海賊王におれは・・・・・ならないから!   作:ダーク・シリウス

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赤鞘の侍

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その日の夜。ヤマトと河松、畑荒しの頭ことアシュラ童子をおでん城に招き入れた。二人に伝える事があるためにだ。驚くだろうな。

 

「二人共、オロチが死んだってこと知っているか?」

 

「なっ!!!」

 

「オロチが、死んだ・・・・・?」

 

「知らなかったか。ま、厳密に言えば・・・・・こんな感じだ」

 

記念に持ち帰った石化したオロチの石像を置いた地下の牢屋に案内する。二人にとっては久しぶりに因縁の相手と再会することになっただろうが、石と化したオロチがいる姿に河松とアシュラは愕然とした。

 

「これが、オロチ・・・・・?」

 

「一体どうしたらこうもなる

・・・・・」

 

「今は石化してるが、石化した力を解けば恐らくオロチは復活するだろう。だが、俺はそうする気はない」

 

振り返る二人の視線を浴びながら踵を返して地下牢から遠ざかる。ついてくる三人を居間に連れて招くそこには幼女がいた。

 

「ただいま日和」

 

「ただいま戻りました日和様」

 

「日和様・・・・・!!」

 

河松の連れ―――おでんの娘である幼女はおれ達の帰りに笑顔で迎えてくれた。アシュラは日和を見て驚いた後に、よくご無事で!と安堵した。

 

「イッセー、この子は?」

 

「おでんの娘」

 

「えっ!?」

 

吃驚するか?もしかして「光月」は皆死んでいると認識しているのか?

 

「〝光月〟の血はまだ絶えていなかった・・・・・!!」

 

唖然とするヤマトを見て河松が訊いてきた。

 

「この者は何者であるか?」

 

「名前はヤマト。これからおれと海に出て冒険するつもりのおでんに憧れている者だ」

 

「おでん様に憧れて・・・・・?」

 

「僕は10年前のあの日。おでんの処刑を見ていた。釜茹での刑『伝説の一時間』を見たんだ!!」

 

当時の事をまだ鮮明に覚えているらしいヤマトはおでんについて語り出す。

 

「あんな立派な侍は他にいない。殺したのはオロチと僕の父だ!!悔しかった・・・・・でもそれ以上に胸が熱くて、涙が止まらなかった・・・・・!!」

 

和装の中に手を突っ込んで何かを取り出した。少し古びた書物?を掲げた。

 

「―――その後 僕は九里で光月おでんの『航海日誌』を拾った。これは、この日誌の存在は父達も知らない!!ここには彼の豪快な人生と彼の感じた世界の全てが、『大切な事』が書かれている!!」

 

「「!!?」」

 

おでんは海に出た事があるのか?後で読ませてくれないかな。

 

「おでん様の日誌だと・・・・・」

 

「そのような物が存在していたとは知らなんだ・・・・・」

 

家臣の二人すら知らなかったおでんの日誌は衝撃を与えるのに十分だった。唖然とヤマトの手の中にある日誌を見つめている。

 

「大切な事って、それは何だヤマト」

 

「それは教えるより読んだ方が早いかな。勿論、おでんの娘の君もね」

 

おれに手渡してくるヤマトから受け取り、日和の傍に寄って大きな体の河松とアシュラは後ろから一緒におでんの日誌を読み明かすことにした。

 

―――数時間後―――

 

「おでん様・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ヤマトがおでんに憧れる理由もわかったような気がした。こんな人物がこの世にいたとは、もう二度と会えないのは残念極まりないな。

 

「これは、おでんの遺体探しに精を出す必要があるな」

 

「おでん様の遺体?何をする気だど」

 

「ああ、光月おでんを甦らせる」

 

「「っ!!?」」

 

信じられないだろうがな、と付け加えてある事を告げる。

 

「将軍オロチがいない今、次のワノ国の将軍はカイドウの命令でおれが将軍となることになった」

 

「な、なんとっ!?」

 

「―――だが、この日誌は10年後に起きる未来を考慮すればおれはその10年後。将軍の座を明け渡そう。当然、カイドウをこの国から追い出さなければいけないがな?」

 

