「なんちゅうパワーだよ、あいつは……」
SUPERGUTS隊長、ヒビキ・ゴウスケはガッツイーグル内で先程の戦いを思い返していた。
ウルトラマンダイナのストロングタイプに迫るのではないのかという程のパワーファイト。ガイガレードを力だけで圧倒する姿には寒気すら覚える。
(あれは一体“誰”だったんだろうな)
あのイーヴィルティガがダイナと同じ存在ならば、恐らく変身する人間がどこかにいるのだろう。
かつてそういう風に戦っていた男を思い出し、ヒビキはため息をついた。
気分を切り替え、火星基地から頼まれていたことに集中する。今回の戦いの功労者を拾ってやってほしいと言われたのだが……
「どうだナカジマ、例の奴はいたか?」
声をかけられたのはS−GUTSの科学分析担当、ナカジマ隊員だ。ちょっぴり太めな外見ながら冷静な分析と、様々な発明で事件の解決に貢献してきた実力派である。
「今、GUTSメットの中の通信機の電波を捕らえました。これを辿れば見つけられるはずです」
「よし分かった。さっそく向かってくれ」
そして彼等は出会うことになる。かつて光に消えた仲間と同じ名をした一人の少年と。
シンの前に降り立った戦闘機から現れたのは赤と黒を基調としたユニフォームのような物を纏った男だった。ヘルメットを被っているため強い意志を秘めた容貌をしているその男の髪型までは判然としないが、シンの軍人として訓練された目が、その男の体が無駄なく鍛えこまれていることを告げている。
「君か、さっきの戦いの功労者というのは」
男の声は厚みのあるはっきりと通る声で、テレビのタレントとしても通用しそうな物だった。結局目標の時間を稼ぎ切れなかった自分が功労者と呼ばれるのはこそばゆく、また何か引っ掛かるものを感じたが、自分の印象にこだわっていたら話が進まないと感じてうなずいておく。
シンの合図の意味を正確に受け取ったらしい男は手招きをしてシンを呼んだ。
「サワイ顧問から君をマリネリス基地まで送るように頼まれている。α号の後部座席に乗って貰えるか」
男は戦闘機の先端部の赤い部分のコックピットを指していった。先程の自分の援護の際は三機の戦闘機であった筈であるから、あの巨大な戦闘機は三機が合体したものなのだろう。よく見れば三色に別れた部分毎で分離可能らしい機構が見て取れる。別に戦闘機の合体程度、この太陽系の宇宙開発事情や怪獣等に比べれば、まだまだシンの常識の範囲内である。合体は男のロマン等という言葉があったが、分離・変形を主とするMS・インパルスにかつて乗っていた身としては死活問題であった。なにせ戦場で合体にミスを犯せばただの良い的としかなりえなかったのだから、この戦闘機の合体機構はまだまだ単純なものである。(後日、シンはこの太陽系の合体・変形技術が自身の太陽系の技術に比べて大きく劣っている事を知り、二つの世界の技術面での奇妙なズレに頭を抱えることになる。星が違えば常識も大きく異なるのだと言うことを痛感することとなった。)
α号内では簡単に言葉をかわす程度に止まった。要因は主にシンの事情であり、手にしてしまった力への戸惑い、そしてあまりにも強大だった怪獣との人生初の戦いによる疲労困憊。それらのことが絡まり合う中でマリネリス基地までの短い時間の間では同席したS-GUTS隊員とじっくりと言葉を交わす時間などなかったのである。
シンがガッツイーグルに運ばれてマリネリス基地に戻ったとき待っていたのは、怪獣の雄叫びと間違うような称賛の嵐だった。これまでは基地の人間のほとんどが、シンが異星人であることを知っていたために、差別こそ無かったもののソガ等の一部の人間を除いてどこかよそよそしい雰囲気があった。
だが今は誰もがシンが体を張って基地を庇ったことを見ていたので、わだかまりがなくなっていたのだ。初めは戸惑っていたシンも万更でもなかったらしく、次第に輪に加わっていった。
「何もんなんです、あの少年は」
「彼からは何も聞いていないのかい?」
サワイに返された質問に正直にはい、と答えるヒビキ。火星基地の局員たちに囲まれている少年を眺めながら、二人は話していた。
他の隊員はある者は火星基地の人々を眺め、ある者はガッツイーグルの整備をしている。二人の会話に注意を払っている者はいなかった。
「彼の名はシン・アスカ。立場は……そうだな、宇宙漂流者と言ったところか」
「宇宙人ということですか、彼は」
「ああ、偶然にもあの青年と同じ名をした、な」
ふむ、と考え込むヒビキ。その姿を見て、サワイは言った。
「何か私に聞くことがあるんじゃないかね」
「え、ああそうでした。我々が来るまでに何が起こっていたのか聞いておきたいのですが」
体育会系なS−GUTSといえどやはり一組織である。当然事務的な仕事もあるのだ。過去に現れた怪獣への対処法のレポート等を初め、やることは多い。
「それならば調度いい、シン君は彼のロボットに乗りガイガレードと戦っていた。彼の話も聞いておきたいだろう」
シンを呼ぶサワイ。輪から抜け出してきたシンはどこかうれしそうな顔で向かってきた。
「何ですか、サワイさん」
隣にいた見知らぬ人物を見ながら応える。年齢は生前の父程で、いかつい顔をした男性であった。何か探るような目でシンを見ている。
「シン君、こちらはS−GUTS隊長ヒビキ・ゴウスケ君だ。彼に先程の戦いについて君の見たことを話してもらいたい」
