毎度お馴染みなケダモノ達が新年会を口実にまたしても不埒を働こうとする。
だが巻き添えとなったアンチョビと共にラブが反撃に転じると、おバカなケダモノ達は次々と二人の奇策の前に敗れ去って行くのだったw

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恋愛戦車道の読者の皆様、
新年あけましておめでとうございます。

遅ればせながら新年最初の投稿、となる番外編をお送り致します。
実は昨年の暮れのオーバーワークが祟り新年早々ダウンしてしまいまして、
最初の投稿がこんなに遅れる事態となってしまいました。

変わりといっては何ですがこの読み切り短編は、
結構な尺がありますのでそれでお許し願えたらと思います。
尚、例によって時系列というか時間の進行はお約束のパラレルですw

本編の方は来週末から今まで通りお届け出来ると思いますので、
どうか今年も恋愛戦車道を宜しくお願い致します。


丑乳年の新年会にラブのブラの紐を解くのは誰だ

「まほさん……」

 

「ウム…遂にこの時がやって来たか……」

 

「ええ、遂に()()()がやって来ましたわ……」

 

 

 年も押し詰まり終業式を目前に控えたとある日の午後。

 黒森峰の隊長室には、既に現役を引退しこの部屋の主ではなくなったまほと、同じく現役を退いた聖グロの元隊長ダージリンの姿があった。

 日没まではまだ大分時間があるものの日は大きく傾き、窓から差し込む冬の日差しは歴史を積み重ね重厚さと共に趣を感じさせる隊長室を赤く染めていた。

 

 

「それで──」

 

「問題ありません、例の物は一式既に手配済みですわ」

 

「そうか……」

 

 

 何処か落ち着かぬ様子のまほに比べ、まるでこの部屋の真の主かのように落ち着き払った態度のダージリンは手にしたコーヒーカップを手にすると、所構わず紅茶を要求する彼女にしては珍しくまほが手ずから淹れたコーヒーが上げる湯気と香りに目を細めるのだった。

 

 

「それで彼女にこの件は……?」

 

「いや、安斎にはまだ何も……」

 

「結構…実に賢明な判断ですわ、あの子意外とこういう事にはいい顔しませんから……このまま当日まで伏せておくのが無難でしょう」

 

「……」

 

 

 ダージリンのアンチョビに対する人物評に、秘密裏に事を進める事で後ろめたさを感じているまほの表情は硬かった。

 

 

「ですが今回の計画に実行に当たっての資金提供には、心から感謝いたしますわ」

 

「…まぁこの程度なら、私の裁量で使えるようお母様が口座を用意してくれているからな……」

 

『何だかんだでまほさんもお嬢様ですわね……』

 

 

 ラブ程極端ではないにしてもやはりまほも西住流本家の長女なだけあって、ダージリンなどから見れば充分別世界の住人であった。

 そのまほがさらりと自分用に特別な口座がある事を洩らしたその時、さすがにそれを言葉にする事はなかったが微かに口の端がピクリと反応するのは隠せなかった。

 

 

「ん?どうした……?」

 

「いえ、何でもありませんわ……それより今回はどういった口実で呼び出すおつもりですの?最近あの子変に知恵が付いて、生半可な事では警戒するんじゃありませんこと?」

 

「あぁ、それなら問題ない……新年会の前に道場に納車されたばかりの新車の試し撃ちをやらないかと誘ったら二つ返事だったからな」

 

「まあ…でもそれだけで……?」

 

 

 イベント毎に質の悪いセクハラを受けた結果すっかり疑い深くなっているラブは、最近では仲間からの呼び出しを受けても、警戒して簡単に誘いに応じなくなっていた。

 それだけに彼女がまほの誘いに二つ返事で応じたという事が、ダージリンには随分と意外な事に感じられたのであった。

 

 

「ウム、納車されたのがF型とあってはさすがのヤツも黙ってはいられないさ」

 

 

 希少な赤外線暗視装置を装備したG型程ではないが、シュマールトゥルム(小型砲塔)を搭載したF型もタマ数が少なく、パンターに対する愛情が尋常ではないラブを一本釣りするには充分効き目のある餌であった。

 

 

「F型…ですか?……ちょっとお待ちになって!まほさん、あなたまさかこの為だけにF型を買ったとかおっしゃいませんよね!?」

 

 

桁外れなどという表現では生易しく思えるレベルのお嬢様であるラブが、時折見せる金銭感覚の非常識ぶりをよく知っているだけに、彼女と血縁にあるまほもやはり同類なのかと眩暈を覚えたダージリンは血相を変えていた。

 

 

「そんな訳あるか!たまたまウチが懇意にしている代理店で、キャンセルになって宙に浮いていたのをお母様が買い取っただけだ!」

 

「そ、そう…そうですわよね、ゴメンなさい……」

 

 

 ラブと同列視された事を敏感に感じ取ったのかまほが強い口調で言い返すと、さしものダージリンもタジタジになり慌てて謝罪したのだった。

 

 

「全く私を何だと思ってるんだ……まあとにかくそんな訳でラブは間違いなく当日私の実家に来る事になっているから安心しろ」

 

 

 やや憮然とした顔をしてはいるが、それでもまほは自分達の計画の真の目的にラブが気付く事なく、参加する事を確約するように太鼓判を押していた。

 

 

「ま、まほさんがそうおっしゃるなら大丈夫そうですわね……」

 

 

 最後は気圧され気味に話を纏めたダージリンは、再びコーヒーカップを手に取り残っていたコーヒーを一気に飲み干したのだった。

 

 

『…後は発注したものが届くのを待つだけですが……まほさん、ご自分に仕組まれたサプライズにはやはり気付いてはいないようですわね……』

 

 

 飲み干したコーヒーカップを目の前のローテーブルに戻したダージリンが、彼女と同じように残りを飲み干すまほの姿を見ながら内心でそんな事を考えていると、不意に何かを思い出したようにまほが真剣な顔になった。

 

 

「そういえばカチューシャにこの件は伝えてあるのか?」

 

「え?あぁ、そういう事ですか…大丈夫、ノンナのみに伝えてカチューシャには一切伝えぬよう口止めしてありますわ……何しろ──」

 

「カチューシャに隠し事とか腹芸やらは期待出来ないからなぁ……」

 

 

 ダージリンが全てを言い切る前に口を挿んだまほが、彼女が言おうとしていた事を一言一句違えず言い切ると、そこで目があった二人はほぼ同時に吹き出していた。

 

 

 

 

 

「ねぇエリカさん、あの人(ダージリン)一体何しに来たんでしょう?」

 

「さあ?どうせロクな事じゃないに決まってるわ…関わらない方が身の為よ……」

 

 

 ダージリンが姿を見せるなり自主的に既に自分が主である隊長室を明け渡したエリカは、取り敢えず必要な資料を幹部クラスの隊員達が事務仕事に使用する部屋に持ち込むと、小梅の淹れたコーヒーを口に運びながら弾薬の発注書にサインをしていた。

 そんな彼女にダージリンの突然の訪問を訝しんだ小梅が分厚いファイルを抱えたまま尋ねたが、エリカの方は発注書から顔を上げる事なくぞんざいにそう答えたのだった。

 これまでの経験と照らし合わせれば自ずと答えは出るとでもいった感じで言い切ったエリカは、そこで漸く顔を上げその場にいる小梅や直下以外の者達にも釘を刺した。

 

 

「アンタ達も下手に首を突っ込もうとするんじゃないわよ、あれだけまほ姉が挙動不審って事はラブ姉絡みで下らない事企んでるに決まってるんだから……迂闊に係わると一生言われるような赤っ恥掻く事になるから気を付けなさい」

 

『お、おう……』

 

 

 まほがやった馬鹿の巻き添えで散々酷い目に遭っているエリカの忠告は説得力があり、静かな口調ながらもその迫力に皆一斉に息を呑むのだった。

 

 

「…みほにも一応忠告しておくか……」

 

 

 ふと思い出したように呟いたエリカはパンツァージャケットの懐から携帯を取り出すと、慣れた手付きで文章を入力するとサッと内容を確認して送信ボタンを押していた。

 

 

「これでヨシと……」

 

「ふふ♪そんなにみほさんの事が心配?」

 

「そんなんじゃないわよ、頭叩かれたいの?」

 

 

 毎度のツンデレかと茶化す小梅をひと睨みしたエリカだが、実際彼女はみほの身を案じてという訳ではなく、まほのオマケ宜しく馬鹿をやったみほのとばっちりを嫌っての事であった。

 

 

「毎度毎度馬鹿やってラブ姉を怒らせて後で酷い目に遭うクセに…時々あの人達ホントに学習能力ないんじゃないかと思うわ……」

 

 

 小さく溜息を吐いたエリカはグイっと残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、苦虫顔のまま無言でコーヒーカップを小梅に突き出しお替りを要求するのだった。

