海賊王におれは・・・・・ならないから!   作:ダーク・シリウス

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湯浴み中の全裸で絶世の美女

おはよう、それともこんにちは?それともこんばんわ?俺の名前は兵藤一誠だ。突然何だが俺は変な事に巻き込まれたらしい。いきなり話の冒頭で何を言っているんだ?と思われるだろうがありのままを説明しよう。何も変わらない日常が突然一変するという体験や経験をした事があるだろうか?俺は勿論ファンタジー的な世界の人間であるためあるのだが・・・・・。

 

―――風呂に入ろうと脱衣所の扉を開けた矢先に、見知らぬ浴場に出てしまい湯浴みしているこれまた背中に何かの足跡、竜の足のマークのようなものを刻んでいる見知らぬ女と目が合った一瞬の沈黙。

 

「そのマーク、もしかして」

 

「・・・・・!?男!?」

 

濡羽色の長髪と瞳の女が俺を見るや否や敵視する目付きで睨んで「見たな」と呟いてきた。不可抗力とは言え、見ず知らずの女の裸体を見てしまったからには怒りを抱かれようと仕方のない事だが、彼女が顔も知らぬ者達の名を叫んで呼び寄せた。身長は優に2メートルは超えてマントを羽織り、水着のような衣装を身に纏っている蛇のように長い舌を口から出している緑色の長髪の女に、豊かな亜麻色で長髪の恰幅が良いどころではない体格で槍を持っている女の出で立ちに違和感を覚えた。

 

「姉様!」

 

「姉様一体どうしたの!?」

 

三姉妹?それとも慕って姉と呼んでいるのか定かではないが、彼女達も俺を見た瞬間に驚愕の面持ちをして臨戦態勢に入った。

 

「誰だあれは!・・・・・男!?男が何故この国に・・・・・!?」

 

「姉様!ローブを・・・・・!・・・・・一体何が起きたの・・・・・!?」

 

黒髪の女性は裸体を隠すバスローブを羽織る様に身に包みつつ、俺に注視する目線を向けてきながら事の経緯を口にした。

 

「背中を・・・・・見られた・・・・・!」

 

「「っ!!?」」

 

女性達がこの世の終わりといった風に目を瞠目し、敵意を隠さずに臨戦から攻撃の態勢に構えだす。

 

「―――では、死んでもらう他ないわね」

 

「え?背中を見たくらいで?―――いや、待ってくれ。全身全霊で謝るから、見たものは全て忘れる前提で俺の話を聞いてくれ」

 

「そなたが見た背中のこれはわらわ達がたとえ死んでも見られたくないものじゃ・・・・・!」

 

「アレが?何で?ただの入れ墨のような・・・・・」

 

「っ、見たもの全て・・・・・!墓場へ持ってゆけ!!『メロメロ甘風(メロウ)』!」

 

問答無用で両手を前へ、こっちに突き出しながらハートの形にした両手から波紋状のハートマークが飛び出して来て、当惑する俺に当たってしまうが・・・・・身体に何の変化も起きない。不思議で彼女に対して何がしたいんだ?と目で向けると彼女自身も当然の結果が起きず不思議そうにもう一度さっきの波紋状のハートマークを飛ばしてきた。でも、結果は変わらなかった。直撃する俺の体を通り過ぎて浴場の壁の向こうへと消えていく光景を一瞥して振り返り、攻撃してきた彼女と二人の女と一緒に『何が起きた?』的で疑問符を浮かべながら首を傾げた。

 

「なぜ石化せぬのじゃ・・・・・!?わらわの湯浴みの姿を見ても何ら心が動じておらぬのか!?」

 

「そんなバカな事はないわ姉様!姉様の裸体は老若男女問わず見惚れる美しさ!」

 

「おそらく死への恐怖心が凌駕したのだわ、情けなくも運の良い男・・・・・!」

 

物凄く動揺して何だかワケのわからない事を口にする三姉妹なんだけど、今の攻撃が対象を石化にするもんだったとはちょっと信じられず、危機感を抱かなかった俺に対して呆れて何とも言えなかった。

 

「あー・・・・・抵抗はしない。捕まえるなら構わないけど、俺の話だけは耳を傾けてくれないか?」

 

と、抵抗せずに降伏する俺だったけど・・・・・・処刑場に連行されてしまった。

 

「きゃ~~~~♡蛇姫様~~~~~♡」

 

「マリーゴールド様~~~~~♡」

 

「サンダーソニア様~~~~~♡」

 

処刑場を取り囲む観客席には女・女・女・女。女しかおらず処刑をする舞台の眼前に三人が居座る高台の席に座っていて、更にその奥には大きく『闘』という文字が描かれた外壁。立たされてる現状の俺の心境はとても複雑でならない。一方的に殺されるのは御免蒙るし話し合って平和的解決を臨みたいのに・・・・・。そんな俺は複数の蛇に拘束されている状態で事情聴取を行われ始めた。

 

「―――――では聞くが『男』・・・・・!!!そなた何の目的でどうやってこの島へ入った・・・・・!!」

 

「島?国?ここは何て島で国なのかすら俺自身も分からない。扉を開けた矢先にさっきの浴場にいたんだから」

 

「ウソをつけ!その様な滑稽話でゴマかされはせぬ・・・・・狙いがあるハズじゃ」

 

「狙い?いや、無いけどここはどこなのか教えて欲しいぐらいだ。分かったら即座にこの島から出ていくよ」

 

淡々と正直に嘘偽りも無く返答していくが、俺に対する疑心は少しも晴れていないようで彼女は見下した目で宣告した。

 

「・・・・・生きてここを出られると思うな。死は免れぬ・・・・・」

 

「おいおい・・・・・平穏に事を進めれないのか?えーと、蛇様だっけ?」

 

「男が気安くわらわの名を口にするでは無い・・・・・・『バキュラ』を闘技台へ!」

 

駄目だ、聞く耳を持ってないどころか俺を殺す気満々だ!

 

「ここは戦士の国アマゾン・リリー。強い者こそ美しい・・・・・精一杯戦って散るがよい・・・・・わらわ達が見届けてやる」

 

あ、国の名前教えてくれてありがとう。と言ったら無視されて処刑場と思ったこの闘技台に一匹の獣が現れた。この獣、黒豹が腹を空かしてる様子で舌なめずりする。ただ、俺が知っている黒豹より三倍ぐらい大きい。どうなっているんだ?

 

「その黒豹の名は『バキュラ』。この国の皇帝に代々処刑人として仕える肉食獣・・・・・処刑後は人の骨一本も残らぬ」

 

蛇が豹から逃げるように身体の拘束を解いて去っていっても、胡坐を掻いたまま高台にいる蛇姫に乞う。

 

「なぁ、俺は情報と知識が欲しいだけなんだ。お互い何も知らないままこんなことになってるんだし、話し合わないか?穏便に済ませたい」

 

「断わる。この国は男子禁制、数百年続くこの国の絶対の規律だ。ましてや一度入れば即処刑するのがこの国の決まりであり掟じゃ」

 

この国、この国と主張する蛇姫はこの国の中でトップに君臨する者だともう察した。逃げるだけなら簡単だけど、何も知らないまま逃げたら彷徨うだけだし・・・・・流れに身を任せるしかないか?

