初級魔王しか使えない少年フィセル・ガルニチュール。
魔法学園の誰もがバカにしているへっぽこ魔導士は、周囲を見返すために使い魔の召喚を行う。
そして召喚されたのは――伝説に残る厄災の悪魔だった。

※ツイッターで言っていた5年前にボツにしたファンタジー学園モノです。
フォロワーの方で見てみたいと言っていた方がいたので載せときます。

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※ツイッターで言っていた5年前にボツにしたファンタジー学園モノです。
フォロワーの方で見てみたいと言っていた方がいたので載せときます。


へっぽこ魔導士と厄災の悪魔

 昼休みは戦争だ。

 授業が終わり、やってくる少し長めの休憩時間。

 生徒達はまるで檻から解き放たれた獣のように食堂に殺到する。

 彼らはレジの前に綺麗に並ぶことなどできやしない。いや、あまりにも人が多すぎて並べないのだ。

 人の波は常に左右に揺れ動き、生徒達は貨幣を握りしめ必死に手を伸ばす。

 

「クロワッサン、一つください!」

 

 人込みを掻い潜って手に入れた昼食。戦場のような食堂で各々の目的の物を手に入れた生徒達はようやく穏やかな昼休みを過ごすことができる。

 だが、その中には穏やかではない昼休みを過ごさなければならない生徒もいた。

 毎年、多くの生徒が優秀な魔導士として卒業していくドルチェ魔法学園。

 その中庭では複数人で一人の男子生徒を甚振っているという目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

 その中で直接手を出していないリーダー格である茶髪の男子生徒が甚振られている男子生徒へと近づいていく。

 

「おい、フィセル。俺はお前になんて言った?」

「クロワッサンを買ってこい、と……」

 

 フィセルと呼ばれた男子生徒は血を地面に吐きながら答える。

 

「そうだな。確かにそう言った。だけどな、俺が今食べたいのはガーリックトーストなんだよ!」

「かはっ……!」

 

 それに対してリーダー格の男子生徒は端正な顔を歪め、理不尽な暴力を振るった。男子生徒が暴力を振るう度に、フィセルの雪のように白い肌と髪が血と泥で汚れる。

 

「何をやっている!」

「ちっ、邪魔が入ったな……」

 

 そこへ別の生徒がやってきたことでいじめを行っていた生徒達は逃げるように去っていった。

 

「フィセル大丈夫か?」

「……エクレール」

 

 長い髪を後ろで束ねた金髪碧眼の美少年、フィセルは心配そうに自分を抱えようとしたエクレールの手を払いのける。エクレールに助けられたというのにフィセルは余計なことをするなとばかりに彼を睨みつけた。

 

「またラングにいじめられていたのか?」

「いじめじゃない。ただ戯れ合っていただけだよ」

「あれが戯れ合いなものか!」

「見解の相違って奴だね。俺の故郷じゃアレくらい普通だったよ」

「いくら田舎出身だからといってあんな野蛮なやり取りをするわけがない!」

「ふん、衣食住を保証された貴族様にはわかないだろうね」

 

 フィセルは意地でもいじめられていたことを認めない。彼は自分がいじめられていたなどと認めたくなかったのだ。

 

「……そろそろ授業が始まるよ。早くしないと遅れるよ」

「待て、フィセル」

 

 短くそう告げて立ち去ろうとしているフィセルをエクレールが引き留める。

 

「今、回復魔法を――」

「やめろ! 僕に回復魔法なんて使うな!」

 

 エクレールが回復魔法を使おうとした途端、いじめっ子達に乱暴されても感情を顕わにしなかったフィセルが初めて声を荒げた。

 

「す、すまない。配慮が足りなかった」

「……こんなんツバ付けときゃ治るよ」

 

 傷ついた様子のエクレールを見て、フィセルはバツが悪そうに呟いてそそくさと立ち去った。

 そんな彼の背中を見てエクレールは悲しそうに見送った。

 

「……私は信じてる。いつかきっと、君にも強力な魔法が使える日が来るよ」

 

 祈るようなエクレールの呟きは授業の予鈴にかき消された。

 授業が始まると、おしゃべりに興じていた生徒達も静かになって席に着く。

 

「では授業を始める」

 

 ドルチェ魔法学園の授業は講義形式のものと実践形式の二種類ある。

 基本的に講義形式の授業は生徒達から好まれず、居眠りする者も多い。生徒達は皆、魔法を使いたくて仕方ないのだ。

 

「えー、二年生の皆はもうわかっていると思うが魔法の強さは生まれ持った素質と日々の鍛錬によって決まる。我が校の卒業生も優秀な魔導士であり、君達も――」

 

 教師の退屈な前口上を聞き流す生徒達。その内の一人であったラング・ドゥ・ブッフブレゼは退屈そうに欠伸をする。しかし、こういう退屈な話をする教師に限って目敏く退屈そうにしている生徒を見つけるのだ。

 

「――というわけで、災厄の悪魔ゴルゴンゾーラは神々によって倒された。ふむ……では、ラング君。ゴルゴンゾーラの何が驚異だったのか、何かわかるかね?」

「うえっ……フィセル」

 

 ラングは足で下の段に座っていたフィセルを蹴飛ばす。すると、フィセルは嫌そうな顔をしながらも素早く教科書の答えに該当する箇所を開く。

 それを見たラングは満足げに笑って答えた。

 

「ゴルゴンゾーラは魔力を実体として捉えることができます。故に彼へ放った魔法は全て無効化されてしまう。そのまま魔法を跳ね返されたり、吸収されてしまうことが最大の脅威です」

「うむ、完璧な解答だ」

 

 満足げに頷くと、教師は再び講義に戻る。

 ラングは学園内でも優秀な魔導士だが、こうした歴史などの知識には疎い。レポートなども全てフィセルにやらせているくらいだ。

 それとは対照的に、フィセルはきちんと授業を聞いて勉強しているので、講義の試験の点数は非常に良い。それなのに総合的な成績で彼はラングに負けている。

 理由は単純である。フィセルには碌な魔法が使えないからだ。

 

「これから、この石像を魔法を使って動かしてもらう。フィセル・ガルニチュール」

 

 場所は魔法演習場。魔法が飛び交う実践形式の授業は大抵この場所で行われる。講義形式の授業とは違い、生徒全員が魔法の行使を補助するローブを着込んでいる。

 

「はい! 〝ファイアボルト!!!〟……くそっ!」

 

 フィセルが使える魔法は詠唱なしで放てる初級魔法の〝ファイアボルト〟のみ。小さな火の玉を発射するくらいしかできない魔法では、彼の背丈の二倍はある石像は動かない。

 実践形式の授業において大切なのは魔法の精度だ。どれだけ高度な魔法を制御できているか、それが魔導士においての優秀さを示す指標である。それができないフィセルは実践形式の授業での成績が著しく低く、周囲からバカにされているのだ。

「はははっ、さすがは〝へっぽこフィセル〟だね! まったくもって見るに堪えない!」

 小さな火の玉で石像を押そうとしているフィセルを突き飛ばし、ラングが魔法を唱える。

 

「穏やかなる風よ、我が魔力に応え吹き荒れよ! 〝テンペスト!!!〟」

 

