図書室の整理を手伝う事になった少女の日常回

小説家になろうで連載されている『緋月-スカーレット・ルナ-』の二次小説です。
原作の主人公はレオですが、今作はヒロインの一人であるシャルヴィンに焦点を当ててます。

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短剣を置いた少女アサシン

 銀髪の少女が本棚の上を駆ける。

その腕には1冊の本が抱えられていた。

 

「もっと高い場所にこれを置いた方が良いかな」

 

 シャルヴィンはそう言うと本を腕に抱えたまま自分の身長の2倍はある本棚の上にヒョイと飛び乗る。

 アサシンである彼女にとってこれ位の事は朝飯前、それよりもこの本の表紙に書かれている幾何学模様の方が目を回しそうであった。

 こんな本は自分の目の届かない遠くに置くべきである。

 そう考えたシャルは本をその場に置くと、そこに手をかざして自分の収納魔法を起動した。手元が光輝くと本が光に消えていく。

 シャル自身が持つ保管空間に本を収納したのである。

 更に遠くに移動しようとすると、それを遮る声が下から聞こえてきた。

 

「ようやく見つけた! その本の場所もそこじゃないって! どうして遠くに置こうとするんだよ!」

 

 シャルの眼下で黒いセーターの袖を振り、この図書室の主が喚いていた。

 彼女も小柄とは言えシャルより少し背が低い位なのだが、今は上に背伸びしないとシャルの方を見上げられなくなっている。

 

「マリンうるさい! シャルはこういう難しい本は嫌いだから遠くに置くの!」

「その本は貴重な本なんだよ! しかもさっきから本棚の上に乗るな!」

 

 図書館の主であるマーリンの忠告にもシャルは聞く耳を持たない。

 そのまま本棚の上を駆けて更に遠くへ行こうとする。

 

「まったく、アビスゲートよりもこっちの方が災難じゃないか……」

 

 マーリンは小さくため息を吐く。

 シャル達がこの世界の危機である<アビスゲートの問題>を解決してから数日が経とうとしていた。

 今はギルド<スカーレット・ルナ>としても特に大きな依頼も無い。

 なので今日は館の蔵書の整理をしようということになったのだが、結果はシャルが本を雑作に扱ったりとご覧のありさまである。

 

「これならいつものように一人でやったほうがマシだったかも」

 

 そう言うと、彼女はもはやお手上げというように近くにあった椅子に座り込んだ。

 彼女にしてみれば自分の図書室を好き勝手に荒らされているも同然であり、たまったものではない。

 

「マリン、向こうの掃除が終わったからこっちを手伝いに来たけど……シャルが何かしたの?」

「シーナ!」

 

 丁度良い所にシャルの姉であるシーナが来てくれたとマーリンは思った。

 マーリンは彼女にシャルの事を説得してくれるように頼む。

 

「実はまたシャルが好き勝手やってくれてさ……」

 

 マーリンから事情を聞いたシーナは少し悲しそうな顔を浮かべて妹の方を見上げた。

 

「シャル、本棚の上に乗ったら駄目でしょう。マリンの言うとおりにして」

「お姉ちゃんがそう言うなら……」

 

 シャルは本棚から飛び降りると、こちらへと戻ってきた。

 

「まったく、本は僕が整理するからシャルとシーナは机の拭き掃除の方を頼むよ……ともかくシーナありがとう。君が来なかったらどうなっていたか」

 

 マーリンはやれやれと悪態を付くとシーナに礼を言った。

 

「シャル、どうしてこんなことをしたの?」

 

 本の整理をするためにマーリンがその場を離れた後で、シーナがシャルを諌める。

 小柄なシャルと比べてシーナはすらりとした長身、今はその身長差がシャルには更に大きいように感じられた。

 

「難しい本よりもお菓子の本が近くにあった方がシャルは楽しいかなと思ったから……」

 

 周りの本棚をシーナが見渡すと、前は様々な古文書が置かれていた棚が今ではお菓子の本などに入れ替わっている。

 それをマーリンがまだ悪態をつきながら元の場所に戻していた。

 

「たしかに前は堅苦しい感じだったものね……」

 

 シーナは少し表情を和らげたが、すぐに真面目な顔に戻すと妹の方を見る。

 

「シャルの気持ちも分かるけど、一番この図書室を使うマリンの事も考えないとね。私も今度はこっちを手伝うから一緒に本の整理をしましょう」

「うん!」

 

 その後はシーナの手伝いのおかげもあり、無事に掃除を終わらせることが出来た。

 掃除も終わったので3人は一息つくことにする。

 

「やっぱりシャルはレオと一緒に買物に行かせるべきだったな」

 

 マーリンがシーナの淹れてくれた紅茶を飲みながら言った。

 

「シャルもレオと一緒の方が良かったけど」

「だったらちゃんとシャルも時間通りに来てくれよ……」

 

 今日はマーリンの手伝いをするというのは前日から決まっていたのだが、予定時刻になってもシャルが来なかったため先に来ていたレオには買物を任せたのである。

 

「あ、そのレオも帰ってきたみたいね」

 