 

「ゆけバキュラ!」

 

「ガルルルルルルルルルァ!!!」

 

牙を剥いて襲いかかってくる黒豹。周囲の女達の反応を見る限りでは、俺が食い殺される事は確定、敗北は当然の姿勢で見守っている。

 

「俺は死ぬ気も殺されるつもりはないから、抵抗させてもらうぞ」

 

そんでもって、モフモフモコモコは俺にとっては宝だ。怪我をさせるような真似はしない、したくもないから―――ただの威圧で豹の意識を奪った。ついでに三姉妹にも周囲の女達にも軽く放ってみたら、客席にいる一部の女達がバタバタと気絶していく。

 

「キャー!」

 

「戦士達が気絶していく!」

 

「・・・・・!?これはまさか・・・・・!!」

 

・・・・・?思っていた反応と一部違うな、どうでもいいけど。

 

「もう終わりか?もしそうなら今度はこっちの番だ。俺の質問に応えて欲しい」

 

「・・・・・思い上がるな男。バキュラを倒した程度でそなたの死刑は変わらぬ」

 

「だーかーらー、人を簡単に死刑するのはどうかと思うぞ。ちょっとは人の話を聞いてくれっていくら偉いからって横暴過ぎるぞ」

 

辟易する思いで蛇姫に話しかけても変わらぬ思いと態度で鼻で笑われた。

 

「―――わらわは・・・・・何をしようと許される・・・・・・!!なぜなら・・・・・」

 

濡羽色の髪を触れながら微笑する蛇姫。

 

「そうよわらわが美しいから!!!」

 

客席にいる女達が目をハートにするほど色めきたつ。すげぇ、目がハートになるところなんて初めて見た!この国じゃ蛇姫はアイドル的存在なんだな。

 

「・・・・・ふふ、そなたも・・・・・そうであろう・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

美感的のことを問われているんだろうな。是か非か答えれば是だけど・・・・・。

 

「確かに美しいと思うけどさ・・・・・・ぶっちゃけ、お前より美しい女は他にも知っているから」

 

特に美の化身と自他共に称している女神がトップだろ。それでも好きな女性の方が綺麗だと思うけどな。

 

「ああ、それと・・・・・今の発言・・・・・個人的に物凄くムカツクからお前のこと少し嫌いだわ」

 

「!!!?」

 

蛇姫が両手を胸に当てて酷くショックを受けた様子で仰け反った。

 

「そんなバカな事はない・・・・・わらわの虜にならぬ男などおる筈がない・・・・・あの男の存在にわらわは堪えきれぬ」

 

「おる筈がないって、全世界の男を虜にしたつもりでいるならそいつは思いあがりで傲慢だぞ」

 

「はうっ!?」

 

またショックを受けて顔色が悪くなった蛇姫。どれだけ自分に自信があるんだこの人は?呆れる俺に客席から「死刑!」「死刑!」「死刑!」と大ブーイングの嵐が・・・・・。

 

「マリーゴールド!サンダーソニア!」

 

高台から二人の姉妹が降りて来て俺の目の前に立つ。

 

「あの男の首を取るのじゃ!」

 

蛇姫の命を受けた彼女達に臨戦態勢の構えを取る俺の目を見開かせた。首が長くなり出し、髪も更に伸びて身体の体格が人から別の何かに変わり・・・・・。

 

「出たわ!ゴルゴンの呪い!」

 

「妹君達の蛇穴(さらぎ)の舞いが始まる!!」

 

『死刑!』『死刑!』『死刑!』

 

彼女達の体は胴体が長い蛇のように変わり果てた。神器(セイクリッド・ギア)の能力・・・・・じゃなさそうだ。蛇女の魔物の名前が客席から挙がったけど、どうなってるんだ?

 

「きゃ~~~~♡何て荘厳な姿っ!!」

 

「これこそが怪物ゴルゴンを倒して得た強さの戦士の証!」

 

「呪われた妹君達もまた素敵♡」

 

呪われた?うーん、やっぱり情報が少なさ過ぎてわからないことだらけだな。客席の女達は「死刑!」を連呼して場を盛り上げる声を発し続ける最中、王者の立ち振る舞いをする蛇姫が高らかに叫んだ。

 

「やれ!!サンダーソニア!マリーゴールド!女ヶ島侵入の大罪を!わらわの侮辱した罪を!極刑『武々』にて知らしめよ!」

 

「うふふ・・・・・丸飲みにしちゃおうかしら?」

 

「締め殺しちゃおうかしら?」

 

事態が悪化する一方だ・・・・・。

 

「お前等を倒したら俺の質問に応えてくれよ」

 

せめてそうでなければ困ると思って言ってみたら客席から哄笑の声が湧きあがった。おかしなことを言ったか?と不思議に思って首を傾げてしまう俺にマリーゴールドとやらが話しかけてきた。

 

「―――まだ命を諦めてないのなら教えておくけど、客席と闘技台の間の溝には落ちない方が良いわよ。落ちても良いけど・・・・・そこは剣で埋め尽くされてる」

 

どういうことだ?と確かめに視線を闘技場から落とすと剣でズラリと埋め尽くされている底があった。生身の人間が落ちたら運が良くても重症、最悪だったら死だろう。

 

「さ・・・・・始めましょ」

 

『死刑!』『死刑!』『死刑!』

 

公開処刑が始まった。巨大な蛇と化した姿で偃月刀を激しく振るってきた。気で具現化した双剣で応戦して戦い始める。客席からマリーゴールドを声援する声が湧く最中、彼女の口から何かを吐いた。上半身を仰け反らせてかわすと闘技台の柵が嫌な音を立てて溶けた。

 

「毒か?あぶねぇな」

 

「猛毒よ!残念っ!」

 

「どっちも同じだろ!―――川神流っ」

 

硬く握り締めた拳でマリーゴールドに殴りかかろうとした俺の背後から、蛇の尾が絡まって来て見動きを封じられた。

 

「マリー、私も遊ばせてよ」

 

尾だけ動かして寛いでいるサンダーソニアに捕まり万力のごとく締め付けられる―――がっ!身体を小さくして瞬時に脱出!

 

「男が、小さくなった!」

 

「男ってそんなことできるの!?」

 

客席の女達が驚きと好奇心で俺を見てくる。まぁ、できなくはないと思うぞ。元の大きさに戻れば「身体が大きくなった!」と叫ばれる。

 

「今度は優しく包んでくれよ。蛇の身体の肌触りは心地いいんだからさ」

 

「なら、今度はそれを感じる暇もなく絞め殺してあげるわ」

 

「できるものならやってみろ」

 

不敵の笑みを浮かべて俺を四人ほど増やした。魔法による分身体達で闘技台に増える俺に対してこの場にいる一同が目を見開かせる。

 

「男が、増えた・・・・!?」

 

「落ち着きなさいマリー、きっと私達に幻を見せているだけだわ」

 

―――本当に、そう思えるのか?四人の分身達がバッと駆け出して二人にそれぞれ二人ずつ攻撃を仕掛けた。幻では無いぞ。魔力の塊の分身だから実体化して物理攻撃も可能なんだ。

 

「くっ、なんなのこれは・・・・・っ!?」

 

「男め・・・・・っ!」

 

分身に翻弄されて本来の動きと攻撃が中々通じず、一人を相手してたらもう一人に攻撃されるというシビアな展開に闘技台の周囲は唖然の雰囲気で静寂していた。

 

