両儀式のコスプレイヤーは、汚れたクロックスなんて絶対履かない 作:夜中 雨
オレが『キャラクターの能力を持ってるヤツなら、魔術で密室作れるよな』と口にしたところ、衛宮のヤツの顔つきが、面白いくらい真面目になった。
左隣で壁にもたれてる衛宮が、顔を上げて天井を見る。
「両儀のように肉体が変化した
でもアレだ。
“修復の魔術”で密室を作るなら、まず
衛宮の呼吸がゆっくりになる。衛宮の目が細められる。
そんな衛宮を見つめていると、凛の声が割り込んできた。
「ねぇコレ……どうなってるの? この
オレの左隣にいる衛宮の正面、凛が、
その目がオレを射抜いてきたから、オレはゆっくりと息を吐く。
「分かった? 文字通り、『生きているなら神様だって殺してみせる』」
凛の震えが止まる———いや、目を見開いたというべきか。
目を見開いてオレを見る。振り返って、窓の外を
「ねぇ両儀さん。今気づいたんだけど……
「おそらくな。
出ようと思えば、いつでも出られる」
「———遠坂」
顔を戻した衛宮が、凛を呼ぶ。凛は反応しなかったけど、衛宮は後頭部に声をかけた。
「俺と両儀以外でだけど、容姿が変わった参加者はいるのか?」
「知らないわ」
振り向く凛。
手元の
「そもそも、私たちだってそんなに頻繁には会わないもの。雇用人数を確保するためだけに、ここに来るようなものだしね。
だから正直、分からないわ。“
衛宮は凛に近づいた。
威圧しないように手前で止まって、ゆったりした声を衛宮は出した。
「だったら遠坂、桜もだけど。今まで『誰がどこで何をしてたか』が知りたいんだ。
———頼めるか?」
「そうね。きっとそれが最適だと思う。
分かったわ、協力しましょう。元々そういうつもりだったんだし、桜もいいでしよ?」
凛は後ろを振り返り、
見られた間桐は、首を
「はい。私は大丈夫です、先輩」
凛はアーチャーに筆記用具を持ってくるよう言いつけて、衛宮もそれについて行った。
廊下の奥に向かう二人を見送ってから、凛は振り返り、
「二人とも、先に
◇ ◇ ◇
本邸から続く、四角い石造りのテラスに出た。見上げると、二階のベランダの床がある。
太陽はすでに傾き始め、オレンジ色に輝いていた。
何歩か歩くと、テラスから庭に続く六段ほどの階段があって、凛が駆け降りる
「式っ、桜ッ! さっさと検証するわよ」と庭の手前に立って手を振る凛を見て、オレと間桐は立ち止まる。
右斜め前にいる間桐の顔が
「凛のヤツ、何であんなにはしゃいでるんだか。
間桐、何か知らない?」
「……閉じ込められるって、怖いんですよ?」
間桐が、石段を降り始める。
一歩、二歩と足を出しながら、間桐の目は凛を見ていた。
「半日間、私たちはずっと宝石を探してたんです。魔術の起点になるルビーを探して、お屋敷の周りを歩いてました。
怖かったんだと、思うんです」
階段を降り切った間桐は、人差し指で左から右に、庭の上空をスーッとなぞる。
「いつ襲われるのか、
右手を唇に当てて、上品に笑った間桐は、首だけを回してオレを見る。目を細めて、口を開けた。
「知ってますか? 両儀さん。
バゼットさんが死んだのもこの結界に
———外に出ようとして玄関の結界に左手が
「それは……」
凛がオレたちを呼ぶ声を無視して、オレは間桐に歩みよった。石段を降りて、間桐と横並びになる。
「それはただの事故じゃないか? だったらどうしてランサーは、衛宮に襲いかかったりなんか……」
「バセットさんの肩の傷口が、もっと
腕が飛んで見えた肉を、フォークで
「そうか」と
「これ。アニメで、デッカいルビーが乗ってた台でしょ。午前中、私が石を投げた時は弾き飛ばされちゃったから、結局まだ
