探す対象がただの人ならば支持を得られない場合でも、探す対象が英雄ならばどうだろう?それもただの英雄ではなく、人類を破滅の危機から救った伝説の英雄ならば?
地球平和連合TPCではある記念日が制定されようとしていた。
アスカ記念日――
ウルトラマンダイナとスーパーガッツが協力しグランスフィアを撃退したその日を対象にし、ウルトラマンダイナがアスカ・シンという一人のスーパーガッツ隊員であったことを大々的に発表、ウルトラマンダイナが消えていった時空の果てを目指し飛び立つための人類の士気を得ようという記念日である。
TPC職員やスーパーガッツ隊員にとっては行方不明になった同僚を探すための支持を今後とも得るために必要なけじめであったし、グランスフィア撃退から時がたち、人々が当時の脅威を忘れる前に、犠牲になった人間を取り戻したい、という欲求を刺激するためには必要な儀式であるといえた。
しかし、アスカ記念日を制定するにあたってはいくつか問題があり、その一つが「ウルトラマンとはそれに変身する人物がいたこと」が周知されること……つまり「ダイナがアスカ・シンであるならば、ウルトラマンティガは?イーヴィルティガは果たして誰なのか?」ということが人類のあらゆるところから関心を持たれてしまう、ということだった。
それゆえに、火星ではシンとあともう一人……マドカ・ダイゴが召喚されることになったのである。
「でもまさか、スーパーガッツのみんなが俺がイーヴィルティガであることをわかってたなんて……」
「仕方ないのよ。私たちからしたら二人目って感じだったし、シンってば誤魔化し方がアスカにそっくりだったんだもの。”危ないところを助けてもらった”とか”飛んでった”とかね」
「俺も最初からダイナのこと知ってたらもう少しなんか考えましたよ。でも最初からバレてたなんてなあ」
「ヒビキ隊長なんか初対面から見抜いてたっていうしね。でもあんた、結構わかりやすいもの」
シンは火星基地の一角でリョウ隊員と話していた。アスカ記念日を制定するにあたって現イーヴィルティガあることがスーパーガッツ隊員にはわかっていたことが明かされたうえで、ウルトラマンという存在について市民の解像度が上がることに対しての確認がとられていた。とはいえ、シン個人には反対するような立場はなく、本当に確認するだけであった。
「まあ収穫はありましたけど。ウルトラマンティガだったマドカ・ダイゴさんとも話せたし連絡先も交換できましたし……でも、なんだかなあ」
「変身してることがバレるのって、なんかもっと劇的な感じになるんじゃないかと思ってたんですけどねえ」
「大変な時期なのにすまなかったわね。あのアスラン・ザラっていう人とも情報交換を進めなきゃいけないのに」
「ああ……」
そういうとシンは渋い顔をする。
「やっぱり交渉担当、俺ですよね。あの人苦手なんだけどな」
「知り合いなんでしょう?」
「知り合いっていうかなんというか。とにかく複雑なんですよ、俺とあの人は」
●
「俺の知るシン・アスカという男は命懸けでスペースビーストの侵攻を食い止め、そして……命を散らせてしまった」
火星で再開することとなった因縁多き相手アスラン・ザラ。
しかしお互いの話す相手の事情が大きく食い違っていることに大きな困惑を抱く。シンにとってアスランはメサイア攻防戦において直接敗北し、以来初めての再会である。
だがアスランにとってのシンはC.E.79年に起きたスペースビーストによる侵攻の第一波をその命と引き換えに防いだ英雄であるというのだ。
ナカジマ隊員を交えたディスカッションによって、彼らはお互いが「別の未来を辿るコズミック・イラの住人」――つまり並行世界の人間であるということを認識した。
アスラン曰くコズミック・イラではCE78年からスペースビースト……シンが火星宙域で戦った岩石怪獣と同種にカテゴライズされる怪獣たちの侵攻を受け始めており、シン・アスカは早期から地球防衛戦線に参加、第1次の最大級の侵攻であった79年の戦いにおいて死んでしまったという。
無論CE74年のメサイア攻防戦時にコズミックイラからはぐれ(・・・)、ネオフロンティアで4年を過ごしているこのシンにとっては全く寝耳に水の話である。それにアスランの話が正しければアスランはCE85年からやってきたという。
時間のや事実の食い違いから当初はお互い困惑したものの、並行世界という概念を持ち出されたところで話が変わったのだ。なにせ今はシンもアスランも異次元世界にいる身である。自分に起こっていることを冷静に考えれば、「何が起こっても仕方がない」状況であるのだと理解はできた。
「お前は俺の知ってるシンではない……んだな」
「ええ、アンタも俺が知ってるアンタじゃないようだ」
「正直戸惑っている。俺からすれば死んだ相手が今生きているようなものだしな。だが、確かに俺のおぼえているシン・アスカともお前は少し違うようだ」
「そうなのか?」
「ああ。なんというかな、アイツはもっと……追い詰められているようだった。焦っている感じだったというべきかな。ミネルバにいた頃のお前とも少し違ったが、暗くて鋭い感じだった。けど今対面しているお前はなんだか凄く遠いところにいるような感じがある」
「なんだよ、それ。アンタの言うことは相変わらずよくわからない。俺からすればアンタはただのアスラン・ザラだ」
「あのジャスティスは対怪獣兵器なんだって?」
「ああ、通称”ホープ”。ミーティアを大気圏運用するためのコアユニットだ」
