海賊王におれは・・・・・ならないから!   作:ダーク・シリウス

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念願のミンク族

大冒険へ行く刻が迫って行く中、船の完成までに百獣海賊団の強化を施すことを忘れず。今では転生した団員は百人以上も超えた。カイドウはこの結果を特に何も言わなかった。自身の海賊団が強くなるなら問題視もしないんだろうな。それはともかく、おれが海に出ることをおこぼれ町の人達に伝えると大騒ぎになった。行かないでくれっ!!という制止の声が飛んでくるが何とか説得に応じてくれて納得してくれた束の間。

 

「イッセー様!これをどうか持っていってくだせェ!!」

 

「ここまで生活を豊かにしてくれたお前さんに恩返しだ!!!」

 

「無事に元気な孫も生まれましたのじゃ!!どうか、イッセー様に名付け親をしてもらいたい!!」

 

「私達は大丈夫ですよ!!あの狂死郎親分なら安心ですから!!」

 

「それにあの赤―――」

 

「お、おいっ、それ以上は言っちゃダメだ!!」

 

一緒に広大な畑を耕し作物を育てて来たえびす町の人達までたくさんの贈り物をしてくれた。それも怒涛の勢いで圧倒されてしまうおれに微笑むヤマトまで。

 

「イッセー様の奥さんもどうぞ!」

 

「これをたくさん食べてどうか元気な子を産みなさいな!」

 

「ちょ、僕はイッセーの妻じゃないんだ・・・・・!」

 

「おっと、そうだったんですか。お似合いですのに」

 

自分は関係ないという立ち位置にいようが一緒に行動しているのを知っている人達が放っておくわけないだろう。

 

「人望厚いですな」

 

「すっかり人気者だ」

 

ヤマトと狂死郎も贈り物を城に移す作業を手伝ってもらった後、覇気の試行錯誤を始める。この世界では黒く染まって硬質と化するこの現象は覇気と認知されていることが分かってから、時間が空いたらもっと覇気を高めるようになった。

 

「イッセー殿、それはもしや〝流桜〟を取得しようとしているので?」

 

「〝流桜〟?」

 

「さよう。海外では〝覇気〟と呼ばれておるものがこのワノ国では〝流桜〟と呼ばれている」

 

刀を鞘から抜き放って構える狂死郎。その刀はおれの目の前であっという間に真っ黒に染まった。

 

「〝流桜〟は〝流れる〟という意味を持っている。必要な場所の〝覇気〟を武器や身体に流し込むことができるならば、イッセー殿の力になるでしょう」

 

覇気を流す・・・・・・あーなるほど。〝いつもしていた〟やつか。

 

「狂死郎。ちょっと特訓に付き合ってくれ」

 

「かしこまりました」

 

城の外へ赴き、畑から離れた場所で狂死郎と対峙する。複製したおでんの刀を抜き放ち〝流桜〟を流し込むようにして纏うと刀が黒く染まった。

 

「その刀・・・・・まさかおでん様の?」

 

「複製した。本物は天狗山飛徹のところにあるから盗んでないぞ」

 

「後で確認しましょう。もしも嘘であったら承知いたしませんぞ」

 

本当に悪事を働かずしてよかったと思っていたら狂死郎が飛び掛かってきた。鋭い一撃を振るってくる刀に向かっておれも刀を振るうと―――刀同士が触れていないのに見えない何かとぶつかった狂死郎は一方的に吹っ飛んでいった。

 

「え?」

 

呆けるおれは空中で体勢を立て直した狂死郎から称賛の声を受けた。

 

「・・・・・お見事!!それが〝流桜〟の力でございますぞイッセー殿!!」

 

「凄い、イッセーもあっという間に習得しちゃった」

 

「ヤマト、お前もコレができるのか?」

 

「うん、できるよ」

 

ヤマトが金棒に覇気を纏わせると横凪ぎに振るった。当てる対象がいないのにただの空振り―――と思ったが地面が勝手に深く抉れた。

 

「ほら、こんな感じにね」

 

「〝覇気〟を飛ばすこともできるのか!!?」

 

これは面白い!!色々な応用が出来そうだ!!魔力と気の応用と変わらないけどな!!

