運命の戦士   作:発光体(プラズマ)

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第7話 勇気が闇を引き裂いて

その物体は誰もが当たり前の日常を過ごしていたとある町の上空に静かに現れた。漆黒の球体、大きさにして直径80mをくだらないそれは、まるで黒い太陽のように異様な気配を発しながらただただ浮かんでいる。

住民には避難警報が発令され、街にはTPCの大部隊が出向する。スーパーGUTSからはコウダ副隊長とナカジマ隊員が調査のために派遣された。

 

「もう一週間になるな」

「ええ。しかしその間、あれには一切の変化が見られません。いったい何なのでしょうか」

「わからん。無人探査機“ゴッドアイズ?”からの情報では内部に巨大な生命反応があるらしいが」

 

ゴッドアイズ?とはかつてガゾートとの戦いやガタノゾーアとの最終決戦の際にTPCに情報を伝え続けた浮遊型無人探査メカ“ゴッドアイズ”の改良型である。コスモネットの応用でさらに発達した衛星通信は勿論、怪奇現象による様々な通信障害への対策も配慮された優れものだ。

 

「ええ、データによると内部にはゴルザ級の怪獣の生体反応が確認されて―」

「まて、あれを見ろナカジマ!」

 

コウダが指をさした先。漆黒の球体に大きな変化が生じていた。球体はゆっくりとそのその形状を変え、完全な球状だったのが徐々に楕円状に近づいていく。そしてその細くなった球の内の一方が緩やかに避け、内側から醜悪な蛇のような頭が顔を出した。

 

「あれは、いったい……?」

 

驚く一同をよそにその顔は大きく口を開く。大きく伸びた二本の牙と、それを補うかのように鋭く短い牙が口中所狭しと並んでいるのが伺える。そしてその喉の奥から巨大な管が伸びてきた。

初めは誰もが目の錯覚だと疑った。しかし時が経つにつれ誰も自分の目を疑うことなどできなくなってくる。管から漆黒の霧が放出されていた。その霧は、蛇頭の怪獣によってかはたまた漆黒の浮遊物体によってか、完璧な制御を受けているかのように四方に広がり、ゆっくりと下降しながら街を段々と包み込んでいく。

 

「総員、撤退!」

 

コウダの指示が通信機を通し街に集められた人員に響く。堰を切ったようにTPC隊員の避難が始まった。彼らのことを臆病者と言うことはできないだろう。この光景はかつて邪神が地球の奥底から地表に現れた時と酷似していた。いま前線に出ている彼らは、まだ幼かった頃闇に飲み込まれ人が死んでいく様を目撃している。街々が破壊され、絶望に塗り替えられていく様を見ているのだ。この状況で怯えないものはおそらく愚か者だけであろう。

しかし、ぎりぎりの指示ゆえに、すべての人員が逃げ切れたわけではなかった。逃げ送れた者も多く、そうした人々は魂を抜かれたようにその場で倒れ伏した。TPCの人員がなんとか黒い霧から逃げ切れたのは市街地を抜けてからである。浮遊物体から放たれた黒い霧は市街地を覆い尽くしたところでようやくその進軍を終えたのだった。

 

 

スーパーガッツ作戦司令室では目下都市を飲み込んだ黒い霧への対策が取られていた。張りつめた空気、その原因はコウダ副隊長の不在だった。退避指令を出したコウダは逃げ遅れた一人のTPC隊員を庇い黒い霧にのまれ、安否の確認がかなわない状況にある。霧の中に残された人々の早期の救助のためにも即刻な霧対策が求められていた。

 

「大気圏外活動用の防護服はどうでしょう、霧に含まれている成分か電磁波が原因ならばそれで防げるはずですが」

「ゴッドアイズから送られてきた映像を見る限り密閉された車のなかにも霧が充満されているのが確認されているんだ」

「あの霧は物理的な防御を浸透する性質を持っているらしいのよ。下手な手は打てないわ」

 

会議はこう着状態に陥っていた。球から現れた生物を含めて、今回の生物は全く未知の存在である。スーパーガッツは無茶と勇気でTPC内に知られているチームであるが、その無茶はやるべき手をすべて打った後、その努力を無駄にしないために不屈の闘志を持って行われるものだ。無策で突っ込むようなチームではなく冷静な判断ができるチームである故に、今回はさらに焦りを加速させていた。

 

『こちら、ナカジマ。司令室応答願います』

 