「イッセー、君がしないのか?」

 

「する理由はないからしない。それにカイドウを倒すのはおれじゃなくて10年後の者達だろうな。それまでワノ国は保させて見せるよ」

 

そう決めたおれは後日―――新たな将軍としてワノ国改め―――「新鬼ヶ島」にてカイドウと手を組む儀式、盃を交わした。

 

「ワノ国は滅び新鬼ヶ島となった。そして我々『百獣海賊団』と新たに手を組むことにした将軍の名は懸賞金額45億9450万ベリーのイッセー・D・スカーレットだ!!!」

 

「よろしくな!!敢えて言わせてもらうけど、支配なんか興味はない。が、海賊の楽園を見てみたいからカイドウと手を組んだ。基本、カイドウと百獣海賊団の問題や闘争には一切おれは手出しも協力も関りもしない。その代わりお前達百獣海賊団の強化に努めるからな頑張れよ百獣海賊団の諸君!!めざせひとつなぎの大秘宝(ワンピース)!!!」

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

ライブフロア中にいるカイドウの部下達からの大歓声の雄叫びが鬼ヶ島中に響き渡る。

 

「というわけでこれからもよろしく、カイドウ。そして頑張れよ」

 

「部下にしてやれねェのは残念だが、手を組んで肩を並べるってんなら歓迎するぜ」

 

笑みを浮かべるカイドウを他所に。将軍になったいま、よーやくおれの部下になれって言われずに済むわァーと心の中で思っていた。それからその日はずっとおれの将軍の即位の祝いとして火祭りのような宴会が行われた。っておい、酒を勧めてくれるな。おれはまだ未成年だから!え、俺みたいな年頃な奴はもう飲んでる?いやいや、それでも飲まない、飲まないから―――!!!

 

「カイドウ様、イッセー様ー!!!」

 

慌ただしくカイドウの部下が片手に新聞を持って走ってきた。

 

「どうした?そんなに慌てて」

 

「た、大変ですっ!インペルダウンからビック・マムが脱獄したそうです!」

 

「あのビック・マムが?」

 

部下の人から新聞を貰い読み始めるカイドウの肩に載って俺も一緒に読み始める。

 

「脱獄ってことはインペルダウンって監獄の事かカイドウ?」

 

「ああ、主に捕まえた海賊共を閉じ込めておく場所だ」

 

「んじゃあ、カイドウの海賊団の強化に繋がる人材が大勢いるってことだな。多く見積もっても千人ぐらいはいるんじゃね?選り取り見取りじゃん」

 

「その発想は考えていなかったな・・・・・ウォロロロ!!!!!」

 

なんだ?急にカイドウが大笑いし始めた。キング達も不思議そうに目を向けだす。

 

「カイドウ、面白いことでも書かれてるのか?」

 

「ああ、お前のことも載っている」

 

「俺のこと・・・・・?」

 

じーと新聞の記事を改めて読み始める俺の視界に・・・・・。

 

 

『新世界の海で最も悪名高い大海賊〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート。〝ビック・マム〟シャーロット・リンリン。〝百獣海賊団総督〟百獣のカイドウ。〝天竜〟イッセー・D・スカーレット。以下四人が「四皇」と呼ばれる!!』

 

と、記事に載っていた・・・・・。え・・・・・は・・・・・?

 

「よ、四皇・・・・・?おれも・・・・・?」

 

「ウォロロロ・・・・・!!リンリンが脱獄して復活したからだろうな。新世界の海で懸賞金と実力がある奴と言えばおれとお前、リンリンと白ひげのジジイ以外いねェ」

 

クイーンがこれ見よがしにおれとカイドウのことを、これから皇帝の如く新世界の海に君臨する四皇の一人になった話を伝えだす。

 

「世界政府と海軍からすればお前も海賊であろうがなかろうが、おれ達を同列扱いにする称号を定める腹だったんだろうよ」

 

あはは・・・・・おれ、海賊の家業をしてもいないのに他の海賊の三人と同じ扱いをされるのかい?面白い冗談を記載するんだなァ・・・・・。ショックのあまりカイドウの肩からヨロリと崩れ落ちて、四つん這いで情けない恰好のままヤマトに近づく。