「こうなったら、本物を殺してしまえば!」

 

傍観者気分で突っ立っている俺にサンダーソニアが睨視してくる。何か仕掛けてくる様子を見守っていたら豊かな髪が意思を持っているかのように蠢きだした。

 

「蛇髪憑き『八岐大蛇』!」

 

髪の毛を七匹の蛇と化して襲いかかってきた。本人も含めて八岐/大蛇なのか?牙を剥いてくる髪に俺がかわすと闘技台の柵を噛み砕くという有り得ない事実に驚嘆する。ただの髪の毛が変化した蛇だというのに、あれではまるで鉄の牙に等しい。

 

「キャー!行けー!サンダーソニア様~~~~っ!!!」

 

客席からの声援に包まれる中、それからも連続で襲ってくる蛇髪をかわし続ける俺に、意識を向けてる彼女の目と鼻の先で現れた分身体。二人がガッとサンダーソニアの顔を手で添える様に掴むとそのまま闘技台の床に思いっきり叩きつけた。一方マリーゴールドの方は必殺技にまで昇華した正拳突きを放つ二人に得物の柄を折られながら殴られ、衝撃を受け止めきれず上半身が仰け反り錐揉みしながら吹っ飛んだ。場の盛り上がりはすっかり沈黙で静まり返って目の前で起きた光景を信じられないと開いた口が塞がらない女達が多く見受けられる。

 

「・・・・・ソニア!マリー!・・・・・そなた達、一体何を遊んでおるのじゃ・・・・・!!!」

 

中でも一番この結果に許し難くお冠な蛇姫は、憤怒が籠った声音を言葉に宿して妹等に話しかけた。委縮する二人は恐れ戦きながらも処刑の実行を継続する。マリーゴールドが手の平サイズのマッチをどこからともなく取り出し、火を灯したと思えばその火で全身に纏い。

 

「蛇髪憑き『炎の蛇神(サラマンダ)』!!!」

 

炎と化した髪を燃え盛る二匹の蛇に実体化させた彼女に対してサンダーソニアも髪を『八岐大蛇』にして、俺に逃げ場を与えない。

 

「これ以上の無い攻撃!」

 

「どんなに増えても絶対に負けないっ!」

 

沈黙していた客席も昂る高揚感と、信用と信頼に満ちた確信を二人に送る声援が湧く一方。今日まで敗北した彼女達の姿を見たことないからだろうが・・・・・相手が最悪だったってことを教えようか。

 

迫りくる蛇髪達の目前で真紅の長髪が金髪に、片目の金が蒼と翠のオッドアイに、背中から金色の六対十二枚の翼を生やし、頭上にも金の輪を浮かべた姿に変えては、鋭利な刃物と化した翼で彼女達の髪の毛を切り刻んで攻撃を無効化。

 

『!!?』

 

また客席が絶句で開いた口が塞がらない程に静まり返った。二人の蛇女も絶句で動きを止めてる間に翼で長い体に巻き付けて引き寄せた。そうすれば肩をぶつけ合うように接触するサンダーソニアが燃え盛っているマリーゴールドから炎が移ってしまい。

 

「きゃあああああ~~~~~っ!!熱い!!!」

 

「しまった!ソニア姉様っ!!!早く離れてっ!!!」

 

燃える己から突き離して遠ざけるも、炎の熱で身悶えるサンダーソニアを今の状態では助ける事が出来ず見守ることしかできないマリーゴールドに異変が起きた。

 

「え!?」

 

身体がガク!と自分の意思に反して動き、引っ張られる。その理由は炎に包まれてじたばたと暴れてるサンダーソニアの―――尾と自分の尾が硬く結ばれている事だと気づくマリーゴールド。四人の分身体達がハイタッチし合ってるのを余所に、二人は今も尚も身に起きている事態を収拾することができないていた。

 

「熱い!!熱い助けて!!!」

 

「待って姉様っ!!私まで・・・・・!」

 

服に引火し身を焦がす炎によって、苦痛でサンダーソニアが周りが見えずに激しくのた打ち回る先を察知したマリゴールドが焦燥に駆られて疾呼した。

 

「ソニア姉様!!危ないそっちは剣の溝!客席に掴まって!」

 

辛うじて妹の声が耳に届いたのか、のた打ち回っていた身体が客席と闘技台の間に落ちる寸前で我武者羅に両手を伸ばして客席の縁を掴んで落下を防いだ。客席からどよめきが生じてサンダーソニアの安否を気に掛ける声が聞こえる時・・・・・。今まで彼女を苦しめていた炎が消えていたが、身に包んでいた衣服が焼失していた事に気づく。

 

『そなたが見た背中のこれはわらわ達がたとえ死んでも見られたくないものじゃ』

 

脳裏に過った言葉を思い出したら身体が動いた。宙に浮いてサンダーソニアの背中に翼を巻き付け、あのマークを隠した。

 

「男が追い打ちをかけてきた!!!」

 

「非道な!!!」

 

「ソニア様を串刺しにする気よ!!!」

 

ブーイングの嵐が客席から聞こえようと気にせず、彼女の背中に乗って佇む。

 

「男・・・・・何をっ・・・・・!!!」

 

「暴れるな。お前等が俺を殺したくても、俺はお前等を殺す気はない」

 

「生意気な!!マリー!!今の内にこの男を!!!」

 

自由が利くもう一人にサンダーソニアが催促するものの、マリーゴールドは俺達の様子を見てその場から動けずにいた。何時までも攻撃しない妹に疑問と苛立ちで振り返りながらもう一度催促の言葉をかけた。

 

「何をしてるの!?マリー!!」

 

「無理よソニア姉様・・・・・!!」

 

妹の言動に訝しげるサンダーソニアが耳にした。

 

「その男は私達を守っているから・・・・・!」

 

守っている?自分を?理解し難いと物語っている彼女の顔は客席からのざわめきの方へ向け始めた。

 

「見て!!サンダーソニア様の衣服が燃えて背中がはだけてる!!」

 

「あの男が翼を解いたら『ゴルゴンの目』が露わに!!」

 

彼女等の言葉に自身の状態を改めて気付いたサンダーソニアの力が徐々に抜けていく。不用意に殺せなくなった隙に問い掛ける。

 

「お前ら、その背中を死んでも見られたくないんだろ。だから暴れるな」

 

「!!!」

 

次の瞬間。高台にいる蛇姫が疾呼した。

 

「『武々』は終わりじゃ!!!ゴルゴンの目が晒される前に!!!みな会場を出よ!!!」

 

女達は蛇姫の言葉に呼応して一斉に闘技場の外へと駆け出して行った。一人も残らずいなくなるまではずっと変わらない姿勢で待っているとサンダーソニアが訊ねてきた。

 

「私は今、戦っていた敵だぞ・・・・・何故庇うのだ」

 

「さっきも言っただろ。お前等が死んでも見られたくないモンだろと。だからそれは俺との勝負は別の話だ」

 

しばらくして、闘技場から三姉妹と俺以外の者は誰もいなくなった。

 

「で、次はお前が相手をするのか?」

 

「・・・・・」

 

戦意を喪失した二人は戦う意思はもうないと蛇姫に向かって正座をしている。サンダーソニアの背中はどこにあったか知らない布をマリーゴールドが持って来て隠してる。謝罪してちょっぴり悔しそうに言うが蛇姫は妹達の言葉を気にせず強張った面持ちで言い返してきた。