 

「〝流桜〟を極めたら面白いことになりそうだ」

 

「イッセーならできるよ。僕もまだまだ強くなってみたい」

 

「約束の時まで拙者も強くならねばなりません」

 

「なら、今日は模擬戦でも明け暮れるか?」

 

臨戦態勢の構えをするとヤマトと狂死郎も構えだして三つ巴の戦いに応じてくれた。おれ達は真剣な勝負をして―――。

 

「待って待って!!イッセーが何十人も増えるのは反則だよ!!?」

 

「イッセー殿は忍術も使えるのでござるか!!」

 

「ふはははっ!!!このぐらいの困難を乗り越えなければ強くならないぞ!!」

 

一方的な蹂躙の勝負をし終えた後は冒険に出ることをレイリーに伝えにシャボンディ諸島へ足を運んだ。二人から「そうか」と短い反応を頂戴した。

 

「いつかそうするだろうと思っていたよ。カイドウの娘と一緒にだろう?」

 

「うん、誘われたからな。一緒に旅に出る予定だ」

 

「ふふ、その間に彼女と恋仲の関係になるかもしれないだろう。楽しい冒険をしなさい」

 

「それについて話したい事があるんだ。おれの船とこのシャボンディ諸島に直接魔法で行き来できる扉と鍵を作るつもりなんだ。冒険中、暇な時でいいからレイリーさんの指導を受けたい」

 

そんなことも出来るのかと、感心するレイリーは口元を緩めて笑みを浮かべた。

 

「私の指導を受けずとも君は十分強いよ」

 

「実力的な意味ならまだまだだ。そして技術面も。ワノ国じゃあ覇気のことを〝流桜〟と呼んだり不必要な場所に覇気を集めて相手を弾く技術は知らなかった。レイリーさん、知ってたろ?」

 

「ああ、知っていたとも」

 

「だよな。だとすれば他の覇気も極めればもっと強くなれると思うんだヤマトと一緒に」

 

深々と頭を垂らす。

 

「本当に暇な時でいい。ちょっとしたヒントでも伝授するだけでもありがたい。どうかおれ達に修行をつけてほしい」

 

「・・・・・」

 

視線を感じるまま返事を待つ。拒否されたら残念極まりないが身を引くけど・・・・・。

 

「イッセー君は強さを求めて何を目指すんだい?」

 

レイリーの質問に対してこう答えた。

 

「世界をこの目で見てみたい」

 

「そうか・・・・・そうなればいつか必ず君は海賊王になるかもしれないぞ?それでもいいのかね」

 

「世界を冒険する過程でなるならなるしかないかもな。海賊王なんて肩書は興味ないけどワンピースはどんなものなのかは見てみたい」

 

「ふふ、あくまでただこの世界を一周して行くのが目的だとは変わっている。・・・・・顔を上げなさい」

 

その通りにすると柔和な笑みを浮かべているレイリー。

 

「年に一度、ワノ国の火祭りに私を連れてくれるなら私の弟子にしてやろうイッセー君」

 

「―――!」

 

善意で修業をつけてくれるレイリーに嬉しくて笑みを浮かべ感謝の念を込めて頭を下げた。

 

「ありがとう、レイリーさん!」

 

亜空間から感謝の印としてワノ国の酒を大量に取り出して二人に譲った。

 

「はい、ワノ国の酒をプレゼントだ」

 

「おお、こんなにもくれるのか。ありがたい」

 

「この店の酒もあるからシャッキーさんの分もあるよ」

 

「あら、ありがとうイッセーちゃん」

 

こうして最高の師を仰ぐことが出来たおれはワノ国に戻ってヤマトに伝えると凄く驚かれた。

 

「海賊王の副船長に修行つけてもらえるなんて凄い!」

 

「暇な時だけだから毎日船にいるわけじゃないと思うからそのつもりでな?」

 

「うん、わかった。船の方は?」

 

「ああ、もう形になってきているけどまだ数ヵ月はかかりそうだ」

 

「そっか、それでも楽しみだなー!」

 

うきうきと胡坐掻いた状態で体を揺らすヤマトから、今か今かと子供のように待ち遠しそうにしていた。思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「この新世界の海専用の記録指針(ログポース)も手に入った。ヤマト、海に出たら誰に会って見たいとかあるか?」

 

「うーん。やっぱりおでんの家臣だね。ミンク族と会って見たい」

 

「〝ゾウ〟って生きているんだろ?ビブルカードってやつがなきゃ辿り着けない幻の島」

 

「うん、そうだよ。普通は探すのも困難極めるけども、それが出来るよ」

 

おでんの日誌を取り出すヤマトはその日誌に挟まれていた白い紙の破片を抜き取った。おれに見せるそれは一人勝手にどこかへ目指すように動いている。

 

「これがビブルカード?」

 

「そう。これが〝ゾウ〟へ導く僕等の指針だよ。おでんは日誌の中にこのビブルカードを残してくれたんだ」

 

おお、ということは・・・・・!!