 

「ヤマト・・・・・一度船に乗ればおれも海賊の仲間入りだぜ」

 

「えっと、海軍も君のこと放っておけない存在だからしょうがないんだと思うよ?」

 

「くそぉ・・・・・おのれ、海軍・・・・・!」

 

 

レイリーside

 

 

「ふふふっ、今頃非常に世界政府と海軍に恨んでいるだろうね。彼も〝四皇〟という立場にされることになろうとは想像もしていなかっただろうに」

 

「それは私達も同じよレイさん。流石ねイッセーちゃん。これからもどんどん有名になって海賊王にもなるんじゃない?」

 

「彼が海賊王になる気があるならね。さて、イッセー君。キミはこれからどうするのか楽しみだよ」

 

 

ハンコックside

 

 

「姉様!イッセーが新世界の皇帝の一人になったわ!」

 

「国の者達もこの報せに大賑わいよ」

 

「そうか。しかし当然の結果じゃ。わらわはイッセーがただの賞金首に収まる器ではないことを悟っておった」

 

「しかし、この結果はあの者にとって遺憾にょはずじゃ。何せ他にも四皇と呼ばれる海賊と同類、イッセーも海賊扱いされることに変わりはにゃいのじゃから」

 

「「確かに」」

 

「それ故、再び世界政府や海軍に喧嘩を売るかもしれん」

 

「「確かに!」」

 

「ふっ、もののついでに天竜人にも八つ当たりしそうじゃなイッセーならば」

 

「「「否定できない」」」

 

 

とある新世界の海―――。

 

「親父、とうとうあんたが海の皇帝の一人に称されたよい。よかったじゃねェかよい」

 

「グラララ・・・・・〝四皇〟なんて肩書なんざどうでもいい。おれぁ〝白ひげ〟だ」

 

「他に大海賊だった百獣のカイドウにビック・マム・・・は分かるけどよい。この〝天竜〟ってやつは何者なんだ?聖地マリージョアの壊滅と天竜人の半殺し事件、ビック・マムを倒した男がたったの二度で45億の首が懸けられた後に『四皇』なんざ、話が出来過ぎるよい」

 

「いつか相まみえるかもしれねェ。もしも出会った時、確かめればいい」

 

 

新世界―――万国(トットランド)―――。

 

「ママっ!よかった、あんたの帰りをずっと待ってたぜペロリン♪」

 

「黙りなっ!直ぐにあの小僧の居所を探しなァっ!!!このオレの顏に泥塗った挙句、面目も潰しやがった小僧の首を取るまでは絶対に許しちゃあおかねェ!!!」

 

「そ、それがママ聞いてくれよ!あの野郎、ママと同列扱いされているんだ!あいつも『四皇』って呼ばれるようになったんだ!」

 

「なんだってぇえええええええええ~っ!!?」

 

世界中に知れ渡る新世界で皇帝の如く君臨する四人の強者達の事は、瞬く間に人々の記憶に認知され震撼させた。それに対してイッセーは海軍と世界政府に憤慨するも着々と出向の準備を進めていった。

 

「―――よし、現段階でおれの最高の船が出来上がってきたぞ」

 

港町で造船して出来上がった自分の船を満足げに胸を張る。だが人はそれを船と言えるのだろうかという疑問の塊の船であった。

 

「ヤマトー。まだ完成してないけど船見たいか?」

 

「行く行く!!」

 

ヤマトを連れ出し港にある船まで赴いた。そこには―――。

 

「大きい船・・・・・父達の船より大きいね」

 

「全長250m。甲板で農業できる畑のスペースが欲しかったからな。海で航海する間は自給自足を強いられる。家畜の鶏も船に乗せるつもりだ。毎日栄養満点の卵が食えるようにな」

 

まだ海に進水させていない形だけの船が造船ドックに囲まれていた。

 

「船の後方に桜の木があるのは?」

 

「観覧用かな。そこで食事を楽しむことも出来るようにした」

 

船の中に乗り込むと足場は緑色の芝生だ。ヤマトは船に植物がある新鮮さに面白いようで寝転がっては芝生の柔らかさを堪能しだした。

 

