海賊王におれは・・・・・ならないから!   作:ダーク・シリウス

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奴隷解放

シャボンディ諸島への航海はもう間もなく終わりを迎える。一週間以上の日日と時間をかけてようやく目的地に辿り着いた。

 

「おおー!!幻想的!!!」

 

島の外側から眺めれば海中へ根を張る巨大な縞々の木々が数え切れないほどにあり、聞いていた通りシャボン玉がたくさん飛んでいる。あれがシャボンディ諸島なのか・・・・・!

 

「すげー一体どうなってるんだ?海から木が生えてること自体不思議だ」

 

「マングローブという樹を知っておるか?」

 

「俺の世界にもあるぞ。って、まさかあれ全部マングローブなのか?」

 

「そニョ通りじゃ。あれは世界一巨大なマングローブ〝ヤルキマン・マングローブ〟という樹の集まりなニョじゃ。樹は全部で79本。その一本一本に町や施設があり―――それを79の島から成る〝シャボンディ諸島〟と呼ぶ。後半の海〝新世界〟へ行こうとする航海者達が集う島でもある」

 

「〝新世界〟・・・・・確かこの海域は偉大なる航路(グランドライン)、前半の海なんだよな?で赤い土の大陸(レッドライン)を超えた先は〝偉大なる航路(グランドライン)〟後半の海と呼ばれてる〝新世界〟だって」

 

その通りだとニョン婆は頷き、肯定してくれた。伊達に聞き込みをしていたわけじゃないからちょっぴりホッとした。無知のままじゃいられないからな元の世界に帰る方法を見つけるまで色々と調べて知らなくちゃいけない。

 

「そなた、また訊くが本当に聖地マリージョアへ行くつもりでおるニョか」

 

「男に二言はない。手始めにあの島の人身売買をしてる施設を全部潰し回る」

 

「決意は変わらニャい、か。ニャらばわしらが止める事はできニュ」

 

ごそっと衣服から複数の紙きれと手紙を取り出して俺へ手渡してくる。それを受け取ると何かの番号と店の名前、ニョン婆の名前と手紙が記されてるのを確認した。

 

「その手紙に書かれてるマングローブの番号にまず向かうニョじゃ。わしがその昔、蛇姫達を保護した際に協力して島に送り届けた友人がまだそこに居ればそれを見せると良い」

 

「そっか。そうしてみるよ」

 

ポケットの中に手紙等を仕舞う俺の目の前に女人達が荷物を持ってきた。はて、それはニョン婆の友人達に送る物かと思ったらどうやら違うようだ。

 

「この中には食料と外海の金を入れてある。わらわ達から離れてしまうそなたは衣食住に困るであろうから用意した」

 

「ああ、そう言えばそうだったな。ありがとうハンコック」

 

「ど、どういたしましてじゃ・・・・・♡」

 

「「「キャ~~~~~♡」」」

 

気が利く彼女に微笑んでお礼を言うとハンコックは顔を赤らめて照れた。一週間以上前の男を見下していた時期のハンコックの反応とは大きく異なり、人はこうまで変わるものなんだなと思いながら荷物を掴み肩に担ぐ。

 

「ハンコック達には色々と世話になったな。全部終わったらまた女ヶ島に戻って来ていいか?」

 

「っ・・・・・そ、そなたがそれを望むならば構わぬ・・・・・・歓迎しよう」

 

「ん、帰れる場所があるだけで安心だわ」

 

朗らかに笑いながら翼を生やして宙に浮く俺を見上げる彼女達に手を挙げる。

 

「それじゃ、またな!」

 

「「「またねー!!!」」」

 

翼を羽ばたかせて九蛇海賊団の船から飛び去ってシャボンディ諸島へと向かう。

 

「行ってしまわれたニョ蛇姫よ」

 

「・・・・・また戻ってくると申していたのじゃ。ならばわらわは待っている。それだけじゃ」

 

「あの男の首にそなたよりも高額の懸賞金がかけられて戻ってくることはまず間違いニャいじゃろう」

 

「そうであろうな。天竜人に手出しすれば中枢の者達は黙っておらん。その時こそ女ヶ島で匿えばよい」

 

と、そんな話がされている事を知らずに数字が書かれてるマングローブを通り過ぎていく。遠目から色んな町や遊園地っぽい施設を目視しながら真っ直ぐニョン婆が記した場所へとひとっ飛びする。13番グローブへと。

 

「―――あそこか?」

 

地面から発生するシャボン玉を触れながら飛び回り続けていれば、13番GR(グローブ)の場所にマングローブの根の上に一件の建物を見つけた。その前に飛び降りて―――不思議な事に文字が読めれる。

 

「シャッキー'SぼったくりBARって・・・・・ぼったくりを前提に営業してるのか」

 

