海賊王におれは・・・・・ならないから! 作:ダーク・シリウス
『聖地マリージョア消滅 犯人は天を恐れず天を地に平伏さん者 四皇天龍』 『一部を除く天竜人が全員老人に』 『未知の病か呪いか』
世界中に報せられる新聞の記事を読んだ人々は皆震撼した。これで三度の天竜人襲撃事件が行われたのだ。直接政府を本気で倒さんとしている姿勢でいるという事を誰もが悟ったのである。ある者は畏怖し、ある者は尊敬、ある者は恐怖、ある者は感謝をした。
そんな記事を読み終えてからヤマトと海へ飛び出し一年が経ち、現在東の海を航海し続け一ヵ月以上は経ったと思う。海賊船や海軍の軍艦と出会わず穏やかな時間が過ぎていくばかりだが、各々は退屈な時間を過ごしていなかった。絶えない喧嘩の声、模擬戦、読書、料理作りなどなどしている日々の中、人の気配がする島へ辿り着きそこへ上陸した。
「おーい、島の人に酒場の場所を教えてくれたよー!」
「到着して早々に行動が早すぎるぞヤマトのやつ」
「一番楽しみにしていたからな」
上陸して直ぐ酒場に行くことになったが、優先すべきことはないので酒場の料理を食べることにしたおれ達。ヤマトの先導で目的の場所へ足を運んで先に扉を開けて中に入る彼女に続いて入ると、中は大賑わいを醸し出していた。その中に交じらせてもらい、久しぶりの島の食事をたくさん食べた。
「お姉さん、この島に村はここだけか?」
「他にも村がいくつもありますよ。山の奥には貴族様たちが暮らしている国もあります」
「へぇ、散歩がてら見てこようかな。中に入れそうもなさそうだったら」
「近づかない方がいいですよ。捕まって何されるかわかりませんからね」
そう言われて興味を持つ仲間がいるんだよなァ。そう、酒場を後にしてすぐに山の方へ指すヤマトが言ってくるわけで。
「イッセー、山の方へ行ってみようよ!」
「うん、ステイだヤマト。山は逃げないからちょっと待とうか。買い込んだ酒を船に運ぶから」
「食料も念のために大量に確保した方がよろしいかと思います」
「んじゃァ、山狩りでもするか? 食える獣ぐらいはいるだろうから狩ってきてやるぜ。なんせここに大食いの極潰しがいるんで食料の減りが早いもんな」
「魚が区別できるのか怪しいところだ。おれが狩って来た方が無難だろう。腹に入れられるものなら何でもいいと誤って毒物まで集めかねないからよ」
「「ああ?」」
「村の中で喧嘩はお止めなさい。村人たちのご迷惑ですよ」
「・・・・・はぁ」
「私は船で留守番するわ」
「あ、あの・・・・・私も留守番します」
「暇だから俺も山狩りしてくるぜ」
留守番する2人と山狩り、その付き添いをする5人と山中を探検する3人と別れることになった。山狩り組には動物を絶滅するまで絶対に狩り尽くすなと言っておかないと、喧嘩しながら張り合いそうだからなこいつらは。
そんなこんなで山中を探検するおれとヤマトにギリューが同行することになった。おれたちの傍に歩かず影から護衛に徹するギリューだが島を歩けばいつものことなので放置する。
「いつも思うんだけど、ギリューはどうしてあんな格好をしているんだ?」
「忍者に憧れてるからだ。だから本物の忍がいるワノ国から来たおれ等を護衛に徹して忍になりきってるんだよ」
「えっ、ギリューって仲間になった理由ってまさか・・・・・」
「ワノ国に忍術を駆使する忍と会わす条件で、あいつが孤独に生活していた島から連れ出した」
まぁ、本人は自分の意思で居たようだけど井の中の蛙大海を知らずな悪魔の実の能力者だから、交換条件として仲間になってもらった。
「今度、ワノ国に戻ったら狂死郎にはギリューに忍術を教えてもらう忍者を探してもらおうかなー! うちに忍術が使える仲間は心強いからなー!」