背中を押されて、芝生の前に立つ。オレは腰からナイフを抜いた。
オレの目には、透明な
ゆっくりと息を
焦点を切り替える。目の前の空間の奥にあるモノを
———世界の全てに、死の線が刻まれた。
“回っている空間”に刻まれた線が
結界が、一枚消えた。
次の一枚が回ってくる。
今度はナイフの先端を、そっと線に
手応えもほとんど無く、二枚目も霧散した。
……大丈夫だ。この程度なら、問題なく
オレが
全ての結界の内側に入って、赤い宝石を見下ろしている。魔眼に
「これで……終わりだっ」
振り下ろしたナイフの先は宝石に真っ直ぐ突き刺さり、ついにルビーが割れた瞬間、周囲の結界はかき消えた。
振り返って凛を見て、「終わったぞ」と声をかける。
すると凛は、握った小石を放り投げる。今まで結界があった場所を、小石が何事もなく通りすぎるのを見てやっと、オレの成果を知ったみたいだ。
凛が「おー」と言いながら
どうやら間桐の言葉の通り、ここの結界の捜索は、かなりストレスになってたみたいだ。
「向こうまでは行くなよ。真ん中までだぜ。
そこから向こうは、まだ結界が残ってる」
オレは凛に話しかけて、庭の奥を指差した。
その
———その時、全身の皮膚が圧力を感じた。
まるで、水の中に落ちたような感覚。
息ができる水の中に、頭まで浸かっているかのような……。
この感じ、殺気だ。
急いで、殺気の発生源を見る。
庭の向こうは山になっていて、当然のように、そこは木々で覆われている。そんな山の、
山肌に沿うように車道がはしっていて、ガードレールがあって、ちょうど庭の全体を見渡せる場所に、魔眼を向ける。
———見つけた。
今までのオレなら確実に視界の外だけど、さすが。直死の魔眼の助けを借りて、『そこにいる事』だけは分かった。
そこにいる誰かはオレが見るなか、
◇ ◇ ◇
衛宮とアーチャーが紙とペンを持ってきた。
オレたちはテラスに戻り、木製の丸テーブルを囲んで立った。
衛宮の左隣に
厨房から持ってきたという紅茶のカップを
「遠坂時臣が進めていた脱出計画の事、さっきアーチャーにも聴いたんだけどさ。この家の周り、全て
とりあえずは、バゼットとランサーを殺したヤツは遠坂邸の中にいると思っていい……と、俺は思う」
衛宮と紅茶を飲んでいると、間桐から声がかかった。
「両儀さん。両儀さんは、どうやって先輩が持ってきた“頭”を処分したんですか?
両儀さんの処分がキチンとしてなかったら、そこからバレちゃうかもしれないですよね」
間桐はカップをテーブルに置いて、ジッとオレを見つめている。
「煮込んだからな、問題ないよ」
「DNA検査とか、されたらマズいんじゃないですか?」
オレは、そんな間桐に笑ってみせる。
「DNAって、
———DNAの
あんな
ただこの
———オレが“首”を処分する
あとは炭酸ソーダでもぶっ込んでやれば完璧だった。
「そうなんですか?」と首を
オレもだんだんと面倒になって「PCRと同じだよ」と、無理矢理に話を切り上げた。
「ぴぃしーあーる?」
「そうか、別の意味で伝わってたな」
首を
「PCRってのは、本来は検査方法の名前じゃない、“DNAの増幅方法”の名前なんだ。
“ポリメラーゼ
この時、DNAを
その操作をもう一度やればさらに倍、三度目をやればそのまた倍に。ネズミ算的に増えていくから———10回目で1000倍、20回目で100万倍。
こうやって、唾液中に含まれるDNAを爆発的に増幅させると、検査がとてもやりやすくなる。
実際、
「もっとも、PCRの
紅茶を飲んでから、間桐を向いて
「———だから、オレの証拠隠滅が完全かどうかを疑うのはお
「そうですか……。
目を細めた間桐の言葉。その
「なんだよ。魔眼の性能が知りたかったのか。ならそう言えよ。