 シーナが入り口の方を見て言った。

 その声で2人が部屋の入口を見ると、黒茶髪にYシャツといった様相の青年が部屋に入ってきた。

 

「ただいま、マーリンの言ってた本ってこれだろ? 何とか買ってきたよ……」

 

 そう言ってレオは手をかざすと、自分の収納魔法を発動させ何やら古めかしい本を取り出す。

 

「お帰り。その本! これだよこれ! レオありがとう!」

 

 マーリンはお礼を言うと本を受け取った。

 すぐに本を自分の机に持っていこうとしたが、その前にレオがまだ手に何か持っていることに気がつく。

 

「あれ? この包み紙みたいなのは? 本1冊以外は頼んで無かったはずなんだけど」

「これは……」

 

 レオが説明をしようとすると、シャルが目の前に割り込んできた。

 

「シャルにも本を買ってきてくれたんだ!」

「あ、違うってシャル!」

 

 言うが早いか、シャルはレオが持ってた包みを取るとさっそく机の上にそれを広げて中の品物を確かめる。

が、中には何も入っていない。

 

「あれ? 何もないよ??」

「それは地図だよ。本のオマケに貰ったんだ」

 

 レオはシャルから地図を再び受け取ると、地形が描かれている方を上にして目の前の机の上に広げた。

 

「本のオマケだと? それ実は本の付録だったんじゃないか?」

 

 マーリンは興味を持ったようで、地図の方に寄って来る。

 

「ホントにおまけで貰ったんだよ。何処かの地図みたいだけど俺はこっちの地理にあんまり詳しくないからさ、マリンとシーナなら何処の地図か分かるんじゃないか?」

 

 レオに言われてシーナも地図を覗き込んだ。

 

「海があるということは内陸の地図では無さそうね。ただこのエレクシアにこんな海岸線の所があったかしら」

 

 エレクシアはシャル達が住んでいるこの大陸の事である。

 

「もしかしたら縮図が一般の地図とは違うのかも」

 

マリンがどこからか取り出した別の本を見ながら言った。

二人は議論を始めるが、すぐにはこの地図がどこの地図なのか判明しそうもない。

 

「俺はちょっと休憩させてくれ、結構歩き回ったんで疲れた……」

 

 そう言うとレオは近くの椅子に腰を降ろした。

シャルはレオの方に近づくと自分だけ仲間外れにした事について問い詰める。

 

「レオ! 何でシャルには聞いてくれなかったの?」

「じゃあシャルにはあれが何処の地図か分かるか?」

「分かんない!」

「だろ、でもあの二人でもすぐに答えが出ないとなると一体何処の地図なんだろうな……」

 

 即答するシャルに対してレオは苦笑いを浮かべると、再び地図を調べている二人の様子を伺った。

 シャルもそっちの方向を見ると、マーリンがどこからか取り出した本と地図を見比べている。

 そして何かに気づくとハッとして叫んだ。

 

「ちょっと待てよ。まさかこれ異大陸の地図じゃないか! おい、レオ!」

 

 マーリンはレオに詰め寄るといきなり本を振りかざしてきた。

 思わずレオは椅子から転げ落ちそうになる。

 

「いきなりどうしたんだよ?」

「レオ! 何て物を持ってきてくれたんだよ!」

「そう言われても俺には何が何だか……」

 

 事情を読み込めていないレオに対してシーナが理由を説明する。

 

「レオ、エレクシアでは歴史的経緯から異大陸との交流が禁止されているの。見つかれば重罪よ」

「そんなヤバい物だったとは……悪い、知らなかったんだ」

 

 レオは素直に謝った。

 

「ともかく、事が公になる前にこの地図は早く捨てた方が良いと思うけど」

「ああ、そうするよ」

 

 シーナに言われてレオは椅子から立ち上がり、地図を処分しようとしたがそれをマーリンが止める。

 

「あ、ちょっと待って! 捨てる前にちょっと調べさせて貰っても良いかな? ほんの少しだけだからさ」

「え?」

 

 怪訝な顔をするレオにマーリンは更に頼み込む。

 

「異大陸の地図なんて滅多に手に入る物じゃないからさ、この機会にもっと調べておきたいんだよ」

「早く捨てろと言ったり、調べたいと言ったり、一体どっちなんだよ……」

 

 レオは困り果てるが、どうしてもマーリンは自分の立場を譲らないようである。

 

「まあ、私達以外にはこの地図の事を知ってる人はいない訳だし……それじゃ私が紅茶を淹れ直してくる間だけ、その後に処分するということで良いんじゃない?」

「もちろん! ありがとうシーナ!」

 

 シーナの提案をマーリンは受け入れた。

 マーリンはさっそく自分の机で地図を調べ始める。

 

「じゃあ私は紅茶を入れ直してくるから、その時にレオの分のカップも持ってくるわね」

「ああ、頼む」

 

 シーナが机の上を片付けてポットを持とうとするとシャルが横に寄って来た。

 

「シャルも手伝う! レオ、すぐに持ってくるからね!」

 