「ミーティア……メサイア攻防戦でも持ち出された核エンジンMSの外装MAか」
CE85のコズミック・イラでの対怪獣作戦のために考案されたのはミーティアの殲滅能力を対怪獣作戦に活用する方針だったという。旧地球連合のデストロイや各種大型MAなどの運用データも元に、ミーティア級大型兵器を大気圏運用するためのコアMSとして開発されたのが、漂流したアスランが乗っていたジャスティスタイプMS、「コアジャスティス」らしい。
「ミーティアが大気圏にってことは防衛ラインはもう地上なのか?」
「そうだ。火星もプラントももう陥落し、人類の生存圏は地上のいくつかの地域しかない」
スペースビーストによって侵攻が進んだ地球は既に人類はいくつかの拠点を中心にして生存圏を確保するのが精一杯なのだという。改めて絶望的な状況だった。これならばシンよりもアスランの方が切に帰りたがるのも仕方ないといえよう。
「今回のことでこの宙域のどこかにコズミックイラとネオフロンティアを繋ぐ次元の裂け目とでもいうべき空間があることがわかったそうだ。特定、検証にもう少しかかるだろうけど近いうちに帰れるはずさ」
「だが、その通路が俺かお前のどちらのコズミックイラにつながっているのかはわからないんじゃないのか?」
「ナカジマ隊員によると個人個人が持ってる世界との縁のようなもので俺とアンタが別々の出口に出る可能性が高いらしい。次元の裂け目はまだわからないことが多すぎるから俺とアンタはある意味で実験みたいな形になるそうだ」
「そうか……」
●
地球での緊急事態を検知し、火星基地でも警報が鳴った。何度目かのワームホールが今度は日本上空に現れたのだ。
ワームホールから現れたのは50mはある黒い機体。シンとアスランの目にはまぎれもなくその機体がデスティニーであることが分かった。
戸惑っている一同の前でデスティニーから声が響いてきた。
「地球人類に警告する。諸君の前に現れている異星人シン・アスカはイーヴィルティガの力を獲得し、侵略の先兵となろうとしている悪逆である。私は同郷の者としてシン・アスカを断罪にやってきたものである。速やかに私に引き渡されたし」
そういうとコックピットにあたる部分からそのものは姿を現した。
濡れ羽根色の髪、引き締まった五体、黒いパイロットスーツを着たその人物はシンと非常によく似た人物だった。
「あれは、シン!」
真っ先に反応したのはアスランだった。
「あれは間違いなく俺の世界のシン・アスカだ!俺にはわかる!」
「だが、そいつは死んだんだろ?それに俺だっていうならなんであんなことを」
「待ってくれ、死人なんだな?それだったら俺たちの方に意見があるぞ」
一緒にモニターを見ていたコウダ副隊長口をはさんだ。
「以前シンの偽物が現れた時から可能性を考えていたんだが、あの言い方や行動目的から考えるに、あのモニターに映っているシンはキリエル人の預言者になっている可能性がある」
キリエル人の預言者とは異次元人キリエル人の意志を人類に伝達するための生きるしかばねのことだ。かつてティガが戦っていた時代に何度か現れて人類を誘惑したという記録が残っている。
「そうなるとやつの目的は」
「奴はお前がイーヴィルティガであることを全世界に知らせた。他のウルトラマンならばともかくイーヴィルティガは立場が微妙な存在だ。それを知らせることでこの世界でのお前の居場所を奪う魂胆だろう」
「そうか、うちうちに知られているだけならともかく、情勢を考えると……」
「そういうことだ。どうする、シン」
「どうするもこうするもないです。やつの目的が俺なら正面から倒すまでだ。行きますよ、俺は!」
「そういうと思った。だが気をつけろ、どんな罠が待っているかわからん。俺たちも急いで地球へ向かう!」
アスランとスーパーガッツの隊員たちにうなずくと、シンは駆け出し、光とともに変身をする。
火星から光の巨人が地球へ向けて飛び立った。
●
地上ではイーヴィルティガとデスティニーが対峙していた。
イーヴィルティガの拳がデスティニーのアロンダイトに受け止められ捌かれた。
「お前!キリエル人の預言者だってな!」
「ハ!それに気づいたのか!なかなかやるもんだ」
「預言者だっていうならもう少しそれらしく話したらどうだ!」
一旦イーヴィルティガが距離をとる。デスティニーは能動的に動く気配が無い。
「答えろ、その体で何をする気だ!何をするためにこの世界に来た!コズミック・イラをどうするつもりだ!」
「答える必要はない!なぜならお前はここで死ぬからだ、シン・アスカ!」
ふたたび二体の巨人の距離が縮まる。デスティニーはアロンダイトを大きく振り回し、イーヴィルティガの技をはじいた。
(このままじゃらちがあかない、イーヴィルショットで撃ち抜く!)
距離を離したイーヴィルティガは脚をとめ腕をL字に組んで攻撃!紫電の閃光がデスティニーを貫いた!
「やった!」
そう思った時だった。イーヴィルティガの背後からカラータイマーごと貫いてアロンダイトが生えた。
「な、なぜ……」
「なんの策もなく堂々と現れると思ったか?お前をしとめる手順ぐらい用意してあるとも」
間欠泉のように、流血のように光のしぶきがイーヴィルティガの胸からこぼれる。カラータイマーは完全に砕かれていた。引き抜かれたアロンダイトにイーヴィルティガの体が揺られ、あおむけに倒れる。
「く、そ……こんなところで……」
「さあ、さよならだ。シン・アスカ」
イーヴィルティガの首に、アロンダイトが振り下ろされた。
誤字報告など、ありがとうございます。1部完結したら修正したいと思います