運命の戦士   作:発光体(プラズマ)

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第10話 怪獣夢想地帯

「ここは……どこだ……?」

シン・アスカは周囲を見回しながらつぶやいた。コンクリートジャングルがシンを取り囲んでいる。

「確か俺は基地にいたはず……くっ、なにも思い出せない」

記憶はかすみがかったようにはっきりとしない。自分がなぜこのような場所にいるのかいくら考えても答えが見つからなかった。

「連絡もつかないし……取りあえずこの辺りを探索して、ここがどこなのか調べなくては」

一先ず行動するべきだ。そうすることで分かることがある。スーパーGUTSのポリシーだ。

シンは周囲に何か手がかりになりそうなものが無いか調べながらしばらくの間、歩き回った。

 

「人っこ一人いない…」

シンは今いる場所を探索している途中、まずそんなことを思った。この場所はいかにもビジネスマンであふれかえっていそうな都市のようであるのに、自分以外の人間がいないようなのだ。

「それだけじゃない、なんていうか奇怪な場所だ」

ビルや時計などのオブジェを観察するうち、シンは少なくともこんな場所は知らない、ということを確信した。だというのに、この都市には妙に見覚えがある。「知らない」のに「知っている」気がする。奇怪としか表現の仕様がなかった。

「うん?」

視界の隅に一瞬人影が写ったような気がした。人影がいたはずの位置に目を向けると、どうやらシンより少し背が小さな人間がいるようにみえた。その場所は首が痛くなるような高層ビルの陰になっている。そのせいか、顔立ちや服装までは判然としない。

「動くな!」

声を大きく張って、腰からGUTSブラスターを抜く。人の気配が全くしない都市で初めて見かけた人間である。まず警戒するべきだ、とシンの経験が告げていた。

一歩、二歩と慎重に近づく。するとどういうことか、相手も自分の方に近づいてきた。警戒心をさらに高めてシンはブラスターを構える。

しかし、さらに近づいた時シンは違和感を覚えた。相手の姿に見覚えがあるような気がしたのだ。服装や顔が分かる距離まで来たとき、シンは思わず脱力してしまった。なんということは無い。人影の正体は、鏡面処理されたビルの窓ガラスに映ったシン自身だったのだ。ガラスに向かって手足を動かし、かつて遭遇した黒シンが再び現れたわけではないということも確認する。

「どうも警戒しすぎているみたいだ」

気持ちを入れ替えようとしたその時、今度こそ確定的な異常をシンは見つけた。シンの鏡像の頭上にいつの間にか巨大な龍が映りこんでいたである。

「なんだと!」

すぐさま振り向くと、ビルに移っていたのと全く同じ龍がシンの背後に浮かんでいた。

動悸が加速する。震え出しそうになる足をこらえ、シンはすぐさまGUTSブラスターを構えた。龍が自分の方に飛びかかって来る前に攻撃を仕掛けるつもりだった。

しかし龍は一度首を僅かに下に降ると、身をひるがえしてビルの谷間を姿を消していった。

「ま、待て!」

シンはすぐさま龍を追い出した。あの龍はこの世界のなんなのか?まるで見当がつかないが、しかし現状何か調べる対象と言えばあの龍しかない。手がかりの可能性をみすみす失うわけにはいかなかった。

必死に走るシンの脳裏に一つだけ具体的な印象が残った。あの龍が首を振る仕草は、まるで、自分が龍に気付いたことを確認したかのようであった、と。

 

ビルの角を曲がったシンの視界が唐突に暗くなる。巨大な影がシンを包んでいた。龍は見当たず、その代わりとでも言おうか、巨大怪獣がシンを見下ろしていた。蟻の顎のような巨大な二本の角をもった頭部、鎌になった両腕を備えた、昆虫と恐竜を混ぜ合わせたような怪獣だ。