 だがそんな彼女もポンコツな先輩達の逆恨みが怖いのでこの件をラブに密告する気にはなれず、ただ頭を低くして知らぬ存ぜぬのだんまりを決め込む腹積もりであった。

 

 

 

 

 

「弾着確認、これで10発連続でブルズアイを撃ち抜いていますよ。さすがです恋お嬢様」

 

「ありがとうございます、今度は更に500m下げて頂けますか?」

 

 

 年が明けて正月休みも終盤、西住流道場の射撃演習場には稽古始に便乗する形で、新年会の余興として道場に納車されて間もない新車の試し撃ちに興じるラブ達の姿があった。

 西住流の師範クラスの者達が各車に搭乗し指導に当たっているが、ラブに関しては彼女が厳島流の家元という事もあり同乗する指導員は特にアレコレ口出しする事はなかった。

 それ以前に彼女はラブが幼い頃から門下生として道場にいた人物なので、ラブの事を恋お嬢様と呼び丁重にもてなすような態度で接していた。

 

 

『どうだラブ、初めて乗ったF型は?』

 

「うふふ♪このシュマールトゥルムを乗せると増々ティーガーⅡに似て来るわね~」

 

 

 ラブの搭乗するパンターF型が入っている射点の隣で、ティーガーⅠの新車の試し撃ちをしているまほが無線で呼び掛ければ、応答したラブの声は彼女の予想通りかなり上機嫌であった。

 その様子からまほは『コイツやっぱりティーガーⅡが好きだろ』と確信し、その口元を微かに緩めてクスリと笑っていた。

 だがこの試し撃ちを楽しんでいるのはラブだけではなく、他の者達も滅多に出来ない経験に興奮した様子で発砲する度に無線で感想を言い合っていた。

 

 

『Wow!悔しいけどアメリカ戦車が群れないと勝てない理由が良く解ったわ!』

 

『ファイアフライはサイズ的に無茶してるからなぁ……』

 

『それに関してはIS-2も一緒ですね……』

 

『カーベーたんなら──』

 

『一番弾数撃ってるカチューシャ様が何を言っても説得力がありませんよ?』

 

『うるさいわね!』

 

『機動力はともかくこの火力があれば試合の組み立ても楽ですわね……』

 

『機動力に関してはウチ(聖グロ)もあまり言えた義理ではありませんわ』

 

『……』

 

『豆戦車中心でやっとこさP40導入したアンツィオからすりゃ、オマエ等みんな贅沢だ……』

 

『あはは……』

 

「あら~、揃いも揃って三年間溜め込んだ不満が纏めて噴き出したみたいね~」

 

 

 砲撃の合間に無線で飛び交う言葉が、徐々にそれぞれの学校の台所事情に対する愚痴交じりの物に変わって来ると、ラブは苦笑しながら射撃用に新調した眼鏡をかけ直し照準を覗き込んでいた。

 

 

「命中、次はどうされますか恋お嬢様?もう500m程下げますか?」

 

「あ、そうですねお願いします」

 

 

 呑気な事を言いながらもラブが発射ペダルを踏み込めば、撃ち出された徹甲弾は今回も見事標的のど真ん中を撃ち抜き、古参でラブをよく知る者以外の西住流の門下生達を騒然とさせていた。

 だが同乗する師範は至って冷静にハードルを上げる事を提案し、ラブもそれを快諾したのだった。

 しかしその距離はとっくに最大射程を超えていたので、彼女の搭乗するF型が後退を始めた時には若い門下生のみならずまほ達までもが驚きの声を上げていた。

 何故なら如何にラブが天才でパンターの扱いには長けているとはいえ、F型に乗るのは今日が初めのぶっつけであったからだ。

 それでも周囲の反応などお構いなしに後退を続けたラブは、停車後早々に照準を定めると即発砲し苦もなく標的の中心を撃ち抜いていた。

 

 

「ま、こんなもんね……けど正直この程度で騒がれても何だかなだわ~」

 

「さすが恋お嬢様、久しぶりに門弟達に良いものを見せる事が出来ました」

 

 

 彼女以外に乗り込んでいた門下生達もラブの驚異的な砲撃術を目の当たりにした事で、大いに驚愕すると共に賞賛の視線をラブに送っていたのだが、ラブとしては年上の西住流の門下生からそんな風に見られるのは何ともこそばゆい気持ちであった。

 かくしてこの曲芸レベルの長距離射撃を最後に新車の試し撃ちも終了し、飛び入りに近い形で参加させて貰ったラブ達は指導に当たってくれた師範及び門下生達に礼を述べると、新年会の前に煤と汗を流すべく毎度お馴染みの徹甲の湯へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「沁みるわ~」

 

 

 渾々と湧き出てては広い浴槽を満たす湯に、ラブのたわわなアハトアハトがプカプカと踊る。

 ここは西住流門下生が暮らす寮併設の徹甲の湯。

 また何かセクハラされるのではと警戒し入浴するのを渋っていたラブであったが、卑屈なまでに下手に出るダージリン達に説得され疑いながらもどうにか湯に浸かっていた。

 いつものようにアンチョビに髪を結い上げて貰い背中を流して貰えば、その心地良さに徐々に警戒心も薄れ、湯に浸かる頃にはすっかり機嫌が良くなっていたのだった。

 

 

「大分疲れ気味なようだが大丈夫か?いくら回復したといってもだな、やっぱりお前の身体は普通じゃないんだからあまり無理はするんじゃないぞ?」

 

 

 浮かぶたわわに目を奪われかけたアンチョビはいかんいかんと首を左右に大きく振り、一つ深呼吸してから真面目な顔を繕い労うような声で語り掛けていた。

 事故当時、一瞬とはいえ全身を包帯で覆われた痛々しいラブの姿を仲間内で唯一見ているアンチョビは、やはり他の者に比べラブに対する心配の度合いが大きかった。

 

 

「ん~、ありがと千代美……でも大丈夫よ~、すっかり今の生活パターンにも慣れたからね~」

 

「そうか?ならいいんだが……」

 

 

 身体が温まった事で警戒心も薄まったのか、弛緩した様子のラブがいつも以上に間延びした喋り口調でそう答えると、アンチョビも漸く肩の力を抜き彼女の隣で寛いだ表情を見せた。

 いつもであれば、ぼちぼちカヴェナンター巡航戦車の冷却系より脆くオーバーヒートし易い連中がラブのたわわを前に理性を失い暴走する頃合いであったが、チラ見こそするものの今日に限ってはどういう訳か大人しくしていた。

 

 

「…なんか気持ち悪いくらいにコイツ等大人しいわね……」

 

「一応入浴前に私が釘を刺しておいたからな……」

 

「随分と失礼ですわね…それではまるで私達がケダモノか何かのようではありませんこと……?」

 

「違うの?」

 

「なっ!」

 

 

 酷い言われようにカチンと来たらしいダージリンがやや棘のある口調で言い返すも、更に追い撃ちを掛けられた彼女は目を白黒させながら言葉に詰まった。

 

 

「いい加減にしないかダージリン、新年早々無駄に体力使わせんでくれ……」

 

「チッ……」

 

 

 アンチョビにまでぞんざいに扱われたダージリンは、あからさまに舌打ちをしながらアンチョビを睨み付けた後にプイっと背を向けたが、その瞬間口元が微かに笑っていた事にアンチョビとラブが気付く事はなかった。

 

 

「私達はそろそろ上がらせて頂きます…これ以上入っているとカチューシャ様がのぼせてしまいますので……さ、カチューシャ様行きますよ?」

 

「……」

 

 

 大概の場合ノンナに子供扱いされた場合何か一言言い返すのが常であったが、あまり長湯が得意ではないカチューシャは珍しく抵抗せず湯から上がって行った。

 そしてそれを機に他の者達も続々と上がり始め、気が付けば浴室にはラブとアンチョビだけが残されていたのだった。

 

 

「どうしたんだアイツら……?」

 

「さあ……」

 

 

 あっという間に二人きりになった事で戸惑い首を捻るアンチョビであったが、彼女の隣にいるラブも似たような表情をしていた。

 

 

『おかしい…あのケダモノ共今日は何もしないで上がって行ったわ……』

 

 

 入浴の度に辛抱堪らんとセクハラを働く連中が、いつものように危ない目付きで彼女の肢体をチラ見していたのに、結局お触りの一つもなく上がって行った事にラブは却って不信感を抱く。

 

 

「ねぇ…私達もそろそろ上がらない……?」

 

「…そうだな、そうしよう……」

 

 

 何か明確な根拠があった訳ではないが、言いようのない嫌な予感を覚えたラブが如何にも恐々といった風に言い出せば、少し考える顔になったアンチョビもそれに同意し、二人も揃って湯から上がって行った。

 

 

 

 

 

「アンタ達なんてカッコしてんのよ!?バカじゃないの!?」

 

 