 ラングの掌から発生した突風は、いとも簡単に石像を動かした。

 完璧な精度で放たれる風魔法にクラスの全員が歓声をあげる。それに続くように次々と生徒達は魔法を使って石像を動かしていく。

 

「天より振り注ぐ神の怒りよ、雷となり敵を貫け! 〝ブリッツ・シュライエン!!!〟」

 

 エクレールも同様に高度な魔法を詠唱するが、魔法の威力が強すぎて石像を壊してしまった。

 

「あっはっは、へっぽこフィセルがまだ動かしてないのに壊しちゃダメだろ!」

「さすがは電光石火のエクレール様! 素敵だわ!」

「きゃぁぁぁ! エクレール様!」

「仕方ねぇな。俺が土魔法で直してやるよ!」

 

 エクレールへの黄色い声援、フィセルへの嘲笑。それらを聞いたフィセルは悔しそうに歯噛みをする。

 

「じゃあ、次は俺だな。豊饒なる大地よ、我が魔力を糧とせよ! 〝メイクアース!!!〟」

 

 先ほどエクレールが壊してしまった石像を直した男子生徒が土魔法で地面を盛り上げて石像を倒した。

 

「おっと、フィセルがまだだから地面も均しとかないとな」

 

 そこで男子生徒はわざと地面を頑丈に固めた。これはフィセルが地面を掘って石像を倒せないようにする嫌がらせである。

 

「……要は魔法を使えば何でもアリってわけか」

 

 だが、フィセルは何かを思いついたような顔で担当教師へと詰め寄った。

 

「先生。もう一度やらせてください」

「いいだろう――えっ」

 

 やる気のあるフィセルを微笑ましく見ていた担当教師の表情が凍りつく。フィセルが制服とローブの袖を捲くって石像に手を突いて押し始めたからだ。

 

「あっはっは、どこまで笑わせるつもりだよフィセル!」

「あんな石像、素手で押せるわけないじゃん!」

「もうバカねぇ! 第一、魔法を使いなさいよ!」

 

 フィセルは周囲の笑い声など耳に入らないほど集中し、両腕に力を込める。笑っている生徒達は気づいていない。フィセルの両腕の筋肉は魔導士とは思えないほどに太く鍛えられている。それは全身の筋肉も同様で、彼はもっとも力の入る体勢を選んで石像を押しているのだ。

 そして、フィセルの肘のあたりが赤く発光し始めて魔法陣が浮かび上がってきた途端、

 

「〝ファイアボルト!!!〟」

 

 肘から火の玉を噴射して推進力を得たことで石像は大幅に動いた。その瞬間、フィセルを笑っていた生徒達は言葉を失う。

 それは授業を担当していた教師も同様だった。

 

「えぇ……」

 

 これは課題を達成したと見るべきなのか、判断に困っているのだ。そんな額に手を当てて困惑する教師にエクレールが助け船を出した。

 

「先生。フィセルは魔法を使って岩を動かすという条件を確かにクリアしています」

「エクレール・オ・ショコラティ、しかしだな……」

「魔法の応用という点に関しては彼が一番かと」

「まあ、確かに……」

 

 エクレールの説得により、フィセルは今回の授業において高得点を得ることができた。しかし、彼の表情は晴れない。

 

「良かったな、フィセル」

「ちっ、余計なことを……」

 

 汗だくのフィセルは制服の袖で汗を拭うと、エクレールを睨みつけてそのまま走り去ってしまう。そんな彼を周囲はまた嘲るように笑う。

 逃げるようにその場から立ち去ったフィセルは校舎の裏で壁を殴りつけていた。

 

「くそ、くそ、くそ! くそっ!」

 

 入学してから三年、フィセルにとってドルチェ魔法学園での日々は地獄だった。

 嫌という程に味わう周囲との差。どんなに努力したところで素質がなければ優秀な魔導士にはなれないという事実。その非情な現実を毎日突き付けられているのだ。

 いじめっ子の筆頭であるラング・ドゥ・ブッフブレゼ。いつもフィセルに優しく接するエクレール・オ・ショコラティ。どんなに鍛錬をしても高度な魔法を身につけられないフィセルにとって、ラングもエクレールも憎い存在でしかなかった。上位魔法をいとも簡単に操り、自分をバカにする存在。それが憎くてしょうがないのだ。

 もちろん、エクレールはフィセルをバカにはしていないし、彼には優しく接している。だが、フィセルにとってはそれすら苦痛だった。

 むしろフィセルは、自分に優しく接するエクレールの方が内心自分をバカにしているのではないかと思っているくらいだ。

 優しさは時に人を傷つける。優秀な魔導士になることを夢見て入学したドルチェ魔法学園。そこでたくさんの悪意に晒されたフィセルはすっかり心も荒み、視野も狭くなってしまっていた。それ故に、フィセルは人の厚意を信じられなくなってしまったのだ。

 もはやフィセルの中にあるのは、肉体では自分の方が強いというちっぽけなプライドだけだ。貴族のお坊ちゃまや勉強ばかりのもやしの攻撃など屁でもない。痛くも痒くもないから殴らせてやっている――そう自分に言い聞かせて。

 フィセルがいじめっ子に反撃しないのは、単純に魔法で負けるのが怖いからだ。どんなに怪我をしたとしてもフィセルは気にはしない。だが、魔法で相手に負けることだけは彼のちっぽけなプライドが許さなかった。

 だが、強力な魔法さえ覚えればその差はいとも簡単に引っくり返る。だから、フィセルは誰よりも魔法に関する知識を吸収し、誰よりも魔法の鍛錬を積み重ねるのだ。それでも、魔法の実力では遊び半分で通っている生徒にも敵わないのだが。

 そんな辛い環境に置かれているというのに、フィセルが学園をやめて故郷に帰らないのにはわけがある。

 フィセルは地図にも載っていない辺境の村の出身で、村の中で唯一魔法が使えた。それ故に周囲から期待され、魔法学園に来たのだ。

 村の中では喧嘩が弱かったフィセルはいつだって劣等感を抱いていた。それが魔法を使えるようになっただけでひっくり返り、周囲は彼を凄い奴だと認めるようになったのだ。

 だから、フィセルは魔法の才能がないから学園をやめた、などという理由で故郷に帰るわけにはいかないのだ。

 結局のところ、劣等感を抱き続けたフィセルは自分で自分の首を絞めていた。

 彼にとって唯一の救いは、故郷の村が辺境過ぎて手紙を出せないことだった。もし、故郷から彼の近況を聞いてくるような手紙が来ていたら、彼の心は今以上にボロボロになっていただろう。

 

「……そろそろ行かなきゃ」

 

 一通りストレスを発散したフィセルは頭を切り替え、次の授業の教室へと向かった。

 フィセルが殴り続けたことによって堅いレンガの壁にはヒビが入り、壁の破片が零れ落ちる。

 その異常さに彼は気づかない。魔導士が魔力を使わずに素手でレンガにヒビを入れるなど、本来ありえないことだというのに。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 朝の鍛錬を行うため、フィセルは誰よりも早く起きる。

