「コウダさん!こっちの資料なんですが」
「そこC25地区じゃなくてG36地区よ!後で修正!」
「ラ、ラジャー!」
「ナカジマ、前回の怪獣についてのレポートまとまってるか!?」
両手でキーボードを叩きながら怒号のような指示の飛ばしあい。スーパーGUTS作戦司令室は今日も平常運転で大忙しだ。
なんでこんなに仕事が多いんだ……!
シンは心の中で愚痴を漏らす。
ZAFTでの仕事も、絶対人数と仕事の比率の関係で大概仕事が多い方だと思ってはいたが。
これはあまりにも処理しなきゃならない仕事が多いだろう。
スーパーGUTSの仕事は怪獣退治だけではない。パトロール、怪奇現象調査、隊員の研究分野の報告書、TPCの広告塔、孤児院慰問など多岐にわたる。
多岐にわたりすぎているんじゃないかと思ったのも一度や二度ではない。しかしそれが出来る人材だからこそ今まで地球を守ってこられたのであるし、そういう場で働くことは自分の為にもなっていると思うので、努力しようと思ってはいるが。
一先ずのどを潤そうと、席を立つと、隊員たちから一斉に注文が飛んでくる。
「シン、私紅茶!」
「俺には麦茶を!」
「ブルーマウンテン!カップは間違えるなよ」
「紅茶もう一つもらえるかしら」
「牛乳もってきてもらえる?」
「すまんが麦茶もう一つ」
この人たち席を立つタイミングを計っていたか……
はいはい、と投げやり気味に答えると全員また一斉に作業に戻る。切り替えが早いのは良い事だな、と前向きにとらえ給湯室にむかう。
なんだか飲み屋の店員にでもなった気分だ。
「飲み物運びとかやってると自分が下っ端って実感が強くなるな」
注文通りに注ぎながらひとりごちる。これでもZAFT時代はパイロットでトップガンというそれなりに上の方だったからお茶くみのような仕事は新鮮だ。
指定されていたカリヤ用カップを探していた時それはとうとつに起こった。
棚の奥の方にあったカリヤカップがふわりと、5mmほど浮き上がるとシンの広げた手にしっかりと収まるようにすうっと飛んできたのだ。
思わずカップを体の前側に抱え込むように体を丸めて、首を左右に振って周りを確かめる。
誰かに今の見られてないだろうな、と冷や汗が流れた。
無事を確認すると思わずため息が出る。シンがこのような超能力まがいのことが出来るようになったのは先日ガッツウイングによる演習を行ってからだった。
例えば、夜勤で司令室に詰めるシフトが回ってきたとき、寒いな、と思うと椅子に掛けてある上着がひとりでに飛んできた。またあるときは手を伸ばしても届かないような高さにある本に無心に手を伸ばしていると、いつのまにか体が地面から浮き上がっていたといた。
おそらく、イーヴィルティガの体が赤く光っていたことと関係あるのだろう、と思う。
あの赤い光を放っていた時はこれまで上手く仕えていなかった超能力が強くなっていたと感じる。
だとしたら、自分の中の巨人の力が表に出だしているのだろうか?
疑問は解けない。以前にも資料を漁っては見たが、超能力に関する記述はどうにも胡散臭いものが多く、確信がもてない。いっそ、ウルトラマンティガやダイナであったはずの人と会話することが出来ればいいんだろうが……
「シークレット中のシークレットだろうしなあ」
TPCのデータベースにある光の巨人の資料はごく僅かなものだ。戦績や高さ、重さなどの表層的なものしか記述されていない。サワイに頼むことを考えては見たものの、今の身分にしてもらっただけで相当な負担をかけているだろう。その自分が機密情報を覗きたいなどと言えば、政治的な問題に発展するかもしれない。
「どうしたものか」
ため息の中に独り言を混ぜて、飲み物を載せたトレーをもってシンは給湯室を出て行った。
「火星に向かう船の護衛、ですか?」
シンが持って行った飲み物を飲みながらの休憩時間、ヒビキ隊長から全員に伝えられたのは新しい任務についてだった。
「そうだ。今度、火星テラフォーミング計画の進捗状況についてのプレゼンが行われる。元々は地球で行われるはずだったんだが、火星側がどうしても現地で見てもらいたいと主張してな」
「それで地球側の研究者やら、記者やらを火星に連れて行く船の護衛を我々が務めることになったわけだ」
話の筋道は大体分かった。しかし、
「ネオマキシマを使えば火星につくのなんて30分もかからないんじゃなかったんですか?」
たしか自分が初めて火星で戦った時、このチームは20分くらいで到着したはずだが。
「それはあくまで私達みたいな戦闘チームがスクランブル発進で向かう場合ね。今回はお偉いさん達がたくさん乗ってる船で行くわけだから、火星や航路の安全確認みたいな行程を含むの」
その行程でそれなりに時間を食うのね、とリョウが言う。
「今回俺たちは二手に分かれて任務を行う。先行して航路の安全を確認する組と、船に随行する組だ。イーグルγ、αスペリオルが先行組、αとβが随行組だ」
「各員の機体は次の表の通りだ」
コウダが画面を切り替えるて表を見せる。シンは自分の名前を探し、目で追った。
α号……リョウ
β号……ヒビキ、コウダ、ナカジマ
γ号……カリヤ
αスペリオル……シン!?