 アンチョビと二人少し遅れて浴室を後にしたラブは、脱衣所に足を踏み入れるなり心底呆れたような声で先に上がっていたケダモノ達に罵声を浴びせていた。

 

 

「…こんなアホな事を計画したのも扇動したのもお前だろダージリン……?」

 

 

 最初こそ呆けた顔でその光景を見ていたアンチョビも、我に返るなり眉間に深い縦皺を入れながら首謀者はコイツしかいないとダージリンを睨み付けた。

 

 

「フン!いきなり失礼ですわね!何とでもおっしゃい!」

 

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしたダージリンは怒っている風を装ってそっぽを向いて見せたが、ずばりと確信を突くアンチョビの追及を躱そうとしているのは明らかだった。

 ラブとアンチョビが呆れ怒る理由、それは二人より先に風呂から上がった連中の格好にあった。

 何しろ牛、全員が牛。

 ブカブカで何処かだらしなく見えるスウェット素材の牛柄ツナギ。

 被っているフードには角と耳、お尻にぶら下がる尻尾が間抜けさを醸し出す。

 

 

「Hey!これくらい新年会の余興だと思えばいいじゃない♪それより早く着替えたら?いつまでもそんなカッコでいたら風邪ひくわよ!」

 

「何が余興よ!?私絶対そんなの着ないわよ!あ!私の着替え何処にやったのよ!?」

 

 

 ヘラヘラした態度でさも仲裁するような事を言うケイであったが、その姿が間抜けな牛柄ツナギでは却って相手を怒らせるだけであった。

 実際彼女の態度とそのいで立ちにイラっと来たラブは、強い口調でまくし立て自分の着替えが入れてある棚の中の籠に手を掛けたが、その時なって漸く自分がはめられた事に気付いたのだった。

 

 

「って、何よコレは!?」

 

 

 試し撃ちの時はそれぞれ自前のパンツァージャケットを着用していたが、その後の新年会は仲間内の気楽なものなのでラブもラフな普段着を用意していた。

 だが籠の中にあるはずの着替えは牛柄の物にすり替えられ、インナーはおろか靴下に至るまで彼女が用意した衣類は影も形もなかった。

 そして嫌そうに顔をしかめたラブが籠の中の牛柄を手に取ると、それはアホ共が着用するツナギとは明らかに違うシロモノであった。

 

 

「ちょっと!マジで何なのよコレは!?」

 

 

 手にした牛柄のブツが何であるか気付いた途端口角と目尻をキッと吊り上げたラブは、吐き捨てるように怒鳴ると同時にそれらをべしっと床に叩き付けていた。

 床に叩き付けられたはずみで散乱する牛柄の布切れ。

 それはツナギではなく服と呼べる物ですらない。

 牛柄プリントのビキニにオーバーニーソックスとロングスリーブの手袋、角と耳の付いたカチューシャにブチキレたラブがそれらを纏めて蹴り飛ばすと、今度はカランと金属的な音を立てて中から何かが転がりだした。

 

 

「カラン…?今度は何……?こ、この変態共!こんなもんまで私に着けさせる気だったの……!?」

 

 

 転がり出た二つの物体を手にしたラブは、怒りにワナワナと震わせながら首謀者であるダージリンを睨み付ける。

 赤い首輪には大きなカウベルがぶら下がり、金色に輝くリングは明らかに鼻輪だった。

 こんな物を自分に着用させたがる変態達に、これ以上どんな罵声を浴びせたらいいか怒り過ぎたラブは直ぐに言葉を見付けられず、酸欠の金魚宜しく口をパクパクさせる。

 

 

「ちょっと待てぇ!何で私までコレなんだぁ!?」

 

「千代美!?」

 

 

 アンチョビの叫びに驚き我に返ったラブが床に目を落とすと、そこには彼女と同様にアンチョビが叩き付けた牛柄ビキニ一式が散乱していた。

 

 

「ラブだけではなんですからね…ちょっとしたサプライズ……あなたの場合差し詰め可愛い仔牛ちゃんとでもいった処かしら」

 

「誰が仔牛ちゃんだこのヤロウ!」

 

「ダージリンあんたね!」

 

 

 おかしくて堪らないといった様子のダージリンにブチギレた二人が噛み付くが、その声は紅茶女にとっては実に甘美な声でしかなく、悦に入ったようにダージリンはコロコロと笑うのだった。

 

 

「まあまあ二人共、いつまでもそのカッコじゃ風邪ひくから取り敢えずソレ着たら?」

 

「ふざけんなバカヤロウ!こんなん着たって全裸と大して変わらんだろうがぁ!」

 

 

 こういう時に決まって取りなすようにアホな事を言うケイをどやし付けたアンチョビであったが、本来着替えるはずであった衣服はやはり隠されていたので、逃げ出す事も出来ずラブと二人極めて危険な状況に追い込まれている事に焦りを感じていた。

 

 

「ええいこの馬鹿者共が…オイ西住!お前一体どういうつもりだ!」

 

「え…?いやだって……ラブの方はともかく安斎の分までとは聞いてなかったし……」

 

「そういう事を聞いてるんじゃねぇ!」

 

 

 怒られているにも拘わらずアンチョビの牛柄ビキニ姿を想像し興奮しているのか、まほはポッっと頬を赤らめ視線を逸らした。

 

 

「とにかく、いつまでもそうしている訳にも行かないでしょう?さ、観念して……ね?」

 

「何が観念して……ね?だぁ!お前本気でそんな口車が通用すると思ってるのか!?」

 

 

 カモを丸め込む詐欺師の如く猫撫で声で畳み込もうとするダージリンだったが、用意された着替えがビキニとあっては説得が上手く行くはずもない。

 案の定アンチョビにツッコまれたダージリンは悔しそうに一つ舌打ちをすると、卑屈な笑みを浮かべながらパチリと指を鳴らし突撃命令を下していた。

 

 

「ええい往生際の悪い!さ、皆さんやっておしまい!」

 

「ぎゃ──────っ!こっち来んな──────っ!」

 

 

 ある意味彼女にお似合いなセリフを受け、完全に目付きのおかしい欲情ゾンビの群れが二人目掛け殺到し、掴みかかるように迫る手にラブが絶叫する。

 

 

「ら、ラブ!」

 

「千代美ぃ!」

 

 

 何とか逃れようと互いに手を伸ばし合うが時既に遅く二人は煩悩の波に呑み込まれ、申し訳程度にその身を覆っていたバスタオルをひん剥かれあられもない姿で床に倒れ込んでいた。

 

 

「や!だから着替えさせるのに一々揉むな!」

 

「うっ!ゴラぁ!何処に手ぇ入れてんだぁ!」

 

 

 抵抗すればする程ケダモノ達を余計に刺激するだけで、彼女達は一層激しく弄ばれるだけだった。

 

 

「く、喰い込んでるからそんなに引っ張るなぁ!」

 

「マウスじゃないんだから先っちょ何度もクリックしないで!」

 

 

 吸うわ揉むわのやりたい放題。

 水着を着せるだけなのにそれ以外の余計な作業に勤しむケダモノ達のせいで、息も絶え絶えなラブとアンチョビは逃げる隙を作ろうと尚も抵抗を続ける。

 

 

「お…オマエ等……」

 

「あ、アンタ達覚えてなさいよ……」

 

 

 それから暫くして漸くセクハラ行為が大半の着替えが終わると、脱衣所の隅で肩で息をする二人は涙目でケダモノ達を睨み付けていた。

 

 

「いいわ、負け犬の捨て台詞って堪らないですわね♡」

 

「ウム…しかし何と言うか……想像以上の破壊力だな……」

 

「Wow!まさにホルスタインね!これなら私も用意しておいた甲斐があるってもんだわ!」

 

『あ?』

 

 

 危ない目付きで言いたい放題なケダモノ達だが、興奮し切った様子のケイが牛柄ツナギを脱ぎ始めると、訳が解らず彼女のストリップをぼんやり眺めていた。

 

 

「やっぱり牛の相手をするならこれじゃなくっちゃね~♪」

 

『あぁ……?』

 

 

 ケイが牛柄ツナギを脱ぎ捨てると、その下から現れたのは星条旗柄のビキニと際どくカットされたデニム生地のホットパンツで、腰にはダメを押すようにコルトのシングルアクションと投げ縄がぶら下げられていたのだった。

 

 

「アンタ馬鹿よ!筋金入りの大馬鹿よ!」

 

 

 更に何処に隠していたのかつばの大きなテンガロンハットを得意げに被って見せたケイを目尻に涙を溜めたラブが罵倒したが、その声が全く耳に入っていないのか得意げな顔でロングバレルをホルスターから引き抜いたケイは、クルクルとガンスピンさせた後にテンガロンハットのつばをグイっと押し上げていた。

 

 

「けどアレよね!着せた以上はやっぱり……」

 

「カチューシャ……?」

 

 