お・・・・・気配が変わったな。まだまだ忍者になり切れてないぞギリュー。
「それにしてもヤマトと2人きりになるのは久しぶりだな」
「そうだね。仲間が出来てからイッセーとだけいることは殆どなくなったからね」
「今ならイチャイチャできるけどどうする?」
「イ、イチャイチャ・・・・・ッ!! って、イッセー・・・・・・誰か来るよ?」
彼女の腰に腕を回して言ったら顔を赤らめるヤマト。でも、俺たちやセルバンテスたち以外の人間がやってきたようだ。ラフな格好をした白髪で白いひげを蓄えてる初老の大男。でも、ただの老人とは思えない生命力、オーラ、そして強者の風格を感じる。
「村の人かな」
「いやー、あんな一般人がここにいるとは思えにくいな。絶対孫がいたら鉄拳制裁をする怖い爺ちゃんって感じがするんだもんよ」
「誰が鉄拳制裁をする怖い爺ちゃんじゃ。初対面の相手に随分と言うではないか若造が」
あ、聞こえてた。「でも実際は?」と訊いてみたら、老人は不敵な笑みを浮かべながら握り拳を見せつけた。
「はん、相手がワルガキだろうが悪党だろうが誰であれワシの拳で懲らしめてやるわぃ」
「当たってた」
第一印象って、そうじゃない時もあるけど案外見た目通りになるんだよな。
「お爺ちゃん、奥に何かある? 観光スポットとか」
「こんな島にそんなもんないわぃ。あったとしても山賊共の根城やゴア王国っていう胸クソ悪い国があるだけじゃ」
「胸クソ悪い?」
「行ってみりゃあ判る。ああ、山賊共には手を出すんじゃないぞ。ワシの孫を預けておるから孫に何かしたらただじゃおかんからの」
孫? ・・・・・いや待て、今なん言った?
「本当に孫がいた!? というか、山賊に自分の孫を預けるってどういう神経しているんだ!? 親はどうした親は!」
「はん? なんか言ったのかのぉ~?」
耳が遠い老人のように耳に手を添えて訊き返してくる目の前の老人・・・・・。
「・・・・・ヤマト、孫が山賊になっても気にしない老人だこの人」
「いや、山賊の人たちの中に親族でもいるんじゃないのかなイッセー」
「いないだろ山賊が身内って。じゃなきゃ悪人を鉄拳制裁するって言わないだろ。山賊の連中とこの老人、絶対に逆らえない上下関係で築いてるって」
「力関係で脅して? でも自分の孫を山賊たちに預ける意味あるかな?」
「環境が環境だから・・・・・悪ガキのまま成長するんじゃないか? 山賊のもとで育てられたらとてもじゃないが子供に悪影響を与えるだけだろ」
と、本人の目の前で老人の育成は正しくないと言ってやったら、当たったら痛そうな拳骨が迫って来た。ヤマトと同時に躱したら背後にあった木がへし折れた。
「また好き勝手に言ってからにぃ!」
「事実を言われて逆ギレかよ!!」
「うるさいわぃっ!! しかもお前たち、イッセーとヤマトと言ったな・・・・・片や四皇と片や四皇の小娘が東の海に来ておったとは何という偶然じゃ」
「・・・・・もしかして、海兵?」
何となく訊ねて見たら老人は自分の両手の指の骨の関節を鳴らし始めた。
「ああ、そうじゃ。ワシは海軍中将、ガープじゃ」
「ガープ・・・・・モンキー・D・ガープ? おいおい、ゴール・D・ロジャーとレイリーさんを幾度も追い詰めた海兵かよ」
「やはり冥王レイリーと会っていたようじゃのシャボンディ諸島で。お主等、この島に来て何を企んで居る?」
「「ただの観光」」
2人で揃って言う。暴れる気も人間たちを殺戮し回るつもりも毛頭もないからな? そこだけはどうか信じてほしいものだ。
「観光じゃと? カイドウと同盟を結んだ天龍がただの観光で島に寄ったというのか」
