを案内させて頂く用意がございます。明日は女王との会談も準備しております」
「そ、それはどうも。えっと、ちょっと伺いたいんですけど。アメリカや国連の方は何か言ってますか?」
「ええ。あちらはすぐにでも迎えを寄越したいと。ですが気にする必要はありません。
地球訪問の日程を決めるのはアメリカではなく、ミス・マルデリタなのですから。あなたが望むようにお申しつけ下さい」
「は、はあ」
ニッコリと笑う女性に、私は引き笑いをするしかなかった。
なんか水面下でバチバチやってそうな予感はするけど、触れないでおこう。
うん、平和に生きるのが一番だよ。
翌日の午前中は、オタワの観光地を案内してもらう事になった。
ガラス張りの大きな建物が特徴的な国立美術館。
由緒あるノートルダム聖堂。
そして国会議事堂が、また美しい。
豊かな文化と、カナダの雄大さを味わう事ができた。
「こちらがメープルクッキーになります」
お昼には、紅茶と共にお菓子が出された。
カナダの国旗にも採用されている、サトウカエデの葉を表した三つ葉のクッキーだ。
おしゃれでとても可愛い。
「こちらのクッキーは、我が国の特産であるメープルシロップを使って作られたものです」
カナダと言えばメープルシロップだ。
世界で消費されるメープルシロップの八割がカナダ産だと、案内の人が説明してくれた。
そういえばマルデアでは、シロップのような商品は見た事がない。
クッキーを一つかじると、濃厚な甘みが口の中で溢れる。
うん、懐かしい味わいだ。
「これは、とても美味しいですね。マルデアにはない味です」
「それはよかったです。メープルシロップは食品ですが、保存も効きます。
そちらの星にお持ちいただいても、密閉さえ保てば二年は持つでしょう」
「二年ですか、それは凄いです」
私のリアクションがよかったからか、周囲が騒がしくなる。
「おい、すぐにお土産を手配しろ」
「はっ」
そうして、彼らはメープルシロップの瓶詰めを千本ほどプレゼントしてくれた。
輸送機がなかったらどうやって持って帰るんだという話だが、まあ入ったからいいや。
「わざわざこんなに、ありがとうございます。マルデアに持ち帰って、みんなで頂きます」
私の言葉に、カナダの人たちは喜んでいた。
そうして、私のカナダ旅行は終わりを告げたのだった。
夜にはチャーター機に乗り、私はすぐにニューヨークを目指す。
オタワからのフライトは、一時間半ほどだった。
やはり、そこまで遠くはなかったらしい。
国連本部に着くと、すぐに外交官のランデル・スカール氏を中心とした国連の高官たちと共に話し合う事になった。
会議場はなんかちょっと、重苦しい雰囲気だった。
なにしろニューヨークでは国連を運営する人達が、私の来訪予定に合わせて段取りをしていたわけだ。
そしたら、リナ・マルデリタがオタワでカナダ首相とニッコリ握手してるニュースが流れてくる。
とんでもない話だ。
国連のスケジュールを狂わせてるんだからね……。
この場では、誤魔化すべきではない気がした。
「すみません。ちょっと落ちる場所を間違えまして」
正直に自白して頭を下げると、スカール氏は納得したように息をついた。
「やはりか。しかしワープ技術というのは、少しの誤差で国境を越えてしまうものなのかね?」
「いえ、その、どうも私に割り当てられている星間ワープに問題があるみたいでして……。
今後はなるべくこういうトラブルがないように善処します」
「そ、そうか……。まあ、そちらも不測のトラブルのようだ。
今後は我々も、なるべくどこに落ちても対応できるようにしよう」
「すみません、色々とありがとうございます」
「いや、君を守るために当然の事だ。それで、マルデアにおけるゲーム販売の調子はいかがかな」
「ええ、とてもいいです。今後もスウィッツの生産を増やしていく予定です」
「それはよかった。何か問題があれば言ってもらいたい。できる事なら何でもサポートはしよう」
「ありがとうございます。実は……」
私は、現状マルデアで抱えている問題について話しておく事にした。
大きな点としては、やはりオンラインゲームが実現できないことだろう。
「ふむ。確かに難題だな。それについては、こちらでも話し合っておこう」
スカール氏はそう言ってくれたが、これは一朝一夕で解決できるような事ではない。
ひとまずその問題は先送りにし、アメリカでの話し合いは終わった。
さて、次は日本だ。