両儀式のコスプレイヤーは、汚れたクロックスなんて絶対履かない 作:夜中 雨
「よしっ、出るわよ」
一頻り衛宮を
「ほら、桜」
衛宮をランサーの部屋に突っ込んだ凛は、その場で間桐を
ゆうに5秒の
「え、ちょ……ちょっと待って。
待ってくださいッ!」
部屋から出ることを嫌がって腰を引く間桐。だがどうも凛の方が力は強いらしく、ズルズルと引っ張られていって。
「遠坂先輩、どうし——」
凛は左手で間桐の口を塞ぎ、右手で
「遠坂先輩、でもッ———」
「“でも”も“ヘチマ”も“カケラ”も無いわよ。
———いい桜。衛宮君からしたら、私たち全員が
両儀さんの言ってることが正しいなら鍵は
「今、この現状で
私たちが声を上げなかったら、彼は間違いなく刑務所ゆきだった。それに監視されてたんだから、ランサーは絶対に殺せない。
———だから、衛宮君だけにやってもらうの。この屋敷にいる殺人犯に、証拠を
凛が詰めていた体を戻して、間桐といくらか距離を取る。
「それに心情的にもね。衛宮君を犯人だと思っている人は、この屋敷にはまずいないんだし。あの遠坂時臣やコスプレしてないオッサンだって、衛宮君だとは思ってなさそうだったじゃない?」
凛が間桐を
オレがもたれた壁の後ろ、部屋の中から、足音だけが
「なぁアーチャー。今のランサーの死体、おまえも見ただろ?
おまえがもし犯人だとして、ランサーの心臓を突き刺すとして。まずアイツを組み伏せた後、おまえならどうやって突き殺す?」
「両儀式。それは———私を疑っているのかね?」
アーチャーは、視界の
「なるほど。君にとって私は、最有力容疑者というわけだ」
アーチャーの投げかける
「別に、もういいよ。
真っ先にその感想が出るんなら、オレの予想はハズレみたいだ」
凛が間桐に、自分たちが部屋に入ることが、どれだけ『自分たちの疑いを晴らすことへの
パッと見た感じ、部屋に飛び散っている血痕は無かったことから考えると、おそらくランサーはベッドに寝そべった状態で、
———でもオレなら、あんな殺し方は“ない”。
オレが犯人なら、必ず
エモノがナイフや短刀なら
それから、ランサーがいつ殺されたのか。オレには分からなかった。
昼食を終えてからは、片付けの時間以外オッサンと……遠坂時臣とも一緒にいた。
表向きは『
“バゼット殺し”の犯人から、何より遠坂邸の結界から。もしも結界が反撃に出た時、オレたちに
「ねぇ、両儀さん」
オレがボーッと壁にもたれていると、凛が話しかけて来た。廊下の窓を背に、間桐と一緒にこっちを向いてる。
「ちょっと聴きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「いいぜ。
ちょうどオレにも、知りたい事があったんだ」
オレの返答に凛が
「私たちが知りたいのは一つだけよ。
———衛宮君は“本物”なの?」
「おまえらはどう思うんだ?」
「ちょっとッ! 聴いてるのはこっ———」
「オレは」
凛の言葉を
「オレは別に、どっちでも良いんだ。
だから、アイツの正体を明らかにしたいという欲求は無い。
それでもおまえたちが知りたいって言うなら、話せるところまでは話してやるけど?」
正面の凛と間桐。
———誰も、何も
ゆっくりと、目を閉じる。
「いいぜ、教えてやるよ。後ろの衛宮が本物なのかどうなのか。
———まぁ、結論から言うと
だけど、オレの知っている事を聞かせてやる。それをどう解釈するのかは、おまえたちの気分次第だ」
再び目を開けると、凛と間桐の姿が見えた。二人とも、重心が前にズレている。
オレはただ、コイツらの興味を言い訳にして、衛宮の過去をバラしたいだけなんだ。そうすれば、アイツはきっと———
「殺された“大学生”の首を処分したのは、オレだ」
オレは壁にもたれたままで、後ろに