 彼が朝に行う鍛錬は主に肉体の強化だ。一般的に魔導士は肉体を強化しながら強力な魔法を使う。強力な魔法を放つ際には反動で肉体に負荷がかかるからだ。

 だが、フィセルにそんな芸当はできない。そのため、少しでも肉体面での負担を減らすために毎日肉体を鍛えているのだ。

 フィセルが一日の始めに行うトレーニングは走り込みだ。彼は元々厳しい環境で暮らしていたため基礎体力はついているが、魔法を使った戦闘でのスタミナの消費はそれとは比べ物にはならない。だから、こうしてさらにスタミナをつけるためにとことん走り込んでいるのだ。

 学園内で走りこみを終えたフィセルは食堂へと向かう。食事をとるためというのもあるが、彼の目的は別にある。

 

「おはようございます」

「おっ、今日も早ぇな!」

 

 食堂の裏手から厨房へ入ると、恰幅の良い壮年の男性がフィセルを笑顔で迎えた。彼はブーダン、このドルチェ魔法学園の食堂の料理を作っているコックだ。

 

「そんじゃ、今日も頼むぜ」

「ありがとうございます」

 

 ブーダンに頭を下げるとフィセルは厨房を出て、外に置いてある斧で薪を割り始めた。これはフィセルがブーダンに頼みこんで、体を鍛える目的で手伝わせてもらっているのだ。

 

「まったく、礼を言うのはこっちだってのによ」

 

 ブーダンは慣れた手つきで料理の下ごしらえをしながら呆れたように苦笑した。

「本当、フィセルは魔導士らしくないな」

 

 ブーダンは魔導士が嫌いだ。魔法を使える。ただそれだけで周囲から崇め讃えられる。それ故、魔導士は選民意識を持っている者が多いのだ。

 だが、フィセルはそれに当てはまらない。彼は選民意識こそ持っているが、別に魔法が使えない者を卑下したりはしない。だから、フィセルは学園の下働きの者達からの人気は高いのだ。

 

「あっ、フィセル。今日もお疲れ様。朝ご飯食べる?」

 

 大量の薪を割り終えてフィセルが一息ついていると、給仕服を着た少女が話しかけてきた。彼女はノワール。ブーダンの一人娘で父と同じように働いている。

 ノワールが持ってきた朝食を食べながら、フィセルはバツが悪そうに言った。

 

「ごめんね。賄いなのに僕もごちそうになっちゃって」

「働いてくれてるんだから気にしないでよ。フィセルが薪を割ってくれるだけでも大助かりなんだから!」

「そう?」

 

 フィセルは自分が強くなること以外には大して興味がないため、ノワールから感謝されてもいまいちピンと来ていない。彼からすれば、自分が強くなるための手伝いをしてもらっているのに、何故か感謝されているという状態なのだ。

 

「ごちそうさま。今日もおいしかった」

「お粗末さま! また来てね!」

 

 汗を拭ってフィセルは食堂を後にする。ノワールの声など彼は既に聞いてはいない。彼の頭の中は既に魔法に関することでいっぱいだった。

 それからフィセルはいつものように授業に出席し、いつものようにクラスの皆に笑われ、いつものようにラングに痛めつけられる。

 そんな一日のルーティンを終えたフィセルは図書館に籠っていた。

 放課後は友人と街へ買い物に出かける生徒も多い中、彼はこうして誰よりも勉強して魔法に関する知識を蓄えているのだ。残念ながらその努力が実を結んだことは未だにないが。

 

「勉強は捗っているか?」

 

 時間が経つのも忘れるくらいに集中して魔導書を読み耽っていると、フィセルの肩に優しく手が置かれた。

 

「……エクレールか」

 

 忌々しげにフィセルが振りかえると、そこには申し訳なさそうな顔をしたエクレールが立っていた。

 

「そう邪険にしないでくれ。勉強の邪魔をしたのは悪いと思っている」

「……何の用?」

「実は買い物に行こうと思っていてな。私は街には詳しくないから案内を頼みたい」

「他の奴に頼めばいいじゃん。君と買い物に行きたい奴なんていくらでもいるでしょ」

 

 エクレールに恋焦がれる女子生徒は多い。彼が一声かければ、買い物の付き添いに困ることはないだろう。

 

「そうもいかない。特定の女子に頼めば、その者がいじめられてしまう」

 

 だが、彼の場合は人気が高過ぎて女子が取り合いを始めてしまうのだ。以前、学園の高等部入学のパーティでは彼のダンスの相手を誰が務めるかということが原因で乱闘騒ぎが起きた程だ。それ以来、エクレールは特定の誰かと仲良くするということを避けるようにしていた。

 

「じゃあ、男子は?」

「フィセル以外にこんなことを頼める友人はいない」

 

 友人。その言葉を聞いたフィセルの表情が歪む。

 フィセルが学園に入学した当時。寮のルームメイトとなったことがきっかけで、エクレールとは仲が良かった。しかし、フィセルが段々とエクレールとの才能の差を気にし始めたことで、現在のような気まずい関係になってしまったのだ。

 そのことに少なからず罪悪感を抱いていたフィセルは、渋々エクレールの買い物に付き合うことにした。

 

「……わかったよ。ちょうど僕も買いたいものがあったから付き合うよ」

「そ、そうか。助かる」

 

 フィセルの返事を聞いたエクレールはパァッと表情を輝かせる。彼がこのような素の表情を見せるのは非常に珍しいことだ。それだけフィセルと買い物に行きたかったのだろう。

 寮に戻って一通り片づけを終えたフィセルは、部屋の前でエクレールと合流した。

 

「お待たせ」

「それでは行こうか」

 

 ドルチェ魔法学園は王都の中心部に位置する。フィセルとエクレールが訪れたのは、学園の生徒がよく来るテリーヌ通りだ。ここでは学生向きの店が立ち並んでいるため、フィセルは必要なものを揃えるため、定期的に買い物に来ていた。

 

「学園の外はこうなっていたんだな。学園と寮以外から出たことがなかったから知らなかったよ」

「学園にいれば衣食住は揃うからね。外に出る理由があまりないのなら、そうなるのも無理はないさ」

 

 特にエクレールは貴族である。貴族の嫡男である彼があまり出歩くと本家にいい顔をされないことくらいはフィセルにも予想がつく。だが、実家の話をされることをエクレールはあまり好まない。

 だから、学園生活三年目なのに街について疎いことに対して、フィセルは特に気にした風でもない体を装った。

 

「それで、何を買いたいの?」

「うむ、実はローブが古くなってしまったから買い替えようと思ってな」

「四年も同じ物使ってたのか」

「支給されたローブが思いのほか頑丈でな。身長もあまり伸びなかったから買い換える必要もなかったんだ」

 

 ドルチェ魔法学園では制服の他に魔導士用のローブが支給される。これは実践形式の授業の際に使用するためである。魔法陣の刺繍がされたローブは高価のため、わざわざ外部で買わなくて済むための学園側の配慮だ。

 

「僕は成長期で身長が伸びたから、高等部に入った時に買い換えたよ」

「フィセルは身長が高いしな」

「まあ、君と比べたらね」

 

 フィセルの身長は同年代の男子と比べたら高い方だ。それに対してエクレールの身長はかなり低い。二人が並んで歩けばエクレールの低身長はより目立つことだろう。

 