 そう言うとシーナの代わりにポットを持ち、そそくさと図書室を出ようとする。

 

「ありがとうシャル。でももっとポットは大事に扱ってね」

 

 シャルに急かされるようにシーナも図書室を出ていった。

 

「本当はあんな地図すぐに捨てた方が良かったんだけど、レオがせっかく持ってきた物をすぐに捨てるのも忍びなかったのよね……」

 

 二人並んで歩いていると、少しした所でシーナが独り言の様に言った。

 

「シャルも同じ気持ちだったよ! せっかくレオが持ってきてくれた地図だったんだもの」

 

 シャルも姉と同感の想いだった。

 あの地図がどういう物であれ、レオが大事に持ってきてくれた物を捨てるなんてとんでもない。

 

「ありがとうシャル。とはいえ、あの地図は早く処分したほうが良いわね……マーリンには悪いけど早く済ませて戻りましょう」

 

 シーナはそんなシャルに微笑み返して答えると、二人はキッチンへと急いだ。

 

 キッチンでシーナがお湯を沸かしている間、シャルはお茶菓子を物色する事にした。

 スイートロールにクッキー、飴……戸棚にあるお菓子を全部自分の収納魔法に入れていく。

 

「シャル、そんなにはいらないでしょう?」

 

 姉の有無を言わせぬ一声に背筋がびくっとなる。

 仕方無く収納魔法を再起動してお菓子を取り出すと、何やら分厚い本も出てきた。

 

「そういえばこの本、マリンに返し忘れてたんだ」

 

 先ほどの本をキッチンまで持ってきてしまったのである。

 何となく本を手に取って読んでみた。

 魔法の公式の様だがシャルには理解できない。

 

「マリンの大事な本なんだよねこれ、シャルはお菓子の方が良いけど……」

 

 自分には分からないが、その人にとっては大切な物もある。

 そう思って本を閉じた後、シャルは大きなスイートロールとそれをより分けるためのナイフ、フォーク、皿、そして最後に本も一緒に自分の収納魔法の空間に入れる。

 残りのお菓子を棚に戻していると、姉が様子を見に来た。

 

「そっちは準備できた?」

「もうちょっと!」

 

 またシーナに手伝って貰ってお菓子を戻し終えると、来た時の様にシャルはポットを持って二人はキッチンを出た。

 図書室の前まで来た所でシーナがドアを開けようとすると、先に黒ずくめのコートを着た人物が図書室から出てきた。

 

「シーナ、それにシャルも戻ってたのか」

 

レイヴン。

この館の主であり、ギルド【スカーレット・ルナ】のナンバー2として主にギルドの人事を行っている人物である。

 

「今日はマリンの手伝いで戻ってたの」

「そうか」

 

 シーナが少しぎこちない様子で答えるも、レイヴンは一言それだけ言うと向こうへと行ってしまった。

 

「レイヴンにバレたかな?」

 

 シャルはレイヴンが角の向こうへと消えた後で姉の方を見上げると言った。

 

「多分バレてるでしょうね……あのレイヴンの事だもの、詮索するのには抜け目がないから……」

 

 シーナはそう答えるとドアを開けた。

 図書室に入ると、マーリンとレオが椅子に座ってまるで誰かに怒られたみたいにしゅんとしている。

 

「やっぱり少し遅かったみたいね……」

 

 シーナは先程レイヴンが出てきた所を見ていたので、2人の様子を察すると言った。

 

「結構絞られたかな。まさかあんなに怒られるとは、地図はレイヴンに没収されたよ」

 

 レオが力無げに言う。

 机の上に広げられていた地図はたしかに無くなっていた。

 

「貴重な異大陸の資料だったのに~レイヴンのバカー!!」

 

 机に顔を埋めていたマーリンが顔を上げるなり叫んだ。

 彼女にとっては叱責された事よりも地図を持っていかれた事がショックだったようである。

 

「仕方ないわよ。今度ロスマリヌスの王宮図書館の本を持って来てあげるから、ね?」

「ほんと!?」

 

 シーナが気遣うように言うとマーリンは椅子から立ち上がって眼を輝かせた。

 少しばかり元気が戻ったようである。

 

「そうそう、シャルが美味しいスイートロールの作り方の本を選んで持ってきてあげるから!」

「いや、それはいらないかな……というか既にあるし」

「えー、なんで!?」

 

 シャルの提案は拒否されてしまった。

 シャルとしては腑に落ちない所もあったが、マーリンがすっかりいつもの調子を取り戻していたので、良しとすることにした。

 

「あとシャル、この本を間違えてキッチンに持って行ってたからマリンに返すね」

 

 そう言うとシャルは自分の収納魔法から本を出してマーリンに渡す。

 

「ちょ、本に何かシミ付いてるけど……これ砂糖でベトベトじゃないか!」

 

 本を受け取ったマーリンがシャルの方を見ると、既にシャルはその場から居なくなっていた。

素早く動くことはアサシンである彼女には造作もない事である。

が、後でシャルがシーナに手酷く怒られたのは言うまでもない。

 

fin


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