「別に俺は海賊でもないんだ。食料の調達やその島の珍しさを見聞するため島に寄って何が悪い? まぁ、カイドウから強い海賊には勧誘しろと言われてるけどさ」
「ここでお主等をとっ捕まえたほうが少しは平和になるるじゃろうて・・・・・」
「孫がいるところまで戦火を広げたいのか?」
目元を僅かに動かす反応をするガープ。身内のことになると黙っていられない家族愛があるようだ。
「誓って言うさ。島の住民には手を出さない。人の命を奪う行為の意味でな」
「それをワシが信じるとでも? 三度も天竜人に襲撃した悪党が」
「誰一人も命を奪わなかったぞ? それにおれが悪党なら天竜人は極悪人だよな? 海兵のお前も守るべき無辜の人間たちを奴隷にする天竜人の言動を許すってのか?」
「・・・・・」
「もしそうなら―――自分の孫も天竜人の奴隷にされても受け入れるって言うんだな。下々の民は天竜人の所有物だと幼い女の子まで『世界徴集』をしようとした頭の髪が高く伸ばしてる将校クラスの海兵が言ってたぞ」
次の瞬間。さっきより速度が上がった拳が襲ってきて、首だけ躱したらもう一つの拳がうねりを上げながら、こっちの拳が本命だと言わんばかりに両腕をクロスして防ぐおれを殴り飛ばした。
「ぐっ!?」
海軍の英雄の一撃・・・・・老いていようとサイラオーグを思い出させる威力だなっ! 木々を薙ぎ倒しながらかなり吹っ飛ばされる身体に天使の翼を生やして地面を突き刺す。
「なろうっ・・・!!」
上空に飛び上がり、一気にヤマトの棍棒を殴り彼女まで殴りかかるガープの懐に飛び込んで仕返しに本気で殴りかかった。
「おらァっ!」
「!!?」
今度はガープが森の中を決河の勢いで木々をへし折りながら吹っ飛んで行った。すぐには戻って来れまい。その間に二人の安否確認する。
「イッセー!」
「ヤマト、無事か」
「う、うん。凄く強い人だ。押し負ける寸前だったよ」
「ギリューは」
「・・・・・ここに」
どちらも無事のようで安心したが用心を越したことじゃない。
「さっきの海兵がプライベートだろうと軍艦で来ているはずだ。セルバンテスたちにこの事を伝えて。警戒だけはするようにと」
「出航しないのか?」
「少し、俺たちが拳骨爺ちゃんと拳での語り合いをしなくちゃいけないだろう」
ほら、話している間にピンピンと元気そうな老兵が飛び掛かってきているし。
「よろしくギリュー」
「・・・・・承知した」
森の奥へ駆けていくギリューの気配を感じながら、俺たちの前にまた現れる海軍の英雄。
「ガープのお爺ちゃん。世界政府と海軍はまだ『世界徴集』を続けてるのか?」
「悪党に応える義理などないわぃ」
「じゃあ、天竜人なんていう人類の害や海でしかない権力の座布団の上に胡坐掻いているだけの輩を守ってる海軍は一体何なんだ? すぐ後ろに振り返れば悪党と変わらない言動をしているじゃんか。どうして見て見ぬ振り、聞こえない振りをしているのかさっぱり理解できないな」
殴りかかって来るガープの拳に拳で殴りつけ、流桜で弾き返す。
「ぐぬっ!?」
「はぁっ!」
すかさず棍棒でフルスイングするヤマトが空気の塊を打つように放つも、ガープはそれを拳で明後日の方へはじき返す瞬間と同時に武装色で黒く染まった両腕を、殴る俺に対応してきた。
「ぶっちゃけ言えば、天竜人という悪党を守っている海軍と世界政府も悪党に加担している、正義を建前にしている犯罪集団じゃん」
「ワシら海軍を犯罪集団だと・・・・・言いよるではないか小僧が。その口をワシの拳で黙らせてやる!!」
「はぁっ!」
すかさず棍棒でフルスイングするヤマトが空気の塊を打つように放つも、ガープはそれを拳で明後日の方へはじき返す瞬間と同時に武装色を纏った拳で殴りかかるおれに飛び掛かって来た。