 頭の軽いカウガールにさすがのラブも空いた口が塞がらずにいたが、今度は正真正銘仔牛サイズなカチューシャがニヤニヤと笑いながら何かを言い掛ける。

 ハッとしたラブが彼女の方を向けばカチューシャは視線をぐるりとケダモノ達に巡らせ、アイコンタクトの後にひと呼吸置いて口を開いた。

 

 

『剥いてみたくなるわよね!』

 

『……!』

 

 

 カチューシャが口を開くのに合わせケダモノ達が一斉に彼女の言った事を唱和し、ラブとアンチョビも恐怖に抱き合ったまま絶句してしまう。

 

 

「それじゃそういう訳で私が──」

 

「ちょっと待て!何がそういう訳でだ!」

 

「そうですわ!抜け駆けは許しませんよ!」

 

「Exactly!その通りよ!いくらカチューシャでもちゃっかりは通用しないわよ!」

 

『ダメだコイツ等……』

 

 

 救いようのないまでに馬鹿げた争いを始めたケダモノ達にラブとアンチョビは絶望的な目を向けるが、それに気付かずケダモノ達は熱い論争を繰り広げていた。

 

 

「な、何とか逃げないとこれ以上はこっちの身が持たないわ……」

 

「だがここからじゃ出口に辿り着く前にまた捕まるぞ……」

 

 

 ラブとアンチョビもヒソヒソと逃げ出す方法を論じ合うが、脱衣所の隅に追い詰められた状態ではどの手段も凡そ実現不可能としか思えなかった。

 この完全に詰んだとしか思えない状況に百折不撓を掲げる厳島流の家元であるラブも諦めかけたのだが、脱出のチャンスは思いもかけない形で訪れるのだった。

 誰がラブのたわわを牛柄のビキニから解放するかでもめるうちに、結論が出ない事にエキサイトし始めたケダモノ達は怒鳴り合いを始めていた。

 そんな中小さいのをいい事に言い争いの輪からカチューシャが抜け出そうとしたが、その背後で始まった取っ組み合いのとばっちりを受け、その軽さ故に彼女はラブに向かって勢いよく弾き飛ばされてしまったのだ。

 

 

「きゃあ!?」

 

「か、カチューシャ!?」

 

「むぎゅ!」

 

「ぐふっ!」

 

「え!?」

 

「うわっ!?」

 

「な、何事ですの!?」

 

「カチューシャ様!」

 

 

 ラブ目掛けて一直線、不幸にも弾丸ライナーで悲鳴を上げながら飛ばされたカチューシャは、そのままラブの弾力性抜群な胸部重装甲に激突した。

 そして目一杯たわわに埋もれたカチューシャは、今度はそのバネの力に弾かれ放物線を描いて宙を舞うと、ケダモノ達の上に落下しボーリングのピンのように薙ぎ倒していた。

 

 

「い、今だラブ!逃げるぞ!」

 

「え……あ!解った!」

 

 

 コントのような展開にボケっとその光景を見ていたラブであったが、アンチョビの叫びに我に返ると、携帯やらが入ったポーチのみを回収し、手に手を取って脱衣所から逃げ出したのであった。

 

 

 

 

 

「いたかっ!?」

 

「こっちにはいませんわ!」

 

「こっちもよ!」

 

「Goddamn!油断したわ!」

 

 

 逃げ出した二人を探し、ケダモノ達が寮の中をドタバタと走り回る。

 目を血走らせ髪を振り乱したその姿は、完全に精神のタガが外れポンコツに拍車が掛かっていた。

 

 

「どうする千代美?このままじゃ私達ホントに風邪ひいちゃうわ」

 

「う~む…とはいえこの恰好じゃ外には逃げられんし状況は多勢に無勢、ここから出た途端に見つかって興奮し切った馬鹿共に何されるか解ったもんじゃないしなぁ……」

 

 

 脱衣所から逃げ出した二人は追い付かれる前に一旦隠れようと、寮生の為の予備の布団を収納する布団部屋に飛び込み潜伏していた。

 

 

「けどここに隠れててもいずれは見つかっちゃうわ、そうなれば結局また酷い目に遭うわよ?」

 

「確かにそれはそうなんだが……」

 

 

 同期の中では最強と言ってもいい策士の二人であったが、牛柄ビキニのみを身に着けた状況では暴走したケダモノ達を相手にするのはあまりにも分が悪かった。

 

 

「千代美……」

 

「何だ……?」

 

「何か私猛烈に腹が立って来たわ……」

 

「……」

 

 

 今までにも散々酷い目に遭わされて来たラブであったがここまで馬鹿げた状況は記憶になく、薄暗い布団部屋で手近にあった毛布で寒さを凌いでいた彼女は、この理不尽な状況に寒さではなく怒りでその身を震わせ始めていた。

 

 

「…逆襲しよう……」

 

「何だって……?」

 

「やり返そうって言ってんのよ、私と千代美が組めば多勢に無勢だって関係ない、どんな状況だって引っ繰り返せるわ!電撃戦かましてあのおバカ達を痛い目に遭わせてやろうよ!」

 

「無茶言いやがって…けど確かにこのままこうしていてもジリ貧なのは目に見えてるしな……よしやるか!けど問題はどうやって連中を出し抜くかだぞ?お前何か策があるのか?」

 

「あの辺使えないかしら?」

 

「ん?何だ……?」

 

 

 部屋の薄暗さに慣れたアンチョビがキョロキョロと狭い布団部屋の中を見回すと、同じようにしていたラブが棚の隅に積まれた物を指差していた。

 彼女の指差した物を手繰り寄せたアンチョビは、目を凝らしてそれを手に暫し考え込んだ。

 

 

「…これは布団ロープと布団袋……だったかな?」

 

「多分…それよりコレを使ってさ──」

 

 

 慎重を期して思い付いた作戦を小声でそっとアンチョビに耳打ちすれば、黙ってそれを聞いていたアンチョビは一つ頷きその作戦に乗る事にしたのだった。

 

 

「他にこれといって思い付かんしそれで行ってみよう…で、どうする?一体どうやって誘き寄せるつもりだ……?」

 

「コレ、使って見ない?」

 

「本気か……?けど確かにアイツなら単純だから真っ先に引っ掛かりそうだな」

 

 

 身を寄せ合う二人の間にラブがぶら下げて見せたのは、布団部屋に逃げ込んだ直後うっかり音が出ないよう真っ先に外したカウベル付きの首輪だった。

 カウベル越しにニヤッと人の悪い笑みを浮かべた二人は、そのまま無言で頷き合うと作戦を決行すべく行動を開始していた。

 

 

 

 

 

「全く何処に隠れたのよ!往生際が悪いったらないわ!」

 

 

 捜索効率を上げる為ノンナと別行動を取っていたカチューシャは、中々見つからぬラブとアンチョビを探し悪態を吐きながら寮の長い廊下でウロウロと索敵を続けていた。

 使用されている寮生の部屋は施錠されているので入る事は出来ないが、そうでない部屋は扉が開け放たれているので、彼女は空き部屋を一つ一つ慎重に覗いては確認作業を続けている。

 そしてそんな彼女の耳に突然届いた金属音。

 その音はついさっきまで何度も聴いていたので彼女もその音の正体が何であるか即座に理解し、何処から聴こえて来たのかと長い廊下を首を振って見渡していた。

 

 

「また聴こえた!間違いない、この音はラブ達の首輪に付けてあるカウベルの音じゃない!」

 

 

 音の聴こえた方に向かい慎重に足音を立てないように進み始めたカチューシャであったが、二人を見付ける事に夢中になるあまり、彼女はそれが罠である可能性に頭が回っていなかったようだ。

 

 

「…ここかしら……?何よこの部屋は?物置か何かなの……?」

 

 

 布団部屋の前に辿り着いたカチューシャは僅かに開いている引き戸の隙間から中を覗き込んだか、灯りの付いていない室内の様子は外からでは良く解らなかった。

 

 

「よく見えないわね……」

 

 

 ブツクサと文句を言いながら布団部屋の中の様子を確認する為に、カチューシャは押し広げた引き戸の隙間に首を躊躇なく突っ込んだ。

 

 

「えっ!?」

 

 

 だがその瞬間彼女の視界は完全に暗転し、驚くうちに身動きも取れなくなり、訳も解らぬままに薄暗い布団部屋の内部へと引き摺り込まれていた。

 

 

「な、何よ!?一体どうなってん──」

 

「つ~かま~えた~♪」

 

「ひぃ!」

 

 

 どうにか逃れようともがくカチューシャであったが、耳元で歌うようなラブのハスキーボイスが聴こえた途端、彼女は短い悲鳴を上げて金縛りにあったように硬直していた。

 

 

「ダメじゃないカチューシャ、小さい子が独り歩きして迷子になったらどうするの?」

 

 

 布団部屋を覗き込んだ所で頭から布団袋を被せられて捕獲されたカチューシャは、ラブとアンチョビに二人がかりで布団袋ごと縛り上げられると、その恰好のまま布団部屋の長押にミノムシのように吊るされてしまったのだった。