 

「行けるんだな、幻の島に!!」

 

おでん、あんたの置き土産を利用させてもらうよ。ミンク族と触れ合うおれの野望が叶う時だ!!!

 

「こうしちゃいられない。直ぐにでも完成しなくちゃ!!」

 

ふはははっ!!!待っていろ、ふわふわモコモコ達よー!!!

 

 

 

 

―――と、張り切った甲斐もあって完成させた船。そしてこの世界に来てから一年近くが経過した。進水式も終えたこの船での出航の日が来た。九里の郷の人達や百獣海賊団の団員達が手を振って見送りしてくれ、河松とアシュラ、狂死郎―――日和と老婆に変身してるトキの姿も視認して手を振り返す。

 

「そんじゃ行くぞヤマト。大冒険に!!」

 

「うん!!!」

 

おれだからできること。魔法で船体を宙に浮かせてワノ国が隔離されている原因、断崖絶壁および淡水が流れる巨大な滝を見下ろしながら悪天候な海域を抜けた後は船を進水する。

 

「どんな島があるのか、どんな海賊がいるのか、楽しみだなぁー!」

 

おれ、海軍から海賊として認識されないよなと思うおれを乗せる船は〝ゾウ〟に向かって大海原を突き進む。

 

「どんな場所なのか・・・・・楽しみだ」

 

〝ゾウ〟の居場所を記すビブルカードの動く先へおれ達は導かれるように航海した。

 

「そんじゃ、目的地が辿り着くまでの間は家畜の世話と畑でも耕そうかな」

 

「本当に自給自足をする気なんだね。手伝うよイッセー」

 

ほのぼのと後悔するだけでは退屈な海の旅だろう―――とこの世界の海の航海を侮っていたおれはこの世界の航海の危険さを物凄く体感するまで知らなかった。

 

「は!?」

 

晴天だった空が雨雲で暗く覆われたかと思えば、雨雲から鋭い槍のように降り注ぎ、どすっ!と甲板を突き刺して空いた穴におれは絶句した。

 

「何だこの雨!!?何で船に穴が開く!!?」

 

「驚いている暇ないよイッセー!!畑や家畜が危ないよ!!」

 

「初の航海早々に酷い目に遭うなんてっ!!」

 

だが、これだけで終わらなかった。

 

「イッセー!!海が渦を巻き始めたよ!!」

 

「渦潮・・・・・いや!!」

 

渦巻きに飲み込まれかけている船を、海面から鋭い突起物が生えた何かが顔を出した。それも船を挟める程の大きさ・・・・・。

しかもクワガタみたいな大きなノコギリのハサミを大きく広げて狩り場に嵌まったおれ達という餌を待ち構える。

 

「蟻地獄かっ!餌になってたまるか!」

 

手を突きだして魔力をぶつけようとした時だった。渦から元の世界じゃあ見たことがない巨大魚が飛び出してきた!!狙う餌を変えたのか、巨魚を狙って渦の中心から跳ねるように跳躍した蟻地獄もどきは、巨魚の身体にノコギリバサミで捕らえそのまま渦の中に引きずり込んだ。身代わりになってくれたおかげで渦は収まり穏やかな海に戻った。

 

「・・・・・冒険って凄く危険が伴っているんだね」

 

「おれも始めて知ったところだ・・・・・。元の世界にもあんな海洋生物は存在しないぞ」

 

「楽しくはあれど危険がいっぱいだってことだね」

 

「怖いか?」

 

「ううん。寧ろ、危険を乗り越えてこそ冒険なんだとワクワクしときた!!」

 

瞳を輝かせておらっしゃるなぁこの冒険好きの僕っ子は。まァ・・・・・おれもそうなんだけどな!

