海賊王におれは・・・・・ならないから!   作:ダーク・シリウス

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海軍の失墜

「・・・・・」

 

海軍本部マリンフォード。正義を掲げ海の秩序と平和を守り保たんとする世界最大組織のトップを悩ませる事案が絶たないでいた。マリンフォードの各場所、それこそ海兵が住む建物や本部内、軍艦やドックに音声と映像を見聞できる摩訶不思議な物が毎日のように出現して―――天竜人の奴隷にされた海兵たちの親族が常日頃どんな生活を送っているのか見せつけられているのだ。ハッキリ言えば、天竜人の天翔ける竜の蹄の焼印をその身体に刻まれた人間がどうなるか海軍は認知している手前、実際に見せつけられるとどうなるか言うまでもない。

 

「・・・・・失礼します・・・・・」

 

報告にしに来た将校クラスの海兵が暗い顔でセンゴクの下へ訪れた。

 

「・・・・・サクレッス中将が自殺を図っておりました。自宅で首を吊ろうとしたところ他の者たちが発見し、必死に説得をして停めましたが・・・・・」

 

「・・・そうか」

 

「・・・・・他、大尉以下の海兵が数百人の規模で反旗を翻し、聖地マリージョアへ強行しようと軍艦を出航していたところ発覚。これをゼファーさんを筆頭に滞在中の大佐たちが取り押さえました」

 

「・・・・・家族を取り戻しにか」

 

「・・・・・はい。天竜人を手に掛けること辞さない極刑覚悟での・・・・・全員、身内を奴隷にされた海兵で構成されていました」

 

天龍によって滅ぼされたマリージョアの復興は、海兵の家族が日夜休まず働かされている映像が今でも放送されている。

 

『働け~! 休まず働くだえ~! 神々が住まう地を復興させる栄光に感謝しながら働くんだえ~!』

 

『このノロマ! 誰が休んでいいと言ったアマス!? 今日の食事は抜きにするアマスよ!』

 

『貴様等は“人”ではない! 家畜以下だ! 死ぬまで使い潰すだけの極潰しだえ~!』

 

 

『パパ~! 痛いよ、お腹空いたよ~!』

 

『うわ~ん! うわ~ん!』

 

『あなた・・・・・助けて・・・・・っ』

 

 

人を人として見ない、扱わない天竜人と奴隷以下の扱いを受け心身共に壊されていく海兵の家族たち。その音声と映像はマリンフォード中に放送されているのだ。これも天龍の能力によってだ。

 

「・・・・・センゴクさん。どうにもならないのですかっ」

 

海兵が煮え切らない、気持ちを押し殺したような声音で訊き固く握る拳が震えている。センゴクは静かに瞼を下ろす。

 

「・・・・・家族はいるのか」

 

「っ・・・・・奴隷にされました。今、助けを乞うた女性と泣いていた子供たちが私の妻と子です」

 

「・・・・・すまない。私でもどうにもならない。この世界の神は天竜人なのだ。神に逆らう道理はない」

 

その言葉の後、強い視線を感じ取ったセンゴクは閉じた瞼を開けば、海兵の顏は意を決したようにセンゴクを睨みつける感じで見つめていた。

 

「私は・・・この世から犯罪者を無くし、愛している家族と平和に暮らすことで海兵として命を懸けて来ました。ですが、俺の命より大切な家族が天竜人の奴隷にされてしまった。センゴクさん、あなたは分かりますかこの気持ちをッ」

 

「・・・・・」

 

「天龍のおかげで、俺はいま正義とは何なのか自信もって言えなくなりました。犯罪者や海賊から海の平和を守らんとする海軍が、俺の家族を奴隷扱いする天竜人が本当に守らなければならない存在なのかと。センゴクさん、奴隷をする人間は赦す者と赦される者を区別されるのですか? してもいいのですか?」

 

家庭を持たないセンゴクは家庭を持つ海兵の気持ちをわかるはずがない。海軍の元帥というトップの立場の人間として、冷徹でなければいけない時もある。それが今なのだが―――。

 

映像が突然パッと変わった。映るのは天龍の顏だ。

 

『やーやー、マリンフォードの皆さん。四皇天龍だ。自分たちの家族が奴隷にされた気持ちはどうだったかな? 神の下僕に送り出せて嬉しいかな? 歓喜の涙を流せたかな? なんせこの世界の神なんだから神の望みを叶えるのが神より下の人類の義務なんだから当然だよなー?』

