両儀式のコスプレイヤーは、汚れたクロックスなんて絶対履かない 作:夜中 雨
「すごいな……」
大きなスクリーンにエンドロールが流れ、劇場の
「あいつ、『生きたい』って言いやがった」
その声に引かれるように、オレはゆっくりと右を向く。
濃いめの眉毛と、色素の薄い
青年の視線から
右隣から、ため息と共に放たれる「お前は、どうだったんだよ」の言葉に、オレは、立ち上がりながら口を開いた。
「感想か?
言峰みたいな奴がもし、オレの母親だったなら、っていう……」
目の前の青年が立ち上がるのを横目で見ながら「おまえの気にする事じゃない」と、目の前の奴に笑ってみせる。
「———
映画が終わって、帰りの電車。
わざわざ都市部まで出てきたせいで、帰るのにも電車に乗る
地下鉄の、1両目の後ろの
車椅子用に座席シートの外された
1両目の後ろの壁にもたれて立つオレと向き合うように、つり革を持った青年は、映画の感想を、ずっと
「士郎がセイバーを刺した時、なんと言うか……納得したんだよ。『そうだよな』って。
『原作みたいに、顔を見て声を聞いてしまったらもう刺せないから。だったら遠くからジャンプして、顔を見ずに刺すしかないよな』って」
こっちを向いて立つ、背の高い青年の、少し伏せた瞳を見ながら、オレは盛大にため息をついた。
「それで、なんであんな場所なんだ?」
目の前の青年はやっと、オレの顔に焦点を合わせる。ソイツの目を
「どうして、“Fateの映画”だったんだ?」
「『どうして』って、お前も楽しんで
「そうじゃない。そうじゃなくて———」
電車が止まり、ドアが
「どうして『コスプレしながら出かける場所が映画館なのか』を
両腕を広げて服を見せる。
オレの
「そのッ、予行演習のためにだな……。
ほら今度の日曜日、神戸の外れでコスプレイベントがあるらしいじゃないか。でも、それに参加するのが恥ずかしいって言うものだから、つい……」
「つい? オレが『恥ずかしい』って言ったから?
だからオレにだけ女装させて、自分は堂々と私服で映画を
「“女装”っていうか、お前は女だろ?」
「そうだ———」
オレは一度、ゆっくりと
「——————
そして、縦横無尽に“死の線”が走った、青年の体を
ビクッとして一歩
「そろそろ慣れろ。目を合わせたくらいで、そんなの……」
「そう言われてもだな。直死の魔眼は“死を見えるようにする魔眼”だろ? その設定を知ってると……さ」
まぁ、コイツに関してはいつもの事だ。と聞き流し、次の話題を振る。
「それに、もう一つ。
困ったように笑っている、目の前の“いけ
「そろそろ教えてもらうぞ。
おまえがあの日、持ち帰った“首”の話だ」
◇ ◇ ◇
浴室の
冷たいタイルに
———風呂。
壁を覆う水色のタイルをなんともなしに眺めながら、ゆっくりと、湯船に体を沈めていった。
四角い浴槽と、正面にある銀色の蛇口。その銀色を反射するように、湯船から湯気が
お湯に浸かった温もりを一気に吸い込んでから、息を吐いた。
吐き出した息が、天井にある水色のタイルに、ゆっくりとボヤけていった。
———今日は、色々なことがあった。
両儀式になったことから始まって、
そんなアイツは、詰めが甘い。
オレが“眼”を使って、持ち帰った首を処分してやると言った時、二つ返事で
隠す気がないのか? オレになら、バレても良いと思ったのか……。