 

「もうよい―――そんな気分ではない・・・・・」

 

「そっか・・・・・じゃあ、これで話を聞いてくれるんだな」

 

天使化を解いて俺も戦意を解く。ようやく質問攻めが出来ると踏んだ矢先に「城にこい」と言われた。

 

―――†―――†―――†―――

 

『皇帝の広間』

 

闘技場を後に俺は、この広間に連れて来られた。尊厳溢れ、京都の歴史ある建物のような木造で作られていた。天井を支える幾つもの支柱にカーテンが設けられていて、サンダーソニアとマリーゴールドと並んで腰を下ろしている俺の目の前にはカーテンで閉ざされたキングベッドよりも大きい寝具が置かれている。俺の頭上には大きなシャンデリアもあり、本当にここはどこなのか見当が付かないでいると二人から話しかけられた。

 

「・・・・・あなたにはお礼を言わなきゃね・・・・・ありがと」

 

「背中のものを見られたら私達はもうこの国にはいられなかった・・・・・」

 

「そこまでのものなのか?俺は現状が把握できていない程無知だからよくわからん」

 

バツ悪そうに話すとカーテンの向こう側から蛇姫が声を掛けてきた。

 

「入ってよいぞ・・・・」

 

「ん?」

 

「中に入れ男」

 

中に?二人を交互に目を向けると無言で頷かれ、カーテンの奥へと身を潜らせてみると・・・・・何故か上着を脱いで裸になってる蛇姫の姿が目に飛び込んできた。

 

「・・・・・痴女?」

 

「相変わらず・・・・・無礼な反応じゃ。まあよい・・・・・」

 

後ろへ右腕を回して背中に流れ落ちている濡羽色の長髪を横にずらした姿勢で、浴場で見たあのマークを見せつけてきた。

 

「―――このマークを・・・・・そなたは知っておるようじゃが、どこで知った。この印の意味が分かるか・・・・・?」

 

蛇姫からそう問われて俺は即座に言い返した。

 

「いや、単純に竜の蹄のマークかなって思っただけで何の意味があるのかさっぱりわからん」

 

「・・・・・そう、なのか」

 

背中に焼かれて刻まれた烙印に込められた意味は本当に分からない。それが死んでも見られたくない印だと言われてもピンと来ない俺に蛇姫は振り返った。

 

「そなたの感想は的を得ておる。が、知らぬのであれば・・・・・よい」

 

「そう言われると逆に気になるぞ。そのマークで処刑されかけたんだからな」

 

「それは、すまぬことをした・・・・・。だが、そなたにソニアの背中を隠してもらえなければ、わらわ達はこの国にいられなくなっておった。それだけはそなたに感謝している」

 

そこまで国中の女達が忌避するほどのものなのか?怪訝な思いで再度訊ねた。

 

「本当に誰にも死んでも見せられないものなんだな?」

 

「・・・・・そうじゃ」

 

「んー・・・・・だったら消してやるよ」

 

なに?と返してくる蛇姫を抱きしめる形で背中に腕を回して竜のマークに手を触れる。

 

「な、何をっ・・・・・!!!」

 

「ジッとしてろ。直ぐに終わる」

 

手に淡い光を纏って癒しの魔法を放つ。魔法的なモンだったら別の方法でしなくちゃならないけど、ただの烙印だったら可能だ。蛇姫を抱きしめて数秒、彼女から離れてこう言う。

 

「背中の烙印を消しておいた。これなら間違って誰かに見られたとしても問題ない」

 

「「「っ!!?」」」

 

信じられないと目を見開く蛇姫。姉妹を呼んで背中のマークを確認してもらい・・・・・。

 

「姉様・・・・・消えてる、烙印が消えてるわっ・・・・・!!!」

 

「信じられない・・・・・一体どうやって・・・・・・!?」

 

事実であると二人に大きな鏡を手渡し、蛇姫にも背中の状態を認知してもらった。健康的な肌色の背中にあのマークが消えているところを知った蛇姫は追究してくる。

 

「そなた、どうやって烙印を消したというのじゃ・・・・・」

 

「それはこれからお互い話し合えばすぐわかることだよ」

 

「ならばわしもその話し合いに交ぜてもらおうかニョ」

 

第三者の声が皇帝の広間に届き、杖と化した蛇を携えて小人のような老婆が何時の間にかそこにいた。

 

「ニョン婆・・・・・・!!」

 

「どちら様で?」

 

「アマゾン・リリー先々々代皇帝グロイオーサ様よ。皆からニョン婆って呼ばれているわ」

 

マリーゴールドに教えてもらったが、何故名前じゃなくてニョン婆って呼ばれるのか気になるところだが・・・・・?それにそんな人物がどうしてこのここにいるんだろうか。

 

「おぬし、蛇姫達の背中の烙印の意味を知らぬまま消したようじゃニョ」

 

「ああ、悪いか」

 

「良いも悪いも、おぬしは知って後悔せねば良い話じゃ」

 

なんだ、教えてくれるのか?ニョン婆へ振り向いたらハンコックが憤怒で叫んだ。

 

「ニョン婆、余計な口出しはするな・・・・・っ!!」

 

「この男の器を知らず皇帝が何たるか蛇姫よ。そなた、まことに三人の背中のマークを知らんニョならば教えようか」

 

教えてくれるなら聞かせて欲しいと首肯すると、ニョン婆も小さく頷いて口を開き語ってくれた。

 

「蛇姫達の背中にあった烙印の意味は、『天駆ける竜の蹄』・・・・・『世界貴族』の『天竜人』の紋章じゃ」

 

「天竜、人?」

 

「本当に知らぬとは、どこのド田舎に暮らしておったニョかおぬしは?」

 

と、呆れられた感じで言われたがしょうがないだろうと自己完結する。

 

「その紋章には、『世界貴族』に飼われた者に焼き付けられる一生消えることのない〝人間以下〟の証明の意味も込められておるニョじゃ」

 

「・・・・・」

 

死んでも見せたくない、見られたくない蛇姫達の気持ちがようやく理解したところで俺の中で天竜人に対する怒りの炎が燻ぶった。

 

「蛇姫達の背中の紋章が表に曝した瞬間。この島にはおらぬところであったが、そなたが消したことでその不安も無くなったっと過言ではない」

 

そうか・・・・・だったら不公平はだめだよな。そう思いながらサンダーソニアとマリーゴールドへ話しかけた。

 

「二人の背中のマークも消してやろうか?」

 

「で、できるの?姉様のように私達の背中のものまでも・・・・・」

 

「できるから言ってるんだ。何時までも嫌な思い出と共に刻まれたマークを背負うのは嫌だろ?」

 

「・・・・・貴方は一体、何者なの」

 

だから話し合いがしたいって始終言ってるじゃないか、と口にしながら二人の背中にも蛇姫のマークと同様に消してやった。後に感謝の言葉を送られるが気にするなと言った。

 

「それで男、感想はどうなのだ?」

 

「質問を質問で返すけど、今でも天竜人は奴隷を?」

 

「そうじゃな。女ヶ島から一週間以上の航海で辿り着く島、シャボンディ諸島に奴隷を売買している上に天竜人も奴隷を買いに訪れる事は度々ある。故に数え切れない数の奴隷を抱えて暮らしておるのは間違いないニョ」

