ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
コモンが本部に呼び出されて二日後。
AIユザレが設置した秘匿回線を介して、コモンからようやく現状を知らせる通信が届いた。
「宇宙人?」
聞き返すと、コモンは頷いて、そして補足資料としていくつかの画像データを送ってきた。
「プロメテの子の捜索に協力してくれていた現地警察が不審人物を発見し、職務質問をしたところ、戦闘に発展。警察官三名が負傷し、一人が行方不明となっています」
行方不明? そう頭の片隅で疑問を抱きながら送られてきた画像ファイルを開いた。
「混乱の中で撮影されたもので、ブレブレなんですが」
コモンの言う通り、送られてきた画像は、専門家であろうとも、とてもじゃないがまともに判別できる代物ではないだろう。だが、前作知識を持った俺からすれば、わずかに見切れた被写体には見覚えがある。
「カラス頭の、ヒト型宇宙人……。レイビーク星人か!?」
レイビーク星人は、原作ウルトラマンティガに登場した宇宙人だ。基本的に複数体で行動する宇宙人で、地球人を奴隷として使役するために拉致誘拐を画策し地球に飛来した。
巨大化能力はないと推察され、単純な身体能力も決して高くはない。だが、複数個体で行動することが多く、連携して戦闘を仕掛けてくる。加えて、携帯している銃には射撃対象をマイクロ化して無力化する能力があり、直撃すれば捕まることは避けられないだろう。
「人攫い……まるでマフィアだな」
横で通信を聞いていたヒメヤがため息交じりに零した。
そんなレイビーク星人は、原作では日本で出現した。誘拐した被害者たちはGUTSによって保護され、計画は失敗となった。最終的には母艦ごとティガに破壊され撃沈されている。
アメリカで出現したという記録は、少なくとも俺の記憶の中にはない。
なぜ、レイビーク星人はアメリカに現れた?
通信越しのコモンは「確かなことはわかりませんが」と続けた。
「負傷した警察官から事情を伺いました。連中は何かを探しているようだった、とだけ」
レイビーク星人の目的は、奴隷としての人材確保だ。本来、ただの地球人でも用途として十分だろうが、より『特異』な個体を欲しがった可能性はかなり高い。
プロメテの子捜索班とバッティングしたことを鑑みても、ナイトレイダー側とレイビーク星人側の標的は重なっているとみて間違いない。
「レイビーク星人は、プロメテの子を狙っている……?」
*
レイビーク星人という悪意を持った第三者の出現。これによりプロメテの子案件に、見えない時間制限が加わった。
間違っても先を越されるわけにはいかない。とはいえ、ナイトレイダー側はすでに出せる人員は出し尽くしている。
「流石にゆっくり寝てられない、よな」
体調は万全とはいいがたい。だが、セーフハウスでゆっくりと体力が回復するのを待っていられる状況じゃないことは確かだ。微力ながら、俺もプロメテの子捜索に加わることにした。
ま、加わるといっても、ナイトレイダー側と密に連携することはできないのだが。
「さて、どう探すかな」
すでに、プロメテの子の行動履歴や目撃証言などから、彼らの行動指針は掴みつつある。カジノ施設に出入りし、超能力を用いて荒稼ぎしながら、彼らは転々と移動している。並行して『薬』の開発もしなければならない彼らは、最低限開発設備のある研究施設に定期的に帰ってきているはず。
「各地のカジノ施設、それにこれまでの事件で閉鎖したり管理者が変わった研究施設のピックアップはナイトレイダー側がすでに済ませています」
AIユザレの言葉にうなずく。
「そのどちらも、現地警察と協力して最低限の人員は確保して監視している、と」
予知能力を相手にするうえで、最も効果的なのは『予知したところで何もできない』という状態にすることだ。未来がわかったところで、現在の彼らの切れる手札は有限なのだから、一枚ずつ手札を切らせれば、最終的にプロメテの子は何をどうしても捕まる未来しか見えないという状態になる。