“首無し死体の切られた首”なんてのは、隠したいモノが詰まっているものなのに。
“ふぅ———っ”と、口を
残念なことに、浴室はあったまってしまったのだろう。白い息は見えなかった。
目を閉じる。
まだ
あの瞬間の青年は、間違いなく“着替えたて”だった。
———そんな“完璧な両儀式”が、クロックスを
その違和感、お前にだって分かるだろ———
今でも思い出せるアイツの言葉、オレの秘密を
その言葉は、アイツ自身にも
だってそうだろう? 始発電車に乗ってすぐ、オレに指摘された後のことだ。服装を正す時、アイツは、ベルト穴の位置まで調節したんだ。
オレを追い詰めた言葉の数々。
あの問答は、今でも頭から離れなかった。
———『
衛宮のヤツだっておかしい
だって衛宮は、ボストンバックを持っていたんだ。
その中に私服が入っているとして、『じゃあ何でおまえはコスプレしてるんだよ』って話になる。
着替えて帰れよ。
———そもそも、だ。
アイツがコスイベからの帰りだとして、“衛宮コス”が乱れているとかあり得ないだろ。私服が乱れているならまだ分かる。
『
けど、アイツの場合は逆だった。
コスプレ
じゃあ何で始発電車に乗ってるんだよ、おまえ。
これから撮影会があるって言うなら、バッグに首なんて入ってない。
“首を切り取った事件”より前、最初から着替えていたって言うなら、そもそも服は乱れない。
その時気づいた。コイツはきっと、首を切り取ったその場所で、衛宮士郎のコスプレをしたんだ。
そんなのはもう
そんなタイミングで変装するのは、“何か”を
『殺人を
だって、あの
———もう会う事はないけれど……うん。楽しかったよ、両儀———
だから、その言葉が気になった。
オレの
それが嫌で、脅しをかけた。
……
「全く、お人好しにも程がある。
こんな殺人鬼を
お湯を
水面に揺らめく女の顔に、少しばかりの苦笑がもれる。
オレもまぁ、思い切った事をしたものだ。
バッグの中の首。“死の線の
あの時は勢いで押し切るつもりで
衛宮がラグラン袖を着た場所と、首を切り取った場所とが同じだと見ていたオレは、この二つの出来事が“結果”になるような“原因”を探した。
同一の“原因”に
———そんなの探すに決まってる。
もし見つけることが出来たなら、衛宮を
この
だから、アイツが自首しようとしているのだと仮定して、どうして、首を切ったのかに思いを
首を切り取る最大のメリットは、死体が誰だかわからなくなること。
血液検査やらDNA照合やら。科学技術が発達しても、それが科学である以上“照合する元データ”が必要になる。
死体のDNAマップを作ったとして、それを照合する先がなければ、そんなDNAに意味はない。そもそも、その“元データ”として必要になる“自分のDNAマップ”を登録している人なんて、オレは知らない。
指紋にしてもDNAにしても、死体のモノを採取しただけなら、そんなモノは使えない。
実際の捜査では、犯行現場に残された犯人のモノだろう髪や血痕から
結局、首から上が無いだけで、免許証やマイナンバーカードの写真と、照合できないというだけで———たったそれだけで、その死体は身元不明になれる。
ついでに指紋でも焼いてしまえば
身元不明死体を作ったアイツが、その場で着替えた士郎のコスプレ。これだけの情報が
———コイツの家に上がりこんだ日、少しばかり湯当たりし、「入り過ぎだ」と怒られて、
◇ ◇ ◇
「———それで?