 

「・・・・・そうか、じゃあ俺の感想はこうだ。―――天竜人って何処に住んでる?」

 

「ニャんじゃそれは?聞いてどうする?」

 

どうするも何も、決まってるだろ。

 

「人の人生を蔑ろにする奴から助け出した後、完膚なきまで潰すからだ」

 

「おぬし、自分が何を言っておるニョか分かっているニョか。世界を敵に回すもニョじゃ」

 

「上等だ!」

 

「「「!?」」」

 

面を食らった風に驚く三人を気にせずニョン婆に食って掛かりながら怒気を発する。

 

「人が人を買う何て動物や畜生じゃないんだぞ、世界や神が許しても俺は許せない!世の中は理不尽で溢れているだろうが、それでも人権を奪い人間扱いせず飼い殺しするような連中を野放しなんてできるか!」

 

「天竜人には誰も逆らわない―――それが世界の鉄則でもか」

 

「たかが天竜人がなんだ、神でも俺はァ逆らうぞ」

 

ニョン婆と面と面を向かい合って本気で言い、真剣な眼差しも送って断言する。

 

「だから居る場所を教えてくれ」

 

「・・・・・」

 

「それかシャボンディ諸島だな。あそこで奴隷を買いにきているなら何時か会えるだろうし」

 

俺が本気で言っているのが分かったのか、嘆息した風に息を吐いて頷いた。

 

「天竜人がおる場所は―――」

 

海軍本部『マリンフォード』の真後ろに聳え立つ、世界の海を二つに分断する形で隆起している赤い土の大陸(レッドライン)の頂上に世界貴族が住んでいる聖地マリージョアにいると教えてくれた。

 

「・・・・・そなた、本気でマリージョアへ行くのか」

 

「ああ、冗談じゃないぞ」

 

「天竜人に手を出せば世界政府は黙っておらんし、海軍本部の大将が現れるぞ」

 

「海軍大将?」

 

「海軍の最高戦力の者じゃ。人数は三人で三大将とも称され、全員自然(ロギア)系の悪魔の実の能力者・・・・・そなたがいくら強かろうが敵わぬ相手じゃ」

 

悪魔の実の能力者?なんだそれ?聞いた事もないなと風に首を傾げる反応を示せばニョン婆が教えてくれた。

 

「それすら知らんニョか?悪魔の実とは摩訶不思議な能力を宿っており、その実を食べると二度と海を泳げない代償に特殊能力を得るニョじゃ」

 

カナヅチにならなくちゃ摩訶不思議な能力を得られないって・・・・・アホの極まりじゃないか。

 

「んー、もしかして三人共悪魔の実を食べた?」

 

「ええ、そうよ。私とマリーは『ヘビヘビの実』を食べ、姉様は『メロメロの実』を食べた能力者よ」

 

サンダーソニアが教えてくれた。今まで何かの能力的な攻撃や言動をしてきたから何となくそう思ったけど、やっぱりそうなのか。

 

「二人はともかく、蛇姫はどんな効果の能力なんだ?」

 

「わらわに見惚れた者を石にする」

 

「あーうん、だから俺には効かないわけだ」

 

蛇姫に対して一瞬でも見惚れてないから石化にならない。ただ、その悪魔の実とやらは知らないから単純に考えてはダメそうだ。

 

「話を戻すけど、俺は悪魔の実の能力者じゃないんだ」

 

「では、どのようにしてあのような身体の変化が起きるのじゃ?」

 

「んーと、話しても構わないんだけど・・・・・信用してもらえないな。滑稽話として片付けられるのがオチだ」

 

「それを決めるのは話を聞いた後でする。申せ」

 

と、催促されたから身の潔白も兼ねて俺の素性を明かすのだった。

 

「・・・・・異世界から来た異邦人じゃと?」

 

「信じられないだろ?だから別に信じなくても良いさ。信じてもらおうなんて考えてないし」

 

「仮に事実だとして男・・・・・どうやってこの島に異世界から来たというの?」

 

「何度も言ってるじゃん。風呂に入ろうと扉を開けたらここに入ってしまったって。どうしてそうなったのかもわからないままなんだよ」

 

嘆息し己の身に起きた状況を未だ分からないままの状態の俺。さっさと色々と把握したいから教えを乞おうと口を開いたところで、蛇姫が俺より早く話しかけてくる。

 

「・・・・・そなたにはまた感謝せねばならぬな。一生()せないわらわ達の傷を()してくれた」

 

「礼は良いから話し合おうよ。俺、今の状況と状態が把握できずに困ってるんだ」

 

「そればかり求めるな。何か不都合でもあるのか?」

 

「物凄くあるんだ。家の浴場に入ろうとしたらこの島に来てしまったんだぞ。元の家に戻れない状態だし、もう嫌な予感しか考えられないんだ」

 

肩を落として首を垂らす俺に三姉妹は不思議そうに視線を向けてくる気配を感じる。

 

「そなたの心情はよくわからぬが・・・・・わらわ達が知る限りのことであれば何でも問うがよい」

 

「ああ、そうさせてもらう。聞きたいことは山ほどあるから俺が納得するまでは終わらないと思ってくれ」

 

それからの俺はマシンガンのようにあれこれと蛇姫達に質問攻めを繰り返した。そしたらどうだ・・・・・。十分

後の俺は・・・・・物凄く落ち込んだ。床に沈む勢いで落ち込んだ!

 

「・・・・・・」

 

「男・・・・・大丈夫であるか。この世の終わりとばかり顔が暗く表情が失っておるぞ」

 

「・・・・・他にどんな風に見えるんだよ。見えなきゃ眼科に行け」

 

「「が、がんか・・・・・?」」

 

・・・・・・そうか、そうなのか・・・・・何で俺はこんな目に遭うんだろうか・・・・・。

 

「チクショウ・・・・・何だよ大海賊時代って、何世紀前の話なんだよ・・・・・おもっきし異世界に来てるじゃん。何で風呂に入ろうとしたら異世界に入ってしまったんだよ俺は・・・・・滑稽過ぎるだろ」

 

―――と、以上が俺自身とんでもない事に巻き込まれた経緯であった。これから先俺はどう生きていけばいいのか、皆のところに帰れるのか不安で堪らない!

