ほな呪術師と違うかぁ 作:破月
「あのさ、じいちゃんが好きな番組があるらしいんだけど」
「そうなん?」
「それで、その番組の名前を忘れたらしくて」
「すまん、なんて?好きな番組の名前忘れた…?あの爺はん、ついに痴呆始まったん?それか忘れるくらい昔に放送されとった番組ってこと?そやけどなぁ…爺はんがよう見る番組なんて、朝昼のワイドショーか時代劇、それからゴルフくらいやろう?」
「いや、それが違うみたいで」
「ちゃう…?なんで…?他に見るもんなんてあったか…?」
「色々聞いてみたんだけど、全然分からなくてさ」
「分からん…?それこそなんで…?……んー、まぁ仕方があらへんな。俺が一緒に考えてやるさかい、ちょいどないな特徴言うとったか教えてみてや」
「うん。えっと、8チャンネルで朝8時くらいからやってて、メインキャスターの名前が大倉さんって言うらしい」
「あー……それ、"とくもり!"ちゃうか?チャンネルと時間とメインキャスターがぴったり合致するのんはそれしかあらへんのやけど、あれ、これもう解決したな?」
「いや、"とくもり!"じゃないらしい」
「ええ?ちゃうの?なんで?」
「番組が始まるときに、メインキャスターが"おはようございます"って言わないんだって」
「ほな"とくもり!"ちゃうかぁ…あの番組は大倉はんの"おはようございます"があらへんと始まらへんしなぁ…。うん、もうちょい詳しゅう教えてくれへん?」
「日替わりコメンテーターに、全身青スーツのお笑い芸人とか毒舌が売りの社会学者、それから奥さんが不倫騒動起こした元議員とかがいるらしい」
「いやそれ"とくもり!"ィ…!その個性溢れるメンバーが朝から揃うてるんは"とくもり!"以外にはあらへん…!!もう明らかちゃうか!はい、この話はこれで終了!!」
「でも、じいちゃんが言うには、気象予報士の名前は
「ほな"とくもり!"ちゃうな?"とくもり!"は飛立はんと、大倉はんの掛け合いが一つの魅力言うても過言ちゃう訳で。飛立はんがいーひんならその掛け合いもあらへん……うん、"とくもり!"ちゃうな。他になんか言うてへんかったか?」
「じいちゃんが言うには、天気予報に入る前に一旦CMが挟まるんだけど、その時に気象予報士が次回予告風にどんな天気になるか軽く手描きの絵で紹介してからCMにいくんだって」
「いややっぱし"とくもり!"ちゃうか!?なんぼ気象予報士が飛立はんとちゃうとはいえ、天気予報前のそのCMの入り方は"とくもり!"の定番やで?しかも手描きの絵やら、ますます"とくもり!"味がましてるやん?え、それもう"とくもり!"やんな???」
「俺も"とくもり!"なんじゃないかと思ったんだけど」
「ちゃうん?」
「じいちゃんが言うには"とくもり!"じゃないって言うんだ」
「ほな"とくもり!"ちゃうやん!爺はんがちゃうっちゅうならちゃうんやで!もー…今までのやり取りはなんやったんや…?」
「それで、担当の看護師さんが言うにはね」
「その看護師どっから出てきた?もしかしてスタンバってたん?まぁええや、うん、それで?何て言うとったん?」
「"ヴァファイ"じゃないかって」
「うん?そら確かに8チャンネルの番組やけど、放送時間はお昼やさかいちゃうな???」
「あ、アイス当たった」
「おー、マジか。俺、ここで待ってるさかい、もろうてきたらどうや?」
「そうする」
蝉の声が時雨のように降り注ぐ、夏、真っ只中。
当たり棒片手に駄菓子屋に向かう年下の友人の背を見送り、その男は、腰掛けたベンチの下に隠れていた
「よお、かくれんぼは楽しかったか?」
自身の頭に陣取った
「苦節二十年、この術式を組み上げるのに、どれだけ時間と金を浪費したことか」
「果たして、それが長いのか、それとも短いのかは分からへんけど」
クッ、と鳴るはずのない喉が鳴ったような気がして、男は笑みを深める。そして、
「『
その瞬間、下級呪霊は塵となり、跡形もなく消えていく。そこにはもう、何もいない。残穢すらも空気に霧散していったのを確認して、男はゆったりと身を起こす。
「ごめん、待たせた!」
「ううん、気にしな。それより、今度は何味にしたん?」
「さっきと同じ、他の味なくなってた」
「あら、そら残念やったなぁ」
そして、先ほどと同じパッケージのアイス片手に戻ってきた友人を迎え入れた。何も無かったかのように手を振りながら。その頭上で、一回り大きくなった
男――伽藍が、篠宮の名を捨ててから二十年。26歳となった彼は、今、東北地方は宮城県、仙台市にいる。
●
虎杖悠仁には、ここ最近知り合って仲良くなった、歳の離れた友達がいる。
大雑把にまとめられた灰褐色の髪に、安っぽいサングラスの奥に輝く快晴の空よりもなお青い碧眼。白を基調とした服装は夏の日差しを受けて眩いほどに輝き、少し、近寄るのを躊躇ったのは、友達には内緒だ。いやだって、本当に白くて眩しい。今が夏ということもあって余計に。
「眩しくねーの?」
「なんのためにサングラスかけてると思てんねん」
「え!?まさかこのため!?」
「いやちゃうけど」
「違うの!?」
ケタケタと笑う友達を横目に、不貞腐れた顔でアイスの袋を破る。シャクリ、と一口噛み砕いたそれは、少しだけ溶けていた。甘ったるいバニラの香りが舌に広がる。三口で食べきり、仕上げとばかりに棒を舐めれば、また、そこには当たりの文字があった。
「また当たった」
「運がええんやな」
確かにと頷き、けれど、流石に三本目はいらないなと、袋に入れてベンチ脇に設置されたゴミ箱に放る。それからグッと背伸びを一つ。じっとりと汗ばんだ手のひらをズボンに擦りつけて、悠仁は友達に振り返って笑った。
「プール行こうぜ」
夏はまだ、終わらない。