なんで首なんか持ち帰ったんだ。証拠は分かりにくい方がやり
映画館から帰ってすぐ、“いけ
劇場で———というより劇場までの行き帰りで、散々
フローリング
かくいうオレは両手に湯飲みで振り返る。左回りに回転しテーブルに向き直る
よく考えなくても、足が付くからATMなんぞ使えないオレが衛宮に
革ジャンから目を離しながら苦笑する。
全く———
湯飲みがセットされて
オレは待った。自分のお茶には手をつけず、
———コイツの扱い方は解ってきた。
コイツは
そうしてついに、衛宮士郎が口を開いた。
「……両儀。その前にいくつか、聴きたいことがあるんだけど」
「なんだよ」
「その……。あの時何で、『俺が自首しようとしている事』が分かったんだ?」
オレは息を吐く事で返事した。そんなの———
「
衛宮の目を見る。その視線とカチ合った。
こちらを
「ただの勘だ。
———でも間違いないと思った。あの瞬間のおまえは、もの
そんな感じだ」
アレはきっと“覚悟した人の存在感”だと、その瞬間に
例えば、目の前に見知らぬ男がいたとして、そいつがナイフで刺してくるとして。そのナイフに当たらない最善の方法は、『ナイフを
“ナイフを無視する”、とは『刺されても構わないと思う事』。刺される恐怖を置いていくこと。
“恐怖を
師範だったその先生に、実際に刺しにいったこともある。
それは、デモンストレーションだった。
結論を言うと、その師範には当たらない。
『当たらなかった』のではなく、『当たらなくなった』。
『当たらない状態になった』というのが、きっと正しい表現だろう。
———“無敵状態”、というヤツだ。
その瞬間の師範の姿と、あの時の、衛宮の姿とが重なって。その瞬間にオレは
「あの時のおまえは、自分の“死”を受け入れていた。
かと言って、武術を
目の前の男は何も言わない。
だからオレはもう少し、話し続けることにした。
「電車に
重心はブレブレだし
武術の世界に足を踏み入れたヤツが気にする事を、何一つ、気にしていない人間だった。
———なのに、おまえ」
手を伸ばせば触れられる位置にある、青年の頭。赤みがかった太い髪の毛。コイツの家に乗り込んでいったあの日から、何度も髪を洗っているのに……。
染料が頑固なのか、コイツが元々赤毛なのか。
「あの日、おまえは……自分の命を捨てたんだ」
ぴくっと、肩が一瞬反応した。
「武術家じゃないのに覚悟を決めていた。そんな衛宮を見て気が付いたんだ。
『コイツは、犯行を隠そうだなんて思っていない』」
コイツの雰囲気は、荒れてなかった。それは、犯行を隠そうとする人間のソレじゃあない。
「だから“勘”なんだ。
ただ、オレの経験と感覚だけを頼りにした———“当てずっぽう”だ」
衛宮と、目が合った。
今までのようにただオレの顔を見ているって感じじゃない。オレの体に焦点を合わせ、オレの存在を認識した。
随分と久しぶりに、コイツの顔を見たような気がする。
「……凄いな」と感想をもらす衛宮。
「ぬかせ」と返してやった。
「大体、オレには最初から
———結局、おまえはあまりにもチグハグだった。
死体の頭をカバンに詰めて隠してるし。にもかかわらず、生き延びようとギラついてないし」
だからあの時、“勘”と“当てずっぽう”で脅しをかけた。
あの瞬間を
「少しの
やっぱりおまえ、その場で自首するタチだろ。
『理由や過程はどうあれ、自分は人を殺したんだから』なんて抜かして、その場で警察にでも連絡するよなぁ。おまえなら」
———でもしなかった。
「ずっと考えてたんだ。『どうしておまえは、その場に
おまえの言葉を借りるなら、それは“オカシイ”。とてつもない矛盾だ」
頭の中でグルグル回っている思考を断ち切り、視線を感じて顔を上げると、衛宮がオレを観察していた。
言葉に詰まったオレを、ただ見ているだけの衛宮にたまらず「何だよ」と言葉を放ち、少しのけぞる。
そんなオレの反応を見て、コイツは、苦笑しながらため息をついた。
「何と言うか、アレだな両儀。
秘密を暴かれるっていうのは…………怖いな」
「当たり前だ、バカ。
そもそも、この話の
理由くらいは知りたくなる」
衛宮の目が
この数日間、ずっとはぐらかし続けてきた事だ。コイツは頭も良いし、今回も逃げられるかもしれない。
けど、流石にもう時間切れだ。
待ってやるのは
もしもコイツが『話したいのに切り出せない』なら、崖っぷちに追い込んでやればいい。
誰だってそうだ、喉元過ぎれば熱さを忘れる。
「おまえが招待状を見せてきた時、何となく察しはついたさ。
アレは、おまえへの招待状じゃない」
恐らく、今もコイツが持っている招待状。
『両儀も参加してくれないか』の言葉と共に見せられたあの招待状は、決して、目の前のコイツに
「オレが気づかないなんてあり得ないってこと、おまえにだって
———答えてもらうぞ」
「衛宮は、オレにどうして欲しいんだ?」
「……は?」
「まさかおまえ、オレが秘密を暴きに来たと思ったのか?
それこそ“
何でわざわざ、そんな面倒な真似をする必要があるんだ」
ここで逃してはいけない。
重心が後ろに引いた衛宮を追って、こっちも少し前のめりになる。
「でも、どうせ“殺し”が絡んでるんだろ?
