転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第59話

 ガレリーナ社。

 アーケードの営業回りを終えた私たちは、一旦オフィスに集合して結果を報告し合っていた。

 

「で、サニアさんが61台と……。合計、300台近くは設置してもらった事になるっスね」

 

 メソラさんがデータを打ち込み、集計してくれた。

 ひとまず、ある程度の数をマルデアの各施設に設置する事に成功したようだ。

 

「やれる事はやったわ。後はプレイヤーたちの反響に期待するしかないわね」

 

 サニアさんは、結果を気にかけながらも自分の仕事に戻っていく。

 でも、まだ何かが足りない。

 メソラさんも、私と同じモヤモヤを感じているようだった。

 

「やっぱ、ゲーム専用の店が欲しい所っスね」

「そうですね。業務用ですし、どこかの企業が面白がってくれると広がりそうですけど……」

 

 フィオさんも、無いものねだりな話を始めていた。

 すると、ガレナさんが何か思い出したように机から書類を取り出した。

 

「なら、このパーティにアーケードを持って行ってみてはどうだ」

 

 机に置かれた紙には、『新興企業パーティのお知らせ』と書かれている。

 

「若手企業の集まりですか……」

 

 私が招待状を手に取ると、ガレナさんが頷く。

 

「うむ。若い社長たちが語り合い、自慢の商品を見せ合う場らしい。

そこにアーケードを持っていけば、面白がってくれる者もいるんじゃないか」

 

 確かに、チャンスがあるならやってみるべきだろう。

 

「そうですね。パーティの開催は、来週ですか……」

 

 稼働したアーケードの反響も含め、しばらく待たなきゃいけないようだ。

 今、何か出来る事はないのか。

 私が腕組みして悩んでいると、サニアさんが思いついたように指を立てる。

 

「ねえ。リナのお母さんのお店にはスタ2置いてみた?」

「いえ、まだです」

 

 何しろ初期費用が高い。

 母さんに『払ってよ』とは言いづらくて、まだ説明もしていなかった。

 でも、こうなったら私が費用を出してでも設置した方がいいんじゃないだろうか。

 

 家の裏手に置いておけば、ユーザーの反響もリサーチしやすいだろう。

 よし、明日は会社も休みだ。

 お母さんの店にスタ2を設置して、お客さんがどう反応するか様子を見てみよう。

 

 そう決めた私は、自宅に戻って我が家の店長に相談してみる事にした。

 

「その場で遊んでもらう業務用のゲーム機なんだ。

試しにスタ2を裏の店に置いてみようと思うんだけど、いいかな」

「もちろんよ。ワンコインで遊べるなんて気軽で良いと思うわ」

 

 お母さんも設置に賛成のようで、購入費も出してくれるらしい。

 

「ほんとにいいの?」

「当たり前でしょ。リナを助けるために始めたお店なんだから。

一人で抱え込まずに、何でも頼っていいのよ」

 

 そう言って、母さんは微笑んでくれた。

 やっぱり私は、家族や仲間に恵まれているようだ。

 

 夕食の後、私は夜のうちに家の裏手にスタ2を一台設置しておいた。

 私は格闘ゲームにマルデアのみんなが群がる姿を想像しながら、その日は眠りについた。

 

 

 翌日は休日だった。

 私は調査も兼ねて、家の中から店の様子を眺める事にした。

 

 朝の十時ごろ。

 いつものように近所の子どもがやってくると、未知の機体に興味を示したようだ。

 

「おばちゃん、このでっかいヤツなーに?」

「一ベルで遊べる格闘のゲームよ。一人で挑戦したり、二人で対戦もできるわよ」

 

 母さんがみんなに遊びの説明をすると、少年たちは画面の映像に群がり始める。

 

「ごっつい裸のオッサンがいるぜ」

「『どすこぉい!』だって、あははは!」

 

 お相撲さんを初めて見た子どもたちは、面白がってポーズをマネしていた。

 だが、一回一ベルという値段は子どもにとって勇気のいる値段なのだろう。

 