こんな店を構えて生活ができているのか不思議でしょうがないものの、中に入ってみる。店内は30人程度が入れる広さと空間で、Uの字のカウンターの席の他、机を半分囲むような逸れた長椅子が一つだけある。この店に訪れたのは俺だけのようで、席に座ってたばこを吸ってる女性が少々暇そうにしていたが俺が入ってきたのを気付いて立ち上がった。

 

「あらいらっしゃい。なにする?」

 

「ああ、俺は客じゃないんだ。ここにシャッキーとレイリーって人がいる?」

 

「シャッキーは私よ。レイリーって人はまだ半月も帰って来てないの」

 

片方だけ出会えただけでもよかった。ニョン婆から預かった手紙を出して彼女に手渡すと読み始めた。

 

「あら、懐かしいわね」

 

「昔ハンコック達を保護した協力者がここにいるってニョン婆から聞いたんで来てみたんだ」

 

「そう、よくあの男子禁制の島にいて無事で済んだのね。ハンコックちゃん達と仲が良いの?」

 

「色々と遭った末に良好になったよ」

 

そうなの、と微笑んで灰皿にたばこを置いてシャッキーは、カウンターの机の一部を持ちあげてバーの店主らしい立ち振る舞いをする。

 

「グロリオーサの手紙にはイッセーちゃんのことをしばらく預かってほしいと書かれてあったわ」

 

「ん?そうなのか?」

 

「ええ、それにこれから君が何をするつもりでいるのかもね」

 

そこまで手紙に綴られていたことを知らなかった俺は短く相槌を打った。

 

「他人からすれば自ら命を捨てる無謀で愚行なことだけど、どうしてそうしようとするのか教えてくれる?」

 

「人の人生を、人権を奪うほど人は神か何かか?」

 

「例えそれが800年前、世界政府という一代組織を創造した20人の創始者達の末裔でも?」

 

「末裔は末裔に過ぎないだろ?血族がどれだけ優れても過去の偉人達に見倣う事を今の末裔達はせず、血筋と肩書きだけで神のごとく振る舞う輩は結局ただの人の子だ」

 

思っていたことを口にする俺を興味深げに注視してくるシャッキー。吹かしていた煙草を指に挟みながらこう言ってきた。

 

「仮に成功しても天竜人は奴隷を集めるわよ?それに世の中から奴隷はいなくならない。それでもするの?」

 

「目の前に理不尽に強いられ助けられる人がいたら助けたい性分なのさ」

 

困った性分だと自嘲する。シャッキーはそんな俺を純粋な目付きで否定も肯定もせず、自然な動きで飲み物を出してきた。

 

「真っ直ぐ思ってることを言う子は今時珍しいわ。今のご時世、悪い事をする子は大半悪い子ばかりだから尚更ね」

 

「世の中そういうもんだろ」

 

飲み物を飲もうと口に含もうとしたら、鼻腔に感じる仄かな酒の香り―――。

 

「俺酒飲めないから!」

 

「ふふ、子供なのね」

 

子供で悪いか!?危うく飲んでこの店を迷惑かけるところだったよ!酒を突き返す仕草をしたと同時に店の扉が開き、白髪に白い顎鬚を生やす眼鏡をかけた初老の男性が我が家当然のように入ってきた。右側の目に縦に走る傷痕があり、一切の隙もない動きと感じる強さでただの老人では無いことは明らかだ。

 

「いらぬならその酒を一杯貰おうか若い少年よ」

 

「あら、レイリー。お帰りなさい」

 

「レイリー?あんたがそうか」

 

タイミングが良いな。とシャッキーに目を配り、ニョン婆から受け取った手紙を彼に突き出した。

 

「この子、ハンコックちゃんと仲良しでグロリオーサから手紙を持って来てくれたのよ」

 

「おお、そうなのか。彼女達と知り合いとあらば女ヶ島へ入ったのだな?よく無事でいられたものだよ」

 

やっぱり男子禁制の場所だから入ったら即死なのか。俺、強くなっていて本当に助かったな。

 

「私はシルバーズ・レイリーという。君は?」

 

「兵藤一誠、イッセーって呼んでくれ」

 

握手を求めると快く応えてくれて手を握ってくれた瞬間。レイリーの目付きが一瞬だけ変わった。

 

「なるほど・・・・・一目見た時から君は凄まじい実力者だと察していたが、静かに〝覇気〟を纏っているのだな」

 

〝覇気〟?何の事だ?不思議に心の中で首を傾げてる俺の眼前で手紙に目を通し、ふむと顔を向けてきた。

 

「天竜人を襲うとは大胆だな。理由を聞いても良いかな?」

 

「奴隷の解放。それだけだ」

 