いつでも相手になってやる」
「おいッ、両儀」
衛宮の声が割り込んできた。仕方なく目線を間桐からそらすと、衛宮の
「それだと普通に殺人になるぞ。ケンカを売るな、な?」
「別に……売ってない」
衛宮からも顔を
間桐は凛と談笑していた。
「アイツ……」
「両儀。あの時のことなんだが」
後頭部に声がぶつかる。
「何だよ」
「遠坂と桜に、首切りの事件を説明した時だ。最後まで踏み込まなかっただろ? お前の事だ、事件の全体像くらいは
「……違う」
オレは否定した。
配られた紅茶を飲むために下を向いて、ティーカップの水面を見る。
「確証がなかっただけだ。あれ以上踏み込む
「その情報、この屋敷なら全部そろうだろ? だけどお前はそれをしないで、ぼかしたままで話を切った。
———そのせいでお前だけが、事件の全体像を知らないままだ」
オレは、動かない。
ティーカップを取り上げて、
「あの二人なら、おまえの味方になってくれると思った。
おまえがもし自首をするのなら、きっとオレは敵になる」
「つまり、『俺が人を殺してない事をバラすぞ』ってことか。そうすれば、俺の計画は破綻するから」
水面を顔に近づけて、紅茶を、一口すする。
———オレはきっと、警察に話してしまうだろう。
自分自身の意志を、オレはあまり信用しない。だからきっと、『衛宮の刑が軽くなるかも』という誘惑に、いつか勝てなくなるだろう。
その時のオレは、きっと衛宮の敵になる。
———もっとも、こういった妄想は、“全てが上手く終わったら”の話だ。『ここから出て、全てが元通りになったとしたら』という、ただのシミュレーションに
顔を上げてテーブルの向こう、談笑する少女たちを見る。
この二人は、衛宮が偽物だと知らなかったにもかかわらず、あの時衛宮を
この二人ならきっと、全てをひっくるめた上で、“衛宮の想い”を大切に、応援してくれると思うから。
視線を、右横にスライドさせる。
衛宮は手元の紙を見ながら、右手を
「———その紙。ランサーが死んだ時間帯、昼食を食べて以降のアリバイだろ?
怪しいヤツ、誰かいたのか?」
「うん」と衛宮は
「昼食を食べて以降、ランサーを殺せるだけの時間を
———両儀。お前だけが、あの時間帯の
ランサーは昼食には出てきていた。だから、殺されたのはその後になる。
『気分が悪いし、眠気もする』と言って部屋に引っ込んでいたランサーを殺すには、当然、部屋に侵入する必要がある。
衛宮が言うには、オレ以外の全員が、
女性陣は三人共、
「両儀、つまりは『時臣とオッサンが、自分を追い抜いてランサーを殺すなんて出来ない』とお前が言う以上、ランサーを殺すことができるのは、お前しかいない事になっちまう」
「だからちょっと悩んでたんだ」と言って、衛宮は紙に目を落として、頭を
「時臣さんには殺害不可能だったのか? 本当に? 例えばトイレに行くふりをして……とか、方法としてはありだと思うけど」
「“鍵のかかった部屋からの脱出”、それはどう考えるんだ?」
そう言って、オレはクルッとひっくり返る。テーブルに腰掛け、庭を見てからそっと、左を向いた。
衛宮と目が合う。
「時臣を追い詰めたいなら、まずは動機が必要だ。あの男は
あの男が誰かを『どうしても殺したい』と思ったとしても、遠坂邸から脱出した後で殺せばいいんだ。
“バゼット殺し”にしたってそうだろ? こんな状況下でわざわざ殺すか?」
こんな状況で殺したら、容疑者はかなり絞られる。
だってイベント参加者以外には、殺せるヤツなんていないんだから。
さっき山にいたヤツが
あのザイードですら、ここの結界を、
それを言うと衛宮は笑った。
「両儀に聴きたかったんだけどさ。お前、合気道は使えるのか?