 

そしてその日の夜は船を空中に浮かせた状態で寝ることにした。夜食は九里の人達から貰った食材で調理した料理で、作ったおれも食べるヤマトも美味しいと感想を溢しながら今日の航海の話で盛り上がった。

 

それから風呂場はこれまた大浴場で、複数の湯船を設けたガラス玉の中に入った。

 

「恥ずかしがるなら一緒に入らなくても」

 

「・・・・・だ、大丈夫だから。平気だから気にしないで」

 

頑なに一緒に入ろうとするヤマトに少し呆れながらも、あまり見ないようにしてやるのが武士の情けだろうと思い、肩を並べて入っても身体にタオルを巻くヤマトを直視せずやったあとは。

 

「ベッドはこんな感じでいいんだな?」

 

「・・・・・うん」

 

同じ寝室にベッドをふたつ。ヤマトは身長は高いから相応の大きさのベッドにしたから、転げ落ちることはないだろう。顔が赤いヤマトが覚束ない足取りで自分のベッドに向かおうとするのを、流石に気になった。実際、おれも体が風呂上りとはいえ、それとは別の異様な血の巡りと熱を感じてしょうがない。

 

「ヤマト、風呂の時から顔が赤いぞ。どうした?」

 

「・・・・・わからない。夕食を食べてからお腹の奥から熱が感じて治まらないんだ」

 

「変なの混じってたか・・・・・?でも、見たことのある食材ばかりで知らないのは聞いて問題はないと教えてもらったんだが」

 

熱が孕んで潤ってる瞳、荒い吐息、身体から発汗。見た目だけだと風邪を引いたと思うヤマトの状態だけど・・・・・。

 

「ふぅー・・・ふぅー・・・ふぅー・・・イッセー・・・・・!!」

 

ベッドに引きずり込み押し倒したおれを逃さんとのし掛かり、獲物を狙う猛禽類の眼になってらっしゃる。もしかして発情しちゃってるのかなァ・・・・・。あとで絶対あの食材を調べ直すとしてだ。こいつを相手にしなくちゃならないか。

 

 

 

―――一週間後。

 

天気、海の気候の様変わりに翻弄されながらもこの世界で初めての航海を何とか二人だけでもやってのけている。前触れもなく海が真っ二つになって、海底ヘ真っ逆さまに落ちてしまった時は酷く焦ったけどな!元の世界の海の航海術の常識が信じられないほどあてにならない!おれの常識が覆されるこの世界の海の常識!

 

「イッセー、海獣が襲ってきたよ!」

 

「ほんとに何なんだ、この世界の海はァ~!!?」

 

身体が獣で尻尾が魚のヒレと化している狼。襲ってくるので斬撃を飛ばして当てたが、どうやら最初の襲撃は囮のようで四方八方から同じ海獣達が海から飛び出してきた。

 

「食えそうになさそうだな」

 

手を突き出して海狼達の動きを空中で固定するとヤマトから「どうするの?」と聞かれる。

 

「逃がしてもまた追いかけて来そうだからな・・・・・餌にしようか」

 

この世界に来てから眼帯を外していた右目に召喚用の魔方陣を展開して、そこからとあるドラゴンを召喚する。

 

「こいつらを食っていいぞニーズヘッグ」

 

《いただきま~すっ!!!》

 

黒い鱗と黄土色の蛇の腹、龍と化するカイドウと同じ長細い蛇タイプのドラゴンが喜々として大きく口を開いては海狼達を捕食始めた。おれの目から飛び出す化け物にヤマトは愕然としていた。

 

「イ、イッセー・・・・・これは・・・・・」

 

「こいつの名前はニーズヘッグ。おれの中に宿っているドラゴンの一体だ。異世界の怪物達を宿しているんだおれは」

 

「あんな大きなものを身体に宿して・・・・・君は大丈夫なのか?」

 

「魂として肉体と一緒に封印している形で宿しているんだ。身体が破裂することもないよ。でもまぁ、こいつを含めて封印から解き放つと人類が絶滅しかねない凶暴だったり凶悪なドラゴンが他にもいたりするんで、頻繁に外に出さないでいるんだ」

 

そう話している内に海狼達を完食していたニーズヘッグに頼み込む。

 

「しばらくの間、海中でおれ達を襲ってきそうな海の生物達から守ってくれ」

 

《グヘヘヘッ!!!く、喰ってもいいんだよな?》

 

「当然だ。おれが呼ぶまで好きなだけな」

 

海の中に飛び込んでおれ達の警護兼捕食しに行ったニーズヘッグを見送った。

 

「もしかしてだと思うけれど、父を倒した時って本気じゃなかった?」

 

「おれの中に宿るドラゴン達を嗾けなかったのが不思議か?いや、全力で倒したさ。ただ、ドラゴンを全員外に放ったらそれはもう人の戦いじゃなくなる。一方的な蹂躙だ。それでもドラゴン達を対抗しうる悪魔の実の能力があることは認知しているがな」