「あいつは……たしか甲獣ジョバリエ!」

かつてメトロポリス郊外の住宅地そばにあらわれた怪獣である。甲虫のような硬くタフな肉体をもち、破壊光線を武器としたという。

まさに今目の前で、ジョバリエがその二本角の角度を下げ、こちらにむけた。奴が光線を出す前のk準備運動だ。

「うわあっ!」

シンは横っ飛びにビルの角を戻って曲がり、身を守る。稲妻状のエネルギーがアスファルトを一掃し、爆発がおこる。シンがさきほどまでいた道は今は無残な姿になっていた。

今は戦うしかない。状況がいまだに読めないが、一方的に殺されてたまるか。

そう思った時、既に何度目か数えることもできなくなった不思議な事がシンの身に起こった。

いつのまにかシンの視界が変わった。先ほどまで見上げていたビルは既に見下ろすほどになっていた。シンの内に在る巨人の力が表に出ていた。身長54m、体重4万4千トンの戦士の姿に変身していたのだ。

シンはビルのガラスに映る自分の姿がいつもと違うことに気付いた。それまでは黒と銀だけだった体に、赤が増えている。黒のラインに寄り添うように赤のラインが通っていた。内からこれまで以上の力があふれ出るのを感じる。赤のラインは湧き出る力に呼応するようにいっそう輝きを増した。

今の状況を思い出したシンが我に返りジョバリエに向き直ると、怪獣はシンを待ち構えるように見据えていた。シンが自分に意識を向けたのを確認すると、再び破壊光線を放ってくる。

両腕を交差させ防御の構えを取る。ジョバリエの攻撃に当てられても、覚悟していたよりダメージを受けていない自分に気付いた。

(……やってみるか!)

イーヴィルティガはジョバリエに向けて駆けだす。度々放たれる破壊光線を腕にエネルギーをこめて受け流しながら近接戦闘の間合いまで迫り、ダッシュの加速を乗せた回し蹴りを食わらせる。

エネルギーが弾け、ジョバリエの腹部を大きくえぐった。

「キィイジョォオッ!」

 ジョバリエは悲鳴を上げるものの、下がることは無く破壊光線を放ちながら両腕でイーヴィルティガを切りつける。

「ヌウッ!」

(こいつ、死を恐れないのか!)

大ダメージを負いながらもまったく攻撃の勢いが衰えない。生物らしからぬ振る舞いに怯む心を懸命に抑え、シンはジョバリエを倒す算段を付けた。打撃攻撃は有効打だ。正攻法で押し切ることこそが最も確実だとシンは見た。

(まずは光線を封じる!)

両手で二本角をつかみ、イーヴィルビームの光弾エネルギーをゼロ距離で炸裂させる。ジョバリエの角は粉々に砕け散り、勢いに押されたジョバリエは体勢を崩して腕を大きく広げた。

イーヴィルティガはすかさず身をひるがえし、腕をつかむ。

「ジェァアッ!」

気合いと共にジョバリエを大きく投げ飛ばす。背負い投げである。飛行能力を持たないジョバリエは身動きがとれない。

イーヴィルティガは腕をL字に組む。必殺光線イーヴィルショットが放たれた。赤い光の奔流がジョバリエに命中し、ジョバリエにとどめを刺した。

息絶えて落下したジョバリエは砂が風に吹かれたように消えていった。

(消えた?)

シンはジョバリエがいた場所を見て疑問を浮かべた。

(イーヴィルショットは俺の最大の威力の光波熱線だが、当たった相手を分解するような技ではないはずだ。あの演習の時の戦い以来力が向上しているのは感じているが、これはおかしい。すると怪獣の方に異常があるのか?)

それを突き詰める暇を与えないとでもいうように龍が現れ、堂々たる様子でイーヴィルティガの横を通り背後に回った。不意打ち気味の出現にあっけにとられていたシンが正気にもどり、慌てて振り向くと、そこにはまた別の怪獣がいた。

(今度は一体なんなんだ!)