 

「天龍・・・・・ッ!!」

 

『さて、自分の愛する家族が天竜人のために働いているところを毎日見せて来たが、これでも守るべき罪のない人類を奴隷にして心身共に壊し、命を弄ぶ愚行をする天竜人を許せるのかな? これからその投票をしてもらいたいと思っているんだ。協力はしてくれるよな?』

 

朗らかに言う天龍を阻止したくても出来ないセンゴクは見守るしかできない。

 

『許せないなら湾内にまで武器を持って捨てて集結しろ。制限時間は30分以内だ。協力者にはお前たちの家族を取り戻させよう。マリンフォードからマリージョアへ繋げる道を30分後に用意する。天竜人に対する反逆の覚悟がある者は武器を持たず大切な家族を自分の手で取り戻しに来い。それ以外の者は一切邪魔をせず見守っていろ。でなければマリンフォードを滅ぼしてやる』

 

それじゃーなー。と言って映像が減っていく時間となった。天龍の後手に回ってしまい、センゴクが動く前に目の前にいた海兵が踵を返して駆け出していった。確実に自分の家族を連れ戻す為だろう。天竜人に逆らってでもだ。

 

しかし、彼等の邪魔はさせんとばかりにマリンフォードの上空に黒雲が発生。雷鳴が轟き何時でも雷がマリンフォードに降り注ぐぞとばかり、天龍からの警告を訴えているかのようだった。天龍の放送を見聞した海兵たちは動揺とどう動くべきか当惑している間にも、武器を持って湾内に向かう海兵たちの目撃が絶えず武器を次々と捨て、集い始める海兵の数は30分後にもなると1000人も超えた。

 

そして黒雲から天龍が姿を現し、同時に聖地マリージョアへ繋げる大きな空間の道を広げて作った。

 

「それじゃあ、神の反逆タイム開始だ。自分の家族を見つけて連れ戻してこい」

 

言われるまでもないと海兵たちはマリージョアに繋がった空間を潜って、復興作業をしている奴隷たちの下へ駆けだして行った。

 

「天龍ゥッ~!!!」

 

黄金の煌めきと共に眼鏡を掛けた巨人が姿を現す。

 

「お、仏の能力者だったかセンゴクさん」

 

「貴様、一体何を目論んでいるッ!? 自ら天竜人の奴隷にしておいて今度は海兵たちに家族を解放させるなどッ!!」

 

「まぁだ判らないのか? そんなんだから海兵たちの心が離れていくんだよっと」

 

閃光が飛んできて蹴りを入れる。光が人の形を作り、大将黄猿が伸ばす脚と交差した状態で挨拶を交わす。

 

「久しぶりだなボルサリーノさん」

 

「本当にキミは何をしたいのかねぇ~? 今回ばかりはおいたが過ぎるよ~?」

 

「人間の心を試したまでさ。人が大切なモノと引き裂かれ、手の届くところで取り戻せるとしたらどうするのかをさ」

 

「そのせいで何十、何百の海兵が反旗を翻したか、貴様はわかっちょるのか!!」

 

赤犬サカヅキが拳をマグマにして殴りかかるが、素手で受け止める天龍。

 

「そいつは海兵も人間だっただけに過ぎない。理由が家族の為に規律を破ってでも取り戻したい故の行動だったら、何もおかしいことじゃないだろ。だからおれは自らの手で取り戻させようと思ったのさ」

 

「まるで試練を与えるためにしたような口ぶりだなお前さん」

 

もう片方から青雉クザンが氷で覆った手の平を突き出してくる直前、その手だけ別の空間へと出る空間で回避し、クザンの手はサカヅキの真後ろに発現した空間から飛び出した。

 

「ぬおっ!? おいクザン!!」

 

「あらら、こりゃあ厄介な能力だ」

 

「同士討ちを狙うとはねェ~」

 

天龍の身体から衝撃波が放たれ、三大将は弾かれる風に吹っ飛んだ矢先にセンゴクの手から放たれる衝撃波を食らってしまった天龍。

 

「っ・・・! 衝撃波か!」

 

「これ以上は貴様を好きにさせん!」

 

「天竜人を犯罪者にするつもりはないのかよ? 今まで散々見せつけたのに考えは変わらないとか」

 