 

ドラゴンと言えども生物である。倒す方法や手段は存在する。楽観的にはなれないな。でもそれがいい。一方的な最強だの無敵だのなんて、人生においてそんなのつまらないこの上にないんだ。

 

「それにしてもやっと本調子が戻ったか」

 

「え?」

 

「効果が長すぎるんだよ。六日前からずっとよく―――」

 

言いかけた次の瞬間。手で人の口を塞いで言葉を遮ったヤマトの顏はトマトのように真っ赤だった。からかうのは止めて真剣な話をするためにヤマトの手をどかす。

 

「契りを結んでしまった以上は、お前を手放す気はないからなヤマト」

 

「・・・・・僕でいいの?親はあの実の子を殺そうとした最低の父だよ」

 

「父親は関係ないだろ。おれはお前がいいんだ。お前はどうなんだ?」

 

「僕は・・・・・僕もイッセーがいい。手錠ひとつで縛られて自由がない僕を解き放ってくれた。こうして自由に生きて行けるようになったのもイッセーのおかげだから。これからもイッセーと一緒に生きていきたい」

 

決まりだな。

 

「今日もあの食材で作って食べるとしようか」

 

「ええっ!?そ、それって・・・・・!!!」

 

「いやか?」

 

「う・・・・・い、いやじゃない・・・・・っ」

 

ふふ、照れて可愛いな。ああ、それと言わなくちゃな。

 

「おれは元の世界にいる家族達とも結婚する気だ。ヤマトもおれの家族にしたいがいいか」

 

「構わないよ。何時か元の世界に帰ることも話してくれたし、海賊の世界じゃない世界を見てみたい」

 

そう言ってくれるヤマトと一緒に野菜畑の所へ向かい、〝ゾウ〟に着くまで農作業を勤しむこと数時間後。視界が深すぎる霧によって前が見えないのと船を押し返し侵入を阻む海流の海域に入った。

 

「ヤマト」

 

「うん、おでんの日誌でも書かれてるよ。―――この場所こそが僕達が目指していたところだ」

 

濃霧の向こうに何かが動いている影も肉眼で捉えている。それが何かなのかは日誌でも記されているが、実際この目で見るまではおれもヤマトも半信半疑だったが・・・・・。ヤマトと一緒に顔を見上げて口をあんぐりと開いたまま唖然とした。

 

「影の正体は・・・・・まさか、本当に・・・・・」

 

「日誌で知っていたけど・・・・・」

 

〝ゾウ〟の正体は・・・・・〝象〟そのものだった!!!全長も高さも100メートルや1000メートルどころじゃないぞ、数10km以上はある!!!

 

「見えてるかお前等」

 

『この異世界にこの様な生物がいるとは信じがたいことだ』

 

『この規模の生物だと数百年以上は生きていると思うな』

 

『凄まじい・・・・・』

 

うちのドラゴン達をも圧巻させるほどの存在を前にしばし思考が停まったが、おれ達に背を向ける〝ゾウ〟が足を前に動かしたから遠ざかってしまった。

 

「いつまでも呆けてる場合じゃないか。行くぞミンク族に会いに」

 

「うん!!」

 

その前にニーズヘッグを呼び戻す。放っておくと海洋生物が滅んでしまうわ。そして〝ゾウ〟を見たニーズヘッグは。

 

《た、食べ放題だァ~っ!!?》

 

「食べるな!」

 

案の定な反応を示したので困ったものだ。

 

 

何とか〝ゾウ〟の皮膚に船を錨で固定して離れ離れにならないようにして次の事を考える。

 

「これ、登らないといけないんだよな。断崖絶壁も過言じゃないこれを」

 

「おでん達もこれを登ったんだね。登山というより登象?」

 

「今までの人生で象の足を生身で登る経験なんて初めてだ」

 

僕もだよ、と同感なヤマトと一緒に登象を始めた。こんなことせずともヤマトを抱えて飛んだりすることも出来るが、海賊王達もここを通ったからにはおれ達もその道に通ってみたい。

 

「登りきる頃には翌日かなヤマト」

 

「アハハ、どうだろうねー」

 

せっせと灰色の皮膚を掴んで足場にしたりして攀じ登る。それだけ繰り返し続けていくと夕日が顔を出す時間となるまで経ち、見上げ続けていた視界にようやく、ようやく・・・・・てっぺんが見えた!!!