二本の足で直立した、薄紫色の体に赤色の結晶体を生やした怪獣、吸電怪獣ギアクーダだ。ギアクーダはイーヴィルティガが振り向くと同時に全身から電撃を放ってくる。

「ガァアッ!」

イーヴィルティガはたまらず呻いた。ギアクーダは勝ち誇ったように雄叫びを上げる。そして電撃を放出したまま、一歩、一歩とイーヴィルティガにちかよってきた。

距離が縮まるごとに電撃の威力も強くなっていく。朦朧とした意識の中で思考は単純化し、近寄ってきたギアクーダに対してただ振り回しただけの拳が放たれた。

ギアクーダは呆れる程あっけなく砕け散る。しかし、電撃から解放され正常な思考を取り戻したシンは飛び散るギアクーダの肉片を見て、安心より先に恐怖を覚える。

(まずい、最初の電撃はあくまで牽制!すると奴の本命は砕けることそのものか!)

肉片がシンの目の前で新たな形をなしていく。ギアクーダに良く似た気色の悪い怪獣だった。それも一体だけではない。大きさこそイーヴィルティガの膝に届かない程度のものから人ぐらいのものまで様々ではあるが、飛び散った肉片すべてが新しい怪獣になったのだ。

「ジャッ!ダァッ!」

イーヴィルティガは拳を足もとにいる分裂ギアクーダに振り下ろすが砕けども砕けども分裂して復活し、数を増すばかりだった。

(やはりひとまとめにして完全に消滅させるしかないのか)

かつてTPCが行った作戦では高圧電流を放電したトラップフィールドでギアクーダを元の一体に戻し、ナパームで焼き払おうとしていた。しかし、ここには大量の電気は無い。ウルトラマンダイナは落雷の電気を利用したというが今は晴れている。

(どうしたらいい?)

対処に悩み、イーヴィルティガの動きが鈍る。一方無数の分裂ギアクーダはイーヴィルティガを取り囲むように蠢いていた。

周囲が一斉に赤くスパークするのを見たイーヴィルティガは己の失敗を感じた。しかし、対処するまもなく、四方八方から一斉に赤い電撃が放たれ、イーヴィルティガを取り囲む

再び電撃がイーヴィルティガを襲った。今度は一方からの攻撃と言うよりももはや電撃の網だった。分裂ギアクーダ達の電撃はイーヴィルティガの体を絡め捕り、シンの意識を遠のかせていく。

(こ…んなところで……)

痛みも音すらも遠のき、視界が暗くなる寸前、シンは見た。イーヴィルティガに良く似た赤と銀の光の戦士が、手も足も出さずに周囲の物体を操り動かすヴィジョンを。シンは直感する。これは遠い彼方の記憶、イーヴィルティガの力の奥底にある、戦いの断片なのだ。

(こ、これだ……!)

シンの意識が体の深奥から目覚める。それだけではない。あの戦いのときのように意識は体の中に納まることなく、戦闘空間全域に拡散する。分裂ギアクーダがいる場所が、数が、手に取るように把握できた。

イーヴィルティガの全身が赤く光り輝く。体という枠を越えて「力」が分裂ギアクーダに届き、一体、二体と中空に浮かせて一点に集め始めた。かつて暴走した時以来イーヴィルティガが眠らせていた力、「念動力」だった。

 

(くそ……少しでも力を抜くとコントロールが……!)

まだ完全では無いからなのか念動力を使うのには多大な体力を消費してしまう。シンは全身が疲労にむしばまれていくのを感じていた。イーヴィルティガの胸のカラータイマーも青から赤に変わり、ゆっくりと点滅を始める。

(ここで止まるもんか!勝つための道が見えたんだ)

「ウォオオッ!」

分裂ギアクーダ達が元のギアクーダと同じくらいのサイズの球になるまでまとめると、イーヴィルティガは一気に距離を詰めた。念動力だけでは無理なら足らない部分を直接手でやればいい。両腕に力を込め、分裂ギアクーダ達を圧縮する。無数の声が抵抗してきたが、分裂体は数が多いだけで力が強いわけではない。不死身のギアクーダの弱点だった。

ギアクーダを素材にした「おにぎり」はイーヴィルティガが力をかけるごとに小さくなり、次第にうめき声も聞こえてこなくなった。

(とどめをさしてやる!)