「天竜人は世界政府を創造した王の末裔! 彼等無くして今の海軍は存在しなかった!」

 

「神以前に自分で王だって言ってんじゃん。王ってことは人間だろ? 揃いも揃って下品で気品のない王の末裔たちだな」

 

指を弾いた瞬間。黒雲から降り注ぐ雷がマリンフォードの建物を打ち砕く。

 

「俺は言ったぞ。邪魔するならマリンフォードをどうするかをな。おれを相手するよりマリンフォードを守るのが先じゃないか?」

 

「貴様ァァァ~~~!!!」

 

「ふはははっ!!! それじゃ、おれはこれで失礼させてもらうぜ!! ―――ああ、因みに古代兵器プルトンとやらの設計図は手に入ったことだけ教えてやるよセンゴクさん」

 

「なっ!?」

 

懐から取り出す古びた紙の束をヒラヒラと見せびらかす。果たしてそれは本当かどうか定かではないが、一番上の表紙にプルトンと書かれているのが見えた以上は、無視できない代物と化した。大将たちの攻撃を躱し、いなし、防ぎながら天龍はセンゴクに話しかける。

 

「取引でもするか? 今すぐ天竜人を地に下ろすなら渡してやってもいいぞ? おれは約束を守る男だからな。そっちがそうするなら渡そう」

 

「できるかそんなこと!!」

 

「あら残念。じゃあカイドウに渡すとしよう。じゃあな」

 

上空から雷が落ちてきて、4人の攻撃が一瞬だけ止まった隙に海へと逃れるように潜った。すぐさまクザンが海中を凍らせに動くが、氷結に巻き込まれたかは判断できない。

 

「おのれ、またしてもあの小僧にっ!!!」

 

「こうも安易にあしらわれるとなると、大将クラスがもう何人か足りないかねェ~」

 

「それに自由過ぎるからな。いつどこで現れてくるのか他の四皇たちより分からなすぎる」

 

「そのうえ天龍の船すら把握できとらん。こちらは奴の後手に回るばかりだ。やつの船の捜索に力を入れなければならん。古代兵器の設計図が本物ならば世界政府と海軍にとってかなりの脅威となる!!」

 

黒雲が消える頃にはマリンフォードは半壊状態となっており、マリージョアでは海兵たちが天竜人や近衛兵相手にしながら家族を解放して連れ戻すことが叶ったが、天竜人の反感を買ってしまった。元帥と大将はこれにより責任を課せられることに。

 

―――奴隷の焼印を刻んだ海兵の家族の引き渡しと世界中の種族を5000万人をマリージョアの復興に宛がうため強制的に連行しろと。さらにその中には世界政府直属の人間と海軍も含まれていたのだ。

 

「これは絶対に果たしてもらうだえ! 貴様らの教育不届きがこのような結果を招いたのだからえ!」

 

「・・・・・わかり、ました」

 

世界政府と全海兵の総数兵力を搔き集めても1000万人も届かない。世界政府と海軍は東西南北から罪のない人々や罪人、監獄船や大監獄から囚人を搔き集めてでも天竜人たちの要望に応えねばならなかった。

しかし―――。

 

「センゴク元帥!! 天竜人から奴隷を解放した海兵が引き渡し要求を断り、中には辞職を申す海兵や徒党を組んで謀反を起こす者が後を絶えません!!」

 

「くっ!! やはりこうなってしまったか・・・!!」

 

「い、一大事ですっ!? ゼファーさんとガープさんが対立して戦い始めてしまいました!!」

 

「なんだとっ!?」

 

 

海軍本部ドック

 

「ガープ、俺を止めてくれるな!!」

 

「止めるわっ!! そこの海兵たちと家族を軍艦に乗せてどこへ行こうとするんじゃ!!!」

 

紫髪の巨漢の老人とガープが拳のみの殴り合いの戦いをしている中心に、人間以下にされた家族を軍艦に乗せる海兵と、阻止しようとする海兵の味方撃ちが始まっていた。

 

「こいつらを天竜人から引き離す。センゴクが奴隷引き渡しの要求を受け入れた以上、この海軍に安全な場所などない」

 

「この世界に安全な場所等ありゃあせんわゼファー」

 

「だとしても、海兵が海兵を・・・黙認で仲間の家族を売りつけるような真似はおれには到底できん。おれも愛すべき妻子を奪われた経験上、あいつらの気持ちは痛いほどわかる」