 

「聞きたい事はもう無くなったか?」

 

「いや、まだあるが今日はもう聞かない。今度はそっちが俺に聞きたい事があるなら何でも聞いてくれても構わないぞ」

 

「では問おう。そなたは天竜人の一件を終えたらどうする気でおる。行く宛てや帰る場所はあるのか?」

 

「ない。この島から出てもどこへ行けばいいのかわからないぐらいにな」

 

「本当にそなたは何者なのじゃ?」

 

「俺が何者って、お互い自己紹介も名乗ってすらないんだからそれこそわからないだろ?」

 

なぁ?と蛇姫の妹二人にも同意を求め、俺から名乗る。

 

「俺は兵藤一誠って言うんだ」

 

「ヒョウドウ・イッセイ?不思議な名じゃな。・・・・・わらわは女ヶ島アマゾン・リリーの現皇帝にして九蛇海賊団の船長ボア・ハンコックである。お前の隣に居るのは、わらわの妹のマリーゴールド、サンダーソニアじゃ」

 

皇帝に海賊団の船長って・・・・・凄いなおい。女帝ってことだろ。また俺はとんでもない人物と知り合いになったもんだよ。

 

「兵藤一誠といったな・・・・・。そなたは身体が小さくなったり奇怪な姿に変わるとは複数の悪魔の実を食べた者か?」

 

「違う。俺の力は悪魔の実の能力ではなくて神の恩恵みたいなもんなんだよ」

 

「神の恩恵?」

 

「うん、元の世界には色んな神様が実在していてな?その中の一人の神様が人間や人間の血を流す異種族限定で摩訶不思議な能力―――『神器(セイクリッド・ギア)』って力を宿したんだ。ただし、その能力を自由に扱うには様々な環境と切っ掛けが必要なんだけど、それが千差万別で大半が自分の身に不思議な能力が宿っている事を知らず一生を終える人間が多い」

 

と、当然の常識として教えれば「その恩恵を得ても海を泳げるの?」と聞かれた。

 

「泳げるぞ?」

 

「能力が使えない事は?」

 

「無い方では無いな。能力次第でそういう能力を使えなくする能力も存在するし」

 

異世界に興味を持ったマリーゴールドとサンダーソニアからの質問を答え、会話の花が咲き始める。ハンコックも時折話に加わって共に話し合い時間を過ごすと、不意に現在立たされている俺の環境の事を言われた。

 

「話を聞く限り、そなたは衣食住に困っておるのが現状であるな」

 

「そうなるな。奴隷達の解放と天竜人の件が終わったら近くの島、シャボンディ諸島ででもしばらく暮らすとしようかな。この世界はどんなところか分かったし」

 

場所教えてくれないか?と頼む。ここは男子禁制の女人国だから何時までも長居はできないはずだ。皇帝の立場でも掟や規律を安易に破る事もできないと思っていたら隣から

 

「因みにシャボンディ諸島ってどんなところだ?」

 

「年がら年中地面からシャボン玉が出る島よ。そのシャボンを特殊な方法で加工・特産品の道具として売られているわ」

 

「へぇ、そんな島なんだ?何日ぐらいで辿り着く?」

 

「一週間以上は掛ると思った方がいい」

 

そのぐらいだったら半日で辿り着くか?まぁ、行ってみれば判るか。

 

「んじゃあ、海軍本部とその島の方角は?」

 

「おぬし、まさかもう行く気でおるニョか?」

 

「善は急げって諺があるんだ。それにここは男子禁制の島なんだし、俺がいたら不味いだろ」

 

正論を言ったつもりが、サンダーソニアとマリーゴールドが何とも言えない表情で顔を見合わせ、ニョン婆は無言になりハンコックはジッと俺の事を見つめてくる。

 

「よもや、泳いでいくわけではあるまいな」

 

「空を飛んで行くけど?」

 

天使の翼を生やしてバサバサと主張する。納得したが神妙な面持ちとなったハンコックから提案を受けた。

 

「そなたの心遣いは感謝するが、わらわ達から恩を返したい。九蛇海賊団の船で送ってやろう」

 

「海賊の船で?途中で海軍と鉢合わせしたら俺も海賊の仲間として認識されやしないか?」

 

「大丈夫じゃ。わらわは世界政府が公認した王下七武海という肩書を持つ海賊の一人じゃ。海軍に捕まる心配はない」

 

「何かまた知らない単語が出てきたな。正義の味方が海賊を雇うってどういう理屈?」

 

ニョン婆が説明を買って話してくれた。

 

「異世界から来たそなたは知らニュ話じゃ。この世界には海軍本部、王下七武海の他に『偉大なる航路(グランドライン)』後半の海『新世界』に皇帝の如く君臨する三人の大海賊達がおる。その戦力は極めて強力かつ大規模であり、この三人を食い止めるための力として海軍本部・王下七武海が並ぶほどなニョじゃ」

 

一大勢力だけでは三大海賊を相手にできないってことか。海賊の手も欲しいほど強いなんて興味が湧いてきたな。

 

「そう言う理由なら安心か。ついでに三人の海賊の名前分かる?」

 

「『〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート』『百獣のカイドウ』『〝ビックマム〟シャーロット・リンリン』じゃ」

 

メモメモ・・・・・。

 

「兵藤一誠」

 

「あ、イッセーって呼んでくれないか?兵藤って呼ばれるのは嫌いなんだよ」

 

「お主の一族の名であろう?それを嫌うとは珍しいニョ」

 

「一族が嫌いだから嫌いなんだ。で、なんだ?蛇姫」

 

「・・・・・いや、何でもない」

 

言いかけた口を閉ざして俺から顔を逸らされる。何を言いたかったのかわからず、その日の夜の夕餉の時間はアマゾン・リリーの女戦士達と一緒に過ごすことになった。最初は男だからという理由で警戒されたが、俺の機転もとい―――おもしろダンスを披露したことで笑いを取り、人気を得てみせた。

 

「だからお前ら、くーだよ、くー」

 

「くー!?」

 

「くーだ!」

 

「くーね!?」

 

その昔、修行中で父さんから勧められたダンスだったけど意外と異世界でも受けが良いな。そんな感じで食事会は大宴会と変わらない騒ぎで盛り上がり、異世界の料理を堪能してあまりの美味しさに九つの尾を生やしたら「男から尻尾が生えた!」と好奇の声が湧く。

 

「これなんて料理?」

 

「〝海王類入りペンネゴルゴンゾーラ〟女ヶ島の名物よ!」

 

「海王類?」

 

「海に棲息している普通の魚より超巨大な魚よ」

 

ほうほう、そんな魚がいるんなら釣ってみたいもんだな。初めて食す海王類という魚の肉を頬張ってそう思っている俺の尾や身体に女人達が遠慮なく触ってくる・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「食い辛いなッ!?何だ人の食事中にッ!」

 

「仕方ないじゃない。あなたもう明日出航でしょ?記念に一度〝男〟に触りたいってコ達に・・・・・ほら大人気!」

 

一人の女人が『1タッチ20ゴル』と書かれてる木製の看板を持って、俺に向かって長蛇の列を作っている女人達の存在を教えられた。お前、何勝手に商売してんだよ!?

 

「稼いだ金は7割貰うからな」

 

「えっ!?せ、せめて5割・・・・・・」

 

「人の体を使って勝手に商売しているんだ、この国に永住できない俺が金の使い道なんて無いから蛇姫への献上金にする」

 

「そ、それズルい!」

 

皇帝に逆らえない事を分かり切っているから言っているんだ。てか、本当に食い辛いっ。

 

「ええい、〝俺〟を増やすからそっちで相手にしてくれ!」

 

「「「「「「「「「「よろしくっ!」」」」」」」」」」

 

「「「「〝男〟が一気に増えたー!?」」」」」

 

外海の男ってこんなことできるの!?と何か間違った認識、誤解を招いてしまったような声が聞こえる気がするが・・・・・うん、まぁ、気にしない方針でいこう。

 

―――†―――†―――†―――

 

数人ほど親密になった女人達と別れハンコック達三姉妹が暮らす九蛇城へ足を運ぶ。未知の料理を満腹になるまで食べた一誠は多幸感に浸って明日の出航に備えて寝る。そのつもりで戻ってきたんだけど一人の女人と急ぎ足で城に入ろうとする一誠とニョン婆がバッタリと鉢合わせした。

