時を越え君に会いに行く   作:Nattsu_ひよこ豆

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大珍事クリスマス

 

 ホグワーツでのクリスマスは人生で一番幸福だった。プレゼントを貰えたし、朝から豪華な食事を食べられる。

 それに今年も二人で一緒にいられたのだから何も言うことはない。

 外は一面雪景色だった。校内に残った何人かの生徒は元気に雪合戦をしている。それを窓越しに見ていた。

 

「どうする? 私たちも行こうか」

「勘弁してくれ。明日起きられなくなる」

「雪だるま作るのは?」

「一人で行ってこい。僕は課題をする」

「しょうがない。ねぇ、今日はドラゴンのレポートにしない?」

「なんだって良い」

 

 結局、二人はその輪に混ざることはなかった。内向的に結束が固いスリザリン生をよく表している。

 二人は寒々しい地下の廊下を歩いてスリザリン寮に戻る。

 スリザリン寮の談話室は緑と銀で統一され、緑色のランプで照らされている。おそらく創立当初より変わることがない景色なのだろう。

 

「冷たい緑じゃなくてよかった。冬に見ると温かみを感じる。不思議ね」

「……黒い湖が凍っているな。いつもより暗い」

 

 窓の外はいつもより流れが穏やかに感じられた。冬になるにつれて魚は姿を見せなくなった。時たま現れた大イカの吸盤も、水中人だって今じゃめっきりだ。

 

「寂しいね」

 

 課題の準備をしながらライラは言う。残念ながらトムには理解できなかったようだが。

 

「冬だからこその美しい景色もある」

「確かに。でも、ほんとにそう思ってる?」

「今はドラゴンのことしか考えられない」

「あはは、やっぱり!」

 

 トムらしい。いつだって彼は模範解答を苦もなく答えてみせるのだ。世渡りが上手だなといつも感心している。

 心が無いと言う人もいるが、ライラはそれを気にしなかった。全て模範解答な訳じゃない。彼の本音もちゃんとあるのだ。

 

「範囲が広いわ。ドラゴンに関してならなんでも良い……。トムは何にする?」

「ドラゴンの血の活用法」

「んー……私は……そうね。神話と魔法生物の比較でもしようかしら」

「面倒くさそうだな」

「共同研究にしない?」

「暇になったら手伝ってやる」

 

 図書館で本を借り、片手間に昼食を食べるなどをしていると、あっという間にディナーの時間になった。

 ずっと窓の外は暗い水で満たされているため、時間が計りにくい。

 

「ライラ、時間だ。一旦大広間に行こう」

「……え? 嘘! 半分も終わらなかった……」

 

 慌てて身なりを整え、暗くなった校内を歩く。二人だけで歩くのは少し怖かった。神秘的な遺跡に入り込んだようだ。

 ただ所々クリスマスらしい飾りも見られる。それを見るたびにホッとした。

 大広間の扉につけば、中は少し騒がしい。

 

「……遅れちゃった」

「やっぱり地下階は不利だ」

「今度から時計をちゃんと見るようにするよ」

 

 一息に、二人で扉を開く。

 暗い校内からは想像ができないほどの、煌びやかなクリスマスツリーが正面に見えた。細かな雪が天井から降ってきている。

 大広間の机は普段と違い、たった一つになっていた。教師も他寮生もまとめて同じテーブルに着くのだ。

 ご馳走はまだ来ていない。人数が少なすぎて自分たちが最後なのかもわからなかった。

 

「好きなところにお座りなさい」

 

 ガラテア・メリィソート教授がそう言った。

 生徒の中に顔見知りはいない。グリフィンドール生の中には顔を顰める人もいた。

 

「あの……お待たせしてすみません」

「あなた達が最後ではありません。ハーバートがまだですから、気にすることはありませんよ」

 

 ハーバート・ビーリー教授は薬草学を担当している教授だ。アマチュアの舞台の演出家でもあるらしい。確かに、教師陣の中にあの舞台映えする顔はなかった。

 適当に________グリフィンドール生からは離れたところに二人は座る。

 二人がひと心地ついた頃、盛大な音を立ててハーバート教授がやってきた。

 

「失礼! 準備に戸惑いまして……」

 

 準備とは? その場の誰もが疑問に思ったが、誰もが分からなかった。

 

「お待たせいたしました。さ、校長、音頭を」

 

 冬だというのにハーバードは汗をかいたような様子だ。

 

「うむ……メリークリスマス」

「メリークリスマス」

 

 皆でゴブレットを掲げた。

 静かなクリスマスディナーだ。教師陣との会話もなく、グリフィンドール生との会話なんてもってのほか。

 皆仲の良い人とヒソヒソと会話をする。

 

「わ……クリスマスプティングだよ……。豪華!」

「僕の分も取ってきてくれ」

「やだよ。あ、そこのターキーとって」

「厚かましいな!」

 

 なんだかんだトムがローストターキーを取ってくれたのでライラもクリスマスプティングを取り分けた。

 

「ありがとう。あー……美味しー……」

 

 ライラがターキーを堪能した時だった。

 ジャン!