一人霧の近くに残り、解析を続けていたナカジマからの連絡。マイは早速メインモニターにつなげナカジマを映した。そこには浮かない顔を浮かべたTPCが誇る科学館の姿がある。

 

『解析の結果、この霧はある特定の成分を刺激して人間の近くに異常を引き起こすものだとわかりました。霧に取り残された人々と連絡が取れないのは彼らが意識不明の状況にあるからだと思われます』

「ならあの霧を取り除けばコウダたちは助かるってぇことか!」

『はい、もしかしたら何らかの異常はあるかもしれませんが命に別条はないはずです』

 

ナカジマの返答によって流れる安堵の空気。しかしそれを止めたのもまたナカジマであった。

 

『ここからが問題なんです。異常を引き起こすターゲットになる人体の物質、それは―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッツイーグルのコックピットの中、宇宙用の装備に身を包んだシンは出発の時を待っていた。隊員用の装備がぎっしりと詰まったトランクの中身を確かめ、無線の調子を確かめ、既に準備はできている。

 

ナカジマ隊員からの報告にあった、あの生物が放つ霧の中に含まれる成分の正体は、ナカジマ隊員が開発した装備の一つ、宇宙人探知機がターゲットとしている成分を刺激するものであったのだ。あの宇宙人探知機は地球人類だけが持つ成分を基準に、それを持たない生命反応を宇宙人と認識して、反応を示す、というものだ。

 

今回あの球から現れた生物はその固有の物質を刺激し、体内の調子を狂わせる、いわば対地求人用兵器であることが分かった。当然のごとくこのままではスーパーGUTSは怪獣に太刀打ちするどころか、中に取り残された隊員たちを救助することすらできない。そう、ある一人の人間を除いては。

 

その一人こそが、今静かに準備を整えている男、我らが主人公、シン・アスカであった。

青年、シン・アスカは極論すれば宇宙人である。彼から宇宙人反応が検出されることは既に実験済みだ。ゴッドアイズ?を介した通信でならば霧の外からのサポートが可能であることが確認され、シンには最も重大な任務が課せられることになったのだ。

それは―――

 

「XXバズーカによる霧放射器官の破壊、か」

ナカジマの解析により、黒い霧は怪獣の舌にある噴射器官から出ていること、そして霧は一定時間以上同じ場にとどまってはいないことが突き止められた。つまり、怪獣はあの霧を維持するために現在も霧の噴射を続けているというわけである。

XXバズーカの火力であれば器官を壊すことが可能。その事実を受け、シンはこの任務を受けた。

 

今、彼の心は不安と恐怖で満ちていた。この任務は、一つの惑星の命運を、自分の手にゆだねられたも同然である。やらなければならないと思う気持ち、失敗したらどうすればよいのだろう、自分にそんな責任が持てるのだろうか。そんな気持ちがない交ぜになっていた。

 

(怖がっちゃいけない。俺はスーパーGUTSの戦士なんだ、こんなことでどうする!)

 

そう自分を叱咤するも、恐怖は収まらず、体は震えだす。ああ、自分ではきっとだめだ。作戦を変えてもらおう。そう言おうとした時だった。

 

「怖い?シン」

 

α号のハッチを開け、前の座席に入ってきた声がそう尋ねた。自分を送り届けるためにパイロット役を引き受けたリョウの声だった。

 

「無理もないわ。この作戦には現状考えられるすべてが詰まっている。後がないんだものね」

「俺、自分がやんなきゃいけないのは分かっているんです。俺しかできないんだってことも。それでも……」

「体の震えが止まらない、か」

 

はい、と頷くシン。彼は今、巨大な恐怖の前に、かつてただの少年だったころの素直さを本人がそれとは知らぬままに取り戻し始めていた。

そもそも、ZAFTのエースパイロットとして多くの戦場で武勲を立て、FAITHにまで上り詰めたこともあるこのシン・アスカという人間は至って平凡な少年だった。会社に勤める両親がいて、まだ幼い妹がいて、学校では友人たちがいて。故郷で肩を並べたあの二人に比べて特異な生まれでも、英才教育を受けた上流階級でも、身分を隠す必要があった抑圧的な環境にいたわけでもない。彼をその星の戦士のトップクラスまで押し上げた強さは、どこまでも自分の弱さを誤魔化すためのものだった。失うことを恐れた弱さが我武者羅に、自分も周りも顧みることなく求めた力だった。