イーヴィルティガの全身が強烈な赤い光を放ちだす。それだけではない。蒸気が全身から噴き出してきた。イーヴィルティガは体内のエネルギーを超高温の熱エネルギーにしたのである。ギアクーダを完全に焼却するためのシンの策は自分自身がナパームの代わりになることであった。

先ほどまでギアクーダだった球体は段々と溶け、蒸発していく。イーヴィルティガの勝利だ。

先ほど戦ったジョバリエのおかげで思いつけたという事もある。かつてウルトラマンティガがジョバリエを退治した際の「ウルトラヒートハッグ」を知っていなければ思いつけなかったかもしれない。

(勤勉な自分に感謝ってところか)

余韻に浸るのもそこそこに、シンは振り返る。今度はシンもそれを察知していた。

三度目である。また龍が現れた。

イーヴィルティガは身構える。カラータイマーは点滅を続け、エネルギーは無くなりそうだった。今戦闘になれば非常に危険だ。

龍が長い体をうねらせながらイーヴィルティガに迫ってくる。シンは決死を覚悟した。龍が全身から光を放ち、イーヴィルティガを包んだ。すわ攻撃かと思ったシンだが、時間が経つうちに異変に気付いた。何のダメージも受けていないのである。それだけではない。これまで受けたダメージも消え、エネルギーも回復していたのだ。龍が放つ光はとても暖かで、シンは懐かしい記憶を思い出した。まだ家族がいたころのことだ。春先に出かけたキャンプでいった草原。寝ころんだ背中から感じた、大地の暖かさ。見えない力に包まれているような安心感。治療。治療としか言えない行為を終えて龍はイーヴィルティガから離れ、正面で向き合った。

“お前は……なんだ?”

目の前の龍が敵だとはシンにはもう思えなかった。けれど正体が全く分からないのもまた事実である。

“多くの声を聞くのだ”

龍はシンの質問に答えない代わりに一言だけシンに投げかけるとスゥッと姿を消す。そして龍が先ほどまでいた場所に巨大な鬼神が立っていた。真紅の体に二本角、巨大な一つ眼が鬼神の顔面にある。

(こいつは……宿那鬼か!)

2008年に宿那山に現れた「二面鬼」の異名を持つ鬼神である。土地の伝説に伝わっていたと言われているが詳細は不明。巨大な刀を武器にしたとTPCの記録には残っている。

イーヴィルティガの眼前に立つ宿那鬼は刀を持ち、蓄えた白髪を首を振って背中に薙ぐと、かかってこいと言わんばかりに片手をチョイチョイと動かす。イーヴィルティガは宿那鬼を見据えると腰を落とし構えを取った。

(こいつ……いや、こいつらの目的はなんなんだ)

二体は睨みあいながらジリジリと間合いを測って動く。シンはその間敵の正体について考えていた。

これまで出てきたジョバリエ、ギアクーダ、そしてこの宿那鬼もあの龍の配下、いや「遣わした」というのが正しいのかもしれないが、とにかくあの龍が原因のものということで間違いはないのだろう。

とすると、ここは一体どこであの龍は何者なのか。それに問題が集約することになる。しかし、シンは疑問を後回しにせざるを得なくなった。

「オォオォオ」

地獄の底から吹く風のようなおどろおどろしい声を立て宿那鬼が切りかかってきた。イーヴィルティガは一瞬の判断で刀の平をそらして交わした。軌道が逸れた刀はビルに向かい、そのまま両断してしまう。切断面はまるで合わせればまたくっつくかもしれないと思える程綺麗になっていた。宿那鬼が並みの剣の使い手ではないことが見て取れた。

(あの刀を落とせるか?)