———最初に、“大学生”の首を切り取ったのは衛宮だ。それはまず間違いない。
切り取られた首はオレも見てるし、証拠の隠滅も手伝った。
「だからオレは、このまま逃げてほしかった」
間桐が首を
オレは「時効だよ」と付け足した。
「殺人罪なら無期限だけど、
———もっともアイツ、自首したがっていたけれど」
「えっと……ちょっと待って。
何? 衛宮君、それだけやったのに自首する気なの?」
「そう」
壁の向こう、衛宮の足音が聞こえなくなった。
衛宮のヤツが部屋の真ん中でこめかみを叩いている姿を想像して、オレはちょっと
アイツは今どんな表情で、頭を回しているだろう。
「ちょっと。ねえちょっ———両儀式ッ!」
詰め寄ってきていた凛の声に意識を戻すと、目の前に顔のドアップがあった。
「……なに?」
後ろに
「聴きたいのはこっちの方よ。
ニヤけるのは別にいいけど、ちゃんと答えてからにしてよね」
その言葉を無視して『どこまで話したっけ』と記憶を
「あー、衛宮が自首するって話だったか」と、現実に戻って来たオレは、凛の顔を見返した。
「アイツ自身に
とは言え“自首”という言葉の意味は、辞書のそれとは違うと思う」
衛宮の持ち帰った“大学生”の頭と首。その首の部分には
という事は当然、衛宮は
『首なし死体の作成理由』が少し違って見えてくる。
「その
『俺がやりました』と出頭した時に、『じゃあ証拠は?』ってなるのは目に見えてるんだから、確たる証拠の一つくらいは持っている方が好ましい。
———そう考えたオレは、衛宮に証拠の隠滅を申し出た。
オレだったら、完全に首を消滅させることが出来るから。アイツの犯行がバレるのを
———おまえの持ってるその首さ、オレが完全に殺してやろうか———
目の前にいる凛の瞳が、一瞬、どこかに焦点を結びかけた。
可能性に
「結果はさっき話した通り、男の首はオレが処理した。さしたる苦労も口論もなく、アイツはすんなり渡してくれたよ。
だから
———この
もちろん、犯行現場に別の証拠を残してきた可能性もある。
だがそれも、『その場に衛宮がいた証拠』にはなっても『衛宮が“大学生”を殺した証拠』にはならないだろう。
『その場にいたのが犯人一人だけだった』という状況を作っておいてから犯人にしか知り得ない情報を告白することで『自分が犯人だ』とするつもりなのかもしれないけれど……それにしたって『
———というか、そんな面倒な事を考えるくらいなら、オレが首を処分するのを止めればよかったんだ。
「だから多分、衛宮はもともと、首を処分するつもりで持ち帰ったんだ。自分以外の誰かの
凛の右肩越しに間桐を見ると、口に手を当てたところだった。
目の前の凛は、顔から
オレは表情を変えないように注意しながら、ゆっくりと言葉を
なぁ衛宮、おまえが言わないからだぜ。ならお節介かもしれないけれど、オレが勝手におまえを語る。
「だからさ、“自首する”っていう言葉の意味が違うんだ。
アイツの言う“自首”って言葉は『自分が犯した犯行について名乗り出ること』じゃない。『誰かの罪を自分が
そして、もう一つ。
オレだけが知っている情報がある。
“あの日”、オレたちが出会った日、衛宮のコスプレはなぜ、乱れていたのか。
———その時気づいた。コイツはきっと、首を切り取ったその場所で、衛宮士郎のコスプレをしたんだ。
そんなのはもう
凛の肩越しの間桐の目が、オレにはいやに印象に残った。
今にも泣きそうな、あるいはとても嬉しそうな。
———そんなタイミングで変装するのは、“何か”を
『殺人を
「でも違うよな。ここまで聞いたおまえらなら分かるだろうけど、それは多分違うよなぁ」
棒立ちの凛とその後ろ、胸の真ん中で両手を握る間桐の二人。この二人はとてもいい。きっと、衛宮の味方になってくれる。
「きっと、もう一人いた
