運命の戦士   作:発光体(プラズマ)

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第6話 その身に刻まれた“業”

スーパーガッツ研修隊員シン・アスカには友人がいる。基地に来て3週間ほどたって出来たその友人の名は岬利一。TPCの本部基地に科学者として勤務する、35歳の中肉中背の男である。

 

「お前か、スーパーガッツの雑用係の宇宙人ってのは」

 

初対面でこんな不躾な質問をしてきた男だったが、自分を飾らずこちらを見下すことのない、自然体な男とシンはなぜか気が合い、食堂で会えば一緒に食事をとる程度には仲が良くなった。

 

「となりの研究所の奴らがうるさくってよー、新型超音波探査装置だとかいって音量MAXで作業してんだよ、もう敵わねえや。おいシン、おめえ強いんだろ?ちょっと行ってしずかにやるように言ってくれよ」

「なんで指パキパキ鳴らせながら言ってんだ。俺の身分でそんなことしたら最低でも火星に送り返されちまう」

「ったく、使えねーなー」

 

あるいは、そのフランクさにかつて短い時間ともに戦ったオレンジ髪の男の面影を見たのかもしれなかったが細かいことはシンにはわからない。ただ、時にはスーパーガッツの他の隊員や岬自身の友人も巻き込みながら、気安い友達付き合いが続いていた。

 

そんなある日のことだった。いつも通り厳しい訓練を終えたシンが自室に戻ると、作業用のパソコン宛に一通のメッセージが届いていた。差出人は「toshikazu misaki」。何の用だと思い中身を見ていると、そこには短い一文があった。

 

“聞きたいことがある。俺の研究室に来てくれ”

 

少なくとも最低限の礼節は守る岬らしくない唐突な文。しかし特に気にすることもなくシンは言われた場所に向かった。「急ぎの用だとしたらざつになることもあるだろう。」そんなことを思いながら。

 

「おう、よく来たなシン」

 

指定された部屋でまっていた岬は、言葉とは裏腹にひどく挙動不審だった。

 

「なんだよ、聞きたいことって」

 

資料室の整理担当の小川さんのことだろうか。こいつは彼女のことを気にしていたからなあ。なんて呑気なことを考えいたシンの頭は次の岬の一言で銃撃されたような衝撃を受けた。

 

「お前が遺伝子を操作して生まれたデザイナーズチャイルドってことは本当なのか?」

「なん...だと...」

 

何を言っているんだ、こいつは。なぜそのことを知っている?俺はそのことは誰にも言っていないっていうのに!

 

「その反応、つまり事実なんだな」

「待ってくれ岬。アンタその話を誰に聞いたんだ!?」

「知らねえよ。廊下で資料を運んでる途中で誰かが言っているのを聞いたんだ。だが、そんなことはどうでもいい!」

「どういうことだよ」

 

訝しがるシンに、岬は深く頭を下げて頼み込んできた。

 

「頼む、シン。その技術を俺に教えてくれ!」

「はあ!?」

 

混乱するシンに向かって岬は自分がこれまでにとおってきた道のりを語りだした。

 

かつて岬はアストロノーツ、つまり宇宙飛行士の身体強化計画“ジニアス・プロジェクト”に参加していた人間だった。ジニアス・プロジェクトは宇宙世紀を控えた人類の新たな希望となるべく多くの期待をかけられ、当時TPCに入局したばかりだった岬も優秀な科学者たちの情熱にあてられてこのプロジェクトに熱心に取り組んでいた。人類の未来の発展を願い、若いひたむきな情熱をもって研究に費やした時間は実に充実していたという。

しかし、そんな彼らプロジェクトチームを悲劇が襲った。チームの中でも率先してこの研究に向かい合っていた科学者、サナダ・リョウスケが実験に使用していたエボリュウ細胞により怪獣に変貌してしまうという事故が起こったのである。当然プロジェクトは凍結。細胞サンプルはすべて処理されてしまう。

それでも岬たちは研究を続けようとした。エボリュウ細胞がだめなら何か他の方法はない物かと模索したのだ。しかし、今度は彼らにTPCからの研究資金は下りなかった。上層部が一連の研究し怯え、アストロノーツの身体強化は世界的にタブー視されるようになった。岬たち研究チームは散り散りになり、彼らはこの数年間辛い思いをしてきたのだった。

 

「そこに現れたのが俺ってことか」

「そうさ。お前がその技術を教えてくれればサナダさんの汚名も晴らせる。俺たちの計画が無意味じゃなかったって胸を張れるんだよ!」

 

どうしたらいい?

確かに自分の体を調べさせれば、それが自分に悪影響を及ぼさない範囲のものであっても、コーディネイター技術につながるものを提供できるだろう。少なくとも、体を切り刻まれるような事態にはならないはず。それに岬は友人だ。出来ることだったら彼の力にはなりたい。

しかし、しかしだ。

彼が望んでいるのはこの身に使われているコーディネイター技術だ。故郷、コズミック・イラを泥沼の戦争に巻き込み、家族、友人、多くの大切なものを失う原因を作った技術なのだ。

 

無論、シンとて論理的な思考のできる人間だ。技術そのものが悪いのではなく、それを扱う人間の心の問題だということは理解できている。

かといって今、この星にコーディネイター技術をもたらすことが、第二のコズミック・イラを生む原因にはならないという保証がどこにあるというのだろう。この星は平和だ。俺たちの世界と違い、このTPCもある、スーパーガッツだっている。

 

けれども、彼らとて人間なのだ。

 

アイドルを見る少女のような目で彼らを見ているときにはわからなかった多くのことが、ともに戦いに身を投じてきた今のシンにはわかってきていた。

彼らだって悩み、怒り、間違える。どうしようもない現実に頭を抱えることだってある。

所詮、完璧な人間なんていない。そんな当たり前のことをシンは今ようやく理解していた。

そして、そのことが頭の中になってなお、シンは技術を渡せるような厚顔な人間ではなかった。

 

「だけれどシン、それに挑むのがネオフロンティアじゃあないのか」

 

断った岬にそう言われた。確かに、それも否定できることではない。

だけれど、だけれど

そんな言葉がシンの頭を駆け巡った。岬を説得できるほど口のまわらない自分に苛立ち、理解してくれない岬に苛立ち、そして、頭の奥に浮かんだ最悪の未来図に怯えた。

 

その後も、激しい口論が続いた。最後の方はもはや覚えてもいない。ただ、どうしようもなく解決策が見つからず、泣き崩れそうになってしまう自分を必死にこらえていた記憶だけがある。

 

岬との交流はなくなった。友人としての最後の思いやりからか、コーディネイター技術のことは黙っていてくれたようだった。友を失った空しさを感じながら、この時シンは人生の中で初めて故郷の混沌の根幹である問題に、故郷に住むいかなる人間とも違う角度からふれた。

「コーディネイター技術」は呪われた技術でしかないのだろうか、それとも、人類の明日に必要な技術なのだろうか。

 

これまでの人生の中で初めてシンはこう思ったのだった。

「どうしてこんな技術を作ったんだ」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、結局問題にはならなかったのか

 

しょうがないな、奴らはお人好しだし

 

まあいい。次はどうしてやろうかな

 

待っていろシン・アスカ。その光、必ず消してくれる

 

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