まずは敵の得意な攻撃を封じるのが戦いの定石だ。この場合は接近戦を捨てるか、武器を奪うか。シンは後者を選択することにした。光線を多用し、体力の消耗が激しくなる遠距離戦では、首だけになっても戦うほどの異常な生命力をもつ宿那鬼には効果が薄いと判断したからだ。

「ジェア!」

イーヴィルティガは大きく踏み込み宿那鬼に迫ろうとする。突撃してくる場所に置くように宿那鬼が眼前を一薙ぎした。出鼻をくじかれイーヴィルティガはたたらをふむ。剣の間合いは徒手空拳よりも広いのだ。

イーヴィルティガが距離をつめあぐねていると宿那鬼の牙だらけの口が突如として開く。ゴウと火炎を吹きだして離れたイーヴィルティガに攻撃してきた。

(そうだ、宿那鬼にはこれがあったんだ!)

とっさにイーヴィルバリアーを張って攻撃を防ぐ。火炎は届く寸前に押しとどめられた。しかし宿那鬼の攻撃はとまらない。とっさの攻撃を防いだことで安心したシンの隙をつき、火炎を割るように突撃してきたのだ。

「グァ!」

宿那鬼の刀がイーヴィルティガの左肩を一突きにした。刀傷は深く、人間が血を流すように傷からは光が溢れた。すぐに刀を引き袈裟切りにしようと振りかぶる宿那鬼の胴を右足で蹴り飛ばして距離をとる。

(左腕の傷がかなり深い……!)

左腕は封じられたも同然だった。両腕を必要とするイーヴィルショットは打つことが出来ない。最大の攻撃を封じられ不利に追い込まれたのはイーヴィルティガの方になってしまった。

(こうなれば、賭けに出る!)

先ほどのバリアーで思い出したことがある。かつて熊本に現れたイーヴィルティガはガッツウイングEX-Jの攻撃をバリアーを利用して跳ね返していた。あの技を使うのだ。

イーヴィルティガはさらに距離をとり、片腕でイーヴィルビームを連続で出した。もう一度火炎攻撃を誘うための牽制だった。

計算通りに宿那鬼は火炎攻撃を放ってくる。イーヴィルティガは円状のバリアーでそれを受け止めると、バリアーを扇風機のように回転させ、火炎を打ち返した。宿那鬼に返された火炎は宿那鬼の前で大きく広がり視界を埋め尽くす。

(今だ!)

イーヴィルティガは大ジャンプして、宿那鬼の右側面に回り込んだ。宿那鬼は二面鬼の名の示すとおりに頭部の両面に一つずつ眼を持っている。その視界は正面と背後を抑えているが、側面はやや視界が狭いはず。シンはそう考えた。すかさず右手を打ち、刀を奪おうとしたイーヴィルティガだったが、宿那鬼は予想外の動きをした。

頭部だけが左に90度回転し、背面の顔がイーヴィルティガを見据えたのだ!

背面の顔は口を開くなりガスを伴った突風でイーヴィルティガを吹き飛ばす。

「ウァア!」

片腕ではうまく受け身がとれず、したたかに体を打ちつけてしまう。投げ出されるような格好になった左腕はビルに当たり、瓦礫があたりに飛び散った。

(つ、強い……!)

これまで戦ってきた怪獣の中でも抜きん出た実力をもっている。シンに不安がよぎった時であった。先ほどの龍の声が響いてきた。

“声を聞くのだ。己の声を、力の声を”

(己の、声……)

シンの内から、閃くものがあった。

間合いを広げ、宿那鬼に対抗するためには徒手空拳のままでは不足だ。ならば、足せばいい。シンは意識を集中させ、右腕にイメージを作る。かつてMSに乗っていたころ、シンが得意とした武器のイメージを。

光が右腕に収束し、イーヴィルティガの手のひらには光の刃が握られている。

(フラッシュエッジ・エクスカリバーってところかな)

巨人の力とシン自身の経験が結びついた。シンの心から生み出された光の刃は宿那鬼の刀に引けを取ることはしなかった。切りかかってきた宿那鬼を正面から受け止め、接近戦に持ち込むことが出来るようになったのだ。

受け止めた刀をイーヴィルティガの剛腕で切り払い、宿那鬼のボディをガラ空きにすると右手に握った光の刃で宿那鬼を滅多切りにする。宿那鬼は体と首が離れ、体の方は燃え尽きるように消えていく。

(逃がすか!)