しかし、この世界で余計なものをそぎ落として始めた日々の中で、シンは常に過去の自分を顧みるようになった。あの時の魔人の影響もあるだろう。戦う理由と意味、それを求めている途中だった。いまだ未熟なまま、シンは地球人類の命運をかけた戦いに挑もうとしている。いままで取り繕っていた力を手放そうとしている今、家族を失った幼いままであったシンの地の部分が、だんだんと成長してきているとはいえ、揺れ動いてしまうのは仕方ないことだといえただろう。

 

「リョウさん、どうすればいいんですか。俺はどうしたら、貴方達みたいな揺るがない心を手に入れられるんですか」

 

それは、かつて戦争の中で力を求めねばならなかったシンが、心の奥底でずっと抱いた思いだった。悲しみを怒りと力に変えて戦ってきたちっぽけな少年の、求めてやまない強さそのものだった。そして、それを彼ら、スーパーGUTSは持っている。シンはそう思っていた。

 

「それは買いかぶりよ、シン。私だってほかの皆だって、それにヒビキ隊長だって怖くてどうしようもなくなってしまうことはある」

「え?」

「私たちだって人間だもの。あなたのいうような揺るがない心なんて持っていないわ。そんなものを持っていたらそれこそ本物の超人よ」

「でも、それならなんで、どうしていつもあんな風に戦えるんですか!どんな怪獣からも目をそらさずに……。俺は、あんなふうにはできない……」

 

どんどん不安を吐露していくシン。今彼はこれまでため込んできたものを一気に拭きだしていたのだった。言えば言うほど膨らんでいく恐怖。それを止めたのはリョウが彼に投げかけた言葉であった。

 

「ねえ、シン。勇気ってなんなのか、考えたことある?」

 

え?となる。突然の問いかけだ。シンは答えるものなんて持ち合わせていない。

 

「例えば貴方が初めてスーパーGUTSとして怪獣と戦った日、貴方は身一つで怪獣の前に飛び出していったわよね。あれは勇気と言えるかしら」

 

そう聞かれれば、勿論ノーだ。結局あの行動は何にもつながらず、自分を危険にさらしただけだった。

 

「あの時あなたはどうしてあんな行動をとったの?」

 

それは……あの時の俺は

 

「俺は負けることが怖かった。また、自分の目の前で平和が壊されるのが……」

 

そう、と頷きリョウは続ける。

 

「いい、シン。恐怖から目をそらしちゃダメ。勇気は恐怖を壊すためのものじゃない。自分の恐怖と戦って、乗り越える心こそが勇気よ。揺るがないわけじゃない。怖がらないわけじゃない。みんな必死で怖がる自分と戦ってるだけなのよ」

 

いまだに震えは収まらなかった。けれど、今、リョウの言葉を聞き、自分との闘い、勇気の意味を知ったシンの心には、恐怖と戦えるだけのものが確かに宿っていた。

 

「行けるわね、シン!」

「ラジャー!」

 

グランドームのハッチが開く。カタパルトから赤いイーグルが飛び立った。この星の希望を載せて。

 

 

 

 

 

 

 

件の街の郊外にシンは降り立った。これからナカジマ隊員と合流し、最後の打ち合わせに挑むのだ。

 

「シン、まかせたわよ」

 

シンを下したイーグルからリョウから通信が入る。リョウの役目は霧の及ばない範囲からの街の監視だった。シンの作戦が成功すればほかの戦闘部隊と合流し、怪獣に総攻撃をかける手はずになっている。

 

上昇していくイーグルを見送り、シンは科学班前線本部に向かった。TPCのマークが描かれたテント。その場所に今回の作戦を立案したナカジマと、今なお霧と怪獣の解析を続けているTPCの精鋭たちがいた。

 

「シン、よく来てくれた。今回の作戦はおまえにかかっているんだ」

 

ナカジマから説明された作戦の全貌は次の通りだった。

あの霧への耐性を持つシンが宇宙用装備を用いて単身突入。ゴッドアイズ?を利用して市街地をナビゲートしながらシンは霧の中央、怪獣と球体がいるはずの場所に向かう。怪獣のいる場所、方向、高度等は宇宙人探知機を三次元的に応用して外部から随時シンに伝える。XXバズーカの射程に入ったら十分な調整のうえで怪獣の頭部を狙い撃つ。

 