確か、両儀式は使えるみたいな設定だった
「さあな。っていうか、アレはどういう原理なんだ?」
「いやッ、俺に言われてもな……」
「オレにだって似たことはできる。でもあくまで“似たこと”でしかない。
武術の技を応用して
衛宮は黙った。
結局、コイツが何を知りたかったのかも分からないまま、衛宮は顔を上げ、両手を合わせて、この場のみんなにお願いをした。
「なあ……もう一度、現場を見せてくれないか?」
◇ ◇ ◇
———密室を調べる。
衛宮はそう言って、オレたちをランサーの部屋まで連れて来た。
今度は
オレと衛宮は入り口に戻って、オレ一人だけ外に出る。衛宮はオレに、糸の
オレの手から
———引っかかって動かない。
腕に力を入れても
“ドッ”という衝撃と共に、オレは一歩たたらを
右手が軽い。糸は足元で
「切れたぞ、糸」
声をかけると
衛宮は右手を軽く振って、糸をブラブラさせていた。
「ダメだったか」と衛宮が笑う。
「さすがにここから、鍵を通すわけにはいかないな」
衛宮に糸を突き返し、部屋の中にオレは入った。右側の
それからはずっと、衛宮の動きを目で追った。
衛宮はランサーの死体に近づいて、胸の傷をジロジロと見る。この体の視力ならここからでもはっきりと見えるけど、かなり特殊な刺し傷だった。
———胸の傷口が、ズタズタに
衛宮はランサーの死体から離れ、ベッドの足元に転がっている赤い槍を
……少なくとも、
そのあと衛宮は、天井を眺めながら窓まで歩き、間桐と一緒に窓の点検を始めていた。
『正常に開け閉めできるか』から始まり、『
その後は、『鍵が通るだけの隙間があるかどうか』を検証するために部屋中を探して回っている。
結局、ベッドの下を
「
「日が暮れたぞ衛宮。この部屋だって暗くなったし、このくらいで切り上げろ。
———何もなかったんだし。
オレの声を聞いたのか、間桐と一緒になってアーチャーをイジっていた凛は「アッ」と手を叩き、「先にお風呂に入りましょうか」と提案してきた。
どうもオッサン二人とは、別々に夕食を取るらしい。
◇ ◇ ◇
「いいのか?」と衛宮が聴いた。
「いいのよ」と、凛が答えた。
オレたちに割り当てられた寝室が、とても久しぶりに思えてしまった。
目の前にアンティークデスクがあって、その向こうが窓になっていて、視線を右に転じると、衛宮と凛とが話をしている。
あくびをして、二人を見る。
「俺たち、最有力容疑者だろ?」
「おじさんたちの
「今夜、襲われるかもしれないぞ」
「アーチャーに
「ライダーは気分が悪いって……」
「桜と一緒に私たちの寝室で寝るの。アーチャーは門番にするから、今夜のことは大丈夫よ」
「アーチャーが大丈夫じゃないような……」
撃沈した衛宮が、
オレは衛宮を横目で追った。
黒いTシャツとベージュ色のチノパンツ。衛宮の定番の寝間着だった。
「衛宮、聴いてもいい?」
オレは視線を前に戻す。正面にある窓にはカーテンがかけられていて、隙間から赤い光が見える。
「“ランサー殺し”の事件。怪しいのがオレだけなのはよく分かった。
じゃあバゼットの時はどうなんだ?」
オレたちはずっと部屋に閉じこもっていたから、アリバイなんて無い
「無い」と衛宮は言って、膝の上で両手を組んだ。
「みんなに無かった。全員が仮眠を取ってたらしいから、あの
ランサーが起きた時にバゼットさんがいなくて、荷物はあるのに帰ってこないから、屋敷の中を探してたらしい。玄関の
その後は、他の参加者たちが続々と集まってきて、オレたちが降りた時にはもう、昨晩の、“衛宮とバゼットとの
「その後は知っての通りだ。
両儀が地下室に連れて行かれている
———そして、昼食後も監視が続いたという
オレは編み上げブーツから両足を抜いて、ブラブラと振りながら続きを
「
「昼食後とほとんど一緒だ。
午前中、女性陣はずっと一緒だったらしいし、そこにランサーも混ざってた。どうもランサーを
昼食を食べた後、部屋に戻るランサーに
衛宮がこっちを向いたのが、気配で分かった。
「両儀は、おじさんたちとずっと一緒にいたんだろ?」
「そう。朝食後にトイレに行って、それからはずっと一緒だった。
その時のトイレだって、交代で入ったんだ。外で
犯行にしろ準備にしろ、まず不可能だと、オレは思う」
隣の衛宮が、上半身をベッドに倒した。
目を向けると、両手を組んで後頭部に回している。そんな衛宮と目が合ったから、ちょっと、
衛宮の瞳が、少しだけ
「言いたいことがあるのなら、全部ここで吐いちまえ。オレの方には、もう知られたくない秘密もないしな」
「それなら」と前置きした衛宮は、深く息を吸っていた。
「……遠坂時臣と、知り合いなのか?