 

「「着いたー!!!」」

 

数時間も掛けて登り切った達成感から喜びを体で表現する!!いやー、元の世界でもこんな高さの絶壁を登る事なんて昔の修行以来だ!!!

 

「あ、砦だよイッセー。誰かいる」

 

ヤマトが目の前の石造りの門や物見やぐらを見つけた。そこには見張りらしき獣がこっちを見ていた。

 

「おーい、お前達がミンク族かぁー?」

 

「そうだ。ゆガラ達は?」

 

「ワノ国からやってきた!!この国にいる赤鞘の侍に手紙を持って来た!!」

 

懐から数枚分の手紙を出して見せつける。門番は顔を見合わせて一人が門を開けてくれたり、一人は鐘の音を鳴らし始めた。

 

「入らせてくれるみたいだな」

 

「やっと会えるんだ・・・・・!!」

 

招かれるミンク族の砦の中―――モコモ公国。案内された先には。

 

「久々の客人だー!」

 

「ガルチュー!!」

 

「よく来た客人ガルチュー!!」

 

種類問わず様々な動物達が二足歩行で人語を操る大勢のミンク族から大歓迎された。

 

「なにここ・・・・・天国・・・・・!?」

 

「イッセー!?どうして泣いているんだ!?」

 

念願のミンク族・・・・・モコモコし放題・・・・・!!ガルチューという意味は解らないが郷に入っては郷に従えだ!!!

 

「うぉおおお!ガルチュー!」

 

「あ、イッセー!!」

 

今はこの幸せを満喫、噛みしめたいいいいいい!!!ガルチュー!ガルチュー!!ガルチュゥー!!!

 

―――数分後。

 

「ほら、もう行こうよ!」

 

「ああ、待ってくれヤマト!まだガルチューし足りないぃっ!」

 

「会ってから!!!」

 

ヤマトの手によって引きずられてこの国の王様がいる建物へと強制連行される。渋々としながらも目的を果たすため向かうおれ達が出会った王は・・・・・5メートルは超える犬のミンク族だった。

 

「ゆガラ達がワノ国から来た者達か」

 

「そうです。お会いできて光栄ですイヌアラシさん」

 

「私の名を知っているようだな。誰から聞いたのかね」

 

「河童の河松、アシュラ童子、傳ジロー。そして彼女が持っているおでんの日誌から知りました」

 

ヤマトがその日誌を見せ、犬のミンク族であるイヌアラシは俺の言葉にサングラス越しに目を見開き立ち上がった。

 

「おでん様の日誌・・・・・!!?」

 

「偽物かどうか拝見をしても構いません」

 

イヌアラシは王座から近づいてきて震える手でヤマトから日誌を受け取り、ページを開いて確認する。

 

「・・・・・本物だ。ああ、間違いなく。この日誌に染みついたおでん様の微かな匂いもだ」

 

彼はそれを大切そうに胸に抱きしめて涙を流す。

 

「おれからはワノ国にいる赤鞘の侍の3人からの手紙を」

 

「彼等は元気であったか」

 

「はい、元気ですよ。無論おでんの娘である日和とその妻であるトキさんも」

 

「っ!?トキ様だと!!?あのお方はお亡くなりになったハズだ!!!」

 

「はい、その二人からの手紙も預かっています」

 

新たにもう二通の手紙を懐から取り出してイヌアラシに渡す。三人の同志よりもトキと日和の手紙を見始める彼の言葉を待って数分後。おれを見つめる視線が向けられ、その場で胡坐を掻いて頭を垂らした。

 

「〝イッセー殿〟!!」

 

「へ?」

 

「トキ様と日和様ともう一度会わせていただき真に感謝する!!そして亡きおでん様をも甦らす力添えをするゆガラに感謝し足りない!!」

 

「えっと、おでんの遺骨が見つからないと出来ない話だからなそれは」

 

「トキ様の手紙にもそう書かれてあった。無論承知の上だ」

 

ならいいんだけど。過剰な期待を抱かないで欲しいだけなんだよ。

 

「あの、ネコマムシは?」

 

ヤマトの問いにイヌアラシはバツ悪そうに答えた。

 

「あの猫とはおでん様の処刑の日以降、険悪な関係だ夜の6時にならないと目を覚まさない」

 

「え!?何でそんなことに!?」

 

それ、河松達は知っていたのか?

