それが起こるとわかっていても、覚悟していたとしても、どうしても直視できないものというものがある。今シンの目の前で起きていることがまさしくそれだった。
「黒い巨人を許すな!」
「さっさとあの巨人を退治しないか!」
「TPCはどうして何もしないの?!」
かつて熊本で起きた巨人同士の戦い、それの被害者たちが起こしていたデモ行進だった。シンは警察の制服を着て、このデモ行進による交通規制に参加していた。色々なことを経験しておくべきだ、というサワイの考えだった。警察の方にはTPCの方から話が通っている。
(彼らの言い分は正当なものだ)
戦争で家族を失い、憎しみからオーブを去り力を求めたシンには、このデモ行進に参加している人たちの気持ちが理解できた。
きっと、彼らの思いは「グチャグチャ」なのだ。かつて自分や家族を苦しめた相手が再び現れている。今度は世間的には「正義の味方」として。憎しみと、悲しみと、怒りと。様々な思いがないまぜになって、でも動かないではいられなくて、それがこんな形になっている。
(今の自分は彼らに何ができるのだろうか)
声を張り上げ街を歩く彼らを見て、シンは思った。
シンがスーパーガッツに入ってすでに半年が過ぎた。季節は10月。街にも冷たい風が吹くようになった。
滅多にない休暇をシンは市街地で過ごしていた。先週のデモ行進のことで思うことがあったのか、眉間にしわを刻んでいた。街を見渡せば笑いあう家族、仲睦まじげな恋人、そこかしこに幸せがあふれている。そして、この星のどこかに確かにあったこの幸せを壊してしまった力を、シンは自身の中に秘めているのだ。
自然と、胸の奥が痛くなった。そしてすぐに思い直す。
(この胸の痛みは自分がイーヴィルティガだからだろうか?いや、違う。これは俺自身がここに来るまでにやってきたことからくる痛みなんだ)
MSに乗って戦場を駆け抜け、エースと呼ばれるまでになったかつての自分。それはつまりそれに見合うだけの数の人間を殺してきたということだ。もしかしたら当時の自分にも無意識化でそれをわかっていたのかもしれない。デュランダル議長があのレクイエムを修復し、月のアルザッヘル基地にむけて撃ったとき、自分は動揺する仲間にこう言ったはずだ。
「俺のデスティニーとあの兵器に 結局どんな違いがあるっていうんだ?」と。
あの時のどこまでも冷たく冴えた感情を思い出す。もしかしたら俺はあのときすでに家族を壊した力と同じ物を自分の中に見ていたのかもしれない。
今の自分は「アスハ」で「フリーダム」なのだとシンは思った。デモ行進する人々を通して、かつての自分に幸せを壊された人を重ねる。
彼らにとってシン・アスカ/イーヴィルティガは許せない存在で、それが変わることは恐らく無い。かつての自分が「アスハ」に抱いた感情が今の俺に向けられているのだとしたら、きっとこの考えは正しい。なぜって、自分がそうなのだから。
もう一度街を見る。こんな自分の胸のうちなどまるで気にしないかのように、今も幸せに満ちている。
(守ろう、許されはしなくとも。悲しみを増やさないように)
超人の力を秘めた青年は誓う。守護と未来と、贖罪を。
青年を待つ運命は静かに時を待つ……