「隠していること……ねぇ」
ノエルは微笑み、考えている素振りを見せた。ライラはそれがただのポーズだということを分かっていたし、彼もそれを承知でしらを切る。
先手を打ったのはライラだった。
「いいんです。ノエル先輩は色んな秘密を抱えてそうですもの。ゆっくり思い出してくれれば、それで」
イザベルやトムを真似してみたが、合っているかは分からない。効果的なのかも分からない。ノエルは微笑みを絶やすことの方が少ない人物だ。表情から感情を読み取るのは困難だろう。
「随分直球に言うね。まったく。スリザリンらしくないなぁ。気になったから聞いている、今聞けると思ったから聞いている。絶対に情報を引き出すっていう意思がない」
威圧的に、煙に巻くようにノエルは言葉を返した。
スリザリン寮の扉の前。おそらく目眩し呪文がかけられている範囲には入り込んでいるが、寮から出てくる生徒から見られることは避けられないだろう。
今すぐにでも崩れそうな緊迫した空気と、崩れそうにないノエルのポーカーフェイス。
それでもライラは臆していなかった。人見知りで気弱な彼女からは考えられないが、とにかく、彼女は今とても穏やかにそこに立っていた。決心は揺らがなかった。
ノエルの言うことは合っている。ライラは今すぐにノエルから聞き出そうとは考えていなかった。
ただ、話したかっただけなのだ。彼が何を考えているのか知りたかっただけなのだ。
「ノエル先輩は結構、私たちのこと好きですよね」
「……急にどうしたのかな?」
「アストリー先輩が言ってました。私たちにテイルズを近づけたくなかったって。おそらくノエルもそう思ってのことだろうって」
「そんなの」
「えぇ。アストリー先輩の想像です。私も、それ以外に裏があるんじゃないかって思いました。でも、血みどろ男爵と話していたときのことを思い出したんです」
あれは昨年のハロウィンのことだった。血みどろ男爵に、協力の要請をノエルが行ったときだ。寮の入り口、今とは違ってその内側。薄暗い廊下で見たノエルの顔は、いつになく真剣だった。
「覚えていますか? 覚えていますよね……。私たちの望みを叶えたいって。もう、僕は卒業してしまうからって……。本心だったと、貴方は敵ではないと、私は信じています」
「……本当に不用心だね」
「スリザリンらしくないですか?」
「いや、同胞を大事にするのはとてもスリザリンらしいよ」
ノエルは力を抜いた。威圧的な空気はなくなる。
ライラはまるで、初めてノエルと向き合った気がした。
「そのまま、僕を信じてほしい。ライラ、僕も君を……君たちを信じるから。頼むよ。僕はスリザリンのためならなんでもするさ。好きなんだ。ここが。意外かな?」
「いいえ。……奇遇です。私と一緒ですね」
「それは良かった」
ノエルは覚悟を宿していた。胡散臭く微笑むのではなく、心からライラに懇願していた。
その表情は揺らぎそうになかったが、裏腹に何故か儚く感じられる。ライラは守られるだけの立場に、ローブを握りしめたが、寮に入っていくノエルに続く。
アラベスク調の扉は静かに閉じられた。
「ちょっと……本当に、それだけ……?」
トムの後ろに隠れながら、ライラはごめん、と小さく呟いた。
夕食の時間になっていたのでライラは三人と合流してすぐ大広間へ向かっていた。皆、思い思いにしゃべっているので案外秘密の話はバレないのである。
イザベルはライラの成果にフォークを折りそうなほど握りしめていた。
トムも小さく野蛮人め、と呟いている。聞こえることがないようライラは必死で祈った。
「……いいえ、ええ、そうね。完全に信用するならノエル先輩は敵ではないと……。何かしら秘密は抱えてるけど敵ではないと……そう言うことね?」
「うん。その……おいおい……ね?」
「何がおいおいよ! 今の時点で他の何も起こってないのが奇跡なくらいなんだから! 今すぐ何かあっても不思議じゃないのよ。時間がないわ!」
「まぁまぁイザベル。声が大きいよ。それに今は夕食中だ。またケイリス先輩にマナーがなってないって叱られる」
イザベルはベイクドポテトにナイフを突き立てた。普段はこんなことしないのだ……普段は。
「状況を整理しようと思う」
アルファードがそう言った。
「まず、事の発端はライラが複数のグリフィンドール生とトラブルになった事だ。9月2日。授業が始まった日だね。
殆どのスリザリン生は自分でその場で報復するか、寮を巻き込んで報復するかの二択だったのに、ライラは根本から解決することを選択」
なんだか自分の日記を見られているような感覚がしてライラはますますトムの背に隠れた。しかしアルファードは辞めない。
「その一週間後、コリー・テイルズとアイリーン・プリンス先輩がトラブルになる。しかしその時はアイリーン先輩がコリーに反撃したことで大きなトラブルにはならなかった。ライラは知らないかもだけど……アイリーン先輩のおかげで、グリフィンドール生とトラブルになっても寮を巻き込んで報復するというのは今のところないんだ。つまり、