どうもあの人の
「おそらくは、な」
オレもベッドに寝そべる。
右肩を下にして、衛宮を見たまま横になる。コイツの目は、真っ直ぐに天井を見つめていた。
「あの男、多分オレの父親だよ。
かなり気合を入れてコスプレしてたから分からなかったけど、たぶんな」
「それは……。どういう人なんだ?」
「
衛宮の顔がこっちを向いた。
右腕を枕にしたオレは、衛宮の頬をそっと
「才能もあって努力したのだと思う。あの男は
必ず
オレの父親は医者ではない。
あの男は、いつもオーナーの立場を取る。
「見込みのある者を見つけるのが上手かった。
才能のあるヤツに近づいて、資金援助を申し出るんだ」
『それなら、ウチが
そうすれば、もっと稼ぐことができるでしょう?』と。
「ありがたい話だろう? だからみんな受けてくれる。
だけど代わりに、ウチの社員が一人付くんだ。“CEO”とか“
会社の社長は“商売の専門家”として商売に
株式の45%くらいは、最初からウチが握ってる」
あの男が不正をする時は、必ず誰か別人にやらせる。
景気が悪くなって業績が悪化しても、関係ない。だってウチは、一番最初に出資したから、不足分を取り返さないといけないだろう?
相手の社長は、会社を設立する時に、ウチから借金してるんだから。
その社長じゃ無理そうだったら別のヤツに変えればいい。担保としての利権を取り上げ、アイデアを持って来た別人にやらせる。
———オレは、高校の卒業と同時に家を出た。
衛宮の頬を親指で撫でる。
コイツの肌は
「だから、時臣が犯人だとは思えない。
アイツが人を殺すなら、必ず“誰か”にやらせるんだから」
「参考になったか」とオレが聴くと、「時臣さんの
衛宮はオレに
「今日、バゼットさんの遺体を見てきたんだ。左肩から先が完全に消し飛んでいた。玄関で倒れていたみたいだし、おそらくは失血死だから。
状況だけなら明らかに、『結界に触れた結果起きた事故』なんだけど……」
左肩の傷口が、何者かに
頬を
「『傷口が抉られてた』ってヤツだな。偶然、そう見えただけって可能性はあるのか?」
「多分ない、と思う。
バゼットさんの左肩は、
アーチャーのヤツも同意見だったし、たぶんな」
「つまり犯人は、瀕死のバゼットに近づいたって言うのか? 放っておけば死ぬと、分かっていた
曖昧に笑って、衛宮はオレの手をどける。腹筋に力を入れて起き上がり、「そろそろ寝ようか」と衛宮は言った。
「明日、両儀にもバゼットさんを見てほしいんだ」
「オレに?」
同じように起き上がったオレは、
ベッドの奥側に足を入れ、手前側に衛宮を呼んだ。
「直死の魔眼が、役に立つのか?」
「そういう
二人並んで寝転がる。
衛宮は「違和感があるんだよな」と言いながら、布団の中でモゾモゾ動いた。
「口にするほど確信があるわけじゃないんだけどさ、バゼットさんが左腕を失って、ランサーは心臓をやられてた。
———どちらも、作中と同じ死に方だよなって思って」
「どうだか。ランサーの心臓、あれは
衛宮が急にこっちを見る。
オレも天井から目を外して、右を向いた。衛宮を見ると———
「ホントか、両儀」
「何のこと———」
「ランサーの傷だ。アレはやっぱり、普通に刃物を振り下ろしたんでは、付かない傷なんだな」
衛宮の急変に目を丸くしたオレは、それでも、死体を見た時の事を思い返した。
「それは間違いない。刃物を上から何度か刺しただけだと、あんな風にはならない。
少なくとも……傷口に突っ込んだ状態で、槍を
ランサーの傷を見た時オレは、本当にゲイ・ボルクで殺されたのかと思った。それほど、傷口が中でズタズタだった。だから———」
「両儀」
衛宮は布団を思いっきりめくり上げ、ベッド下から靴下を出した。
それから靴を履いて、
「両儀、準備をしてくれ。戦闘準備だ」
オレは衛宮の表情を見て、ただ
「ちょうど、
いいよ、分かった」
ベッドの上に立って
「殺し合いになるんだろ?
それなら、
ラグラン袖のジャージを
赤い革ジャンを手に取って、一気に