 たくさんの楽器が鳴った音がした。

 大広間の奥の方からだ。普段は教師陣が座り、今ではクリスマスツリーが立っている場所である。

 誰かと思えば、ハーバード・ビーリー教授だった。

 

「さぁ! 皆さんご注目! このハーバード・ビーリーが僭越ながら、クリスマス・ショーを開幕いたしますよ!」

 

 いつものように響く大声だ。大広間に反響しまくってライラは耳を塞いだ。そのせいで食事に集中できず不機嫌になる。

 

「演目は『豊かな幸運の湖』とくとご覧あれ!」

 

 その言葉と同時に、いく人かの生徒が舞台装置を持って駆けた。何回かリハーサルをしたのだろう。瞬く間に舞台は組み上がり、魔法によって飾り付けられる。

 オープニングの音楽がかき鳴らされ、大広間は市場のように賑やかになった。

 雪さえ溶かし尽くす勢いだ。

 ハーバードが言った『豊かな幸運の湖』とは魔法界ではお馴染みの『吟遊詩人ビードルの物語』に収録されている物語である。

 困惑したライラが耳を塞いでいるうちに劇は始まってしまった。

 ライラとトムは吟遊詩人ビードルのことなんて全く知らない。当たり前のように知らない単語や知らない人、知らない魔法が登場し、魔法界の共通認識が通じず一分半で見るのをやめた。

 食事をする方が大事に決まっている。だが周りの生徒や教師は余興を楽しむ余裕があるようだった。

 

「アッシュワインダーだ!!」

 

 次にライラとトムが食事を突くのをやめたのは誰かがそう叫んだ時だった。

 アッシュワインダーとは火を燃やし続けることができる真っ赤な目をした白蛇の魔法動物である。劇では旅路を阻むイモムシとして登場したようだ。

 トムとライラ含めた一年生は魔法動物に触れる機会が少なく、ただの白蛇にしか見えなかったが、その考えはすぐ改められた。

 そのアッシュワインダーには肥らせ呪文がかけられていたのだ。

 蛇はみるみる膨らんでいき、アッシュワインダーは大蛇と化す。こうなれば神話の化け物のようだった。恐怖のあまり、ライラだけでなく周りの生徒も席を立った。

 トムは蛇語を使おうか迷い躊躇したようだが__

 

「トム! 逃げよう! つぶされちゃうよ!」

「ああ__________」

 

 _____時間切れだった。

 逃げ出そうとした瞬間アッシュワインダーは哀れにも爆発してしまったのだ。火の粉と灰が大広間を満たし、アッシュワインダーは盛大に炎上している。

 古代ローマのポンペイを彷彿とさせる地獄絵図。

 舞台装置にも火が移ったようで大広間はパニックになっていた。

 もはや花火どころか噴火のような爆発が演出であるはずもなくハーバード・ビーリーはあたふたするのみで対処に移れていない。

 

「嘘!? ______うっ、熱い……!」

 

 ライラは驚き咄嗟に上を向く。その瞬間、頬に何か触れたと思ったら、一瞬でそれは熱くなった。駆け巡るような痛みにライラは頬を抑える。火の粉がかかってしまったのだ。

 

「ライラ! 下を向け! ローブを頭までかぶってっ_______腕が_______」

 

 二人は火傷を負いながら大広間を脱出した。他の生徒や教師も同様で、大広間には幾らかの教師が火消しにまだ残っているのみとなった。

 

「トム、火傷は? 冷やさなきゃ!」

「ライラ、顔に火傷してないだろうな?」

 

 お互いがお互いに火傷の確認をしようとする。二人も避難したとはいえパニックなのだ。

 ローブをめくり、袖をめくり、火傷をした部分を確認する。この時ばかりは冬であるのを忘れていた。

 結局、ライラは頬とふくらはぎに、トムはローブを脱いだ瞬間に腕に大きい火傷を負った。どれも深刻ではないので医務室に行けば綺麗さっぱり治る程度だ。

 

「くそっ、跡になったらどうしてくれようか……」

「今となってはイザベルはもっともなこと言ってたね……」

 

 ________「繊細さに欠けてる」脳内にイザベルの総評がリフレインするばかりだった。

 

 

 

 

 その夜の医務室は非常に混雑していた。マダム・ポンフリーも含め複数の教師が怪我をした生徒の治療にドタバタしている。

 トムとライラの怪我は軽い方で、もっとひどい怪我をしている生徒もいた。何故かあの騒動の最中、舞台の役を巡って決闘していた二人がその代表だ。腕にも足にも顔にも魔法の傷と火傷がある。

 この騒動の原因は、シルバヌス・ケトルバーンという魔法動物学の教師がアッシュワインダーを用意したこととなり、彼はのちに謹慎をくらう。

 

「はぁ……ロクな教師がいないな」

「そんなこと……言う気持ちもわかるけど」

 

 ライラの頬の火傷に薬が染み込んだ湿布を貼りながらトムは言った。

 二人でやってくれと教師に言われたのだ。手が足りないらしい。

 ライラもトムの腕に包帯を巻く。

 

「勝手に帰ろうか。どうせ先生達も気づかないだろうし」

「帰るか。早く寝たい」

 

 治療し終わった二人はさっさと医務室を抜け出し、スリザリン寮へと帰った。

 冬の空気は火傷にしみたが、騒がしい医務室にいるよりよっぽど良い。あんな騒動があった後じゃ二人だけの廊下は怖くなかった。

 

「はぁ……メリークリスマス!」

「いい皮肉だ」

 

 イザベルとアルファードにいの一番に話してやろう……そう思いながら二人はスリザリン寮へ入った。

 

 ちなみに、アーマンド・ディペット校長がこの日の騒動をきっかけにホグワーツでの演劇を全面禁止にするのはもう少し後の話である。

 

 

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