 

「どうした?」

 

「おぬしか。蛇姫が原因不明の病で倒れてしまったニョじゃ」

 

「え?今?」

 

あんなに元気そうに言動を振る舞っていた女帝が病に倒れたって?一大事だと一誠も同伴させてもらい、『皇帝の広間』に赴く。中国風の通路や階段を通り続けやがて大きな門のような扉を開けて中に入ると、天蓋付きのベッドに医師の女人とサンダーソニア、マリーゴールドが胸を抑えて荒い息を吐き風邪を引いた人のように顔が赤く汗を流していた。彼女を診断した医師に訊ねると。

 

「胸をずっと押さえているから心臓に異常があるのかと・・・・・!でもわからないの・・・・・見た事もない症状・・・・・どんな薬を処方していいのか・・・・・・!!」

 

「蛇姫様とても辛そう・・・・・!!」

 

「お食事も一切取って下さらず」

 

と、女人達がそう話を聞いているとニョン婆から言われた。

 

「おぬし少々外に出ておれ・・・・・」

 

「ああ、わかった」

 

何か遭ったら呼んでくれと一言残してこの部屋の下の階のテラスへと向かった。部屋を後にした一誠からハンコックへ意識を向けるニョン婆は、汗だくで荒く熱が籠った息を苦しげに吐き続ける女帝の病状を注視し、やがて吐露した。

 

「明日の朝・・・・・」

 

「はうっ・・・・・!!」

 

「蛇姫様っ!!?」

 

ただ言っただけで心臓を握り潰す感じで服を握るハンコックが敏感に反応した。それだけで全てを悟ったニョン婆は嘆息した。呆れて何とも言えないと額に手を当てて憂う。

 

「・・・・・そうか・・・・・・ああ何と言う事・・・・・・!」

 

皆の目がニョン婆に向けられ、どういうことだと耳を傾ける。

 

「・・・・・何とも場をわきまえぬ〝ウイルス〟め・・・・・!」

 

「え!!?ウイルス!?」

 

「何か心当たりでも!?」

 

先々々代皇帝だった彼女の、長い年の功ならではのハンコックの病状を見抜いた。ならば彼女の症状を治せる術も知っていると期待感が湧いた直後に女帝が熱で浮かれた顔をニョン婆に向けながら苦しげに問うた。

 

「・・・・・ニ・・・ニョン婆・・・苦しい・・・・・わらわは・・・・・死ぬのか・・・・・・?」

 

「・・・・・ああ・・・・・死ぬ・・・・・・」

 

病人相手に何て言い草だとマリーゴールドが怒りを露わにしながら焦る。

 

「な・・・何て事を!!!バカな冗談はやめてニョン婆!!!」

 

サンダーソニア達も同じ心情でニョン婆に視線を送るが、当の彼女はそれを介さず吐露する。

 

「先代皇帝も・・・・・この病で死んだ・・・・・!!先々代も同じだったそうじゃ・・・・・」

 

『!?』

 

「実はわしも同じ病にかかり国を飛びだし・・・・・生き長らえた」

 

告白するかつての皇帝だった老婆の言葉にマリーゴールド達は息を呑んだ。ならばいま現皇帝の身体を蝕み苦しませている症状は、ニョン婆を始め代々の皇帝達を死に誘わせてるものだと否が応でも理解させられる。このままでは彼女もいずれまだ若い歳で病死してしまうという事実もだ。

 

「ニョン婆、どうすればいいの!!?」

 

「このままじゃ姉様が・・・・・・!!どうやってニョン婆は外海で生きながらえたの・・・・・・!!?」

 

姉妹から一時の猶予も残されていない姉の為に治療の方法を聞きだす。必要あらば女ヶ島アマゾン・リリー総出で動かすことは厭わない程だ。彼女達の必死な気持ちを無下にしないとこう口にした。

 

「あの者に、イッセーに蛇姫を任せるニョが一番の治療じゃ」

 

「異世界からきたあの男に、姉様の症状を治せるというの?」

 

「異世界から来た男云々の話ではニャい。今の蛇姫の特効薬はあの者以外おらんニョじゃ」

 

そう言われてしまっては何も言えなくなる女戦士達は皇帝の広間を後にし、代わりに一誠と女帝だけの空間にして任せるしかなかった。

 

「で、俺しか治せば病気だって言われたんだけど・・・・・どうした、風邪か?」

 

「わ、わらわにもわからぬ・・・・・この胸の奥から苦しい感じは初めてなのじゃ」

 

額に手を添えられ熱を計る一誠。不思議と戸惑いの色を顔に浮かべ結局は分からず仕舞いで終わる。

 

「何もせず一緒に夜を過ごせばよいとニョン婆のお願いだからな。今夜は添い寝させてもらうぞ」

 

「・・・・・構わぬ」

 

横になるとハンコックも一誠に背中を向けて身体をベッドに沈める。長身で華奢な身体の背中が視界に入り、ポツリと尋ねた。

 

「そう言えばどうやって天竜人から逃げ切れたんだ?」

 

「・・・・・」

 

「言いたくないならいいさ。何となく思った事を呟いただけだから」

 

返って事無い彼女の声に早々に眠りにつこうと瞼を閉じた数秒後・・・・・。

 

「・・・・・世界政府が青褪めるような事件が起きた、その時にわらわ達は決死の思いで逃げたのじゃ」

 

独白するようにポツポツと語ってくれ始めた。一人の魚人、フィッシャー・タイガーという男が赤い土の大陸(レッドライン)を素手でよじ登り、聖地マリージョアを力の限り暴れ回り何千人という数の奴隷達を種族関係なく救いだした際に三人も逃げたと。その後、この女ヶ島へどうやって帰ればよいか彷徨っているところシャボンディ諸島でニョン婆を含め三人の人物の協力があって無事に戻って来られたのだと。それからハンコックが一度少しの沈黙を保つが、静かに口を開いた。

 

「くしくもわらわ達は奴隷であった時・・・・・余興で口にさせられた〝メロメロの実〟と〝ヘビヘビの実〟の能力のお陰で国をダマし秘密を守る事が出来ている。何度も申すがそなたがソニアの背中を庇ってくれなければ、わらわ達はもう・・・・・この島にはおれぬところであった。・・・・・誰にも過去を知られとうない・・・・・」

 

不意に背中越しでしか見えない、身体を震わせ悲しみと恐れが籠った声音がハンコックから聞こえてくる。

 

「―――たとえ国中を欺こうとも・・・・・わらわ達は一切のスキも見せぬっ。もう誰からも支配されとうないっ・・・・・!!!」

 

「・・・・・」

 

「誰かに気を許すことが恐ろしい・・・・・!!・・・・・恐ろしうて・・・・・かなわぬのじゃ・・・・・!!」

 

天竜人のもとで人間以下の奴隷の生活を強いられた故に心に深い傷とトラウマが植え付けられた。ハンコックの思いを知り、他の奴隷達も同じ心境をで今も生きているのかと思えばますます奴隷達を解放しなくてはいけないと強い意志を抱く一誠は、寝ながら天使の片翼を背中から生やして彼女を優しく温かく包み込む。

 

「心の傷は癒せないけど、俺はこうすることができる」

 

「っ―――――」

 