おまえは、誰かのために首を
———なら、いい。それで良い」
だっておまえには、返しきれない恩があるんだ。
「オレが、教えてほしいのは秘密じゃない。
衛宮はオレに、何をして欲しい。
オレがどう行動すれば、おまえにとって一番いいんだ?」
◇ ◇ ◇
さて、おかげさまで当会、“遠坂邸でコスプレ会”は、本年10月を持ちまして無事三周年を迎えることとなりました。
これもひとえに皆々様の変わらぬご
つきましては、10月4日(日)14時よりささやかなパーティーを開催させて
ご
また、今回も300万の賞金をご用意しております
お連れのアルトリア様
◇ ◇ ◇
目の前に衛宮がいる。
木刀を、一本
「分かるか? 衛宮」
「ああ、分かる」
オレが木刀の
オレの
リビングの真ん中、テーブルをどけたその場所に、オレと衛宮は立っている。
着物を着て、青で統一されたオレの和服。
対する衛宮は、ジーパンに上はTシャツだけだ。ラグラン袖じゃない普通のTシャツ、無地で真っ黒のTシャツだ。
木刀の、
「いくぞ」
そのひと声を
そうすると、
当然、ぎゅっと力を入れて握っているのを
だから、より
木刀が重力によって引かれる感覚、重心のある位置に向かって落ちようという回転ベクトル。そして、木の質感。
そういった“木刀の感覚”に意識を向けて、木刀の動きに
この場合は、地面に落ちようとしているだろ。
「——————ッ!」
目の前の衛宮が反応する。
木刀は衛宮の
オレの視界から衛宮の頭が下に
ゆっくりと目線を下に向けると———
青年が、一人地面に
「コレが“剣”だぜ、衛宮。
木刀が“剣”になった瞬間を、おまえはまだ感じてないんだ。だからそうやって
木刀だろうと“剣”であるなら、人を斬るなんて
ちょうどいい位置にある衛宮の頭に左手を伸ばし、髪の感触を確かめる。指と指との
「衛宮が、最初に身につけてないといけないモノだ。
殺しに来る奴が握るエモノが、“剣”であるのかそうじゃないのか。
それを、見分けて初めておまえは、闘うという
無言で衛宮が立ち上がる。左手の行き場をなくしてしまって仕方なく、右手で
「
そうすれば、多少はマシになってるかもな」
オレの言葉に無反応な衛宮は、自分の右手を握って開いて、その感触を確かめている。
そしてふと、
「今……両儀は何をしたんだ?
握っている木刀が軽くなったように感じた瞬間、腕ごと持っていかれたんだが」
「力を抜いただけ。
それから、“
「たった……それだけか?」
「それだけ、それだけでかなり変わるんだ。剣の重さは腕力じゃない。だから怖い。
———いいか、衛宮。
相手が女だろうと子供だろうと、それは油断していい理由にはならないんだ。
おまえが何をするにしても、
構えなおした木刀の、先をもう一度
衛宮に、言われたことを
———闘い方を教えてくれるか?
両儀は、武術か何かやってんだよな。それを、俺にも教えてほしい———
目の前に立てた木刀の向こうに見える、輝く
「出発までに、せめてこれだけは覚えてみせろ」
木刀を
◇ ◇ ◇
それから、一週間ほど
床に
暗い寝室。寝ているオレの頭上にある遮光カーテンの
左を見上げるオレの
ベッドの
———耳をすました。
ベッドの
そして
トイレか……なら、ちょうどいい。
音を立てないようにして、ゆっくりと立ち上がる。
白い
街灯の
寝室の
ドアを抜けるとリビングがある。右手にトイレと玄関につながる廊下の
そのシンクの下の戸棚の中から純米吟醸の小瓶を取り出し、ガラス製の小さなコップ二つに注いだ。
リビングに戻ってきた衛宮にオレは、コップを片方差し出した。
「眠れないなら、ちょっと付き合え」
チラチラと、左隣を盗み見ながら酒を飲む。生意気に、衛宮のヤツもカチコチだった。
視線を切って夜空を見上げて、隣の衛宮にバレないように、深呼吸を二つした。
……ダメだ。こんなのはオレの
まずは自分が楽しまなくちゃな。
左手の酒を口に運んだ。
……ふぅーと長く、酒気を帯びた息を吐く。
衛宮を忘れて、一人
「両儀は……両儀はどうなりたいんだ?