 だというのに、エクレールはそれを気にした風でもなく、むしろ楽しそうにフィセルの横に並んで歩いていた。

 

「珍しいな。普通、男子って身長低いの気にすると思うんだけど」

「そうか? 私はあまり気にならないぞ。歩幅を合わせてくれる友人が隣にいるからな」

「……何のこと?」

 

 身長差のせいか歩幅が合わず、エクレールが置いていかれることにならないのは、偏にフィセルが彼に合わせて歩いているからだろう。それに気づいているからこそ、エクレールはご機嫌だったのだ。

 

「ここだね。僕が前にローブを買いにきた魔導具店だ」

 

 それから二人が他愛もない話をしながら歩いていると、テリーヌ通りの中でも一際大きな魔導具店に到着した。

 

「立派な店だな。〝ファルシー〟……ああ、ここは母の実家が懇意にしている店の支店なのか」

「ここが本店じゃなかったんだ……」

 

 ファルシー魔導具店。魔導士にとっては必ず行くことになる店と言っても過言でないほど、豊富な品揃えが自慢の魔導具店だ。

 ドルチェ魔法学園の備品も基本的にここから仕入れられており、学園の制服やローブもこの店に置いてある。そのため、この魔導具店には多くの学園の生徒が来ていた。

「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件で?」

 店内に学園の生徒が入ってきたことで店員すぐさまやってくる。

 

「ローブを新調しようと思うんだが……」

「ありがとうございます。すぐにいくつか見繕って参ります」

 

 仰々しく頭を下げると、店員はそそくさと店のバックヤードに引っ込んでいく。ふと、フィセルがエクレールの方を見ると、学生で溢れ返る店内で居心地が悪そうに萎縮していた。

 

「どうしたの?」

「い、いや、こういった場に来るのは初めてだからなかなか慣れなくてな」

「魔導士なら魔導具店くらい慣れといた方がいいよ……」

 

 フィセルは呆れたように嘆息する。彼は自分の魔法を最大限に引き出すため、魔導具に関する知識も豊富だ。その甲斐あって彼の放つ魔法はとても精度が高い。放てる魔法はファイアボルトだけだが。

 

「ご要望の物があれば、いくつか見繕いましょうか?」

「ああ、すみません。とりあえず、性能が良い物をお願いします」

 

 仰々しく頭を下げると、店員はそそくさと店のバックヤードに引っ込んでいった。その時、店員がエクレールを鋭い目つきで見ていたことにフィセルは気がつく。

 

「まあ、そうなるか……」

 

 エクレールは容姿端麗の上に身につけている装飾品も高価な物ばかりだ。傍から見れば、貴族のボンボンが買い物に来たことくらいすぐにわかるだろう。

 

「お待たせしました。こちらが現在人気のローブになります」

 

 バックヤードから店員が戻ってくると、様々な種類のローブを抱えていた。そのどれもが売れ筋の人気商品だ。

 エクレールはその中から一番人気という札が貼ってあるローブを選ぶ。人気ということは売れているということ、つまり性能がいいということだ。彼の判断基準はあながち間違ってはいない。

 

「そうか。では、これを――」

「待った」

 

 店員からローブを受取ろうとしたエクレールの手をフィセルが険しい顔で掴む。

 

「エクレール。君の主属性は雷だろ。それは土属性用のローブだ。そうですよね、店員さん」

「え、ええ……」

 

 フィセルの指摘に店員の顔がわずかに歪む。店員は嘘をついていたわけではないが、エクレールをカモにしようとしたのは事実だ。

 

「ローブによる差などあるのか? だって、学園支給のローブは――」

「学園支給のローブはまんべんなく全部の属性に対応しているだけだよ。主に使う魔法の効果を上昇させるなら、きちんと自分の属性にあったローブを選ぶべきだ。サブ魔法の効果を上げたいなら装飾品の類で十分……そうだな、回復魔法ならジェイドリングがいい。精神干渉の解除魔法ならアイオライトリングだけど、純粋な回復魔法を使うならこっちだね」

 

 普段からエクレールの魔法を見ているフィセルは自分の知識を元にエクレールに合った装備を言い連ねる。

 

「ふむ……では、今彼が言った物を用意してください」

「か、かしこまりました」

 

 カモにされそうになったのが気に障ったのか、エクレールは少しばかり不機嫌そうな声音で言った。それに対して店員はバツが悪そうに頷く。

 

「エクレール、今のは君が悪いよ」

「えっ」

「君は『性能が良い物が欲しい』としか言わなかった。店員さんはその言葉通り、人気の高性能ローブを持ってきた。君は自分の属性も言わず、細かい指定もしなかった。それじゃ、適当に人気商品を持ってくるしかないだろ」

 

 もちろん、エクレールが商品を手に取る時に指摘をしなかったことは問題がある。だが、何もわかっていないエクレールの方に問題があるとフィセルは感じていた。

 

「優秀な魔導士になるなら、魔法だけじゃくて魔導具やその他のことにも気をつけなよ。こんなとこでカモにされるような奴が僕より上なんて許せない」

 

「す、すまない……」

「というわけで店員さん。俺も欲しいの物があるんですが、ついでに持ってきてもらえますか」

「は、はい! 何をお求めですか?」

 

 貴族をカモにしようとした自分を庇ってくれた以上、それなりにサービスはしなければならない。そのことを言外に滲ませたフィセルに対して店員は丁寧に接客をする。

 

「トパーズガンレットをください」

「トパーズ……ということは召喚魔法ですか?」

 

 魔力を込めて加工したトパーズは絆を深める効果が強く出るため、召喚魔法によって召喚した使い魔の依り代としてよく用いられる。

 

「あと、召喚士用の使い捨てローブもお願いします」

「かしこまりました」

 

 再び店員がバックヤードへと入っていくのを確認したエクレールは、フィセルに問いかける。

「召喚魔法って、何を召喚する気だ?」

「別に……ただ僕は前衛で戦う魔導士だから、後衛が欲しいと思っただけだよ」

「普通逆だろう……」

 

 魔導士が前に出て戦うことは稀である。一般的に魔導士は相手の間合いに入らずに魔法で敵を殲滅することが仕事だからだ。前衛の役割を持つのはせいぜい、土魔法のゴーレムや召喚魔法で呼び出された使い魔くらいだろう。

 

「大変お待たせ致しました」

 

 店員が持ってきたローブなどを受け取った二人は会計を済ませる。店の外へ出ると、フィセルはすぐに買ったものが自分に馴染むか確認をした。

 

「大丈夫だな。これなら……」

 

 拳を固く握りしめ、フィセルは空を見上げた。赤みがかってきた空には既に月が出始めている。

 そんな彼にエクレールは嬉しそうにほほ笑んだ。

 

「今日はありがとう。やっぱりフィセルはすごい奴だよ」

「これくらいできて当然だよ……むしろ、これができても僕は……」

 

 ぶっきらぼうにそう言うと、フィセルは足早に学園へと歩き出す。その後ろ姿をエクレールは慌てて追ったのだった。

 フィセルとエクレールがローブや魔導具を購入し終えると、もう日が沈んでいた。

 寮の門限もあるため、二人は急いで自分達の部屋へと戻る。

 

「結局、アイオライトリングも買ったんだ」

「いざという時にあった方が良いと思ってな」

 