 

 

「おいラブ……何言っても無駄だ、カチューシャのヤツ白目剥いてやがるぞ」

 

「まぁ?どうしちゃったのかしら?」

 

 

 意図的にビビらせておいて白々しい事を言うラブであったが、アンチョビは次の獲物をどう捕まえるか算段を立て始めていた。

 

 

「さて、次はどんな手を使ったものかな……」

 

「あら?ノンナだったら簡単に捕まえられるわよ?」

 

「何だと?一体何をやるつもりだ?」

 

「何やるって目の前にエサがあるの忘れたの?」

 

「あぁ……」

 

 

 言われて初めて気が付いたような顔をしたアンチョビの目の前で、ラブはカチューシャを軽く揺さぶって目を覚まさせると、その耳元で芝居っ気たっぷりに危ない事を囁くのだった。

 

 

「ねぇ、カチューシャを美味しく頂くにはやっぱりヴァレーニエ(ジャム)をたっぷりかしら?それともズグションカ(コンデンスミルク)?」

 

「イ────ヤ────っ!」

 

 

 ラブが耳元で囁くとミノムシ状態のカチューシャは恐怖に駆られ、完全にパニックを起こし裏返った声で絶叫すると、その声を聞き付けたノンナが脱兎の如き勢いで秒で駆け付けたのだった。

 

 

「は、離しなさい!」

 

「ふふふ♪さすがノンナ期待を裏切らないわ」

 

 

 布団部屋に飛び込んだノンナはラブとアンチョビが足下に張った布団ロープに蹴っ躓くと、カチューシャと同じ要領であっさりと捕縛されていた。

 

 

「急げよラブ、いつ他の奴らが来てもおかしくないぞ……?」

 

「解ってる千代美…さて……ね、ノンナ……カチューシャと一緒にミノムシなって吊るされるのってとっても素敵だと思わない?」

 

「……!」

 

 

 ラブの悪魔の囁きを耳にしたノンナはハッとした顔をすると、無言で両の手首を合わせてラブに差し出し危なく光る瞳で縛ってくれと懇願していた。

 

 

「ノンナ!あんた馬鹿じゃないの!?最近マジでどうかしてるわ!」

 

「カチューシャ様…もっと罵って下さい……♡」

 

 

 同じ布団袋に押し込まれカチューシャと一緒に吊るされたノンナは、至福の表情でうわ言のように頭の痛くなるような事を呟き、絶望的な顔をしたカチューシャは目の前が真っ暗になったのだった。

 カチューシャ愛を色々拗らせたノンナの扱いは、同じくカチューシャ愛を拗らせているラブからすれば実にチョロいものであった。

 

 

 

 

 

「いたぞ…ありゃあケイのヤツだな……」

 

「ケイも単純だから簡単に釣れるわね……」

 

「まぁ何となく想像は付くが……それじゃ任せていいんだな?私はトラップ仕掛けとくからな」

 

「おっけ~♪」

 

 

 階段の踊り場から下の階の様子を窺っていたラブとアンチョビは、手摺りの隙間からケイがキョロキョロしながら通り過ぎる姿を見付け、即座に捕獲プランを立案し実行に移っていた。

 

 

「この日本語英語の貧乳女──────っ!」

 

「何ですって──────っ!?」

 

 

 頭上から響く彼女にとって最も屈辱的なラブの挑発のセリフに、瞬間湯沸し器並みの速さで沸騰したケイは三段飛ばしで一気に階段を駆け上がって行ったが、ノンナと同様布団ロープトラップに引っ掛かり転げた隙にまんまと縛り上げられそのまま踊り場に吊るされたのだった。

 

 

「Jesus!油断したわ!」

 

「ホラ出た~♪何が油断よ──」

 

「マズい!誰か来た、移動するぞ!」

 

「え?もう!?」

 

 

 布団ロープと布団袋を武器にケダモノ達の捕獲作戦を開始したラブとアンチョビは、カチューシャとノンナを吊るした後、今度はケイをラブの容赦ない罵倒で見事に一本釣りした上に縛り上げる事に成功したが、次なるターゲットが早々に姿を現した為に慌ててその身を隠していた。

 

 

「今度はアッサムか…アイツはダージリンより慎重だから遥かに手強いぞ……」

 

「そうね…フラッグの砲手務めるだけあって勘の良さと集中力の高さは無視出来ないわね……」

 

 

 下手なトラップは通用しないだろうと暫し思案する二人だったが、不意に何やら思い付いたらしいアンチョビはニヤ~っと何とも人の悪い笑みを浮かべていた。

 

 

「おいラブ、お前ローズヒップのヤツと仲が良かったよな?」

 

「え?えぇ、そうよロージーと私はマブダチよ♪」

 

「それでそのローズヒップを溺愛してるヤツは誰だ?」

 

「あ……」

 

 

 人の悪い笑みを浮かべたまま辺りを憚るようにアンチョビが作戦をラブに耳打ちすると、話を聞くうちにラブの顔にもアンチョビと同種の笑みが浮かんでいたのだった。

 

 

「成程、それは効果覿面よ♪その手で行きましょ」

 

 

 ニヤニヤ笑いが止まらないラブは奇跡的に脱衣所で回収していたポーチから携帯を取り出すと、カメラを起動しアンチョビと共にアッサムの後を追った。

 

 

 

 

 

「誰!?ラブ!」

 

 

 背後に人の気配を感じアッサムが振り向けば、信じ難い事にそこには不敵に笑いながら携帯を構えたラブが仁王立ちしていた。

 

 

「も~らいっ♪」

 

 

 彼女が振り向くのを待っていたラブはその瞬間を逃す事なく、構えた携帯のカメラで牛柄ツナギ姿のアッサムを連写で撮りまくった。

 

 

「い、一体何を……!?」

 

 

 咄嗟に身構えたアッサムであったが、予想外の出来事に困惑した彼女はそのまま硬直する。

 

 

「よし!良い顔撮れたわ~!さ~て、それじゃこの撮れ立てホヤホヤの最新画像を、マブダチのロージーに送ってあげるとしましょうかね~♪」

 

 

 わざとらしい棒演技でラブが携帯でメールを送る素振りを見せると、それまで事態が呑み込めず固まっていたアッサムも我に返り、大慌てで血相を変えてラブに縋り付こうとしたのだった。

 

 

「何よ急に~?」

 

 

 だがそれをヒラリと躱したラブがニヤニヤ笑いでぼけて見せると、ガックリと膝を突いたアッサムは祈りを捧げるように両手を組み合わせ強張った顔で懇願を始めていた。

 

 

「ま、待って頂戴!私にも立場というものがるの…解るでしょ?お願いだからそれだけは……!」

 

「へぇ?立場ねぇ……?」

 

 

 日頃のアッサムからは想像も付かぬ狼狽ぶりにラブも多少驚いたが、彼女はニヤニヤ笑いのポーカーフェイスでそれを誤魔化して小芝居を続ける。

 

 

「ま、いいけどそれならアッサムも解るわよね……?」

 

 

 膝を突くアッサムを見下ろしながらラブが一つ指を鳴らせば、それまで隠れてタイミングを待っていたアンチョビが姿を現して手にした布団ロープをビシッと鳴らして見せた。

 

 

「…はい……」

 

 

 その二人の連携プレイの前に観念したアッサムは、力なく項垂れたまま合わせた両手を前に差し出したのだった。

 

 

 

 

 

「後四人か……」

 

 

 アッサムを手近な空き部屋の長押に吊るした二人は、残る獲物を如何にして仕留めるかを額を突き合わせるようにして真剣に論じ合っていた。

 

 

「一番厄介なのは……」

 

「ええ…ナオミで間違いないわね……」

 

「あの脳筋め……」

 

「おっぱいの付いたイケメンね……」

 

 

 酷い言いようだが、実際力技に出られたら苦戦必至なナオミをどうやって捕獲するかで二人は頭を悩ませていた。

 

 

「う~む…西住やダージリンならいくらでも思い付くしやりようもあるんだがなぁ……後──」

 

「あ、あのチンチクリンは一番簡単だから考えるまでもないわ」

 

「…まぁそれは後で考えるとしてやっぱり問題はナオミだよ……」

 

 

 アンチョビが何かを言い掛けた処でそれを遮ったラブだったが、アンチョビも少し困った顔をしながらも話を元に戻すのだった。

 

 

「ん~、あんま私もやりたくないけど、ここはひと肌脱ぐしかないか……」

 

「おいおい…お前まさか……幾らなんでもそれはちょっとリスキー過ぎやしないか?」

 

「けどそれ位やらないとナオミは捕まえられないと私は思うんだけど……?それとも千代美は他に何かいい手があるのかしら?」

 

「う゛~ん゛……」

 

 