「αスペリオルを俺に任せてもらえるんですか!?」
「勘違いするなよ、αスペリオルに乗ってるのが一番安全なんだ。操作性もほかのイーグルよりも上がってるし何より機動性が最高だ。新米への気遣いだと思え」
たしなめるように言うヒビキも笑みを浮かべている。つまり気負い過ぎず務めを果たせ、とそういうことなのだろう。
けれど、シンの中の喜びは格別のものだった。初めて来たときは地上で避難誘導を手伝いながら、飛んでいくイーグルを眺めていだけ(無茶はしたけど)だったのだ。演習の時のような成り行きではなく、正式に戦列に加われるのはある種の誇りを持てる。
「おめでとう、と素直に言いたいところなんだけどね、シン。あなたにはまた別に通達がきてるの」
マイが言った。その表情がお気の毒様、と言っているようで何か嫌な予感をおぼえた。
「サワイ顧問から直々に。火星側の技術者がシンの経歴を聞いて“是非!”っていったとかでね、スペースコロニーについての資料をまとめてほしい、って」
コロニーについての技術、と聞いて喜びも冷凍庫に突っ込まれた食品のように冷める。確かに、シンにはスペースコロニーについての知識は、ある。コロニー国家プラントでは常時のコロニーの整備も軍や民間のモビルスーツ乗りの仕事だった。基礎構造や整備時の注意点などもアカデミーでは必修科目として習っている。ある程度のデータはまだデスティニーが健在だったころにとったバックアップの中にあるだろう。
しかし、それを他人に見せられる形で整理する、となると
尋常な量の仕事じゃない……!
シンは自分がすることになった仕事の量を思い、呻いた。
他の隊員の表情が印象的だった。ああ、憐みの視線ってこういうんだろうな、と他人事のようにつぶやいた。
結局、資料そのものがある程度の形になったのは護衛任務が始まる直前だった。シン自身にそのような資料作成の経験が少なかったのもあるし、卒業論文を書く大学生のように期間中ずっと資料作成にうちこむ訳にもいかなかったからだ。いくつかのチマチマした怪獣の出現、孤児院訪問、その他広報など、TPCの顔でもあるスーパーGUTSの仕事は枚挙にいとまがない。
幸いスーパーGUTSのメンバーは戦士だけではなく様々な分野のスペシャリストでもあり、教授してもらう相手には困らなかったが、都合の良い日に食事をおごる約束をさせられてしまった。特にナカジマに約束させられたお汁粉スペシャルは財布にダメージがデカい。普段使う当てがないから徐々に溜まってきているとはいえ、マツタケも買えないスーパーGUTSの給料では苦しいものがある。
(いやなんでマツタケ買えないんだよ。薄給じゃない?)
