レオナの誕生日話です。

1 / 1
匂い

 自分の手を見る。赤い。蛇口から赤い水を捻ったかのように手全体が赤く濡れている。

 これは夢だ。いつもの悪夢だ。

 たとえ手から生臭い鉄の匂いを醸し出していようが、こう何度も壊れた映写機のように同じシーンを繰り返し見せられれば、夢だと理解できる。この赤い液体から漂ってくる匂いはいつも同じだ。実父母の血。どうやら私は幼い頃に父親と母親をこの手で殺害した記憶を脳の一部に消えない印として刻み込まれたようだ。シナプス伝達により匂いまで再現させる夢というのは、その時の感情までも蘇らせる。神経細胞の一つ一つが私を哀しみ、怒り、呆れ、罪悪感、自己嫌悪を刺激し、パニックにさせるように促してくる。私はそれらの感情に抵抗せず、全てを受け入れる。

 泣きたいなら泣け。

 怒りたいのなら怒れ。

 呆れるのならば呆れろ。

 私には否定したい感情など無かった。いくら記憶にないとしても親殺しをした代償が私の感情で済むのならば安いものだ。私は荒い息をしながら、自分の赤い手をじっと見る。以前この悪夢を見た時よりは随分と赤色が薄くなっていた。そう思うと、段々と気持ちが落ち着いて来るのが分かった。こういう感覚が分かるからこそ、私は自分の力を制御できる術を身に着けたのだと安心できる。以前の私であれば、この夢の全てを嫌い、呻き声を上げて、早く目が覚めるのを待つばかりであったが、今では血の濃さを確認できるくらい落ち着いていられる。

 私が悪夢に引っ張られなくなったのは、父の友人であるハイデルン教官に養子として迎え入れて頂き、上司に恵まれた事が大きい。

 オロチの血の覚醒。普通の人なら与太話として真面目に聞こうとしない。現に教官の軍医の人からの診察でば、先天性の解離性人格障がいと妄想性障がいの合併症だという診断結果だった。結果を聞いて私は肩をがっくりと落とした記憶がある。教官は「医者という立場では、そう言わざるを得ないのだ」とおっしゃってくれたが、オロチという存在は私の脳が勝手に作り上げた仮想敵であり、真実は私自身がおかしいだけなのだと、その時は思った。

 転機が訪れたのはラルフ大佐とクラーク中尉と共にKOFに潜む陰謀調査をした時であった。教官は前年度にKOFの大会に自ら出場していたが、裏方に徹した方が統制しやすいとの事で、私が次に開かれるKOFの出場メンバーとして指名を受けた。後で聞いた話だが、ラルフ大佐とクラーク中尉には事前に私を注意深く見守るようにとの指示もあったようだ。おそらく教官は存じていたのだ。これから先、私がKOFという大会には深く関係するようになる。と。

 教官の予想は的中した。

 それから先、KOFは私に根深く関係した。オロチも私の仮想敵ではなく実在し、過去の私がどういう意味を持って生まれてきたのかも分かった。KOFは私を大きく成長させ、また信頼できる仲間も増えていった。

 ハイデルン教官、ラルフ大佐、クラーク中尉、ウィップ。

 私はあなた方に会えて生まれてきた意味を知り、そして守るべき大事な心を教えて頂きました。まだまだ未熟な私ではありますが、これからもよろしくお願いします。

 私は敬礼し、周りが明るくなる。もうすぐで朝を迎えるのだろう。悪夢を見ていたが私に不快な気持ちはもう無い。未来が大事だと教えてくれた人達が現実にいるのだ。

 




レオナの誕生日に間に合うように最後は駆け足で書きました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。