「足場が柔らかい!船って木造だけじゃないんだね!」

 

「ほぼ八割は遊び心で造ったからな。船の内部も凄いぞー」

 

「見せて!」

 

子供のようにはしゃぐヤマトを引き連れて船内を紹介する。場所は九里南西の港の伊達港だ。今じゃ廃港になってるけどおれにとっちゃ作業しやすいところだった。

 

「まずは地下一階!複数の格納庫を始め、偵察かつ海底の遊覧ができ沈没船をサルベージする潜水艇のドックや兵器開発の工場。まだ空きが広く多く残っているけどこれから増えていくと思う」

 

「僕は泳げないから海の中を眺められるなんて楽しみだよ!」

 

「続いて甲板に戻って一階!船の後方は主に自給自足の為に作物を育てる畑で占めている。その広さはほぼ半分だ」

 

「雨風や嵐の時はどうする?」

 

「この辺りは地下一階に降下する場所だから、もしも敵海賊や海軍との戦闘には地下に収納して自然からにも守れるよ」

 

船の前方へ移動する。その途中、甲板の床に埋まっている大きなガラス玉があることに気づかないはずがない

 

「ねぇ、イッセーこれはなに?この大きなガラス玉に何か入ってるよ家みたいなのが」

 

「ああ、それは激しい運動をすることを可能にした魔法のガラス玉だ。それに触れたらガラスの中に入れるんだ」

 

言った傍から触れてガラスから放たれる光に包まれてヤマトと一緒に吸い込まれていった。

 

「と―――まぁ、こんな感じだ」

 

「す、凄いね・・・・・」

 

スノードームの中は広大な土地と広々とした風呂場である温泉だ。この中でならどれだけ戦闘訓練しても船に影響は出ず、訓練の後は温泉で汗を流す感じだ。船の三階にも入浴所はあるからどっちでも入れる。

 

「そうだ、聞きたいことがあるんだけど」

 

うん?とおれに顔を窺わせるヤマトにこれだけは聞かないといけないと思う質問を投げた。

 

「ヤマト、寝る部屋はどうする。おでんに憧れてるお前は男になったと言い張るけど実際の性別は・・・・・」

 

「僕は男だからイッセーと一緒に寝るよ」

 

「・・・・・一緒に風呂に入ることも抵抗は?」

 

「・・・・・」

 

おい、そこで顔を染めて恥ずかしがるな!こっちが戸惑うから!

 

「んと・・・・・イッセーとなら、入ってもいいよ?」

 

「・・・・・」

 

「だ、だけど見るだけだからね!触っちゃダメだよ!こ、こっちの心の準備と言うかなんと言うかええと・・・・・っ!」

 

男と主張しても女心は捨てきれていないヤマトの羞恥心ぶりに、思わず弄りたいぐらい可愛かったのは心の中でそのお想いをとどめた。

 

 

船の完成までまだ時間が掛かる頃、将軍のおれにお目通りしてもらいたいと相手がいると異世界の怪物に転生したカイドウの部下に言われ、会ってみた。

 

「お初に御目にかかります将軍様。拙者、狂死郎一家の頭を張っております狂死郎と申します。以後お見知りおきを」

 

身長は3メートルは優にあるリーゼントが特徴の狐目の大男。監視の目が届かない部屋の中で日和とここ最近雇った頭山盗賊団のアシュラや変身を解いてる河松と同席してもらっている

 

「狂死郎か。おれに会いたいってのは何でだ?もはやこの国はカイドウそのものの国になった。おれじゃなくてカイドウに会うべきじゃ?」

 

「そんなことはございません。オロチ将軍の代わりに新たな将軍となりもうしたイッセー将軍に鞍替えをする話をしなければとございまして」

 

「おれに鞍替えしてもこの国のためにすることなんて精々、貧困の住民達を援助するぐらいだぞ」

 

「あなた様の噂は、風の如く花の都まで流れてきておりました。そして、カイドウ様を倒した話も」

 

規制してないから直ぐに話が広まるものか。さて、狂死郎・・・・・・黒炭家御用達の両替屋であり花の都で遊郭を経営して裏社会を取り仕切っているヤクザみたいな男か・・・・・ん?

