海賊王におれは・・・・・ならないから! 作:ダーク・シリウス
穏やかな天候と近くに巨大な海王類が海面から顔を出してまた海中に潜った姿を目撃した。海賊も海軍も見当たらない静かな大海原に航海中は平穏だった。ただ、船の上は相変わらずの騒がしさだがな。さらにちょっとだけいつもと違う。
「はいイッセー、おぬしの為に作ったアップルパイじゃ」
「おお・・・!!」
船にハンコックが居るようになった。王下七武海の地位を捨て、正式におれの船に乗ることで妻でありながら仲間になった。手作りのアップルパイをたくさん乗せた皿を突き出すハンコックに嬉しく覚えるおれは、一つのアップルパイを取って食べる。・・・・・。
「ど、どうじゃ・・・・・?」
「うーん・・・・・悪くない。でも、もう少し甘い方が好きかな。カスタードとか一緒に焼くといいかも?」
「まだまだイッセーを満足させる好物には届かぬか。だが、わらわは頑張るのじゃ!」
こんな感じで献身的に動くから同じ妻のヤマト達と言い合いや喧嘩は殆どしないので、船内は好ましい状態になっている。ただ、何事にも例外はある。
「あ! イッセーだけ美味しそうな食い物を食ってる! おれにもくれよ!」
ルフィがおれの好物に無遠慮で腕を伸ばしてアップルパイを取ろうとする。それに対してハンコックが眦を裂いて伸びた手に鋭い蹴りを放って弾いた。
「無礼者め! これはわらわがイッセーの為に作ったモノじゃ! 貴様にくれてやるモノなど何一つないわ!」
「いってぇ~!!」
子供にも容赦がないハンコックの纏った覇気で蹴ったから手が痛いのは当然。まぁ、仮にも海賊(王)を目指しているなら理不尽さも受け入れなきゃなルフィ。
「どんまいルフィ。他の料理だったらあげるけど、好物のアップルパイだけは譲れないから」
「ケチ! 一個ぐらいいいじゃんか!」
「じゃあお前も食べている途中、お前の目の前にある大好きな骨付き肉を文句言わずに取っていいんだな?」
「・・・・・(ひゅ~ひゅ~)♪」
口笛が下手だしごまかしも下手だな。
「そう言うことだ。ケチと言うならお前もケチな事をするんじゃないぞ」
「ぶーぶー!」
不満気に頬を膨らませ文句言うルフィに拳を見せつけると脱兎のごとく俺たちから離れて行った。
「ありがとうなハンコック」
「そなたの妻として当然のことをしたまでじゃ。あ、イ、イッセー・・・!!」
綺麗な黒髪をよしよしと撫で、感謝の意を示せば彼女は顔を仄かに赤らめ小猫のように大人しく照れた。ハンコックは今日も可愛いなーと和んだ時。俺の視界に別の光景が突如浮かび上がった。海の彼方から何かが飛んできてこの船を両断するのを。ハンコックの驚きの声を置き去りに船首まで跳躍してドラゴンの頭の上で『閻魔』を構えて数秒後。小型の船に乗っている人が見えた途端。脳裏に過った光景と同じ光のようなモノが飛んできてこっちに迫って来た。それに向かって刀を振って受け止めた。
「~~~~~このぉっ!!!」
受け止めた瞬間理解した。これは『飛ぶ斬撃』だ。しかもかなり圧が強く押し返すことはできないと判断して真上、上空に打ち上げて船を真っ二つにする斬撃を防いだ。
「イッセー、今のは!?」
「ただの斬撃だ。相当強い奴がこの船を斬ろうとして来たんだ」
それが誰なのかは分からないが危ないな。やってくれるよ。
「・・・・・セルバンデス、斬撃を飛ばす・・・いや、世界で一番強い剣士っていたっけ?」
「おりますよ。ジュラキュール・ミホーク。またの名を“鷹の目のミホーク”。“海兵狩り”の二つ名も持つ世界一の剣豪の男です」
「世界一か、この世界のそんな剣士なら斬撃を飛ばすぐらい造作もないってことか」
「彼の海賊“赤髪のシャンクス”と決闘の伝説も有名で語り継がれているぐらいですからね。現在は“王下七武海”に加盟しておられます」
意外な接点の事実を知ったことで船から降りて魔力で海面に立ち、先制攻撃してきた男を見た。
色白肌に黒髪、くの字を描くように整えられた口ひげとモミアゲ、そして“鷹の目”という異名の由来となった独特の模様を描いた金色の瞳と鋭い目つきが特徴の男。
衣装は羽飾りのついた大きな帽子に、裏地や袖にペイズリー風の模様のあしらわれた赤+黒地のロングコート、白いタイトパンツにロングブーツという、西洋の上流階級のような出で立ちをしている。
そして背中には自身が扱うには巨大な十字架を彷彿させる刀を差している。乗っている棺桶みたいな船の中で背もたれの座席に座っている。
「最初に質問していいか。いきなり攻撃してきたのは?」
「ヒマつぶし」
「・・・・・」
ヒ、ヒマつぶしで人の船を真っ二つにされかけた理不尽!!!