なるほど、防衛部隊の隊長ならばそれも仕事なのだろうと察すると、自身の戦った約12分間の事をシンの感じたままに話した。時々混じる質問に答えるという形で会話は進み、大方問題なく済んだ。ただ一つの事を除いては。
「巨人が何処に行ったのか見なかったか?」
これがシンを困らせた。自分が巨人に変身したのだと言おうとすれば言える。しかしシンは直感的にそれは言ってはならないことなのだと感じた。根拠は無かったが、既に確信じみた思いとしてシンに息づいている。
「えっと……飛んでった、かな」
怪しまれないよう、シンなりに最大限の努力を払って慎重に言った。直情径行な自分の性を最近自覚し始めたシンとしてはかなり不安だったのだが、何とか誤魔化せたらしく、ヒビキはそれ以上聞いてくることもなかった。
「そうか、ありがとう。ところで君は宇宙人だそうだな。まだ少し時間もあるし、何か聞きたい事があれば答えてあげられるぞ」
少し顔を緩ませて言うヒビキに、特にありませんと答えようとしたシンだったが、一つどうしても知りたいことがあったのに気付いた。
「あの巨人はいったい何なんですか?」
自分の中にある得体の知らない力が一体何なのか、シンは知りたかった。
そんなシンに、ヒビキはまるで息子のことを思う父親のような眼差しで語り始めた。
「12年前から地球上に現われるようになった怪獣達。それらから人類を守るように現われたのが、あの巨人達だ」
「巨人“達”?巨人はたくさんいるんですか?」
「ああ。ティガにダイナ、どちらも我々のために体を張って戦っていた。我々は彼等に尊敬を込めて“ウルトラマン”と呼んでいる」
「ウルトラマン……」
何か思うところがあるのか、つぶやくシンを見ながらヒビキは続ける。
「今日現れた巨人はティガとダイナのどちらでもない」
「それじゃ、三人目ということですか?」
いや、と言葉に詰まるとヒビキはサワイに確認をとるように目配せした。サワイは頷き、続きを促した。
「あの巨人はかつて我々に敵対する存在として現われたことがある」
「え?」
「傲慢な願いに利用された彼を、我々はイーヴィルティガと呼んだ」
それからシンに聞かされた話は悲しく皮肉で、シンは自分を重ねずにはいられなかった。
自身を進化した人類と騙り力によって人々を導くと嘯いた男、マサキ・ケイゴ。
そしてその力を利用されたかつての光の戦士イーヴィルティガ。
それらの事はどうしても他人事とは思えない。シンは心の中でイーヴィルティガにそっと語り掛けた。
お前はきっと守りたかったんだろ?誰にも負けないその力で、大勢の人達を。でも守れなかった。方法を、手段を間違えたから。誰もが認める正義の味方に否定されたから。
シンは光が何故自分の所に来たのか分かったような気がした。
「今日はありがとうございました」
「気にするな、感謝するのはこちらの方だ。君が居なかったら火星基地は守れなかった」
気炎をあげるガッツイーグルを前に、シン達火星基地の人々はS−GUTSを見送りに来ていた。感謝の言葉を述べるシンにヒビキが笑い返す。
未だにシンの態度は硬いが、かつての同僚達が見れば驚くような朗らかさである。
別れの挨拶も交わし、ガッツイーグルは飛び立っていった。火星基地の面々は自分の部署に戻り始めている。残っているのはシンとソガ、そしてサワイだけだ。
「あの、サワイさん。お願いがあるんです」
ガッツイーグルが飛び立って行った先を見つめたまま、シンは静かに切り出した。
「なんだい」
そんなシンを見ながらサワイは答える。
「俺をS−GUTSに入れて貰えませんか」
その言葉を聞き、ソガは目を丸くした。S−GUTSは誰もが憧れる特捜チームだ。正直な事を言って立場上シンが入れるとは思えない。そのことを告げようとすると、サワイの言葉に遮られた。
「理由を聞かせてくれないか」
シンはサワイの方に向き直り、その決意を話す。
「俺は知りたいんです。どうやったら平和が守れるのか。それを学んで、いつかコズミック・イラに帰った時、平和に貢献したいんです」
ソガは何も言えなかった。否定することの出来ない願いがそこにはあった。
「わかっているとは思うが正規隊員にすることは出来ない。異星人である君を地球防衛の中枢に置くことを納得させるのは難しいだろう」
当然の答えだ。予想はしていたが、やはり落胆してしまう。然し肩を落とすシンにサワイは続けた。
「だが権限を持たない、研修隊員としてならば……」
「本当ですか!」
一転、シンは顔を輝かせる。サワイは思案顔で言った。
「今日の戦いの映像を見せれば、上層部を納得させることは可能かもしれない。なんとかしてみせよう」
「ありがとうございます!」
喜ぶシンを遠めに見ながらソガはサワイに問い掛ける。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「なに、監視も兼ねているとか言っておけばどうにかなるだろう。それにねソガ君、権力とはこういう時に使うものだよ」
ソガは一瞬政治家の世界と言うものを垣間見た気がして気まずくなり、なんとなく視線をシンに向けた。
シンは希望が通った喜びを今まで見せなかった、年相応の表情で表していた。今まで押し殺していたものを徐々に出せているようにも感じる。
ソガはこれ以上何かを言うのをやめ、この友人の未来を祈ることに決めた。
(頑張れよシン。俺は応援するぜ)
シンの進む道に何が待ち受けているのかは分からない。今はただ、少年を送り出すかのように風か穏やかに吹くだけだった。