とはいえやっと任務である。TPCの科学者に並んでプレゼンをしろ、とまではさすがに言われなかったので肩の荷が下りた、という気分だった。イーグルのあるハッチまで行くと同じ先行組のカリヤと、意外な人物に出迎えられた。
「久しぶりだね、シン君」
「サワイさん!」
今度の報告会にはサワイも出向くらしく、出発前の時間に少し余裕を作りシンに会いに来てくれたのだという。
「君からの報告書も読ませてもらっているが、やはり実際に会ってみるものだね。成長しているのが分かるよ」
恩人からの手放しの称賛がうれしくない筈もなく、少し照れてしまう。話題をそらすためにシンはついさっきまでやっていた資料についての話を振った。
「ああ、あの資料か。受け取らせてもらったよ。急で悪かったね、なにぶんつい先日に話題になったことで、先方がどうしてもいうものだったから」
へえ、と少しシンは驚く。サワイにワガママを言えるとはいったいどんな人なんだろうか。
「もちろんホールに出て発表しろ、とは言わないよ。ただ、無理じゃなけれなこれを頼んできた人と個人的に話す時間は作れないかな?彼は火星で仕事をしている人でね、なかなか機会が無いんだよ」
「それぐらいなら全然かまいませんけど……いったいどんな人なんですか?」
「うん、君も話す価値のある人物だと思うよ。旧GUTSに所属していたダイゴ君というんだがね」
その名前が出た時、カリヤが表情を変えるのをシンは見た。
「サワイ顧問、それは」
「いいんだ、彼のたっての願いだからね。それに、いずれ絶対に必要なことでもあった」
シンを見るカリヤの目がいつもと違う。その様子が心配になったシンはそのダイゴというのがどんな人なのか聞こうとしたがタイムアップ、任務の時間になってしまう。
「すまないがそろそろ輸送船の方に行かなくては……。ではカリヤ君、シン君、今日はよろしく頼むよ」
結局詳しい話は出来ずにサワイは行ってしまう。残ったカリヤにさっきの話はどういうことなのか聞くも、「こればかりは自分ですべてを聞いた方がいい」といさめられ、モヤモヤを抱えたままのシンだった。
「サワイさんが言ってたのはどういうことなんですかね」
火星行きの航路ももうすぐ終わるというところでシンはぽつりと漏らした。
《なんだ、まだ気になってたのか》
通信機で音を拾っていたらしいカリヤが反応する。
「そりゃあ気になりますよ。それに、なんだか他の先輩たちは皆知ってるみたいじゃないですか・」
機体に乗る直前にリョウとナカジマに会う機会があったのでダメもとで聞いて見た所、彼らも思わせぶりな言動でシンをけむに巻いていた。
「前も俺抜きで会議してた時もあったし、もしかしたらその時のことが関係あるんじゃないですか?」
《無駄口を叩くんじゃない。計器のチェックを怠るなよ》
またしても露骨な話題逸らしだ。シンは年甲斐もなくすねたような声を出して返事をした。
「わかりましたよ……、現在の所異常なし。もうすぐ火星宙域です」
そしてそのすぐ後。火星宙域に入ろうとした時である。シンの全身に「おぞけ」としか表現できない不快感が巡った。覚えのある感覚だ。かつて砂漠の廃墟の町、その地下で、邪悪と対面したときと同じ感覚。シンの中の巨人の力が戦うべき敵に反応しているのだ。
「カリヤ隊員、何かいます!」
僚機に叫ぶように伝えると、機器に目を走らせる。敵の姿を探した。
カリヤも若い後輩の警告軽んずることなく、機器を確認する。そして一つの異常に気づいた。
《時間記録が安定していない!?まさか、ワームホールか!》
かつて時空界とよばれる亜空間と現実世界がつながり、過去の建造物が蜃気楼のように現れる事件があった。これは超力怪獣ゴルドラスが現実世界に生息域を広げようとして起きた事件であったが、その時に起きた現象として、時間記録が大きく狂っていたことが挙げられている。
その後幾つかの事件を調べるうち、TPC分析チームは怪獣による亜空間移動の際には周囲空間に時間軸の歪みが起きることを解明していた。
(ワームホール……!)