「政府を敵に回すが、後悔しないのだな?」

 

「人助けをするのにどうして後悔しなくちゃならない?」

 

至極不思議そうに言い返す。助けるのに理由なんて必要なのかと道理だ。精神論を語られても助けられるわけじゃないし行動あるのみだ。ちょっと猪突猛進、頭が筋肉なアレな感じの様だけど。

 

「数時間後、若い子の血気盛んな行動で世界中が度肝を抜かし、悪名が轟き知れ渡るわねレイリー」

 

「ふふっ、かつての親友もこんな感じで私達をひっかきまわしてくれたものだよ」

 

止める事も背中を押すわけでもなく、見守る男女として口を開いた。

 

「かつての親友?」

 

「ああ、そうだ。異世界から来た異邦人の君にはわからないだろう。私はね、海賊王ゴール・D・ロジャーの船で副船長をしていたのだよ」

 

手紙にそこまで綴っていたのかと思いながらも驚嘆する。目の前の初老の男が海賊王の船員であり副船長とは思いもしなかった。

 

「海賊王っていたんだな・・・・・世界の海を制覇したんだ?」

 

「暇な日がない程に世界中の海を航海し、様々な強敵と相対し、色んな景色をこの目で見てきたのは確かだ。上空一万メートル、深海一万メートルにそれぞれ空島と魚人島という島もあったよ」

 

「・・・・・」

 

「君も冒険に興味があるなら海賊王になるつもりで航海すると良い。その純粋無垢な光を宿してる目で見てきなさい」

 

顔も輝かせてレイリーの話を聞いていたらそんな指摘を受けた。上空と深海にそんな島が成り立つ場所があるとは是非とも行ってみたいものだと思った日は始めただろうな。

 

「さてイッセー君。君はまず聖地マリージョアへ行くのかい」

 

「ん、そのつもりだ。方角を教えてくれ」

 

「教えても良いが、一つ私と軽い運動をしないかな?」

 

運動?ランニングでもするのか?と小首を傾げた時、シャッキーがカウンターのどこにあったのか一本の剣を取りだした。それを受け取るレイリーは朗らかに話しかけてきた。

 

「天竜人に手を出すと言う事は海軍の大将と相手にしなくてはならないのと道理だ。異世界から来た君はどれほどの実力を持っているのか試させてもらうよ」

 

そういうことか。この人が認めてもらえない限り行かせてくれないって感じだな。手当たり次第他の人に聞けば済む事だろうけど、海賊王の副船長の実力・・・・・興味ある。異論はないと首肯して共に表へ出て店まで戦いの影響が届かないところまで離れて対峙する。そうでなきゃ法外な請求をされかねない・・・・・・(これ重要)。

 

「それじゃ始めようか」

 

「ちょっと待って、どうせなら全盛期のレイリーさんと戦ってみたいから」

 

指を軽く弾き魔法を発動する。レイリーの全身が淡い光に包まれて・・・・・顔に刻まれていた老いの証、皺が消えて肌が若返っただけじゃなく、彼自身も全盛期にまで若くなった。

 

「・・・・・これは」

 

「異世界の魔法でレイリーさん自身が今日まで刻んだ時を戻した。ま、平たく言えば若返らせたんだ」

 

「若返らす魔法とは・・・・・驚いた。確かにかつての力が漲ってくるよ」

 

なら、これで思う存分戦えるだろうと思いながら魔力で具現化させた剣を握る。

 

「ほう、それが異世界の力なのかな?」

 

「これはそのほんの一部だよレイリーさん。異世界の力はこんなものじゃないさ」

 

そう言って横薙ぎに振るい、飛ぶ光の斬撃を放った。

 

―――†―――†―――†―――

 

レイリーSeed

 

光る飛ぶ斬撃を放ってきたイッセー君は剣術の心得もあるようだな。軽くかわして姿勢を低く懐に飛び込んで斬りかかってみればあっさり受け止められた。若かった頃の全盛期だった私を完璧に捉えてる彼の左目は喜色の光が孕んでいた。

 

「レイリーさんは最初から海賊だったのか?」

 

「いや、盗んだ船で生活していたらロジャーに誘われてからだな」

 

「それでこの実力か?―――ははっ、最高だなこの世界は!」

 

好戦的な一面を見せ、激しく腕を振るい剣で斬りかかってくる。雑な振るい方では無い。洗礼された剣士のそれだ。それに呼応して彼は気付いているのか定かではないが光の剣に〝覇気〟を纏いだす。これならば自然系(ロギア)能力者の流動する体も実体として捉えることができるか。

 

「時にイッセー君、君は〝覇気〟という力は知ってるかね?」

 

「何度も聞く単語だな。女ヶ島でも聞いた」

 