明らかにヤバそうな場所に、明日お前を連れていくんだ。本当に良いのか? もう一度、考えなお———」
「オレは、男に戻りたかった。
三年間積み上げてきたものが、オレの夢には必要だったからだ」
「それは?」
「
曇った夜空に顔だけを向けて、目は衛宮の方を向く。
「オレの身の上なんて、つまらないと思うけど?」
「……いい。聞かせてくれないか」
———もう少し、コイツの気を紛らわせよう、と。
酒で唇を
「もちろん、オレにだって両親はいる。だから『戻りたい』と言った言葉の中に、そういう意味合いもあるにはある。
だけどやっぱり、男に戻りたい一番の理由は、『預けてある
雲が速い。
そんな雲から、
「オレはさ、働いてた寿司屋の大将に、毎月
あと一月で……360万になる計算だった」
左から聞こえる息づかいが小さくなる。
コイツが、頭を回し始めた合図だ。
「“360万”という金額は、『働かずに5年間生きていくために必要になる最低限の金額だ』と、ハロワのオッサンが試算した額だ」
気になって衛宮を盗み見ると、自分の世界に
焦点の合ってないその横顔を何となしに見つめることにして、コイツに続きを語りきかせる。
「最初から“三年で
360万を対価に
———運命の日、オレの肉体が変化して一番最初に
自分の見た目が
……逃げる選択肢なんて始めから無かったんだ。
逃げたって
特に母親は“普通”と“常識”とが大好きな人だったから、こんな“異常な女”を見た時の反応は想像ができた。
いずれ誰かに、説明しなければならない。なら早い方がいい。
その日も
夜明け頃に
ウチはいつも午後5時からの開店だから、そんなルーティーンでも問題なかった。
オレは
そして
「へぇ〜。
あの
それは、オレの
オレが360万を持って向かう“次の就職先”に、ウチの大将が
「ハッ……イイな、それ。
———やっぱ
仮眠室の奥にある
オレの尻が机に当たった。気圧されたのか? オレが。
「そうか、下着なんて持ってないよなァ」
無言を貫くオレの表情を見て
◇ ◇ ◇
「……それで、殺したのか」
衛宮の感想に突っかかる。
「殺す気なんてサラサラ無かった。
オレはあの時、無言で全てを受け入れていた
そう、どう
———それが出来ないなら、誰かに
今、
その横顔は、とても
「
ただ、気がついたとき———馬乗りになっていたオレが
その先は、衛宮が推理した通り。
めぼしいモノを
———始発電車に飛び乗って、コスプレしている男を見つけた。
オレの眺める視線の先で、衛宮の焦点があっていく。
「両儀は……その、後悔してるのか?」
「答えは……まだ」
……と、オレは答えた。
「
———オレは人間をひとり殺して、死体をそのままに逃げ出した。
それだけの事なんだから」
衛宮が黙る。
オレは意図的に、ゆっくりと
沈黙は、嫌いじゃなかった。
風の音に混じって、甘い香りを
オレと向かい合う衛宮のさらに向こう側、ベランダの柵の向こうに
ここは二階だからか、ちょうど花がよく見える。オレンジの皮を煮詰めたような……
「
衛宮の声に意識を戻す。オレの目の前で手元のコップを揺らしながら、つらつらと言葉を
「ほら、『実は
「オレが自分で積み立てたんだぜ。どう
「———でも、“
「なんだよ。そんなのある
ある
「おまえさ、ホント。そういう
言葉の意味が理解できなかったのか、マヌケ
「何でもない!
寝るぞ、衛宮。明日は神戸までいくんだ……ホラ、はやくっ」
衛宮を
———事実がどうなってるのか
「もしも大将が、あるいは
始めから……貰う
声に出して確認する。
寝室の
———確かめる
もう一度だけシンクを見る。
二つのコップは明日の朝に洗おうと決め、オレは、寝室の