そしてシンは見つけた。歪んだ空間の歪みから現れた敵を。
まず目に留まったのはゴポゴポと脈打つような毒々しい色の体表、そして不規則に伸びあがる触手であった。全体としてみれば紫色のナメクジと言ったようなその生物の容貌は、シンとカリヤの両者に生理的嫌悪を呼び起こさせるのに十分なおぞましさだった。
機体のCPUがコスモネットを介しTPCのデータベースに対象を照会する。結果は、「UNKNOWN」つまり未知の生物ということだ。
全くの新種、しかし分かることがある。
奴の触手がこちらに伸びあがった時、シンは奴から邪悪な気配を感じたのだ。直観以上には説明できないその気配は、しかしその未知なるものがシン達にとって明確に「敵である」と伝えていた。
「カリヤ隊員、こいつを地球や火星に近づけてはいけません!こいつは危険です」
何の確証もない発言だったが言わざるを得なかった。だがその不明瞭な発言をカリヤは疑うことなく信じた。そしてこの警戒任務の本懐を果たすべくシンに指示を出した。
《距離を取って後ろにつけ!一先ず火星宙域から追い立てるぞ!》
「ラジャー!」
αスペリオルはカリヤのγ号より一足早く敵怪獣に追いついた。見れば見るほど異様な怪獣だ。大きさこそ50m級であるが、手足があり頭部があったこれまでの怪獣と比べ、ヘドロを連想させるその体表を持った円盤のような姿は生物というより恐怖そのものを具現化させたかのようであった。
「αスペリオル、しかけます!」
ネオジークの照準を合わせ引き金を引く。赤い熱線は正確に怪獣の中心に当たった。狙い通りに怪獣は飛行軌道を変え、火星からは遠ざかるように見えた。
《よし、そのまま攻撃を続けるぞ!》
γ号も攻撃に加わり、赤と黄色の光が怪獣に吸い込まれていく。二人はできればこのまま怪獣を倒しきれればいいと考えた。独特の直感で怪獣を危険視するシンだけでなく、カリヤもこれまでの経験から、目に映るおぞましいものが自分たちにとって邪悪な存在だと考えたのである。
《火星から大きく離せたのはいいが、あの怪獣あれだけの攻撃を浴びせてダメージを負っていない》
既に地球と火星側に通信をいれ、輸送船の停止と応援は呼びかけてある。二人はこれからこいつを倒すだけだと考えた。しかし、その考えは即座に捨てなければならなくなった。
「なんだ、宇宙に穴が!?」
彼らの目に映る星の海の景色を歪め、ワームホールが大口を開けたのである。ワームホールからは先ほどまで追い立てていた怪獣と酷似した外見の、より小さなものが群れを成して現れたのだ。
《なんてことだ、奴は俺たちに追われて火星を離れたんじゃない。俺たちを仕留めるためにここに誘い込んだんだ》
カリヤの声には慄くような響きがあった。シンも口には出さないが同じ気持ちだ。あのおぞましい怪獣が群れを成している。そしてそのボスらしき怪獣にはこちらの攻撃は通用しなかったのだ。
恐怖の悲鳴を飲み込む代わり、シンは大きく喉を鳴らした。そしてカリヤに確認を取るように問う。
「どうしますか、カリヤ隊員」
《どうもこうもない。これだけの大群、なんとしてもここで抑えなくては》
恐ろしさを感じていない訳ではないだろう。さっきの声を聴き、今更それがわからないシンではない。
《あいつらの狙いが俺たちだというならやりようはある。火星に近づかないようにこの宙域で逃げ回ればいいんだ。じきに応援も駆けつける》
「鬼ごっこってわけですね」
《そうとも。捕まるんじゃあないぞ?》
シンは「勇気凛凛」と聞こえるよう努力して声を出した。強がりである。しかし、この強がりがあるうちは挫けもしないのだ。カリヤも同じである。不敵な言葉は決意の表れだった。
《来るぞ!》
敵ナメクジの群はどうやら飛び道具のような攻撃手段は備えていないようであった。ボスと思わしき個体も触手を伸ばすのみ。今のところは無数の小ナメクジの指揮をとっているだけのようだ。
その小ナメクジはというとこちらへの体当たりを狙っているようで自分たちの後方にびっしりと群が広がっている。
《シン、お互い機動を変えるぞ。俺はお前の後ろに付く群を、お前は俺の後ろに付く群を撃て!》
「ラジャー!」
戦闘とは長時間であっても刹那の判断の連続である。常の事として”作戦”とするのはあくまで「だいたいの段取り」であって、敵と味方との間に発生する無数の問題を解決するのはいつだってアドリブだ。
「撃つ」「躱す」「加速する」「曲がる」
単純な動きを組み合わせて対処するのであって、「敵がこうしてきたからああして」などと一々考えてやるものでは無い。特に今回のような多勢に無勢の状況では顕著だ。
しかしそれでもここにいる二人は一流。戦闘の中、頭脳を思考に割く余裕を持ち、敵を分析する能力があった。
”段々と強くなっている”
それが戦い続けていくうちに感じた宇宙ナメクジの生態だった。初めはマザーとおぼしき最大の個体にも効いていた単調な戦術が、群れを成す小ナメクジを撃ち落とすごとに効かなくなっていく。それはスピードであり、防御力であり、集団力でもあった。初めは一撃で小ナメクジを爆散させていたネオジークの攻撃に少しずつ耐性をつけていくかのように、他の個体がより強靭になっていく。
「こんなのってアリかよ……」
思わず弱音がでた。出さなければ恐怖に挫けそうだった。無限に強くなる敵とは!?