 精神攻撃は非常に強力であるため対策はするに越したことはないのだが、そんな危険な魔法の使い手はそうそういない。エクレールもそこまで深く考えて買ったわけではなく、ただフィセルがおすすめしていた品の一つだから買っただけだった。

 フィセルはずっと不思議に思っていた。どうしてエクレールはここまで自分を信頼しているのか。それがまったくわからなかった。

 

「貴族様は小遣いがあっていいね」

 

 誰かが自分を信頼するわけがない。

 

 人の厚意を信じられなくなっているフィセルはまた冷たい態度をとってしまう。

 

「まあ、確かに仕送りにしては多過ぎる気はするがな」

 

 そんなフィセルの態度にも気を悪くしないエクレール。案外この二人は相性が良かった。それは三年も同じ部屋で暮らせていることを考えればわかることだろう。

 

「フィセル、その注射器はどうするんだ?」

 

 買った物を整理していたフィセルが注射器を取り出しているのを見つけたエクレールは不思議そうな顔でフィセルに尋ねた。

 

「ん、血を抜くんだよ」

 

 そう言うや否や、フィセルは袖を捲くって紐で腕を縛る。筋肉質な腕に血管が浮かび上がった。そこへ躊躇なく針を突きたて、ピストンを引っ張り血を抜く。

 

「よ、よく、自分でそんなことできるな」

 

 その光景から自分の血を抜いているところを想像してしまったエクレールは、注射器で自分の血を抜いているフィセルを見て青ざめていた。

 

「魔導士ならこのくらいで青ざめてどうすんだよ」

 

 注射器に溜まった血液を瓶に詰めると、フィセルは部屋の窓を開ける。

 

「これで、血は足りるな……ちょっと裏手にある森へ行ってくる。帰ったら梯子を下ろしてほしい」

 

 夜中の外出は寮の規則で禁止されている。それを理解した上でフィセルはこの時間に外出しようとしていた。

 

「それは構わないが……危ないことはするなよ」

「魔導士が夜にすることって言ったら、危ないことに決まってるでしょ?」

 

 心配そうな顔をするエクレールに、珍しく笑顔を浮かべたフィセルは二階の窓から軽々と飛び降りた。

 フィセルがわざわざ夜に出掛けたのには理由がある。

 彼は召喚魔法で使い魔を呼び出そうとしていた。ただ彼が実際に召喚魔法を使うのは初めてだ。

 夜は大気中の魔力が一番活性化する時間帯だ。だから、フィセルはわざわざ夜に森に入ったのだ。絶対に召喚魔法を成功させるために。

 森の中でも開けた場所に着くと、フィセルは自分の血で巨大な魔法陣を描き始めた。本来は自分の血でなくとも召喚はできるのだが、自分の血を使えば魔力が陣に行き渡り易いのだ。

 

「……よし」

 

 準備を終えたフィセルは目を閉じて、静かに魔法陣へと魔力を流し始めた。

 フィセルにとって召還魔法は唯一の希望である。

 召喚魔法は術式こそ難解だが、魔法陣さえ描ければ誰でも使い魔を召喚できるからだ。

 フィセルは肉弾戦をベースとして戦うため、遠距離攻撃には滅法弱い。特にラングなどの強力な魔導士をはじめとするドルチェ魔法学園の生徒には、どうあがいても勝てないのだ。しかし、強力な使い魔を従えることができれば、それを引っくり返すことができる。魔法さえ防ぐ手段さえ手に入れば、自分は最強だ――そんな自信がフィセルにはあった。

 

 だから彼は最後の希望に縋る。

 

 自分をコケにした周囲を見返すため。

 自分が優秀な魔導士であると証明するため。

 最強の魔獣を召喚すべく、暗記した呪文を詠唱する。

 

「我が名はフィセル・ガルニチュール。虚ろなる魂よ。我はその穢れを払う者。汝、血の盟約の下に我に忠誠を誓え。さすれば、新たな生を与えんことを誓う――汝、我との契約を望むならば応えよ!」

 

 呪文を唱え、フィセルは魔法陣の中心へとトパーズガンレットを填めた右手を打ち付ける。

 その瞬間、強大な魔力の奔流が魔法陣から立ち上り、フィセルを吹き飛ばした。

 魔力の奔流が収まると、そこには輪郭のぼやけた巨大な悪魔が浮かんでいた。

 

『契約はここに完了した。小僧、貴様がオレを呼び出した愚か者か?』

 

 悪魔は凶悪な笑みを浮かべてフィセルへと問いを投げる。その威圧感に怯みながらも、フィセルは気丈に告げた。

 

「そ、そうだ! 僕がお前の主だ!」

『クハハハ! 何が主だ! 貴様はオレを現世へとつなぎ止める宿り木にすぎん。このゴルゴンゾーラの主など……寝言は寝て言うがよい!』

「ご、ゴルゴンゾーラだって!?」

 

 あまりにも有名過ぎる名前が出たことで、フィセルは目を見開いた。

 災厄の悪魔ゴルゴンゾーラ。その名を知らぬ者などこの世にいない。大昔に世界を滅ぼそうとした悪魔。神々がその命を懸けて滅ぼしたことで、永遠に恐怖の対象として語り継がれることとなった伝説の存在だ。

 

『いかにも、オレはかつて世界を恐怖へと陥れたゴルゴンゾーラだ。クハハ、わかるぞ。貴様、オレに恐怖して震えているのであろう』

 

 体中が震えているフィセルを見て、哄笑をあげるゴルゴンザーラ。しかし、少しするとゴルゴンゾーラは笑いを止めて訝しげな表情を浮かべた。フィセルの様子がどこかおかしいことに気がついたからだ。

 

「やった……」

『何?』

「やったぁぁぁ! 当たりも当たり、大当たりだ!」

『は?』

 

 とんでもない悪魔を呼び出してしまったというのに、フィセルは大喜びだ。そんな彼を見て、ゴルゴンゾーラは素っ頓狂な声をあげた。

 

「こんな大物を従えているなんて、最高クラスの召喚魔導士にだってできやしない! やったぞ、僕は最強の魔導士になったんだ!」

 

 フィセルはついに自分が快挙を成し遂げたと狂喜乱舞する。彼の事情は知らないゴルゴンゾーラは、自分に対する態度があまりにもふざけていると感じて魔法を発動させた。

 

「ぐ、がぁぁぁぁぁ!?」

 

 魔法が発動した途端、襲いかかる激痛にフィセルは叫び声をあげた。

 ゴルゴンゾーラが魔力を痛みに変えてフィセルに送り返したからだ。これは魔力を供給しているフィセル相手にしか使えない魔法だが、それだけに効果は絶大である。

 

『ふん、オレを恐れないなど無知にも程がある。どうだ、これでオレの恐ろしさがわかったであろう』

 

 ゴルゴンゾーラは不機嫌そうに鼻を鳴らして倒れ伏すフィセルを見下ろす。だが次の瞬間、ゴルゴンゾーラは目を見開いた。

 

「すごい……知識では知ってたけど、ここまでだなんて……」

 

 完全に気を失ったものだと思っていたフィセルが立ち上がったのだ。それを見たゴルゴンゾーラはフィセルへの評価を上方修正した。

 