「事実だろ。シャボンディ諸島で白昼堂々と人間が人間を売買している店の存在を知らないとは言わせないぞ。どうしてお前が言う悪党からそう言う人間を敢えて守らないのか言ってみろよ」
ガープは拳で返事をして来た。おれも拳で応じる。
「海軍は本当に青い海と世界を平和と秩序にしたいのか? おれは物凄く疑問なんだよな~」
「黙れ小僧。貴様が平和と秩序を口にするなど片腹が痛いわ!!」
「片腹痛いだと? お前は間近で見たことがあるのかよ。天竜人に奴隷として引き裂かれる人間達の光景をよ。あれが未来の平和と秩序だっていうならさ・・・・・本気で潰しにかかるぞ天竜人共をよ。それを守る海兵と世界政府もだ!!」
怒涛の殴り合いしながら叫ぶ。翼を刃と化して四方八方から切り刻む意思を込めて振るっているが、致命傷になるところは確実に防いでいる目の前の老兵の実力は疑いようがない。どの世界にも体を鍛えた老人はどうして強いんだろうか・・・・・。
「その前に、お前のこと試させてもらうぜ。天竜人に自分の孫が奴隷にされたらお前はどう動くのかをな」
「貴様ァッ!!!」
おっと、かなりのお怒りだ。でもま、それも直ぐに終わる。
「じゃーな。英雄ガープさん」
マリンフォードへガープが発動した転移式魔方陣に足を踏み込んだ瞬間に送り届けた。一日二日でこの島に来れるとは思えないから、こっちのやりたい放題だ。
「ようし、山賊のところに行こうか」
「本当にあの人の孫を天竜人の奴隷にするつもりなのかいイッセー」
「試すって言ったろ。直接本人じゃない方法でも他にもそういう認識させることはできるのさおれは。まず孫とやらの顔を見なくちゃ始まらない。あのガープが自分の家族が奴隷にされた気持ちを味わってもらわないと、本当の平和とは何かなんて知った風に言えないだろう?」
ワオウが現状を憂いているところだ、とヤマトの手を引っ張って山賊の根城へと足を運ぶ。道らしい道がない獣道に進みうっそうとした森の中を歩いて、木から木へと飛び移るギリューが戻って来る気配と少なくない数の気配が一か所にいるのを感じながら雑談を交わしていたら、木造の大きな造形物が俺たちを出迎えてくれた。
「あそこだな」
セルバンデスside
「英雄ガープ、まさかこの島に来ていたとは」
報せに来てくれたギリュー様の、イッセー様の伝言をお聞きした後に空から偵察を始めた所、寄港している軍艦が一隻発見しました。イッセー様のことですから英雄ガープを無力化にしたところでしょう。その事実を今だ海兵達は気付いていない様子・・・・・。
「今すぐ島から離れるつもりは無いなら、警戒だけしろというイッセー様の伝言は逆に気にするなと暗に言っておられるのでしょうな」
一先ずは山狩りしているメガロー様のところへ戻りますか。
「セルバンテス殿、軍艦はありましたか?」
「ええ、停泊しておられました。イッセー様の伝言通りに海軍のことは気にせずこのまま山狩りを続行いたしましょう。仮にこちらに襲撃してくるならばその時はその時で」
「軍艦の食糧を奪い取ってもいいんだがな。取り敢えずあの下等生物よりデケェ獲物を探さないとよ」
ズシズシと足音を立たせながらさらに山奥へと進むその背中を視界に入れつつ追う。
「軍艦の確認ついでに川がある場所を把握しました。恐らく何らかの生物はいましょう」
「おっ? そこはどこだ。あの野郎よりも早く案内してくれや執事」
「ワニがいらしたら、ステーキが最適でしょう。是非とも狩ってくださいませ」
「ガシャシャシャッ!! おう、狩ってやんぜ見つけたらな!!」
ヴェージside
あの鮫野郎よりもデケェ獲物を確保しなくちゃならねェのに、小せェ動物しか見当たらない!! クソがッ!!