それはライラにとって驚きだった。確かにあれ以来大きなトラブルは聞いていない。
ライラの予定には、スリザリン生の意識の改革も入っていたが、ぐっと楽になりそうだ。
「その次、グリフィンドールの7年生の監督生とのお茶会。そこで『協定』について話し合い合意を得たけど、僕らが水をさしちゃったね」
「ううん。私、パニックを起こしてそんなこと気に留めてなかったから、あれで良かったの」
「コリー・テイルズ率いる、複数のグリフィンドール生が有力な純血家を巻き込んだ計画を立てている可能性が浮上。ライラにしたように、危害を加える可能性が高いことから、問題は全てそちらに流れた……。『協定』に関することは、この時点で事実上凍結。問題の解決が先になる……」
ライラはそれが少し残念だった。頭を捻って、第一歩を踏み出した矢先にこれなのだ。でも、今はそれどころではない。
「ハロウィンの日、血みどろ男爵に協力を要請。現在まで協力は続いている……んだよね? ノエル先輩によると」
「ここからノエル先輩が胡散臭くなってるのよね」
「イザベルの方がよっぽど直球よ……」
「ライラ?」
「なんでもない」
「クリスマス。パーティーの催し物によって持ち込まれたアッシュワインダーが爆発。僕らはこれをテイルズの仕業、計画的な犯行と見てるけどまだ憶測だ。この日からケトルバーン教授は謹慎中……。
えーと、男爵、プルウェット先輩、ダンブルドア教授、アストリー先輩に聞き込み……。
ダンブルドア教授から、テイルズは最近不審な行動をしているとの情報を得た。
そして今日。ノエル先輩がただ信用しろ……とだけ……」
アルファードはそう締めくくった。
「すごい。全部覚えてるの?」
「いいや……見て」
アルファードがこっそり机の下からノートを取り出す。日記帳だった。アルファードは悪戯っ子みたいに笑う。
「まとめてあるのさ。ややこしくって!」
「なんだ。それにしてもマメなのね。毎日書いてるの?」
「僕はね。トムはたまにさ」
「え? トム、日記書いてたの?」
「たまにね……。暇な時に。冬は全く書けなかった」
トムは冬、いつもよりも意識を覚醒させるのが困難だ。放っておいたら半日は寝ぼけたような状態になる。ライラが気つけ呪文をかけるようになっても少しぼんやりしていた。最低限、課題をするだけにしてセーブしていたのだろう。
ライラはトムが日記をつけていることを全く知らなかった。少し寂しかったが、全部知っている方がおかしいだろう、と納得した。
「僕の日記なんて関係ない。それより、次は何が起こるか考える方が先だろう」
トムの言葉に全員が考え込む。
「イースター休暇中にまた何かあるとは考えられない? クリスマスよりも生徒が残るわ」
「テストがあるからな。テスト終わりとかにまた何か起こるんじゃないか?」
全く具体性はないが、時期に関しては意見が出る。しかし、出来れば早期に抑えたいためアクションを待つだけにはなれないのだ。
「……ネズミを追ってみる?」
ライラが言った。トムはため息をつく。誰もがそう一度は考えたが言わなかったのだ。
「……嫌よ。ライラ、アストリー先輩が言ったこと聞いてたの?」
イザベルが思わず立ち上がり、ライラの肩を掴む。考えうる最悪がそこにある気がするのだ。それはライラも同じだった。だからこそ、それを避けつつ、危険が避けられるものたちに聞く。
「違うよ。次に聞き込みをするのはハウスエルフ。それだったらすぐ呼べるでしょう?」
「……なによ。焦って馬鹿みたいじゃないの」
「ごめん。驚かせちゃった」
笑ってしまったライラを見てイザベルは顔を赤くし、そっぽを向いてしまった。
「ハウスエルフに聞いてどうする? 教授が言っていただろう。ネズミ駆除を手伝った男子生徒がいたと。証言はそれだけだ」
「そうだけど……念のためにね。それに、考えがないわけじゃないの」
「なんだ」
話始めようとしたライラは、手元を見て言った。
「……夕食が終わってから言うよ。冷めちゃうから」
あまりにも最新話が書けないため、現在はここまでの本編を書き直す期間と設定しています。pixivやTwitter、ここの活動報告でもその旨をお知らせするため良ければご確認ください。
大筋は変えず、エピソードを変更したり削ったり等細かいところで修正が入りますが、自分が納得できなければまた新たに書いたりします。
ここまで読んでくださった方もぜひもう一度、楽しんでいただけたらと思います。
お気に入り登録、しおり、コメント、何より読んでくださってありがとうございます。誤字報告には助けられてばかりです。感謝しています。
どうか今後ともよろしくお願いいたします。
2021.04.08
Nattsu