一個ずつ逃げ場をつぶしていけば、いずれ彼らはどこにも行けなくなる。下手に暴発させないように、ゆっくりと真綿で締め上げるようにして、彼らを諦めさせる。最終的には、彼ら自らで、ナイトレイダー側に投降してもらう。
俺が目論んでいたのは、そんな落としどころだったのだが。
「レイビーク星人がいないなら、もう少し時間をかけてもいいんだけど」
奴らがやってきて、時間をかけるという手段をとれなくなった。
とはいえ、
「不完全とはいえ予知能力を擁するプロメテの子相手だ。苦戦するのは予想内だが……。ナイトレイダー側が妙に手こずっているという印象はある。時間がかかり過ぎている」
改めてプロメテの子側のプロフィールを思い出していく。
プロメテの子13人のうち、全員が特殊能力を持っているわけではない。能力者はそのうち5人で、残り8人は天才的な身体能力、あるいは頭脳を持ち合わせているが、それだけのはずだ。
「予知能力者、透視能力者が一人ずつ。スプーンをかろうじて曲げられる程度の弱い念動力が一人。あとは、ヒトを対象とするタイプと、モノを対象とするタイプのサイコメトリー。直接的な戦闘能力はないが、『逃げ』に徹すれば厄介」
だが、その厄介の程度も、そこまでではない。人海戦術を何度も取られれば、いずれ立ち行かなくなるだろうことは簡単に想像がつく。
あるいは、
「キリノの奴が、俺の想定以上に、彼らに『入れ込んでいる』可能性か」
だとしても、いや、だったら猶更。彼らプロメテの子が今のままでは八方塞がりだってこと、キリノがわからないはずがないんだが。
「どうにも、プロメテの子の逃走能力はこちらの想定以上だ。プロメテの子側から網をかけると、俺もナイトレイダー同様に煙に巻かれそうだな」
「では、どうしますか?」
「なら、こっちはナイトレイダーにはできない方法で探そう」
「と、いうと?」
AIユザレに問われ、俺――――ではなく、俺の足元でモフモフが自信満々に吠えた。
「ワンッ」
*
トンカラリン遺跡からどこからともなく現れて、いつの間にか居座るようになったこの小型犬――『ガーディー』は、ただの犬ではない。その正体は、3千万年前、巨人とともに轡を並べて戦った狛犬怪獣の生まれ変わりなのだ。
「ガーディーは嗅覚だけじゃなく、超戦士特有の超感覚も非常に鋭い。こういう時はとっても頼りになる」
「ワンッ!!」
へっへっへ、と舌を出しながらも自信気に吠えるガーディーを撫でる。ついこの前に『1000年前に飛ばされたとき』も、ずいぶんと助けられた。
「こいつの嗅覚と超直感で、理屈をすっ飛ばす」
超能力には超能力で対抗というわけだ。
俺たちの期待を一身に受けたガーディーが時折立ち止まりながらも、順調に街中を進んでいく。
「クンクンクンクン」
鼻を引くつかせて歩くガーディー。そのお尻を追いかける。
そして、ガーディーが唐突に顔を上げる。そして一心不乱に駆け出した。
「お、おい!!」
見つけたのか!! 割と思い付きだったんだが。
猛スピードで路地裏を走るガーディーが、さらに角を曲がった。そして「バウワウッ」という威嚇音。
基本的には穏やかなガーディーの威嚇するような唸り声。見つけたのはきっとプロメテの子じゃないな。子供相手に、こんな威嚇はしないだろう。おそらくは、
「そこまでだ!! レイビー―――」
ク星人、と言いかけて、止まる。
唐突に表れたガーディーと俺を見据えるのは、カラスではなく宝石の眼。あるいは顔そのもの。
赤と青、二人の鉱石系異形型宇宙人。その姿を、原作知識を持つ俺は知っている。
スタンデル星人。昼と夜を割って相争うその二人が、尋常でない雰囲気で向かい合っていた。
「そ、そっちか~」
これはいよいよ手に負えなくなってきたかもしれない。