カリヤもこんな相手は初めての敵だった。ネオジークより火力のあるγ号のガイナーは未だ優位性を保てているが、通じなくなっていくのも時間の問題だった。
唯一の救いは敵自体は無限ではないことだろうか。ワームホールはナメクジの群を吐き出し続けることなく今は不気味に宇宙に穴を開けたままでいるだけだった。
数は……確認できる限り現在100前後!
くそっ
悪態を口に出しかけるとカリヤから通信が来た
《シン!敵に通用するギリギリのレベルまで武器の出力を下げろ!》
「な…あ、そうか!」
二機では到底対処しきれぬ敵。逃走が敵わないならば優先するべきは時間稼ぎ。敵の威力を下げ敵の学習効率を遅らせることが時間を生む。
《それに援軍が対処できるレベルを超えて成長させてしまってはかなわん!》
「ラジャー」
《良い返事だ!気力を絶やすなよ!》
今までになく恐ろしい敵であった。戦いのときふと感じる、「どうして自分はいつでも巨人に変身できるわけじゃないのだろう」という自責の念すら覚える間もなく。しかしシンとカリヤはレーダーに敵生物以外の光点群が迫るのを見た。火星基地所属のクリムゾンドラゴン部隊であった。ガッツウイングのバリエーションの中で特に火力に優れるクリムゾンドラゴンならばこの相手にも申し分ない!
「俺たちの粘り勝ちだ」
《各機、こちらスーパーGUTSカリヤ!敵は時間をかける程強くなる!最大火力で一気に薙ぎ払え!》
<了解!><了解!><了解!><了解!><了解!>
《行くぞシン!とっておきをぶち込め!》
「ラジャー!スパークボンバー、発射!」
30を超える機体から放たれる熱線がナメクジを捉え、ひとつ残らず撃ち落とした。奥に構えていたボスさえも、αスペリオルの最強兵器「スパークボンバー」に屈したのだった。スパークボンバーはかの名機ガッツウイング2号のデキサスビームの流れを汲む、ガッツイーグル単体の中で最高の火力を誇る。これとγ号の全火力を合わせ、敵を貫いた。
(よし、これで――)
その瞬間であった。それを告げたのはシンの戦士としての経験か、成長を続けてきた空間把握能力か、それとも内に眠る何かか――
それは分からない。だがシンは確かにこの一瞬の緩みを狙い、こちらに迫る敵の存在を捉えた。それが狙っているのがこちらの指揮官機――カリヤのγ号だ――であることも。機種を強引に捻じり、γ号にぶつけて押しやる。接触でどこかイカれるかもしれないが、最悪の結果よりはましだ。
そして見た。自分に牙を伸ばす、新たな怪獣の姿を。
自分に迫っているのは口だった。赤い裂け目の覗く岩石のような胴からろくろ首のごとく伸びた口部が無数の牙を生やした顎を開きこちらを狙っている。
分かったのはそこまでだった。空いた顎をとじ、こちらを捉えた。機器がクラッシュし、コックピットの中が暗くなる。
考える間は無かった。コックピットが潰れる直前に、アギトライブの光に導かれる。
「ジェアッ」
未確認の怪獣、何するものぞ。という声を上げ、黒と赤の戦士が姿を現す。
イーヴィルティガへと姿を変えたシンはあらためて怪獣の全身を見やる。胴体と頭部の区別がよくつかない、岩石に生命を与えたような怪獣だった。すわスフィア合成獣かと思ったが、シンの記憶にもあったスフィア合成獣特有の、スフィア細胞の残滓、網目がかった白色の部位は見られない。
状況から考えれば先ほどのナメクジの仲間だろうか。
(先手必勝!)