「もうお前の背中に恐怖の象徴は無い。人間以下の証が消えた瞬間からお前はボア・ハンコックという一人の人間に戻ったんだ。何も恐れることはないよ」

 

励ましの言葉を送られ始めて一誠に振り返った時、金眼が真っ直ぐハンコックに向いて見ていた。腕を伸ばして自分の髪ごと頭を撫でてくる。誰かに撫でられる事は初めての経験で、悪い気もしない事も相まって、翼から感じる温もりは不思議と心地良く、羽毛の感触がとても柔らかい。

 

「そなたは・・・・・奴隷であったわらわを・・・・・蔑むか?」

 

「蔑む理由がないし、寧ろ人を奴隷にする奴は誰であろうと嫌いだ」

 

女帝の頭を自身の胸に寄せて添い寝以上の密着度で身体を重ねる。

 

「また奴隷にする輩が現れたなら、全力で守ってやるよ。お前の心をな」

 

「・・・・・」

 

男の体臭を感じつつ人に安らぎを与える不思議な男だと思いを過り、抱きしめられたまま女帝は無意識に一誠の身体に身を預けて口元を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう・・・・・イッセー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明朝、アマゾン・リリーの港に停泊している船の出航準備が整った。ハンコックと船へ出向くと女ヶ島に住む女人達が見送りに来てくれていた。これから乗り込む船を見上げれば二匹の巨大な蛇が、船と一体化するように海面から顔を出していた。

 

「でかい蛇だな蛇姫。もしかしてあの蛇が船を引いているのか?」

 

「・・・・・そうじゃ」

 

「・・・・・」

 

俺から目を逸らして相槌を打つハンコック。目を覚ましていた時から何故か顔を赤くして一度もこっちに顔を向けて来ない。

 

「キャー♡蛇姫様ー♡」

 

「なぜかしら、いつになくお美しさが迸っていらっしゃる!!」

 

「セクシャルないたずらが留まるところを知らない!!」

 

女人達の目が♡を浮かべてハンコックの美貌に酔いしれている。黄色い声が止まないどころか益々増える一方だ。この場にあの美の女神のお姉ちゃんを居させたらどうなるのか試してみたいもんだ。

 

「本当に送ってくれるんだな。俺一人でも方角がわかれば飛ぶんだけど」

 

「構わぬといった筈じゃ。そなたにわらわ達は多大な恩を受けた。これぐらいは当然のこと」

 

「ふーんそっか。じゃあ、ありがとうなハンコック」

 

この島に来て初めて名前を呼んでみたら、急に彼女は足を停めた。どした?と振り返ったら。真っ赤に染まった顔にうるんだ瞳、何に対して感極まったのか身体を打ち震わせていた。

 

「い、いま・・・・・何と申した・・・・・」

 

「ん?感謝の言葉を言った」

 

「そ、そこではない・・・・・わ、わらわの事を何と申したと・・・・・」

 

「ハンコックって言ったけど」

 

なに言ってるんだ?と首を傾げたら新しく欲したおもちゃを得た純粋な子供のように笑顔になった。

 

「・・・・・ハンコック・・・・・はぁ・・・・・」

 

昨夜の症状がまた出たのかさっきよりトマトのように顔が耳まで紅潮して、熱い吐息を吐きだした。

 

「っキャ~~~~~~~~~~~~~~~!!!♡」

 

「へ・・・・・蛇姫様が・・・・・笑顔!!?何カラット!!?今の輝き何カラット!!?」

 

「今までお見せになられなかった笑顔でさらにお美しさが天井知らずで超えたわぁ~~~~!!!♡」

 

周りのギャラリーが俺の心配と真逆な反応をして少し辟易する。隻眼の視界にニョン婆を捉え、彼女の方へ近寄って声を殺し訊ねた。

 

「なぁ、言われた通り一緒に添い寝して治ったみたいけど、まだ燻ぶり返したんじゃないのか?大丈夫なのかあいつ」

 

「心配無用じゃ。あれが平常心の蛇姫じゃ。ただ、自分の心境に戸惑いを感じておる。わしが後からそれとなく解消してやる」

 

あれで平常心って・・・・・俺を見つめてくるあの表情と目付き・・・・・まるで恋する乙女のような感じなのは気のせいだよな?

 

「イッセー様、またねーっ!」

 

「おーう、ハンコックが許してくるならなーっ!」

 

船に乗り込む俺に出迎えてくれる女人達に手を振って返す。随分と女人達に人気者になってしまったもんだと心中苦笑を浮かべながら、外海へ出る鉄製の門が開く様子を尻目で・・・・・。

 

「そなたが望むならばわらわは・・・・・」

 

何か呟いていたハンコックだった。

 

女ヶ島アマゾン・リリーを後にしたハンコック達一行はシャボンディ諸島へ航海すること早一時間後のことだった。

 

「ニョン婆、わらわはいったいどうしたのじゃ・・・・・。昨日は何ともなかったのに今はまともにイッセーの顔を見られぬ・・・・・名前を呼ばれただけで胸がときめいてしまう」

 

「蛇姫よ。そなたを苦しめておった病は〝恋煩い〟。先代達の死因は〝恋い焦がれ死に〟。そなたは今あの男に、兵藤一誠に恋しておるニョじゃ」

 

「恋・・・・・・」

 

「そう〝恋〟じゃ!!!―――想うても会えニュ苦しみはやがてその者を衰弱させ死に至らしめる!!先代皇帝達は・・・・・その想いを押し殺し・・・・・身を滅ぼした。あの男共に行く決断はそなたの命を救う」

 

船内の一室、ハンコックが寝る中国風で広い部屋のベッドに腰を下ろして目の前に佇む先々々代皇帝と密かに身に起きている状態を把握する。

 

「わらわが、恋・・・・・」

 

「昨日の内にそなたは兵藤一誠の優しさと器を知り、惚れてしまったニョじゃろう」

 

「・・・・・」

 

否定できない部分があり肯定とぽっと顔を赤らめ沈黙してしまうハンコックにニョン婆は両手を頬に添えた。その顔は物凄くだらしなく綻んでいる。若き頃の己を思い出している様子だった。

 

「恋する女か・・・・・ふふふ、わしにもその様な時代が・・・・・♡」

 

「・・・・・気色悪い顔をするでは無いわ。見ていて吐き気がする」

 

「やかましゃア!!!」

 

そんなハンコックとニョン婆の会話の一方、甲板の方では。

 

「この船を引っ張る蛇の主食って?」

 

「海王類の肉よ」

 

「海賊だから他所から物資を奪ってるのか?」

 

「ええ、長期遠征として商船や海賊船からね」

 

女戦士達と会話を弾んでいた。無遠慮に身体を触られながら。

 

「女ヶ島って女しかいないのにどうやって子供を作るんだ?」

 

「外海へ出た者が時折、身体に子を宿して帰ってくるのよ。逆に外界へ出ず島の中で一生を終える者も多いわ」

 

「へぇー徹底しているな男子禁制の制度。じゃあ皇帝ってどうやって選抜される?」

 

「主に国の中で一番の力を持ち、国中から信頼と信用、それと名声もあれば選ばれる。姉様は18歳の頃、まだ若い時にたった一度の遠征でその首に〝8千万〟の懸賞金をかけられたから当然ね」

 

そうして話し合いをしながら時間を潰し、果てしない大海原を進む船で穏やかに目的地まで航海をする。


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