 『百円出しな』と言われてポンと出せる子は、この辺にはあんまりいない。

 子どもたちは誰かが最初にプレイするのを、そわそわしながら待っていた。

 

 最初の口火を切るのは、やはり財力のある大人だ。

 常連らしい青年が店にやってくると、傍に置かれたスタ2に目をつける。

 

「なんだこれ、ゲーム機なのか? 随分とでかいな」

 

 彼が機体のボタンに触れると、傍にいた少年が声を上げる。

 

「一回一ベルで遊べるんだって。ねえ兄ちゃん、やってみてよ」

「一ベル? それは安いな。ちょっとやってみるか」

 

 青年は早速コインを入れて遊び始めた。

 選んだのは、金髪の格闘家ケインだ。

 

「ふむ、これがパンチで、これがキックか。敵を倒して行けばいいんだな」

 

 最初の敵は、大会で私が使ったインド僧侶だ。

 

「うぉっ、こいつ手が伸びるぞ!」

「ガードしなきゃ!」

 

 敵の動きに驚きながらも、青年は僧侶にダメージを与えていく。

 何とか一回戦は撃破に成功したようだ。

 

 だが次は、チャイナドレスのバトルガールだ。

 足技に長けた彼女を相手にすると、彼は苦戦し始めた。

 

「そこだ、パンチ、パンチ!」

「ジャンプして避けなきゃ!」

 

 子どもたちのアドバイスも空しく、青年のケインは力尽きてしまう。

 

「ああ、やられた……」

 

 と、子どもたちが機体に張り付けた説明書きに気づいたようだ。

 

「ねえ、ここに必殺技があるって書いてあるよ」

「ケインは"波功拳"と、"翔流拳"だって」

「必殺技か。このコマンドを入れればいいのか」

 

 青年はコインを入れて、挑戦をやり直す。

 試合が始まると、早速彼は技の入力を試みる。

 だが、やはり最初はうまくいかないようだ。

 

「あれ、何も出ないぞ」

「兄ちゃん、ちゃんと操作しなよ」

「へたくそー」

 

 子どもたちに煽られ、青年は顔を真っ赤にしながらボタンを叩く。

 すると。

 

「はこぅーけん!」

 

 青白いエネルギーの塊がケインの手から飛び出し、敵を吹っ飛ばした。

 

「おお、出たっ!」

「かっこいい!」

「ふふん、見たか!」

 

 盛り上がる子どもたちに、青年はドヤ顔で技を連発して勝利を決めた。

 

 それから彼は10ベルほど使い、四人目の敵まで進んだ。

 だが同じ技を使う格闘家リウに勝つことができず、そこで諦めたようだった。

 

「にーちゃん、やめるの?」

「きょ、今日はこの辺にしておいてやる……」

 

 青年はそう言って、哀愁のある背中を見せながら立ち去って行った。

 

「あーあ。行っちゃった」

「へたれー」

 

 子どもたちの評価は厳しい。

 と、そんな群れの中から勇者が現れる。

 

「ぼく、やる!」

 

 少年が鼻息を荒くしながらコインを持った手を上げた。

 どうやら、自腹でプレイする子が出てきたらしい。

 すると、周囲から歓声が上がる。

 

「カート君、がんばれ!」

「あの兄ちゃんより先に進むんだぞ!」

 

 カート君はコインを投入すると、相撲キャラを選択して戦闘に入った。

 だが、ケインとは違う操作感のファイターを選んでしまったせいか。

 戦い方もわからないままチョップを出すだけに終始し、一回戦で即死していた。

 

「ううう……。僕の1ベル……」

 

 カート君は泣きそうな顔で、失ったお金に想いを馳せていた。

 

 その後も、勇気ある子どもが挑んでは涙するという謎の光景が繰り広げられた。

 ただ一人だけ、必殺技を出して三回以上勝ち進んだ子がいた。

 

「トビーすげえなお前!」

「かっこいい!」

 

 少年は周囲から尊敬の眼差しを受け、どこか誇らしげだ。

 

 まだ対人戦をする人はいないけど、それでも盛り上がっている。

 これなら、来週の若手企業パーティでも期待が持てそうだ。

 

 


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