「おい、そんな殺気立ってじゃあ動物共が怯えて出てこないって」
「してねぇッ!!」
「怒鳴ってる時点でしてるっての。と言うか考えてみろ、メガローの顔を見ただけで動物共は一目散に逃げて捕まえられないってことぐらいよ」
・・・・・確かに。ガンヴァの言う通りだな。
「んで、あいつはそれなりに遅い。お前等、競争して速かったのはお前だろ」
「鈍足のあいつより圧勝だったのは確かだな」
「(どっちも微妙だったがな)それにこっちがデカい獲物を見つけようが・・・・・」
ガサッ。
おれ達の目の前を横切る巨大な猪。だいたい5メートルってところか。
「向こうからこうして来てくれる機会もあるから慌てるなってことだ」
「ああ・・・・・そうみたいだなァ」
逃がしやしねェぞ猪・・・・・!! あ、待てコラァッ!!? ビビッて逃げるんじゃねェぞ!!!
ロビンside
山の方で爆音と土煙が幾つか昇ってる。大層激しい山狩りね。行かなくてよかったわ。
「みなさん、張り切ってますね。でも、海軍が気づいてしまうのでは・・・・・」
「そうね」
報せに戻ってきたギリューから海軍の存在。本格的に私達を捕まえにこようとするならば迎撃をしなくてはならない。船番も兼ねて残って正解ね。
「海軍が現れたら船を守らなくちゃならないけど」
「ま、守ります・・・・・っ。この船は皆の帰る場所だから・・・・・!」
「ありがとうヒナタ。私も頑張るわ」
でも・・・その頑張りをしなくちゃならないのは、たぶん近いと思う。
「ただいまー」
イッセーの声が聞こえた。随分と早い帰りだと思いながら三人を見て、イッセーとギリューが三人の子供を脇に抱える姿に素朴な疑問をぶつけた。
「どうしたのその子達」
「しばらく連れ回すことにした。英雄ガープの孫に初代海賊王ゴールド・ロジャーの息子というトンデモないモンを発掘しちゃったからな。ついでにこの島にいる貴族の息子付きだ」
・・・・・あのゴールド・ロジャーの息子って、とても信じ難い事実じゃないかしら。海軍も世界政府もまだ気づいていないかもしれない存在に私は驚嘆の念を抱いた。
「この島にモンキー・D・ガープが来ているのも何となく納得できるわ。海賊王ゴールド・ロジャーの息子を秘密裏に見つけて山賊に育てさせていたんだ。推測だけど恐らくゴールド・ロジャーがガープに自分の息子を託したんじゃないかな」
「海軍の海兵が海賊の頼みを聞くなんて・・・・・」
「でなければ、海賊王の息子を山賊に育てさせないだろ。ま、生まれてくる子供に罪はないけどな」
3人の子供たちを甲板に持ち運んだメガローが座っても壊れない巨大なソファに乗せた。さっきから静かだと思ったら眠っていたのね。
「この子たちを育てた山賊は?」
「演出の為に一撃だけ攻撃した。英雄ガープの孫が天竜人の奴隷になったらどう動くのか試してみたいからな」
「本当にするの?」と訪ねたら、彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「いーや? そういう奴隷になった海軍の肉親がいるって事実という嘘を知ってもらいたいのさ。英雄ガープにな」
ガープside
どういう悪魔の実なのかマリンフォードに送られ天龍の若造にしてやられたあの後、もう一度フーシャ村に戻り孫たちを預けておる、見るも無残に破壊された山賊共の根城と包帯を巻いてる山賊たちを見て嫌な予感がしてならなかった。
山賊共の頭、センゴク達には言えん赤子の面倒を見てもらう条件で数々の犯罪を見て見ぬ振りしていた旧知の女に問い詰めれば、「お前の孫達を天竜人に渡す、ガープが来たらそう伝えろ」とワシに対する伝言を残して孫たちを連れ去ったという。
既にこの島から離れて姿を暗ましている相手に探しようがなく、マリンフォードにとんぼ返りしてセンゴクを介して今もなお『世界徴集』している天竜人の馬鹿どもに―――。
「なんじゃと、もういっぺん言ってみぃ」
「ダメだと言った。お前の孫が天竜人の奴隷になっているならば我々はどうすることもできん。元帥の私でも天竜人に交渉する権利もないのだからな。よもや、天龍がそんなことをするとは思っても見なかったが・・・・・」
ワシの願いは聞き受けれんと拒否するセンゴク。海軍は天竜人の手足のような組織、己が神のような存在として世界を支配した気でいるアホな連中に孫たちが奴隷として酷い仕打ちをされているはずじゃ。天龍の若造、ワシを試すというのはこういうことか・・・・・!!
