ペルソナ5のクリア後の話

地元の高校に戻った雨宮蓮。
その悪い噂に、隣の席の女子は怯えていた

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隣の席の男子は少年院帰り

 三年生のクラス替えで、私は絶望に包まれました。

 そのうちの一つは、隣の席が、雨宮漣君——

 今年はじめ、少年院に入っていたという札付きのワルだった事です。クラス全体の空気も、心なしかピリついています。

 

 詳しい事情は知りません。

 彼はもともとこの学校の一年生でしたが、傷害事件を起こして逮捕。

 地元にいられなくなり、東京へ引っ越したとか。

 ですがそこでも、何らかの理由で少年院に入れられ……最近地元へ帰ってきた。

 とんでもない経歴です。

 えん罪という噂もあるのですが……君子危うきに近寄らず。『関わり合いにならないのが一番』と思っていたら。

「よろしく」

 え?

 いま、雨宮君に声をかけられました。

 ——それにしても、なんて素敵な声でしょうか。

 まるで声優の福山潤さんのようなセクシーさ。世間を賑わせた『心の怪盗団』のリーダーの声にも、少し似ています……って。

(挨拶を返さないと)

 無視したら、後でシメられるかもしれません。

 私は雨宮君の方を向きながらも、目を合わせないように挨拶……

 え?

 机から、黒猫が顔を出しています。

 『こいつと仲良くしてやってくれな』という風な、表情を浮かべています。とても利口そうです。

(な、なんで猫を連れてるの?)

 さすがアウトロー……いや、これアウトローでしょうか?

 

 私を始め、学園の皆から、恐怖の対象として見られていた雨宮君ですが。

 すぐに、思わぬ方向で注目を集めました。

 とにかく、能力がずば抜けているのです。

 定期テストでは一位。体力測定でも一位。

 生活態度も模範的で喧嘩一つしません。それどころか、学校の花壇に、花や野菜を植えたりしています。(なぜか異常に生育が早いです)

 ——ただ、得体の知れないところもあります。

 私がクラスメイトに連れられてゲーセンに寄った際。

 雨宮君は『ガンナバウト』で、有名プレーヤー『キング』に次ぐ、日本二位のスコアをたたき出していました。半端ない腕です。

 あと、先日の自習時間の話ですが……

 クラスの皆が談笑する仲、雨宮君は教科書を机に立てて、その陰でカチャカチャと作業をしていました。

 気になって、こっそり見てみると……

(!?)

 雨宮君は凄まじい器用さで、火炎瓶にスタンガン……それに用途の分からない、棒状の何かを作っていました。

(か、火炎瓶なんてなんに使うの!?)

 やはり危険人物なのでしょうか。

 怯える私。

 その視線に気付いたのか、雨宮君は……「秘密だよ」と、唇に人差し指を当てました。

 その仕草があまりにもセクシーで、私は思わず「はい」とうなずいてしまいました。まさに魔性の男です。

 

 そんな風に、表向きは品行方正に暮らしている雨宮君。

 ですが彼に対する悪い噂は消えませんでした。

『点数稼ぎしてるだけ』『すぐにボロを出す』……

 それは優秀さへの、やっかみもあったでしょう。 

 ですが雨宮君は、そんな噂などまるで……本当にまるで、気にしてない様子で、飄々と過ごしています。

 周りの顔色を伺ってばかりの私にとって、雨宮君はいつしか憧れの存在へと変わっていきました。

 