『ほう、今のを食らって立てるとはな』

 

 ふらふらと覚束ない足取りで立ち上がるフィセルに、ゴルゴンゾーラは感心する。

 フィセルは昔から痛みには慣れている。だから、ゴルゴンゾーラの魔法にも耐え抜くことができたのだ。

 未だに圧倒的な威圧感を放つゴルゴンゾーラ。フィセルはそんな災厄の悪魔をまっすぐに見据えて言った。

 

「……言っとくけど僕は無知なんかじゃない。お前のことなら、この国の誰よりも知っているさ。災厄の悪魔ゴルゴンゾーラ。神々がその命と引き替えにやっと消滅させることができた最強の悪魔の名だ。その魔法は変幻自在。あらゆる魔法を実体として捉え、神の使う魔法だろうと指一本で破壊することができた。まさに神々の天敵だ。まだまだ知っていることはたくさんあるぞ。好きな食べ物は主に乳製品、中でもクリームを使った甘いものが好きなんだろ。毎日、魔牛一頭分の牛乳を飲んでいたってのは半信半疑だけど」

『……何故そこまで知っている』

「こんなの魔法関連の書物や英雄の伝記を読み込めば、誰でも得ることができる知識だ。お望みならば、お前の話題で何時間でも語れるぞ」

 

 フィセルの読み込んだ書物の量は尋常ではない量のため、マイナーな伝記の内容すら暗記している。それ故、どの書物にも出てくるゴルゴンゾーラの知識については、彼の知識量は教師すらも凌駕するのだ。

 

『……よ、よかろう。小僧、貴様の勤勉さに免じてオレを恐れぬことを許そう』

 

 若干引き気味のゴルゴンゾーラは、形式上はフィセルを主と認めることにした。

 

「僕はフィセル! 改めてよろしく、ゴルゴンゾーラ!」

『……召喚に応えたのは早計だったか?』

 

 心から嬉しそうな声を上げるフィセルを見て、ゴルゴンゾーラは霊体のままため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ゴルゴンゾーラを召喚した翌日。フィセルは寝不足と魔力不足による頭痛のため、授業を欠席することにした。

 

「まったく、無茶をし過ぎだ。昼休みにいったん戻ってくるが、何か必要な物はあるか?」

「じゃあ、ゼリー系の物で……ごめん」

 

 体調が悪いからか、フィセルは素直にエクレールの厚意に甘えることにした。素直になれたのはゴルゴンゾーラを召喚できて自信がついたことも大きいだろう。

 

「困った時はお互い様だ。では、行ってくる」

 

 二段ベッドの上の方で寝込んでいるフィセルに毛布を掛けるとエクレールは教室へと向った。

 

『小僧、学舎へはいかんのか』

「ゴルゴンゾーラか……今日は体調の回復に専念してるんだよ」

『ほう、ならば弱っている今が好機だな』

「ぐっ、やめ、ろ……!」

 

 そう言うや否や、ゴルゴンゾーラはフィセルの肉体の主導権を強奪しにかかる。これが昨晩からずっと続いているのだ。これでは体調も回復はしないだろう。

 召喚された使い魔は通常、用意された依り代へと宿る。だが、ゴルゴンゾーラはその存在が強大過ぎたため、トパーズガンレットでは依り代として不十分だったのだ。そのせいか、ガンレットは消滅して宝石はフィセルの体と融合してしまった。

 結果、フィセルの肉体に直接ゴルゴンゾーラが住み着いているような状態になってしまったのだ。ゴルゴンゾーラの目的は現世で再び肉体を得ること。フィセルの肉体が狙われるのは当然のことだった。

 

「いい加減に、しろ!」

『ぬぅ……無駄にしぶとい奴だ』

 

 ゴルゴンゾーラにとっての誤算はフィセルの自我が強かったことだ。プライドが高く、優秀な魔導士になるという確固たる決意を持つフィセルの自我は強く、何度肉体を乗っ取ろうとしても弾き出されてしまうのだ。

 

「……この体は僕の物だ」

 

 大量の汗をかいたフィセルは寝間着を脱ぐと、タオルで体を拭いた。いくら精神が強いといっても寝不足はつらい。このままゴルゴンゾーラと肉体の主導権を争い合っていてもじり貧だ。いつかは寝不足で倒れ、肉体を乗っ取られてしまうだろう。

 そこで、ふとフィセルは昨日エクレールがアイオライトリングを買っていたことを思い出した。

 

「借りるよ、エクレール」

 

 机の上に出しっ放しになっているリングを手に取ると、フィセルはそれを右手の指に填めた。

 

『ぐっ……小僧、貴様!』

「どうやら効果覿面のようだな」

 

 頭に響く声が小さくなったことで、フィセルは安堵のため息をついた。

 これでしばらく寝ていれば体調も良くなる。

 

「まったく、うまくいかないもんだな……」

 

 フィセルはゴルゴンゾーラを召喚できたことについては満足していた。だが、ゴルゴンゾーラを封じ込めていては魔導士同士の戦いで使うことはできない。

 さらに問題だったのが、ゴルゴンゾーラが実体を持っていないことだった。

 実体を持たない霊体はフィセルを通すことでしか物体に干渉できない。そのためゴルゴンゾーラが魔法を使ったところで効果があるのはフィセル相手だけなのだ。

 これでは魔力を食われるだけで何の意味もない。そのことがフィセルを悩ませていた。

 いくら大物を召喚できたといっても、その証拠がない。ゴルゴンゾーラはフィセルにしか見えないのだ。優秀さの証明にはならない。一体どうすればいいのか。

 そうやって悩んでいる内にフィセルは静かに寝息を立てて深い眠りに落ちていった。

 

『何故裏切った、ロフィ!』

『お別れね、ゾーラ』

 

 フィセルが目を覚ますと、そこは激しい戦闘の跡が窺える荒野だった。否、彼は目を覚ましてなどいない。これは夢だ。その証拠に彼は自分の体を動かすことができなかった。

 

『災厄の悪魔ゴルゴンゾーラ! 貴様もこれで終わりだ!』

 

 フィセルの前には輝く翼を持つ者達が魔法を放つ準備をしている。その中で一人、どこかエクレールに似た女性がいたことがフィセルの印象に残った。

 

『終わり、だと……クク、クハハハハ! オレは滅びぬ! 覚えておけ! オレは再びこの世に蘇り、貴様ら神を――いや、この世界を破壊する!』

 

 まるで自分が喋っているかのような感覚で聞こえてきた声。それがゴルゴンゾーラのものだとわかった瞬間、フィセルは自分がゴルゴンゾーラの過去を夢として見ていることを理解した。

 そして世界が光に包まれ、ゴルゴンゾーラの笑い声が途切れたところで今度こそフィセルは目を覚ました。

 

「ん、目が覚めたのか」

 

 フィセルがベッドから体を起こすと、既にエクレールが帰ってきていた。

 

「食欲はあるか?」

「うん、もうすっかり元気だよ」

「そうか、よかった……」

 

 元気そうなフィセルの姿を見てエクレールは安心したように胸を撫で下ろした。そんな彼を見て、フィセルは複雑そうな表情を浮かべた。

 