「頭部がどこだかわかるんですか?」

「正確には頭部じゃなくて霧の噴射口を狙うんだ。解析データから霧の濃度をマッピングするプログラムを作成することができたから、霧の濃度が一番高い場所を狙えばいい。XXバズーカの弾を通常よりも炸裂範囲の広いものに変えておいたから、それで奴の噴射期間を破壊できるはずだ」

 

説明を終えた後、ナカジマは苦虫を噛み潰したような顔で言う。

 

「すまない、シン。お前ひとりにこんなにも負担をかけるような作戦しかできなくて」

「気にしないでください。今、これが最善の手だってことぐらい俺にもわかります」

 

ナカジマの悔しさはシンにも痛いほど伝わった。自分のたてた作戦が、100%他人に任せるものだとしたら、そしてその作戦が多くの人々の命を巻き込む物であったら、その苦しみはいかばかりであろうか。

ふと思い出す。昔、まだ自分が故郷でエースパイロットをやっていたころ、似たような作戦をやったことがあった。データ頼りに坑道を抜け、敵の主砲を破壊する任務。あの時、あいつも今のナカジマと同じ気持ちだったのだろうか。あのすまし顔の真相は今となっては分からない。随分遠くまで来てしまったものだ。思えば故郷での戦いで、あの作戦が唯一といっていい最後にみんなで笑えた作戦だったかもしれない。

段々と勇気が湧いてくる。あの時自分たちに街の命運を託した少女に、俺はどうしてやればよかったんだっけ。

 

「大丈夫ですよ、俺が今までどんな人たちにしごかれてきたと思ってるんです」

 

ナカジマが意表を突かれたような顔をする。その顔を見て、シンは心の中で笑みを浮かべた。できるさ、俺だったら。目の前に広がる黒い霧を吹き飛ばして、あの時みたいに皆で騒ぐんだ。

 

「俺はスーパーGUTSのシン・アスカですよ。信じてくださいナカジマ隊員、アンタの後輩を」

 

 

 

 

 

 

『ナカジマ隊員、シンは?』

「今、霧の中に入っていったところだ。しかし、驚いたな……」

イーグルからの通信。リョウだった。上空で監視を続けている彼女とは定時連絡をすることになっている。

「何かあったの?」

「シンのことだよ。来たばかりのころは、なんだ宇宙人と言ってもただの少年じゃないか、なんて思ったもんだけど、いつの間にか良い表情するようになったなと思ってさ」

「へえ、あいつがねぇ……。これは、カッコつけた甲斐があったかな?」

「なんだいリョウちゃん。何か言ったの?」

「ふふっ、秘密。あいつもあんな情けないところ知られたくはないだろうしね」

「ますます気になるな……。まあいいや、それよりそっちから見て何か変化は?」

「今のところは何も。やっぱりシンに任せるしかないみたい」

 

黒い霧の中は全く見通しがきかない。あのどこかにコウダも倒れているのだろう。そして、自分たちが未来を託した後輩は、あの中のどこかを一人で歩いているのだろう。

 

「頼んだぞ、シン」

 

ぽつりとつぶやいたナカジマの言葉は誰にも聞かれることなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

暗い暗い霧の中を俺は進む。ヘルメット内に表示される市街地のデータ、ナカジマ隊員に渡された、俺の歩行速度、位置、体勢のデータを伝えてくる端末と、TPC隊員の指示を頼りに右も左もわからない霧の中をただ歩いていた。さすがに手に持ったものぐらいは見えるらしく、何とかモニターを確認できる。怪獣の居場所まではまだ遠かった。

レーダーとマップを頼りに歩いていると、ガルナハンでの戦いを思い出す。あの時自分はどんなことを考えていたのだっけ。確か、びくつく自分の心を誤魔化すために、必死でアスランへの愚痴を考えてばかりいたような。あの頃と比べて今の俺は少しは前に進めているのだろうか。

ついつい考え事に没頭していたせいか転びそうになり、シンはいけないいけないと首を振って頭を切り替えた。モニターから見るに、怪獣まではあと少しだ。決戦の時は近づいている。そういえば、取り残された人の救助はどうなっているのだろうか。

 

『お前が作戦を成功させ、霧が晴れたらTPCの部隊が救助に向かうことになっている。宇宙人探知機を逆作動させて地球人の反応を探ったところ、残された人も街のかなり外側の方まで来ているらしいんだ。心配しなくても大丈夫だぞ』

 

安心した。やはり抜かりはないらしい。ていうかそんなことまでできるのか宇宙人探知機。ナカジマ隊員マジパネェ。いやいや集中集中。

 