———首を切ったのは『身元不明にするため』じゃなくて『殺害方法を
そう。
あの場には衛宮と“大学生”ともう一人の“誰か”がいて、もう一人が“大学生”を殺した
「アイツが変装した事をオレは知ってる。今も変装し続けている事も知っている。
でもオレには分からない。三人いる
オレは周りの三人を見る。
アーチャーと間桐は判別しにくかったけど、正面にいる、凛の表情は分かりやすい。
驚いた顔、というのはこういうものを言うのだろう。両目を大きく見開いて、
そんな凛の表情を見て、予想通りだとオレは笑った。
「おまえの顔を見てやっと分かった。
気づかなかったんだろ? 衛宮の変装に。
オレもずっと疑問だったんだよ。この屋敷にいる
最初は『このコスプレ会は衛宮と初対面の奴ばっかり』なのかとも思ったけど、どうもそうでもなさそうだったし」
「それ…………」
凛が声を上げた。
「それは、
「オレも思った。だから先に聴いたんだ『おまえらはどう思うんだ?』って」
「だったら衛宮君のままなのよ。いくらコスプレした状態でしか会った事がないとはいえ、別人のレイヤーと間違うなんてあり得ないわよ」
凛の右手がギュッと握られる。その
「それでも
“大学生”に襲われて、殺してしまったアルトリアさんを
「そうかもな。でも———」
部屋の中から足音が聞こえる。考えるのは終わったみたいだ。なら、オレたちの余興もこの辺でいい。
息を吸いつつ、オレは壁から背中を離した。ポケットに手を突っ込んだまま振り返る。
衛宮の足音が、
「一つだけ言わせてもらうとさ。オレ、衛宮の
———でも、衛宮が住んでたアパートの
押した
オレは下から、衛宮の顔を
「それで、誰が犯人なんだ?」
「おいっ」
衛宮が顔を右手で
「お前は俺をなんだと……」
「コクトーとホームズを足して二で割ったような男。おまえにかかれば、このくらい簡単だろ?」
言って、衛宮の胸をノックする。衛宮は顔を
「それがまだ
オレたちの真ん中まで出てきた衛宮は、一度周りを見渡して、少し頭を
「なぁ両儀、聴きたい事が二つあるんだけどさ。いいか?」
「そこの
「できる」
オレは衛宮の指差す先、ドアノブの機構を見つめながら、あの時のことを説明した。
廊下から“
そしてランサーを発見したこと。
「ちょっと待って」と凛の声が割り込んで来た。
オレが目を左に向けると、凛はオレを指差していた。
「それっておかしいじゃない。どうして鍵を壊してまで開けようと思ったのよ。今でこそ血の
だったら何でこじ開けようと思ったの? どうやってランサーの死を知ったのよ。それって“犯人しか知り
オレを指差したまま近づいて来た凛が、オレの胸を突き刺した。
「両儀さん、
だって、
それでどうやって、ランサーの死を知ったのよ」
そんな凛を、衛宮は
「あ———、……その遠坂。
それに関して一つ、先に聴きたいことがあるんだ。このコスプレイベントって、いっつも遠坂邸に転移するのか?」
「するワケないじゃない。こんなの初めてなんだから」
凛は首を右に向けて顔を
「そう、
両儀さんの指摘通り、“去年の衛宮君”とは別人なんだ」
凛は横目に衛宮を
「それで、今度こそ教えてくれるの? 両儀さんがランサーの死を知ってた理由」
「えっと……だな。その、遠坂? 怒らないで聞いてほしいんだけど……」
「それを決めるのは私でしょ。いいから早く言いなさい、衛宮君」
「その……両儀はだな……」
オレは後ろから、衛宮の左肩に右手を置いた。ほんの少しだけ前に押して、衛宮が無意識に、重心を元に戻そうとして
結果衛宮は自分の力で後ろに倒れ、思いっきり尻を打ちつけた。
衛宮の
凛は、上半身を少し引いた。
「なぁ凛、こんな事態が起きたんだ。
理性的な人間だよな」
「そうね、当たり前じゃない。いいから早く言いなさいよ。
それとも何?