異世界には〝覇気〟という概念や力がないのか。それで無自覚で放っている彼の潜在能力は凄まじい。

 

「いいかイッセー君。〝覇気〟とは全世界の全ての人間に存在する力だ・・・〝気配〟〝気合〟〝威圧〟・・・それら人として当たり前の感覚と何ら違いはない。―――ただし大半の人間はその気付かず・・・あるいは引き出そうにも引き出せず一生を終える・・・。〝疑わない事〟それが〝強さ〟だ!!!」

 

故に教えるべきだと〝覇気〟のイロハを教える。

 

「私の胴体を斜め右から斬りかかる」

 

スッと身体を横にずらす仕草をすれば、私が宣言した通りに斜め右からイッセー君は斬りかかってきた。

 

「?」

 

ふふ、不思議そうに見つめてくるな。

 

「相手の〝気配〟をより強く感じる力。これが〝見聞色〟の覇気!!これを高めれば視界に入らない敵の位置、その数・・・更には次の瞬間に相手が何をしようとしているのか読み取れる」

 

「・・・・・」

 

「次に〝武装色〟の覇気―――これは見えない鎧を着るようなイメージを持つんだ」

 

手の平を正拳突きをしてきた彼に突き出した直後、私の身体に衝撃を与えるほどのパンチを受け止めた。

 

「・・・・・」

 

跳ね返すつもりでいたが、中々どうして・・・・・異世界で培った強さはどうやら本物の様だ。

 

「今の拳は本気かな?」

 

「割と殴り飛ばすつもりで。本当に見えない鎧を殴ったような感覚だったから・・・・・今度は全力で殴っていいか?」

 

さっきの拳の一撃を上回る一撃を・・・・・膝まで鋼のように黒く染まった彼の腕に見覚えがある。ほう、これは意外だ。

 

「驚いたな。教えてもないのに〝武装色〟を硬化させることができるのか」

 

「ん?〝気〟を纏って硬くするイメージでしているんだけど」

 

イッセー君の世界では〝気〟という概念があるのか。それはもはや〝覇気〟に等しいのだがね。

 

「全力で殴りかかるのはまた今度にしてくれ。君の全力に私も応えるとこの辺り一帯はただじゃあ済まないからね」

 

「そうか、わかった―――からの〝嵐脚〟」

 

爆発的な脚力から発する鎌風を起こして飛ぶ斬撃をまた放ってくる。剣で斬り払って軌道を逸らし、背後の地面のように見えるマングローブの根を深く斬撃の痕を残した。

 

「これも元の世界で培った技かい」

 

「そうだ。あと脚力だけで空を蹴るようなこともできるぞ」

 

実際にそうして見せてくれたのだから驚嘆したものだ。

 

「イッセー君はその若さでここまで実力が高いとなると、どんな人生を過ごしてきたんだい?」

 

「諸事情で子供の時から修行の旅を世界中でしてきた。俺の世界には森羅万象、神々が実在している世界でさ、星の数ほど強い人達がいる中や過酷な環境の中で強くなった」

 

神が実在する世界か。私も行けるのならば行ってみたいものだよ君の故郷の星に。

 

「時に訊くが、君の世界では海賊はいるのかな?」

 

「いないよ。だけど海賊がいたという歴史と証は現存している。海賊時代で名を馳せた人物も名もだ」

 

「その中に私の名前とかないのかね」

 

「調べた限りじゃあ、ないなー」

 

そうか。それは残念だ。

 

「話を戻そう。〝見聞色〟〝武装色〟この2種類が『覇気』だ。―――しかし世界にはごくまれにこんな覇気を扱える者がいる・・・」

 

イッセー君に威圧する力を放ってみたら、驚いた様に目を大きく見張った。

 

「感じたかな?これが相手を威圧する力・・・〝覇王色の覇気〟・・・!!この世で大きく名をあげる様な人物はおよそこの力を秘めている事が多い。ただしこの〝覇王色〟だけはコントロールはできても鍛え上げることはできない。これは使用者の気迫そのもの・・・!!本人の成長でのみ強化する」

 

精神力は弱くない。これならばどんな強者でも―――。

 

「―――っ」

 

彼から伝わってくる威圧と殺気・・・・・まさか、この覇気すら会得していたとは・・・!!