 

「・・・・・お前、俺に隠していることがあるな?」

 

「はて、何のことでしょうかわかりませぬが」

 

「もう一つ、名前があるみたいだな。―――赤鞘の侍のひとり傳ジローさんよ」

 

「「!!?」」

 

「・・・・・・」

 

真っ直ぐ狐目を表情筋も一瞬でも変わらないまま向けてくる。なるほど、凄い自制心だな。悟られまいとしているのが伝わってくる。

 

「この男が、傳ジローだど?何を馬鹿な事を言っているんだお前」

 

「拙者達が知っておる傳ジローはこの様な顔の者ではないぞイッセー」

 

「悪いけど嘘でも冗談を言ったつもりじゃないからな。おれの目は相手のあらゆる情報が分かる能力を持っている。カイドウが龍に変化できるようにな。この男は間違いなく傳ジローだ。おでんの処刑以降のこの十年間で顔が変わったんだろうさ」

 

そう言うおれの話を頼りに日和は狂死郎の前によって恐る恐ると問うた。

 

「傳ジロー、あなたなの・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

日和の目から逸らさない狂死郎。

 

「狂死郎。お前にいいことを教えてやろう。今、河松におでんの遺体の捜索をして貰っている。遺体が見つかればおでんを甦らせることが出来るんだ」

 

「っ・・・・・」

 

「無論、これも嘘ではない。ちょっとついてきな」

 

監視の目はしばらく眠ってもらうことにした後、おこぼれ町のとある民家へまで皆を引きつれた。

 

「夜分失礼、イッセーだ。入って良いかな?」

 

「はい、どうぞ」

 

許可を得て中にお邪魔する。この民家の主は年老いた女性だ。顔はしわくちゃで髪が白の一色、身体も子供のように小さい老婆が正座している姿勢で日和達を外に待たせて先に入るおれを出迎えてくれた。

 

「久しぶり。暮らしの方はどうだ?」

 

「ええ、貴方様のおかげで暮らしやすくなりました。本当にありがとうございます」

 

「そうか。それは何よりだが、今日は連れを会わせに来たんだ」

 

日和を招き老婆の前に引き合わせた途端。老婆が目を見開くほど驚いて立ち上がった小さな身体は震るえ、ゆっくりと少女に近寄った。

 

「日和・・・・・っ」

 

「え・・・・・?」

 

抱きしめられて困惑する日和を見て意味深に微笑むおれを河松が訊いてきた。

 

「あの老婆は?日和様の事を知っておるようだが・・・・・」

 

「知ってるも何も・・・・・」

 

指を弾き音を鳴らした。その音に呼応して老婆の手首にあった―――河松が持っている別人に姿を変える宝珠が壊れた。そして一瞬で老婆から美しい女性へと様変わりしたのだった。

 

「日和を産んだ実の母親だからなこの人」

 

「「「―――――」」」

 

赤鞘の侍達だったらよーく知っている人物だろう。おでんの刀探しの際、ついでにおでん一家のことも聞き回っていた時に知ったんだよな。おトキの遺体の在り処を。

 

「は、母上・・・・・?」

 

「ええ、そうよ・・・・・日和。今まで苦労を強いてごめんなさい」

 

河松へ目を向けるおトキ。

 

「貴方も今まで日和を守ってありがとう河松。心から感謝を・・・・・」

 

目から涙を流す河松がその場で跪いておトキに頭を垂らした。

 

「め、滅相もございませぬ・・・・・!おトキ様・・・・・拙者は当然の事をしたまでで・・・・・ぐすっ」

 

「アシュラ、貴方も変わりないようで安心したわ」

 

「おいどんは・・・・・死に損なっただけだ」

 

「そんなこと言わないで、おでんさんの家臣として生きてもらわないとあの人に蹴り飛ばされるわよ?」

 

そして狂死郎にも話しかけようとしたが、一体誰なのか分からないでいるおトキにフォローする。

 

「この男は傳ジローだ」

 

「え、傳ジロー!?顔が前と違って随分と変わって・・・・・」

 

驚く彼女の前でいきなり正座し出す狂死郎は、頭に手を回したかと思えば・・・・・リーゼントを外したって、それ外れるのか!?被り物だったのかい!河松とアシュラも吃驚だよ!