「セ、センゴク元帥ィ~!!」
「何だ、騒々しい」
元帥専用の執務室に雪崩れ込むように入って来た一人の海兵が焦った顔で荒い息を吐きながら報告した。
「て、天龍がッ、単独でマリンフォードに現れましたッ!! しかも海兵の家族全員を天竜人に献上する、と襲撃しています!!」
「な、なんだとっ!?」
踵返して部屋から出てマリンフォードを見下ろせば、悲鳴と怒号がそこらじゅうから聞こえてくる原因である、背中から生える十二枚の翼で海兵の家族達を包む込むように捕らえてる数多の天龍の姿が視界に入る。捕らえられた者達は聖地マリージョアの風景が見える広場へと連れ去られて行く。
「そらそら、さっさと天竜人の奴隷の証を身体に焼き付けろ。そうしたらお前等の若さを戻してやるからな。おれは約束を守る男だから安心してどんどん連れて来る海兵の家族を全員もれなく奴隷にしてやれ」
天龍こと一誠は年老いた天竜人達を利用し、拉致した海兵の家族の身体に竜の爪の焼印を焼き付けさせていた。自分達の奴隷にさせる代わりに若さが取り戻せるという甘言に、最初は集められた天竜人の誰もが信用できず反発した。しかし一誠が数人の年老いた天竜人を若き頃の姿に戻すところを見せれば、他の天竜人は否が応でも従わずにはいられなかった。自分の若さが取り戻せる絶好の機会を逃したくない一心で、我先と海兵の親類の身体に押し付けるのだ。人間以下の証である天翔ける竜の蹄の焼印を。
「天龍、貴様ァ~~~!!!」
マリンフォードとここ聖地マリージョアと繋げている空間を潜って来る数多の海兵を率いて来たガープを始め、三人の大将とセンゴク元帥。
「一体これはどういうつもりじゃ!」
「どういうつもりもなにも、見ての通り天竜人たちに人材を提供しているんだが? お前達が知っているにも拘らず見て見ぬ振りをして聞かない振りをして、知らない振りをして来たことをな」
ッ!!?
「天竜人の下で働く人間は老若男女問わず、相手が貴族だろうと王族だろうと全ての人間は天竜人の所有物だと訊いている。なら、海軍に属する人間も全員そうだろう? その理屈であっているならおれは何も間違っていない行いをしている。責められる謂れはないぜ」
「それは屁理屈じゃ!!」
「んじゃ天竜人の下に集められた人間達は、自分達の意思で人間以下の証を身体に刻まれているのだと言うんだな?」
海兵達に向かって手を翳し、視覚では認知できない力で海兵達の上着のみ消し飛ばして上半身裸にする一誠。
「そう言えば海軍も天竜人の私兵だったな。ならさ、天翔ける竜の蹄の印をその身体に入れるべきじゃないか?」
「ふざけるなッ!! これ以上貴様の思い通りにはさせんぞ!!」
「いーや、無理だな」
意味深に言った一誠の言葉の後、天竜人達が異を唱えだした。
「手を出すではないこの愚か者ッ!!」
「貴様等のせいで元の若さを手に入れる好機を失ってしまうだえッ!!」
「そうざます!! この役立たず共!! 大人しく引っ込んでいるざます!!」
「我々の邪魔をするではない!!」
天竜人達があろうことか自分の若さを得たいがために天龍を守らんと海軍をけん制したのだ。これに海軍は浮足が立ち優越感に浸っている天龍の仕業だと気づいていても、天竜人に逆らうなどと海軍は出来る筈もない。センゴクは握り拳を作って発する声に怒気を滲ませる。
「貴様、天龍・・・・・!!」
「おれは戦ってもいいが、そっちは天竜人の命令に逆らってまで戦う愚か者はいるかな? もし間違って天竜人に負傷でもさせたら、そいつの一家は路頭に彷徨う方がマシな罰を受けるだろうから気を付けろよ~」