「まさか。『オレの目は特別製でさ、モノの死が
オレは笑った。
「オレは直死の魔眼を持ってるんだ。だから見えた」
オレの前から、凛が遠のく。よろめくように三歩
「
「ホントの話だ。疑うなら別にいいぜ、“殺していいモノ”を持って来いよ。
片っ端から殺してやるから」
「……ちょっと衛宮君」
凛は横にちょっとズレて、オレの左側から衛宮を見た。
立ち上がって尻を
「あの
「両儀の頭は多分、正常に働いてると思う。だから遠坂、確認してやってくれないか?
両儀がただの厨二病患者なら、殺せないモノは殺せないだろ」
凛は両手で顔を
「アーチャーっ、部屋に戻って
ソーイングセットのハサミもついでに、分からなかったら安全ピンでもいいから、持って来てくれる?」
アーチャーは肩をすくめて、
◇ ◇ ◇
オレは、手に持った安全ピンの針をなおして、目の前の凛につき返す。凛が気付かなかったので、顔の前で振ってみせた。
「おーい、コレ返すよ。オレはいらない」
凛が反応して目を
当の凛は左手を出して固まったまま、右手に
フリーズしている凛とその後ろに立つアーチャー。凛の隣からコワゴワと、剣を
そんな三人から目を
「なぁ、衛宮」
声を聞いた衛宮はこっちを向き、目で問われたオレは、続きを
「おまえ、犯人はどこまで
いつものように右手が上がり、衛宮はこめかみを叩きだす。
「一番最初に考えないといけないのが、この部屋そのものの謎なんだ。
この部屋は、外部とは“ドア”と“窓”でしか
———つまりこの部屋は、あの時密室だったんだ」
「ああ、アレか」と
「俺は部屋の中で
「外から鍵をかけるのは?
ほら、糸の先にセロテープを付けて、鍵のサムターンを回すヤツ」
「それもない。
部屋の窓は“
ドアの鍵はもっとダメだ。見れば
衛宮が言うにはこのドアの鍵、死んだランサーのズボンのポケットの中にあったらしい。
「あとは……ランサーの胸の傷口のことも若干おかしかったけど。
あるいは、どうやって外から鍵をかけたか」
衛宮が、ずっとこめかみを叩いてる。見るともなしに見ていたオレは、ふと気になったことを言葉にしてみた。
「なぁ衛宮。コレ犯人が魔術師だったら、どうとでもなるんじゃない?」
衛宮の、トントンが止まる。
「ほら、鍵のかかった
「一人目はここにいるんだ、二人目がいないとどうして言える?
衛宮は今まで、常識と照らし合わせてオレの過去を見通してきたけど、今回は、
衛宮の両の
こういう時の衛宮の声は、少し遠くから聞こえる気がする。
「俺たちの潔白を証明するのに、それも考える必要があるってのか。
———イベントメンバーの中でコスプレしてるのは誰なのか、コスプレじゃなくて、肉体が変化したヤツはいないのか。
変化したヤツは、魔術を使うことができるのか」
衛宮は上を向き、天井を見上げる。
「両儀と同じようなヤツが
本文中に出てくる、『殺人罪の時効』に関する記述を変更しました。
時効15年が間違っている事を教えていただきありがとうございました。