さらに歩を進めていくと、風の唸るような音が聞こえてくる。あの怪獣が霧を吐き出している音のようだった。背中にマウントしていたXXバズーカを下し、照準を定める。これは前線本部からのサポートが無くてはできない仕事だった。

 

「射程範囲内に入りました。指示お願いします」

『ラジャー。……方向、右に20度修正、上方に32度、もう少し左……そこです。その向きで固定してください』

「よし、固定完了しました」

『それではこれより砲撃を開始します。こちらのカウントに合わせてください』

「ラジャー」

 

『3』

 

引き金に指をかける。野放しにはできない敵だ、絶対に仕留める。

 

『2』

 

前線本部とイーグル、作戦司令室にも緊張が広がった。

 

『1』

 

汗が滴った。失敗のイメージはもうない。もう恐怖には屈しない!

 

『0』

「発射ッ!」

 

気合とともにバズーカの爆音、続いて弾薬の炸裂音が鳴り響く。

 

オオオォォォォオオオオオアアアァァァァ!

 

怪獣の悲鳴が怒号となって街中にこだました。成功か、失敗か!

 

『シン、作戦成功だ!怪獣を中心に霧の濃度がどんどん下がってる、お前は早く退避しろ!』

「よっしゃあ、ラジャー!」

 

思わずあげたことのないような言葉がシンの口から洩れる。知らぬ間にスーパーGUTSのノリが伝染していたのだろうか。けれどそんなことは今はいい。自分は成功させたのだ!

ナカジマの言葉通り徐々に霧は薄くなっていった。今まで霧に隠されていた怪獣の全貌が露わになっていく。街を霧に包む前、首だけを出していた怪獣は既に全身を表していた。蛇のような頭部に長い首を持ち、それがゴルザのごときがっしりとした胴につながっている。長く伸びた尾が体のバランスを保っているようで、蝙蝠のような翼を広げたそれは、全体的にこの星の西洋で伝説の存在とされているドラゴンによく似ていた。

 

怪獣は怒り狂っていた。シンが放ったXXバズーカの影響で頭部はグチャグチャになり、片目は失われている。残ったもう片方の目を真っ赤に染めて、怪獣は己を攻撃したものを探し出そうとしていた。

 

身を隠しつつ、シンは郊外に向け走り出していた。上空では先行していたα号が怪獣をけん制している。この場でシンに出来ることは素早くこの場を離れてイーグルの邪魔にならない場所まで退避することだった。XXバズーカはおいてきた。固定のために使った器具の所為でもう持ち歩きには不向きであると判断したためだった。戦場での冷静な判断。これまで頭では実行しようとしながらついぞできなかったそれを、今のシンは自然に行えていたのだった。

 

怪獣とイーグルの戦況は極めて難しいものだった。三機のイーグルの攻撃は怪獣の強固な鱗によって効果が半減させられており、合体してトルネードサンダーを撃とうにも怪獣の動きが予想外に素早く合体の隙がつかめない。現在急ピッチでαスペリオルの発進が準備されているが、それでも長期戦が予想された。

 

その様子を離れた場所から眺めていたシンは、胸のポケットからアギトライブを取り出す。この力を使うべき時が来たのだ。天に雫型の変身アイテムを掲げ、全身を光で包み込む。

 

「ジェアッ!」

 

銀色の輝きの中からイーヴィルティガが現れる。戦士は跳躍とともに怪獣の所まで光のごとき速さで飛んでいく。

 

「ラァッ!」

 

怪獣の胴にイーヴィルティガの手刀が命中する。ギャアッ!という悲鳴を上げ怪獣が動きを止めた。その隙を突き、イーグル三機は怪獣の翼の付け根に向かい、集中砲火を浴びせる。強力な熱線に当てられて、怪獣の翼は焼け落ちた。たまらず、怪獣は落下し、戦場は地上へと場所を変える。

 

「フッ、ハァッ、ジェヤッ!」

 

イーヴィルティガの拳と脚を使った三連撃、閃光を放ち火花を上げ、怪獣にダメージを負わせていく。スーパーGUTSの兵器すら軽減する怪獣の鱗も、直接の衝撃にはダメージを流しきれないようだった。

 

「ゴアッ!」

 

