家出少女は本当の家へと帰るのだ。

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家出少女の帰路

 

 

 

 少女は幸せだったと思う。

 

 

 

 父はいなかったけれど、優しい母はいつも少女の事を可愛り、そして愛していた。

 母は日々の二人だけの幸せな家庭を支える為、少女に酷を与えない為に身を粉にして働いていた。

 

 そしてある日、母は幸せになれる果実と言う名の犬を連れて家に帰って来た。

 

 少女は犬の世話をし、犬は少女を可愛がってくれた。

 しかし時間が経つにつれて犬は少女を可愛がってはくれなくなった、代わりに吠えたり噛んでくる始末である、少女は泣きそうだった。

 

 

 

 困った少女は母にお願いをした。

 

 

「追い払って」そう切ないお願いをした。

 

 その言葉の直後、母は初めて少女をぶった、そして酷い言葉の数々を投げ付けた。

 痛かったな、と今よく考えるとそれは身体にも苦痛だったかも知れない。

 少女は大泣きして母と初めて喧嘩をした。

 

 

 そして偽家出をして、今に至る。

 

 …家を出る瞬間、犬は嬉しそうに吠えていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆ ❤︎ ◆◆◆◆

 

 

 

 

「おうちに帰る」

 

 

 少女はそう決意した、帰宅するのだと。

 

 五時のチャイムが鳴り、少女は感傷と嬉しみに浸りながら、そう決意したのだ。

 なぜなら五時のチャイムが鳴ると言うのは母が幼い頃、よく手料理を作り始める、そんな合図でもあるのだ。

 

 

 そんな事を思いながら少女は嘆く、偽家出がとても疲れて来たのである。

 

 人々で賑わう夕方の商店街の中、少女は肉屋さんで持ち合わせていたお金でコロッケを一つ買う。

 肉屋さんのおばさんは優しく袋に入れて手渡してくれた。

 

 

「可愛いお嬢ちゃんだね、コロッケ一個で足りるかい?おまけにもう一つ入れてあげるから仲良く食べて頂戴」

 

 

 内緒だよ、そう付け加えたおばさんは優しく微笑んでくれた。

 …袋の中には二つ分のコロッケが夕日に照らされて美味しそうだった。

 

 商店街は本当によく人で賑わっている、親子連れや犬を連れた女の人が買い物をしている。

 紅色の光が商店街に差し込む中、周囲にはお惣菜屋さんの良い匂いが漂ってくる。

 

 

「ママ!私これ食べたい!」

 

「家に帰ったら作ってあげるから、我慢しなさいよ」

 

「はーい」

 

 

 そんな微笑ましい会話が匂いと共に聞こえる。

 少女はそれが妬ましかった。

 

 少女もお腹が減って来てしまった。

 先程買ったコロッケを我慢し切れずに全部食べてしまった、それでも少女の長い間空いていた腹にはまだまだ物足りなかった。

 

 

 

 少女は母のご飯を求めて家の帰路へと駆け出す。

 母を思い出し、涙を零しながら。

 

 

 

 

 

◆◆◆ ❤︎ ◆◆◆

 

 

 

 

 

 商店街から出た少女は襲われた、文字通りに。

 

 

 涙目を見られたくはないが為に路地裏を歩いていたら襲われたのである。

 いきなり後ろから口元を押さえられ、そして身体を弄られる、現在進行形で。

 

 …一応、少女も女の子である。

 

 14歳の容姿も結構整った可愛らしい童顔の少女、不登校とは言え、それなりの性知識を有しているつもりであった。

 そして、だからこそ今から自分が合う目も、されようとしている事にも検討はついていた。

 

 

 服がめくられ、胸が見てるかどうかギリギリの辺りまで強引にめくられた。

 

 その後、直後に身体を弄り、服をめくっていた筈のその手が少女の身から離れる。

 

 

「きもちわりい」

 

 

 その一言と共にその手は路地裏の闇へと消えて行った。

 何事もなかったの様にその空間は静まり返り、先程の商店街のざわめきから隔離された。

 

 

 そんな空間で少女は自分の身体を見つめた。

 

 

 

 

 

◆◆ ❤︎ ◆◆

 

 

 

 

 

 少女は道中で犬さんと出会ってしまった、怖い犬さんに。

 

 どこかの家庭から逃げ出したのだろうか?青い服を着て、帽子を被ったその犬さんに捕まってしまったら家に帰れない、そんな気が少女にはしてならなかった。

 

 

「…はぁはあ…、ふ、ふふっ」

 

 

 少女は涙目で逃げ出して来たのだが、どうやらその怖い怖い犬さんは撒けた様である。

 困難の先に幸せな自分の家がある、その事実に思わず笑みが浮かんでしまった。

 息を整え、少女は再度駆けて出して行く。

 

 

 日が暮れ始め、紅色の世界が一変して暗闇に呑まれようとしていた。

 

 そして、少女はようやく辿り着いた。

 

 自分の幸せの記憶へ、自分の本来の幸せへ。

 少女は自分の行いを悔やんだ、こんな事をしなければとっくに家にいたのに、と。

 

 

 急に背後から吠えられた。

 なんと先程の青い服の犬さんが仲間を引き連れて、そこに佇んでいた。

 しかし偽家出の目的はすぐそこにあった。

 

 少女は踏み出した、すぐそこに昔あった自分の"幸せな記憶"へと。

 

 

「ただいま」

 

 

 踏み出す、その一言と共に。

 そして少女は、

 

 少女は灯台があった海岸な崖から飛び降りた。

 

 

 

 

 

◆ ❤︎ ◆

 

 

 

 

 

 少女は不幸だった。

 

 

 母が連れてきた男は最初は優しかった。

 

 しかし母と結婚をしてからと言う物、その男は豹変して私に乱暴な言葉と行為を働いた。

 乱暴な行為は本当に酷かった。

 タバコをその男は吸っていたが、それを押し付けられるのが楽な方だと言うレベルで乱暴はエスカレートして行った。

 

 少女の身体には数え切れない痣とDVの爪痕が残っていた。

 あの路地裏で少女の身体が異常だと、そう少女自身は再認識したのだった。

 

 

 そんな日常に母は助けてくれはしなかった。

 男の行為に涙を耐えていた少女は、あの日母に初めてぶたれ、ようやく涙を流した。

 

 

 その瞬間、母は本来の母ではなくなった。

 

 そして少女は偽家出をした、"偽の家"を出て行った。

 本来の家に戻る為に。

 

 

 

 少女の幸せな走馬灯はほんの僅かであった。

 

 幼い頃、引越しをする前の家は海岸に近かった、そして灯台が海岸の崖には佇んでいた。

 思い出す記憶の中で、母が初めて「愛してる」そう言葉にしてくれた場所がその灯台である。

 

 

 

 少女は自分が不幸だとは思いたくはない、故に一番幸せだった記憶の場所へと帰ったのだ。



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