 

機械化の右腕であるバトルスマッシャーで殴りつけるゼファーと左拳で応戦、突き出し合う二つの拳がぶつかり鍔迫り合う力が相手を押し込まんとする。

 

「だからおれはあいつらを逃がすんだガープ」

 

「軍法会議もんじゃぞそれは。お前も罪を問われるぞ」

 

「はっ! 天竜人の傀儡になり下がった正義のない海軍に未練なんてないさ。しかも罪のない5000万の民間人を奴隷にしようとする天竜人に従う道理もないわ!」

 

握った拳を開いてガープの拳を掴み、積み上げていた木箱に向かって無造作に投げてぶつけた。

 

「例え天龍の小僧が元凶でも、おれの教え子の家族まで生贄に捧げることを許容するならば、もはや海軍に正義は失ったも当然だガープ!!」

 

軍艦が動き出す。

 

「先生!! 早く!!」

 

「ガープ、こんな形でお前と道をすれ違うことになったのは残念だが・・・正義と信念を無くした海軍に居続ければ天龍の影響で大切なものを失うことになるぞ」

 

ドックから遠ざかる軍艦へ力強く跳躍して甲板に乗ったゼット。奴隷以下の焼印を刻まれた妻子を守らんとする海兵の思いを知ったゼファーという老兵は彼等のため海軍に反旗を翻したのだ。

 

 

―――面白い、そこまでする海兵がいるとはな。なら、お前たちを相応しい島へと案内してやろう。

 

 

どこからか見ていた天龍の魔法でマリンフォードから離脱する軍艦は光に包まれた。そしていつの間にか天竜人の奴隷にされた人間が多い太陽のシンボルの旗が数多くある島の港にいたのであった。

 

「・・・・・ここは? どこの島でしょうか先生」

 

「わからない。だが、マリンフォードからかなり離れた海域の島であることは確かだ」

 

そう話しているゼファーの目の前に大きな鳥が舞い降り、老執事の男の姿に戻った。

 

「ようこそタイヨウの国に。わたしたちは貴方がたを歓迎いたします」

 

「タイヨウの国・・・?」

 

「はい。この国は天竜人に人間以下にされた人間が多い国でございます。もしも皆様もそうであるならこの国に永住することをお勧めいたします」

 

自己紹介が遅れました。私はセルバンテスと言います。以後お見知りおきを・・・・・。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

世界経済新聞を見ていた時、ふと思った。

 

「セルバンテス」

 

「なんでしょう」

 

「この新聞を刷っている世界経済新聞社ってどこにあるかわかるか?」

 

鞄に入れた新聞を運んでくる帽子を被ったニュース・クーというカモメが飛んで行った空へ見つつ訊くと、セルバンテスは否と答えた。

 

「申し訳ございません。彼の本社の場所は把握しておりません。興味が湧いたのですか?」

 

「ああ、海軍が5000万人の奴隷を集めているという話題が載っていなかったからな」

 

「おそらく世界政府が隠ぺいしているからでしょうな」

 

「おおっと、それはそれは・・・・・事実を教えなくてはいかないだろう」

 

悪戯っ子のような笑みを浮かべるとセルバンテスはおれの横に電伝虫を置きだした。何時の間に持っていたんだ?

 

「では、本社に連絡をいたしましょう」

 

「番号は分かるのか?」

 

「新聞に載っておりますよ?」

 

・・・・・それは、気付かなかったな。

 

 

世界経済新聞本社

 

世界の何処かに存在するポット型の社屋。

気球と無数の鳥の力で社屋ごと空を飛ぶ事ができ、危険が迫った際、即座に撤収・逃亡が可能。

時に政府や海賊、犯罪組織にとって都合の悪い事実も容赦なくバラ撒くゆえ敵が多い事から考案されたシステムで、いざとなれば本社だけで発行→増刷→配達の全てを賄える設備さえ内蔵している。

 

社長は赤と白模様の羽付きの黒い帽子をかぶり黒いマントで身に包んだ外見が金眼で黄色い嘴の白い鳥。名前はモルガンズ。そんな彼宛てに一本の連絡が入った。電話に出た社員は最初は聞き間違いかと再度名前を訊き返したが、同じ名前を告げられ顔中汗まみれとなった。

 

「しゃ、社長! よ、四皇の天龍からお電話ですっ!!!」

 