 

「―――不思議だったんだ。単純に威圧や殺気を放っただけで皆が気絶するんだ。そうか、この世界じゃあ〝覇王色の覇気〟って言うんだな。疑問が晴れたよレイリーさん」

 

清々しいほど晴れやかな顔で言うこの子も異世界では『王の資質』を持つ者として産まれていたのか。彼の世界ではこの世界のように普通ではない様だな。

 

「色々と教えてくれてありがとう。今度は俺が色々と教えてあげるよ」

 

朗らかにそう告げる彼の背後の虚空に、不思議な円陣が幾つも浮かび上がって・・・・・炎、氷、雷、風と自然系(ロギア)の攻撃をしてきた。私は驚きながらも久しく忘れていた高揚感を抱きながら、異世界同士の私と彼で戦いを繰り広げた。その際、彼には驚かされるばかりだったと日記に記録しよう。

 

その後、私達が立っている場は殆どイッセー君の攻撃で戦いの爪の痕が残っている。実力は文句が無いほど強く、大将相手でも張り合える。彼自身の強さはこの世界でも通用するだろう。何よりも―――。

 

「参った、流石に手の数の多さでは負けたよ」

 

金色の十二枚の翼を背中から生やして私の手足を巻き付け、動きを封じるだけでなく刃物のように鋭くした翼で身体の急所を突き付けてくる彼に負けたのだからね。

 

「まだこんな隠し玉を持っていたとは。これは君の力かね」

 

「神が創り出した『神のシステム』の副産物、神器(セイクリッド・ギア)っていう力だ。人間や人間の血を引く異種族にしか宿らない摩訶不思議な能力でもある。悪魔の実と違って海にも嫌われないんだ」

 

「面白い力だ。私を若返らせたのもその能力のおかげかな?」

 

「そんなところだ」

 

四肢の拘束を解いてもらう彼から戦意が消えた。代わりに純粋な子供のように笑う笑顔を浮かべて口を開いた。

 

「レイリーさん、凄く強かったよ。悪魔の実の能力者でもないのにここまでこの世界の人間は強くなれるんだな」

 

「君の期待を裏切らないよこの世界は。ところで元の世界に帰る事は?」

 

「今のところできない。次元の話になるんだよ異世界を行き来するのは。海賊王になるよりも絶望的に難しい」

 

「そうか・・・・・気を落とさず元気でいなさい。もしも帰る事が出来るなら直ぐに帰るといい」

 

私から言える言葉はそれしかない。この世界にどこか故郷があるならばよいが、そうでないならばどうしようもない。協力したいのは山々だが・・・・・それしか言えないのだよ。

 

「で、どうだった俺の実力」

 

「問題ない。自然系(ロギア)の能力者の流動する体も実体として捉えることができるならば、君は負けることはないだろう」

 

「できるのか?掴めない雲を掴むような感じで、水に手を突っ込んでも手応えが無い感じなんだろう?」

 

「そうだ。だが、君は〝武装色の覇気〟を無自覚・無意識に纏って攻撃をしてきた。つまりいつも通りの戦い方をしても問題ないのだよ。本来、自覚持って扱えるよう特訓をしたいところであるが、君は止まらないのだろう?」

 

イッセー君は頷いた。

 

「大将とやらが来る前に全部終わらせてまた戻ってくる」

 

「それがベストだろう。何も好き好んで戦わなくていいのだからね」

 

他の海賊達も大将と出会ったらまず敵わない。〝覇気〟を扱えない海賊は尚更だ。

 

「それじゃ聖地マリージョアの場所の方角を教えてくれ」

 

「無茶をせずに帰ってくるのだぞ。ボア・ハンコックも帰りを待っているだろうから」

 

静かに腕を掲げ、彼が向かう場所へ指して示す。私が指す方角へ一瞥したイッセー君は宙に浮いて翼を羽ばたかせた次の瞬間に、光の如く聖地マリージョアへ飛んで行ってしまった。

 

「やれやれ、とんでもない子だ。シャッキーの言うとおり数時間後・・・・・世界が震撼する大事件の報が広まる事だろう」

 

レイリーの零した言葉は実際に現実になった。突如、仮面を被った少年が数多の巨大な怪物達を率いて聖地マリージョアを真昼間から強襲。天竜人が飼っていた奴隷達は一人残らず解放され聖地は壊滅状態、天竜人はほぼ全員半殺しに遭い十字架に張り付けられたばかりではなく、その場に駆け付けた『大将』が返り討ちに遭うという事態。その詳細は絶対世間に公できる筈もなく、世界政府と海軍本部は顔を蒼白しながら『イッセー・D・スカーレット』と言う名の少年の首に天竜人達からの強い希望、大将を打倒した強さの危険性を考慮し―――初頭から5億という懸賞金をかけた。

 

―――†―――†―――†―――

 

真っ直ぐ赤い土の大陸(レッドライン)へ目指す俺の目は要塞を視界に入れた。聖地マリージョアは海軍本部の真後ろにあるという情報をもとに目的地はもう直ぐなのだと、巨大な金色の龍の頭部の上で察した。

 

『要塞から騒がしい音が聞こえますね』

 

「そりゃあこんだけデカい生物が飛んでくれば騒ぎ出すだろう」

 

