それは、十年前の話。識っているのは、その場にいた者のみ。彼等が語ろうとも、聞き手は幻想と判別してしまう話。
その日、世界に激震が起きた。突如として、世界中のミサイル基地がサイバー攻撃を受け、その基地のミサイルが発射されるという大事件が起きた。
全てのミサイルが向かうのは、日本。
―――長野県、諏訪湖近辺
「神様、お願いします」
とある神社の境内の中、一人の少年が祠の前で祈りを捧げていた。
ミサイルが降り注ぐことから、避難の警報が鳴り響いているが少年は一心に小さい頃より通っていた神社の神に家族や友人達の無事を祈り続ける。
かつて祖父から聞いた、戦国時代の祖先が住んでいたこの土地の守護神、〈武神〉に。
『任せろ』
少年の脳裏に言葉が響く。慌てて辺りを見渡すと、少年の隣に紅い複眼にカブトムシのような金色の角がある仮面の人影があった。
『皆の笑顔は、私たちが守る』
茫然とする少年に、安心させるようにサムズアップをした仮面の人影が地を蹴ると、上空にどこからともなく飛んできた身の丈を超える巨大なクワガタの肢につかまった。
「じいちゃん、本当に武神様はいたんだね……」
少年の顔は、涙でぬれていたが笑顔になっていた。
―――日本、某所
日本のどこかの山の上空。そこには、二つの人影があった。
「貴様、邪魔をするな!このままでは日本が!!」
「それなら安心するといいですよ。私の仲間が止めました」
片方はバイザーを被り、白い装甲を纏った騎士。もう片方は、前面にタンポポの模様が描かれたSF的なバイクにまたがるオレンジの鎧を着た武者。
「何だと!?」
「言葉の通りです。そのミサイルとやらは、私の仲間が破壊しました。だから、貴女の出る幕はありません」
武者の言葉に騎士は、唇を噛み締め剣を握る腕に力を込めた。
「よくも、よくも友の夢を!!」
「こんな無関係な人間を、何より、私たちが愛した者が生きる日ノ本を巻き込む夢など論外です!」
「黙れええぇぇぇ!!」
「そんな夢は、幻想のまま断ち切る!」
激昂しブレードが桜色に光り出した騎士は、常人では捕えられぬスピードで武者の背後に回る。
だが、武者は腰に下げていた片刃の剣とオレンジの果肉を模した剣をジョイントとさせ、薙刀のように扱うと、騎士の行動を予測していたのか、振り下されるブレードを難なく受け止める。
その体勢のまま、ベルトの錠前を開錠して取り出す。
<ロック・オフ!>
そして、片刃の剣の柄の窪みにはめ込む。
<ロック・オン!一・十・百・千・万!オレンジ・チャージ!>
流れる音声と共に、刀身にオレンジ色に光るエネルギーがチャージされる。
危険を感じた騎士は、回避のために距離を取ろうとする。
だが、それよりも早くブレードを弾きながら振り返った武者は、ナギナタを×字に振り上げる。
オレンジの斬撃が騎士に直撃すると、オレンジを模した炎が騎士を拘束する。
「ハアッ!」
武者はそのまま、返す刀で騎士を斬りつける。
すると、騎士はスクラクターが壊れたのか煙を出しながら落下し始める。
「クソッ!」
堕ちながらも、騎士は左手を武者に向けてかざすと、一条の光が迸り武者がいた場所で爆発が起きた。
「ハハッ!やったぞ!これで邪魔者は」
「邪魔者は、何ですか?」
<ソイヤッ!オレンジ・スカッシュ!>
「何ィ!?」
爆炎の中から武者の声と共に、輪切りにしたオレンジを模したサークル状のエネルギーが騎士目掛けて展開される。
「セイハァァアアアアァァァアアア!!」
武者は左足を突出し、飛び蹴りの姿勢でオレンジのサークルを潜り抜けて騎士に叩き込む。
足裏に収束されたエネルギーが騎士の体を駆け巡り、そのまま地面に地面に叩きつけられて武者のクッション代わりとされる。
騎士の纏っていた装甲が光の粒子となって消え、装着していた騎士自身もダメージからかピクリとも動かない。
それを確認した武者は、懐から黒い蔦の這った紅いオレンジが描かれた錠前を取り出した。
〈ブラッドオレンジ!〉
「先代。貴方の力を借ります……」
〈ソイヤッ!ブラッドオレンジ・アームズ!邪ノ道・オンステージ!〉
エレキギターをかき鳴らしたような電子音と共に上空にジッパーが出現し、円を描くとその部分の空間から紅いオレンジのような球体が降りてきて、武者に被さると上半身を覆う鎧となった。
そして、ベルトについたカッティングブレードを三回倒す。
〈ソイヤッ!ブラッドオレンジ・スパーキング!〉
電子音が響くと、武者の足元から無数の蔦が伸びて武者を絡み合った蔦が巨大な幹となり、その中に取り込んだ。
時を同じくして、太平洋や日本海を渡ろうとしていたミサイルが、レーダーから次々と消えていった。
迎撃のため準備をしていた自衛隊や在日米軍は、原因不明だが助かったことに歓声が沸いた。
後に、衛星の記録を調べたところ竜といった摩訶不思議な生物や機械に騎乗し、ミサイルを落とす十四の影と、日本を包み込む程の巨大な蓮華が移っていた。
その影は一様に、仮面を被り、生物或いはバイクのようなモノに乗っていたことから、〈マスクドライダー〉と呼ばれるようになった。