 難しい顔で唸るアンチョビだったが既に腹を括ったラブは早々に立ち上がると、柱の陰から廊下の様子を窺い索敵を開始していた。

 

 

「おいラブ、本気なのか……?」

 

「ええ本気よ……放送コードギリギリの色仕掛けでナオミを仕留めるわ!」

 

「そうか…解った……」

 

 

 対ナオミ対策の作戦が決定すると、二人は足音を忍ばせ再び行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

「あの二人一体何処まで逃げやがった…?あのカッコじゃ外には逃げてないはずだが……」

 

 

 狩る側から狩られる側に立場が逆転している事をまだ知らないナオミは、寮の玄関に全員分の靴が揃っている事を確認すると今度は食堂の様子を扉の影から窺っていた。

 だがそんな彼女も食堂の先にある階段下の角から、ラブとアンチョビに顔半分覗かせてジッと観察されているなど予想もしなかったようだ。

 

 

「いたな……」

 

「ええ、いたわね…それじゃやるわよ……」

 

「ホントにいいんだな……?」

 

「もう今更アレコレ論じる時間はないわよ?さぁ千代美、サッサとブラの紐を解いて頂戴」

 

「わ、解った……」

 

 

 言うだけ言うとラブはアンチョビに背を向け、アンチョビはゴクリと生唾を飲み込むと震える指でラブの特盛サイズのたわわをギリギリ押え込む牛柄ビキニの背中の紐を解きにかかった。

 するりと結ばれたブラの紐が解けると抑圧されていたラブのたわわは解放され、ボヨンと効果音でも聴こえて来そうな勢いで激しく揺れたのだった。

 

 

「お、オマエ……」

 

「そういうのいいから早く準備して!」

 

「お、おう……!」

 

 

 紐が解けその勢いで弾き飛ばされそうになった牛柄ビキニを抱き留めるように抑えたラブは、やはり恥ずかしいのか若干頬を朱に染めながらも、何かを言い掛けたアンチョビを征するように少し強い口調で作戦開始を促していた。

 

 

「それじゃ行くわよ……きゃあ!」

 

 

 頭上の柱の梁に布団袋を抱えてよじ登ったアンチョビの姿を確認したラブは、彼女とアイコンタクトをした後に自分に言い聞かせるように小さく呟き、わざと大きく音を響かせ階段で駆け足のように足踏みをするとそのままジャンプして数段下の廊下に倒れ込んでいた。

 

 

「な、何だ!?ラブ…まさか階段から落ちたのか……!?」

 

 

 食堂の中の様子を窺っていたナオミが突如聴こえた悲鳴と激しい足音に驚き振り向けば、少し先の階段の下辺りにラブが倒れ込んでいる姿があった。

 瞬間的にラブが階段を踏み外し転落したと判断したナオミは、慌てて彼女の下に駆け寄った。

 

 

「オイ大丈夫か!?おぉぉ…こ、これは……!」

 

 

 駆け寄ったナオミの足元に力なく倒れ込むラブは、牛柄ブラの紐が外れその自己主張の激しいたわわとその先っちょのピンク色の出っ張りを露にしており、その官能的な光景に目が釘付けになった彼女は状況を忘れ鼻息荒く生唾をゴックンしていた。

 一歩間違えればナオミに頂かれてしまう危険極まりないラブ捨て身の作戦は、結果オーライながらも見事に成功し、ナオミは頭上のアンチョビの存在には全く気付いていなかった。

 

 

「ら…ラブ……」

 

「獲ったぁ────っ!」

 

「おわっ!な、何事だぁ!?」

 

 

 口の端から零れかけた涎を拭いながら、すっかり油断し切ったナオミが恐る恐るラブに手を伸ばし掛けたその時、このタイミングを逃すまじと飛び降りたアンチョビは見事ナオミを頭から布団袋に捕らえる事に成功していた。

 

 

「ジタバタするなこのオヤジ女め!」

 

「そ、その声はアンチョビか!?」

 

「暴れるなこのヤロウ!ってラブ!お前も手伝え!」

 

「わ、解った!」

 

 

 頭から被せられた布団袋の中で逃れようと大暴れするナオミに手を焼いたアンチョビは、必死の形相で彼女を押さえながらラブに援護するよう叫んでいた。

 

 

「クソぉ!騙しやがったな!」

 

「それはお互い様だこのボケぇ!ラブそこの布団ロープ取ってくれ!もう面倒だからコイツはこのまま縛り上げて吊るすぞ!」

 

「こ、これね!?」

 

 

 ラブは階段の影に隠してあった布団ロープを手に取ると、アンチョビの下へと駆け寄りナオミをグルグルに縛り上げるのに手を貸した。

 この時彼女はナオミを釣る為にトップレス状態のままであったが、暴れるナオミを縛り上げるのに必死で恥ずかしいとか考える余裕はなかった。

 

 

「ハァハァ…手間掛けやがって……」

 

「…なんかエビフライみたいね……」

 

 

 暴れ過ぎて頭から布団袋を被せられたまま縛られて吊るされたナオミは、袋から足首だけが露出していたのでラブが言うように確かにエビフライのような状態であった。

 

 

「確かに…って、う゛!その、ラブ……そろそろお前の何だ…そろそろ出しっ放しの胸のソレも縛らせてくれんか……?」

 

 

 ドタバタやっている間はそれ処ではなかったが、少し落ち着いたアンチョビはそこで漸くラブがトップレスのままである事に気付くと、真っ赤な顔で床に落ちていた牛柄ブラを拾い上げて視線を逸らしたままラブの方へと差し出したのだった。

 

 

「…千代美のえっち……」

 

 

 アンチョビの指摘にハッとしたラブは慌てて背を向けると、彼女と同じように真っ赤な顔で胸を抱き締め隠そうとしたがそのサイズ故に全く隠せていなかった。

 

 

「こ、これで残るは後三人…遭遇する順番にも左右されるけれど、出来る事ならダージリンは一番最後に仕留めたいわね……」

 

『うぅ…鼻の奥がツ~ンとするぞぉ……』

 

 

 恥ずかしさのあまり既に全身真っ赤になっているラブは、それでも残る三人を仕留める順番を思案していたが、彼女の牛柄ビキニのブラの紐を結んでいるアンチョビはそれ処ではなかった。

 

 

「千代美……?」

 

「あ、イヤ!だな…どう考えても今回の……いや、今回も騒動の首謀者はアイツだろうからな」

 

 

 身長差があるのでラブを椅子に座らせブラの紐を結んでいたアンチョビは、色っぽ過ぎるうなじと肩越しに見えるたわわが形成するグランドキャニオンにドキドキが止まらずにいた。

 

 

「ええ、ちょっとダージリンにはキツイお仕置きが必要だと私は思うんだけどどうかしら?」

 

「ああそうだな、アイツにゃ昔から散々迷惑かけられてるし、ここらで一発〆てやるとしよう…となると次の相手は西()()()()のどっちかだが、にしず……まほの方は私に任せて貰おう」

 

「わ、解ったわ……」

 

 

 肩越しに振り向いてアンチョビと話していたラブは、まほの話になった途端彼女の目尻と口角がキリリと吊り上がり、怒れるドゥーチェアンチョビの顔になったのを見て思わずゴクリと息を呑んだのだった。

 

 

 

 

 

「何かがおかしいですわ…時々叫び声が聴こえるだけで誰も姿見えませんし……」

 

『このヤロウ、サッサとどっかに行きやがれ!お前は後回しだ!』

 

 

 まほとみほを見付ける前にダージリンを発見したアンチョビは、咄嗟に空いていた部屋にラブを引き入れると、彼女が通り過ぎるのを胸の内でそんな事を毒づきながらも待っていた。

 

 

『なんか後ろからさ、わっ!って脅かしたくならない?』

 

『静かにしろ、計画が台無しになるぞ……』

 

『…はい……』

 

 

 お化け屋敷にでも入ったように胸の前で手を組み及び腰で歩くダージリンを見ていると、そんなイタズラを仕掛けたくなるラブの気持ちは解らないでもないアンチョビであった。

 だが一番最後に酷い目に遭わすと決めた以上、今は堪えろと小声ながらも強めの口調でアンチョビが諭すと、ラブは慌てて両手で口元を押さえ目の前を通過するダージリンを見送っていた。

 

 

「行ったな……だが念の為もう少し様子を見てから索敵を再開しよう」

 

 

 アンチョビがダージリンの姿が見えなくなったのをそっと確認した後、それでも一応用心してそんな事を言うと、ラブは相変らず口元を押さえたままコクコクと頷いていた。

 

 

「…いや、それもういいから……」

 

「あ……」

 

 

 こういうちょっとした失敗をした時にラブが見せる恥ずかしそうな顔は可愛らしく、アンチョビはそんな彼女の態度と表情にドキドキが止まらなかった。

 

 

「よ、よしもういいだろう…索敵を再開しよう……まほに関しちゃ一撃で黙らせる自信があるから、みほの方は任せていいんだな?」

 