 ある日の放課後。

 私は重い足取りで、人気のいない校舎裏に向かっていました。

 キョウコ、という、クラスの女子のトップに君臨する女に呼び出されたからです。

「おせえよ」

 キョウコは私を見て、不機嫌そうに言いました。隣には、その彼氏のナオヤが煙草をふかしています。

 私をゲーセンに連れていったのは、この二人です。

 一緒に遊ぶためでなく、ゲーム代を出させるため……気弱な私は、一年生の頃からキョウコとナオヤに手ひどくいじめられ、子分扱いされていました。

 キョウコがいいました。 

「雨宮さー、あいつ調子乗ってると思わね?」

 調子に乗ってる、の意味がわかりません。ですが私は、処世術である曖昧な笑いを浮かべます。

「ドロップアウトしたヤツが目立ちやがってよ。ナオヤの方がずっとカッコイイってのに」

「よく言ったキョウコ。あいつ『ガンナバウト』も、なんかチート使ってたに違いない。あそこのゲーセンの最高スコアは、オレだったってのによ」

 私はこの下らない時間が、一秒でも早く終わることを願っていましたが……

 次第にキョウコの話が、不穏な方に向かっていきます。

「雨宮にもういちど問題起こさせてやるんだ。そうすれば流石にもう、学校には戻ってこられないだろ」

「も、問題を起こさせる?」

 驚く私。

 キョウコは少し考えたあと、私を見て、

「そうだ! あんた雨宮に、犯されなよ」

 意味がわからず、呆然とする私。

「明日の、男女合同の体育のバスケ。終わったら適当な口実を作って雨宮と二人きりで体育倉庫に入りな。で、私は外からカギをかけて、閉じ込める」

「……」

「したらあんたは、服を脱いで叫べ。私が先生と一緒に駆けつけるから『雨宮に犯された』と証言するんだ」

 あくまで犯されたフリのようです。

 ですが大騒ぎになるでしょうし、雨宮君を退学にするなんて、そんな……。

 ナオヤがヘラヘラ笑いながら、

「さすがキョウコ。名案だ。でもよ、こいつが本当に雨宮に犯されたらどうすんの?」

「そんときゃそんときでしょ」

 キョウコは私の事など、道具としか思っていないようです。

 あまりの扱いに、反論しかけたとき。

 キョウコは私の髪を掴み、引っ張ります。ぶちぶちと何本か抜ける感触がしました。

「しっかりやれよ。また一年の時みたいに、虫食わされたくなければな」

 恐怖と、おぞましい記憶で、私は何も言えなくなりました。

 

 

 そして、翌日。

 体育館でのバスケの授業が終わったあと。

 私は、雨宮君に声をかけました。

「雨宮君、ボール片付けるの手伝ってくれない?」

「了解した」

 雨宮君は嫌な顔一つせず、一緒にボールが入ったカゴを、体育倉庫へ運んでくれました。

 いずれキョウコがタイミングを見計らって、外からカギをかけるはずです。それが『犯されたフリ』を始めるとき。

「手伝ってくれてありがとう、雨宮君。あのさ——」

 私はどうでもいい話をして、時間を稼ぎます。すると。

 

 がちゃん。

 

 ドアのカギがかかりました。

(う、うう)

 これから服を脱ぎ、悲鳴をあげて、『雨宮君に犯された』と言い張らねばなりません。

 嘘をつく恐怖、雨宮君を陥れる罪悪感はあるのですが……

 キョウコにいじめられた恐怖は、それをも軽く塗りつぶしてしまいます。

 もう虫を食べさせられるのは嫌です。

(やるしかない!)

 私が上着の裾に手をかけると。

 雨宮君がこちらへ向かってきました。ま、まさか本当に犯されて……と思ったら。

 雨宮君は私を素通りして、ドアへ。

 そしてポケットから、自習時間中に作っていた棒状のものを、鍵穴に突っ込んで……

 五秒も経たずに、あけてしまいました。

「な、なんで開くの!? なにそれ!?」

「キーピックだ」

 キーピックって、カギをあける道具? ゲームでしか見たことないよ。

「出よう」

 雨宮君と一緒に体育倉庫を出ると、ナオヤとキョウコが逃げていきます。カギが外れて、驚いているようです。

 『犯された』という狂言はせずにすみました。

 ——ですが、うまくいかなかった腹いせに、キョウコに何をされるかわかりません。

(こ、怖い……)

 己を抱いて震えたとき、雨宮君がいいました。

「良かったら、事情を教えてくれないかな」

 その声には、慈母神のような優しさがあって……

 私は、思わずうなずいていました。

 

 