「クワッ!? よ、四皇の天龍からだとっ!!?」

 

個人的にとある四皇の一人と繋がりがあるので驚かないつもりが、ここ最近話題になっている男から直接連絡してくるとは予想外だった。そして社長として何やらビックニュースな匂いがしてくる。社員と変わって話に応じる。

 

「もしもし?」

 

『お、社長さんか? 単刀直入で言うが俺と同盟を結ぶ気あるか?』

 

「同盟、だと?」

 

『そう。今日の新聞を見たんだが、俺の原因でもあるんだけど天竜人の要望で5000万人の奴隷を集める海軍のことが載っていなかったからさ』

 

「は?」

 

なんだそれ、おれ、知らないぞ? 思考が停止しかけたモルガンズは爆弾発言を訊かされる。

 

『もしもしてくれるなら、一部だけ最後の島ラフテルの場所を示すヒントを教える。そして古代兵器プルトンの設計図も見せてやろう』

 

「なっ、なんだとっ!?」

 

『ああ、別に今すぐ答えが欲しいわけじゃない。というか、海軍に盗聴されてるだろうから断られる前提で提案している。二日後、もう一度かけ直す。それでいいか?』

 

なぜわざわざかけ直すのかわからないが、盗聴の可能性を考慮してるということは警戒しているのだろう。モルガンズは二言返事をして通信を切ったところで本社の扉が開きだした。

 

「へぇ、ニュース・クーを追いかけたらここが世界経済新聞社の本社か」

 

「なぁああああああああっ!!?」

 

モルガンズを含め社員全員が目玉を飛び出してしまうほどビックリ仰天した。なんせ・・・四皇天龍とその仲間たちがぞろぞろと普通に入ってきたのだから驚愕せずにはいられない。

 

「ど、どうやってここに来たんだっ!!?」

 

「ニュース・クーを追いかけて来た。時間はかかったが、ようやく見つけたよ」

 

「・・・・・さっきの電話は一体」

 

「最後のはフェイクだ。海軍にそう思わせるためのな。で、同盟の件は本気だから」

 

客間ってある? と訊かれるモルガンズは焦った表情で周囲を見回すが、客を出迎える空間などありはしないので自室に案内する他なかった。

 

「じゃ、よろしく」

 

「こ、こっちだ・・・・・」

 

モルガンズの自室へ招かれ本来自分が座る席を天龍に座らせ、足りない椅子は仕事場から社員に持ってこさせて座った。

 

「それで、最後の島ラフテルの場所を示すヒントとやらは本当に?」

 

「おう、これだ」

 

丸めた大きな紙をテーブルの上に広げると、魚拓されたポーネグリフの文字がモルガンズの視界に飛び込んできた。

 

「ポーネグリフか?」

 

「さすがに知っていたか。ただこれは普通の歴史の本文(ポーネグリフ)じゃない。赤い石の真の歴史の本文(リオポーネグリフ)というのが4つほど、その石に刻まれた文字を解読すればラフテルへ導いてくれるんだ」

 

「・・・ッ!」

 

世界中の海賊が夢に見た海賊王ゴールド・ロジャーが最初に到達した最後の島への手掛かりを自分が知ることになったビック・ニュースに目を輝かす。

 

「お、教えてくれ。ラフテルとはどんな島だ? 莫大な財宝が眠るとは本当なのか?」

 

「それは秘密だ。財宝については―――ああ、本当だ。ロジャーは嘘を吐いていなかった」

 

ドサッと古代兵器プルトンの設計図をテーブルの上に乗せた。

 

「これが古代兵器の設計図だ」

 

「こ、これが・・・!」

 

見たくて仕方がないモルガンズは手翼を動かしたが、設計図を先に触れる天龍に遮られた。

 

「おれが提供するのは色んな情報だ。そしておれが望むのは御社との同盟だ。さて、返答は如何に?」

 

「―――――」

 

モルガンズは目の前の情報の宝箱の魅力に、抗うことなど考えなかった。誰もが知らない情報を、誰もが喉から手が出るほど欲しがる情報をこの男は提供してくれるというのだ。

 

「・・・いいだろう。世界経済新聞社は四皇天龍と同盟を結ぶ!!」

 

「契約成立。それじゃサインをお願いしよう。損はさせないぜ?」

 

「クワハハハハッ!! ホットなニュースをよろしく頼むぜ!!」

 