握った拳にエネルギーを溜め、紫色の光弾を打ち出す。小手調べの攻撃は敵の口から吐き出されたエネルギー弾に相殺された。今度の敵は飛び道具もあるようだ。
敵の出方が分からない。何を狙ってここに来たのか?なぜこちらを攻撃するのか?
しかし問うても答えは返ってこないだろう。考えても答えが出るはずがない。情報が足りない、判断材料が少ないのだ。こちらが動きを止めていれば、敵は何かを仕掛けてくるだろうし、そもそもこの姿で長時間戦うことは不可能だ。地球上よりは宇宙空間の方が巨人の姿を維持できる時間が長いとはいえ、シンの体力にも限界がある。先ほどのナメクジ群との戦闘は負傷を負わされないまでも体力の消耗は大きかった。
ならばやはり攻めるしかない。
積極的に攻撃し、相手の手札を明かしていくのだ。イーヴィルティガは先ほどの伸びる首の事を念頭に置き、両手に光の刃を作り出す。軽く腕を振りかぶって、投げるように振り下ろす。片方の光の刃が宙を裂くように飛んだ。かつてのシンの乗機、インパルスやデスティニーの武装であったビームブーメラン・フラッシュエッジをイメージして組み上げたこの技は遠近両用の攻撃だ。イーヴィルビームより切断力を増した光刃は刃をイメージする予備動作を必要とする点が即応性を低めているが、一度作った分は消えるまで意のままに操れる。あの白昼夢のような戦いからこちら、高まっていく巨人の力があればこそ使えるようになった技だった。
突き進んでくる光に対し、怪獣は何をするでもなくただ前進し、イーヴィルティガへと距離を詰めた。そして光と激突し―――そのまま前進した。光の刃は怪獣の頑強さの前に何もできず消滅した。
驚いたのはシンの方であった。そしてその驚きは隙となり敵にとっての好機となる。
「GYEEEEEEE!」
敵は胴から突き出た白色の水晶のような器官を発光させると、亀のような体型であれば手と足が二本ずつあるべき場所から、先ほどガッツイーグルを襲ったものと同じような首を伸ばしイーヴィルティガを襲った。
ただ四つ首が襲ってくるだけであれば、イーヴィルティガは回避できたかもしれない。しかしこの瞬間、イーヴィルティガは体の自由が利かなくなっていた。正確に言えば、全身が土中に生き埋めにされたような強烈な不自由感に襲われていた。
この現象が一体どういうことなのか、それはこの戦いを観測していたカリヤの方が把握できていた。
「ワームホールの発生時と同じような時空の歪…これは重力を操っているのか」
怪獣の持つ白い器官が光を放ちだしたと同時に、ガッツイーグルは磁場の異常をより強く検知した。おそらくこの怪獣がワームホールを開き、あのナメクジをこちらに送る役割を果たしていたのだろう、と推察する。
「クリムゾンドラゴン隊、援護射撃だ!あの白い器官を狙え!」
指示を飛ばすと己もガイナーで狙いを定め、撃つ。重力によって狙いが屈折する危険性は既に棄却していた。この重力場はあの怪獣を中心に発生している。ならばむしろ攻撃は引き寄せられる。
TPC宇宙部隊のほこる重火力が怪獣に殺到する。
四本の首で動きを封じ、今まさに最後の首で攻撃しようとしていた怪獣はたまらずイーヴィルティガを放し、後退した。
(助かった……さすがカリヤさんだ)
窮地に一生を得て、シンも敵の要が重力の操作であることを悟った。同時に敵の狙いについても試行を始める。
(この怪獣は“チーム”だ。こいつらが群れて生きる生命なのか、黒幕がいるのか―それは分からないが、何かを狙ってここに来たのは間違いない)
そしておそらく今眼前にいる個体には、彼我の戦力差を図ることが出来る程度の知能はあるはずだ。
次に敵がとるのは大筋で二択。まだ攻撃するか逃げを打つか。前者なら敵はまだ手札を残しており、後者であれば敵は全ての手札を切っていることになる。
果たして敵がとったのは後者、逃げの一手。先ほどの光によってふたたび活性化したワームホールめがけて一目散に突き進む。
(逃がすか!)