 放課後。

 私は雨宮君とビッグバン・バーガーに寄り、向き合いました。

 そして、事情を説明します。

 自分をいじめているナオヤとキョウコに脅され、雨宮君を陥れるために『犯されたフリ』をしようとしたのだと。

 雨宮君——そして何故か、彼がいつも鞄に入れている猫も、真剣な表情で聞いています。

 私は謝りました。

「陥れようとして、ごめんなさい」

「君は、何も悪くない」

 雨宮君は優しく言いました。

 ですがその目には……静かな怒りが渦巻いているようでした。

 雨宮君は、何故か猫とうなずきあいます。

 そして雨宮君は私を家まで送ってくれたあと、スマホを弄り始めました。どこかに連絡をとっているのでしょうか。

 

 

 それから数日後。

 なんとキョウコとナオヤは、私に謝りに来ました。

 泣いて今までのイジメの許しを乞い、ついには先生に自ら悪行を報告したのです。結果、二人は長期の停学になりました。

(人が変わったよう)

 まるで『心の怪盗団』に悪い心を盗まれてしまったように。

 改心のタイミングから考えると、もしや……

(雨宮君は、怪盗団!?)

 怪盗団は、警察からマークされる存在。

 ですがそんなことどうでもいいです。雨宮君は、私を救ってくれたのですから。

 そんな彼に惚れるのは、当然といえるでしょう。

 ですが告白もせずグズグズするうちに、時は過ぎ……秋の文化祭がやってきました。

 

 我がクラスはコスプレ喫茶。男子は執事に、女子はメイドになってそれぞれおもてなしをします。

 雨宮君は準備でも、開店後も大活躍でした。

 超魔術のような器用さで内装を整えます。

 それだけでなく彼の淹れたコーヒー、作ったカレーはビックリするほど美味しく、皆の度肝を抜きました。

 私の思慕は抑えきれなくなりました。給仕をしながら、

(文化祭の最後に告白しよう)

 と思ったとき。

「こんにちは!」

 店内に、とんでもない美少女が入ってきました。

 すらりとした抜群のスタイル。外人さんでしょうか。金髪碧眼です。あれ? 何処かでみたことあるような……

 私は気後れしつつ、

「い、いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「んー、そうなんだけど」

 顎に指を当て、

「漣、いる? 雨宮漣」

 雨宮君の知りあい? しかも名前で呼ぶような!?

 店内がざわめく中、調理担当をしていた雨宮君が顔を出しました。

「杏」

「やっほー! 漣!」

 杏……?

 あ、この子、人気急上昇のモデルの、高巻杏だ!

 杏さんは雨宮君に……なんと飛びつき、とろけそうな目で、

「今日、文化祭だってメッセで教えてくれたの。だからサプライズで来たんだ。こんなに可愛いカノジョに会えて、嬉しいっしょ?」

(カノジョ!?)

 雨宮君、芸能人と付き合ってるんですか!?

 そんな。じゃあ私なんかが、入る隙どこにも……

 そう絶望していると。

 女性が、ぞろぞろと入ってきて、雨宮君を取り囲みました。

 

 目つきの鋭い、ショートカットの女性。

 くせっ毛で、ゆるふわな雰囲気の女性。

 オレンジ色に髪を染めた、眼鏡の女の子。

 スポーツでもしているのか、均整のとれたスタイルの、赤っぽい髪の少女。

 『美しすぎる棋士』として話題の東郷一二三!

 パンクファッションの上に白衣を着た美女。

 ラフなジーンズ姿で、額にサングラスを乗せた女性。

 ストライプの服を着たアラサー女性。

 ゆるふわで、浮世離れした感じの美女。

 

 ……いや、どれだけいるんですか。

 杏さんも含めると、なんと合計十人。

 彼女たちは、口々にいいます。

「ねえ、漣?」「杏さんが彼女って」「どどど、どういうことだ?」「彼女は私でしょ!」「いえ、私です〜〜」

 う、うわぁ。

 その後の修羅場は、言語に絶するものでした。

(雨宮君、十股するなんて)

 ここまで気の多い人であったとは。

 ……ならば、私にもワンチャンあるかもしれません。

 ボコボコにされ、倒れ伏す雨宮君を見て、そんな希望を抱くのでした。

 

 


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