しかしここで怪獣からの反撃がイーヴィルティガを襲う。長い全身を鞭のように使い、左右からイーヴィルティガを攻撃していく。首を受け止めれば尾が襲い、尾を止めれば首が襲う。ゴルザ級の体格を誇る怪獣である。如何にイーヴィルティガとはいえ、両方同時に受け止めるのは困難を極めた。

 

だがしかしイーヴィルティガは、シンは一人で戦っているのではない。この場には隊長の二つ名である「鷲」の名を冠した機体に乗る不撓不屈の戦士たちがいるのである。

 

「スーパーGUTS!イーヴィルティガにばかりいいとこ持ってかれてるんじゃあねえぞ、奴の速度は翼を落としたことで目に見えて落ちた!今なら合体してトルネードサンダーで奴を撃てる!」

『しかし隊長、連続した高機動とジークの連発の所為でα号のパワーが低下しています!』

『大丈夫です、リョウ先輩!』

 

エネルギー不足で決め手に欠けていた現状を打破したのはマイの駆るαスペリオルだった。普段はオペレーターとしてのサポートが任務のマイであったが、イーグルを操縦する訓練は一通り受けている。作戦司令室は補充要員に任せ、αスペリオルのパイロットとして今前線へと出動したのだった。

 

『かわいい後輩がを無駄にはさせません!』

「よっしゃあ、その意気だ。リョウは後退して射撃で援護、マイ、カリヤ、俺はイーグルを合体させてスパークボンバーだ!」

『ラジャー!』

 

オペレーターとはいえ、もう5年以上もスーパーGUTSの一員として戦ってきたのだ。戦う術も、勇気も身についている。後は打ち出すだけだ。仲間とともに、後輩が繋いだ思いを乗せて、あの怪獣へと。

 

『機体制御。発射角、修正!』

「スパークボンバー、発射!」

 

トルネードサンダーの強化版、αスペリオルと合体することで発射することが可能となるスーパーGUTS最強の兵器が放たれた。狙いは外れることなく、回転の軸となることであまり動かない胴に命中する。怪獣は雄たけびを上げて膝をついた。

 

「今だ!」

 

イーヴィルティガの両手に紫色の光が収束していく。L字に組まれた手から、必殺の破壊光線が放たれた。

 

『イーヴィルショット!』

 

連続して同じ個所を狙われた怪獣は抵抗敵わず敗れ、爆散する。スーパーGUTS、そしてイーヴィルティガの勝利であった。

 

「デュワッ!」

 

両手を広げ、イーヴィルティガは飛んでいく。その空には先ほどまでの黒い霧などかけらもなく、きれいな青空が広がっていた。

 

 

 

 

スーパーGUTS作戦司令室で行われた盛大な宴会、と言っても職務の都合上アルコール0%だが、は盛り上がっていた。中心にいるのは勿論シンである。作戦の中心となり見事やり遂げたのだからこの待遇も当然と言える。しかし、今は皆興が乗ってきたようで、少し騒ぐのに疲れたシンが中心から離れても築きはしなかった。

 

どんちゃん騒ぎが続いている。これがいわゆる空気に酔う、という奴だろうか。細かいことはわからない。無知な自分のことだ、間違っているかもしれない。でも、こんな風に――

 

「何考えてるの?」

「うわ、マイさん!」

「む、その反応は少し失礼よ」

 

突然後ろから話しかけてきたのはマイだった。冷えた飲み物をシンの首筋に充てるものだから、余計驚いてしまった。

 

「いえ、こんな風に故郷の仲間と笑えたらいいなあ、って」

「ほ〜う、いっぱしのこと言うようになったじゃな〜い。うりうり〜」

「ちょ、ちょっとマイさん!?」

 

マイはシンの頭をぐりぐりとなでつける。正直言ってそういうコミュニケーションにはなれてないシンは反応に困ってしまうのだ。更に―――

 

「そういうことなら、」

「宴会芸の一つや二つ覚えないとな!」

「カリヤさんにコウダさんまで!?ってかコウダさん安静にしてなくていいんですか!」

「大丈夫、大丈夫。ほらほら主役はこっちに来い!」

「アンタらいったいなんなんだっ!」

 

それでも、このバカ騒ぎの中でシンは思うのだ。いつか、コーディネーターもナチュラルも関係なく、一緒にご飯食べて、遊んで、笑いあえる世界が見たいなって。そんな温かい世界があって欲しいって。その夜は怪獣も現れることなく、作戦司令室からは賑やかな声が聞こえ続けていた。

 

 

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