邪な笑みを浮かべ、挑発する一誠に対して海軍の方は憎たらし気に睨むしかできず、三人の大将達ですら天竜人に逆らえずただ佇んでいるしかできなかった。
「さて、天竜人のご要望を叶えないとな。マリンフォードに住まう海兵の家族を一人残らず差し出してもらおうか。もちろん天竜人に逆らう海兵はこの場にいないよな?」
「ッッッ!!!」
「因果応報だ海軍。今の今まで天竜人の玩具にされた人間とその家族の憎悪と悔恨の思いを、海軍にも知ってもらうぞ。それが嫌なら、天竜人をどうにかするんだな」
「天龍ッ・・・・・!!」
天下の天竜人を意のままに従わす天龍に海軍は、一人だけ、ガープだけが一誠に攻撃を仕掛けまたどこかへ転移させられて以降、マリンフォードに住まう海兵の家族を天竜人の強い要望により、奴隷として差し出してしまう。大切な家族が天竜人の奴隷にされた事実は海兵に酷く胸に苦痛を与え、青い海の秩序と平和を守る海兵の自分達の家族には奴隷にされることはない、という勘違いと幻想を二つの天によって最愛の家族を奪われたことで気付かされたのだった。
と―――今頃慌ただしくなっている海軍本部の事が載っている新聞と共にあった、渾名と金額が更新されたおれの手配書からフーシャ村があった島から連れ出した三人の子供たちに視線を変えた。
「エース、サボ。お前らこっちにこい」
なんだよ、と言いながら左目の下に傷跡がある子供ことルフィまで来ておれの前に立つ。そばかすがある子供と帽子をかぶった子供に話しかける。
「お前らをしばらく連れ回すが、何時か島に返してやる。その間、この船で大いに海の旅を楽しんでもらうが、力がないままなのはいただけない」
二人の前に三つの悪魔の実を用意する。
「この悪魔の実を食べて能力を得るか、生身の身体で強くなるかはお前たち次第だ」
「これが悪魔の実? ルフィが全身ゴムになったっていう」
「それをおれ達にくれるのか?」
「別に食わなくてもいい。食べて強くなりたいなら一つだけ選んでくれ」
生身でも強くなれる保証はある。悪魔の実を食べて海に泳げないカナヅチになるリスクはあるが、海に落ちない場所でなら力を発揮できる。三つの悪魔の実を見て悩む二人は、エースだけが手を伸ばして食べることを選択した。
「まずっ・・・!!」
味に関しては知らんがな。
「食べたな。エースが食べたのは全身が火になる自然系の“メラメラの実”だ」
「それって、ルフィの身体がゴムみたいになるってことなのか?」
「そういうことになるな。でも、戦い方次第で負けるだろうから最強になった気分でいるなよ。ということで今から鍛えてやろう」
残った実を仕舞って三人をトレーニングができる異空間へと案内する。船に置かれてる大きなガラス玉に触れ、発する光に包まれながら中へと入る。どこまでも広がる草原に立った矢先に轟く爆発音が聞こえてきた。
「うおっ!? な、なんだいったい?」
「何時ものメガローとヴェージの喧嘩だ」
気にするなと言いながらそれぞれ特訓の内容を告げる。
「ルフィは全身ゴム人間だから腕や足を膨らませることができるはずだ。まずはそれを意識してやってみようか」
「エースは最初から全力で炎を放ってみろ。それから徐々に感覚的に炎による技を身に付けよう」
「サボ、お前は地道な特訓をしていこう。生身の身体でも、覇気ってのを扱えるようになれば悪魔の実の能力者相手でも問題なく戦えるからな」
それぞれ頷く三人とこうして鍛えることにしたのだった。