 

「どうにかその関係、修復してくれないか?復活したおでんがそんな関係の二人を見たら呆れると思うぞ」

 

「・・・・・」

 

あ、押し黙った。そっちがそうなら・・・・・。

 

「部外者の言葉じゃ駄目なら部外者じゃない人の頼みなら利くな」

 

「え?」

 

「なに?」

 

二人を他所にワノ国に繋げる亜空間を開いて―――夕食真っ最中の変化を解いたトキと日和に近づき、イヌアラシの前に連れだした。

 

「え?え?イッセーさん?」

 

「すまん、力を貸してくれ」

 

「え?あ、イヌアラシ?」

 

「お、おおっ・・・・・トキ様・・・・・!!!」

 

「イヌアラシ、久しぶり!」

 

「日和様・・・・・!!!」

 

再会した3人の時間を邪魔しちゃ悪いからしばらく待つことにした。

 

「イッセーって凄いんだね」

 

「できる事をしただけだ」

 

「それは他の人が出来ないから凄いんだよ?」

 

そうかもしれないがおれと同じことが出来るならそれほどすごいことじゃないと思う。と言えば呆れられるかなーと思っていたら。

 

「む?なんだこの奇怪な穴は・・・・・」

 

「あ、河松と狂死郎にアシュラ」

 

「イッセー殿。この穴は?―――イヌアラシ、イヌアラシかおぬし!」

 

「河松!それにアシュラ・・・・・ゆガラはどなたか」

 

「傳ジローだよ」

 

傳ジロー!?おぬし顔が変わり過ぎるぞ!!というツッコミは何となく想像できた。穴の向こうから連れ出してイヌアラシと対面を果たせる。

 

「ところでトキ達の家に来たってことは様子見か?」

 

「その通り。頻繁に訪れると百獣海賊団に怪しまれるのでな」

 

「河松。どういうことだ?」

 

「話せば長くなるがその前にネコマムシはおらんのか?」

 

「険悪な関係なんだってさー」

 

「おぬしら、あの時からまだ喧嘩をしておったのか!?」

 

これには河松も驚いていた。知らなかったのかい!

 

「というわけで、赤鞘の侍とおでんの家族から喧嘩を止めるようにお願いします。部外者の言葉よりも耳を傾けるだろう」

 

「イヌアラシ・・・・・」

 

「いえ、あのトキ様・・・・・」

 

「イヌアラシ、ネコマムシと仲直りして!」

 

「ひ、日和様・・・・・」

 

おお、効果覿面だ。イヌアラシが焦ってる。

 

「時にイッセー殿。ここはどこですかな」

 

「モコモ公国。ミンク族が暮らしている〝ゾウ〟の背中に栄えている国だよ」

 

「ここがイヌとネコの故郷か・・・・・」

 

「カッパッパッパ。おぬしの妖術は凄まじいな」

 

妖術ではなく魔法であるがな。

 

「イヌアラシ。ネコマムシの所へ案内して」

 

「しょ、承知しました・・・・・」

 

あっちはあっちで話が纏まったか。

 

 

 

夜の6時となってからネコマムシがいる〝くじらの森〟というクジラのような形をした巨大樹の下に広がる森へ向かった。当然門番もいたがイヌアラシの顔パスで門を潜り、本当にクジラみたいな大樹が生えてるのを見てしばし驚嘆して眺めていた。

 

ゴロニャ~~~~ゴ!!!

 

木造の大きな家から聞こえる猫の声と同時に飛び出してきた大きな影。化け猫のようないかつい容姿をした大柄な男。顔全体を覆うライオンのような髪と顎髭、顔の左側を縦断する傷痕、大きな尻尾が特徴。キセルを吸い、腹巻を巻いている。片手に持つ両端に刃が付いた三叉槍でイヌアラシに突き付けて殺気立っていた。

 

「おうゆガラ・・・・・この時間にわしの前に現れちょうて・・・・・」

 

「ネコマムシ!喧嘩を止めなさい!!」

 

「・・・・・は?」

 

トキの叱咤に呆然とするネコマムシという者は何度もトキを見て信じられない者を見る目で瞬きする。

 

「ト、トキ様・・・・・?」

 

「本当にイヌアラシと喧嘩をしているのですね。今すぐ険悪な関係を止めて和解しなさい」

 

「いえ、あの、その前にトキ様がどうしてここに・・・・・」

 

「おいどん達もおるぞ」

 

「アシュラ!?それに河松と・・・・・誰じゃいゆガラは」

 

「傳ジローだよ」

 

傳ジロー!?ゆガラ顔が変わり過ぎちゅうきにゃあ!!というツッコミは何となく想像できた。

 