サイレンなのか甲高い音が上空にいる俺達の方まで聞こえてくる。警戒態勢をしているんだろうけど要塞の武装を見る限り巨大な3連砲の大砲のみ。ここまで飛んでくるとは思えないし何よりこの金龍を倒すほどのものではないだろう。気にせず行こうと告げて要塞・・・海軍本部を素通りする。

 

「素通りしたか・・・・・」

 

「こちらに見向きもせずあの怪物は飛び去って行きおったな」

 

「偶然にしては腑に落ちんな・・・・・直ぐに聖地マリージョアへ連絡しろ。もしもの事もあるからな」

 

海軍本部の最高司令官である元帥のもとに報告された巨大飛行生物の存在。それを直で確認したカモメの帽子を被り白を基調とした制服と〝正義〟と書かれた外套を羽織る元帥、同じ服装で白髪の短髪に白い髭を生やす初老の男は胸に何とも言えない不安を抱き、去って行った怪物がいた空を見上げる。 

 

「どうだ、古の時代から生きていたお前からしてこの壁は元の世界にあったか?」

 

『見た事が無い、の一言です。この赤い壁が世界を一周して繋がっているって話でしたね』

 

「そうだな。それじゃそろそろ魔法で姿を消そうか」

 

雲で覆い隠され頂上が見えない赤い土の大陸(レッドライン)の眼前に辿り着き、巨壁を前に上昇して雲を突き抜け飛び続ける怪物と共にその目で捉えた。『世界貴族』天竜人が住まう聖地マリージョアの住処の光景を。

 

『直ぐに始めますか?』

 

「ああ、解放した奴隷達を運ぶ準備をしていてくれ」

 

白銀の能面の仮面を顔に被って天使と化した一誠は数多の分身体を魔法で作り、分散して襲撃を開始した。

 

聖地マリージョアには〝人間以下〟として生かされ過酷な労働を強いられ、寝食している牢屋に閉じ込められてる奴隷や天竜人に侍らされてる奴隷達。または馬の代わりに天竜人に馬車の如く乗っかられて聖地の中を移動している奴隷達が主にいる。見つけるや否や、視認する暇もなく天竜人を粛清して奴隷を解放する。

 

「金色の龍がいる方へ走れ。お前達を解放するための乗り物がある」

 

「あ、ありがとうっ!」

 

少なくない数多くの奴隷を解放していく一誠。建物の中に入り奴隷を解放しつつ天竜人を半殺しにし、財宝も奪いつつ聖地の破壊活動も怠らない。

 

「―――暴れていいぞお前ら。逃げる奴隷以外なら殺しても良い」

 

あらかた奴隷の解放が進む時、ポツリと呟く一誠に呼応して色の付いた巨大な魔方陣が幾つも出現した。その魔方陣から―――禍々しい気配を纏い、醸し出すドラゴン達が〝召喚〟されて歓喜の咆哮を大気に轟かせる。更には影から黒い魔獣達を創造して破壊活動を活発化させていく。聖地を守る衛兵達はもう絶望する他なかった。自分達ではどう足掻いても敵わぬ化け物だと現実を突き付けられ、破壊をする化け物達に成す術もなかった。

 

「―――そろそろ終いにしよう。戻るぞお前ら!」

 

町を壊滅状態にまで暴れ回ったドラゴン達を呼び寄せる一誠の傍には―――逆さ十字架に張り付けられた天竜人等。ほぼ全員、老若男女問わずが半殺しに遭い虫の息の状態だった。その中の一人が掠れた声を辛うじて発した。

 

「き、ぎざ・・・・・だだで、ずむと・・・・・」

 

「世界政府を創り上げた過去の偉人達の血を引いてる〝天竜人〟・・・・・だからなんだ?俺からすれば何時までも古臭いもんの上に胡坐を掻いて偉そうにしたって所詮お前等も人間なんだよ」

 

「わ、我々を・・・・・侮辱、ずるがっ・・・・・!!!」

 

「創造主達も人間の王だったんだろ。だったらその人間の血を引くお前等は何時から神に成った?天竜なんて大層な名前にも負けてるし、下種人に改名したらいいんじゃね」

 

口の端を小さく吊り上げて嘲笑する一誠の前にドラゴン達が集結する。恐怖と絶望の象徴が天竜人に一生のトラウマとして植え付けられただろう。

 

「また襲撃しにくるぞ。その時にまた奴隷を飼っていた時は・・・・・お前ら天竜人の血は滅ぶと思え」

 

「―――お~、それは困るね~~~・・・・・」

 

サングラスとストライプの入った黄色のスーツを着用して、目が垂れてる男が〝光の速度〟で接近してきて出会い頭に蹴りを放ってきた。

 

「!」

 