「どうした?」

「不思議な夢を見たんだ」

 

 フィセルはゴルゴンゾーラを召喚したこと、夢の中で彼の過去を見たこと、魔法を放ってくる者達の中にエクレールに似た女性がいたことを話した。

 

「すごいじゃないか! あのゴルゴンゾーラを召喚するなんて!」

 その話を聞いたエクレールはまるで自分のことのようにフィセルがゴルゴンゾーラを召喚できたことを喜んだ。その姿を見て、フィセルは彼に嫉妬していた自分を恥じた。

 こんなにも自分を心配してくれる友人になんて醜い感情をぶつけていたのだろう、と。

 

「隙あらば体を乗っ取ろうとしてくるような奴だけどね。ああ、そうだ。これ借りてるよ」

 

 フィセルはアイオライトリングを填めた左手をエクレールに見せる。すると、エクレールが微妙な表情を浮かべた。

「何かまずかった?」

 

 フィセルは辺境出身故に、左手の薬指に填めるのは婚約指輪だということを知らない。

 

「いや、別に気にするほどのことではない。うん……」

「そうか? なら、いいけど」

 

 項垂れるエクレールの様子から、そこまで大事じゃないと判断したフィセルも特に気にしないことにした。

 

「それにしても使い魔の過去を夢として見ることなんてあるんだね」

「普通ならばないだろうな。原因はフィセルがゴルゴンゾーラを肉体に宿らせてしまったことだろう」

 

 使い魔は基本的に宿った宝石の中で普段は眠っている。魔力も眠っている分には消費はしない。

 しかし、ゴルゴンゾーラはフィセルの肉体に宿ってしまった。幸い彼は霊体のため魔力消費は案外少ないが、フィセルを乗っ取ろうとしているため、魔力を吸われ続けることに変わりはない。優秀な召喚魔法の使い手ならば、使い魔との繋がりを希薄にできるのだろうが、フィセルにそこまでの実力はない。

 

「じゃあ、あの魔法を放ってきた連中はゴルゴンゾーラを滅ぼした神々ってわけか。うーん……」

 

 フィセルが見た夢での光景はまさに神話の通りの光景だった。ただフィセルはゴルゴンゾーラが言っていた〝ロフィ〟と〝裏切り〟という単語がどこか頭の中で引っかかっていた。

 フィセルが難しい顔で唸っていると、エクレールは神妙な顔で呟く。

 

「たぶん、フィセルが言っていた私に似ている神は女神プロフィトロールだな」

「プロフィトロールって、この国の象徴女神じゃん。何で君と関係が?」

 

 ゴルゴンゾーラを滅ぼした後、プロフィトロール王国を作り上げたのはその名の通り女神プロフィトロールだ。その女神とエクレールに一体何の関係があるのか。

 そんなフィセルの問いにエクレールは慌てたように答える。

 

「そ、それは……ほら! ゴルゴンゾーラがロフィと言っていたのだろう? だから、該当する女神はプロフィトロールだと思ってな!」

「ああ、そういうことか」

 

 どこか引っかかるところはあるものの、別に大したことでもないためフィセルは浮かんだ疑問を捨て置くことにした。

 

「ちょっと夕飯食べに行ってくる」

 

 朝から何も食べていないこともあってか、フィセルは食堂へと向かおうとする。そんな彼に思い出したかのようにエクレールが声をかけた。

 

「いってらっしゃい。そうだ、その指輪だがもらってくれ。私が持っていても仕方ないからな」

「そ、そう? ありがとう」

 

 じゃあ、何で買ったんだよ。と、ツッコミたいのを堪えてフィセルは部屋を出た。

 フィセルが食堂に着くと、会いたくない連中と遭遇してしまう。

 

「おやおや~? サボり魔のフィセル君じゃないかい!」

 

 食堂にいたのはラングの率いるグループだった。既に食べ終わっているというのに、

 

「……体調が悪かったのは本当だ」

 

 そもそもフィセルが授業を休んだこと自体が初めてだ。サボり魔などと呼ばれる筋合いはないだろう。

 相手にするものバカバカしいと思ったフィセルはそのまま夕飯を購入しに向かう。

 だが、ラングの一言によってその歩みを止めた。

 

「昨日、寮の裏手の森で膨大な魔力放出があった。あれ、お前だろ?」

「なっ」

「他の三流魔導士共だったら気付かなかっただろうな。こう見えても、俺は召喚魔法も得意なんだ。昨日の魔力の波長は召喚魔法のそれだった」

 

 魔導士は自分の属性に合った魔法を主軸として、補助のために簡単な魔法を覚えていることが多い。エクレールでいえば、雷魔法を主軸として回復魔法も使えるという具合だ。

 

「召喚魔法なんて古臭い、時間がかかる、何て言うが俺はそうは思わない。実質二体一で戦えるようなものだからな。ははっ、まったく他の連中は見る目がなくて困る。それに、この俺ならば魔法陣がなくても瞬時に召喚ができる。まあ、召喚魔法で俺に敵う者はいないだろうよ」

「はっ、敵う者ねぇ……」

 

 ゴルゴンゾーラを呼び出したことで召喚魔法の腕に自信がついていたのか、フィセルはラングの自慢を鼻で笑った。

 珍しく不敵な態度をとったフィセルにラングはこめかみをひくつかせる。

 

「何だよ。何か言いたそうだな?」

「いや、どこの誰とは言わないけど、井戸の中の蛙は哀れだと思っただけだよ」

 

 挑発的なフィセルの言葉にラングの取り巻き全員が「おい、やめろ!」と心の中で叫んだ。ラングは魔導士の中でも貴族であり、選民意識が特に強い。フィセルにバカにされたらどんなことをしでかすかわからないのだ。

 

「どうやら教育が必要のようだな。風よ……〝フォラータ!!!〟」

 

 案の定、ラングは食堂という閉ざされた場所で風魔法を使った。こんなところで使えば周囲にも被害は及ぶというのに、頭に血が上っていたラングにはそこまで考えることができなかった。

 そのせいか、力加減のされていない暴風はラングの取り巻き達を吹き飛ばし、フィセルに迫ってきた。

 

「くっ! 〝ファイアボルト!!!〟」

 

 短い詠唱で放たれた風魔法を躱せないと判断したフィセルは反射的ファイアボルトを唱えていた。躱せない以上、迎え撃つというのはフィセルのくせになってしまっているのだ。

 普通ならば、初級魔法のファイアボルトはかき消され、フィセルの全身が風の刃でズタズタに切り裂かれていたはずだった。

 しかし、予想に反してファイアボルトは暴風をかき消す程の爆発を起こしてラングを食堂の壁まで吹き飛ばした。

 

「は……?」

 

 その光景にフィセル唖然として固まってた。

 本来ファイアボルトは初級魔法であり、爆発を起こすほどの威力などないのだ。

 思考停止したまま動かなくなったフィセルに、壁に叩きつけられたラングは冷や汗を浮かべながら虚勢を張る。

 

「ふ、ふーん、どうやら新しい魔法を覚えたようだけど所詮は付け焼刃。この俺の足元にも及ばないだろう」

 

 初めてフィセルに自分の魔法を防がれたラングは、吹き飛ばされて気絶している取り巻き達を置いてそそくさと食堂から去っていった。

 