シンは己の内側に意識を一瞬集中させると、間をおかず全身に力を張り巡らせる。力を開放する。周囲の世界に根を、枝を張り巡らせていくイメージで。そして念動力と言う形の無い無数の腕で逃げる怪獣と宙域に散るナメクジ達の残骸を捉えた。
赤い光がイーヴィルティガの体から拡散し宙域に広がると、それは一定の軸を持った渦となって一か所に集まっていく。渦潮が船を引きずり込むように、この宙域に侵犯してきた者たちをイーヴィルティガは一まとめにしていく。
渦はワームホールに向かって収束する。シンが収束点をそこと定めたのは怪獣がワームホールへと逃げていくのを見たからだ。ワームホールが二度確認され、それをコントロールしているのがあの岩石怪獣であるのはほぼ確定だ。今までの戦闘でワームホールを利用した攻撃をしてこなかったということはこの怪獣は戦略レベルでワームホールをコントロールできてものそれを戦闘には活かせないということだろう。逃げ道までのラインをこちらがコントロールすることで怪獣が万が一にでもこの光の拘束から抜け出せたとしても、ワームホールまでイーヴィルティガの射線は通っている。
光の渦潮へ向けてイーヴィルティガは両手をL字に組み、赤い光の奔流を放つ。最大の威力を持つ光波熱線はワームホールまで貫き、侵犯者を消滅せしめた。
《大丈夫か、シン!》
αスペリオルのコックピットの中で、シンは激しい疲労感に襲われていた。カリヤの声にもぜいぜいとあえぐ声でしか返せない。
さすがに無理が祟ったか。
シンは早鳴りを続ける胸を押さえて先の戦闘を思う。
あのナメクジのような怪獣たちから思う『得体のしれない』感じ。あれから地球圏を守るには奴らを完全にこの時空から追い出すしかない。そう思ったうえで力を絞り出したが、まだあれだけの力を放出するだけの強さが自分には無かったのだと認めるしかない。
《一先ず脅威は去った、帰投しよう。出来るか?》
「いえ……自動航行モードに切り替えます。でも、その前に怪獣の報告をしなければ」
呼吸を落ち着けながら震える手で機器を操作していたシンは、カリヤより一瞬早くその異変に気付いた。
「エネルギー、急速増大!またワームホール!?」
《なんだって!》
三度目のワームホールにすわまた怪獣群か、と戦慄したシン達は、しかし全く別の驚愕を得ることとなる。
二度目の穴が開いたのはほんの一瞬だった。この世とは隔絶したかのごとき闇とエネルギーが渦巻く穴から何か人のような形をした物体が飛び出したかかと思うと、すぐさま穴は閉じてしまったのだ。
「あれは、まさか」
その物体に、シンは見覚えがあった。15m程の鋼鉄の人形、V字のアンテナ、ツインアイ、そしてトサカのように伸びる一本角。シンはそれが多目的センサーユニットであることを知っていた。
「ジャスティス……?」
自分の知っているソレそのままというわけではなかった。しかし、確かにジャスティスというMSの面影を残している。
ウソだろ、と誰に向けてでもないつぶやきが漏れた。
《シン、あれがなんなのか分かるのか?》
「見たことがあるわけじゃありません。けど、あれは俺が元居た星で使われていた機体にそっくりだ……」
《なんとか通信はできないか?もし、お前のように誰かが乗っているとするのなら、救援が必要かもしれない》
「は、はいっ!」
記憶に残る国際救難チャンネルの周波数に通信機をセットし、シンは呼びかけを始めた。
「こちらは地球平和連合TPC、そこのMS応答してくれ!」
同じ言葉を数度繰り返した後、弱々しく応える声が返ってきた。その声、その人物が名乗った名前。シンはそれらを既に察していた。機体を見た時、彼がそこに乗っているのはむしろ自然であるとすら思った。
「俺は、地球防衛戦線のアスラン・ザラ。地球は……地球はどうなった?」