ガッ!と瞬時で蹴りを繰り出して受け流す一誠は距離を取った。

 

「ほ~、わっしの速度と蹴りに反応するとはァ・・・・・初めてだねェ~」

 

「その外套・・・・・海兵のか」

 

「おやァ?わっしを知らないたぁ素人海賊なのかい」

 

「その素人海賊がこんな場所に一人でノコノコいると思うのか?」

 

「そんじゃァ、名前は何て言うんだい天使君」

 

「他人に名乗らせるなら自分から名乗るべきじゃないのか?」

 

軽く2メートルは優にある長身の中年の男は一誠の指摘にあっさりと応じた。

 

「海軍本部『大将』黄猿、名前はボルサリーノ」

 

天竜人に手を出せば大将が現れると何度も聞いていた事が実際に起きて、軽く驚嘆した。

 

「あんたが話に聞く大将か。長居し過ぎたようだな。さっさと事を済ませていなくなるつもりだったんだけど」

 

「これだけの暴挙をしておいて無事に帰れると思っていたら大間違いだよぉ~?」

 

「人間が人間を買う暴挙も大間違いじゃないのか。正義の味方の大将さんよ」

 

「ん~~~痛いところをついてくるが、お前さんの名前はまだ名乗ってもらっていないけどぉ?」

 

そう言えばそうだったな。とドラゴン達を魔方陣を介して身体の中に戻し、名を名乗ろうとした瞬間・・・・・。

 

「あー、ちょっと待ってて」

 

「うぅ~ん?」

 

本名を名乗ろうとしたが、異世界に来てまで本名を通す必要があるのか?不意にそんな考えが頭に過り、大将相手に待ったをかけた一誠は腕を組んで考え始めた。律儀に待つ姿勢でいる黄猿の目の前で考え込んで数十秒後。

 

「ん、俺の名前は―――イッセー・D・スカーレットだ。よろしく」

 

「イッセー・D・スカーレット・・・・・短い間だけどよろしくねぇ~」

 

「大将の実力・・・・・教えてもらうぜボルサリーノさんよ」

 

光の剣を具現化して一誠も光の速度で黄猿に接近した。大将黄猿も自身の半身以上の大きさの光の剣を作り出し、光速で一誠へ移動して斬りかかる。

 

「ぬぅ!!!」

 

「はっ!!!」

 

光剣同士がぶつかり合い、使い手によって鍔迫り合いが始まった。

 

「・・・・・フー・・・これは驚いたねェ~~~何の悪魔の実の能力か知らないが、〝覇気〟も纏っているとあらぁ、わっしも軽い気持ちで戦えなくなるねぇ・・・・・」

 

「ぶっちゃけ、ボルサリーノさんしかこの場に来てないんだろ。大方、天竜人の保護をしに来たであろう他の海兵達が大勢身を隠して機会を窺ってるし」

 

「〝見聞色〟の覇気かい・・・・・それだけの使い手が今の今まで無名でいたとは信じられないよぉ~?」

 

「諸事情があってね。話せば長いよ。絶対に信じられない前提でな」

 

火花の代わりに光の粒子が斬り合う度に迸り、一進一退の攻防が繰り広げ続く。

 

「ボルサリーノさん、剣術って習ってないでしょ。何気に隙だらけだ」

 

「わっしは〝ピカピカの実〟の『光人間』だからねぇ~~~」

 

「能力を頼り過ぎるのは駄目だと思う」

 

流動する身体には物理攻撃は不可能故に問題ないと言うボルサリーノに真顔で指摘すると、二本の指を眼前に突き出してきたと思えば眩い閃光を指先から放ち一誠の目を潰す。

 

「まぶっ!」

 

一瞬だけ見動きを止めた瞬間を逃さず横からの蹴りを繰り出す黄猿―――の気配を感知して片手で掴み防ぐ。

 

「やるねェ~~~」

 

「そっちも―――だ」

 

全身から迸る光と雷。掴まれてる足から雷光の攻撃が伝わり、ボルサリーノは少なからずダメージを食らったが足の裏から特大レーザーを放つ。零距離から放たれて無事で済む者はほぼいないだろう。レーザーに呑み込まれそのまま崩壊した建物の奥へと飛んで行く直後に大爆発が生じた。足を掴んでいた相手はいなくなっていた―――。

 

「おやぁ~~~?」

 

代わりに楕円形の金色の繭があった。否、よく見れば繭と思しき神々しい光を纏うそれは翼であった。興味深げに目を向けていたら、繭が満開した桜の花のように一気に開きだし、中にいた一誠が既に殴る姿勢に入っていた。

 

ドゴンッ!!!