「うん大丈夫、みほは私の子分も同然だから訳ないわよ…あ、言ってる傍からカモが来たわ……」

 

 

 二人が行動を開始して早々、ラブが言う処のカモ(みほ)が落ち着かない様子で空き部屋の一室から顔を出し、キョロキョロと廊下の様子を窺っているのをラブが発見していた。

 

 

「なんだあのへっぴり腰は……」

 

 

 どうやらみほもある程度異変が起きている事は気付いているらしく、空き部屋から出て来た姿は駆け出しの空き巣狙いのようでどうにも落ち着きがなかった。

 

 

「全く情けないわね……けどみほも空き部屋全部調べて回ってるようだから、次の部屋に入ったら一気に距離を詰めて仕留めるわよ」

 

「了解だ」

 

「よし入った!今よ!」

 

 

 入り口から空き部屋の様子を窺っていたみほの姿が部屋の中に消えた直後、ラブは間髪入れずに突撃のサインを出し二人は電撃戦のお手本のような動きで室内に突撃すると、みほに悲鳴を上げる暇も与えずあっという間に彼女を縛り上げ吊るしていた。

 

 

「お前またなんちゅ~縛り方してんだ……」

 

「…うっさいわね……」

 

 

 縛り上げられ『ふえぇ』と力なく悲鳴を上げるみほの姿にアンチョビが呆れている。

 それもそのはず。ラブはみほを捕まえるなり、お嬢様にあるまじき逆海老に縛った上で吊るしていたので、アンチョビが呆れるのも無理はなかった。

 

 

「いっつも私の後を付いて回ってたミソッカスのクセに調子に乗るからこういう目に遭うのよ…ったくこの私によくもこんな恥ずかしいモノ着せてくれたわね?この事はエリカさんに後できっちりチクってやるから覚悟しときなさい……」

 

 

 エリカの忠告も聞かずあっさりダージリンの口車に乗ってしまったみほは、この時になってやっとその事を後悔していたが全ては完全に後の祭りであった。

 

 

「行こう千代美、まほの事任せたわよ……」

 

「お、おう任せろ……」

 

 

 エリカにチクるの一言に撃破されガックリと項垂れるみほを残し、残る二人を仕留めるべくラブとアンチョビは足早に立ち去って行ったが、さすがに疲れて来たらしくその息は上がり始めていた。

 

 

 

 

 

「おかしい…誰の姿も見えなくなって来たぞ……」

 

 

 寮の中で最も広く座学や宴会などにも使われる座敷の真ん中で、まほは室内をぐるりと見回しながら腕を組み考え込んでいた。

 どんな時でも堂々と振舞うのが習慣になっているまほであったが、この時ばかりはそれが仇となり見付けて下さいと言っているのも同然な状態であった。

 現に彼女は既にラブとアンチョビに発見され先程から監視下にあったが、煩悩に突き動かされている彼女がその事に気付く様子は欠片も見られなかった。

 

 

『戦車に乗ってる訳じゃないのに無防備な…こういう時まほってちょっと足りないんじゃないかって思うのは私だけかしら……?』

 

『……』

 

 

 そんなまほと付き合っているアンチョビとしては答え難いラブの呟きであったが、それをきっぱりと否定する事も出来ず、アンチョビは苦々し気な表情で座敷の真ん中に突っ立っている自分のパートナーの背中を見ていた。

 

 

『で、千代美…あの脳味噌重戦車を一体どうやって仕留める気なの……?』

 

『…まぁ見てろ……取り敢えず布団ロープだけ用意して待機しててくれ……』

 

『解ったわ……』

 

 

 それだけ言うとスッと立ち上がったアンチョビをラブは期待の籠った目で見つめ、見送られるアンチョビは若干のやり難さを感じながら座敷へと足を踏み入れて行った。

 

 

「オイ西住……」

 

「え?あ、安斎……!?」

 

 

 背後から完全な不意打ちで声を掛けられたまほはビクッとその身を震わせ振り向くと、牛柄ビキニで両の腰に拳を当て自分を睨むアンチョビの姿を凝視していた。

 

 

「お前よくもやってくれたな…私をこんな目に遭わせてどういうつもりだ……?」

 

「そ、それはダージリンのヤツが──」

 

「黙れ……」

 

「え……?」

 

「黙れと言っているんだ…そしてそこに直れ……」

 

「は、はい!」

 

 

 地の底から響くようなアンチョビの声に、彼女を完全に怒らせてしまった事に漸く気付いたまほはその場で飛び上がるとジャンピング土下座で畳の上にひれ伏していた。

 

 

「ダージリンにまんまと乗せられやがってこのバカタレが…いいか西住、当分の間おあずけだ……少なくとも卒業するまでは絶対にな……」

 

「そ、そんなぁ!」

 

 

 おあずけの意味を瞬時に察したまほは悲鳴に近い叫びを上げたが、アンチョビはその声が聴こえないかのように待機しているラブを座敷に招き入れていた。

 

 

「ラブ!布団ロープを持てぃ!」

 

Si Duce!(了解ドゥーチェ!)

 

 

 言葉だけでまほを平伏させたアンチョビの手腕に目を丸くしていたラブは、その名を呼ばれるなりノリノリでロープの束を抱え座敷に飛び込んで来た。

 

 

「千代美…アンタこそこんな縛り方何処で覚えて来たのよ……?てかよく私の事言えたもんね……もしかしていつも二人でこんな事やってるんじゃないでしょうね……?」

 

「やかましい……」

 

 

 まほを後ろ手でガッチリ縛ったアンチョビは更に右足の腿の部分だけを縛り上げると、片足立ちの不安定な状態でショックを受け放心する彼女を座敷の鴨居から吊るしていたのだ。

 

 

「まぁいい…これで残るはダージリン只一人、さっさと吊るして決着を付けるぞ……」

 

「そうね、全ての元凶を破滅させて終わりにしましょう……」

 

 

 握り締めた右の拳を左の掌にラブが撃ち付けると、それを合図にアンチョビが一歩踏み出す。

 そして座敷には不安定な片足立ちで吊るされて、ユラユラ揺れるまほだけが残されたのであった。

 

 

 

 

 

「お、お願いだから許して…ね……?許してくれたら何でも言う事を──」

 

「聴こえん……なんも聴こえん!」

 

「へ……?」

 

「確かになんも聴こえんな……」

 

「ちょ、ちょっと二人共……」

 

 

 まほを仕留めた勢いそのままにダージリンを探し出しアッサリとっ捕まえたラブとアンチョビは、嫌がる彼女を無理矢理引き摺ってスタート地点である温泉の脱衣所に来ていた。

 

 

「ねぇ千代美、私達なんでこんな馬鹿げた格好してるのかしら……?」

 

「ウム、良い質問だ…それはな……そこに転がってる()がケダモノ共を焚き付けて馬鹿をやってくれた結果な訳だ……」

 

「成程…そこに転がってる()のせいで私達まで牛柄な訳ね……」

 

『マズい…非常にマズいですわ……ここは何としても──』

 

「言っとくけどこの期に及んで言い逃れる事なんて出来ないわよダージリン……?」

 

「ヒィっ!」

 

 

 短い悲鳴を上げてその場から逃げ出そうとしたダージリンだったが、凍り付いたようなラブのエメラルドの瞳に射竦められ完全に腰が抜けた彼女は、ただ床でのたうつ事しか出来なくなっていた。

 

 

「さぁ覚悟はいいなダージリン……?」

 

「あ…オワタ……」

 

 

 直ぐ目の前に屈み込んだアンチョビが手にした布団ロープを引っ張りビシッと乾いた音を響かせると、完全に詰んだ事を悟ったダージリンは弱々しく呟き白目を剥いたのだった。

 

 

「何勝手にお花畑に逝ってるのよ……?」

 

 

 だがそんな彼女の現実逃避を許さないラブは、これまで自分が散々やられたようにダージリンの敏感な先っちょを摘まむと、キュっと抓って彼女の意識を無理矢理現実に引き戻していた。

 

 

「ひゃん!ЯΦ★βξ@Ω……!」

 

「増々何言ってるか解らないわね…ふん、でもまあいいわ……私は慈悲深いからネチネチやる気はないの…けどこのまま解放する程甘くもないから覚悟なさい……」

 

 

 錯乱して意味不明な悲鳴を上げるダージリンに冷たく言い放ったラブは、アンチョビから布団ロープを受け取ると手際よくすっかり抵抗しなくなったダージリンを縛り上げた。

 

 

「おい…お前こそまさか愛と普段こんな事やってるんじゃないだろうな……?」

 

「…そんな訳ないでしょ……」

 

「今の間は何だ……?」

 

「……」

 

 