「・・・・・聞くけど、おれ達に対して謝罪はない? 海軍や世界政府と敵対関係だが海賊じゃないからさ」
「ないな」
「・・・そうかそうか・・・・・。なら、自分の船も失っても文句はないんだな」
謝ってくれるなら話し合いで済ませるつもりだが、そうじゃないなら敵だわ。“エース”と“閻魔“を手にして“鷹の目のミホーク”と対峙するが、その裏を掻いて彼が乗っている船の真下から海水を操作して鋭い槍と化して船底を大きく貫いた。世界一の剣豪だろうが生身の人間であることには変わりない。
「貴様・・・」
おっと、彼の剣豪様から凄い覇気が・・・・・だが、因果応報というものじゃないか。
「最初に素直に謝ってくればよかったんだよ。単なるヒマつぶしで人の船を真っ二つにしようとした報いだからな。おれは天竜人より怒らせたら怖い龍だぜ?」
そう言って海面を蹴って“鷹の目のミホーク”に斬りかかった。俺の船はその間に横から通り過ぎてこの場から離れていく。
「ふははは!! さぁどうする“鷹の目のミホーク”さん。世界最強の剣士も大自然の前では無力に等しいだろう。船が完全に沈没する前に俺を斬り倒したら助けてやるよ。沈んだらお前の負けだけどな?」
「・・・・・その言葉、忘れるなよ」
おっと、彼の剣豪様の剣技に殺気が籠り出したぞ。こいつは油断もできないな。あの“赤髪のシャンクス”と決闘したって話の実体験を俺も味わえるとは嬉しいねぇ!!!
「イッセーはあのままでよいのか?」
「多分問題ないよ。彼は何事もなかったかのように戻ってくるし」
「では、一人分の料理を追加して待っていましょうか」
「ふふふ、そうね。きっとそうなるわ」
「マジで言ってるのか?」
「あいつは何だかんだお人好しだかんなァー」
「「・・・・・」」
「これも運命が巡り合わせた結果ですな」
「あいつと出会った奴に取っちゃあ最悪だろ」
その日の夜―――。
「ハイこちら全身ずぶ濡れでおれに負けた世界一の剣豪さんは、本格的な拠点がないようなのでおれ達の船とグラン・エレジアに拠点としてもらい一緒に居てもらうことになりました!!」
「・・・・・」
『そうなると思った』
瞑目して現状を受け入れたかそうでないか判断はできないが、甘んじてこの船に居座るつもりの“鷹の目のミホーク”。彼と彼自身の荷物を回収して船に戻れば、こんなことになるだろうと予想していた仲間が殆どだったから軽い反応で返された。
「・・・・・次は陸地で決闘してもらう」
「その前に皆に謝罪しろ。ヒマつぶしで船を斬ろうとした剣豪さんよ」
「えっ!!?」
「おい、そんな理由でおれ達は気付かずに船諸共海に沈まれかけてたのかよ」
「・・・・・出会ったら最悪なのはどっちもどっちだったか」
おいそこ、それはおれも最悪なのか後で教えてもらおうか。
「・・・・・すまなかった」
「軽いなオイ。まぁ、謝罪の言葉を聞けたからヨシとするがな。セルバンテス、上等な赤ワインを用意してあげて。どうやら好物のようで積み荷に赤ワインがたくさんあったから」
「かしこまりました」
濡れ鼠な“鷹の目のミホーク”の服と体を魔法で乾かしてやって、一人分が追加された席に座ってもらい、とっくに出来上がっている料理を囲んで一緒に夕餉の時間を過ごした。
―――ある日。
「天龍め、どこにいるのだ・・・・・見つけ出して早く捕まえなければ我々の損失がはかり知れんことが多くなる」
「そうカリカリして見つかるもんなら苦労せんぞセンゴク。見つけたとしても四皇を相手に簡単に捕まる男ではなかろう」
「認めたくはないが海軍本部の最高戦力である大将を悉く無力化にされたがな。海軍の英雄のお前でもだ」
「ぬぅ・・・ふん。そのうち返り討ちにして捕まえてやるわぃ」
「ああ、頼んだぞ。天龍をどうにかするのがカイドウやビック・マム、白ひげよりも重要―――」
「セ、センゴク元帥ぃ~!!!!!」
「なんだ、騒々しいぞ。・・・まさか、天龍がらみの事件か?」
「は、はい。その天龍についてのご報告なのですが・・・その、事件と言ってよいのやら・・・・・」
「ええい、さっさと報告をしろ! 判断はこの私がする!」
「す、すみません! ご報告します! ―――天龍が天竜人を全員連れて自ら自首をっ、投降しました!!」
「「―――はっ?」」
海兵から持たされた報告によって二人は間抜けな表情を晒したその日から事態は一変して急変していく。