 

「っっっ~~~~~!!?」

 

見えない衝撃波、腹部を殴られた確かな打撃の感触を感じた時には身体をくの字にして後方へ吹っ飛び、瓦礫と化した建造物の裏まで壁をぶち抜いて吹っ飛ばされた。

 

「やってくれたなボルサリーノさんよ。足の裏からレーザー撃つなんて」

 

極太のレーザーに呑み込まれていた筈の一誠が無傷の姿でそこに立っていた。対して遠くまで吹っ飛ばされた大将黄猿も光と化して飄々とした態度で一誠の前に戻る。

 

「そっちもやってくれるじゃないのぉ・・・・・殴られる体験なんて数十年振りだよぉ?」

 

「だったら今度はその頭に拳骨を食らわせようか」

 

「そいつは遠慮するよォ・・・・・―――八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

空中に移動し、両手の指で作った円から無数の光の弾丸を雨のように発射する黄猿。その攻撃に対して金色の翼で守りの姿勢に入り光の弾丸を防ぎながら彼の大将の許へと飛翔する一誠。

 

「そろそろ帰らせてもらうよ」

 

そう言いつつ横薙ぎの蹴りを繰り出し、ボルサリーノの蹴り技を誘った。二本の足が直撃すると同時に―――大将の背後の虚空から波紋が生じ、そこから金色の鎖が飛び出して来てボルサリーノの胴体に巻き付いて身体に沈むかのように溶けて消えて無くなった。鎖が消える現象に不思議に思いながら、手を突き出してくる一誠の攻撃の姿勢に光と化して回避しようと―――できなかった。その疑問が湧く前に雷光が〝生身の体〟に直撃する。久しく感じなかった激痛が全身から脳天まで伝わる。

 

「ぐうぅ~~~~~!?」

 

「能力が使えなくなったボルサリーノさんは、もう脅威と感じないな」

 

仮面の中で不敵の笑みを浮かべる天使の翼がギラリと鋭利な刃物と化した。〝ピカピカの実〟の能力が使えなくなった?身体を縛って消失した鎖がそうしたのかと自問自答している間に、手を突き出す一誠に呼応して身体が勝手に宙を浮き、十二枚の翼で斬りつけられる。黄色いスーツが自分の血で赤く染まり、理解に追いつく間もなくボルサリーノ腹にトドメの雷光の魔力の塊で具現化した巨拳で身体に叩き込まれる大将の視界は真っ白に染まった。次に襲いかかる激しい衝撃で一誠の前で地面に倒れ伏した。

 

「「「き、黄猿さんが倒されたぁあああああああああああっ!!!?」」」

 

「大将の一角、討ち取った」

 

天竜人の保護を目的とした海兵達が、戦いの末に起きた結果に驚きを露わに姿を現した。その後、海兵も蹂躙し、海軍本部の湾内の広場に突き刺した十字架に張り付けた敗者黄猿を晒す。この者を倒したのは己だと騒ぎを起こして主張すると〝光人間〟のように光と化して消失した。

 

 

 

 

 

 

 

「起きたか黄猿」

 

「センゴクさん、すいませんねぇ・・・・・」

 

「謝る必要などない。それよりお前を負かした者は一体誰なのか、何の目的で天竜人に襲撃したのか分かる範囲で教えてもらうぞ」

 

数時間後。医務室で全身に包帯を巻かれた黄猿が目を覚まし、傍には数人の中年から初老の男性が揃って立っていた。事情聴取を受け、現場に居合わせて起きた経緯を求める上司達に一つも隠さず告白する黄猿であった。

 

「あのコの目的は天竜人の奴隷の解放」

 

「・・・・・それだけか」

 

「ええ、聞いた話ではねぇ~~~・・・・・また襲撃しに来るとも言っていましたし、天竜人が奴隷を飼う限りは何度でも繰り返すでしょうセンゴクさん」

 

「で、名前はなんじゃ黄猿」

 

「イッセー・D・スカーレットと名乗っていましたよぉ~。〝覇気〟も使えるようですし、一筋縄にゃいかんですよ。わっしの光速に反応する実力も持っていましたからねぇ~~~」

 

故に敗れてしまったのだと溜息を吐いた大将黄猿からの一誠の危険度を聞き、元帥達の中で格付けは決まった。

 

「どうするセンゴク。次期七武海の候補でも決めておくか?」

 

「馬鹿を言えガープ!天竜人を半殺し、聖地を壊滅させた者を抱えられるわけがない!政府からも何を言われるかわかったものでもないんだぞ!?」

 

「まぁまぁ、そうカリカリすんな。ほれ、せんべいでも食べてリラックスでもしとれ」

 

「この非常事態にせんべいなど食っていられるかぁっ!!!」

 

能天気な事を言う昔から長い付き合いである同僚の言動にフラストレーションが蓄積する一方の上司だった。

 


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