イーヴィルティガは残った首めがけて光の刃を投げつけた。刃は目の中心に見事に突き刺さり、体と同様に首も消滅させた。シンの完全勝利だった。

戦いの後、再度現れた龍とシンは静かな気持ちで向き合った。

“お前は……いや、あなたは……”

龍は今度は何も言わなかった。どこか満足した風なようすで、体はどんどん薄れていく。

“待ってくれ!”

“――!”

すると次第にシンの意識も段々と靄がかかったように薄れていく。

“――っ!”

視界は白に染まり、意識は消えていく。

“――ってば!”

消えていく―――

 

「もう、シンってば、起きて!」

「すあ!?」

シンが目を開くと、目の前にはしかめっ面をしたミドリカワ・マイ隊員がいた。慌てて周囲を見渡すとグランドームの一角にある休憩スペースのようだと分かる。他の職員たちはカフェテリアで軽食をとったり同僚と話したりと、思い思いの時間を過ごしていた。

「あの、俺、寝てました?」

「そうよ、もう。こんなところで居眠りしてたら風邪ひいちゃうじゃない。あ、寝汗もびっしり。ほら拭いてあげるからじっとしてて!」

「ちょ、ちょっと!いいです。それぐらい自分でやれますって!」

そうだ、だんだん思い出してきた。正規隊員のみでの会議があるというので自分は先に休憩をとっていたんだった。

「なら、さっきのはただの夢?」

「あ、これ怪獣のデータファイルね。ここで勉強してたの?」

「え?」

確かにシンがいたテーブルにはこれまで出現した怪獣をまとめた資料が乗っている。そう、あんまり時間があったものだからレポートをつくる時間に当てたのだった。

(こんなのを枕にしていたからあんな夢を見たのか?)

いや、そうじゃない。シンは自分の考えを自分で否定した。何度も現れた龍は似たようなの物を一度も見たことが無い。それがもしかしたらイーヴィルティガの記憶だったのだとしても、さっきまでの戦いには何か意味があることなのだ。シンにはそう思えた。

「マイさん、この三体の怪獣に何か共通することってありますか?」

「なになに?何かのクイズ?えっと、ジョバリエにー、ギアクーダにー、宿那鬼?えっとー」

なにか参考になるものはないだろうか、とマイ隊員にも尋ねてみるシン。

「弱点でもない、攻撃方法でもない……、あ!分かった!地球出身だ!」

「地球出身?」

「そうよ。この怪獣たちはみんな地球で生まれたとされる怪獣じゃない?」

「地球出身……」

じゃああの龍はなんだったのだろう。地球怪獣を夢の中でシンと戦わせる龍。敵意を全く感じなかったどころか、あれは、そう、鍛えているようでもあった。ならその正体は――

「地球の声、とか……まさかな」

「何一人でブツブツ言ってるの?」

「ああいえ、なんでもないです」

「それよりもう休憩時間終わりよ。早く司令室に戻らなきゃ」

「ラジャー」

たとえ、あの龍と声がどんなものだったのだとしても、悪い物ではない。そんな確信があった。ああ、それにしてもなんだか疲れる夢だったな、などと思いながら、シンは今日も司令室での仕事に向かうのであった。

「そういえば、俺抜きの会議ってなんのことだったんです?結果くらい教えてくれても」

「あーそれは……また今度ね!」

「あの、顔色悪いですよマイさん。なんか隠し事とか」

「あーあーあー!喉渇いちゃったなー!シン、何か奢って!」

「え、ちょっとぉ!」




もう少ししたら誤字など修正します

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