この日。四皇と新聞王が密かに同盟を結び、それ以降は天龍が直接見た映像を世界経済新聞社にも見えるようになってホットなニュースが記事となっていくのであった。

 

当然海軍と天竜人の件も記事に載り―――海軍が5000万人の奴隷を集める事実を知った世界各地の民間人達は、海軍に対する支持率と信頼度がガタ落ちになるのも時間の問題だった。この新聞で世界政府とそのトップである五老星という五人の老人が焦らずにはいられなかった。

 

「海軍が俺たちを天竜人の奴隷にするため『世界徴集』だとっ!?」

 

「う、噓よ・・・海軍がそんなことをするはずが!」

 

「お、おいっ!! 海に海軍の船が何隻もこっちに来るぞ!!」

 

「まさか、この新聞の記事は本当だっていうのか!!」

 

「に、逃げろっ!!」

 

記事によって力のない民間市民たちは海軍すら海賊のように見えてしまい、悲鳴を上げて逃げ惑う人々に上陸した海兵たちは―――天竜人の命令により海賊のごとく東西南北の島々に住まう種族を問わず5000万人の人類を『世界徴集』を建前にして任務を全うするのだった。たとえその島に四皇が縄張りにする島であろうともだ。

 

「センゴクめ、そこまで堕ちてしまったか・・・・・?」

 

「親父、魚人島も狙われてるんじゃねぇかよい」

 

「ああ・・・・・念のために魚人島へ向かうぞ野郎ども!!」

 

たとえ相手が七武海だろうと天竜人の命令ならば絶世の美女の海賊でも対象になる。

 

「蛇姫様! 海に海軍の軍艦がたくさん来てるわ!!」

 

「ほう・・・愚かにもわらわたちも奴隷にしてくれようとはな」

 

「まさか七武海の地位を剥奪かニョ・・・・・(最悪、イッセーを呼ばねばなるまい)」

 

「全兵士達に迎撃態勢を!!」

 

「我等の力を見せつけてやるのよ!!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 

 

 

「ウォロロロロ・・・・・ッ。世界が慌ただしくなってきたな」

 

「あの小僧がここまでするとは」

 

「もはや海軍は海軍ではなくなったも当然だなこりゃあ」

 

「カイドウさん、俺たちは?」

 

「何もしねェ。イッセーの奴が何を考えていようとも関係ない。寧ろこの状況を作るのが奴の狙いかもしれないからな」

 

どういうことだ? と懐刀三人衆は揃って首を傾げた。カイドウでも一誠のやろうとしていることは全てわかるはずもないが、無駄なことをする男ではないと信用している。

 

 

後に海軍の5000万人の『世界徴集』はマリージョアの復興のためとは言えども、奴隷としての強制連行であることを世に知らしめ世界政府が創造されて以来の二つ目の黒歴史を作ったのだった。

 

 

 

 

「マオウ、とうとうメッキが剥がれたぞ海軍は。天竜人の命令なんて断ることができる戦力を抱えているのにだ」

 

「イッセー殿はこれを狙っていたのですか?」

 

「うーん、海軍にも奴隷にされた人間の痛みを知ってもらうところまでは狙ったことなんだが。それ以降は俺も予想外もいいところだ。まさか大胆にも海軍自ら奴隷を搔き集めることをするなんて思いもしなかった。これは責任を感じるな。やっぱり天竜人は世界の膿みたいなやつか。こーなるなら殺すべきだったか?」

 

「あ、イッセー。新聞と一緒にあったイッセーの手配書の金額が跳ね上がったよ」

 

「今更どうでも・・・・・」

 

「『海賊 天龍イッセー・D・スカーレット』の懸賞金額が僕の父より高くなるなんてねぇ」

 

「・・・・・ヤマト、今何()った?」

 

「え? 僕の父より・・・・・」

 

「違う、最初の方だ」

 

「海賊 天龍・・・・・あ」

 

「とうとう、私たちは海賊にされましたか。髑髏を掲げておりませんのにやるせないですな。どうしますイッセー殿」

 

「・・・・・海軍の軍艦を見つけ次第、全部ぶっ潰す!! 龍の逆鱗に触れた奴は容赦しないぞ、もう誰が海賊だぁああああ!!!」

 

「泣くほどショックなんだねぇ・・・・・」

 

「同情を禁じ得ません。私たちは天竜人に対すること以外何もしていないというのに」

 


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