 

「おトキ様、日和様。お久しゅうございます。拙者は傳ジローでございます」

 

「真か・・・・・!」

 

「信じられん・・・・・顔の容姿が別人過ぎる」

 

「怒りという妖怪に取り憑つかれたのだアシュラ」

 

自身が傳ジローと認めた後におれへ話しかけてくる。

 

「イッセー殿の死者の蘇生の力は、亡きおでん様にも通用するのでござるか」

 

「おう、亡骸があればの話だ。大釜ごと海に捨てられているなら希望はあるぞ」

 

「いつか必ず、おでん様も蘇生してくださるか」

 

「約束する。おれは約束を守る男だ」

 

断言する。元々そうするつもりだったから言った言葉は違うつもりはない。おれもおでんに会って見たいからな。

 

「然らば拙者はこれより、イッセー殿を仮初の主君として仕えることをこの刀に誓いまする」

 

腰に佩いていた刀を鞘ごとおれの前に突き立てて宣言する狂死郎の言葉の意図を察した。

 

「おでんの復活までだな」

 

「如何にも」

 

「なら、おれはしばらく海に出るつもりだ。その間、将軍の代理を任せるよ。オロチが将軍だった頃からいたんなら百獣海賊団からも信頼と信用されているだろうし」

 

「・・・・・拙者が将軍の代理を、ですか」

 

「ミンク族の赤鞘の侍の二人を会って見たいんだ。だからおれが戻ってくる間はお前が将軍で河松とアシュラは貧困者達の援助な。将軍代理の狂死郎の従者としてでも、百獣海賊団の一員となって内情を探るのも良しだ」

 

異論は認めないと決定事項を伝えると狂死郎は頭を垂らした。

 

「その任命、しかと承りました」

 

「カッパッパッパ、傳ジローがそうならば拙者等もそうするべきだろうアシュラ」

 

「まだ信用しとらんが信頼はする。おトキ様を蘇らせた事実は変わらん」

 

「んじゃ、そういうことで。でも、アシュラは百獣海賊団に入ってもらいたいかな?監視は付けられるだろうけど傳ジローと仲がいいなら色々と情報を共有できるだろ?」

 

ふざけるなっ!とアシュラの怒鳴り声が聞こえるまで時間は掛からなかった。しかし、おれと狂死郎の説得で不満と納得がしないつつ百獣海賊団の密偵として動いてもらうことになった。

 

「とまァ、そんな感じでおでんの家臣の一人だったアシュラを百獣海賊団に入る承諾をしてくれたぞカイドウ。強さもジャックに劣らずだ」

 

酒盛りしているカイドウに伝えに鬼ヶ島に訪れた。強い兵隊が増えたことに愉快そうに笑みを浮かべた。

 

「ウォロロロ・・・・・よくやった小僧。おでんの元家臣の強さはおれも認めていた。おれの下につくなら過去の事は全て水に流そうじゃないか」

 

「それとしばらくおれとヤマトは海に出る。ラフテルの手掛かりを探しに行ってくるその間は狂死郎親分におれの将軍代理を任せるけどいいな」

 

「狂死郎か・・・・・あの男ならば構わねェ。残り二つのロード歴史の本文(ポーネグリフ)の発見、期待してるぞイッセー。それでバカ息子の同行を許してやる」

 

「お、小僧じゃなくなったな。どういう心境だ」

 

「おれと肩並べるようになった男だ。呼び方も変わる」

 

認めてくれたわけか。でも、百獣海賊団の為に戦うつもりはないと釘刺しておかないとな。

 

「ポーネグリフの件は見つけたら連絡するよ。それまで狂死郎の事はよろしく頼む。あいつが放つ言葉はおれの発言力だと認識してくれ」

 

「あァ、部下共に言い聞かせておく。その代わりに必ず見つけろ。古代兵器の在り処もだ」

 

「古代兵器?」

 

歴史の本文(ポーネグリフ)に記されているという古代に造られた兵器の事だ」

 

それ、絶対海軍が許さない存在だろ。ま、見つけたらの話だ。運に頼るしかない。


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