「よお、フィセル!」

 

 フィセルは未だに自分が何をしたのかわからず唖然としていたが、突然背中を強い力で叩かれたことによって我に返った。

 

「いやぁ、助かった。あのバカ貴族、いつまでも居座ってっから迷惑だったんだ」

「あっ、ブーダンさん……」

 

 振り返るとそこには豪快に笑うブーダンの姿があった。

 

「やっぱすげぇよフィセルは! 俺の知る中では最高の魔導士だ!」

「大袈裟ですよ」

 

 魔法を褒められたわけではないため、フィセルはあまり喜ばない。結局のところ、ブーダンがフィセルを気に入っている理由も魔導士なのに驕らないからというだけ。優秀な魔導士を目指すフィセルからしてみれば、人間性で評価されたところで良い気はしないのだ。

 

「もうお父さん、フィセルが困ってるでしょ?」

 

 フィセルが困った顔をしていると、乱れた椅子やテーブルを整えながらノワールがやってきた。

 

「ノワール。ごめんね、巻き込んで」

「フィセルは悪くないよ。でも、貴族のバカ共には困ったもんよね」

 

 怒り心頭といった様子で食堂を片づけるノワール。しかし、怒りに歪んだ顔が何かを思い出したかのように笑顔に切り替わった。

 

「それで、さっきのはどんな魔法なの?」

「いや、どんなっていうか……」

 

 ノワールの問いに難しい表情で考え込むフィセル。

 初級魔法ではありえない威力の爆発。

 これだけを考えれば十中八九ゴルゴンゾーラを召喚した影響だろう。

 

「僕にもよくわからないや」

「……そっか、じゃあ偶然新しい魔法を覚えたんだね! おめでとう!」

 

 どこか含みのある笑みを浮かべたノワールはそう言って食堂の片づけに戻っていった。

 

「ん、この紋様は……」

 

 そこでフィセルは自分の腕に禍々しい紋様が色濃く浮かび上がっていることに気がつき、一先ず寮へと戻ることにしたのだった。

 

「おかえり、フィセル」

「ただいま」

 

 寮に帰ると、部屋着に着替えたエクレールがいたので、フィセルは彼に紋様のことを相談することにした。

 

「エクレール、これ見て」

 

 フィセルが袖を捲ると、禍々しい紋様が肘のあたりまで伸びていた。紋様は右手の甲に融合してしまったトパーズの上に刻まれた使い魔の刻印から伸びている。

 

「召喚した日よりも紋様が伸びてるんだ。たぶん、それだけゴルゴンゾーラが僕の肉体を侵食してるってことだと思う。使い魔との繋がりが強過ぎるのも考え物だね……」

「フィセルの支配下には置けないのか?」

「それができればよかったんだけど……」

 

 元より魔法の才のないフィセルには召喚魔法を発動させるだけで手いっぱいだったのだ。使い魔の実体化も支配もできない召喚魔法など魔力の無駄でしかない。

 

「ん、待てよ? 支配はできなくても……いや、宿ってるのは僕の体だし……僕の体? そうか!」

 

 エクレールの言葉で何かを思いついたフィセルは慌てて寮を飛び出していく。

 

「ふふっ、慌ただしい人だ」

 

 その後ろ姿をエクレールは笑顔で見送った。

 寮から全力で走り続けたフィセルは一目散に図書館へと駆け込んだ。周囲から奇異の目で見られるが、彼はそんなことを気にしている場合ではなかった。

 

「ええっと確か精霊剣についての記述は……あった!」

 

 既に一度目を通した本だからか、棚の場所もページも暗記していたフィセルはすぐに目当ての項目を見つけることができた。

 

『精霊剣:召喚魔法によって宝珠に宿らせた使い魔の力を剣に付与する高等技術。しかし、近年では魔導士が剣を使うことはなくなり、精霊剣の技術を応用して作られた魔剣の普及と共に廃れていった』

 

 それから精霊剣など、使い魔の力を武器に付与する類の記述を一通り読んだフィセルは学園の校舎裏へとやってきた。

 

「ゴルゴンゾーラ」

『……何だ?』

 

 周囲に誰もいないことを確認すると、フィセルはゴルゴンゾーラへと話しかけた。

 

「お前、僕が指輪を外している時は体を乗っ取ろうとするんだよな?」

『無論だ』

「なるほど、それは好都合だ」

『何?』

 

 不可解なフィセルの発言にゴルゴンゾーラは訝しげな声をあげた。今の言い方では、まるでこれからアイオライトリングを外すのではないかと受け取れる。自分の憑依に抵抗していたというのに、一体どういうつもりなのか。ゴルゴンゾーラは怪訝に思うも、フィセルの肉体を乗っ取る気は満々だった。

 

「さあ、乗っ取れるもんなら乗っ取ってみろ!」

『小僧……調子に乗るな!』

 

 指輪を外した途端、フィセルは体が急に重くなったような感覚を味わった。まるで大荷物を抱えて登山しているようだ、とフィセルは感じた。

 

「〝ファイアボルト!!!〟」

 

 フィセルはファイアボルトを唱える。だが、それは火の玉としてではなく剣の形をした炎として右手から顕現した。

 普通ならばたかが初級魔法でこのような芸当は不可能だ。

 いくら彼がファイアボルトに関して錬度が高いと言っても、そもそもの魔法の効果としての限度がある。

 それを覆したのは間違いなく、彼に宿った新たな力――魔法の形状などを自由自在に変化させる万能の魔法、ゴルゴンゾーラの力だ。

 

「よし、成功だ!」

『貴様、まさかオレの力を!?』

 

 フィセルはゴルゴンゾーラが自分の体を乗っ取ろうとしたことを利用して、彼の力を体に纏うことに成功したのだ。原理は精霊剣と同じ。違うのは使い魔の憑依対象が自分という点だ。さすがのゴルゴンゾーラも、フィセルがこんな無茶をするとは思っていなかったらしく驚愕を隠せないようだ。

 

「どうだ、ゴルゴンゾーラ。お前が僕の体を乗っ取ろうとするなら、僕はお前の力を存分に利用させてもらうぞ!」

『クク……クハハ! これは面白い! よかろう、余興にはちょうどよい。貴様がオレの力を使うことは許そう。だが、貴様がオレの力を使おうとする時、オレは貴様の肉体を容赦なく奪う。努々忘れるでないぞ』

「はっ、そうこなくちゃ!」

 

 強力な魔法には代償が付き物だ。そのくらいの覚悟はフィセルにあった。

 実戦では肉体へ襲いかかる憑依の倦怠感は足枷となるだろうが、詠唱なしで魔法の形状自由自在に操ることができるのならば魔導士には天敵といってもいい存在になるだろう。

 

 それからフィセルは寮の門限も忘れて延々とゴルゴンゾーラの力を試し、後でエクレールにこっそり窓から部屋に入れてもらうはめになったのだった。

 




ボツにしたので続きません。

理由は中身がファンタジー版のヒロアカになるからです。なおプロットを読み返してもヒロアカでした……。

ちなみにこれを書いた当時はヒロアカを知らなかったのですが、知人におすすめされてヒロアカ見て絶望したのは懐かしい思い出……。


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