「ネコマムシ、お願いイヌアラシと喧嘩をするの止めて」

 

「日和様・・・・・!!」

 

「・・・・・ネコ、このお二方にこうまで言われてしまえば否が応でもそうするしかないとは思わんか」

 

「・・・・・一体全体これはどういうことじゃきぃ。説明せぃイヌ」

 

「説明が拙者がしよう」

 

傳ジローと揃って呼ぶイヌアラシとネコマムシが語り出す傳ジローの言葉に耳を傾ける。おれの事やトキの事も含めて語り終えるとネコマムシがおれに顔を押し付けて来た。

 

「ゆガラ!おでん様を甦らすことが出来るっちゅうのは本当なのじゃき!?嘘だったら許さんぜよ!」

 

「遺骨があれば出来る話だよ。それを河松に探してもらっている。てか、証拠にこの場にトキがいるじゃん!」

 

「ネコ、河松達がイッセー殿に信用をしているのだ。そしてトキ様を甦らせた事実は変わらない」

 

鬼気迫る勢いで迫ったネコマムシを俺から引き剥がすイヌアラシはこっちに視線を送ってくる。

 

「彼がいなければトキ様は甦らずおでん様も甦らない。こうして日和様も同志も揃うこともなかった。違うかネコ」

 

「むぅ・・・・・確かにそうじゃき。しかし、あガラはわしらの味方でもない話」

 

「ああ、どちらかと言えば中立だ。おれは九里の住民達の貧困生活を豊かにしたいからカイドウに貢献している程度だ。百獣海賊団も光月もおれはどっちの味方じゃないが力添えはするって感じだな。おでんの復活もそれだ」

 

「では君は一体何をしたいのだね。一歩間違えればカイドウを敵に回すことになるぞ」

 

「それはそれで別に構わない。別にカイドウが生きようが死のうがおれは関係ないしな」

 

淡白な言い分にネコマムシは特に何も言ってこなかった。

 

「それよりも赤鞘の侍って九人いるんだよな?他は?」

 

「他の者達は私の能力、〝トキトキの実〟で二十年後の未来に飛ばしました」

 

二十年後・・・・・?

 

「未来に飛ばせる?もしかして過去に戻ることも?」

 

「過去には戻れません。自分と他者を未来に飛ばすことしかできないのです」

 

そんな悪魔の実があるのか・・・・・。

 

「今もその能力は?」

 

「使えないようです。どうやら一度死ぬと能力が使えなくなるようです」

 

「その能力の悪魔の実はもう手に入らないってことか」

 

「いや、そうではないぞ。能力者が死亡するとその能力の実は再び海のどこかで具現化してまた同じ能力を得られるのだ」

 

「どういう原理だそれ?因みにおでんは能力者?」

 

「違うな。おでん様は能力者ではなくともカイドウに傷を負わせたのだ」

 

ワノ国最強の侍・・・・・伊達じゃないな・・・・・。

 

「ところで彼女はイッセー殿の仲間かね」

 

「ああ、おれの妻のヤマトだ。一応、百獣のカイドウの娘という肩書があるけど」

 

カイドウの娘ェっ!!?と異口同音で驚く赤鞘の侍達。あれ、そう言えば河松達も教えてなかったっけ。

 

「・・・・・イッセー」

 

「ん?」

 

「その、君の妻って口にされると正直恥かしい・・・・・こんな気持ちになるのは初めてだよ」

 

「飛躍過ぎたか。言い直して恋人からかな」

 

「ん・・・・・」

 

顔を染めて恥ずかしがるヤマトを微笑んで和んだところでネコマムシが提案した。

 

「ゆガラ達!!今夜は泊まるじゃき!!トキ様を甦らせた恩人を盛大にもてなすぜよ!」

 

「それは嬉しいけれど、イヌアラシとネコマムシ。和解しろよな」

 

「むぐっ・・・・・!」

 

「じゃなきゃ、そんな二人を見せたくないが為におでんの復活はしないぞ」

 

ちょっと脅し文句で言うと観念した様子で二人は顔を見合わせた。

 

「ネコ。よいな」

 

「・・・・・わしらのせいで迷惑を掛けるわけにはいかん」

 

「ああ、おでん様の為だ。休戦だネコ」

 

と言って二人はおれ達の目の前で和解の握手を交わした。後に二人が和解したことはモコモ公国中のミンク族達の間にも伝わって和解を記念にお祭り状態と化したのは言うまでもない。


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