 脱衣所の天井の梁から吊るされて、虚ろな表情で力なく項垂れユラユラと揺れるダージリン。

 ラブはやたらと手際よくダージリンを縛り上げていたが、亀の甲羅状に縄が打たれたその縛り方は所謂亀●縛り、それまで以上にお嬢様にあるまじき縛り方でありアンチョビが呆れるのも当然といえば当然の事であった。

 

 

「…それはともかくここからが本番よ……」

 

「本番?まだ何かやる事があるのか……?」

 

 

 訝しむアンチョビに底意地の悪い笑みを浮かべたラブは、脱衣所を脱出する際にどうにか回収していたポーチから携帯を取り出すと、吊るされたダージリンの周りをグルグル回りながら何枚も写メを撮り始めた。

 

 

「これとこれ…これなんかもいいわね……それじゃこれを纏めて絹代さんにメールで──」

 

「イヤ────────────────っ!」

 

「うわっ!?」

 

 

 亀●縛りで吊るされたダージリンの姿を写メしたラブは、その中からハッキリとダージリンと判る画像をピックアップすると、メールで知波単の隊長にしてダージリンの交際相手である西絹代の携帯に送ろうとしていた。

 だが絹代の名を聞いた途端クワっと目を見開いたダージリンは、錯乱したように絶叫し吊るされたまま暴れ出しアンチョビを驚かせたのであった。

 

 

「イヤ───っ!お願いだからそれだけは止めてぇ───っ!後生だからこれ以上絹代さんに変な属性を与えないで頂戴!」

 

 

 騎乗するチハは非力だが乗ってる絹代本人は一部で夜の重戦車と仇名され、肌を合わせる度にダージリンは連戦連敗で殲滅されているというのが専らの噂であった。

 ただでさえ昼夜は立場が逆転するのにこれ以上は我が身が持たぬと焦ったダージリンは、何とか画像が絹代に送られるのを阻止しようと必死だった。

 だが縛られ吊るされた状態で藻掻き揺れるその姿は風に翻弄されるミノムシか何かにしか見えず、あまりに無様なその光景にさすがのラブも呆けた顔をしていた。

 

 

「止めてヤメテやめて────────っ!」

 

「きゃっ!」

 

 

 狂ったようにダージリンが藻掻き暴れる度、吊るされた彼女はダウジングのペンデュラムのようにグルグルと回り始め、その振り幅は徐々に大きくなり始めていた。

 そして不幸にもその珍妙な光景をぼんやり眺めていたラブに、旋回して来たダージリンが軽く接触してしまい、その反動でラブはメールの送信ボタンにタッチしてしまったのだった。

 

 

「あ…ホントに送信しちゃったわ……けど、まぁいいか~」

 

「%Ё㎡℃▽Ж!」

 

 

 床に尻餅を突いたラブが携帯に目を落としあっけらかんとそう言った途端、再び意味不明な悲鳴を上げたダージリンは、今度こそ完全に白目を剥き完全に失神していた。

 

 

「大丈夫かラブ……?」

 

「え?えぇ大丈夫よ……」

 

「おっと!」

 

「ち、千代美!?」

 

 

 尻餅を突いたラブを助け起こそうと手を差し伸べたアンチョビであったが、ラブを立たせようとした彼女は逆にラブの上に倒れ込んでしまったのだった。

 ここまで二人で協力してケダモノ達を捕獲しては吊し上げて来たが、二人共とっくに体力を使い果たし限界を超えていたのだ。

 

 

「ラブ……」

 

「千代美……」

 

『つ…疲れた……』

 

 

 どうにか身を起こそうとしたラブとアンチョビであったが、最早それすら出来ない程体力を使い果たしており、二人はその場に倒れ込んだまま力尽きたのだった。

 

 

 

 

 

「このバカ…だからあれ程言ったのに……」

 

 

 新年会の為に毎度お馴染み黒森峰の麦ジュースを持ち出そうとしていたまほであったが、戦車道以外はてんでポンコツなまほが間違えて大人の麦ジュースを持ち出すのではと危惧したエリカは、彼女に変わり新年会の会場となるコンベンションセンターに麦ジュースを運び込んでいた。

 だが会場に彼女達の姿がない事を不審に思ったエリカは、時折意味不明な悲鳴の聴こえる寮へと足を踏み入れ、そこであちこちに吊るされるケダモノ達の姿を発見したのであった。

 そしてその中に今日は参加していないはずのみほの姿を発見し、深い溜息を吐くと共に彼女の事を虫けらでも見るような目で見ていたのだ。

 

 

「…どうせダージリン先輩の口車に乗ってノコノコやって来たって辺りが事の真相でしょ……」

 

 

 何とか脱出しようと無駄に足掻いて力尽きたみほのデコの辺りを、バカにしたような表情で突いて揺らしたエリカは、つまらなそうに呟くと懐から携帯を取り出しカメラを起動させた。

 

 

「ま、取り敢えず写メでも撮っとくか…後で何かと使い道はありそうだし……」

 

 

 口角を吊り上げ不敵に笑うエリカは情けなく吊るされた自らのパートナーに携帯を向けると、容赦の欠片もなくシャッターボタンを連打し続けていた。

 

 

 

 

 

「ねぇしぽり~ん、何やら外が騒がしくない……?」

 

「道場の方でまほ達が新宴会をやっているからぁ、羽目を外し過ぎているんでしょう……それよりちよきちぃ、亜梨亜様の杯が空いているからお酌して差し上げてぇ~」

 

 

 ラブ達が西住流道場の寮で馬鹿げたドタバタを演じていたその頃、西住家の本宅のいつもの座敷では当主であるしほと島田流家元の千代が、恐れ敬い慕う亜梨亜と共に新年会を催していた。

 彼女達の前には地元を代表する日本酒や焼酎が並べられ、二人に勧められるままに亜梨亜も上機嫌で杯を煽り続けていたのだった。

 三人共酒豪と呼べるレベルに酒には強いようであったが、やはり亜梨亜の強さは群を抜いているらしく、彼女に比べるとしほと千代は相当酔いが回り大分呂律が怪しかった。

 

 

「あらありがとう、でも今日はそんな気遣いは無用だから二人も気楽にね」

 

 

 だがお酌を受ける亜梨亜も随分とご機嫌な様子でほんのりと頬を桜色に染めており、その美しさにしほと千代も時折目配せを交わしながら見惚れていた。

 

 

『そろそろ頃合いかしら……?』

 

『そうね…あれだけ飲まれればさすがに……』

 

「どうしたの二人共……?」

 

 

 程良く燗された焼酎を飲み干した亜梨亜が何やらヒソヒソするしほと千代に声を掛けると、再び目配せを交わした二人は意を決したように姿勢を正し、恭しく頭を下げながら亜梨亜に何やら仰々しくラッピングされた箱を差し出すのだった。

 

 

『亜梨亜様…どうかこれを……』

 

「これを私に?」

 

『はい……』

 

「何かしら……?」

 

 

 思いもよらぬプレゼントに不思議そうな顔をした亜梨亜は丁寧にラッピングを解き、箱の蓋を開き中を改めると、困ったような表情を浮かべ頭を下げる二人に問うような視線を向けていた。

 

 

「二人共──」

 

「亜梨亜様!」

 

「お願いでございます!」

 

 

 平伏したまま頭を上げぬ二人に困惑した亜梨亜が声を掛けようとすると、更に平たくなり畳に額を擦り付けながらしほと千代が畳み込むように連係プレーで懇願し始めた。

 

 

「これを是非!」

 

「身に着けて頂けないでしょうか!?」

 

 

 ここでガバッと顔上げた二人がビビりながらも縋るような目で亜梨亜の顔をジッと見つめると、困り顔の亜梨亜は箱の中身と彼女達を交互に見比べそっと溜息を吐いたのだった。

 

 

「しほちゃん…それに千代ちゃん……()()……?」

 

 

 しほと千代の二人が差し出した箱の中に収められていたのは、ラブとアンチョビが無理矢理着せられたのとほぼ同じ牛柄のビキニと、ロングスリーブ手袋にオーバーニーソックスとカウベル付きの首輪のセットであった。

 しかし『また?』と困ったように呟いた亜梨亜の声にしほと千代はその身をビクリと震わせたが、困ったような表情を浮かべながらも彼女の目は怒ったりはしておらず、逆に何処か楽し気な色が浮かんでいる事に二人はまだ気付いてはいなかった。

 

 

「困った子達だ事……」

 

 

 色っぽく頬を上気させ酔いでとろんとした瞳で二人を睥睨する亜梨亜は、何処か歌うような節回しの付いた声で呟きを洩らしていた。

 

 

 




牛柄ビキニネタは連載開始して間もなく思い付いていたのですが、
もし続けられていたら丑年にやろうと温存していたネタになりますw
なので熟成させた分、短編のわりに結構な長さの話になってしまいましたww

改めて本年も恋愛戦車道を宜しくお願い致します。
まだまだいくつもの波乱がありますので、
その辺を如何にラブ達が乗り切るかをお楽しみ頂けたら幸いです。

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